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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1339577
審判番号 不服2017-9128  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-22 
確定日 2018-04-19 
事件の表示 特願2016- 46531「投影装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 8日出願公開、特開2016-164665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月28日に出願された特願2011-259204号の一部を平成28年3月10日に新たな特許出願とする特願2016-46531号であって、平成28年10月31日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成29年4月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年6月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成28年11月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「色合成プリズムと、前記色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板とを含み、3原色光を合成して合成光を出射する色合成部と、
前記色合成部の出射側に配置され、前記合成光の各色光の偏光状態を、全方位に対して均一に無偏光状態に変換する偏光変換部と、
前記偏光変換部からの出射光を投射する投射レンズと、
を備え、
前記偏光変換部は、位相差が10000nm以上の一軸性有機材料、または位相差が10000nm以上の一軸性結晶であって、前記色合成プリズムと一体化している、
投影装置。」が

「色合成プリズムと、前記色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板とを含み、3原色光を合成して合成光を出射する色合成部と、
前記色合成部の出射側に配置され、前記合成光の各色光の偏光状態を、全方位に対して均一に無偏光状態に変換する偏光変換部と、
前記偏光変換部からの出射光を投射する投射レンズと、
を備え、
前記偏光変換部は、
前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くように、前記色合成プリズムの出射面に接着して前記色合成プリズムと一体化した、位相差が10000nm以上の一軸性有機材料、
または前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くように、前記色合成プリズムの出射面に接着して前記色合成プリズムと一体化した、位相差が略10000nmの一軸性結晶である、
投影装置。」
と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、補正前の「一軸性有機材料」、「一軸性結晶」のそれぞれについて、「入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向く」ことを限定して特定することを含むものであって、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正を含むものであるといえる。
すなわち、本件補正における請求項1に係る発明の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む補正である。

2 独立特許要件についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開2002-350781号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「イ 引用文献1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。)
a「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、リアプロジェクタに関し、さらに詳しくは、光源から射出された光を偏光方向の異なる複数の光に分離して変調し、クロスダイクロイックプリズムによって合成した後、投写レンズ系を介してスクリーンの背面側から入射して表面側に透過させることによって投写画像を写し出すリアプロジェクタに関し、特に、スクリーンに写し出した投写画像の色ムラを無くすのに有用な技術である。」
b「【0042】図1は、本発明の実施の形態1にかかるリアプロジェクタの投写光学系1の要部を示す概略平面図である。この投写光学系1は、偏光照明装置11、色分離光学系12、リレー光学系13、光変調装置14R,14G,14B、色合成光学系15および投写レンズ系16を備えている。また、色合成光学系15とスクリーンとの間の光路中に波長選択型位相差板2Gを備えている。
