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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1340058
異議申立番号 異議2016-701039  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-09 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5914216号発明「タイヤトレッド用ゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5914216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-15〕について訂正することを認める。 特許第5914216号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件異議申立の趣旨

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5914216号(以下、単に「本件特許」という。)に係る出願(特願2012-148065号、以下「本願」という。)は、平成24年6月30日に出願人株式会社ブリヂストン(以下「特許権者」という。)によりされた特許出願であり、平成28年4月8日に特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、平成28年5月11日に特許公報が発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成28年11月8日付け(受付日平成28年11月9日)で特許異議申立人竹口美穂(以下「申立人」という。)により「特許第5914216号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許は取り消されるべきものである。」という趣旨の本件異議申立がされた。

3.以降の審理手続の経緯
本件異議申立に係る以降の審理手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 3月 3日付け 取消理由通知
平成29年 5月29日 訂正請求書・意見書(特許権者)
平成29年 6月 7日付け 通知書(申立人あて)
平成29年 7月12日 意見書(申立人)
平成29年 9月26日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成29年11月28日 訂正請求書・意見書(特許権者)
平成29年12月12日付け 通知書(申立人あて)
平成30年 1月12日 意見書(申立人)

(なお、平成29年11月28日付けで訂正請求がされたから、同年5月29日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)

第2 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第27号証を提示し、取消理由として、概略、以下の(a)ないし(d)が存するとしている。

(a)本件の請求項1ないし15に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第27号証のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(b)本件の請求項1ないし15に係る発明は、いずれも、甲第1号証ないし甲第27号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、それらの発明についての特許は、同法第29条に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(c)本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明は、その記載が不備であり、本件発明を当業者が実施することができる程度に記載されていないから、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由3」という。)
(d)本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1ないし15は、同各項の記載がいずれも不備であり、請求項1ないし15の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由4」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2006-089636号公報
甲第2号証:特開2011-079880号公報
甲第3号証:特開2011-213988号公報
甲第4号証:特開2010-100780号公報
甲第5号証:特開2006-274046号公報
甲第6号証:特開2006-274049号公報
甲第7号証:特開2010-275386号公報
甲第8号証:特開2011-246561号公報
甲第9号証:特開2005-220323号公報
甲第10号証:特開2006-282946号公報
甲第11号証:特開2011-246527号公報
甲第12号証:特開2004-143249号公報
甲第13号証:特開2007-326942号公報
甲第14号証:特開2008-143484号公報
甲第15号証:特開2008-143485号公報
甲第16号証:特開2008-143486号公報
甲第17号証:特開2008-260806号公報
甲第18号証:国際公開第2012/043854号
甲第19号証:国際公開第2012/043855号
甲第20号証:特開2003-277547号公報
甲第21号証:特開2006-152197号公報
甲第22号証:特開2011-246640号公報
甲第23号証:特開2011-252124号公報
甲第24号証:特開平7-165991号公報
甲第25号証:特開2000-281833号公報
甲第26号証:特開2001-089598号公報
甲第27号証:特開2007-002031号公報

第3 平成29年9月26日付け取消理由通知(決定の予告)の概要
当審が平成29年9月26日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。

「結論
特許第5914216号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。
特許第5914216号の請求項1ないし15に係る特許を取り消す。

理 由
・・(中略)・・
第5 当審の判断
当審は、
依然として、申立人が主張する取消理由3により、本件発明1ないし15についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。
・・(中略)・・
以上を総合すると、本件明細書の記載に照らしても、上記実験例(実施例及び比較例)を忠実に再現する場合を除き、上記本件請求項1のtanδに係る事項を具備するタイヤトレッド用ゴム組成物を得るにあたり、所望の成分を組み合わせて原料組成物を構成し、さらに、当該原料組成物を所望の成形工程及び加硫に付したゴム組成物を製造してみて、tanδの測定を行うことを多数回繰り返すという、過度の試行錯誤を要するものと認められる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし15に係る各発明を当業者が実施することができる程度に記載したものではない。

3.まとめ
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消されるべきものである。」

第4 平成29年11月28日付けの訂正請求について
上記平成29年11月28日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。

