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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1339979
審判番号 不服2015-10263  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-02 
確定日 2018-05-09 
事件の表示 特願2010-182647「有機電界発光素子用材料、該有機電界発光素子用材料を含む組成物、並びに、該組成物により形成された膜、及び有機電界発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 1日出願公開,特開2012- 43912〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年8月17日の出願(特願2010-182647号)であって,平成26年2月28日付けで拒絶理由が通知され,同年9月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成27年1月27日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年6月2日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,平成28年4月1日に上申書が提出され,当審において,同年11月11日付けで拒絶理由が通知され,平成29年3月27日に意見書及び手続補正書が提出され,同年4月27日付けで拒絶理由が通知され,同年11月8日に意見書及び手続補正書が提出された。


2 本願の請求項1に係る発明
(1)請求項1の記載
本願の請求項1ないし13に係る発明は,平成29年11月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は,次のとおりである。

「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される,下記一般式(2)で表される構造を有する有機電界発光素子用材料であって,
前記前駆体が下記一般式(A2)で表される構造を有しており,前記前駆体を昇華精製してから,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造されることを特徴とする有機電界発光素子用材料。
【化1】

(一般式(2)中,m1,及びm2はそれぞれ独立に0以上の整数を表す。m1,及びm2が同時に0を表すことはない。n1,及びn2はそれぞれ独立に0?10の整数を表す。Q1?Q4はそれぞれ独立に縮環していてもよい6員の芳香族炭化水素環又は芳香族ヘテロ環を表す。Lは単結合又は二価の連結基を表す。)
【化2】

(一般式(A2)中のQ1,Q2およびLは,前記一般式(2)中におけるQ1,Q2およびLと同義である。)」

(2)請求項1の製造方法に関する記載により特定される事項の解釈
ア 請求項1に係る発明は「有機電界発光素子用材料」という物の発明であるところ,請求項1には「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される」(以下,「第1プロセス要件」という。),及び「前記前駆体を昇華精製してから,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される」(以下,「第2プロセス要件」という。)との「有機電界発光素子用材料」の製造方法が記載されているから,請求項1はいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下,「PBPクレーム」という。)に該当する。なお,請求項1がPBPクレームであることは,平成28年4月1日提出の上申書(以下,単に「上申書」という。)にて請求人も認めている。

イ PBPクレームについて,その記載が明確性要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下,「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解されるところ(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号を参照。),上申書において,請求人は,
「請求項1(審決注:平成27年6月2日提出の手続補正書による補正後の請求項1である。)でいう『O-H,S-H及びN-Hからなる群より選択される水素結合性部位を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される』(審決注:平成29年11月8日提出の手続補正書による補正により「第1プロセス要件」に限定されている。)ものであって,『前記前駆体を昇華精製してから,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される』ものは,前駆体の昇華精製によって除外することができなかった不純物を特定することが困難であるという事情があります。昇華精製によって除外することができなかったものは,極めて構造が類似するものが多いのが一般的であり,その特性も類似しているのが技術常識となっています。そして,そのような構造が類似するものを分離して,それぞれの構造を分光学的手法などを駆使して解析することも容易ではありません。不純物は,微量しか含まれていないことが一般的であるため,まず検出すること自体が容易ではなく,また検出できたとしても解析に耐える量を取得することも容易ではありません。そして,取得することができたとしても,分光学的特性が近似しているために,構造解析が正確にできるか否かは不明と言わざるを得ない状況です。したがって,このような状況下で,昇華精製後の組成を正しく把握して,特徴的な構成を導き出すことは現実には不可能に近いことです。また,製造されるものの特性についても,微量存在する不純物による特性の違いを見いだすことが困難であることが技術常識となっていますので,検出が現実には不可能に近いものです。本願明細書には,複数の実施例を掲載しておりますが,それらのすべてに共通する組成物そのものとしての特性であって,従来とは明確に異なるものは,出願時までに見いだすに至っておりません。仮に実施例の組成物そのものの共通する特性であって,比較例の組成物そのものにはない特性が見いだされたとしても,その特性で特定した組成物が本発明の効果を確実に生み出す技術的に意義のある特性なのか否かを確認することも容易ではありません。
このように,請求項1に記載されるものを,出願時に構造または特性により特定することは不可能ないし非実際的だったものです。」
などと主張している。
後述する引用文献1の記載等から明らかなように,ごく微量の不純物の量を特定することは本願の出願時によく行われていたことであるから,請求項1に係る発明の「有機電界発光素子用材料」について,物としての構成を直接特定することが不可能とも非実際的ともいえないのではないかとの疑いはあるが,一応,請求項1に係る発明には,上申書において請求人が主張するとおりの「不可能・非実際的事情」があり,請求項1の記載が明確性要件に違反していないものとして扱う。