【0043】なお、前記色合成光学系15と前記スクリーンとの間の投写距離は、上述したように、前記色合成光学系15で合成される複数色の光が少なくとも2種類の偏光状態からなる光である場合に、前記色合成光学系15から投写された光をそのまま前記スクリーンに入射したときに、偏光状態に応じて各色の光の輝度分布が異なる距離にしてある。
【0044】前記偏光照明装置11は、主に光源111と均一照明光学系112とからなる。均一照明光学系112は、第1レンズアレイ113、第2レンズアレイ114、偏光変換素子アレイ115および重畳レンズ116を備えている。光源111から射出された光は、第1レンズアレイ113により複数の部分光束に分割される。各部分光束は第2レンズアレイ114により平行化され、さらに偏光変換素子アレイ115により方向が揃った一種類の偏光方向の光に変換される。
【0045】本実施形態では、後述するクロスダイクロイックプリズム151の波長選択膜152,153に対してS偏光となる光に変換される。ここで、S偏光とは、特定の反射面における入射面(反射面の法線と入射光線の中心軸を含む面)に対して垂直に振動する偏光であり、P偏光とは入射面に対して平行に振動する偏光である。なお、偏光変換素子アレイ115により、波長選択膜152,153に対してP偏光となる光に変換することも可能である。偏光変換素子アレイ115によって一種類の偏光方向に変換された光は、重畳レンズ116により被照明領域に重畳される。
【0046】前記色分離光学系12は、光源111から射出された光(自然光)を複数色の光、すなわち赤色、緑色および青色の三色の光に分離する。色分離光学系12は、ダイクロイックミラー121,122、ミラー123および平行化レンズ124,125を備えている。偏光照明装置11から射出された光は、第1のダイクロイックミラー121により赤色光と、緑色および青色の光とに分離される。分離された赤色光は、ミラー123および第1の平行化レンズ124を介して赤色用の光変調装置14Rに入射する。一方、緑色および青色の光は、第2のダイクロイックミラー122により緑色光と青色光とに分離される。分離された緑色光は、第2の平行化レンズ125を介して緑色用の光変調装置14Gに入射する。分離された青色光は、リレー光学系13へ至る。
【0047】前記リレー光学系13は、入射側レンズ131、入射側ミラー132、中間レンズ133、射出側ミラー134および射出側レンズ135を備えている。色分離光学系12により分離された青色光は、入射側レンズ131、入射側ミラー132、中間レンズ133、射出側ミラー134および射出側レンズ135の順に経由して青色用の光変調装置14Bに入射する。
【0048】前記光変調装置14R,14G,14Bは、たとえば透過型の液晶装置により構成されている。図3は光変調装置14R,14G,14B、クロスダイクロイックプリズム151付近を詳細に示す平面図である。
【0049】各光変調装置14R,14G,14Bには、図3に示されるように、偏光変換素子アレイ115によって、後述するクロスダイクロイックプリズム151の波長選択反射膜152,153に対してS偏光に揃えられた光が入射する。レンズ124,125,135と各光変調装置14R,14G,14Bの間には、偏光変換素子アレイ115によって偏光方向を揃えられた光の偏光度をより高めるために、入射側偏光板142R,142G,142Bが配置されている。入射側偏光板142R,142G,142Bを介して各光変調装置14R,14G,14Bに入射した光は、各色の画像情報にしたがって偏光方向の変調を受ける。
【0050】各光変調装置14R,14G,14Bの射出側には、それぞれ射出側偏光板143R,143G,143Bが設けられており、変調された光のうち、波長選択反射膜152,153に対してP偏光となる光のみが射出される。光変調装置14R,14Bの射出側に配置された射出側偏光板143R,143Gとクロスダイクロイックプリズム151との間には、P偏光の光をS偏光の光に変換するための位相差板141R,141Bがそれぞれ配置されている。
【0051】従って、R(赤)画像光とB(青)画像光は波長選択膜152,153に対してS偏光となり、G(緑)画像光は波長選択膜152,153に対してP偏光となる状態で、クロスダイクロイックプリズム151に入射する。なお、位相差板141R,141Bを配置する位置は、本実施形態のものに限られず、各光変調装置14R,14G,14Bに入射する光の偏光方向や、各光変調装置14R,14G,14B自体の特性に応じて適宜変更することが可能である。
【0052】前記色合成光学系15は、クロスダイクロイックプリズム151により構成されている。クロスダイクロイックプリズム151は、4つのプリズムの界面に沿って波長選択特性が異なる2種類の波長選択膜152,153がX字状に配置されたものである。G画像光がこれら二つの波長選択膜152,153を透過し、R画像光およびB画像光が波長選択膜152,153によって反射されることで3色の画像光が合成される。