1.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし15について訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ゴム成分及び」とあるのを、「スチレン-ブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分及び」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?15も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「該充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比が質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(30:70)であり、」とあるのを、「該充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比が質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(30:70)であり(但し、(100:0)の場合を除く。)、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?15も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比は、質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(50:50)である」とあるのを、「前記充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比は、質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(50:50)である(但し、(100:0)の場合を除く。)」に訂正する(請求項4を引用する請求項5?15も同様に訂正する)。

2.検討
上記訂正事項1による訂正は、本件特許に係る請求項1及び同項を引用する請求項2ないし15において、「ゴム成分」につき「スチレン-ブタジエン共重合ゴムを含む」ものに限定して「ゴム成分」の範囲につき実質的に減縮し、また、訂正事項2及び3による訂正は、いずれも本件特許に係る請求項1又は4及び同各項を引用する請求項2、3及び5ないし15について、充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比の範囲の限界値(100:0)の場合を除外する、いわゆる「除くクレーム」とすることにより、当該含有比の範囲を実質的に減縮し、いずれにしても、当該各訂正により特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項1ないし3による訂正は、上記のとおり、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の範囲を実質的に減縮したものであり、上記各訂正に係る事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載又は示唆されている事項であるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内で訂正するものであることが明らかであって、さらに、本件特許に係る特許請求の範囲を実質的に変更又は拡張するものでないことも明らかである。
なお、本件訂正前の本件特許に係る請求項2ないし15は、いずれも請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件訂正後の請求項2ないし15についても同様であるから、本件訂正は、請求項1ないし15につき特許法第120条の5第4項に規定される「一群の請求項」ごとにされたものである。
してみると、本件訂正に係る上記訂正事項1及び2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第4項に規定する要件並びに同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件をも満たすものと認められる。

3.訂正請求に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし15について訂正することを認める。

第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
上記第3で示した理由により適法に訂正された本件特許に係る請求項1ないし15には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
スチレン-ブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分及び充填材を含み、該充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比が質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(30:70)であり(但し、(100:0)の場合を除く。)、tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であり、60℃におけるtanδが0.135以下であり、かつ-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
[tanδの測定方法: 動的引張粘弾性測定試験機を用いて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、3℃/分の昇温速度で-25℃から80℃におけるtanδの値を測定する。]
【請求項2】
前記{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.025/℃より大きい請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-12.0℃以上である請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比は、質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(50:50)である(但し、(100:0)の場合を除く。)請求項1?3のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記充填材中のシリカは、前記ゴム成分100質量部に対して、10?100質量部である請求項1?4のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記充填材中のシリカは、前記ゴム成分100質量部に対して、30?80質量部である請求項5に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記充填材中のシリカのBET比表面積は150m^(2)/g以上である請求項1?6のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記充填材30?55質量部を含有する請求項1?7のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム成分は、結合スチレン含量が37?60質量%のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と結合スチレン含量が25?35質量%のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを60?100質量%含む請求項1?8のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[結合スチレン含量(質量%)の測定方法:^(1)H-NMRスペクトルの積分比から算出する。]
【請求項10】
前記充填材が、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)に偏在している請求項9に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム成分は、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを60?100質量%、並びにスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムを40?0質量%を含有する請求項9又は10に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項12】
前記ゴム成分は、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを80?100質量%、並びにスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムを20?0質量%を含有する請求項11に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項13】
前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)の結合スチレン含量St(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)の結合スチレン含量St(B)との差[{St(A)}-{St(B)}]が11質量%以上である請求項9?12のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項14】
前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)が、窒素含有化合物、ケイ素含有化合物、並びに窒素及びケイ素含有化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものである請求項9?13のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項15】
前記窒素含有化合物、ケイ素含有化合物、並びに窒素及びケイ素含有化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が、ヒドロカルビルオキシシラン化合物である請求項14に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。」

(以下、上記請求項1ないし15に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明15」といい、併せて「本件発明」と総称することがある。)

第6 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由1ないし4及び当審が通知した取消理由によって、本件発明1ないし15についての特許はいずれも取り消すべきものとはいえない、
と判断する。
以下、事案に鑑み、取消理由3、取消理由4の順に検討し、最後に取消理由1及び2につき併せて検討する。