ウ PBPクレームに係る発明の要旨は,製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定されるのが相当と解される。(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第2658号を参照。いわゆる「物同一説」。)
これを本件についてみると,技術常識からみて,同一分子構造の「有機電界発光素子用材料」を合成する場合であっても,異なる前駆体から合成する場合には,合成された「有機電界発光素子用材料」に含まれる各不純物の種類(分子構造)が異なることがあり,また,合成に用いる前駆体や合成された「有機電界発光素子用材料」に対する精製方法やその回数が異なる場合には,合成された「有機電界発光素子用材料」に含まれる各不純物の含有量が異なることがあることが明らかであるから,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を具備する請求項1に係る発明の要旨は,含まれている各不純物の種類及び含有量が,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を充足する製造方法で製造された「有機電界発光素子用材料」におけるそれと同じ「有機電界発光素子用材料」として認定するのが相当である。すなわち,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」の一方又は双方を充足しない製造方法で製造されたものであっても,それに含まれている各不純物の種類及び含有量が,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を充足する製造方法で製造された「有機電界発光素子用材料」におけるそれと同じ「有機電界発光素子用材料」は,請求項1に係る発明に包含されることとなる。
ここで,請求項1には,「有機電界発光素子用材料」の製造方法に関して,「第2プロセス要件」が規定する昇華精製以外に合成前の「前駆体」に対して何らかの精製を行うのか否かや,「前駆体」に重合性基を導入するための物質(以下,便宜上「重合性基導入物質」という。)や合成後の「有機電界発光素子用材料」に対して何らかの精製を行うのか否かについては記載されておらず,これらの精製を行うのか否かは任意であると解するほかないから,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を充足する製造方法には,「前駆体」に対して昇華精製を1回行う以外には,「前駆体」,「重合性基導入物質」及び「有機電界発光素子用材料」に対して精製を全く行わずに製造する方法(以下,便宜上「1回昇華製造方法」という。)や,「前駆体」に対して昇華精製を1回行う以外にも,「前駆体」,「重合性基導入物質」及び「有機電界発光素子用材料」に対して各不純物が事実上存在しなくなるまで各種精製を繰り返し行う製造方法(以下,便宜上「最大精製製造方法」という。)等が含まれる。
そうすると,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を充足する製造方法で製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量は,「1回昇華製造方法」により製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量を上限とし,「最大精製方法」により製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量であるゼロを下限とする数値範囲で表されるといえる。
また,「有機電界発光素子用材料」に含まれている不純物は,各種精製を多数回行うことによって事実上ゼロになるまで除去されることもあるのだから,含まれている各不純物の種類が,「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」を充足する製造方法で製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の種類と同じであるとは,「1回昇華製造方法」により製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物とは異なる種類の不純物を含んでいないことと同義である。

エ 以上によれば,本願の請求項1に係る発明の「第1プロセス要件」及び「第2プロセス要件」は,「有機電界発光素子用材料」に,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」及び「1回昇華製造方法」によって製造されたものに含まれている各不純物とは異なる種類の不純物が含まれていないこと,並びに,「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量が,「1回昇華製造方法」により製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量を上限とし,ゼロを下限とする数値範囲にあることを規定する要件と解するのが相当である。


3 平成29年4月27日付けで通知された拒絶理由の概要
(1) 本願の請求項1(審決注:請求項1は,平成29年11月8日提出の手続補正書によって補正されてはいないから,前記2(1)に記載したとおりのものである。以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)に対して,平成29年4月27日付けで通知された拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)は,概略,次のとおりである。

本件発明は,引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項(周知例:引用文献2,引用文献3)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるか,少なくとも,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 当審拒絶理由で引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献1:国際公開第2009/063757号
引用文献2:特開2008-218983号公報
引用文献3:特表2008-527086号公報


4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1(国際公開第2009/063757号)は,本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「技術分野
[0001] 本発明は,有機エレクトロルミネッセンス素子材料,有機エレクトロルミネッセンス素子,有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法,表示装置及び照明装置に関する。
背景技術
[0002] 従来,発光型の電子ディスプレイデバイスとして,エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下,ELDという)がある。ELDの構成要素としては,無機エレクトロルミネッセンス素子や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下,有機EL素子という)が挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0004] 有機EL素子は,発光する化合物を含有する発光層を陰極と陽極で挟んだ構成を有し,発光層に電子及び正孔を注入して,再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ,このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり,数V#数十V程度の電圧で発光が可能であり,更に,自己発光型であるために視野角に富み,視認性が高く,薄膜型の完全固体素子であるために省スペース,携帯性等の観点から注目されている。
[0005] しかしながら,今後の実用化に向けた有機EL素子においては,更に低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれている。
・・・(中略)・・・
[0021] 有機EL素子の製造方法としては,従来は,真空蒸着法が製造方法として用いられているが,従来の真空蒸着法では高真空が必要であり,製造可能な部材の大きさが限定されると同時に,部材の出し入れ工程が必要であり連続生産には不向きである。
[0022] 一方,連続生産を可能とする手段として,EL材料の溶液を用いた方法が提案(例えば,特許文献1参照。)されており,EL材料としては低分子材料,高分子材料を用いることが可能であるとされている。
[0023] しかしながら,低分子材料を用いた塗布では,積層膜形成時に下層と上層の混合が押さえられず,高性能のEL素子を得ることは困難である。
[0024] また,高分子材料の場合には,積層膜の形成は可能になるものの,高分子材料では再結晶,昇華精製,シリカゲルカラム精製等の低分子材料で利用可能な精製方法を利用することができず,高分子の原料となるモノマーなどの不純物を除ききれないといった問題があり,これらがEL素子寿命を劣化させる一つの要因となる。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0025] 本発明の目的は,外部取り出し量子効率が高く,且つ,発光寿命の長い素子の製造に適した有機エレクトロルミネッセンス素子材料を提供し,該材料を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子,有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法,前記素子を備えた,表示装置及び照明装置を提供することである。
課題を解決するための手段
[0026] 本発明の上記目的は,下記の構成により達成された。
[0027] 1.不純物含有量が1000ppm以下である少なくとも一種のモノマーを用いて合成した重合体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
[0028] 2.前記モノマーの不純物含有量が100ppm以下であることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
[0029] 3.前記モノマーが反応性置換基を有することを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
・・・(中略)・・・
発明の効果
[0038] 本発明により,外部取り出し量子効率が高く,且つ,発光寿命の長い素子の製造に適した有機エレクトロルミネッセンス素子材料を提供し,該材料を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子,有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法,前記素子を備えた,表示装置及び照明装置を提供することができた。」