【0053】本実施形態では、波長選択膜152,153を反射膜として使用するR,B画像光をS偏光として入射し、透過膜として使用するG画像光をP偏光として入射している。従って、波長選択膜152,153によって選択される波長域が広がるため、光の利用効率を向上させることができる。
【0054】前記波長選択型位相差板2G(偏光状態調整手段)は、図2に示すように、波長λo(本実施形態では550nm)付近においてリタデーションが2分のλ(λ/2)となるプロファイルを具えた波長選択型1/2波長板により構成される。本実施形態では、波長選択型位相差板2Gによって波長550nm付近の光、すなわちG画像光の偏光方向のみを90度変えるようにしている。したがって、図3に示したように、クロスダイクロイックプリズム151からP偏光の光として射出されたG画像光は、波長選択型位相差板2Gにより、R画像光、B画像光と同じS偏光の光に変換される。」
c「【0085】(実施の形態5)先に説明した実施の形態1?4では、各色の偏光状態を揃える偏光状態調整手段として波長選択位相差板2,2G,2R,2Bを用いていたが、このような偏光状態調整手段の代わりに消偏光素子を用いることも可能である。実施の形態5にかかるリアプロジェクタでは、実施の形態1?実施の形態4における波長選択型位相差板2,2R,2G,2Bの代わりに消偏光素子を用いている。消偏光素子は、R画像光、B画像光およびG画像光の偏光を無偏光状態に変換する。消偏光素子の配置位置は上述した各実施の形態において波長選択位相差板2,2G,2R,2Bが配置されていた位置と同じような位置に配置することが可能である。その他の箇所については、上記実施の形態1?4と同様に構成することが可能であるため、その詳細な説明を省略する。
【0086】消偏光素子7の一例として、公知のコルニュー・シュード・デポラライザーを図15に示す。この消偏光素子7は、45°の斜面を有する左水晶部71と右水晶部72とからなり、それらの互いに斜面同士が接着された構成となっている。左水晶部71と右水晶部72は、光学的に相対する性質を具えている。消偏光素子7は、入射した直線偏光の光を、複雑でしかも空間的に連続的に変化する直線偏光状態に変換する機能を有する。したがって、消偏光素子7に入射したR画像光、B画像光およびG画像光は、いずれも無偏光状態に変換されて射出される。
【0087】実施の形態5によれば、消偏光素子7により、R画像光、B画像光およびG画像光がいずれも無偏光状態に変換されるため、実施の形態1?実施の形態4と同様に、フィルムミラーやスクリーンの偏光依存性の影響を極力低減させることができる。したがって、高効率でかつ高品位な画像を得ることができる。また、実施の形態1または実施の形態2と同様に、消偏光素子7を色合成光学系と投写レンズ系との間の光路中に配置すれば、消偏光素子7の影響を考慮して投写レンズ系の設計をおこなうことができるので、高品位な画像を得ることができる。また、実施の形態3と同様に、消偏光素子7を投写レンズ系の絞り部に配置すれば、消偏光素子7を極力小さくすることができる。また、実施の形態4と同様に、消偏光素子7を投写光学系とフィルムミラーとの間の光路中に配置すれば、投写光学系の構成を変更せずに済むため、光学系の汎用性が増すという効果が得られる。
【0088】さらに、本実施の形態によれば、変換後の偏光状態に方向性がないため、投写光学系と反射ミラーまたはスクリーンとの配置関係には制約がない。」
d「【図1】



イ 引用文献1に記載された発明の認定
上記の「ア」「c」の「実施の形態1?実施の形態4における波長選択型位相差板2,2R,2G,2Bの代わりに消偏光素子を用いている。消偏光素子は、R画像光、B画像光およびG画像光の偏光を無偏光状態に変換する。消偏光素子の配置位置は上述した各実施の形態において波長選択位相差板2,2G,2R,2Bが配置されていた位置と同じような位置に配置することが可能である。」(【0085】)の記載を参酌すれば、「d」の【図1】において、当該【図1】の記載から、波長選択型位相板2Gに代えて消偏光素子7を、クロスダイクロイックプリズム151と投写レンズ系16の間に、クロスダイクロイックプリズム151と接合して配置するものが記載されているといえる。
よって、上記記載から、引用文献1には、
「偏光照明装置11、色分離光学系12、リレー光学系13、光変調装置14R,14G,14B、クロスダイクロイックプリズム151により構成されている色合成光学系15および投写レンズ系16を備えた投写光学系1を有するリアプロジェクタであって、
各光変調装置14R,14G,14Bには、S偏光に揃えられた光が入射し、各光変調装置14R,14G,14Bの射出側には、それぞれ射出側偏光板143R,143G,143Bが設けられており、変調された光のうち、波長選択反射膜152,153に対してP偏光となる光のみが射出され、光変調装置14R,14Bの射出側に配置された射出側偏光板143R,143Gとクロスダイクロイックプリズム151との間には、P偏光の光をS偏光の光に変換するための位相差板141R,141Bがそれぞれ配置され、それによって、R(赤)画像光とB(青)画像光は波長選択膜152,153に対してS偏光となり、G(緑)画像光は波長選択膜152,153に対してP偏光となる状態で、クロスダイクロイックプリズム151に入射し、