I.取消理由3について
申立人が主張し、当審も上記取消理由通知(決定の予告)において通知した取消理由3につき、上記本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて、再度検討を行う。

1.本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書の記載事項

(1)本件訂正後の本件特許に係る請求項1には、
「スチレン-ブタジエン共重合ゴムを含むゴム成分及び充填材を含み、該充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比が質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(30:70)であり(但し、(100:0)の場合を除く。)、tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であり、60℃におけるtanδが0.135以下であり、かつ-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
[tanδの測定方法: 動的引張粘弾性測定試験機を用いて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、3℃/分の昇温速度で-25℃から80℃におけるtanδの値を測定する。]」
と記載されており、同請求項1には、「タイヤトレッド用ゴム組成物」の「tanδ」に係る事項(当審が付した上記下線部)を発明特定事項とすることが記載されている。

(2)それに対して、本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の(a)ないし(g)の事項が記載されている。(なお、以下の摘示における下線は当審が付した。)

(a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤路面での制動性能に優れ、低燃費性が良好であるタイヤトレッド用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの社会的な要請によって、自動車の低燃費化に対する要求はより過酷なものとなりつつある。このような要求に対応するため、タイヤ性能についても転がり抵抗の減少が求められてきている。タイヤの転がり抵抗を下げる手法としては、タイヤ構造の最適化による手法についても検討されてきたものの、ゴム組成物としてより発熱の少ない材料を用いて低発熱性を向上することが最も一般的な手法として行われている。
【0003】
また、自動車走行の安全性を高める見地から湿潤路面での制動性能(以下、「ウエット制動性能」と略称する。)を確保することも重要であり、低発熱性を向上すると共にウエット制動性能を確保することも求められている。
これに対して、特許文献1では、アミン系官能基変性スチレン-ブタジエン共重合体を含むゴム成分と特定のシリカとを含むゴム組成物をトレッドに用いたタイヤが提案されている。更に、特許文献2では、乳化重合スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムからなる3種のゴムを含むゴム成分とシリカとを含むタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。
しかしながら、低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させるゴム組成物が要望されている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009-084667号
【特許文献2】特開2010-275386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを課題とするものである。」

(b)
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、まず、充填材の分散性を改良し、ゴム組成物のtanδの温度曲線において、tanδのピークをより高温にシフト(移動)させ、かつtanδのピーク値をより大きくすることを試みた。そして、本発明者は、さらなるゴム組成物の性能向上を目指して、ウェット制動性能の季節間差、すなわち夏と冬との路面温度の差に起因するウェット制動性能の変動に着目した。このウェット制動性能の季節間差は、上記のtanδのピークをより高温にシフト(移動)させ、かつtanδのピーク値をより大きくする手法では、かえって大きくなることを見出した。更に、このウェット制動性能の季節間差の原因を突き詰めると、ゴム組成物の0℃付近の温度依存性が著しく、それが季節間差を生む原因であること見出した。
【0007】
そこで、tanδの温度曲線のピーク位置の温度範囲を適切にして、0℃付近のtanδを高くすること及び0℃付近のtanδの温度依存性を小さくすること、すなわち-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値を小さくすることにより、どのような路面温度でも高いウェット制動性能が得られることを知見するに至った。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
・・(中略)・・
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させると共に、ウエット制動性能の季節間差をも低減し得るタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することができる。」

