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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1339672
審判番号 不服2018-212  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-09 
確定日 2018-04-23 
事件の表示 特願2016-112701「粘着シート」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 2292〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成28年6月6日(優先権主張 平成27年6月15日、日本国)を出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略以下のとおりのものである。

平成29年 3月 7日付け 拒絶理由通知書
平成29年 7月10日 意見書・手続補正書
平成29年10月10日付け 拒絶査定
平成30年 1月 9日 審判請求書

第2 本願発明の認定

本願の請求項1?10に係る発明は、平成29年7月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
発泡体基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する粘着シートであって、
前記発泡体基材は、ポリオレフィン系発泡体基材であり、
前記粘着シートの100%モジュラスMが8.0N/mm^(2)基材以下であり、
前記発泡体基材は、10%圧縮強度C_(10)[kPa]と30%圧縮強度C_(30)[kPa]との関係が次式:(C_(30)/C_(10))≦5.0;を満たし、
前記発泡体基材の密度Dは0.35?0.7g/cm^(3)であり、
前記粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と前記発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が9.0≦(M/D)≦20を満たす、粘着シート。」

第3 原査定における拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由は、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断

1 特許法第36条第4項第1号について

(1)発明の詳細な説明の記載事項(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡体基材を備えた粘着シートに関する。」

「【背景技術】
【0002】
一般に、粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により簡単に被着体に接着する性質を有する。このような性質を活かして、粘着剤は、例えば基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を設けた基材付き粘着シートの形態で、様々な分野において接合や固定などの目的で広く利用されている。
【0003】
気泡構造を有する発泡体を基材に用いた基材付き粘着シート(発泡体基材付き粘着シート)は、気泡構造を有しないプラスチックフィルムを基材とする粘着シートに比べて、衝撃吸収性や凹凸追従性等の点で有利なものとなり得る。また、不織布を基材とする粘着シートに比べて、防水性やシール性等の点で有利なものとなり得る。このため、発泡体基材付き粘着シートは、携帯電子機器における部品の接合や固定等に好ましく適用され得る。
発泡体基材付き粘着シートに関する技術文献として特許文献1,2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/154137号
【特許文献2】特開2013-213104号公報」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、製品の小型化や軽量化の観点から、部品の接合等に用いられる粘着シートの細幅化が要求されている。例えば携帯電子機器の表示部保護部材(例えばカバーガラス)の固定に用いられる粘着シートでは、情報表示部の大画面化、デザイン性の向上、設計自由度の向上等の観点からも、粘着シートを細幅化することは有意義である。
【0006】
しかし、粘着シートを細幅化すると部品の接合性能(例えば押圧接着力)は低下する傾向にある。この点に関し本発明者は、粘着シートの幅が1mm程度またはそれ以下になると、細幅化に伴う接着面積の減少から予想される程度を超えて接合性能が低下する現象がみられる点に着目した。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、細幅化による性能低下が少ない粘着シートを提供することを目的とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書により提供されるひとつの粘着シートは、発泡体基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有し、上記粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と上記発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が9.0≦(M/D)を満たす。このように密度Dの割に100%モジュラスMが高い粘着シートは、細幅化による性能低下の程度が抑えられたものとなり得る。なお、上記式中のMは、粘着シートの100%モジュラスをN/mm^(2)基材(ここで「/mm^(2)基材」とは、「発泡体基材の断面積1mm^(2)当たり」を意味する。)の単位で表したときの数値部分であって、M自体は無次元数である(本明細書に記載された他の式中のMにおいて同じ。)。また、上記式中のDは、発泡体基材の密度をg/cm^(3)の単位で表したときの数値部分であって、D自体は無次元数である(本明細書に記載された他の式中のDにおいて同じ。)。ただし、本明細書中においてMやDの好ましい数値範囲等を記載する際には、読みやすさのために、これらの数値に確認的に単位を付けて表記することがある(他の記号についても同様)。
・・・(中略)・・・
【0009】
他の好ましい一態様において、上記粘着シートは、100%モジュラスMが4.0N/mm^(2)基材より高いことが好ましい。このような100%モジュラスMを示す粘着シートは、細幅化しても衝撃による接合部の損傷等が生じにくい傾向にあるので好ましい。」

「【発明を実施するための形態】
・・・(中略)・・・
【0017】
<発泡体基材>
ここに開示される粘着シートを構成する発泡体基材は、気泡(気泡構造)を有する部分を備えた基材であって、典型的には、層状の発泡体(発泡体層)を少なくとも1層含む基材である。上記発泡体基材は、1層または2層以上の発泡体層により構成された基材であり得る。上記発泡体基材は、例えば、1層または2層以上の発泡体層のみにより実質的に構成された基材であり得る。特に限定するものではないが、ここに開示される技術における発泡体基材の一好適例として、単層(1層)の発泡体層からなる発泡体基材が挙げられる。」

「【0019】
発泡体基材の密度D(見掛け密度をいう。以下、特記しない場合において同じ。)は特に限定されず、例えば0.1?0.9g/cm^(3)であり得る。耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度Dは、0.8g/cm^(3)以下が適当であり、0.7g/cm^(3)以下(例えば0.6g/cm^(3)以下)が好ましい。一態様において、発泡体基材の密度Dは、0.5g/cm^(3)未満であってよく、0.4g/cm^(3)未満(例えば0.5g/cm^(3)以下)であってもよい。また、耐衝撃性の観点から、発泡体基材の密度Dは、0.12g/cm^(3)以上が好ましく、0.15g/cm^(3)以上がより好ましく、0.2g/cm^(3)以上(例えば0.3g/cm^(3)以上)がさらに好ましい。一態様において、発泡体基材の密度Dは、0.4g/cm^(3)以上であってよく、0.5g/cm^(3)以上(例えば0.5g/cm^(3)超)であってもよく、さらには0.55g/cm^(3)以上であってもよい。なお、発泡体基材の密度D(見掛け密度)はJIS K 6767に準拠して測定することができる。
【0020】
好ましい一態様において、上記発泡体基材の密度Dは、0.3?0.8g/cm^(3)であり得る。密度が上記範囲にある発泡体基材は、衝撃吸収性がよく、かつ(M/D)の値の高いものが得られやすい。したがって、このような発泡体基材を備える粘着シートは、接合部の耐衝撃性がよく、かつ細幅化による性能低下の程度が抑えられたものとなり得る。
【0021】
発泡体基材の平均気泡径は特に限定されないが、細幅化による性能低下を抑制する観点からは、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。より高性能な防水性や防塵性を発揮する観点からは、発泡体基材の平均気泡径は、120μm以下であることが好ましく、100μm以下(典型的には90μm以下、例えば80μm以下、さらには70μm以下)がより好ましい。ここに開示される技術において、発泡体基材の平均気泡径を小さくすることにより、例えば後述する落下後防水性のように細幅において衝撃を受けても防水性や防塵性が維持されやすくなる傾向にある。また、平均気泡径を小さくすることは、上述したM/Dの値を大きくするひとつの手法としても有効となり得るので好ましい。平均気泡径の下限は特に限定されないが、耐衝撃性の観点から、通常は10μm以上が適当であり、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上(例えば50μm以上)がさらに好ましい。一態様において、平均気泡径は、55μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。なお、ここでいう平均気泡径は、発泡体基材の断面を電子顕微鏡で観察して得られる、真球換算の平均気泡径をいう。」

