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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28D
管理番号 1339889
審判番号 不服2017-3924  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-17 
確定日 2018-05-02 
事件の表示 特願2012-186409号「全熱交換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月13日出願公開,特開2014- 43999号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 経緯の概略
本願は,平成24年8月27日の出願であって,その経緯は,概ね次のとおりである。
平成28年 4月27日 拒絶理由通知書
平成28年 7月 7日 意見書,手続補正書
平成28年12月 8日 拒絶査定
平成29年 3月17日 拒絶査定不服審判請求書

第2 本願発明について
本願の請求項1?10に係る発明は,平成28年7月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるが,そのうち請求項1,10に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」,「本願発明10」という。)は,以下の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
ライナー部材とコルゲート部材とからなる片面ダンボールシートの複数を,前記片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層した全熱交換素子であって,前記コルゲート部材が厚さ30μm以上100μm以下の二軸延伸フィルムからなり,前記ライナー部材の透湿度が70?91g/m^(2)/hrであることを特徴とする全熱交換素子。
【請求項10】
ライナー部材とコルゲート部材とからなる片面ダンボールシートの複数を,前記片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層した全熱交換素子であって,前記コルゲート部材が厚さ30μm以上100μm以下の二軸延伸フィルムからなり,前記ライナー部材は熱可塑性樹脂からなるナノファイバーを含み,前記ライナー部材は紙であることを特徴とする全熱交換素子。

第3 拒絶理由の概要
拒絶査定における拒絶理由(理由3)の概要は,次のとおりである。すなわち,本願発明1,10は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用例に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用例)
引用例1:.実願昭55-160199号(実開昭57-082673号)のマイクロフィルム
引用例2:特開昭59-156745号公報
引用例3:特開平10-156940号公報
引用例4:特開2010-248680号公報
引用例5:特開2008-190816号公報

第4 引用例に記載された事項
1 引用例1について
(1) 引用例1には,以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様。)。
・「(1)薄膜材を波形に折り曲げ,仕切板を介してこれを複数枚互いに稜線が交差する様に積層して熱交換エレメントを形成し,該エレメントを挿設したときその開口側に夫々区画された分室を形成する様な箱体に該エレメントを納めると共に,該箱体の周壁には,各分室毎に開口する唯一の連結開口部を形成したことを特徴とする組合せ交差型熱交換器」(明細書1頁5?12行)
・「隔板式熱交換器のエレメントとして第2図(見取図)に示す様な直交流型エレメント部材1が多く利用される。この様なエレメント1としては,薄膜材等を山形,鋸歯形,凹凸形或は波形(以下波形と総称し図も波形のものを示す)に屈曲若しくは折り曲げ或は成形加工して第1図に示す様な波形材を形成して適当に裁断する。そして該波形材2の片面に仕切板3を貼着し,各波形材2の稜線を互いに直交(図示)或は斜交させる様にこれらを積層し,必要によつてはこれらを4隅枠等に入れてエレメント1を構成する。また薄膜材としては,金属板,熱可塑性合成樹脂フイルム,シート,紙等の繊維材の圧着シートなどが適当であるが,特に熱可塑性合成樹脂フイルムが製造の容易さ,価格,取り扱い易さの点で好ましい。またこの様なフイルムとしては,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリカーボネート,ポリ塩化ビニル,脂肪族ポリアミド,ポリアクリロニトリルなどの熱可塑性合成樹脂が選択されるが,本考案熱交換器を有機溶媒の産業用ガスの冷却などに使用する場合は,耐薬品性のすぐれたものがよい。