(c)
「【0011】
[ゴム組成物]
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であり、かつ-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいことを特徴とする。
ここで、tanδは、動的引張粘弾性測定試験機を用いて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、3℃/分の昇温速度で、-25℃から80℃におけるtanδの値を動的引張貯蔵弾性率E’に対する動的引張損失弾性率E’’の比(E’’/ E’)から測定する。
【0012】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物のtanδの温度曲線のピーク位置の温度は-16.0℃未満ではウエット制動性能が低下してしまい、-6.0℃より高いとゴム組成物の低温脆化性が悪化してしまう。ウエット制動性能を向上する観点から本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物のtanδの温度曲線のピーク位置の温度は-12.0℃以上-6.0℃以下であることが好ましい。tanδの温度曲線のピーク位置のtanδは1.13以下であるとウエット制動性能が低下するが、1.20より大きいとウエット制動性能がより向上するので好ましい。
また、-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)(以下、「α(/℃)」と略称することがある。)を0.045/℃より小さくすること、及び0℃におけるtanδを0.95以上とすることの双方により、低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させると共に、ウエット制動性能の季節間差をも低減することができる。ゴム組成物の0℃におけるtanδが0.95未満であるとウエット制動性能が低下することとなる。
【0013】
上記α(/℃)を図面に基づき説明する。図1は、本発明のゴム組成物及び比較例となるゴム組成物のtanδの温度曲線とそれぞれのゴム組成物のα(/℃)を図示した説明図である。図1において、本発明のゴム組成物の1例のtanδの温度曲線は実線で示されている。L1は、本発明のゴム組成物のα(/℃)を図示したものである。一方、比較例となるゴム組成物のtanδの温度曲線は破線で示されている。L2は、比較例となるゴム組成物のα(/℃)を図示したものである。図1より明らかなように、本発明のゴム組成物の0℃におけるtanδ値は、比較例となるゴム組成物の0℃におけるtanδ値より大きく、1.08である。また、本発明のゴム組成物のα(/℃)は、比較例となるゴム組成物のα(/℃)より小さい値となっており、0.035である。
【0014】
本発明のゴム組成物は、{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)、すなわちαが0.025/℃より大きく、かつ60℃におけるtanδが0.135以下であることが好ましい。αが0.025/℃より大きければ、ウエット制動性能が更に向上し、60℃におけるtanδが0.135以下であれば、低発熱性が更に向上するからである。
【0015】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させる観点から、結合スチレン含量の高いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを含むゴム成分と充填材とを含有することが好ましい。本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物のゴム成分が、少なくとも2種類の結合スチレン含量(質量%)の異なるスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むことにより、ゴム成分内の複数のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムに、それぞれ異なる機能分担を与えることが可能になるからである。
ここで、結合スチレン含量(質量%)は、^(1)H-NMRスペクトルの積分比から算出する。
【0016】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、αを0.045/℃より小さくする観点から、充填材が、前記結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)に偏在していることが好ましい。結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)に偏在させる方法として、例えば、以下の方法が好適に挙げられる。
(1)混練の第一段階で、結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)と充填材を混練した後、混練の第二段階で、結合スチレン含量の高いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)を混練する。
(2)結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)として、充填材との親和性が高い変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを用いる。
本発明において、以下、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを「SBR」と略称することがある。
【0017】
上記の(1)の方法では、結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)と充填材との分散性を更に向上するために、分散向上剤を充填材と共に混練の第一段階で加えることが好ましい。分散向上剤としては、・・(中略)・・が好適に例示される。
【0018】
本発明に係るスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)及び(B)は、乳化重合SBRであってもよいし、溶液重合SBRであってもよい。
本発明のゴム組成物の0℃におけるtanδを高くする観点から、スチレン含量が高いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)の結合スチレン含量St(A)が40質量%以上であることが好ましく、40?60質量%であることがより好ましく、40?55質量%であることが更に好ましく、40?50質量%であることが特に好ましい。
上記の(2)の方法においては、結合スチレン含量の低いスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)が、窒素含有化合物又はケイ素含有化合物により変性されてなる変性SBRであることが、充填材との親和性を高くする観点から好ましい。
また、窒素含有化合物又はケイ素含有化合物により変性されてなる変性SBRとしては、溶液重合SBRであることが好ましく、・・(中略)・・窒素及びケイ素を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物であることが特に好ましい。これらの変性SBRにより、シリカ及び/又はカーボンブラック等の充填材のゴム成分中への分散性が改良され、ゴム組成物の低発熱性が向上する。」