「【0029】
ここに開示される技術における発泡体基材としては、10%圧縮強度C_(10)[kPa]と30%圧縮強度C_(30)[kPa]との関係が次式:(C_(30)/C_(10))≦5.0;を満たすものを好ましく採用することができる。ここで、発泡体基材の10%圧縮強度は、該発泡体基材を30mm角の正方形状にカットしたものを積み重ねて約2mmの厚さとした測定試料を一対の平板で挟み、それを当初の厚さの10%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重(圧縮率10%における荷重)をいう。すなわち、上記測定試料を当初の厚さの90%に相当する厚さまで圧縮したときの荷重をいう。30%圧縮強度C_(30)[kPa]および後述する25%圧縮強度C_(25)[kPa]についても同様に、測定試料を当初の厚さの30%または25%に相当する厚さ分だけ圧縮したときの荷重をいう。
発泡体基材の任意の圧縮率における圧縮強度は、JIS K 6767に準拠して測定される。具体的な測定手順としては、上記一対の平板の中央部に上記測定試料をセットし、上記平板の間隔を狭めることで連続的に任意の圧縮率まで圧縮し、そこで平板を停止させて10秒経過後の荷重を測定する。発泡体基材の圧縮強度は、例えば、発泡体基材を構成する材料の架橋度や密度、気泡のサイズや形状等により制御することができる。
【0030】
圧縮強度比(C_(30)/C_(10))が小さいということは、圧縮の程度の違いが圧縮強度に及ぼす影響が小さいことを意味する。例えば、粘着シートによる接合面に段差やキズ等の凹凸がある場合や、粘着シートの幅が部分的に異なっている場合、あるいは粘着シートによる接合部の一部が他部よりも大きな応力を受けた場合等において、粘着シートの一部が他部よりも大きく圧縮されることがあり得る。粘着シートを細幅化すると、上記段差や部分的な幅の違い等による圧縮の程度の違いはより顕著になる傾向にある。圧縮の程度の違いによる圧縮強度の違いが大きすぎると、圧縮の程度が変化する部分に歪が集中し、当該部分が粘着シートの剥がれや発泡体基材の損傷の起点となることがあり得る。(C_(30)/C_(10))が小さい発泡体基材を用いた粘着シートは、上記圧縮の程度の違いに起因する圧縮強度の違いが小さいことから、上記剥がれや発泡体基材の損傷が生じにくい。このことは耐衝撃性向上の観点から有利となり得る。より良好な効果を得る観点から、(C_(30)/C_(10))は、4.5以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。(C_(30)/C_(10))が3.5以下であってもよい。(C_(30)/C_(10))の下限は特に限定されないが、例えば2.5以上が適当であり、3.0以上であってもよい。」

「【0035】
発泡体基材の材質は特に制限されない。通常は、プラスチック材料の発泡体(プラスチック発泡体)により形成された発泡体層を含む発泡体基材が好ましい。プラスチック発泡体を形成するためのプラスチック材料(ゴム材料を包含する意味である。)は、特に制限されず、公知のプラスチック材料のなかから適宜選択することができる。プラスチック材料は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0036】
プラスチック発泡体の具体例としては、ポリエチレン製発泡体、ポリプロピレン製発泡体等のポリオレフィン系樹脂製発泡体;ポリエチレンテレフタレート製発泡体、ポリエチレンナフタレート製発泡体、ポリブチレンテレフタレート製発泡体等のポリエステル系樹脂製発泡体;ポリ塩化ビニル製発泡体等のポリ塩化ビニル系樹脂製発泡体;酢酸ビニル系樹脂製発泡体;ポリフェニレンスルフィド樹脂製発泡体;脂肪族ポリアミド(ナイロン)樹脂製発泡体、全芳香族ポリアミド(アラミド)樹脂製発泡体等のアミド系樹脂製発泡体;ポリイミド系樹脂製発泡体;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製発泡体;ポリスチレン製発泡体等のスチレン系樹脂製発泡体;ポリウレタン樹脂製発泡体等のウレタン系樹脂製発泡体;等が挙げられる。また、プラスチック発泡体として、ポリクロロプレンゴム製発泡体等のゴム系樹脂製発泡体を用いてもよい。
【0037】
好ましい発泡体として、ポリオレフィン系樹脂製発泡体(以下「ポリオレフィン系発泡体」ともいう。)が例示される。ポリオレフィン系発泡体を構成するプラスチック材料(すなわちポリオレフィン系樹脂)としては、公知または慣用の各種ポリオレフィン系樹脂を特に限定なく用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。LLDPEの例としては、チーグラー・ナッタ触媒系直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0038】
ここに開示される技術における発泡体基材の好適例としては、耐衝撃性や防水性、防塵性等の観点から、ポリエチレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリエチレン系発泡体基材、ポリプロピレン系樹脂の発泡体から実質的に構成されるポリプロピレン系発泡体基材等のポリオレフィン系発泡体基材が挙げられる。ここでポリエチレン系樹脂とは、エチレンを主モノマー(すなわち、モノマーのなかの主成分)とする樹脂を指し、HDPE、LDPE、LLDPE等の他、エチレンの共重合割合が50重量%を超えるエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-酢酸ビニル共重合体等を包含し得る。同様に、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレンを主モノマーとする樹脂を指す。ここに開示される技術における発泡体基材としては、ポリエチレン系発泡体基材を好ましく採用し得る。」

