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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1339572
審判番号 不服2017-6968  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-15 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2012- 25619「地殻組成体、放射能無能化処理システム、地殻組成体の製造方法、及び、放射能無能化処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月19日出願公開、特開2013-160736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月8日を出願日とする出願であって、平成27年10月23日付け(発送 同年11月4日)で拒絶理由が通知され、平成28年1月4日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成28年3月11日付け(発送 同年同月15日)で拒絶理由(最後)が通知され、同年5月16日に期間延長(2ヶ月)が請求され、同年6月10日に面接がされ、同年6月15日と同年同月16日と同年同月23日にファクシミリ及び電話による応対がされ、同年6月24日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年9月13日付け(発送 同年同月20日)で再度拒絶理由(最後)が通知され、同年10月26日に面接がされ、同年11月7日と同年同月9日にファクシミリ及び電話による応対がされ、同年11月21日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成29年2月6日付けで前記平成28年11月21日付け手続補正が却下されるとともに、同日付け(送達 同年同月14日)で拒絶査定がなされ(以下「原査定」という。)、これに対し、同年5月15日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年5月15日付けでなされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成28年6月24日付けでなされた手続補正)の特許請求の範囲を、補正前の請求項1ないし39を削除した上で、以下のとおりに補正する内容を含むものである(下線は補正箇所を示す。)。
本件補正前の特許請求の範囲の請求項40につき、
「【請求項40】
炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して水和反応させて地殻組成体を生成するための固相組成物を生成し、
上記炭酸カルシウム組成物、上記ケイ酸質組成物、及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性汚染由来であり、
全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質が含まれるようにする地殻組成体の製造方法。」
とあったものを、
「【請求項1】
炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して水和反応させて地殻組成体を生成するための固相組成物を生成し、
上記炭酸カルシウム組成物、上記ケイ酸質組成物、及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性汚染由来であり、
上記固相組成物内にセシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質を閉じ込めることで、全体として所定値以下の濃度の上記放射性物質が含まれるようにする地殻組成体の製造方法。」
に補正。

2 補正の目的
(1)本件補正は、補正前の請求項40の「放射性物質」を「セシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質」と限定するとともに、「全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質が含まれる」との発明特定事項を、「上記固相組成物内にセシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質を閉じ込めることで、全体として所定値以下の濃度の上記放射性物質が含まれる」と限定する補正をするものである。

(2)上記補正について検討する。
上記(1)の補正は、請求人が審判請求書の「(3)本願発明が特許されるべき理由」「B.補正について」において、
「本願請求項1?5に係る地殻組成体の製造方法は今回補正前の請求項40?44に対応し、本願請求項6?10に係る放射能無能化処理方法は今回補正前の請求項45?49に対応するものです。また、本願請求項1?10のそれぞれにおいて、内部にセシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質を閉じ込めることで、全体として所定値以下の濃度の放射性物質が含まれるようにすることを特定する補正を行いました。この補正は、明細書段落0021、0023?0025、及び明細書段落0026の表1の記載に基づくものです。・・・よって、これらの補正は、新規事項を追加するものではなく、補正の前後で発明の単一性を満たすものであって発明の特別な技術的特徴を変更する補正でもありません。また、請求項の削除と、内部に閉じ込められた放射性物質の種類を特定する特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものです。」
と主張するとおり、本件補正は、請求項の削除の後の請求項について、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから、当該補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記「1」において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の出願日前に日本国内において頒布された引用文献である、特開2008-26116号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性コンクリートの処理方法に関するものである。」