(d)
「【0019】
[ゴム成分]
本発明のゴム組成物のゴム成分としては、2種類以上の結合スチレン含量(質量%)の異なるSBRのみで構成されていてもよいが、本発明の課題の解決に反しない範囲で、SBR以外のジエン系ゴムを含んでもよい。ゴム成分が、2種類以上の結合スチレン含量(質量%)の異なるSBRが60?100質量%及びSBR以外のジエン系ゴム40?0質量%を含有することが好ましく、2種類以上の結合スチレン含量(質量%)の異なるSBRが80?100質量%及びSBR以外のジエン系ゴム20?0質量%を含有することが更に好ましい。
ここで、SBR以外のジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、合成ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、エチレン-ブタジエン共重合体ゴム、プロピレン-ブタジエン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ブタジエン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ハロゲン化メチル基を持つスチレンとイソブチレンの共重合体及びクロロプレンゴム等が挙げられる。
【0020】
[変性SBRの重合]
本発明において、スチレン-ブタジエン共重合体の活性末端に、ヒドロカルビルオキシシラン化合物、特に窒素及びケイ素を含むヒドロカルビルオキシシラン化合物を反応させて変性させるには、スチレン-ブタジエン共重合体は、少なくとも10%のポリマー鎖がリビング性又は擬似リビング性を有するものが好ましい。このようなリビング性を有する重合反応としては、有機アルカリ金属化合物を開始剤とし、有機溶媒中でスチレンとブタジエンとをアニオン重合させる反応が好ましい。アニオン重合により、共役ジエン部のビニル結合含有量の高いものを得ることができ、ガラス転移温度Tgを所望する温度に調節することができる。ビニル結合量を高くすることによって耐熱性を向上させることができ、シス-1,4結合含有量を高くすることにより低燃費性や氷雪性能を向上させることができる。
・・(中略)・・
【0031】
上記変性剤による変性反応において、該変性剤の使用量は、好ましくは0.5?200mmol/kg・スチレン-ブタジエン共重合体である。同含有量は、更に好ましくは1?100mmol/kg・スチレン-ブタジエン共重合体であり、特に好ましくは2?50mmol/kg・スチレン-ブタジエン共重合体である。ここで、スチレン-ブタジエン共重合体とは、製造時又は製造後、添加される老化防止剤などの添加剤を含まないポリマーのみの質量を意味する。変性剤の使用量を上記範囲にすることによって、充填材の分散性に優れ、加硫後の機械特性、耐摩耗性、低燃費性が改良される。
【0032】
なお、上記変性剤の添加方法は、特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、あるいは、連続的に添加する方法などが挙げられるが、一括して添加する方法が好ましい。
また、変性剤は、重合開始末端、重合終了末端、重合体主鎖、側鎖のいずれに結合していてもよいが、重合体末端からエネルギー消失を抑制して低燃費性を改良しうる点から、重合開始末端あるいは重合終了末端に導入されていることが好ましい。
・・(中略)・・
【0034】
本発明のゴム組成物に用いられるSBR(A)及び(B)は、変性前又は変性後の重量平均分子量(Mw)が100,000?800,000であることが好ましく、150,000?700,000であることが更に好ましい。重量平均分子量を前記範囲内にすることによって加硫物の弾性率の低下、ヒステリシスロスの上昇を抑えて優れた耐破壊特性を得ると共に、SBR(A)及び(B)を含むゴム組成物の優れた混練作業性が得られる。重量平均分子量は、GPC法に基づき、標準ポリスチレン換算により得られる。」