R画像光、B画像光およびG画像光の偏光を無偏光状態に変換する消偏光素子7を、クロスダイクロイックプリズム151と投写レンズ系16の間に、クロスダイクロイックプリズム151と接合して配置し、
消偏光素子7は、45°の斜面を有する左水晶部71と右水晶部72とからなり、それらの互いに斜面同士が接合された構成のコルニュー・シュード・デポラライザーであるリアプロジェクタ。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願前に頒布された刊行物である特開2005-321544号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下記「エ 引用文献2に記載された技術事項」において直接引用した記載に下線を付した。)
a「【0004】
従来の投射型表示装置においては、偏光ビームスプリッタで検光された各色光は偏光した光であるが、この偏光した光は投射レンズを通過する際に、投射レンズ中のレンズやミラーによって偏光状態が乱される。その際、B、G、Rの各色光毎に偏光状態は異なり、また、光が射出する方向によっても偏光状態はまちまちになる。このためこの光がフレネルレンズのスクリーンに入射すると、スクリーン固有の偏光特性と入射光の偏光状態との相互作用によって、スクリーンを透過した像に色ムラが発生してしまうという問題を有していた。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、投射像の色ムラを低減した投射型表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために請求項1に係る発明は、光源からの光を変調するライトバルブと、前記ライトバルブで変調された光を透過型スクリーンに投射する投射レンズと、前記透過型スクリーンに投射される光の偏光状態を擬似的に無偏光にする偏光変換部材とを有することを特徴とする投射型表示装置を提供する。」
b「【0024】
そこでこの色ムラを解消する方法を考えてみると、各色光、および各射出方向のすべての光について偏光状態を同じようにそろえればよいことが、これまでのの説明から推測される。しかしながら射出するすべての方向、すべての色光について偏光状態を同じようにそろえることは困難である。
【0025】
そこで本発明では、偏光状態をそろえるのではなくて、むしろ偏光状態を大きく乱すことによって、擬似的に無偏光な状態にすることとした。この方法によってフレネルレンズに入射するP偏光成分とS偏光成分との強度比を各色光についてそろえることにより、スクリーン24上での色ムラを低減するのである。
【0026】
次に投射光を擬似的に無偏光状態にする位相板22について説明する。まず、位相板22に直線偏光の光が入射した際の透過光の偏光度(P偏光成分強度とS偏光成分強度の比)と位相差量との関係について説明する。
【0027】
図3に、位相板22にP偏光の光が入射した時の、射出光のP偏光成分とS偏光成分の光強度の波長依存性を示す。位相板22の位相差は138nmとし、その光学軸の方位はP偏光、S偏光の方向に対して45度とする。横軸は波長(nm)、縦軸は強度(相対値)である。ここではそれぞれの偏光成分の総和が1となるように規格化して表している。Ipは透過後のP偏光成分の強度を、Isは透過後のS偏光成分の強度を示している。
【0028】
この場合、550nm近傍の波長ではP偏光とS偏光の強度はほぼ一致するが、この波長から離れるのにしたがってP偏光とS偏光との強度の差は大きくなる。具体的にはB光波長領域(400?500nm)においてはS偏光成分の強度の方が大きくなるのに対し、R光波長領域(600?700nm)においては逆にP偏光成分の強度の方が大きくなる。このことから、位相差が138nmの位相板では、B光波長領域での偏光状態(S偏光成分強度とP偏光成分強度との比率)とR光波長領域での偏光状態とが大きく異なるので、スクリーンを透過する光の量もB、G、R間で大きく異なり、スクリーン透過光は色づく、すなわち色ムラが生じる。つまり位相差138nm程度では擬似的に無偏光な状態にすることができない。
【0029】
図4に位相差が5000nmの位相板にP偏光の光が入射した時の、射出光のP偏光成分とS偏光成分の光強度の波長依存性を示す。この位相板ではP偏光成分の強度とS偏光成分の強度はそれぞれ周期的に変化する。各色光(B光としては400?500nm、G光としては500?600nm、R光としては600?700nm)の波長領域内で平均するとそれぞれの偏光成分の強度比は等しくなる。しかし人間の視感度特性は555nm付近で最も高くなることを考慮すると、視感度が高くなるB光波長領域内の長波長側、同じくR光波長領域内の短波長側において偏光成分の比率に偏りが見られる。すなわちB光の長波長側、450?500nm付近では、強度が1周期程度しか変化しておらず、またR光の短波長側600?650nm付近では、強度が1周期以下しか変化しておらず、擬似的に無偏光な光と見なすにはまだ十分とは言えない。