(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる放射性コンクリートの処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明にかかる放射性コンクリートの処理方法を示す説明図である。
【0012】
準備として、放射性コンクリート11を用意する。この放射性コンクリート11は、例えば原子力発電所を解体した際に発生するものであって、放射性を有するコンクリートの塊である。
【0013】
次に、上記放射性コンクリート11を例えばジョークラッシャー等の破砕装置で破砕する。この破砕のとき、少なくとも粗骨材(骨材)12aと細骨材(骨材)12bと粉材13とを含むように破砕装置で放射性コンクリート11を破砕する(破砕工程)。粗骨材12aは、例えば粒径が2.5mmより大きいものであり、細骨材12bは、例えば粒径が0.15mm以上?2.5mm以下のものであり、粉材13は、例えば粒径が0.15mmより小さいものである。
【0014】
これら粗骨材12aと細骨材12bと粉材13の中から、例えば粗骨材12aと、細骨材12bおよび粉材13とを分離する。
【0015】
次いで、細骨材12bおよび粉材13は、混ざった状態で、粉材13が自硬性を有するように加熱する(加熱工程)。このとき、例えば粉材13が700℃?800℃となるように粉材13および細骨材12bを加熱すると、粉材13は自硬性を有するようになる。換言すれば、上記のように加熱することで、粉材13は、自硬性を有する粉材13’に変化する。
【0016】
次に、ミキサーに、細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とを入れ、ミキサーによってそれら細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とを混ぜ合わせて混練材17を形成する(混練工程)。
【0017】
次いで、粗骨材12aを例えばドラム缶等の容器16の内部に入れてから、混練材17を上記容器16の内部に入れる(投入工程)。従って、容器16の内部には、粗骨材12aと混練材17とが入っている。なお、混練材17と粗骨材12aとを容器16に同時に投入しても良いし、容器16の内部に混練材17を入れてから、粗骨材12aを容器16に入れても良い。
【0018】
容器16の内部では、水14と自硬性を有する粉材13’とが再水和反応を起こすことで硬化(硬化工程)し、粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る廃棄体18が形成されることとなる。このような廃棄体18は、放射性廃棄物処分場に搬送し、そこで貯蔵処分する。
【0019】
上記のように廃棄体18を形成すれば、破砕した放射性コンクリート11から廃棄体18を形成する際に硬化させるためのセメント15を入れる必要がない。従って、廃棄体18の単位体積当たりに含まれる破砕した放射性コンクリート11の容量を増大させることができる。このことにより、原子力発電所を解体する場合において、放射性コンクリート11を処分する際のコストが安価になる。さらに、放射性コンクリート11を、粗骨材12aと細骨材12bと粉材13とを含むように破砕するため、粗骨材12a、細骨材12bおよび粉材13を形成する作業性を向上することができる。
【0020】
また、上述した実施の形態には、粉材13の自硬性が顕在化するよう破砕した放射性コンクリート11を加熱する際、細骨材12bおよび粉材13を加熱するもので説明した。しかし、この発明はそれに限られず、少なくとも粉材13の自硬性が顕在化するよう放射性コンクリート11を加熱すれば良い。従って、例えば破砕した放射性コンクリート11から粉材13を選別し、選別した粉材13のみを上述したように加熱しても良い。
【0021】
さらに、上述した実施の形態には、容器16に、粗骨材12aと混練材17とを入れて廃棄体18を形成するもので説明した。しかし、この発明はそれに限られず、粗骨材12aの代わりに放射性を有するコンクリート塊、または/および放射性を有する金属等の放射性廃棄物を適用することも可能である。また、細骨材12bと粉材13と水とからなる混練材のみで廃棄体を形成しても良い。」

(ウ)図1は次のものである。
図1


(エ)引用発明
上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「原子力発電所を解体した際に発生する放射性コンクリート11を用意する工程、
粗骨材(骨材)12aと細骨材(骨材)12bと粉材13とを含むように破砕装置で放射性コンクリート11を破砕する破砕工程、
これら粗骨材12aと細骨材12bと粉材13の中から、粗骨材12aと、細骨材12bおよび粉材13とを分離する工程、
次いで、細骨材12bおよび粉材13は、混ざった状態で、粉材13が自硬性を有するように700℃?800℃となるように加熱することで、粉材13は、自硬性を有する粉材13’に変化する加熱工程、
次に、ミキサーに、細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とを入れ、ミキサーによってそれら細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とを混ぜ合わせて混練材17を形成する混練工程、
次いで、粗骨材12aを容器16の内部に入れてから、混練材17を上記容器16の内部に入れる投入工程、
容器16の内部では、水14と自硬性を有する粉材13’とが再水和反応を起こすことで硬化し、粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る廃棄体18が形成される硬化工程からなる放射性コンクリートの処理方法であって、
前記粗骨材12aの代わりに放射性を有するコンクリート塊、または/および放射性を有する金属等の放射性廃棄物を適用する、
放射性コンクリートの処理方法。」

イ 原査定における拒絶理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された引用文献である、特開2005-249389号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所から排出される中レベル樹脂などの高線量放射性廃棄物の処理方法に関するものである。」

(イ)「【0011】
高線量放射性廃棄物の投入と熱分解を繰り返すと、熱分解残渣が次第に処理装置1の底部に蓄積されて行く。所定量の熱分解残渣が蓄積されたとき、あるいは繰り返しの回数が設定値に達したとき、あるいは処理装置1の内部もしくは外部の線量当量率が規定値を越えたときに投入を停止し、固形化材注入装置6からセメントなどの固形化材を処理装置1の内部に注入する。このときにも同一の攪拌翼4を回転させ、熱分解残渣と注入された固形化材とが均一に混合されるようにすることが好ましい。」