(e)
「【0035】
[充填材]
本発明のゴム組成物は、充填材として、ゴム成分100質量部に対して、充填材30?150質量部を含有することが好ましく、40?120質量部を含有することがより好ましい。30質量部以上であれば、耐摩耗性が向上し、150質量部以下であれば、低燃費性が向上する。
この充填材は、シリカ及び/又はカーボンブラックであることが好ましい。特に、充填材が、シリカ単独、又はシリカ及びカーボンブラックであることが好ましく、シリカとカーボンブラックとの含有比(シリカ:カーボンブラック)が、質量比で(100:0)?(30:70)であることが好ましく、(100:0)?(50:50)であることがより好ましい。シリカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、10?100質量部であることが好ましく、30?80質量部であることがより好ましい。この範囲であれば、低燃費性、氷雪性能及び耐摩耗性がより良好となり、かつウエット制動性能をより向上することができる。
・・(中略)・・
【0039】
カップリング剤としての効果及びゲル化防止などの点から、このシランカップリング剤の好ましい配合量は、質量比(シランカップリング剤/シリカ)が(1/100)?(20/100)であることが好ましい。(1/100)以上であれば、ゴム組成物の低発熱性向上の効果をより好適に発揮することとなり、(20/100)以下であれば、ゴム組成物のコストが低減し、経済性が向上するからである。更には質量比(3/100)?(20/100)であることがより好ましく、質量比(4/100)?(10/100)であることが特に好ましい。
【0040】
更に、本発明に係るゴム組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、プロセス油、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸などを含有させることができる。
上記加硫剤としては、硫黄等が挙げられ、その使用量は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として0.1?10.0質量部が好ましく、更に好ましくは1.0?5.0質量部である。0.1質量部未満では加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性、低燃費性が低下するおそれがあり、10.0質量部を超えるとゴム弾性が失われる原因となる。
・・(中略)・・
【0042】
また、本発明に係るゴム組成物に使用できる軟化剤として用いられるプロセスオイルとしては、SBRとの相溶性の観点から、芳香族系オイルが用いられる。また、低温特性を重視する観点から、ナフテン系オイル又はパラフィン系オイルが用いられる。その使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0?100質量部が好ましく、100質量部以下であれば加硫ゴムの引張強度、低燃費性(低発熱性)が悪化するのを抑制することができる。」

(f)
「【0044】
[ゴム組成物の調製、空気入りタイヤの作製]
本発明のゴム組成物は、前記配合処方により、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって得られ、成形加工後、加硫を行い、空気入りタイヤのトレッド、特にトレッド接地部として好適に用いられる。
本発明のゴム組成物をトレッドに用いて通常のタイヤの製造方法によってタイヤが製造される。すなわち、前記のように各種薬品を含有させた本発明のゴム組成物が未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
このようにして、低発熱性及びウエット制動性能の良好なタイヤ、特に空気入りタイヤを得ることができる。」

(g)
「【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中の各種の測定は下記の方法によっておこなった。
<結合スチレン含量(質量%)の測定方法>
^(1)H-NMRスペクトルの積分比から算出した。
<tanδの測定方法>
上島製作所(株)製スペクトロメーター(動的引張粘弾性測定試験機)を用いて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、3℃/分の昇温速度で、-25℃から80℃におけるtanδの値を動的引張貯蔵弾性率E’に対する動的引張損失弾性率E’’の比(E’’/ E’)から測定した。
【0046】
[タイヤ性能評価]
<ウエット制動性能>
タイヤサイズ195/65R15の試験タイヤ4本を排気量2000ccの乗用車に装着し、その乗用車をテストコースの路面温度を10℃および30℃に設定したウェット評価路で走行させ、時速80km/hrの時点でブレーキを踏んでタイヤをロックさせ、停止するまでの距離を測定した。結果は、路面温度10℃における制動距離の逆数を比較例1のタイヤを100として指数表示し、路面温度30℃における制動距離の逆数を実施例4のタイヤを100として指数表示した。指数値が大きいほど、ウエット制動性能が良好である。
ウエット制動性能指数={(比較例1又は実施例4のタイヤの停止するまでの距離)/(供試タイヤの停止するまでの距離)}×100
<低発熱性>
タイヤサイズ195/65R15のタイヤにつき、回転ドラムにより80km/hの速度で回転させ、荷重を4.41kNとして、転がり抵抗を測定した。対照タイヤ(比較例1)の転がり抵抗の逆数を100として指数表示した。指数値が大きいほど、転がり抵抗が低く、低発熱性が優れることを示す。
低発熱性指数={(比較例1のタイヤの転がり抵抗)/(供試タイヤの転がり抵抗)}×100
・・(中略)・・
【0051】
実施例1?6及び比較例1?2
第1表に示す配合組成を有する8種のゴム組成物を調製し、タイヤサイズ195/65R15の乗用車用空気入りラジアルタイヤのトレッド接地部に実施例1?6及び比較例1?2のゴム組成物を配設して、8種類の乗用車用空気入りラジアルタイヤを作製して、加硫ゴム物性tanδ、ウエット制動性能及び低発熱性を評価した。評価結果を第1表に示す。なお、tanδは、タイヤから加硫ゴム試験片を切り出して評価した。
【0052】
【表1】