【0030】
図5に位相差が20000nmの位相板にP偏光の光が入射した時の、射出光のP偏光成分とS偏光成分との光強度の波長依存性を示す。この場合、強度変化の周期が最も長くなっているR光においても各偏光成分はそれぞれ4周期以上変化しており、人間の視感度を考慮してもP偏光成分とS偏光成分の比率はほぼ同じと見なすことができる。B光、G光においてはさらに周期が増えているので、この位相板を配置することにより、投射レンズから射出される光を擬似的に無偏光にさせたと言うことができる。つまり、この位相板を投射レンズの後に配置することによって、スクリーン上の色ムラを低減することができる。
【0031】
なお位相板22の光学軸の方向は、図1におけるX軸またはY軸に対して約45度となることが好ましい。偏光ビームスプリッタ17B、17G、17RをP偏光で透過した光が、光学エンジン10-1から射出されるので、投射レンズ21を射出した直後の光は、Y軸方向またはX軸方向に最も強い偏光成分があることが予想されるからである。さらに位相板を投射レンズ21の光軸を中心として回転させて光学軸方向を調節できる構造とすれば、光学エンジンや投射レンズのばらつき、または使用するフレネルレンズ固有の特性に応じて色ムラの補正を最良な状態に持っていくことができる。
【0032】
また位相板の位相差20000nmは波長550nmの光に対して、約36波長分の位相差となる。一方投射レンズ中のプラスチック光学部材からなる非球面レンズや、反射ミラー等によって発生する位相差は数波長程度である。したがって位相板の位相差としてこの程度の量があれば、投射レンズで発生する位相がこの位相板による疑似無偏光状態を乱す影響は無視できると言える。位相板の素材としてはポリカーボネートのようなプラスチックの素材や、サファイアガラス、水晶板などの一軸又は二軸結晶構造を有する複屈折性材料があるが、これらの素材固有の複屈折量に応じて厚さや光学軸の方位を位相差が20000nm以上の値となるように調節して使用すればよい。
【0033】
本実施形態では、位相差として約20000nmの位相板を使用したが、位相板として位相差が20000nm以上のものを使用すれば、さらなる無偏光状態を達成できることはいうまでもない。さらに位相板の光学軸の向きを調整することによって、個々の光学エンジンのバラツキや使用するフレネルレンズ固有の特性に応じて位相板を射出する投射光の擬似無偏光状態を最適化することができるため、フレネルレンズを配置したスクリーン上において色ムラの軽減された投射像を得ることができる。なお、スクリーン上での色ムラの様子から、実用上擬似的に無偏光状態と見なすことができるのであれば、位相差は20000nm以下であっても構わない。」

エ 引用文献2に記載された技術事項
上記「ウ」「b」の【0031】における「位相板22の光学軸の方向は、図1におけるX軸またはY軸に対して約45度となることが好ましい。偏光ビームスプリッタ17B、17G、17RをP偏光で透過した光が、光学エンジン10-1から射出されるので、投射レンズ21を射出した直後の光は、Y軸方向またはX軸方向に最も強い偏光成分があることが予想されるからである。」の記載から、図1のX軸またはY軸のいずれかがが、P偏光またはS偏光の方向となるといえる。
上記「ウ」の記載事項から、引用文献2には、
「投射される光の偏光状態を擬似的に無偏光にする偏光変換部材として、位相差20000nmの位相板を用い、このような位相板の素材としてはポリカーボネートのようなプラスチックの素材や、サファイアガラス、水晶板などの一軸結晶構造を有する複屈折性材料があり、位相板22の光学軸の方向はP偏光またはS偏光の方向であるX軸またはY軸に対して約45度となるように配置する。」
こと(以下「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されている。

(2)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「クロスダイクロイックプリズム151」が、本願補正発明の「色合成プリズム」に相当し、引用発明の「クロスダイクロイックプリズム151により構成されている色合成光学系15」が、本願補正発明の「色合成プリズム」「を含み、3原色光を合成して合成光を出射する色合成部」に相当する。
(イ)a 本願補正発明の「色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板」について、本願明細書の【0100】の「1/2波長板12は、SPS方式の色合成プリズム11の緑色光の入射側に配置され、緑色光のS偏光g1sをP偏光に変換して、緑色P偏光g1pを生成する。」及び【0109】の「1/2波長板12は、SPS方式の色合成プリズム11の緑色光の入射側に配置され、緑色光のS偏光g2sをP偏光に変換して、緑色P偏光g2pを生成する。色合成プリズム11は、赤色光のS偏光である赤色S偏光r2sと、緑色P偏光g2pと、青色光のS偏光である青色S偏光b2sとを合成して合成光を生成する。」の記載から、本願補正発明において「色合成プリズムの緑色光の入射側に」「1/2波長板」を配置することは、緑色光のS偏光をP偏光に変換して、赤色光及び青色光がS偏光、緑色光がP偏光の状態を形成することを意味しているといえる。