又フイルムは透明フイルムであつても不透明であつてもよいが二軸延伸されている方が強度の点で好ましい。またフイルムの厚みは12μ?150μが適当であり,好ましくは50μ?100μである。・・・この様な熱交換ユニツト1では,前記波形材2と仕切板3とによつて夫々独立して貫通する通路4が形成され,該通路4は各段毎に夫々交差すると共にその両端側に開口部を形成している。一方熱交換を行なうに当つては,第2図に示す如く高温流体(黒矢印)と低温流体(白矢印)とが交差して流れ,仕切板3を介して熱移動が行なわれる。尚流体としては液体や気体は勿論のことこれらの混合流体を利用する場合もあり,前記エレメント構成材料は,これらの流体に対して安定な材料が選択される。」(同1頁下から1行?4頁7行)
(2) 引用例1に記載された発明
引用例1の前記記載及び図面の記載によれば,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「薄膜材を波形に屈曲若しくは折り曲げ或は成形加工した波形材2の片面に,仕切板3を貼着し,各波形材2の稜線を互いに直交或いは斜交させる様に積層して構成した直交流型エレメント部材1であって,薄膜材が,厚みが12μ?150μ,好ましくは50μ?100μの二軸延伸されている熱可塑性合成樹脂フィルムからなる,隔板式熱交換器のための直交流型エレメント部材1」

2 引用例4に記載された事項
引用例4には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】
セルロースパルプと熱可塑性高分子のナノファイバーとを含むことを特徴とする全熱交換用原紙。
・・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の全熱交換用原紙を用いたことを特徴とする全熱交換用素子。」
・「【0001】
本発明は,主として空調分野に利用される全熱交換換気設備に関する。」
・「【0002】
室内外の空気の顕熱(熱)と潜熱(湿度)を交換しながら換気をする全熱交換換気設備は,省エネルギーの担い手として,オフィスビルはじめ工場に至る各種建築に普及している。最近では,改正省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律)をはじめとする各種省エネルギー促進施策の高まりを受け,これまでの普及の中心であった大型建築物(床面積2000m^(2)以上)だけでなく,新たに中小ビル・店舗向け普及が加速すると期待され,全熱交換器のコンパクト化要求が高まっている。また,多様な中小ビル・店舗の使用環境で,長期にわたり性能を維持することも,重要な要求項目である。」
・「【0015】
本発明によれば,伝熱性と透湿性と気体遮蔽性に優れ,様々な使用環境で長期にわたり使用可能な全熱交換用原紙および全熱交換素子を提供することができる。」
・「【0017】
本発明の全熱交換用原紙はセルロースパルプと熱可塑性高分子のナノファイバーとを含むことが必要である。水蒸気分圧の異なる空間が,材料で仕切られているとき,水蒸気は,材料中を通り,水蒸気分圧の高いほうから低いほうへ移行していく。その際,材料内部の微細空隙において,凝集と蒸散を繰り返すとされる。そのような凝集と蒸散は毛細管現象が大きく寄与する。本発明の全熱交換用原紙は,図1に示すようにセルロースパルプが重なりあうことにより生じるわずかな空間にナノファイバーが入り込んだ構成になっており,このような構成にすることで毛細管現象を促進することができる。走査型電子顕微鏡で断面を観察した場合,パルプの一部がフィブリル化しただけであれば隙間の空間に存在する繊維の形態ははっきりしない不定形であるが,本発明において入り込んだナノファイバーはそれとははっきりと区別でき,特徴的な構成を有していることが確認できる。また,ナノファイバーはナノ径を有する微細な繊維であるため,セルロースパルプの緻密性及び気体遮蔽性を阻害することもない。さらに,熱可塑性高分子材料であるので,セルロースのように,湿潤時,強度が大きく低下することがない。そのため,本発明の全熱交換用原紙は長期にわたり,全熱交換素子の安定した寸法安定性を保つことができる。」
・「【0025】
本発明の全熱交換用原紙の透湿度としては,1500?4000g/m^(2)/24hrの範囲であることが好ましい。1500g/m^(2)/24hr以上であると全熱交換素子として用いたときに湿度の交換性能が高く,優れた全熱交換性能を発現することができる。一方で4000g/m^(2)/24hrを越えると空気中の湿度を吸湿して,原紙の膨潤や収縮により,製造時の取扱いや製品使用時の寸法安定性に劣るといった問題が懸念される。より好ましい範囲としては,1800?3000g/m^(2)/24hrである。」
・「【0035】