[注]
*1: 乳化重合SBR:JSR株式会社製、商品名「JSR 0202」、結合スチレン含量=46質量%、非油展
*2: 乳化重合SBR:日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1739」、結合スチレン含量=40質量%、ゴム100質量部に対して37.5質量部油展
*3: 乳化重合SBR:JSR株式会社製、商品名「JSR 0122」、結合スチレン含量=37質量%、ゴム100質量部に対して37.5質量部油展
*4: 溶液重合SBR:製造例1で得られた無変性SBR(B-1)、結合スチレン含量=25質量%
*5: 溶液重合SBR:製造例2で得られた、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン変性である変性SBR(B-2)、結合スチレン含量=25質量%
*6: 溶液重合SBR:製造例3で得られた、テトラエトキシシラン変性である変性SBR(B-3)、結合スチレン含量=35質量%
*7: カーボンブラック:N234、東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」
*8: シリカ:東ソー・シリカ株式会社製、商品名「ニップシールAQ」
*9: シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、Evonik社製、商品名「Si69」(登録商標)
*10: プロセスオイル: 処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、JX日鉱日石エネルギー株式会社製、商品名「TDAE」
*11: 加硫促進剤DPG:大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーD」
*12: 老化防止剤6PPD:N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック6C」
*13: 加硫促進剤DM:ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーDM」
*14: 加硫促進剤NS:N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーNS」
【0053】
第1表から明らかなように、実施例1?6のゴム組成物は、比較例1及び2のゴム組成物と比較して、いずれのゴム組成物も路面温度10℃におけるウエット制動性能、路面温度30℃におけるウエット制動性能、及び低発熱性がバランスよく良好であった。」

2.検討

(1)前提事項
上記本件明細書の記載につき検討するにあたり、前提となる技術事項(ないし当業者の技術常識)を示す。

ア.「加硫」の有無及び度合い
本件発明の「タイヤトレッド用ゴム組成物」は、ゴム組成物を調製した後、当該組成物を成形加工して、加硫を行い、空気入りタイヤのトレッド(接地部)を構成するために使用されるものと理解される(必要ならば上記摘示(f)の【0044】等参照。)。
しかるに、上記「加硫」は、通常の熱可塑性ポリマーであるSBR等の(生)ゴムにつき、そのゴムの分子間を架橋して架橋ゴムとする工程であり、加硫前の(生)ゴムがゴム弾性を示さないものであっても、加硫後にはゴム弾性を示すものとなる等、加硫工程の前後において、ゴム(組成物)の弾性などの機械的特性が大きく変化することが、当業者に自明である。
また、上記「加硫」は、その度合いによっても、加硫後のゴム(組成物)の弾性などの機械的特性が大きく変化することが当業者に自明である(この点につき必要ならば上記摘示(e)の【0040】等参照。)。

イ.「tanδ」について
本件発明において発明特定事項とされている「tanδ」なる物性値は、「損失正接」とも称呼され、本件明細書でも定義される(上記摘示(c)【0011】)とおり、動的粘弾性測定による動的貯蔵弾性率E’に対する動的損失弾性率E’’の比(E’’/ E’)であり、温度依存性を有する物性値であることが当業者の技術常識である。
なお、上記「動的貯蔵弾性率E’」及び「動的損失弾性率E’’」のそれぞれ自体も温度依存性を有する物性値であり、さらに独立して変化する物性値であることも当業者の技術常識である。
また、複数の成分からなる組成物につき、その組成物に係る上記動的粘弾性測定をしないで(事前に)予測・算出することができるような物性値でないことも当業者に自明な事項である。
(例えば、2種のモノマーからなる熱可塑性共重合体のガラス転移温度(Tg)なる物性値は、いわゆる加成則が成立し、各モノマーの単独重合体のTg及び共重合比に基づき、事前に一定程度の範囲で当該Tg値につき予測・算出できるが、複数種のポリマー(ゴム)材料及び添加剤などが混合され、さらに架橋(加硫)などが施されるポリマー組成物の「tanδ」について、そのようなtanδ値の予測・算出が事前にできる当業者の技術常識としての手法が存するものとは認められない。)