「【0039】
上記プラスチック発泡体(典型的にはポリオレフィン系発泡体)の製造方法は特に限定されず、公知の各種方法を適宜採用し得る。例えば、上記プラスチック材料、もしくは上記プラスチック発泡体の成形工程、架橋工程および発泡工程を含む方法により製造し得る。また、必要に応じて延伸工程を含み得る。
上記プラスチック発泡体を架橋させる方法としては、例えば、有機過酸化物などを用いる化学架橋法、または電離性放射線を照射する電離性放射線架橋法などが挙げられ、これらの方法は併用され得る。上記電離性放射線としては、電子線、α線、β線、γ線などが例示される。電離性放射線の線量は特に限定されず、発泡体基材の目標物性(例えば架橋度)等を考慮して適切な照射線量に設定することができる。」

「【0081】
<粘着シート>
ここに開示される粘着シート(テープ状等の長尺状の形態であり得る。)は、発泡体基材と、該発泡体基材の少なくとも一方の面に配置された粘着剤層とを含んで構成されている。かかる粘着シートは、発泡体基材の一方の面にのみ粘着剤層を有し、該一方の面のみが粘着性表面(粘着面)となっている片面粘着シートの形態であってもよい。このような片面粘着シートは、例えば、粘着剤層を有しない側の面を粘着以外の手法(例えば、接着剤を用いる方法、熱融着させる方法等)で被着体に固定することにより、部品の接合や固定に用いられ得る。ここに開示される粘着シートは、典型的には、発泡体基材の両面に粘着剤層を有する両面粘着シート(発泡体基材付き両面粘着シート)の形態で好ましく実施される。このような両面粘着シートは、例えば、部品の接合操作の簡便性や接合品質の安定性等の観点から有利である。
【0082】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1に模式的に示す断面構造を有する両面粘着シートであり得る。この両面粘着シート1は、シート状の発泡体基材15と、その基材15の両面にそれぞれ支持された第1粘着剤層11および第2粘着剤層12とを備える。より詳しくは、基材15の第1面15Aおよび第2面15B(いずれも非剥離性)に、第1粘着剤層11および第2粘着剤層12がそれぞれ設けられている。使用前(被着体への貼り付け前)の両面粘着シート1は、図1に示すように、前面17Aおよび背面17Bがいずれも剥離面である剥離ライナー17と重ね合わされて渦巻き状に巻回された形態であり得る。かかる形態の両面粘着シート1は、第2粘着剤層12の表面(第2粘着面12A)が剥離ライナー17の前面17Aにより保護され、また第1粘着剤層11の表面(第1粘着面11A)が剥離ライナー17の背面17Bにより保護されている。あるいは、第1粘着面11Aおよび第2粘着面12Aが、2枚の独立した剥離ライナーによりそれぞれ保護された形態であってもよい。」

「【0090】
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る粘着シートは、該粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と、該粘着シートを構成する発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が、9.0≦(M/D)を満たす。このような関係を満たす粘着シートは、細幅化による性能低下の程度が抑制されたものとなり得る。その理由を解明する必要はないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、粘着シートのM/Dが大きいということは、引張変形に対して該粘着シートが発泡体基材の密度の割に高い抵抗を示すことを意味する。ここで、粘着シートが引張応力により変形すると、一般に該粘着シートと被着体との接触面積(粘着面積)は減少する。細幅の粘着シートでは粘着面積が当初から小さいため、引張変形による粘着面積の減少が粘着性能に及ぼす影響が殊に大きくなる傾向にある。M/Dが大きい粘着シートは引張応力に対して粘着面積の減少が生じにくく、このことが細幅化による性能低下の程度の抑制に有利に寄与していると考えられる。
【0091】
好ましい一態様において、M/Dの値は、9.5以上であってもよく、10.0超、さらには10.5超(例えば11.0以上)であってもよい。M/Dの値が大きくなると、細幅化による性能低下の程度がよりよく抑制される傾向にある。M/Dの上限は特に制限されないが、発泡体基材の製造容易性または入手容易性等の観点から、通常は50以下が適当であり、40以下が好ましく、30以下(例えば25以下)がより好ましい。好ましい一態様において、M/Dが20以下であってもよく、15以下であってもよい。
【0092】
ここで、粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]は、次のようにして測定される。すなわち、測定対象のサンプル(粘着シート)を幅10mm、長さ40mmのサイズにカットして試験片を作製する。このとき、試験片の長さ方向がサンプルの流れ方向(MD)と一致する向きとなるようにする。この試験片を、温度23℃、50%RHの測定環境下において、試験長(チャック間長さ)を10mmとして引張試験機に垂直にセットし、50mm/分の引張速度で垂直方向に引き伸ばす。上記試験長の変化率が100%となったとき(20mmまで伸びたとき)の強度を発泡体基材の断面積当たりの強度に換算した値[N/mm^(2)基材]を、上記サンプルのMDについての100%モジュラスとする(以下「MDモジュラス」ともいう。)。
試験片の長さ方向をサンプルのMDと直交する幅方向(TD)とする他は上記MDモジュラスの測定と同様にして、該サンプルのTDについての100%モジュラス[N/mm^(2)基材]を求める(以下「TDモジュラス」ともいう。)。
上記MDモジュラスおよび上記TDモジュラスを平均することにより、上記サンプルの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]が求められる。
・・・(中略)・・・
【0094】
ここに開示される粘着シートの100%モジュラスMは特に限定されず、例えば2.5N/mm^(2)基材以上であり得る。粘着シートの100%モジュラスMが高いと、細幅の粘着シートにおいても衝撃等の外力による発泡体基材の損傷がよりよく防止される傾向にある。また、細幅化に伴う性能低下を抑制しやすくなる傾向にある。かかる観点から、100%モジュラスMは、4.0N/mm^(2)基材よりも高いことが好ましく、より好ましくは4.5N/mm^(2)基材以上、さらに好ましくは5.0N/mm^(2)基材以上(典型的には5.0N/mm^(2)基材超、例えば5.5N/mm^(2)基材以上)である。好ましい一態様に係る粘着シートの100%モジュラスMは、6.0N/mm^(2)基材以上であり得る。また、柔軟性等の観点から、粘着シートの100%モジュラスMは、通常、12.0N/mm^(2)基材以下が適当であり、10.0N/mm^(2)基材以下が好ましく、8.0N/mm^(2)基材以下がより好ましい。粘着シートの100%モジュラスMは、例えば、発泡体基材の架橋度や密度(見掛け密度)、気泡のサイズや形状等により制御することができる。
なお、粘着シートの100%モジュラスMを発泡体基材の断面積当たり(/mm^(2)基材)の数値として表す理由は、ここに開示される粘着シートの100%引き伸ばし強度に占める粘着剤層の寄与は通常極めて小さいため、上記引き伸ばし強度を断面積当たりに換算する際に粘着剤層の断面積を含めると、本願の目的に適う粘着シートの特性の把握が却って困難となるためである。」

