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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 F01N
管理番号 1339772
審判番号 不服2017-9718  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-03 
確定日 2018-05-15 
事件の表示 特願2015-106647「還元剤インジェクタ用ガスケット及びそれを備えた排気ガス後処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月22日出願公開、特開2016-217337、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月26日の出願であって、平成28年12月20日付けで拒絶理由の通知がされ、その指定期間内である平成29年3月8日に手続補正がされたが、同年3月31日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年4月4日、以下「原査定」という。)、これに対し、同年7月3日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の理由の概要
原査定(平成29年3月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明を対比すると、引用文献1に記載の断熱空間は密閉空間であるのに対し、請求項1に係る発明の断熱空間は第1プレートと第2プレートとの間の隙間を通して側方が開放されて外気と連通している点(以下、「相違点1」という。)、及び引用文献1記載の断熱材は第1、第2プレートに形成された開口を囲む領域に形成されているのに対し、請求項1に係る発明の断熱材は第1、第2プレートに形成された開口に加えて第1ボルト挿入孔及び第2ボルト挿入孔を囲む領域にも形成されている点(以下、「相違点2」という。)で、両者は相違している。
まず、相違点1について検討すると、引用文献2には、断熱空間を外部空間に連通させる構成が記載されており、引用文献1記載の断熱空間と引用文献2記載の断熱空間とは、いずれもインジェクタとインジェクタ取付部との間に形成されるものである点で、作用・機能が共通しているから、引用文献1記載の断熱空間を、引用文献2を参酌し、外部空間に連通する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。そしてその際、外部空間に連通させる具体的な連通箇所を、第1プレートと第2プレートとの間とすることは、当業者にとっては技術の具体的適用に伴う単なる設計変更に過ぎない。
次に、相違点2について検討すると、引用文献1記載の断熱材84は、インジェクタとインジェクタ取付部との間に配設されることで両者間の熱移動を抑えるためのものであることは明らかである。そして、インジェクタとインジェクタ取付部との接触は、第1、第2プレートに形成された開口81A、82A部分と、両者を固定するボルト7が貫通する貫通孔8A部分に生じ、このような接触部分が熱移動の最も多い部分であることは、自明な事項といえる。してみれば、引用文献1記載の断熱材を、ボルト挿入孔部分にも設ける程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。

したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

また、本願の請求項2及び3に係る発明も、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特許第5349715号公報
2.特開2008-14213号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1の「断熱材」について「シート状の」という事項を追加する補正、同じく、「隙間」について「シート状の断熱材の厚さに相当する」という事項を追加する補正、「外周」について「の略全体」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、これらの事項は当初明細書の段落【0027】、図1及び4に記載されているから、いわゆる新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし3に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成29年7月3日の手続補正で補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
フィルタ装置と、ミキシング装置とを接続する接続管のインジェクタ取付部に取り付けられる還元剤インジェクタ用ガスケットにおいて、
上記インジェクタ取付部の取付面に当接し、該取付面のインジェクタ挿入用開口に対応する第1開口及び還元剤インジェクタを取り付ける取付ボルトが挿入される第1ボルト挿入孔を有する第1プレートと、
上記還元剤インジェクタ側に配置され、上記インジェクタ挿入用開口に対応する第2開口及び上記取付ボルトが挿入される第2ボルト挿入孔を有する第2プレートと、
上記第1プレートと上記第2プレートとの間に形成された断熱空間と、
上記第1プレートと上記第2プレートとの間に挟持され、上記第1開口及び第2開口を囲む環状の本体部並びに上記第1ボルト挿入孔及び上記第2ボルト挿入孔を囲む環状のボルト挿入部を有するシート状の断熱材とを備え、
上記還元剤インジェクタが上記インジェクタ取付部に取り付けられた状態で、上記断熱空間は、上記断熱材の外周に設けられ、上記第1プレートと上記第2プレートとの間の上記シート状の断熱材の厚さに相当する隙間を通して側方が開放されて外気と連通し、断熱材の外周の略全体が外気に触れる構成となっている
ことを特徴とする還元剤インジェクタ用ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の還元剤インジェクタ用ガスケットにおいて、
上記断熱材は、上記本体部と上記ボルト挿入部とが連結されて一体成形されていることを特徴とする還元剤インジェクタ用ガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の還元剤インジェクタ用ガスケットを備えたことを特徴とする排気ガス後処理装置。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「排気ガス後処理装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)

