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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1339666
審判番号 不服2016-631  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-14 
確定日 2018-04-23 
事件の表示 特願2013-512801「自己組織化可能な重合体及びリソグラフィにおける使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 8日国際公開、WO2011/151109、平成25年 9月 5日国内公表、特表2013-534542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年4月20日(パリ条約による優先権主張2010年6月4日、(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年12月15日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月11日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年年9月15日付けで拒絶査定がされたところ、平成28年1月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたが、同年3月15日付けで前置報告書が作成され、平成29年2月28日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年8月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願請求項1ないし13に係る発明は、平成29年8月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13で特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「第1の単量体の第1のブロックと、第2の単量体の第2のブロックと、を含むブロック共重合体である自己組織化可能な重合体であって、
前記第1の単量体は、刺激を加えることによって、第1の幾何異性体から第2の幾何異性体に、前記第2の幾何異性体から前記第1の幾何異性体に、又はその両方に構成可能であり、
前記第1の単量体は、前記第1の単量体が前記第2の幾何異性体にあるよりも、前記自己組織化可能な重合体が高いFlory-Hugginsパラメータを有するように、パターンが前記自己組織化可能な重合体に転写されるときに、前記刺激を加えることによって、前記第1の幾何異性体に転移する、自己組織化可能な重合体。」


第3 当審が通知した拒絶理由の概要
平成29年2月28日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)は、理由1ないし5からなり、そのうち理由4の概略は以下のとおりである。

「(理由4)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。


先願1:特願2008-320705号(特開2010-143989号公報) 」


第4 当審の判断
当審は、当審拒絶理由の理由4のとおり、本願発明は、先願1(特願2008-320705号(特開2010-143989号公報))の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書1」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 本願発明
上記「第2」で示したとおりである。

2 先願明細書1の記載事項
先願明細書1には、以下の記載がなされている(以下、下線部は合議体で付した。)

(1)
「【請求項1】
光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜が基板上に設けられ、光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、ブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御した相分離構造の形成手法。
【請求項2】
前記ブロック共重合体が、構造(a)としてアゾ基を含み、非偏光照射によりアゾ基が配向制御し、相分離構造を配向制御する請求項1に記載の相分離構造の形成手法。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、下記一般式(I)で表される繰り返し構造を有する化合物である請求項2に記載の相分離構造の形成手法。
【化1】

(式中、Xは水素原子又はメチル基、aは4?18の整数であり、R’は炭素数1?9のアルキル基、炭素数1?9のアルコキシ基、ニトロ基、又はシアノ基である。)
【請求項4】
光配向制御可能な波長の非偏光を基板に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射した後、ドメイン(A)成分が液晶相になる温度、かつドメイン(B)成分が融解、もしくはガラス転移点を超えた温度によって熱処理する請求項1?3のいずれかに記載の相分離構造の形成手法。」(請求項1ないし4)

