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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C |
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管理番号 | 1339961 |
審判番号 | 不服2017-2580 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-02-22 |
確定日 | 2018-05-10 |
事件の表示 | 特願2013- 19827「レーザー溶着方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年8月25日出願公開、特開2014-151438〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年2月4日の出願であって、平成28年9月7日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月18日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月16日付け(発送日:同年11月22日)で拒絶査定がされ、これに対して、平成29年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 平成29年2月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成29年2月22日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 平成29年2月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された 「【請求項1】 レーザー光を走査するミラーを備えたレーザーヘッドに対して、相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程と、 前記ミラーによりレーザー光を樹脂成形品の環状の溶着ラインに沿って連続的に周回走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程とを備え、 前記樹脂成形品の接合面が、レーザー光を第1角度で入射する第1部位と、レーザー光を第1角度よりも大きい第2角度で入射する第2部位とを含み、 前記溶着工程が、第1部位と第2部位とがほぼ同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザー光の強度を制御する段階を含み、該制御する段階が、溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含むことを特徴とするレーザー溶着方法。」を、 補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された 「【請求項1】 レーザー光をX,Y軸方向に走査するミラーと、レーザー光の焦点位置をZ軸方向に調整する光学系を備えたレーザーヘッドを使用し、 前記レーザーヘッドに対して、接合面が三次元形状の相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程と、 前記ミラーの向きと前記焦点位置を制御し、レーザー光を樹脂成形品の環状の溶着ラインに沿って連続的に周回走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程とを備え、 前記樹脂成形品の接合面が、レーザー光を第1角度で入射する第1部位と、レーザー光を第1角度よりも大きい第2角度で入射する第2部位とを含み、 前記溶着工程が、第1部位と第2部位とが同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザー光の強度を制御する段階を含み、該制御する段階が、溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含むことを特徴とするレーザー溶着方法。」 と補正するものである。 なお、下線は補正箇所であり、請求人が付したとおりである。 本件補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「段取り工程」をさらに限定し、同じく「溶着工程」をさらに限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 2 引用文献とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2011-102029号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「樹脂成形品の製造方法」に関して、【図1】及び【図3】の3Aとともに、次の事項が記載されている。なお、下線部は合議体が付した。以下に同じ。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 仮想xyz直交座標系において、吸光性樹脂部材の溶着領域と透光性樹脂部材の対応する溶着領域をz方向に沿って対向圧接配置し、所定の光エネルギを有するレーザビームをz方向上方より前記透光性樹脂部材から入射し、照射される前記光エネルギに応じた発熱で前記溶着領域を加熱・溶融し、前記透光性樹脂部材と前記吸光性樹脂部材を溶着する樹脂成形品の製造方法において、 前記溶着領域は、照射される前記光エネルギの変化を抑制するように、xy平面に対する該幅方向の傾きが位置により変化する構造であり、 前記レーザビームは、前記溶着領域の同一溶着ライン上を繰り返し走査して全体を同時に加熱・溶融する樹脂成形品の製造方法。 