(イ) 「[0042] 以下,本発明に係る各構成要素の詳細について,順次説明する。
[0043] 《不純物含有量が1000ppm以下であるモノマー》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子材料に係る,不純物含有量が1000ppm以下のモノマーについて説明する。
[0044] 本発明に係るモノマーは,反応性置換基を有する有機化合物ともいい,不純物含有量が1000ppm以下であるが,前記不純物含有量は100ppm以下であることが好ましい。
[0045] ここで,不純物含有量が1000ppm以下であることを達成するとは,本発明に係るモノマー(反応性置換基を有する有機化合物)の純度を99.9質量%以上に調整することを示す。
[0046] 本発明では,上記のような高純度のモノマー(反応性置換基を有する有機化合物)を用いて合成された,高純度の重合体である,有機エレクトロルミネッセンス素子材料を用いることにより,有機エレクトロルミネッセンス素子の性能変動を誘引する可能性を持つ不純物等の含有を抑制し,その結果として,有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率の向上,素子寿命の著しい改善を行うことが可能になった。
[0047] (不純物含有量の測定(モノマーの純度測定ともいう))
本発明に係るモノマー(反応性置換基を有する有機化合物)の純度の測定は,市販のHPLC(高速液体クロマトグラフィー法)により求めることができる。
[0048] HPLCを用いてのモノマーの純度測定の詳細は後述するモノマーの合成例において記載する。
[0049] (反応性置換基)
本発明に係る反応性置換基について説明する。
[0050] 本発明に係る反応性置換基としては,具体的には,下記で示される部分構造を有する基が挙げられる。
[0051][化1]

[0052] 上記の反応性置換基を有する有機化合物としては,後述する,有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の構成層の形成に用いられる,ホスト化合物,発光ドーパント,蛍光ドーパント,電子注入層や正孔注入層の形成に用いられる化合物,正孔阻止層や電子阻止層の形成に用いられる化合物,正孔輸送層の形成に用いられる化合物,電子輸送層の形成に用いられる化合物等を母核化合物として,上記反応性基を有するもの等が好ましい化合物としてあげられる。
[0053] また,従来公知の有機EL素子の構成に用いられる,正孔輸送材料,電子阻止材料,発光ホスト(ホスト化合物ともいう),発光ドーパント(単にドーパントともいう),電子輸送材料,正孔阻止材料等として記載の化合物,特許文献記載の化合物等の中から,適宜選択することも出来る。
[0054] 以下,本発明に係る,反応性置換基を有する化合物の具体例を示すが,本発明はこれらに限定されない。
・・・(中略)・・・
[0068][化15]

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・
[0070][化17]
・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・
[0071][化18]
・・・(中略)・・・



(ウ) 「[0072] 以下,本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子材料に係るモノマー(反応性置換基を有する有機化合物)の合成例を示すが,本発明はこれらに限定されない。
[0073] 《合成例:化合物1-2の合成》
[0074][化19]

[0075] 200ml三口フラスコに酢酸パラジウム0.5g,キシレン100ml,トリ-tert-ブチルホスフィン1.0gを添加し,系内を窒素置換した後,室温にて30分間撹拌した。その後,4,4’-ジヨードビフェニル5.2g,3-ホルミルカルバゾール(J.Chem.Soc.,1957,2210?2212記載化合物)5.0g,tert-ブトキシナトリウム3.0gを窒素雰囲気下で添加し,5時間過熱還流した。
[0076] 反応終了後,室温まで冷却し,ケイソウ土ろ過にて不溶物を除去し,飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した後,ロータリーエバポレータで減圧濃縮した。
[0077] 残留物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し,化合物1-2のホルミル体(化合物1-2(formyl)ともいう)を5.5gを得た。
[0078] 次に,200ml三口フラスコにメチルトリフェニルホスホニウムブロミド4.0g,テトラヒドロフラン80mlを添加し,反応系を窒素置換して系内を-70℃以下に冷却した後,2mol/LのLDA6.0mlを添加し,一旦0℃まで温度を昇温した。
[0079] この反応系を再度-70℃以下に冷却した後,化合物1-2のホルミル体(化合物1-2(formyl)ともいう)5.5gのTHF溶液20mlを滴下し,-70℃以下で1時間撹拌した。
[0080] 撹拌終了後,室温まで戻し,反応液を飽和食塩水で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥した後,ロータリーエバポレータで減圧濃縮した。
[0081] 残留物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製し,白色固体2.2gを得た。Massスペクトル及び^( 1)H-NMRスペクトルを確認したところ,化合物1-2であることを確認した。
[0082] (純度の異なる化合物1-2の調製)
この目的物のHPLC純度を測定したところ96.30%(化合物1-2a)であった。この白色固体を再度シリカゲルクロマトグラフィーで精製しところ,HPLC純度は98.02%(化合物1-2b)となった。
[0083] 続いて,酢酸エチルで再結晶を3回繰返し(1回目:HPLC純度99.53%(化合物1-2c),2回目:HPLC純度99.92%(化合物1-2d),3回目:HPCL純度99.99%(化合物1-2e))等,各々純度の異なる化合物1-2を得た。
[0084] 因みに,本発明に用いられるHPLC測定の条件を下記に示す。
[0085] HPLC測定条件:
測定装置 :LC-2000Series(日本分析工業(株)製)
使用カラム:ODS-3(GL Science)
展開溶媒 :アセトニトリル/水=3/7
展開流量 :1ml/分
温度 :40℃
検出波長 :254nm
本発明に係る,不純物が1000ppm以下のモノマー(反応性置換基を有する有機化合物ともいう)は,例えば,特開2004-327454号または,前記文献中に記載の参考文献等に記載の方法を適用することにより合成できる。」