(2)
「【0009】
本発明の相分離構造の形成方法及び薄膜の製造方法は、図1に示すように、光異性化挙動を利用することで光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有したドメイン(A)と、ドメイン(A)の等方相転移温度以下に、ガラス転移点、もしくは融点をもつドメイン(B)からなり、かつシリンダー状に相分離構造を形成するブロック共重合体の薄膜2に対し、光配向制御可能な波長の非偏光3を薄膜2に対して入射角を45°以上90°以下となるように照射し、光の入射方向に構造(a)を配向させた後、熱処理により相分離構造形成を行うことで、光配向制御の影響を利用しブロック共重合体の形成するシリンダー状の相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内、好ましくは±15°以内で平面内配向制御する。
【0010】
本発明で用いる基板としては、平滑性のある基板、好ましくはブロック共重合体の主要成分に含まれない元素を含む基板かつ透明性を有する基板(例えば、石英板、ガラス板等の基板や、これらの基板表面をシリル化処理等の疎水化処理を施した基板、ポリエチレンテレフタラートやトリアセチルセルロースなどのフィルム)が用いられる。しかし、基板はこれらに限られるものではない。
【0011】
(製膜方法)
本発明において、ブロック共重合体の薄膜の製膜方法としては、特に限定されないが、ブロック共重合体が可溶の溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、四塩化炭素、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、二塩化エチレン、塩化メチル等があげられるが、可溶であれば特に制限はされない。)に製膜時に影響を受けない程度の濃度(好ましくは0.1?5質量%)にて溶液を調製し、膜厚が数十nm?数百nm程度になるように塗布することが望ましい。塗布方法としては、通常、ローラー塗布、ディップ塗布、スピンコート塗布、ブラシ塗布、スプレー塗布、カーテン塗布及びその他の方法が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0012】
(ブロック共重合体の組成)
次に、本発明で用いるブロック共重合体の組成について説明する。
ブロック共重合体は、ある波長領域の非偏光による光配向制御可能な構造(a)を側鎖に有するドメイン(A)、ドメイン(A)の等方相転移温度以下のガラス転移点、もしくは融点を有するドメイン(B)からなるブロック共重合体であり、相分離構造の配向方向を制御可能なシリンダー状の相分離構造を形成するものが好ましい。
ある波長領域の非偏光により光配向制御可能な構造(a)には光照射によって光異性化反応が可逆的に起こり、分子骨格が繰り返し変化して動くもの、またその際の吸収が起こる遷移モーメントが異方性を有するものであれば良い。このような分子系は一般的に光幾何異性体を形成するものが多く、二色性分子とも呼ばれている。たとえば、アゾベンゼン、スチルベンやそれらの誘導体、カルコン類縁体などが知られている。また、非偏光照射により配向制御する際のメカニズムは、光照射によって異性化反応が繰り返し起こる過程を利用し、さらにそれらの異性化反応時に分子の構造が大きく変化することで、分子が徐々にその配向方向を変化させていくことを利用している。それらの分子運動が繰り返される過程で、分子内に光吸収する遷移モーメントが異方性を持っている場合、最終的には異性化反応が起こりにくい位置、つまり光の吸収がおこりにくい位置に移動し分子は安定化する。非偏光を照射した場合、分子の光吸収は光の入射方向に対して遷移モーメントが平行に配向している状態が最も安定となるため、可逆的な異性化を繰り返しながら光の入射方向に対して並ぶことが可能となる。このような光照射時の光異性化を伴う成分であれば上記物質に限られるものではなく、ドメイン(A)にはこのような光異性化挙動を示す構造(a)を側鎖に有したドメインであればよい。
【0013】
例えば、構造(a)として光異性化が容易に起こりやすいアゾ基を含み、非偏光照射によりアゾ基が配向制御し、相分離構造を配向制御すると好ましく、そのようなブロック共重合体として、下記一般式(I)で表される繰り返し構造を有する化合物が挙げられる。ここで示した構造はアゾベンゼン骨格であるが、一般的にアゾベンゼン骨格を有するものが光照射に対して光幾何異性化(トランス体とシス体の異性化)を可逆的に起こしやすく、それらの過程を経てある方向に再配列しやすいという報告があり(液晶の光配向、市村國宏著、2007、ISBN978-4-946553-27-1)、これらの構造が好ましい。しかし、原理的には光異性化が可逆的におこる現象を利用していることに変わりはないため、ここに示した構造式に制限されるものではなく、上記のスチルベン骨格などでも良い。以下アゾ基を含んだ光配向処理について述べる。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Xは水素原子又はメチル基、aは4?18の整数であり、R’は炭素数1?9のアルキル基、炭素数1?9のアルコキシ基、ニトロ基、又はシアノ基である。)
さらに、aの数は6?12であることが好ましい。数が4以上であれば、構造が剛直にならず光配向制御が容易であり、18以下であれば、アゾ基を含んだ液晶成分の配向制御の影響がブロック共重合体の相分離構造の配向制御に対して弱まることが無い。
さらに、R’に含まれる置換基はニトロ基やシアノ基、または炭素数1?4程度のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)、又はアルコキシ基(メトキシ基、トキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)であることが好ましい。R’がこの程度のかさ高さであれば、trans-cisとcis-trans光異性化の繰り返しによって配向制御を行う際に立体障害が大きくなりすぎることが無く、異性化し易く、制御が容易である。
【0016】
ドメイン(B)にはポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシドまたはそれら誘導体などが挙げられる。
また、光配向制御を実施するために、光配向可能であるドメイン(A)成分の割合が65質量%以上95質量%以下、さらには80質量%以上90質量%以下であることが好ましい。シリンダー相分離構造の配向制御を行うためには、シリンダーの周りにあるマトリックス成分を光配向可能なアゾ基を含んだドメインとする必要があり、それらの割合が多いほどより効率よくシリンダー相分離構造の配向制御を可能とするためである。
また、ブロック共重合体の分子量は光配向による液晶成分の影響が及ぶ程度が好ましい。詳細には、重量平均分子量で10000?500000程度、さらには10000?100000程度であることがより安定な光配向制御による相分離構造配向制御が可能である。
【0017】
(光配向処理)
本発明の方法においては、基板上に形成した共重合体の膜に光配向制御可能な波長の非偏光を薄膜に対して斜め方向から照射する(図1参照)。詳細には入射角45°以上90°以下であればよく、60°以上80°以下であるとさらに好ましい。入射角が大きくなるほど、アゾ基はより基板に対して平行に近い方向に配向制御することが可能となるが、入射角が大きくなりすぎると非偏光の照射される面積が減少し露光量を大きくするために長時間の照射を行わなければならなくなる。
また、使用する非偏光の波長は405nm以下の波長が取り除かれていると好ましく、415?550nmの範囲であることがさらに好ましい。一般的に、これらの波長範囲で光を照射した場合、アゾベンゼンのトランス体とシス体の割合が9:1程度の光定常状態になることが知られている。そこで、このような波長範囲の非偏光を用いることで、本発明で使用しているアゾ基を含んだ液晶のトランス体からシス体への変換が僅かに起こり、シス体からトランス体への変換が主に行われ、光異性化が繰り返し起きることにより、光の照射方向に対して平行にそろった液晶を形成できるためである。
【0018】
本発明で用いる非偏光の露光量は0.3Jcm^(-2)以上が好ましく、より安定な光配向制御を可能とするためには、30Jcm^(-2)以上であることが好ましい。露光量が少なすぎる場合、配向制御されたメソゲン基(側鎖)が少なくなることで、相分離構造の配向制御が不十分になる可能性があるためである。露光量が多すぎる分には配向制御自体に問題はなく、最低限の照度と照射時間を必要とするだけであり、基本的にその他の制限は受けない。あまりに露光量を大きくしすぎることは好ましくない。それは、光照射による共重合体自体の劣化が懸念されるためであり、通常2000Jcm^(-2)以下程度を目安とできる。以上、アゾ基を含むブロック共重合体に関して述べたが、他のスチルベン骨格やカルコン類縁体などの場合はそれらに適した波長の光、露光量を用いればよい。
【0019】
(相分離構造の形成手段)
つぎに、相分離構造形成のためにはブロック共重合体膜を熱によるアニール処理を行うことが好ましい。基板を加熱する場合、通常は、ブロック共重合体を形成する両成分の融点以上、ブロックポリマーが分解する温度以下の温度によって熱処理することが好ましい。また、光配向制御可能な波長の非偏光照射を行った場合には、加熱温度は、ドメイン(A)成分が液晶相になる温度、かつドメイン(B)成分も融解、もしくはガラス転移点を超えた温度、によって熱処理することが好ましい。また、加熱温度はブロック共重合体のドメイン(A)成分が液晶相から等方相へと転移する温度を僅かに超えてもよいが、大きく超えてしまうと配向制御できなくなる可能性があるため、大幅にこの温度を超えないことが好ましい。加熱温度を上記範囲とすることにより、相分離構造を形成するのに十分な高分子の流動性を確保できるので、加熱温度は上記範囲内であることが好ましい。高分子の流動性を確保した状態において温度を保持することで相分離構造が形成される。
上記、光配向処理を室温下で行ったあと、加熱処理により相分離構造形成を促進させることでシリンダー相分離構造を基板に対して平行、かつ基板面内では光の入射方向に対して±30°以内に平面内配向制御を実施することが可能である。」