ア 「【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の提案では、インジェクタを排気管に固定するためのボルトの先端が排気管の内部に露出するまで貫通している可能性があり、排気ガスに直接触れる構造になっている。このため、熱対策が十分とはいえず、排気ガスの熱がボルトを通してインジェクタに伝達され、その熱によってインジェクタ内の尿素水溶液が変質等し、悪影響を及ぼすという問題がある。」

イ 「【0008】
本発明の目的は、簡易な構造でインジェクタの噴射ノズル周辺での尿素水溶液の滞留を抑制できるとともに、インジェクタへの熱伝達をも確実に抑制できる還元剤水溶液ミキシング装置およびこれを備えた排気ガス後処理装置を提供することにある。」

ウ 「【0024】
図1において、排気ガス後処理装置1は、排気ガスの流れ方向における上流側から順に、フィルタ装置としてのディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(Diesel particulate filter;以下「DPF」と記す)装置2と、還元剤水溶液ミキシング装置(以下、ミキシング装置と略す)3と、選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction;以下「SCR」と記す)装置4とを備える。これらの装置2?4は、図示しないディーゼルエンジンからの排気ガスが流通する排気管の途中に設けられる。また、油圧ショベルやホイールローダ、ブルドーザといった建設機械の場合、排気ガス後処理装置1がエンジンと共にエンジンルーム内に収容される。」

エ 「【0026】
ミキシング装置3は、排気ガス中に還元剤水溶液としての尿素水溶液を添加するものである。このようなミキシング装置3は、DPF装置2の出口管23に接続され、DPF装置2から流出した排気ガスの流れ方向を略90°変更するエルボー管としての上流側エルボー管31と、上流側エルボー管31の下流端に接続され、DPF装置2の出口管23の軸線CL2(図2)と交差する方向に延びるストレート管32と、ストレート管32の下流端に接続され、ストレート管32からの排気ガスの流れ方向をさらに略90°変更する下流側エルボー管33と、上流側エルボー管31に取り付けられ、ストレート管32に向かって上流側エルボー管31内部に尿素水溶液を噴射するインジェクタ5とを備える。下流側エルボー管33のさらに下流端にSCR装置4が接続される。」

オ 「【0030】
図2には、ミキシング装置3の断面図が示されている。図2に基づき、ミキシング装置3を説明する。
図2に示すミキシング装置3おいて、上流側エルボー管31で排気ガスの流れ方向を変える部分は、方向変換部31Aとされている。上流側エルボー管31は、DPF装置2の出口管23(図1)側に開口して接合される円形の入口部31Bと、ストレート管32側に開口して接続される円形の出口部31Cとを備え、これらの間に方向変換部31Aを有する。上流側エルボー管31の方向変換部31Aの外側には、インジェクタ取付部6が設けられている。このインジェクタ取付部6には、外側からインジェクタ5が取り付けられ、内側(方向変換部31Aの内部側)からミキシングパイプ34が取り付けられる。インジェクタ5の噴射ノズル51、ミキシングパイプ34はそれぞれ、ストレート管32の軸線CL1上に配置されている。」

カ 「【0045】
ガスケット8は、図3、図4A、図4Bに示すように、インジェクタ取付部6の取付面6Aに当接され、噴射開口6Bに対応した内側開口81Aを有する内側プレート81と、インジェクタ5が当接され、噴射開口6Bに対応した外側開口82Aを有する外側プレート82と、内側プレート81および外側プレート82の外周側で挟持される環状の外周側支持リング83と、内側プレート81の内側開口81Aの周囲および外側プレート82の外側開口82Aの周囲回で挟持される環状の内周側断熱リング84とを備える。
【0046】
ガスケット8には、ボルト7が貫通する貫通孔8Aが設けられている。貫通孔8Aは、内外の各プレート81,82および外周側支持リング83を貫通している。ここで、各プレート81,82および外周側支持リング83は金属製であり、ボルト7の締付時に作用する軸力を確実に受けることが可能である。一方、内周側断熱リング84は、断熱性を有した材料からなる。
【0047】
このようなガスケット8はさらに、各プレート81,82および各リング83,84で囲まれた空間がガスケット側断熱空間85となり、断熱層として機能する。このため、ガスケット8自身が熱伝達を抑制することとなり、この点でも、インジェクタ取付部6側からインジェクタ5へ熱が伝達されるのを抑えることができる。」