【請求項2】 前記レーザビームが照射する位置のxy平面に対する入射角を第1の入射角としたとき、前記溶着領域は、xy平面に対して前記第1の入射角に対応する傾斜を有する構造である請求項1記載の樹脂成形品の製造方法 【請求項3】 前記溶着領域への入射角を第2の入射角とし、前記第2の入射角が位置により変化する場合には、前記レーザビームの走査速度を前記第2の入射角に応じて変化させ、加熱温度を平均化する請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法。」 (2)「【0031】 図3Aは、3次元走査によるレーザビーム溶着を概略的に示すダイアグラムである。レーザ発振器10から発射するレーザビームが光ファイバ12を介してスキャンヘッド31に導入される。スキャンヘッド31は、図1Aに示した焦点調整用光学系、xガルバノミラ、yガルバノミラ、制御装置を含む構成である。治具36に吸光性樹脂からなるハウジング21が配置される。ハウジングの溶着領域は2次元平面には収まらない3次元構成を有する。ハウジング21の溶着領域と適合する溶着領域を有し、透光性樹脂からなるレンズ22がハウジング21上に両溶着領域を合わせて対向配置される。レンズ22、ハウジング21は互いに接する方向に圧力Pで加圧される。 【0032】 スキャンヘッド31は溶着領域に沿ってレーザビーム12sを走査し、繰り返し照射する。ガルバノミラ14,15によって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系によって、z方向焦点距離を制御し、一定の焦合状態を保つ。 ・・・ 【0034】 例として、3次元構造を有する車両用リアコンビネーション灯具の溶着を行なった。透光性樹脂部材で形成されたレンズと吸光性樹脂部材で形成されたハウジングを3次元構造の溶着領域で溶着する。溶着領域1周の長さは1m、レーザ出力150W,走査速度10m/sec、照射全長200m(200周)で溶着した。溶着後、破壊検査した結果全長にわたって剥離は生ぜず、材料破壊モードであり、強固な溶着ができたことを示した。 【0035】 ガルバノスキャナを用いたレーザ溶着では、レーザ光源が固定されているため、溶着領域の形状が光源からの距離を大きく変化させる形状となると、入射角が変化し、照射面積も変化する。照射面積が変化すると、入射エネルギ密度も変化する。レーザビームを等速で走査すると、位置により到達温度も変化することになろう。」 (3)「【0042】 図5Cは、傾斜した溶着面の例を示す。図に示すように、溶着面となる傾斜面23aを有する溶着用リブ23をハウジング21上面に設ければ、加工対象物の設計自由度が向上するため好ましいであろう。また、レーザビーム自体が有している強度分布(例えばガウス分布)を考慮し、溶着面を平面ではなく曲面にしてもよい。この場合、照射面内における温度バラつきの緩和に貢献するであろう。ここでは溶着領域が2次元平面に配置された場合を説明したが、溶着領域が3次元構造である場合においても同様に実施可能であることは自明であろう。 【0043】 なお、溶着面の傾斜による、入射角の均一化、入射エネルギ密度の均一化、到達温度の均一化に限界の生じる場合もあろう。そのような場合には、照射位置の入射角に応じてレーザビームの走査速度を制御することで緩和が可能である。例えば、入射角が大きくなり単位面積当たりの発熱量が相対的に低減する位置では、走査速度を下げて単位時間当たりの発熱量を増加させることで、到達温度を均一化することが好ましい。このような制御は、図1Aに示す制御装置16を介して行うことができる。」 (4) (5) 上記記載事項(1)ないし(3)(特に(2)の下線部)、(4)の【図1】及び(5)の【図3】の3Aの図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「レーザ発振器から発射するレーザビームが光ファイバを介してスキャンヘッドに導入され、スキャンヘッドは、焦点調整用光学系、xガルバノミラ、yガルバノミラ、制御装置を含む構成であり、治具に吸光性樹脂からなるハウジングが配置され、透光性樹脂からなるレンズがハウジング上に両溶着領域を合わせて対向配置され、スキャンヘッドは溶着領域に沿ってレーザビームを走査し、繰り返し照射し、ガルバノミラによって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系によって、z方向焦点距離を制御し、透光性樹脂部材で形成されたレンズと吸光性樹脂部材で形成されたハウジングを3次元構造の溶着領域で溶着する方法。」 3 対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「レーザ発振器から発射するレーザビームが光ファイバを介してスキャンヘッドに導入され、スキャンヘッドは、焦点調整用光学系、xガルバノミラ、yガルバノミラ、制御装置を含む構成であ」ることは、その機能、工程及び構造からみて、本願補正発明の「レーザー光をX,Y軸方向に走査するミラーと、レーザー光の焦点位置をZ軸方向に調整する光学系を備えたレーザーヘッドを使用」することに相当し、同様に、「治具に吸光性樹脂からなるハウジングが配置され、透光性樹脂からなるレンズがハウジング上に両溶着領域を合わせて対向配置され」ることは「レーザーヘッドに対して、接合面が三次元形状の相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程」に、「スキャンヘッドは溶着領域に沿ってレーザビームを走査し、繰り返し照射し、ガルバノミラによって2次元xy面内の位置を制御すると共に、焦点調整光学系によって、z方向焦点距離を制御し、透光性樹脂部材で形成されたレンズと吸光性樹脂部材で形成されたハウジングを3次元構造の溶着領域で溶着する」ことは「ミラーの向きと前記焦点位置を制御し、レーザー光を樹脂成形品の環状の溶着ラインに沿って連続的に周回走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程」に、「レーザビームを走査し」「溶着する方法」は、「レーザー溶着方法」に、それぞれ相当する。 