(3)
「【実施例】
【0020】
次に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。
非偏光による光配向制御が可能なドメインとして、主鎖がメタクリレートで、メソゲン基としてアゾベンゼンを側鎖に含み、このドメインの等方相転移温度よりもガラス転移点の低いポリスチレンをもう一方のドメインとしたブロック共重合体(PS-b-PMA(Az))の合成を行った。以下に合成手順を示す。
【0021】
合成例1[ブロック共重合体PS-b-PMA(Az)の合成]
(ポリスチレンマクロイニシエーターの合成)
シュレンク管にスチレン4.16g(40mmol)、2,2’-ビピリジル125mg(0.8mmol)、1-ブロモエチルベンゼン74mg(0.4mmol)を入れ、2回凍結脱気した後Ar置換した。そこへ臭化銅(I)57.4mg(0.4mmol)を入れ、密栓した後、凍結脱気を2回行った。減圧状態のまま室温で30分攪拌した後、110℃で23時間攪拌した。冷却後、クロロホルムを溶媒として中性アルミナカラムを通し、エバポレーターで濃縮した溶液をメタノールに2回再沈殿精製してポリスチレンマクロイニシエーターを得た。収量3.4g、GPC(溶媒テトラヒドロフラン:THF) Mn:8900,Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)=1.27であった。
【0022】
(ブロック共重合体PS-b-PMA(Az)の合成)
シュレンク管にポリスチレンマクロイニシエーター(PS-Br,Mw:8900)0.15g(0.0169mmol)、CuCl 5mg(0.0507mmol)、11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレート(11-[4-(4-Butylphenylazo)phenoxy]undecyl Methacrylate)0.5g(1.01mmol)を入れ減圧脱気した後Ar置換した。そこへアニソール5mL、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン(hexamethyltriethylenetetramine:HMTETA)13.8μL(0.0507mmol)を入れ、密栓した後、凍結脱気を4回行った。減圧状態のまま室温で30分攪拌した後、80℃で23時間攪拌した。冷却後、THFを溶媒として中性アルミナカラムを通し、エバポレーターで濃縮した溶液をメタノールに2回再沈殿精製してブロック共重合体PS-b-PMA(Az)を得た。収量0.4g、GPC(THF)によるMn:23900,Mw/Mn=1.47であった。
【0023】
実施例1[PS-b-PMA(Az)の光配向制御による相分離構造の平行配向制御]
合成例1で製造したブロック共重合体の2質量%トルエン溶液を調製し、ガラス基板上に1500rpm、20secの条件でスピンコート塗布した。その後、室温下にて非偏光可視光(波長415nm以上の光、DeepUVランプ(optical ModuleX;ウシオ電機))に405nm以下の波長をカットする光学フィルターを用いて取り出したもの)を入射角75°として、20分程度照射した(図1参照)。その後、大気雰囲気下、暗室下のオーブンにて140℃1時間の熱処理を行い、相分離構造を形成させた。
次いで、これらのサンプルを原子間力顕微鏡(AFM)にて観察したところ、ライン&スペース上に配列した相分離構造が確認された(図2参照)。この結果から、基板に対してPS-b-PMA(Az)のシリンダー相分離構造が平行に配向制御されたことが確認された。」