「【0113】
ここに開示される粘着シートは、種々の外形に加工された接合部材の形態で、携帯電子機器を構成する部品の接合や固定(例えば表示部または表示部保護部材と筐体との接合、好ましくは光透過性を有する表示部保護部材(典型的には保護パネル)と筐体との接合)に利用され得る。このような接合部材の好ましい形態として、幅2.0mm未満の細幅部を有し、該細幅部の平均幅W[mm]が1.0mm未満(より好ましくは0.7mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下、例えば0.3mm以下)である形態が挙げられる。ここに開示される粘着シートによると、このような細幅部を含む形状(例えば枠状)の接合部材として用いられる場合にも、良好な性能(押圧接着力、衝撃吸収性等)が発揮され得る。なお、粘着シートの細幅部の平均幅W[mm]は、当該粘着シートに含まれる細幅部の合計面積を合計長さで除算して得られる。細幅部の幅が一定である場合、該細幅部の幅と上記平均幅とは一致する。」

「【実施例】
【0119】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0120】
<粘着シートの作製>
(例1)
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置および窒素導入管を備えた反応容器に、アクリル酸2.9部、酢酸ビニル5部、n-ブチルアクリレート92部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.1部、および重合溶媒として酢酸エチル30部、トルエン120部を投入し、窒素ガスを導入しながら2時間攪拌した。
このようにして重合系内の酸素を除去した後、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部を加え、60℃に昇温して6時間重合反応を行って、ポリマーを含むポリマー溶液を得た。このポリマー溶液の固形分は40.0%であり、ポリマーのMwは50×10^(4)であった。
上記ポリマー溶液に、該ポリマー溶液中のポリマー100部に対して、荒川化学工業株式会社製の商品名「ペンセルD-125」(ロジン系粘着付与樹脂、固形分100%)10部、荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステルA-100」(ロジン系粘着付与樹脂、固形分100%)10部、イーストマンケミカル社製の商品名「フォーラリン8020F」(ロジン系粘着付与樹脂、固形分100%)5部、および荒川化学工業株式会社製の商品名「タマノル803L」(テルペンフェノール樹脂、固形分100%)15部を添加し、溶解するまで十分に攪拌した。さらに、上記ポリマー溶液中のポリマー100部に対して2.0部となる割合で、架橋剤としての芳香族ポリイソシアネート(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン工業株式会社製、固形分75%)を添加し、十分に攪拌して、溶剤型粘着剤組成物を得た。
市販の剥離ライナー(商品名「SLB-80W3D」、住化加工紙株式会社製)を2枚用意した。それらの剥離ライナーのそれぞれ一方の面(剥離面)に上記粘着剤組成物を、乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布し、100℃で2分間乾燥させることにより、上記2枚の剥離ライナーの剥離面上にそれぞれ粘着剤層を形成した。これらの粘着剤層を、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.15mm、密度0.56g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))167kPa、25%圧縮強度(C_(25))468kPa、30%圧縮強度(C_(30))627kPa、平均気泡径55μm;以下「基材1A」という。)の両面にそれぞれ貼り合わせた。上記剥離ライナーは、そのまま粘着剤層上に残し、該粘着剤層の表面(粘着面)の保護に使用した。得られた構造体を80℃のラミネータ(0.3MPa、速度0.5m/分)に1回通過させた後、50℃のオーブン中で1日間養生した。このようにして例1に係る両面粘着シートを得た。
【0121】
(例2)
基材1Aに代えて、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.15mm、密度0.56g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))100kPa、25%圧縮強度(C_(25))365kPa、30%圧縮強度(C_(30))515kPa、平均気泡径155μm;以下「基材1B」という。)を使用した他は例1と同様にして、例2に係る両面粘着シートを得た。
【0122】
(例3)
基材1Aに代えて、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.15mm、密度0.37g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))34kPa、25%圧縮強度(C_(25))92kPa、30%圧縮強度(C_(30))117kPa、平均気泡径90μm;以下「基材2A」という。)を使用した他は例1と同様にして、例3に係る両面粘着シートを得た。
【0123】
(例4)
基材1Aに代えて、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.20mm、密度0.20g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))19kPa、25%圧縮強度(C_(25))47kPa、30%圧縮強度(C_(30))59kPa、平均気泡径90μm;以下「基材3A」という。)を使用した他は例1と同様にして、例4に係る両面粘着シートを得た。
【0124】
(例5)
基材1Aに代えて、両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.08mm、密度0.56g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))148kPa、25%圧縮強度(C_(25))448kPa、30%圧縮強度(C_(30))617kPa、平均気泡径55μm;以下「基材4A」という。)を使用した点、および該基材4Aの両面に貼り合わせる粘着剤層の厚さをいずれも35μmとした点以外は例1と同様にして、例5に係る両面粘着シートを得た。
【0125】
各例に係る両面粘着シート(固定部材作製用の粘着シート原反)について、上述した方法でMDモジュラスおよびTDモジュラスを測定したところ、例1のMDモジュラスは6.5N/mm^(2)基材、TDモジュラスは6.2N/mm^(2)基材、例2のMDモジュラスは5.6N/mm^(2)基材、TDモジュラスは4.5N/mm^(2)基材、例3のMDモジュラスは4.5N/mm^(2)基材、TDモジュラスは6.5N/mm^(2)基材、例4のMDモジュラスは6.1N/mm^(2)基材、TDモジュラスは3.1N/mm^(2)基材、例5のMDモジュラスは6.4N/mm^(2)基材、TDモジュラスは6.2N/mm^(2)基材であった。これらの値から各例に係る粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]、M/DおよびM×Hsを求めた結果を表1に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
<押圧接着力測定>
両面粘着シートを、図2(当審注:省略)に示すような横59mm、縦113mm、幅1.0mmの窓枠状(額縁状)にカットして、窓枠状両面粘着シートを得た。この窓枠状両面粘着シートを用いて、横59mm、縦113mm、厚さ1mmのガラス板(コーニング社製Gorillaガラスを使用した。以下同じ。)と、中央部に直径15mmの貫通孔を有するステンレス鋼板(SUS板)(横70mm、縦130mm、厚さ2mm)とを、50Nの荷重で10秒間圧着することにより貼り合わせて、評価用サンプルを得た。
図2は、上記評価用サンプルの概略図であって、(a)は上面図、(b)はそのA-A’断面図である。図2において、符号2は窓枠状両面粘着シート、符号21はSUS板、符号22はガラス板、符号21AはSUS板21に設けられた貫通孔を示している。
これらの評価用サンプルを万能引張圧縮試験機(装置名「引張圧縮試験機、TG-1kN」ミネベア(株)製)にセットした。そして、SUS板の貫通孔に丸棒を通過させ、この丸棒を10mm/分の速度で下降させることにより、ガラス板をSUS板から離れる方向に押圧した。そして、ガラス板とSUS板とが分離するまでの間に観測された最大応力を押圧接着力として測定した。なお、測定は23℃、50%RHの環境下で行った。
図3(当審注:省略)は、押圧接着力の測定方法を示す概略断面図であり、符号2は窓枠状の両面粘着シート、符号21はSUS板、符号22はガラス板、符号23は丸棒、符号24は支持台を示す。評価用サンプルは、上記試験機の支持台24に図3に示すように固定され、評価用サンプルのガラス板22は、SUS板21の貫通孔21Aを通過した丸棒23により押圧される。なお、上記押圧接着力測定において、SUS板21は、ガラス板22が丸棒23で押圧されることにより加わる負荷によって撓んだり破損したりすることはなかった。
【0128】
上記窓枠状粘着シートの幅を0.7mm、0.5mmおよび0.3mmに変更した他は上記と同様にして評価用サンプルを作製し、同様にして押圧接着力測定を行った。
得られた結果を表2に示す。表中の「-」は、未評価であることを示している。
【0129】
【表2】