以上の点からみて、本願補正発明と引用発明1とは、 [一致点] 「レーザー光をX,Y軸方向に走査するミラーと、レーザー光の焦点位置をZ軸方向に調整する光学系を備えたレーザーヘッドを使用し、 レーザーヘッドに対して、接合面が三次元形状の相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程と、 ミラーの向きと前記焦点位置を制御し、レーザー光を樹脂成形品の環状の溶着ラインに沿って連続的に周回走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程とを備える、 レーザー溶着方法。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点1] 本願補正発明では、「樹脂成形品の接合面が、レーザー光を第1角度で入射する第1部位と、レーザー光を第1角度よりも大きい第2角度で入射する第2部位とを含み、溶着工程が、第1部位と第2部位とが同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザー光の強度を制御する段階を含み、該制御する段階が、溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含む」との発明特定事項を備えているのに対して、引用発明1では、当該発明特定事項を備えていない点。 4 判断 (1)上記相違点1について 引用文献1の「前記溶着領域への入射角を第2の入射角とし、前記第2の入射角が位置により変化する場合には、前記レーザビームの走査速度を前記第2の入射角に応じて変化させ、加熱温度を平均化する請求項1または2記載の樹脂成形品の製造方法」(【請求項3】)との記載、「ガルバノスキャナを用いたレーザ溶着では、レーザ光源が固定されているため、溶着領域の形状が光源からの距離を大きく変化させる形状となると、入射角が変化し、照射面積も変化する。照射面積が変化すると、入射エネルギ密度も変化する。レーザビームを等速で走査すると、位置により到達温度も変化することになろう。」(【0035】)との記載から、引用発明1は、樹脂成形品の溶着領域(本願補正発明の「接合面」に相当する。)に少なくとも2つの入射角で入射する部位があるから、入射角が小さい方の部位を便宜的に「第1の入射角で入射する第1部位」、入射角が第1の入射角よりも大きい部位を便宜的に「第1の入射角よりも大きい第2の入射角で入射する第2部位」と呼称するとすれば、引用発明1は、樹脂成形品の接合面が、レーザービームを第1の入射角で入射する第1部位と、レーザービームを第1の入射角よりも大きい第2の入射角で入射する第2部位とを含み、溶着工程が、第1部位と第2部位とが加熱温度を平均化する、すなわち同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザービームの走査速度を制御する段階を含むものと理解できる。 また、引用文献1の【図3】の3Aから、溶着面の傾斜により異なる入射角でレーザビームが照射されることが看て取れるところ、同文献1の「溶着面の傾斜による・・・入射エネルギ密度の均一化、到達温度の均一化に限界の生じる場合もあろう。そのような場合には、照射位置の入射角に応じてレーザビームの走査速度を制御することで緩和が可能である。例えば、入射角が大きくなり単位面積当たりの発熱量が相対的に低減する位置では、走査速度を下げて単位時間当たりの発熱量を増加させることで、到達温度を均一化することが好ましい」(【0043】)との記載に照らせば、引用発明1は、異なる溶着面の傾斜に応じてレーザビームの走査速度を制御するものであるから、溶着面の少なくとも2つの点で走査速度を切り替える手順を含むと解するのが相当である。 そして、加熱温度を平均化する手段、すなわち同量のレーザーエネルギーを受け取るようにする手段として、レーザービームの走査速度を制御するかレーザービームの強度を制御するかは、当業者が適宜設定できる周知の事項である(特開2011-126237号公報の【0047】、特開2009-255461号公報の【0027】、特開2007-210203号公報の【0075】参照。以下、「周知事項1」という。) そうすると、上記相違点1に係る発明特定事項は、引用発明1、引用文献1の上記各記載及び周知事項1に基いて当業者が容易に推考し得ることである。 加えて、引用発明1は、加熱温度を平均化することにより密着性が高く、接合強度が高い密着部を含む樹脂成形品の製造方法であって、ガルバノミラにより高速走査が可能であるから(【請求項3】、【0008】及び【0021】)、「接合面の各部に均一なレーザーエネルギーを与え、高気密の樹脂成形品を短時間に効率よく組み立てることができる」(本願明細書【0016】)と解され、本願補正発明による効果も、引用発明1から当業者が予測し得た程度のものにすぎない。 (2)小活 よって、本願補正発明は、引用発明1、引用文献1の上記各記載及び周知事項1に基いて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)付言 拒絶査定は、「この出願については、平成28年9月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」とし、当該「理由2」として、平成28年9月7日付け拒絶理由通知書には「請求項1について、引用文献(審決注:本審決における引用文献1である)・・・に記載の発明は、レーザーの入射角の変化による発熱のばらつきを抑制するために走査速度を制御して平均化するものであるが、走査速度の制御に代えて、引用文献(審決注:本審決における引用文献2である)・・・に記載のレーザービーム出力制御を適用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。」と記載されている。 当該拒絶査定の理由に対して、請求人は、審判請求書の「2.拒絶査定の要点」において、「原査定の理由は・・・要するに、レーザー光の入射角の変化による発熱のばらつきを抑制するために、引用文献(審決注:本審決における引用文献1である)・・・に記載の走査速度制御に代えて、引用文献(審決注:本審決における引用文献2である)・・・に記載のレーザビーム出力制御を適用することは当業者が容易に想到し得た、というものです。」と主張しているから、請求人は、前記のように当審が判断した内容を拒絶査定の理由として既に了知していたというべきである。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成28年10月18日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2」の「1」に補正前の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、平成28年9月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって拒絶すべきものとされており、その備考欄において、 請求項 :1-5 引用文献等:1-3 <引用文献等一覧> 1.特開2005-254618号公報 2.特開2011-102029号公報(周知技術を示す文献としても引用) 3.特開2010-277870号公報(周知技術を示す文献としても引用) との記載がある。 ここで、平成28年9月7日付け拒絶理由通知書に記載された理由2は、以下のとおりである。 「理由2(進歩性)について ・請求項 :2 ・引用文献等:1-3 ・備考: 引用文献1に記載の発明において、加工物(溶着対象物)としてどのようなものを選択するかは、当業者が適宜決定し得た設計的事項である。例えば、引用文献2、引用文献3参照。 ・請求項 :1-5 ・引用文献等:1-3 ・備考: 請求項1について、引用文献2(特に、請求項3及びその関連説明箇所等参照)、引用文献3(特に、請求項5及びその関連説明箇所等参照)に記載の発明は、レーザーの入射角の変化による発熱のばらつきを抑制するために走査速度を制御して平均化するものであるが、走査速度の制御に代えて、引用文献1に記載のレーザービーム出力制御を適用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。 請求項2-5で特定された事項は、引用文献1-3に記載された事項であるか、周知技術または当業者が適宜決定し得た設計的事項である。」 3 引用文献とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2005-254618号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「樹脂溶着装置」に関して、【図1】及び【図3】とともに、次の事項が記載されている。 (1)「【請求項1】 平行レーザビームを出力する高品質レーザビーム発生装置と、出力されるレーザビームを加工物に向けて照射する第1のXY2軸回転ミラーユニットと、加工物支持治具とを少なくとも備えることを特徴とする樹脂溶着装置。 【請求項6】 加工物へのレーザビーム照射角を求める手段と、求められたレーザビーム照射角に応じてエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置の出力を制御する手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の樹脂溶着装置。」 (2)「【0017】 上記のように本発明による樹脂溶着装置では、高品質レーザビーム発生装置からの平行レーザビームが、必要な場合にはコリメートレンズもしくは同等な効果が得られる光学系により、例えば直径0.8mm?5.0mmの平行レーザビームとされ、それが第1および第2のXY2軸回転ミラーユニットを経て、予めティーチされた加工物の溶着部位に照射される。溶着部位へのレーザビームの照射角度は一定であることが一定品質の樹脂溶着を得るには望ましいが、溶着部位が水平面から傾斜面に移るような場合に、溶着部位に対するレーザビームの入射角度が変化して、溶着品質の均質性が失われる場合がある。XY2軸回転ミラーユニットを適宜XY軸制御することにより、この不都合を解消することもできるが、制御機構が複雑となりレスポンスも遅くなる。 【0018】 これに対処するために、本発明による樹脂溶着装置の他の態様では、加工物へのレーザビーム照射角を求める手段と、求められたレーザビーム照射角に応じてエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置の出力を制御する手段とがさらに備えられる。この態様の場合には、XY2軸回転ミラーユニットのXY軸制御装置を複雑化することなく、高品質レーザビーム発生装置の出力のみを数値制御することでもって、異なった溶着部位での溶着品質を一定化できる利点がある。 