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「放射性コンクリート11」は、「原子力発電所を解体した際に発生する」ものであるところ、原子力発電所に使用されるコンクリートを含め、コンクリートを製造するに際して用いられるセメントが、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物を含むことは、本願出願前の技術常識であるから、引用発明の「放射性コンクリート11」を破砕装置で破砕した「粉材13」も、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物を含むことは明らかである。
したがって、引用発明の「放射性コンクリート11」を破砕装置で破砕した「粉材13」は、本願補正発明の「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物」の「固相組成物」に相当する。

(イ)引用発明の「粉材13が自硬性を有するように700℃?800℃となるように加熱することで、粉材13は、自硬性を有する粉材13’に変化」して、「水14と自硬性を有する粉材13’とが再水和反応を起こすことで硬化し、粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る廃棄体18が形成される」ことは、粉材13を700℃?800℃となるように加熱することで水14と再水和反応を起こす(自硬性を有する)粉材13’に変化させ(焼成)、当該粉材13’と粗骨材12aと細骨材12bと水14とから成る廃棄体18を形成することであるといえる。
ここで、本願補正発明の「地殻組成体」が意味する技術事項は、本願補正発明の発明特定事項からみて、「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物」からなる「固相組成物」に「放射性物質が含まれる」ものであると解される。
そうすると、引用発明の「廃棄体18」は、「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物」からなる粉材13’に「放射性コンクリート11」由来の「放射性物質が含まれる」ものであるから、本願補正発明の「地殻組成体」に相当する。
したがって、引用発明の「粉材13が自硬性を有するように700℃?800℃となるように加熱することで、粉材13は、自硬性を有する粉材13’に変化」して、「水14と自硬性を有する粉材13’とが再水和反応を起こすことで硬化し、粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る廃棄体18が形成される」ことは、本願補正発明の炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物の固相組成物を、「焼成して水和反応させて地殻組成体を生成するための固相組成物を生成」することに相当する。

(ウ)引用発明の「粉材13’」は、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物を含む「放射性コンクリート11」を破砕装置で破砕し、700℃?800℃となるように加熱(焼成)したものであるから、「粉材13’」の、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性であるといえる。
したがって、引用発明の、炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物を含む「放射性コンクリート11」を破砕装置で破砕し、700℃?800℃となるように加熱(焼成)したことと、本願補正発明の「上記炭酸カルシウム組成物、上記ケイ酸質組成物、及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性汚染由来であ」ることとは、「上記炭酸カルシウム組成物、上記ケイ酸質組成物、及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性であ」る点で一致する。

(エ)引用発明の「廃棄体18」は、「粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る」ものであって、「前記粗骨材12aの代わりに放射性を有するコンクリート塊、または/および放射性を有する金属等の放射性廃棄物を適用する」ものであるから、「粉材13’」内に放射性廃棄物を閉じ込めることで、前記放射性廃棄物が含まれるようにする「廃棄体18」の製造方法であるといえる。
したがって、引用発明の「粗骨材12aと細骨材12bと自硬性を有する粉材13’と水14とから成る」ものであって、「前記粗骨材12aの代わりに放射性を有するコンクリート塊、または/および放射性を有する金属等の放射性廃棄物を適用する」「廃棄体18」の製造方法と、本願補正発明の「上記固相組成物内にセシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質を閉じ込めることで、全体として所定値以下の濃度の上記放射性物質が含まれるようにする地殻組成体の製造方法」とは、「上記固相組成物内に放射性物質を閉じ込めることで、上記放射性物質が含まれるようにする地殻組成体の製造方法」の点で一致する。

イ 以上アによれば、両者は
「炭酸カルシウムを主成分として成る炭酸カルシウム組成物と、ケイ酸塩を主成分として成るケイ酸質組成物と、酸化鉄系物質を主成分として成る酸化鉄組成物とを焼成して水和反応させて地殻組成体を生成するための固相組成物を生成し、
上記炭酸カルシウム組成物、上記ケイ酸質組成物、及び上記酸化鉄組成物の少なくとも何れかが放射性であり、
上記固相組成物内に放射性物質を閉じ込めることで、上記放射性物質が含まれるようにする地殻組成体の製造方法。」
の点で一致し、下記各点で相違する。