【0130】
表2に示されるように、基材A1を使用した例1の粘着シートと基材B1を使用した例2の粘着シートとを比較すると、例1のほうが幅0.5mmにおける押圧接着力の維持率(S_(0.5)/S_(1.0))が高く、幅0.3mmにおける押圧接着力の維持率(S_(0.3)/S_(1.0))では例1の優位性がさらに顕著であった。その結果、幅1.0mmにおける押圧接着力は例1と例2とで同程度であったが、幅0.5mmの押圧接着力は例1の粘着シートのほうが約10%高く、幅0.3mmの押圧接着力は例1のほうが20%以上高かった。なお、アクリル系粘着剤層からなり発泡体基材を有しない市販の粘着シートについて、上記の各サンプル幅における押圧接着力を同様に測定し、その結果から(S_(0.5)/S_(1.0))および(S_(0.3)/S_(1.0))を算出したところ、(S_(0.5)/S_(1.0))は46%、(S_(0.3)/S_(1.0))は20%であった。
【0131】
<落下耐久性試験>
両面粘着シートを、図4(a),(b)(当審注:省略)に示すような横59mm、縦113mm、幅1.0mmの窓枠状(額縁状)にカットして、窓枠状両面粘着シートを得た。この窓枠状両面粘着シートを用いて、ポリカーボネート板(横70mm、縦130mm、厚さ2mm)とガラス板(横59mm、縦113mm、厚さ0.5mm)とを50Nの荷重で10秒間圧着することにより貼り合わせて、評価用サンプルを得た。
図4(a),(b)は、上記評価用サンプルの概略図であって、(a)は上面図、(b)はそのB-B’断面図である。図4において、符号3は窓枠状の両面粘着シート、符号31はポリカーボネート板、符号32はガラス板を示している。
上記評価用サンプルのポリカーボネート板の背面(ガラス板と貼り合わされた面とは反対側の面)に、160gの錘を取り付けた。上記錘付きの評価用サンプルにつき、常温(23℃程度)において、1.2mの高さからコンクリート板に60回自由落下させる落下試験を行った。このとき、上記評価用サンプルの6面が順次下方となるように、落下の向きを調節した。すなわち、6面につきそれぞれ1回の落下パターンを10サイクル行った。
そして、1回落下させる毎にポリカーボネート板とガラス板との接合が維持されているか否かを目視で確認し、ポリカーボネート板とガラス板とが剥がれる(分離する)までの落下回数を、常温における落下耐久性として評価した。60回落下させた後にも剥がれが認められなかった場合には「60超」と評価した。
【0132】
上記窓枠状粘着シートの幅を0.7mm、0.5mmおよび0.3mmに変更した他は上記と同様にして評価用サンプルを作製し、同様にして落下耐久性試験を行った。
【0133】
<落下後防水性試験>
IPX7規格(JIS C 0920/IEC60529)に基づいて、上記落下耐久性試験後(60回落下させた後)の評価用サンプルの防水性を評価した。すなわち、上記落下耐久性試験後の評価用サンプルを標準状態(23℃、50%RH)において水深1mの水槽に30分間沈め、内部への浸水の有無を確認した。
得られた結果を表3に示す。
【0134】
<防塵性試験>
図5,6(当審注:いずれも省略)に示す防塵性評価試験装置を用いて防塵性試験を行った。ここで、図5は防塵性評価試験装置の概略構成を示す分解斜視図であり、図6は該防塵性評価試験装置の断面図である。図5,6において、符号120は防塵性評価試験装置、符号121は天井板、符号122はスペーサー、符号123は枠形状に窓枠状に打ち抜き加工をした両面粘着シート、符号125は評価用箱体、符号127は開口部(一辺の長さが52mmの正方形状)、符号128は空間部を示す。防塵性評価試験装置120は、略四角形の平板状の天井板121と評価用箱体125とをねじ止めすることによって、内部に略直方体状の密閉可能な空間部128を形成することができる。なお、開口部127は、空間部128の開口部である。また、天井板121は、開口部となる平面視四角形(台形)の切り込みを有する。
【0135】
天井板121の開口部127に対向する下面には、開口部127より大きい四角形平板状のスペーサー122が、開口部127の全面に対向するように取り付けられる。スペーサー122の下面の開口部127に対向する位置には、開口部127とほぼ同じ大きさの窓部を有する両面粘着シート123が取り付けられる。このため、天井板121をねじ止めすることによって、両面粘着テープ123は、スペーサー122と開口部127の周縁部との間に固定される。したがって、天井板121と評価用箱体125とをねじ止めすることによって、評価用箱体125内の空間部128は、粘着テープ123およびスペーサー122によって密閉される。スペーサー122の厚さは、評価対象の粘着シートの総厚に応じて、各例に係る粘着シートの総厚の違いを埋め合わせるように選択される。
【0136】
評価用箱体125内の開口部127から空間部128に粉塵としてのコーンスターチを0.1g入れ、窓枠状両面粘着テープ123を介してスペーサー122を配置し、その上から天井板121を評価用箱体125にねじ止めすることにより、窓枠状両面粘着テープ123でシールされた空間部128に上記粉塵(図示せず)が収容された防塵性評価試験装置120を作製した。この防塵性評価試験装置120をドラム式落下試験器(回転式落下装置)に入れ、3rpmの速度で回転させた。10回転毎に装置を停止させて防塵性評価試験装置120を取り出し、空間部128に収容した粉塵が窓枠状両面粘着テープ123によるシールから漏れて防塵性評価試験装置120の外面に付着しているか否かを目視で観察し、粉塵の付着が認められるまでの回転数を記録した。
【0137】
各例に係る両面粘着シートを、一辺の長さが52mmの正方形状の開口部を有し、幅が1mmの枠状(すなわち、外周形状が一辺54mmの正方形状)または幅が0.5mmの枠状(すなわち、外周形状が一辺53mmの正方形状)となるように打ち抜いた窓枠状両面粘着テープ123を用いて、上記防塵性試験を行った。結果を表3に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
表3に示されるように、幅1.0mmにおける評価では、例1,例2の粘着シートはいずれも良好な落下耐久性および落下後防水性を示し、特に性能差はみられなかった。一方、幅0.5mmおよび幅0.3mmでは、例1の粘着シートのほうが落下耐久性が明らかに高かった。また、幅0.7mmにおける評価では、落下耐久性には差がみられなかったが、例2に係る粘着シートは落下後防水性試験において浸水がみられ、粘着シートに損傷が生じていることが判明した。これに対して、例1の粘着シートは、幅0.7mmにおいて、落下耐久性試験後にも良好な防水性を示した。また、例5の粘着シートは、幅0.5mm以上で例1の粘着シートと同様に良好な落下耐久性と落下後防水性を示し、幅0.3mmにおいても例2の粘着シートに比べて高い落下耐久性を示した。また、例1,5に係る粘着シートの防塵性は、幅1.0mmおよび幅0.5mmのいずれにおいても、例2に係る粘着シートより優れていた。
【0140】
以上の評価結果から、例2の粘着シートに比べて例1および例5の粘着シートでは細幅化に伴う性能低下が少ないことがわかる。幅0.7mmにおける落下後防水性の違いには、例1および例5に係る粘着シートでは例2に係る粘着シートに比べて平均気泡径の小さい発泡体基材を使用していることが有利に寄与していると考えられる。なお、平均気泡径P[μm]に対するM/Dの値の比として求められる(M/D)/(P×10^(-3))の値は、例1では207.8、例2では57.6、例3では165.2、例4では255.6、例5では201.3であった。」