【発明の効果】 【0019】 本発明の樹脂溶着装置にあっては、平行レーザビームを出力する高品質レーザビーム発生装置を用いたことにより、出力されるレーザビームを加工物に向けて照射するための偏向手段(光走査手段)に、構成が簡素であり制御も容易なXY2軸回転ミラーユニットを用いることが可能となる。そのために、装置構成が簡単でありながら、曲面形状の溶接も可能となり、かつ、安定した溶接品質を達成することができる。」 (3)「【0024】 この例において、加工物Wは、上ワークW1と、中ワークW2と、下ワークW3とからなる円筒体形状であり、上ワークW1と下ワークW3とはレーザ透過性を備えた樹脂材で形成され、中ワークW2はレーザ吸収性を備えた樹脂材で形成されている。そして、レーザビームLの照射により3者の接合面の全部または一部が溶融して、接合面での樹脂溶着が行われる。 【0025】 この例において、加工物Wは、加工物に対する回転2軸を備える加工物支持治具30に載置されており、図1の実線で示す状態では、垂直姿勢にある回転軸31の上に加工物Wが載っている。そして、レーザビームLは加工物Wの上面a側に照射している。第1のXY2軸回転ミラーユニット20のXY軸制御および必要な場合には回転軸31の回転とにより、加工物Wの上面aにおける任意の位置にレーザビームLを照射することができ、それにより、上ワークW1と中ワークW2との接合面の樹脂溶着が行われる。その際に、図示のようにレーザビームLが入射角度の異なる状態で照射しても、あるいは溶着すべき接合面に高さの違いがあっても、ファイバーレーザ発振器10からのレーザビームLは高い平行性を備えることから、焦点合わせなどを必要とせずに、所要の樹脂溶着を行うことができる。」 (4)「【0031】 本発明による樹脂溶着装置では、XY2軸回転ミラーユニット20、40のXY軸制御態様により、あるいは、溶着部位が水平面から傾斜面に移るような場合に、溶着部位に対するレーザビームの入射角度が変化する場合がある。また、加工物Wを回転させながら連続したレーザ溶着を行う場合にも、溶着部位に対するレーザビームの入射角度が変化する。図3はその一例を示しており、図3aでは、レーザビームLは加工物Wに対して垂直に入射しているが、加工物Wが回転することにより、図3bに示すように、溶着部位に対してレーザビームLは角度αで入射することになる。そのために、レーザ照射スポット形状Laが図3aでは円となり、図3bでは楕円となって、レーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が異なってくる。それにより、溶着品質の均質性が失われる。そのままで差し支えない場合もあるが、均質な溶着品質が求められる場合もある。 【0032】 そのために、本発明による樹脂溶着装置の他の態様では、加工物WへのレーザビームLの照射角αを求める手段と、求められたレーザビーム照射角αに応じてレーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置10の出力を制御する手段とがさらに備えられる。このような制御手段を備えることにより、XY2軸回転ミラーユニット20、40の制御装置を複雑化することなく、異なった溶着部位での溶着品質を一定化することが可能となる。」 (5) (6) 上記記載事項(1)ないし(4)(特に(3)及び(4)の下線部)、(5)の【図1】及び(6)の【図3】の図示内容を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 「レーザ透過性を備えた樹脂材で形成された上ワークW1とレーザ吸収性を備えた中ワークW2を含む加工物Wが垂直姿勢にある回転軸31の上に載っており、第1のXY2軸回転ミラーユニット20のXY軸制御により、加工物Wの上面aにおける任意の位置にレーザビームLを照射することができ、それにより、上ワークW1と中ワークW2との接合面の樹脂溶着が行われ、溶着部位に対するレーザビームの入射角度が変化する場合、レーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が異なっても、均質な溶着品質が求められる場合、レーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置10の出力を制御し、異なった溶着部位での溶着品質を一定化する方法。」 4 対比 本願発明と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「レーザ透過性を備えた樹脂材で形成された上ワークW1とレーザ吸収性を備えた中ワークW2を含む加工物Wが垂直姿勢にある回転軸31の上に載っており、第1のXY2軸回転ミラーユニット20のXY軸制御により、加工物Wの上面aにおける任意の位置にレーザビームLを照射することができ」ることは、その機能、工程及び構造からみて、本願発明の「レーザー光を走査するミラーを備えたレーザーヘッドに対して、相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程」に相当する。 