(エ) 「実施例
以下,実施例により本発明を説明するが,本発明はこれらに限定されない。尚,実施例に用いられる化合物を下記に示す。
[0257][化31]

[0259] 実施例1
《有機EL素子の作製》
《塗布溶液1-1?1-8の調製》
窒素雰囲気下,上記の合成例で作製した1-2a(600mg)及びIr-1(30mg)を脱水ジクロロエタン60mlに溶解し,撹拌下高圧水銀灯にて紫外光を120秒間照射し,塗布溶液1-1を得た。
[0260] 次に塗布溶液1-1の作製条件にて,化合物1-2aの代わりに表1に示す化合物の組合せで塗布溶液1-2?1-8を得た。
[0261] 塗布溶液1-1?1-8の一部を市販のLC-Massにて分析したところ,含有モノマーの重合体の生成を確認することができた。
[0262] 《有機EL素子1-1の作製》
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウムチンオキシド)を100nm製膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後,このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し,乾燥窒素ガスで乾燥し,UVオゾン洗浄を5分間行なった。
[0263] この基板を市販のスピンコータに取り付け,ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS,Bayer社製,Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を3000rpm,30秒でスピンコート法により成膜した後,200℃にて1時間乾燥し,膜厚30nmの正孔輸送層を設けた。
[0264] 乾燥処理終了後,再び基板をスピンコータに取り付け,塗布溶液1-1を用い,1000rpm,30秒の条件下,スピンコートし(膜厚40nm),60℃で1時間真空乾燥し,発光層とした。
[0265] 次にこの基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し,モリブデン製抵抗加熱ボートにバソキュプロイン(BCP)を200mg入れ,別のモリブデン製抵抗加熱ボートにAlq_(3)を200mg入れ,真空蒸着装置に取り付けた。真空槽を4×10^(-4)Paまで減圧した後,BCPの入った前記加熱ボートに通電して加熱し,蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層に蒸着して,更に膜厚10nmの正孔阻止層を設けた。
[0266] 続いて,Alq_(3)の入った前記加熱ボートに通電して加熱し,蒸着速度0.1nm/秒で前記正孔阻止層上に蒸着して,更に膜厚40nmの電子輸送層を設けた。なお,蒸着時の基板温度は室温であった。
[0267] 引き続き,フッ化リチウム0.5nm及びアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し,有機EL素子1-1を作製した。
[0268] 《有機EL素子1-2?1-8の作製》
有機EL素子1-1の作製において,塗布液1-1を塗布液1-2?1-8に置き換えた以外は同様にして,有機EL素子1-2?1-8を各々作製した。
[0269] 《有機EL素子1-1?1-8の評価》
以下のようにして作製した有機EL素子1-1?1-8の評価を行った。
[0270] 《外部取りだし量子効率》
作製した有機EL素子1-1?1-8の各々について,23℃,乾燥窒素ガス雰囲気下で2.5mA/cm^(2)の定電流を印加した時の外部取り出し量子効率(%)を測定し,下記の表1に示す。測定には,分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ製)を用いた。
[0271] 尚,表1の外部取りだし量子効率の測定結果は,有機EL素子1-1の測定値を100とした時の相対値で表した。
[0272] 《発光寿命》
2.5mA/cm^(2)の一定電流で駆動したときに,輝度が発光開始直後の輝度(初期輝度)の半分に低下するのに要した時間を測定し,これを半減寿命時間(τ^(0.5))として寿命の指標とした。
[0273] 測定には分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタ製)を用いた。
[0274] 尚,表1に示す発光寿命の測定結果は,有機EL素子1-1の測定値を100とした時の相対値で表した。
[0275] 得られた結果を表1に示す。
[0276][表1]

[0277] 表1から,比較の有機EL素子に比べて,本発明の有機EL素子は,長寿命化が達成されていることが明らかである。」

(オ) 「請求の範囲
[1] 不純物含有量が1000ppm以下である少なくとも一種のモノマーを用いて合成した重合体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
[2] 前記モノマーの不純物含有量が100ppm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。
[3] 前記モノマーが反応性置換基を有することを特徴とする請求の範囲第1項または請求の範囲第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子材料。」

イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(オ)を含む引用文献1の全記載から,不純物含有量が100ppm以下である化合物4-1(引用文献1の[0068])についての発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「有機エレクトロルミネッセンス素子の構成層の形成に用いられるモノマーであって,
下記構造式で表され,不純物含有量が100ppm以下である化合物4-1。
[化合物4-1の構造式]

」(以下,「引用発明」という。)

(2)周知の事項
ア 引用文献2の記載
引用文献2(特開2008-218983号公報)は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術及び引用文献2に記載された事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,湿式成膜法による成膜が可能な,架橋基を有する有機化合物からなる正孔輸送材料と,該正孔輸送材料を重合させてなる高分子化合物と,該正孔輸送材料を含有する有機電界発光素子用組成物と,該高分子化合物を含有する層を有する,発光効率が高く,駆動安定性に優れた有機電界発光素子に関するものである。」

(イ) 「【0088】
[10]合成法
本発明の正孔輸送材料は,目的とする化合物の構造に応じて原料を選択し,公知の手法を用いて合成することができる。
代表的な合成スキームを以下に示す。
【0089】
【化43】