「【図1】



(2) 実施可能要件の検討・判断

ア 本願発明について

本願発明において、発泡体基材については、「ポリオレフィン系発泡体基材であり」、「前記発泡体基材は、10%圧縮強度C_(10)[kPa]と30%圧縮強度C_(30)[kPa]との関係が次式:(C_(30)/C_(10))≦5.0;を満たし、前記発泡体基材の密度Dは0.35?0.7g/cm^(3)であり」と特定され、
また、粘着シートについては、「発泡体基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有する」ものであって、「前記粘着シートの100%モジュラスMが8.0N/mm^(2)基材以下であり」と特定され、
さらに、当該発泡体基材と当該粘着シートについては、「前記粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と前記発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が9.0≦(M/D)≦20を満たす」と特定されている。
ここで、上記発明特定事項における「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」は、すべて発泡体基材の特性を表すものであり、その材質・構造などとが密接不可分なパラメーターであると認められる。

イ 本願発明の発泡体基材の製造あるいは入手に関する記載について

これに対して、実施例において、本願発明に対応する発泡体基材として使用されているものは、上記【0119】?【0139】に記載されたとおり、例1における「基材1A」、例3における「基材2A」、及び例5における「基材4A」である。
そして、これらの「基材1A」、「基材2A」、及び「基材4A」の発泡体基材は、それぞれ、「両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.15mm、密度0.56g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))167kPa、25%圧縮強度(C_(25))468kPa、30%圧縮強度(C_(30))627kPa、平均気泡径55μm)」、「両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.15mm、密度0.37g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))34kPa、25%圧縮強度(C_(25))92kPa、30%圧縮強度(C_(30))117kPa、平均気泡径90μm;以下「基材2A」という。)」、及び「両面にコロナ放電処理が施されたポリエチレン系発泡体シート(厚さ0.08mm、密度0.56g/cm^(3)、10%圧縮強度(C_(10))148kPa、25%圧縮強度(C_(25))448kPa、30%圧縮強度(C_(30))617kPa、平均気泡径55μm;以下「基材4A」という。)」であることがわかるだけであって、実施例におけるその他の記載をみても、「基材1A」、「基材2A」、及び「基材4A」の具体的な製造方法、または、製品名・商品名等についての記載はなく、本願明細書には、各種のパラメーターが示されているだけである。
また、本願明細書の実施例以外の記載を参照しても、【0036】、及び【0037】に、「プラスチック発泡体の具体例としては、ポリエチレン製発泡体、ポリプロピレン製発泡体等のポリオレフィン系樹脂製発泡体・・・(中略)・・・を用いてもよい。」、「ポリオレフィン系発泡体を構成するプラスチック材料(すなわちポリオレフィン系樹脂)としては、公知または慣用の各種ポリオレフィン系樹脂を特に限定なく用いることができる。例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。LLDPEの例としては、チーグラー・ナッタ触媒系直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒系直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。このようなポリオレフィン系樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。」と記載されているだけであって、具体的な製品名・商品名等についての記載はなく、さらに、【0039】に、「上記プラスチック発泡体(典型的にはポリオレフィン系発泡体)の製造方法は特に限定されず、公知の各種方法を適宜採用し得る。例えば、上記プラスチック材料、もしくは上記プラスチック発泡体の成形工程、架橋工程および発泡工程を含む方法により製造し得る。また、必要に応じて延伸工程を含み得る。
上記プラスチック発泡体を架橋させる方法としては、例えば、有機過酸化物などを用いる化学架橋法、または電離性放射線を照射する電離性放射線架橋法などが挙げられ、これらの方法は併用され得る。上記電離性放射線としては、電子線、α線、β線、γ線などが例示される。電離性放射線の線量は特に限定されず、発泡体基材の目標物性(例えば架橋度)等を考慮して適切な照射線量に設定することができる。」と記載されているだけであって、その具体的な製造方法が記載されているともいえない。