3 先願明細書1に記載された発明
先願明細書1の上記摘記事項(1)ないし(3)、特に、下線部において、加熱により相分離構造を形成することができるブロック共重合体が開示され(摘記事項(1)、(2))、実施例1において、ポリスチレンマイクロイニシエーターに、11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレートを重合させて、ブロック共重合体PS-b-PMA(Az)を製造し、それをガラス基板に塗布して光を照射した後、140℃で熱処理し、相分離構造を形成させたことが記載されている(摘記事項(3))から、これらを総合すると、先願明細書1には、次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認める。

「光を照射した後、140℃で熱処理すると相分離構造を形成することができる、ポリスチレンマイクロイニシエーターに、11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレートを重合させて製造した、ブロック共重合体PS-b-PMA(Az)。」


4 対比・判断
(1) 対比
先願発明1は、光を照射した後、熱処理により相分離構造を形成するものであるから、本願発明の「自己組織化可能な重合体」に相当する。
また、先願発明1は、スチレンのブロックと、11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレートのブロックとからなるブロック共重合体である。11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレートは、メタクリレートに、アゾベンゼン骨格を有する置換基(摘記事項(2)の段落【0013】、【0014】)が結合した単量体であると解され、「11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレート」単位中のアゾベンゼン部分の構造が変化(シス体とトランス体)する(摘記事項(2)の段落【0013】、【0017】参照)ものである。
そうすると、先願発明1の「11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレート」は、本願発明の「刺激を加えることによって」、「第1の幾何異性体から第2の幾何異性体に、前記第2の幾何異性体から前記第1の幾何異性体に、又はその両方に構成可能であ」る「第1の単量体」に相当し、また、先願発明1のポリスチレンマイクロイニシエータのポリスチレンブロックを構成する「スチレン」は、本願発明の「第2の単量体」に相当する。
してみると、本願発明と先願発明1とは、
「第1の単量体の第1のブロックと、第2の単量体の第2のブロックと、を含むブロック共重合体である自己組織化可能な重合体であって、
前記第1の単量体は、刺激を加えることによって、第1の幾何異性体から第2の幾何異性体に、前記第2の幾何異性体から前記第1の幾何異性体に、又はその両方に構成可能である、
自己組織化可能な重合体。」
である点で一致し、以下の点において一応相違している。