(ア)固相組成物の「放射性」が、本願補正発明は「汚染由来」と特定されるるのに対して、引用発明は特定されない点(以下「相違点1」という。)。

(イ)「放射性物質」が、本願補正発明では「セシウム及び/又はストロンチウムを主とする」と特定されるのに対して、引用発明では特定されない点(以下「相違点2」という。)。

(ウ)地殻組成体に含まれる放射性物質が、本願補正発明は「全体として所定値以下の濃度」であるのに対して、引用発明は濃度が特定されない点(以下「相違点3」という。)。

(4)判断
ア 上記相違点1及び2について検討する。
(ア)引用発明は、解体する「原子力発電所」が特定されていないため、「原子力発電所を解体した際に発生する」「放射性コンクリート11」、「粗骨材12aの代わりに」適用する「放射性を有するコンクリート塊」及び「放射性を有する金属等の放射性廃棄物」が「放射性」を有するものとなった由来も特定されない。

(イ)しかしながら、本願出願は福島第1原子力発電所の事故後に出願されたものであるから、本願出願当時であれば、事故を起こし解体する必要が生じた「原子力発電所を解体した際に発生する」「放射性コンクリート11」や、当該「原子力発電所を解体した際に発生する」「放射性を有するコンクリート塊」及び「放射性を有する金属等の放射性廃棄物」が、セシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質により汚染され、これらの放射性が汚染由来となることは周知の技術常識である(例えば後記周知文献1、2参照)。

(ウ)したがって、上記周知の技術常識を踏まえて、引用発明を、このような事故を起こし解体する必要が生じた「原子力発電所を解体」する際に適用して、引用発明の「原子力発電所を解体した際に発生する」「放射性コンクリート11」、「粗骨材12aの代わりに」適用する「放射性を有するコンクリート塊」及び「放射性を有する金属等の放射性廃棄物」の放射性が汚染由来であって、かつ、セシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質により汚染されているものとして、上記相違点1及び2に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記相違点3について検討する。
上記「(2)」「ア」「(イ)」「【0018】」に「このような廃棄体18は、放射性廃棄物処分場に搬送し、そこで貯蔵処分する。」と記載されるとおり、引用発明の「廃棄体18」は、「放射性廃棄物処分場」に「貯蔵処分」するものである。
そして、一般に「放射性廃棄物」を処理するに際して、当該「放射性廃棄物」を含めた全体が出す放射線量には基準が設けられる(例えば後記周知文献1、2参照)。
ここで、放射性廃棄物の処理に際して線量当量率が規定値か否かを考慮することは引用文献2に記載されているとおり通常のことにすぎない。
したがって、引用発明において、「粗骨材12aを容器16の内部に入れてから、混練材17を上記容器16の内部に入れる投入工程」において、「前記粗骨材12aの代わりに放射性を有するコンクリート塊、または/および放射性を有する金属等の放射性廃棄物を適用する」に際して、「廃棄体18」に放射性物質を閉じ込めることで、「廃棄体18」の出す放射線量が基準以下となるよう、全体として所定値以下の濃度の放射性物質が含まれるようになして、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 周知文献
(ア)周知文献1
長野県環境部、「下水道汚泥焼却灰のセメント工場への搬出を再開します」長野県(環境部)プレスリリース 平成23年(2011年)8月19日
URL:http://www.pref.nagano.lg.jp/seikatsuhaisui/kurashi/shobo/genshiryoku/hoshasen/documents/reopenpressl 10819.pdf
上記周知文献1には下記記載がある。
「千曲川流域下水道上流処理区終末処理場から発生する汚泥焼却灰中の放射能濃度が3回連続してセメント工場の受け入れ基準を下回ったことから、当該汚泥焼却灰についてセメント工場への搬出を再開します。」
「1 直近の汚泥焼却灰放射能濃度測定結果 単位:Bq/Kg

・測定機関:(財)食品環境検査協会

2 セメント工場の受け入れ基準について
・セメント会社の各工場では、セメント製品についての安全性が保証される100Bq/Kg(クリアランスレベル)を下回るよう、原材料となる汚泥等について放射能濃度の受け入れ基準を設けています。
・千曲川流域下水道では、年度当初に処理委託契約を結んでいた複数のセメント工場のうち、受け入れ基準を下回った工場へ、先方の了承のもと搬出を再開するものです。
・なお、セメント会社では、セメント製品の放射能濃度が常にクリアランスレベルを下回るよう品質管理を徹底し、製品の放射能濃度等についてもホームページ等で随時公表しています。