キ 図3及び図4Aからみて、「内周側断熱リング84」は内側開口81A及び外側開口82Aを囲む環状のシート状の部材であることが理解できる。

ク 図4A及び図4Bからみて、「ガスケット側断熱空間85」は、「内周側断熱リング84」の外周に設けられたことが理解できる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1に則って整理すると、引用文献1には、「ガスケット8」に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「DPF装置2と、ミキシング装置3とを接続する上流側エルボー管31のインジェクタ取付部6に取り付けられるガスケット8において、
上記インジェクタ取付部6の取付面6Aに当接し、該取付面6Aの噴射開口6Bに対応する内側開口81A及びインジェクタ5を取り付けるボルト7が挿入される貫通孔8Aを有する内側プレート81と、
上記インジェクタ5側に配置され、上記噴射開口6Bに対応する外側開口82A及び上記ボルト7が挿入される貫通孔8Aを有する外側プレート82と、
上記内側プレート81と上記外側プレート82との間に形成されたガスケット側断熱空間85と、
上記内側プレート81と上記外側プレート82との間に挟持され、上記内側開口81A及び外側開口82Aを囲む環状のシート状の内周側断熱リング84とを備え、
上記インジェクタ5が上記インジェクタ取付部6に取り付けられた状態で、上記ガスケット側断熱空間85は、上記内周側断熱リング84の外周に設けられた
ガスケット8。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、「排気処理装置」に関して、図面(特に、図4参照)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0068】
また、テーパー部材124を配設することにより、メイン噴射弁76から噴射される噴霧53の噴孔を煙道52から離れた位置に配設することができ、煙道52内を流れる排気14の熱による影響を低減できる。さらに、排気14からメインホルダー78への熱伝達される熱量を低減する目的で、メインホルダー78とテーパー部材124の間に断熱空間107を形成している。断熱空間107は、テーパー部材124の外壁の一部とメインホルダー78のホルダー内筒90の外壁の一部で形成されている。また、ホルダー内筒90に形成された突起122は、テーパー部材124と接触せず、環状の狭い隙間120を形成し、断熱空間107とテーパー部材124の内部空間及び煙道52内は連通した構成である。これによって、テーパー部材124からホルダー内筒90に形成された突起122への熱伝導が抑制されるため、突起122内に配設されるメイン噴射弁76のノズル温度の昇温を抑制できる。
【0069】
ここで、テーパー部材124と突起122が接する構造の場合、高温の排気14からの熱が煙道52へ熱伝達されたのちに煙道52の壁面を熱伝導し、テーパー部材124を介して、ホルダー内筒90の突起122に熱伝導される。そして、ホルダー内筒90の突起122周辺の温度が上昇するため、メイン噴射弁76のノズル先端部が昇温される。これにより、ノズル内の尿素水温度が昇温されて尿素水が沸騰することによる尿素の析出が懸念される。また、断熱空間107が密閉空間であり、密閉空間内に空気が充填されていたとすれば、排気14温度の昇温に伴い、密閉空間内の空気が膨張するために圧力が上昇し、密閉空間内に無駄な力が発生するために安全性の面から好ましくない。このことから、環状隙間120を形成できない場合でも、例えば、小さな穴を開けて排気14内部もしくは外部と連通させておくことが好ましい。」