<相違点>
本願発明は、「前記第1の単量体は、前記第1の単量体が前記第2の幾何異性体にあるよりも、前記自己組織化可能な重合体が高いFlory-Hugginsパラメータを有するように、パターンが前記自己組織化可能な重合体に転写されるときに、前記刺激を加えることによって、前記第1の幾何異性体に転移する、」ことが特定されているのに対して、先願発明1は、このような特定がされていない点。

(2) 判断
上記相違点について検討する。
上記相違点に係る本願発明の特定事項は、重合体の構造によって発揮される特性(性質)を示すものである。
そして、先願発明1は、光照射の前後で、「11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレート」単位中のアゾベンゼン部分の構造が変化(シス体とトランス体)する(摘記事項(2)の段落【0013】、【0017】参照)ことから、当該単量体から構成されるブロックを含むブロック共重合体である先願発明1は、光照射(本願発明の「刺激」に相当)の前後で、構造が変化したことに伴い、Flory-Hugginsパラメータについても変化しているものと解され、構造変化の前後で、必ず、いずれか一方は他方よりもFlory-Hugginsパラメータが高くなるものと認められる。
そうすると、先願発明1は、相違点に係る本願発明の特定事項のうち、「前記第1の単量体は、前記第1の単量体が前記第2の幾何異性体にあるよりも、前記自己組織化可能な重合体が高いFlory-Hugginsパラメータを有するように、前記刺激を加えることによって、前記第1の幾何異性体に転移する、」という事項(特性(性質))を有するものである。また、この事項(特性(性質))は、相違点に係る本願発明1の特定事項の「パターンが前記自己組織化可能な重合体に転写されるとき」との条件の有無に関わらず、刺激を加えることにより常に発揮される事項(特性(性質))であるから、結局、先願発明1は、相違点に係る本願発明1の特定事項を自ずと有するものといえる。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。

なお、審判請求人は、平成29年8月24日に提出の意見書において、
「引用文献1に記載の発明は、パターンがブロック共重合体に転写されるときにブロック共重合体のラインエッジラフネス及びライン幅ラフネスを小さくすることを課題とするものではないため、パターンがブロック共重合体に転写されるときに、ブロック共重合体が高いFlory-Hugginsパラメータを有するように、11-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェノキシ]ウンデシルメタクリレートを異性化させたはずであることを裏付ける根拠も、また、そのようなことをする動機づけも、引用文献1には、記載されておりません。
補正後の請求項1に記載の「第1の単量体は、第1の単量体が第2の幾何異性体にあるよりも、自己組織化可能な重合体が高いFlory-Hugginsパラメータを有するように、パターンが自己組織化可能な重合体に転写されるときに、刺激を加えることによって、第1の幾何異性体に転移する」ことは、課題解決のための具体的手段における微差ではなく、補正後の請求項1に係る発明と引用文献1に記載の発明との間の実質的な相違点であるものと思料致します。」と主張している。
しかしながら、本願発明は、重合体に係る発明であり、先願発明とは、重合体の構造(重合体を構成する構造単位、構造単位の割合、重合体の分子量等)が同一であるか否かにより判断されるものであって、課題や動機付けの違いによって重合体の相違が判断されるものではないし、また、本願発明と先願発明1との間の相違点については、実質的な相違点ではないと上記で判断したとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。

よって、本願発明は、先願発明1と同一であり、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることはできない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-29 
結審通知日 2017-11-30 
審決日 2017-12-12 
出願番号 特願2013-512801(P2013-512801)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 岡崎 美穂
渕野 留香
発明の名称 自己組織化可能な重合体及びリソグラフィにおける使用方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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