よって、引用発明の「光変調装置14R,14Bの射出側に配置された射出側偏光板143R,143Gとクロスダイクロイックプリズム151との間には、P偏光の光をS偏光の光に変換するための位相差板141R,141Bがそれぞれ配置され、それによって、R(赤)画像光とB(青)画像光は波長選択膜152,153に対してS偏光となり、G(緑)画像光は波長選択膜152,153に対してP偏光となる状態で、クロスダイクロイックプリズム151に入射し」ていることが、実質的に、本願補正発明の「色合成部」に「色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板とを含」むことに相当する。
なお、上記の構成により、引用発明においては色合成プリズムの赤色光及び青色光の側に(合計2枚の)1/2波長板を配置し、本願補正発明においては色合成プリズムの緑色光側に(1枚の)1/2波長板を配置することとなり、両者で必要とされる1/2波長板の枚数が異なるが、その点を一応の相違点であるとしても、それは、結果として最終的に赤色光及び青色光がS偏光、緑色光がP偏光の状態を形成するために、P偏光をS偏光に変換するか又はS偏光をP偏光に変換するかの設計的事項によるものであって、当業者の予測を超える格別の相違点であるということはできない。
(ウ)引用発明の「クロスダイクロイックプリズム151と接合して配置」され、「R画像光、B画像光およびG画像光の偏光を無偏光状態に変換する消偏光素子7」が、本願補正発明の「前記色合成部の出射側に配置され、前記合成光の各色光の偏光状態を、全方位に対して均一に無偏光状態に変換する偏光変換部」に相当する。
(エ)引用発明の「R画像光、B画像光およびG画像光の偏光を無偏光状態に変換する消偏光素子7を、クロスダイクロイックプリズム151と投写レンズ系16の間に、クロスダイクロイックプリズム151と接合して配置」することと、本願補正発明の「前記偏光変換部は、前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くように、前記色合成プリズムの出射面に接着して前記色合成プリズムと一体化した、位相差が10000nm以上の一軸性有機材料、または前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くように、前記色合成プリズムの出射面に接着して前記色合成プリズムと一体化した、位相差が略10000nmの一軸性結晶である」こととは、「前記偏光変換部は、前記色合成プリズムの出射面に接合して前記色合成プリズムと一体化した」点で一致する。
(オ)引用発明の「投写光学系1」が備えた「投写レンズ系16」が、本願補正発明の「偏光変換部からの出射光を投射する投射レンズ」に相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「色合成プリズムと、前記色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板とを含み、3原色光を合成して合成光を出射する色合成部と、
前記色合成部の出射側に配置され、前記合成光の各色光の偏光状態を、全方位に対して均一に無偏光状態に変換する偏光変換部と、
前記偏光変換部からの出射光を投射する投射レンズと、
を備え、
前記偏光変換部は、前記色合成プリズムの出射面に接合して前記色合成プリズムと一体化した、
投影装置。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
合成光の各色光の偏光状態を無偏光状態に変換する偏光変換部が、本願補正発明では、
「前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くようにした、位相差が10000nm以上の一軸性有機材料、
または前記色合成プリズムの出射側に、入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くようにした、位相差が略10000nmの一軸性結晶」
であるのに対し、引用発明では、
「45°の斜面を有する左水晶部71と右水晶部72とからなり、それらの互いに斜面同士が接着された構成のコルニュー・シュード・デポラライザー」(以下、単に「コルニュー・シュード・デポラライザー」という。)
である点。
(イ)相違点2
偏光変換部の色合成プリズムの出射面への接合の形態が、本願補正発明においては「接着」であるのに対して、引用発明においては「接着」であるか否か不明である点。

(3)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