そこで、本願明細書に接した当業者が、本願発明の詳細な説明の記載と技術常識から、本願発明にいう発泡体基材を製造できるものであるか否かを、さらに検討する。

ウ 本願発明の発泡体基材の入手可能性について

本願明細書の【0029】、【0019】、【0094】、【0007】、【0090】、【0091】には、それぞれ、「発泡体基材としては、10%圧縮強度C_(10)[kPa]と30%圧縮強度C_(30)[kPa]との関係が次式:(C_(30)/C_(10))≦5.0;を満たすものを好ましく採用することができる。」、「発泡体基材の密度Dは、・・・(中略)・・・0.7g/cm^(3)以下・・・(中略)・・・が好ましい。」、「粘着シートの100%モジュラスMは、・・・(中略)・・・8.0N/mm^(2)基材以下がより好ましい。」、「本明細書により提供されるひとつの粘着シートは、発泡体基材の少なくとも一方の面に粘着剤層を有し、上記粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と上記発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が9.0≦(M/D)を満たす。」、「ここに開示される技術の好ましい一態様に係る粘着シートは、該粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と、該粘着シートを構成する発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との関係が、9.0≦(M/D)を満たす。」、「M/Dが20以下であってもよく」と、好ましい範囲として記載されている(当審注:ただし、本願明細書には、「密度D」の下限値を「0.35g/cm^(3)」と特定することについての記載はない。)。

そして、発泡体基材の「圧縮強度」については、本願明細書の【0029】に、「発泡体基材の圧縮強度は、例えば、発泡体基材を構成する材料の架橋度や密度、気泡のサイズや形状等により制御することができる。」と記載されているものの、10%圧縮強度C_(10)[kPa]と30%圧縮強度C_(30)[kPa]との比「C_(30)/C_(10)」が如何なる値となるか、また大小何れの方向に触れるかは全く予測し得ない事項であり、発泡体基材を構成する材料の架橋度や密度、気泡のサイズや形状等をどのように調整するのか、その具体的な製造条件(成形工程、架橋工程および発泡工程)ついては、本願明細書に記載されていない。
また、発泡体基材を有する粘着シートの「100%モジュラスM」については、本願明細書の【0094】に、「粘着シートの100%モジュラスMは、例えば、発泡体基材の架橋度や密度(見掛け密度)、気泡のサイズや形状等により制御することができる。」と記載されているものの、発泡体基材の材料の架橋度や密度(見掛け密度)、気泡のサイズや形状等をどのように調整するのか、その具体的な製造条件(成形工程、架橋工程および発泡工程)ついては、本願明細書に記載されていない。
また、粘着シートの100%モジュラスM[N/mm^(2)基材]と発泡体基材の密度D[g/cm^(3)]との比「M/D」については、本願明細書の【0021】に、「平均気泡径を小さくすることは、上述したM/Dの値を大きくするひとつの手法としても有効となり得るので好ましい。平均気泡径の下限は特に限定されないが、耐衝撃性の観点から、通常は10μm以上が適当であり、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上(例えば50μm以上)がさらに好ましい。一態様において、平均気泡径は、55μm以上であってよく、60μm以上であってもよい。」と記載されているものの、「M/D」が如何なる値となるかについては、本願明細書に記載されてなく、その具体性を欠いている。
さらに、「C_(30)/C_(10)」と「M/D」との関連性について検討するに、「C_(30)/C_(10)」については、本願明細書の【0030】に、「圧縮強度比(C_(30)/C_(10))が小さいということは、圧縮の程度の違いが圧縮強度に及ぼす影響が小さいことを意味する。」と、また、「M/D」については、本願明細書の【0090】に、「粘着シートのM/Dが大きいということは、引張変形に対して該粘着シートが発泡体基材の密度の割に高い抵抗を示すことを意味する。ここで、粘着シートが引張応力により変形すると、一般に該粘着シートと被着体との接触面積(粘着面積)は減少する。細幅の粘着シートでは粘着面積が当初から小さいため、引張変形による粘着面積の減少が粘着性能に及ぼす影響が殊に大きくなる傾向にある。M/Dが大きい粘着シートは引張応力に対して粘着面積の減少が生じにくく、このことが細幅化による性能低下の程度の抑制に有利に寄与していると考えられる。」と記載されているが、下線部分に関して両者の関連性を見出すことが困難であり、どのような製造条件(成形工程、架橋工程および発泡工程)で、「C_(30)/C_(10)」と「M/D」の両者を満たすのか、さらには、「発泡体基材の密度D」、「粘着シートの100%モジュラスM」を含めた全てを満たす基材及び粘着シートを得るのか不明である。
したがって、どのような成形工程、架橋工程および発泡工程で行って、「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」を制御するかとか、一切不明であるため、当業者は、本願発明の発泡体基材、及び発泡体基材を有する粘着シートを入手するために、何らかの製造工程で発泡体基材、及び発泡体基材を有する粘着シートを製造した後、その「C_(30)」、「C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」を測定し、「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」が、それぞれ、「≦5.0」、「0.35?0.7g/cm^(3)」、「8.0N/mm^(2)基材以下」、及び「9.0≦」かつ「≦20」の範囲に同時に含まれるか否か確認するという作業を極めて多数の発泡体基材、及び発泡体基材を有する粘着シートについて繰り返し行わなくてはならない。
そうすると、当業者が、本願発明の発泡体基材、及び発泡体基材を有する粘着シートを製造して入手するためには、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。
よって、本願明細書は、当業者が実施できる程度の明確かつ十分に記載されたものとは認められない。