本発明の熱交換素子は,本発明の熱交換用原紙とコルゲート加工した坪量20?200g/m^(2)のセルロースや合成繊維を主成分とする抄紙を接着剤等で貼り合わせ,片面コルゲートを得る。さらに,片面コルゲートの段目方向が一段づつ交差するように積層し,全熱交換素子を作製する。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「仕切板3」,「波形材2」は,それぞれ,本願発明1の「ライナー部材」,「コルゲート部材」に相当し,引用発明の「仕切板3」,「波形材2」を併せたものは,構造上,本願発明1の「片面ダンボールシート」に相当する。
引用発明の「直交流型エレメント部材1」は,「仕切板3」及び「波形材2」を,各波形材2の稜線を互いに直交或いは斜交させる様に積層して構成したものであるから,本願発明1と同様に,片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層したものであるといえるとともに,隔板式熱交換器のためのものであるから,本願発明1の「全熱交換素子」とは,熱交換器の熱交換に係る素子である点で共通する。
また,引用発明の「波形材2」は,本願発明1の「コルゲート部材」と同様に,二軸延伸フィルムからなり,その厚さは,本願発明1と重複する。
そうすると,本願発明1と引用発明とは,以下の点で一致し,相違するといえる。
(一致点)
「ライナー部材とコルゲート部材とからなる片面ダンボールシートの複数を,前記片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層した熱交換器の熱交換に係る素子であって,前記コルゲート部材が厚さ30μm以上100μm以下の二軸延伸フィルムからなる素子。」
(相違点1)
本願発明1は「全熱交換素子」であって,「ライナー部材の透湿度が70?91g/m^(2)/hrである」のに対し,引用発明の「直交流型エレメント部材1」は,全熱交換用の素子であるか不明で,「仕切板3」の透湿度も不明である点。
(2) 判断
前記相違点1についてみるに,引用例1には,熱交換に係る流体として,気体を利用することが記載されている(明細書4頁4?7行(前記第4・1(1)))。
また,「室内外の空気の顕熱(熱)と潜熱(湿度)を交換しながら換気をする全熱交換換気設備は,省エネルギーの担い手として,オフィスビルはじめ工場に至る各種建築に普及している。」(引用例4【0002】(前記第4・2))ところ,ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層した態様の全熱交換素子は,本願明細書に開示された【特許文献1】(特開2001-241867号公報),【特許文献2】(特開平6-109395号公報),【特許文献3】(国際公開第2008/139560号)にも記載されているように,広く知られ,技術常識であるといえるものである。
さらに,引用発明の波形材2は,顕熱交換,全熱交換のいずれであっても同様に機能することは技術的に明らかであるから,引用発明が全熱交換素子として利用可能であることは,当業者であれば引用例1の記載から容易に理解できる。
そして,引用例4には,伝熱性と透湿性と気体遮蔽性に優れ,様々な使用環境で長期にわたり使用可能な全熱交換素子のライナー部材として,透湿度が,1500?4000g/m^(2)/24hr(=62.5?167g/m^(2)/hr),好ましくは,1800?3000g/m^(2)/24hr(=75?125g/m^(2)/hr)である,セルロースパルプと熱可塑性高分子のナノファイバーとを含むものが記載されている(前記第4・2)。
そうすると,引用発明において,仕切板3として,引用例4に記載された当該ライナー部材を採用し,全熱交換素子を構成すること,すなわち,前記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものと認められる。
本願発明1の奏する効果をみても,引用発明及び引用例4に記載された事項から当業者であれば十分予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。
(3) 審判請求人は,引用例1に記載の発明は,全熱交換素子ではない,湿度の交換については何ら想定されていないから,仕切板に代えて,引用例4に記載のライナー部材(全熱交換用原紙)を用いることの動機付けは存在しない,などと主張している(審判請求書4?5頁)。
しかしながら,既に述べたように,引用発明が全熱交換素子として利用可能であることは,当業者であれば引用例1の記載から容易に理解できる。
また,審判請求人は,引用例1に記載の熱交換素子(熱交換エレメント)は,流体として,気体のみならず,液体も扱えるものであることが開示されているから,引用例4に記載の透湿度に優れるライナー部材(全熱交換用原紙)を用いることについて阻害要因があるとも主張しているが(同5頁),利用可能な流体の例示にとどまり,引用例1には気体を利用することが記載されているのであるから,この点は,引用発明1を全熱交換素子として利用することを妨げるような事情ではない。