【0090】
ここで,X^(1)?X^(9)は,脱離基(例えば,Br,I,-B(OH)_(2)など)を表す。
Y^(1)?Y^(2)は,A^(21)の前駆体(例えば,ビニル基の前駆体は-CHO基であり,-O-(CH_(2))_(4)-O-CH_(2)-メチルオキセタン基の前駆体は,-OH基である),または,脱離基(例えば,Br,I,-B(OH)_(2)など)を表す。
R^(21)?R^(23)は,R^(2)?R^(4)と同義の架橋基を表す。
A^(21)は,A^(1)と同義の架橋基を表す。
E^(2)はE^(1)と同義の基を表す。
各原料化合物は,適宜,試薬として入手可能であり,反応は,公知のカップリング手法を用いて,容易に実現可能である。
尚,ArNH_(2)系化合物(例えば,化合物a,e)からAr_(2)NH系化合物(例えば,化合物b,c)を合成する反応においては,一旦,アシル化し,ArNHAc体にしてから,Ar_(2)NAc体を得,その後,脱アセチル化してAr_(2)NH体を得ることも選択可能である。ここで,Arは,それぞれ独立に,任意の1価の芳香族炭化水素基を表し,Acは,アセチル基を表す。
【0091】
化合物の精製方法としては,「分離精製技術ハンドブック」(1993年,(財)日本化学会編),「化学変換法による微量成分および難精製物質の高度分離」(1988年,(株)アイ ピー シー発行),あるいは「実験化学講座(第4版)1」(1990年,(財)日本化学会編)の「分離と精製」の項に記載の方法をはじめとし,公知の技術を利用可能である。具体的には,抽出(懸濁洗浄,煮沸洗浄,超音波洗浄,酸塩基洗浄を含む),吸着,吸蔵,融解,晶析(溶媒からの再結晶,再沈殿を含む),蒸留(常圧蒸留,減圧蒸留),蒸発,昇華(常圧昇華,減圧昇華),イオン交換,透析,濾過,限外濾過,逆浸透,圧浸透,帯域溶解,電気泳動,遠心分離,浮上分離,沈降分離,磁気分離,各種クロマトグラフィー(形状分類:カラム,ペーパー,薄層,キャピラリー,移動相分類:ガス,液体,ミセル,超臨界流体。分離機構:吸着,分配,イオン交換,分子ふるい,キレート,ゲル濾過,排除,アフィニティー)などが挙げられる。
【0092】
生成物の確認や純度の分析方法としては,ガスクロマトグラフ(GC),高速液体クロマトグラフ(HPLC),高速アミノ酸分析計(有機化合物),キャピラリー電気泳動測定(CE),サイズ排除クロマトグラフ(SEC),ゲル浸透クロマトグラフ(GPC),交差分別クロマトグラフ(CFC),質量分析(MS,LC/MS,GC/MS,MS/MS),核磁気共鳴装置(NMR(1HNMR,13CNMR)),フーリエ変換赤外分光高度計(FT-IR),紫外可視近赤外分光高度計(UV.VIS,NIR),電子スピン共鳴装置(ESR),透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)電子線マイクロアナライザー(EPMA),金属元素分析(イオンクロマトグラフ,誘導結合プラズマ-発光分光(ICP-AES)原子吸光分析(AAS),蛍光X線分析装置(XRF)),非金属元素分析,微量成分分析(ICP-MS,GF-AAS,GD-MS)等を必要に応じ,適用可能である。」

(ウ) 「【実施例】
【0248】
次に,本発明を実施例によって更に具体的に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り,以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0249】
[合成例]
以下に本発明の正孔輸送材料の合成例を示す。
なお,以下の合成例において,ガラス転移温度はDSC測定により,重量減少開始温度はTG-DTA測定により,融点はDSC測定またはTG-DTA測定によりそれぞれ求めた。
・・・(中略)・・・
【0273】
(合成例4)
<目的物11の合成>
・・・(中略)・・・
【0275】
<目的物12の合成>
【化81】

【0276】
窒素気流中,トルエン(200ml)に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.16g)とビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.145g)を加えて室温で10分間攪拌し,さらに目的物11(8.01g),アニリン(6.15g),およびtert-ブトキシナトリウム(2.31g)を加えて,100℃で6時間攪拌した。放冷後不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=25:1)で精製することにより,目的物12(6.40g)を得た。
【0277】
<目的物13の合成>
・・・(中略)・・・
【0279】
<目的物14の合成>
【化83】

【0280】
窒素気流中,ジメチルスルホキシド(50ml)に粉砕した水酸化カリウム(8.98g)を加え,m-ブロモフェノール(6.92g)を加えて30分間攪拌後,目的物13(12.33g)を加えて室温で6時間攪拌した。析出物を濾取した後,濾液を塩化メチレンで抽出して油層を濃縮し,シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:塩化メチレン=2:1)で精製することにより,目的物14(11.4g)を得た。
【0281】
<目的物15の合成>
【化84】

【0282】
窒素気流中,目的物12(3.30g),目的物14(3.16g),tert-ブトキシナトリウム(0.92g),およびトルエン(30ml)の溶液に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.083g),トリ-tert-ブチルフォスフィン(0.16g),およびトルエン(5ml)を窒素雰囲気下,60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて,100℃で4時間攪拌した。放冷後,不溶物を濾別し,濾液を濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:酢酸エチル=20:1)で精製することにより,目的物15(1.18g)を得た。
DEI-MS(m/z=660(M+))により目的物15であることを確認した。
【0283】
(合成例5)
<目的物16の合成>
【化85】