上記「(1)引用例」の「エ 引用文献2に記載された技術事項」に記載された、「引用文献2記載の技術事項」における「位相板22の光学軸の方向はP偏光またはS偏光の方向であるX軸またはY軸に対して約45度となるように配置」される点は、「入射偏光に対して遅相軸が45度または135度の方向に光軸が向くようにした」ことに相当するといえるから、「引用文献2記載の技術事項」は、上記の相違点1に係る本願補正発明の構成に相当するものといえる。
そして、引用発明における上記の「コルニュー・シュード・デポラライザー」も、「引用文献2記載の技術事項」も、合成光の各色光の偏光状態を無偏光状態に変換するという機能・作用において共通するから、引用発明において、「コルニュー・シュード・デポラライザー」に代えて「引用文献2記載の技術事項」を採用し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
偏光変換部の色合成プリズムの出射面への接合を「接着」とするか否かは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項である。
よって、上記相違点2は実質的な相違点とは言えない。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年6月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成28年11月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成29年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-4に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2002-350781号公報
引用文献2:特開2005-321544号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明・引用文献2記載の技術事項については、上記「第2 平成29年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用文献」に記載したとおりである。

4 対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、上記「第2 平成29年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件についての検討」の「(2)本願補正発明と引用発明の対比」の「ア 対比」において記載したのと同様の対比の手法及び結果により、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。
イ 一致点
「色合成プリズムと、前記色合成プリズムの緑色光の入射側に配置された1/2波長板とを含み、3原色光を合成して合成光を出射する色合成部と、
前記色合成部の出射側に配置され、前記合成光の各色光の偏光状態を、全方位に対して均一に無偏光状態に変換する偏光変換部と、
前記偏光変換部からの出射光を投射する投射レンズと、
を備え、
前記偏光変換部は、前記色合成プリズムと一体化している、
投影装置。」
である点。
ウ 相違点
一方で、合成光の各色光の偏光状態を無偏光状態に変換する偏光変換部が、本願発明では、「位相差が10000nm以上の一軸性有機材料、または位相差が10000nm以上の一軸性結晶」であるのに対し、引用発明では、「45°の斜面を有する左水晶部71と右水晶部72とからなり、それらの互いに斜面同士が接着された構成のコルニュー・シュード・デポラライザー」である点。
エ 判断
上記「第2 平成29年6月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(1)引用文献」の「エ 引用文献2に記載された技術事項」における「引用文献2記載の技術事項」は、上記の相違点に係る本願発明の構成に相当するものといえる。
そして、引用発明における上記の「コルニュー・シュード・デポラライザー」も、「引用文献2記載の技術事項」も、合成光の各色光の偏光状態を無偏光状態に変換するという機能・作用において共通するから、引用発明において、「コルニュー・シュード・デポラライザー」に代えて「引用文献2記載の技術事項」を採用し、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-16 
結審通知日 2018-02-20 
審決日 2018-03-06 
出願番号 特願2016-46531(P2016-46531)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03B)
P 1 8・ 121- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 角田 光法笹野 秀生  
特許庁審判長 小松 徹三
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 投影装置  
代理人 服部 毅巖  

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