(4) 以上のとおりであるから,本願発明1は,引用発明及び引用例4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本願発明10について
(1) 対比
本願発明10と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「仕切板3」,「波形材2」は,それぞれ,本願発明10の「ライナー部材」,「コルゲート部材」に相当し,引用発明の「仕切板3」,「波形材2」を併せたものは,構造上,本願発明10の「片面ダンボールシート」に相当する。
引用発明の「直交流型エレメント部材1」は,「仕切板3」及び「波形材2」を,各波形材2の稜線を互いに直交或いは斜交させる様に積層して構成したものであるから,本願発明10と同様に,片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層したものであるといえるとともに,隔板式熱交換器のためのものであるから,本願発明10の「全熱交換素子」とは,熱交換器の熱交換に係る素子である点で共通する。
また,引用発明の「波形材2」は,本願発明10の「コルゲート部材」と同様に,二軸延伸フィルムからなり,その厚さは,本願発明10と重複する。
そうすると,本願発明10と引用発明とは,以下の点で一致し,相違するといえる。
(一致点)
「ライナー部材とコルゲート部材とからなる片面ダンボールシートの複数を,前記片面ダンボールシートの向きを交互に交差させて積層した熱交換器の熱交換に係る素子であって,前記コルゲート部材が厚さ30μm以上100μm以下の二軸延伸フィルムからなる素子。」
(相違点2)
本願発明10は「全熱交換素子」であって,「ライナー部材は熱可塑性樹脂からなるナノファイバーを含み」,「ライナー部材は紙である」のに対し,引用発明の「直交流型エレメント部材1」は,全熱交換用の素子であるか不明で,「仕切板3」の詳細も不明である点。
(2) 判断
前記相違点2についてみるに,既に述べたように,引用発明が全熱交換素子として利用可能であることは,当業者であれば引用例1の記載から容易に理解できる(前記1(2))。
そして,引用例4には,伝熱性と透湿性と気体遮蔽性に優れ,様々な使用環境で長期にわたり使用可能な全熱交換素子のライナー部材として,透湿度が,1500?4000g/m^(2)/24hr(=62.5?167g/m^(2)/hr),好ましくは,1800?3000g/m^(2)/24hr(=75?125g/m^(2)/hr)である,セルロースパルプと熱可塑性高分子のナノファイバーとを含むものが記載されている(前記第4・2)。
そうすると,引用発明において,仕切板3として,引用例4に記載された当該ライナー部材を採用し,全熱交換素子を構成すること,すなわち,前記相違点2に係る本願発明10の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものと認められる。
本願発明10の奏する効果をみても,引用発明及び引用例4に記載された事項から当業者であれば十分予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。
(3) 審判請求人は,本願発明1と同様の理由により,引用例1に記載の発明において,引用例4に記載のライナー部材(全熱交換用原紙)を用いることの動機付けは存在しない,と主張している(審判請求書9頁)。
しかしながら,本願発明1と同様の理由により,引用発明において,仕切板3として,引用例4に記載された当該ライナー部材を採用し,全熱交換素子を構成することは,当業者にとって容易である。
(4) 以上のとおりであるから,本願発明10は,引用発明及び引用例4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1,10は,引用発明及び引用例4に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
そして,本願発明1,10(請求項1,10に係る発明)が特許を受けることができない以上,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-16 
結審通知日 2018-02-27 
審決日 2018-03-12 
出願番号 特願2012-186409(P2012-186409)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿沼 善一  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 窪田 治彦
槙原 進
発明の名称 全熱交換素子  

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