これらの記載事項及び図面の図示内容からみて、引用文献2には、「断熱空間107」に関して、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「断熱空間107は、小さな穴を開けて外部と連通しているメイン噴射弁76。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「DPF装置2」は前者の「フィルタ装置」に相当し、以下同様に、「ミキシング装置3」は「ミキシング装置」に、「上流側エルボー管31」は「接続管」に、「インジェクタ取付部6」は「インジェクタ取付部」に、「噴射開口6B」は「インジェクタ挿入用開口」に、「ガスケット8」は「還元剤インジェクタ用ガスケット」に、「インジェクタ取付部6の取付面6A」は「インジェクタ取付部の取付面」に、「内側開口81A」は「第1開口」に、「インジェクタ5」は「還元剤インジェクタ」に、「ボルト7」は「取付ボルト」に、「貫通孔8A」は「第1ボルト挿入孔」又は「第2ボルト挿入孔」に、「内側プレート81」は「第1プレート」に、「外側開口82A」は「第2開口」に、「外側プレート82」は「第2プレート」に、「ガスケット側断熱空間85」は「断熱空間」に、「環状のシート状の内周側断熱リング84」は「環状の本体部を有するシート状の断熱材」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「フィルタ装置と、ミキシング装置とを接続する接続管のインジェクタ取付部に取り付けられる還元剤インジェクタ用ガスケットにおいて、
上記インジェクタ取付部の取付面に当接し、該取付面のインジェクタ挿入用開口に対応する第1開口及び還元剤インジェクタを取り付ける取付ボルトが挿入される第1ボルト挿入孔を有する第1プレートと、
上記還元剤インジェクタ側に配置され、上記インジェクタ挿入用開口に対応する第2開口及び上記取付ボルトが挿入される第2ボルト挿入孔を有する第2プレートと、
上記第1プレートと上記第2プレートとの間に形成された断熱空間と、
上記第1プレートと上記第2プレートとの間に挟持され、上記第1開口及び第2開口を囲む環状の本体部を有するシート状の断熱材とを備え、
上記還元剤インジェクタが上記インジェクタ取付部に取り付けられた状態で、上記断熱空間は、上記断熱材の外周に設けられた
還元剤インジェクタ用ガスケット。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明1は、「断熱材」が第1開口及び第2開口を囲む環状の本体部「並びに上記第1ボルト挿入孔及び上記第2ボルト挿入孔を囲む環状のボルト挿入部」を有するのに対し、
引用発明は、「断熱材」が第1開口及び第2開口を囲む環状の本体部に相当する「内周側断熱リング84」のみを有し、「上記第1ボルト挿入孔及び上記第2ボルト挿入孔を囲む環状のボルト挿入部」を有していない点。

〔相違点2〕
本願発明1は、断熱空間は「上記第1プレートと上記第2プレートとの間の上記シート状の断熱材の厚さに相当する隙間を通して側方が開放されて外気と連通し、断熱材の外周の略全体が外気に触れる構成となっている」のに対し、
引用発明は、ガスケット側断熱空間85がそのような構成を備えていない点。

(2)判断
そこで、相違点について検討する。
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、本願発明1は、「ガスケット内断熱空間が閉じられているので、内部に熱が滞留してしまって冷却効率が悪くなる」(本願明細書の段落【0006】)ことを課題とし、当該課題を解決するために「第1プレートと第2プレートとの間のシート状の断熱材の厚さに相当する隙間を通して側方が開放されて外気と連通し、断熱材の外周の略全体が外気に触れる構成」とするものである。
他方、引用文献1には、「排気ガスの熱がボルトを通してインジェクタに伝達され、その熱によってインジェクタ内の尿素水溶液が変質等し、悪影響を及ぼす」こと(段落【0006】)、「インジェクタへの熱伝達をも確実に抑制できる還元剤水溶液ミキシング装置およびこれを備えた排気ガス後処理装置を提供すること」(段落【0008】)が課題として記載されているが、本願発明1の「ガスケット内断熱空間が閉じられているので、内部に熱が滞留してしまって冷却効率が悪くなる」ことは課題として記載されていない。そして、本願発明1の当該課題は、当業者にとって自明ないし周知のものでもない。

次に、断熱空間が外気と連通することに関して、引用発明2を検討する。
引用発明2は、断熱空間を外部と連通させるための「小さな穴」を有する構成を備えているが、その目的は、「断熱空間107が密閉空間であり、密閉空間内に空気が充填されていたとすれば、排気14温度の昇温に伴い、密閉空間内の空気が膨張するために圧力が上昇し、密閉空間内に無駄な力が発生するために安全性の面から好ましくない。」(段落【0069】)との課題を解決するためのものであり、本願発明1のように「ガスケット内断熱空間が閉じられているので、内部に熱が滞留してしまって冷却効率が悪くなる」ことを課題とするものではない。
引用発明2は、断熱空間を密閉空間内の空気が膨張するために圧力が上昇しないように、外部と連通させるための「小さな穴」を設けたものであるから、冷却効率が悪くなることを防止するために設けられた、本願発明1の「第1プレートと第2プレートとの間のシート状の断熱材の厚さに相当する隙間」とは構成としても相違する。
そうしてみると、引用発明及び引用発明2に基づいて、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 むすび
以上により、本願発明1ないし3は、いずれも、引用発明及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-02 
出願番号 特願2015-106647(P2015-106647)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01N)
P 1 8・ 575- WY (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石川 貴志  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 還元剤インジェクタ用ガスケット及びそれを備えた排気ガス後処理装置  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  

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