【0284】
窒素気流中,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(6.44g),4-ブロモビフェニル(15.0g),tert-ブトキシナトリウム(8.66g),およびトルエン(120ml)の溶液に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.166g),ビス(トリフェニルフォスフィノ)フェロセン(0.356g),およびトルエン(5ml)を窒素雰囲気下,60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて,加熱還流下,4時間攪拌した。放冷後,トルエン及び活性白土を加え15分間攪拌した後,不溶物を濾別し,濾液を濃縮し,エタノールを加えた。析出物を濾取した後,エタノール,メタノール,トルエン,メタノールの順で懸濁洗浄することにより,目的物16(7.48g)を得た。
【0285】
<目的物17の合成>
【化86】

【0286】
窒素気流中,目的物16(2.52g),目的物14(3.95g),tert-ブトキシナトリウム(1.15g),およびトルエン(50ml)の溶液に,トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体(0.207g),トリ-tert-ブチルホスフィン(0.243g),およびトルエン(20ml)を窒素雰囲気下,60℃で15分間攪拌して調製した溶液を加えて,80℃で4時間攪拌した。放冷後,塩化メチレン(50ml)を加え30分間攪拌した後,不溶物を濾別し,濾液を濃縮した。塩化メチレン/酢酸エチル混合液でカラム精製し,トルエン溶媒で活性白土処理を行うことにより,目的物17(1.74g)を得た。
【0287】
このもののガラス転移温度は27℃,融点は観測されず,窒素気流下での重量減少開始温度は432℃であった。
DEI-MS(m/z=1000(M+))により目的物17であることを確認した。
・・・(中略)・・・
【0291】
(合成例7)
<目的物19の合成>
【化88】

【0292】
窒素気流下,ジフェニルホスフィノフェロセン(166mg,0.30mmol),トリスジベンジリデンアセトンジパラジウムクロロホルム付加物(155mg,0.15mmol)の脱水トルエン溶液(50mL)を30℃で10分間攪拌し,目的物11(6.0g,14.99mmol),4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(1.5g,7.49mmol),およびtert-ブトキシナトリウム(1.73g,18mmol)を添加した。温度を100℃まで上昇させ,8時間攪拌した。反応混合物を水にあけ,有機層を分離し,飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後,硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下に留去し,残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し,目的物19(4.24g,収率67%)を得た。
【0293】
<目的物20の合成>
【化89】

【0294】
窒素気流下,トリ-tert-ブチルホスフィン(174mg,0.86mmol),トリスジベンジリデンアセトンジパラジウムクロロホルム付加物(148mg,0.14mmol)の脱水トルエン溶液(20mL)を30℃で10分間攪拌し,触媒を調製した。ここへ目的物19(4.0g,4.77mmol),目的物20(審決注:「目的物14」の誤記と解される。)(3.45g,10.5mmol),およびtert-ブトキシナトリウム(1.21g,12.6mmol)を添加した。温度を90℃まで上昇させ,8時間攪拌した。反応混合物を水にあけ,有機層を分離し,飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄後,硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧下に留去し,残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに処し,目的物20(2.47g,収率39%)を得た。
【0295】
DEI-MS(m/z=1334(M+))により目的物20であることを確認した。」

イ 引用文献3の記載
引用文献3(特表2008-527086号公報)は,本願の出願前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本開示は,一般に,有機電子デバイス中に見られるような電荷輸送材料,ならびにそれを製造するための材料および方法に関する。
・・・(中略)・・・
【背景技術】
【0003】
有機電子デバイスは,電気エネルギーを放射線に変換したり,電子的過程を介して信号を検出したり,放射線を電気エネルギーに変換したり,1つまたは複数の有機半導体層を含んだりする。大部分の有機電子デバイスは電荷輸送材料を含んでいる。」

(イ) 「【0091】
(実施例5)
(以下のモノマーの合成)
【0092】
【化14】

【0093】
フェニル(1-ナフチル)アミン(10g,45.0mmol),3-ブロモスチレン(9.2g,50.0mmol),NaO^(t)Bu(5.1g,55.0mmol),Pd_(2)(dba)_(3)(0.300g,0.33mmol),およびP(^(t)Bu)_(3)(0.150g,0.74mmol)の混合物を,トルエン(80mL)中,窒素下で20時間撹拌した。得られた溶液をジエチルエーテルで希釈し,セライトおよびシリカで濾過した。溶媒を蒸発させると,暗褐色粘稠材料が得られ,これをシリカ上のクロマトグラフィー(ヘキサン)によって精製すると,所望の生成物が白色固形分(9.8g,67%)として得られた。この生成物の^(1)H NMRを以下に示す。
・・・(中略)・・・
【0095】
(実施例6)
(以下のモノマーの合成)
【0096】
【化15】

【0097】
ジフェニルアミン(4.6g,27.0mmol),3-ブロモスチレン(5.0g,27.0mmol),NaO^(t)Bu(3.0g,38.0mmol),Pd_(2)(dba)_(3)(0.300g,0.33mmol),およびP(^(t)Bu)_(3)(0.150g,0.74mmol)の混合物をトルエン(80mL)中,窒素下で20時間撹拌した。得られた溶液をジエチルエーテルで希釈し,セライトおよびシリカで濾過した。溶媒を蒸発させると,暗褐色粘稠材料が得られ,これをシリカ上のクロマトグラフィー(ヘキサン)によって精製すると,所望の生成物が白色固形分(4.25g,65%の収率)として得られた。この生成物の^(1)H NMRを以下に示す。
・・・(中略)・・・
【0103】
(実施例8)
(以下のモノマーの合成)
【0104】
【化17】