また、引用発明2の「高品質レーザビーム発生装置10の出力を制御」することは、「異なった溶着部位での溶着品質を一定化する」ためであって、「異なった溶着部位」ごと、すなわち溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含むことは明らかだから、引用発明2の「溶着部位に対するレーザビームの入射角度が変化する場合、レーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が異なっても、均質な溶着品質が求められる場合、レーザ照射面での単位面積当たりのエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置10の出力を制御し、異なった溶着部位での溶着品質を一定化する方法」は、その機能、工程及び構造からみて、本願発明の「樹脂成形品の接合面が、レーザー光を第1角度で入射する第1部位と、レーザー光を第1角度よりも大きい第2角度で入射する第2部位とを含み、溶着工程が、第1部位と第2部位とがほぼ同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザー光の強度を制御する段階を含み、該制御する段階が、溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含むレーザー溶着方法」に相当する。 さらに、引用発明2の「それにより、上ワークW1と中ワークW2との接合面の樹脂溶着が行われ」ることと本願発明の「ミラーによりレーザー光を樹脂成形品の環状の溶着ラインに沿って連続的に周回走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程」とは「ミラーによりレーザー光を樹脂成形品の溶着ラインに沿って連続的に走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程」の限りにおいて相当する。 以上の点からみて、本願発明と引用発明2とは、 [一致点] 「レーザー光を走査するミラーを備えたレーザーヘッドに対して、相接合する2つの樹脂成形品を位置決めする段取り工程と、 ミラーによりレーザー光を樹脂成形品の溶着ラインに沿って連続的に走査し、レーザーエネルギーで樹脂成形品の接合面を溶着する溶着工程とを備え、 樹脂成形品の接合面が、レーザー光を第1角度で入射する第1部位と、レーザー光を第1角度よりも大きい第2角度で入射する第2部位とを含み、 溶着工程が、第1部位と第2部位とがほぼ同量のレーザーエネルギーを受け取るようにレーザー光の強度を制御する段階を含み、該制御する段階が、溶着ライン上の少なくとも2点でレーザー光源の出力を切り替える手順を含むレーザー溶着方法。」 である点で一致し、 次の点で相違する。 [相違点2] レーザー光の走査態様に関し、本願発明は、レーザー光を樹脂成形品の「環状の」溶着ラインに沿って連続的に「周回」走査するのに対して、引用文献1は、「環状の」溶着ラインに沿って連続的に「周回」走査することを特定していない点。 5 判断 (1)上記相違点2について レーザー光の走査態様に関し、レーザー光を樹脂成形品の「環状の」溶着ラインに沿って連続的に「周回」走査することは、当業者が適宜なし得る周知の事項である(引用文献1の【図1】の1D及び【図3】の3A、特開2010-277870号公報の【図1】の1E及び【図3】の3A、特開2012-171257号公報の【図1】及び【図2】、特開2011-126237号公報の【図4】参照。以下、「周知事項2」という。) そうすると、上記相違点2に係る発明特定事項は、引用発明2、引用文献2の上記各記載及び周知事項2に基いて当業者が容易に推考し得ることである。 また、引用発明2は、「制御機構が複雑となりレスポンスも遅くなる」(【0017】)ことに対処するため、「加工物へのレーザビーム照射角を求める手段と、求められたレーザビーム照射角に応じてエネルギ密度が所定値になるように高品質レーザビーム発生装置の出力を制御する手段とがさらに備えられる。この態様の場合には、XY2軸回転ミラーユニットのXY軸制御装置を複雑化することなく、高品質レーザビーム発生装置の出力のみを数値制御することでもって、異なった溶着部位での溶着品質を一定化できる利点がある」から(【0018】)、「装置構成が簡単であり」(【0019】)、レスポンスが速くなり、「樹脂成形品を短時間に効率よく組み立てることができる」(本願明細書【0016】)と解されるし、「異なった溶着部位での溶着品質を一定化することが可能となる」(【0032】)から、「接合面の各部に均一なレーザーエネルギーを与え、高気密の樹脂成形品を組み立てることができる」(本願明細書【0016】)と解される。よって、本願発明による効果も、引用発明2から当業者が予測し得た程度のものにすぎない。 (2)なお、本願発明は、前記第2の[理由]1で検討した本願補正発明から、段取り工程及び溶着工程に係る限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2の[理由]3、4に記載したとおり、引用発明1、引用文献1の上記各記載及び周知事項1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1、引用文献1の上記各記載及び周知事項1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明2、引用文献2の上記各記載及び周知事項2に基いて、又は引用発明1、引用文献1の上記各記載及び周知事項1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-02-28 |
結審通知日 | 2018-03-06 |
審決日 | 2018-03-27 |
出願番号 | 特願2013-19827(P2013-19827) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B29C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大塚 徹 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 加藤 友也 |
発明の名称 | レーザー溶着方法 |
代理人 | 水野 祐啓 |