3 今後の予定
・搬出を再開した汚泥焼却灰についても放射能濃度の測定を継続し、受け入れ基準を上回った場合には、直ちに搬出を停止します。
・搬出を依然停止している下流処理区終末処理場についても、焼却灰の放射能濃度の測定を継続し、いずれの結果も公表していきます。」

(イ)周知文献2
住友大阪セメント株式会社、「弊社栃木工場:出荷と生産の再開について」 セメント工場での下水汚泥使用に関する対応について:第三報 平成23年5月12日
URL:http://www.soc.co.jp/wp-content/themes/soc/img/news/pdf/110512news.pdf
上記周知文献2には下記記載がある。
「平成23年5月2日および同6日に開示した当社栃木工場で受け入れた福島県県中浄化センターの下水汚泥に放射性セシウムが検出された件について、第三報をご報告申し上げます。
このほど国から「福島県内の下水処理の副次産物の取扱いに関する当面の考え方について」が公表され、同工場で生産されたセメントの安全性が確認され、また、周辺環境の安全性も確認できましたので、出荷と生産を再開いたします。」
「1.同工場生産のセメントの安全性について

同工場で東日本大震災以降生産したセメントについて、公的機関にて測定を行いました結果、放射性物質の濃度は不検出?454ベクレル(以下Bq)/Kgの範囲となっております(添付資料参照)。これはこのほど原子力災害対策本部から公表されたセメントの安全とされるレベルをいずれも下回っております。(詳細は次ページの《参考:「福島県内の下水処理の副次産物の取扱いに関する当面の考え方について(別紙)」より要約》をご参照ください。)」
「《参考:「福島県内の下水処理の副次産物の取扱いに関する当面の考え方について(別紙)」より要約》
検出されたセシウム放射能濃度が、例えばセシウム1000Bq/kgの、セメントを壁材として使用した場合の居住者(子供)の外部被ばくは360μSv/年であり、平常時に原子力施設が公衆に与える被ばく限度である1mSv/年(1000μSv/年)を下回るとしています。」
「5.添付資料

セメント放射線量自主測定結果及び放射能濃度測定結果



(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、本願出願当時、事故を起こした原子力発電所からは少なくともセシウム(Cs)を主とする放射性物質が放出され、当該放射性物質により汚染され、放射性が汚染由来となったこと、及び、放射性廃棄物(下水汚泥)をセメントに使用して処理するに際して、当該放射性廃棄物(下水汚泥)を含めたセメントないし当該セメントを使用した壁材全体が出す放射線量を所定値(基準)以下とすることは周知の技術常識である。

エ 本願補正発明が奏する作用効果
本願補正発明が奏する「水和反応によって硬化する地殻組成体の材料の少なくとも一に、放射性廃棄物を含ませ、全体の放射性物質の濃度を所定値以下とすることによって、放射性廃棄物を無能化し、比較的容易に処分することが出来る。」(本願発明の詳細な説明の【0018】)という効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものに過ぎない。

(5)小括
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年6月24日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし50に記載されたとおりのものであるところ、本願補正発明の補正前の発明である請求項40に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]「1 補正の内容」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 引用文献の記載及び引用発明
上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」「(2)」のとおりである。

3 対比・判断
本願発明について
上記「第2」[理由]「2 補正の目的」のとおり、本件補正は、補正前の請求項40において、「放射性物質」を「セシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質」と限定するとともに、「全体として上記固相組成物内に閉じ込められた所定値以下の濃度の放射性物質が含まれる」との発明特定事項を、「上記固相組成物内にセシウム及び/又はストロンチウムを主とする放射性物質を閉じ込めることで、全体として所定値以下の濃度の上記放射性物質が含まれる」と限定する補正するものである。
したがって、本願発明は、実体的には、上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」で検討した本願補正発明を特定するための事項である、「放射性物質」に関しての「セシウム及び/又はストロンチウムを主とする」との限定を省いたものである。
これに対して、上記「第2][理由]「3」「(3)」で検討したとおり、上記限定を含む本願補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記限定を省いたものである本願発明は、上記「第2」[理由]「3」での検討と同様の理由により、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により、本願は、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-14 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-05 
出願番号 特願2012-25619(P2012-25619)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G21F)
P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹関根 裕  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
発明の名称 地殻組成体、放射能無能化処理システム、地殻組成体の製造方法、及び、放射能無能化処理方法  
代理人 小池 晃  

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