【0105】
N,N’-ジ(1-ナフチル)ベンジジン(2.16g,4.9mmol),4-ブロモ-1,1’-ビフェニル-4’-(p,m-ビニル)ベンジル(3.8g,10mmol),NaO^(t)Bu(1.15g,12mmol),Pd_(2)(dba)_(3)(0.300g,0.33mmol),およびP(^(t)Bu)_(3)(0.150g,0.74mmol)の混合物を,トルエン(30mL)中,窒素下で20時間撹拌した。得られた溶液をジエチルエーテルで希釈し,セライトおよびシリカで濾過した。溶媒を蒸発させると,暗褐色粘稠材料が得られた。ヘキサンを加えると黄色粉末が生成し,これを濾過によって単離した。CH_(2)Cl_(2)/ヘキサンからさらに精製すると,所望の生成物(1.63g,33%)が得られた。この生成物の^(1)H NMRを以下に示す。」

ウ 引用文献2及び3の記載から把握される周知の技術事項
前記ア及びイで摘記した引用文献2及び3の記載から,次の技術事項が,本願の出願前に周知であったと認められる。(トリアリールアミン化合物やビストリアリールアミン化合物等を総称して「トリアリールアミン類」と表現し,ジアリールアミン化合物やビスジアリールアミン化合物等を総称して「ジアリールアミン類」と表現した。)

「アリール基の1つが重合性基を有するトリアリールアミン類を,ジアリールアミン類を前駆体として用い,重合性基を有するアリール類で当該前駆体をアリール化するという方法により,合成すること。」(以下,「周知技術」という。)


5 当審拒絶理由についての判断
(1)対比
引用発明の「化合物4-1」は,本件発明の一般式(2)において,m1及びm2をいずれも1とし,n1及びn2をいずれも0とし,Q1ないしQ4をいずれも縮環していない6員の芳香族炭化水素環とした構造を有しており,当該「化合物4-1」が用いられる「有機エレクトロルミネッセンス素子」とは,本件発明の「有機電界発光素子」にほかならないから,本件発明と引用発明は,
「下記一般式(2)で表される構造を有する有機電界発光素子用材料。
【化1】

(一般式(2)中,m1,及びm2はそれぞれ独立に0以上の整数を表す。m1,及びm2が同時に0を表すことはない。n1,及びn2はそれぞれ独立に0?10の整数を表す。Q1?Q4はそれぞれ独立に縮環していてもよい6員の芳香族炭化水素環又は芳香族ヘテロ環を表す。Lは単結合又は二価の連結基を表す。)」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点:
本件発明は,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される」ものであって,当該前駆体が「一般式(A2)で表される構造を有しており,前記前駆体を昇華精製してから,前記前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入することにより製造される」ものであるのに対して,
引用発明は,そのような構成を有することが特定されていない点。

(2)相違点の判断
前記2(2)エで述べた事項に照らせば,相違点に係る本件発明の発明特定事項は,「有機電界発光素子用材料」に,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」及び「1回昇華製造方法」によって製造されたものに含まれている各不純物とは異なる種類の不純物が含まれていないこと,及び,「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量が,「1回昇華製造方法」により製造された「有機電界発光素子用材料」に含まれている各不純物の含有量を上限とし,ゼロを下限とする数値範囲にあることを特定するものと解される。
そこで,相違点について,各不純物の種類と,各不純物の含有量とに分けて,以下に述べる。

ア 各不純物の種類について
(ア) 引用文献1には,引用発明の「化合物4-1」を如何なる方法により合成するのかについて説明されていないものの,「化合物4-1」は,前記4(2)ウで認定した周知技術における「アリール基の1つが重合性基を有するトリアリールアミン類」に該当する化合物であるから,当該周知技術を用いて合成すること,具体的には,下記構造式(1)で表される「前駆体」と下記構造式(2)で表される「重合性基導入物質」とを用いて合成することは,当業者にとって容易になし得たことである。
[前駆体の構造式(1)]

[重合性基導入物質の構造式(2)]

(イ) ここで,構造式(1)で表される「前駆体」は,「第1プロセス要件」における「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体」であって,「一般式(2)で表される構造を有する前駆体」に該当するから,構造式(1)で表される「前駆体」と構造式(2)で表される「重合性基導入物質」とを用いて合成するという合成方法は,本願発明の「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」にほかならない。
しかるに,「1回昇華製造方法」は,昇華精製前の「前駆体」に含まれる不純物の種類及びその含有量や,合成に用いる「重合性導入物質」に含まれる不純物の種類及びその含有量は任意なのであって,当該「1回昇華製造方法」により製造した「有機電界発光素子用材料」には,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」において想定し得る不純物は全て含まれているといえる。したがって,前述した「構造式(1)で表される前駆体と構造式(2)で表される重合性基導入物質とを用いて合成するという合成方法」により製造され,適宜の精製方法により不純物含有量を100ppm以下にした引用発明には,「1回昇華製造方法」によって製造された「化合物4-1」に含まれる各不純物とは異なる種類の不純物が含まれていないというべきである。
また,イで後述するように,引用発明において,「構造式(1)で表される前駆体」について,「ケイソウ土ろ過にて不要物を除去し,飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した後,ロータリーエバポレータで減圧濃縮した後に,残留物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製する」等の手法で精製することは,引用文献1に記載されたも同然の事項であるところ,当該手法で精製した前駆体と,「1回昇華製造方法」で得られた前駆体とで,除去される不純物の種類が異なるとする根拠も見いだせない。
(ウ) 以上によれば,引用発明において,前述した周知技術を採用することによって,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」及び「1回昇華製造方法」によって製造されたものに含まれている各不純物とは異なる種類の不純物が含まれていないように構成することは,当業者が容易になし得たことである。