エ 審判請求人の主張等について

(ア) 審判請求人は、平成30年1月9日付け審判請求書第4頁、及び第5頁において、それぞれ、「当業者であれば、ポリオレフィン系発泡体基材を用いる構成において、本願明細書の記載および本願出願時の技術常識に基づいて、また必要に応じてポリオレフィン系発泡体に関する公知情報(例えば本願明細書中の特許文献1(国際公開第2013/154137号)や特許文献2(特開2013-213104号公報)、本願の対応国際出願の国際調査報告において一般的技術水準を示すものとして挙げられた国際公開第2015/029834号、特開2015-44888号公報等)を参照することにより、過度な負担なく本願発明を実施することができます。」、及び「当業者であれば、本願明細書の開示および本願出願時の技術常識に基づいて、通常の技術的手段を用いて通常の創作能力を発揮することにより(例えば、いくつかの確認実験を行って、それらの実験の間で異なる条件が上記(a)?(d)に及ぼす傾向およびその程度を検討することにより)、過度な試行錯誤を要することなく、上記(a)?(d)を同時に満足する粘着シートを得ることができます。」と主張している。
そこで、まず、上記公知情報の文献を参照するに、
本願明細書中の「特許文献1(国際公開第2013/154137号)」の[0033]?[0048]、[0084]?[0089]に、ポリオレフィン系樹脂発泡体(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び粘着テープ(本願発明の「粘着シート」に相当)の製造方法が、また、同じく[0099]?[0117]の実施例・比較例に、その具体的な製品・商品である積水化学工業株式会社製黒色ポリオレフィン系発泡体(1)?(12)(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び当該黒色ポリオレフィン系発泡体(1)?(12)を有する両面粘着テープ(本願発明の「粘着シート」に相当)が記載されているものの、それらの製造方法と上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターの関係が記載されているわけでなく、また、それら具体的な製品・商品が、上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターについて、本願発明の範囲を全て満たすものが記載されているものでもなく、
また、本願明細書中の「特許文献2(特開2013-213104号公報)」の【0027】?【0037】に、架橋ポリオレフィン樹脂発泡シート(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び粘着テープ(本願発明の「粘着シート」に相当)の製造方法が、また、同じく【0041】?【0044】の実施例・比較例には、実際に製造された「架橋ポリオレフィン樹脂発泡シート」が記載されているものの、それらの製造方法と上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターの関係が記載されているわけでなく、また、上記「架橋ポリオレフィン樹脂発泡シート」が、上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」のパラメーターについて、本願発明の範囲を全て満たすものが記載されているものでもなく、
また、本願の対応国際出願の国際調査報告において一般的技術水準を示すものとして挙げられた「国際公開第2015/029834号」の[0035]?[0036]、[0084]に、発泡体基材(A)(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び粘着シート(本願発明の「粘着シート」に相当)の製造方法が、また、同じく[0095]?[0134]の実施例・比較例に、黒色ポリオレフィン系発泡体(1)?(5)(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び当該黒色ポリオレフィン系発泡体(1)?(5)を有する両面粘着シート(本願発明の「粘着シート」に相当)が記載されているものの、それらの製造方法と上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターの関係が記載されているわけでなく、また、それら具体的なものが、上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターについて、本願発明の範囲を全て満たすものが記載されているものでもなく、
さらに、本願の対応国際出願の国際調査報告において一般的技術水準を示すものとして挙げられた「特開2015-44888号公報」の【0070】?【0085】、【0089】に、ポリオレフィン系樹脂発泡シート(本願発明の「ポリオレフィン系発泡体基材」に相当)、及び粘着テープ(本願発明の「粘着シート」に相当)の製造方法が、また、同じく【0104】?【0112】の実施例・比較例には、実際に製造された「ポリオレフィン系樹脂発泡シート」、及び「粘着テープ(粘着シート)」が記載されているものの、それらの製造方法と上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターの関係が記載されているわけでなく、また、それら具体的なものが、上記「C_(30)/C_(10)」、「密度D」、「100%モジュラスM」、及び「M/D」のパラメーターについて、本願発明の範囲を全て満たすものが記載されているものでもない。
したがって、本願発明の発泡体基材、及び発泡体基材を有する粘着シートを入手するために、当業者が過度の試行錯誤を要することは、上記公知情報の文献を参照しても、依然として上記イのとおりであるから、審判請求人の主張は認められない。

(イ) 審判請求人は、平成29年7月10日付け意見書第2頁において、「本願発明における圧縮強度比(C_(30)/C_(10))は、ポリオレフィン系発泡体基材の圧縮率と圧縮強度との関係を表しています。より詳しくは、圧縮強度比(C_(30)/C_(10))は、圧縮率10%?30%の範囲において圧縮率を横軸、圧縮強度を縦軸とするグラフの傾きに該当します。一般に、発泡体基材の圧縮率が高くなるにつれて圧縮強度は上昇するところ、圧縮率の低い領域では、圧縮強度は気泡径の影響を比較的大きく受ける傾向にあります。その理由は、圧縮率が低い領域では、気泡径の大きい発泡体は気泡体積の縮小(気泡内のガスの圧縮)によって圧縮応力を吸収しやすいことから圧縮強度は低くなる傾向にある一方、気泡径の小さい発泡体は気泡体積が少し縮小するだけで該気泡内のガス圧が大きく上昇するため圧縮応力を吸収する余地が少なく圧縮強度が高くなる傾向にあるためです。これに対して、圧縮率が高くなると、気泡径の影響(気泡内のガスの圧縮されやすさの違い)に比べて発泡体基材自体の変形しやすさ(架橋度や密度等)の影響のほうが圧縮強度によく反映されるようになります。その結果、気泡径が大きい発泡体では、気泡径の小さい発泡体に比べて、圧縮率10%?30%の範囲における圧縮率対圧縮強度のグラフの傾き(すなわち(C_(30)/C_(10)))は大きくなる傾向にあります。つまり、圧縮強度比(C_(30)/C_(10))はポリオレフィン系発泡体基材の気泡サイズ、架橋度、密度等により調節することができ、当業者は本願明細書の[0029]等の記載および本願出願時の技術常識に基づいてそのことを理解することができます。」と述べているが、本願明細書には、気泡径とM/Dの関連が記載されているものの、気泡径と圧縮強度比(C_(30)/C_(10))との関連性については、具体的な記載はなく、また、仮に、上記意見書の内容を踏まえたとしても、ポリオレフィン系発泡体基材の気泡サイズ、架橋度、密度等をどのように調整して「C_(30)/C_(10)」を調整するのか不明であることから、上記意見書の記載も採用することはできない。

(3) 小括

したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度の明確かつ十分に記載されたものとは認められないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび

以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-19 
結審通知日 2018-02-22 
審決日 2018-03-06 
出願番号 特願2016-112701(P2016-112701)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 國島 明弘
原 賢一
発明の名称 粘着シート  
代理人 谷 征史  
代理人 大井 道子  

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