イ 各不純物の含有量について
引用文献1の[0073]ないし[0083]には,引用発明の「化合物4-1」とは異なる化合物であるものの,「化合物1-2」について,合成に用いる「化合物1-2のホルミル体(化合物1-2(formyl))」(「化合物1-2」の前駆体に該当する。)として,ケイソウ土ろ過にて不要物を除去し,飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムで乾燥した後,ロータリーエバポレータで減圧濃縮した後に,残留物をシリカゲルクロマトグラフィーで精製したものを用い,さらに,合成後の「化合物1-2」について,飽和食塩水で洗浄し,硫酸マグネシウムで乾燥した後,ロータリーエバポレータで減圧濃縮した後,シリカゲルクロマトグラフィーによる精製を2回行い,続いて,酢酸エチルで再結晶を3回繰り返すことによって,不純物含有量が100ppm(HPLC純度が99.99%)である化合物1-2eが得られることが記載され,[0276]の[表1]には,当該化合物1-2eを用いて形成した有機発光素子1-5が,HPLC純度がより低い化合物1-2aないし1-2dを用いて形成した有機発光素子1-1ないし1-4よりも,外部取り出し量子効率及び発光寿命に優れていることが示されている。
引用発明の「化合物4-1」の不純物含有量を100ppm以下とするための精製対象や精製方法,精製回数等について引用文献1に明記はないが,前記「化合物1-2」に係る精製の手法を参考に,構造式(2)で表される「前駆体」に対して,洗浄,減圧濃縮,及びシリカゲルクロマトグラフィーを行うとともに,合成後の「化合物4-1」に対して,洗浄,減圧濃縮,2回のシリカゲルクロマトグラフィー,及び3回の再結晶を行い,必要に応じて,各シリカゲルクロマトグラフィーや再結晶の繰り返し回数を増やしたり,他の精製方法を追加する等を行うことで,「化合物4-1」の不純物含有量を100ppm以下とすることは,引用文献1に記載されたも同然の事項である。
しかるに,前述したような手法で不純物濃度を100ppm以下とした引用発明の「化合物4-1」に含まれる各不純物の中に,その含有量が,「前駆体」に対して昇華精製を1回行う以外には,「前駆体」,「重合性基導入物質」及び「有機電界発光素子用材料」に対して精製を全く行わずに製造する「1回昇華製造方法」により製造された「化合物4-1」に含まれている各不純物の含有量を超えるようなものが存在するとは,技術常識からみておよそ考えられない。
したがって,前記アで述べた構成の変更を行った(合成方法として周知技術を採用した)引用発明において,それに含まれている各不純物の含有量は,「1回昇華製造方法」により製造された「化合物4-1」に含まれている各不純物の含有量を上限とし,ゼロを下限とする数値範囲にあるものと推認される。

ウ 予備的判断
仮に,「1回昇華製造方法」により製造した「化合物4-1」に含まれる各不純物のうち少なくとも一つの不純物の含有量が,前記イで述べた「化合物1-2」に係る精製方法と同様な手法により精製した「化合物4-1」に含まれる当該不純物の含有量よりも小さくなる可能性がゼロとはいえないとした場合であっても,以下のとおり,本件発明は,引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
すなわち,引用文献2の【0273】ないし【0282】,【0283】ないし【0287】,【0291】ないし【0295】(前記4(2)ア(ウ)を参照。)には,アリール基の1つが架橋基を有し,有機電界発光素子の正孔輸送材料として用いられるトリアリールアミン類(目的物15,17及び20)を,ジアリールアミン類(目的物12,16及び19)を前駆体として用い,架橋基を有するアリール類(目的物14)で当該前駆体をアリール化するという方法で合成すること,並びに,合成に際して,前駆体である前記ジアリールアミン類,前記アリール類及び前記トリアリールアミン類のいずれにもシリカゲルクロマトグラフィー等の各種処理を施すことが記載されているところ,【0091】には,化合物の精製方法として「昇華(常圧昇華,減圧昇華)」が例示されている。
引用文献1には,引用発明の「化合物4-1」を如何なる方法により合成するのかについて説明されていないものの,「化合物4-1」は,引用文献2記載の目的物15,17及び20と同様の「アリール基の1つが架橋基を有するトリアリールアミン類」に該当する化合物であるから,引用文献2記載の方法を用いて合成すること,具体的には,前記ア(ア)で述べた「構造式(1)で表される前駆体」と「構造式(2)で表される重合性基導入物質」とを用いて合成することは,引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易になし得たことである。
また,「構造式(1)で表される前駆体」のようなアリールアミン類が昇華精製可能であることは当業者に自明であるから(例えば,特開2007-266201号公報の【0016】ないし【0018】の記載や,特開平10-306228号公報の【0056】ないし【0058】の記載を参照。),引用文献2の【0091】の教示にしたがって,合成に用いる「構造式(1)で表される前駆体」の精製方法として昇華精製を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
したがって,引用発明に,「水素結合性部位としてN-Hを有する前駆体であって,一般式(A2)で表される構造を有する前駆体の水素結合性部位へ重合性基を導入するという合成方法」及び「1回昇華製造方法」によって製造されたものに含まれている各不純物とは異なる種類の不純物が含まれていないようにするとともに,各不純物の含有量が,「1回昇華製造方法」により製造された「化合物4-1」に含まれている各不純物の含有量を上限とし,ゼロを下限とする数値範囲にあるようにすること,すなわち,引用発明を,相違点に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)効果について
本件発明の効果は,引用文献1の記載及び周知技術に基づいて,又は引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,又は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
本願の請求項1に係る発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,又は引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-11-27 
結審通知日 2017-11-28 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2010-182647(P2010-182647)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 宮澤 浩
清水 康司
発明の名称 有機電界発光素子用材料、該有機電界発光素子用材料を含む組成物、並びに、該組成物により形成された膜、及び有機電界発光素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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