(2)検討
上記前提事項を踏まえて、本件明細書の記載につき検討すると、成形加工及び加硫によりタイヤトレッドとなった後のゴム組成物のtanδなる物性とタイヤの湿潤路面における制動性能及び低燃費性との対応関係については、一応認識できる(摘示(b)及び(c)の【0011】?【0014】参照)ところ、特許権者が平成29年7月12日付け意見書に添付して提示した乙第12号証の実験結果に係る開示からみて、タイヤトレッド用のゴム組成物の技術分野において、SBRを含めた汎用のゴム成分の種別及びその使用量比並びにシリカ及びカーボンブラックという汎用の充填剤などの添加剤の種別及びその使用量比を、通常の試行錯誤により適宜選択することによって、上記tanδを調節することは、当業者の技術常識に属することであるものと認められる。
なお、本件明細書には、0℃におけるtanδを高くするためにスチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)のスチレン含量を調節することが記載されている(摘示(c)、特に【0018】などを参照。)ところ、当該事項は、上記通常の試行錯誤において、ゴム成分としてスチレン-ブタジエン共重合ゴムを使用する場合にスチレン含量を調節することにより、SBRのガラス転移温度(Tg)を調節し、もってゴム組成物全体のtanδの調節ができることをいうものと理解するのが自然である。
さらに、本件明細書の実施例及び比較例に係る記載を検討すると、複数種のうち2種のSBRの混合物100又は115質量部に対してシリカ50質量部とカーボンブラック5質量部との充填剤混合物及び他の添加剤を添加し混練して原料組成物を製造した後、単一の成形加工及び加硫の条件に付して成形試験片を製造する、限られた実験例(実施例及び比較例)に係る記載のみではあるものの、当該各実験例の結果の対比に基づき、上記当業者の技術常識に照らすと、いかなる成分をいかなる組成比で使用して原料組成物を構成し、いかなる条件で成形加工及び加硫を行うことにより、請求項1に記載のtanδに係る上記3つの条件事項に同時に適合するタイヤトレッドが製造できるかを、上記技術常識に基づき当業者が通常の試行錯誤を行うことにより認識することができるものと認められる。
以上を総合すると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当該記載に基づき、当業者の技術常識に照らして、通常の試行錯誤を行うことによって、上記本件請求項1のtanδに係る事項を具備するタイヤトレッド用ゴム組成物を得ることができるものと認められる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1及び同項を引用する請求項2ないし15に係る各発明を当業者が実施することができる程度に記載したものというべきである。

3.まとめ
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものであるから、申立人が主張し、当審も通知した取消理由3は理由がない。

II.取消理由4について
申立人が主張する取消理由4につき検討すると、本件発明に係る解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0005】)からみて、「低発熱性とウエット制動性能とをより高度に両立させるタイヤトレッド用ゴム組成物」の提供にあるものと認められる。
そして、特許権者が提示した乙第1号証(「図5-1-29」)、乙第6号証(「図1」)及び乙第10号証(「図1」)などにもぞれぞれ開示されているとおり、-20℃?0℃付近の範囲にtanδのピークがあり、さらにそのピークにおけるtanδ値が大きい場合にウェット(制動・スキッド抵抗)性能が向上すること及び50℃?60℃の範囲におけるtanδ値が小さい場合に転がり抵抗及び低燃費性能が向上することは、いずれも当業者の技術常識であるものと認められるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載された事項に加え、上記当業者の技術常識に照らすと、請求項1に記載された「tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であ」ること及び「60℃におけるtanδが0.135以下であ」ることという2つの事項をいずれも具備することにより、本件発明1は、上記解決しようとする課題を解決できるであろうと当業者が認識することができるものと認められる。
してみると、本件発明1及び同発明を引用する本件発明2ないし15は、いずれも、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものというべきである。
したがって、申立人が主張する取消理由4は、理由がない。
(よって、上記2回の取消理由通知では、この取消理由4につき通知しなかった。)

III.取消理由1及び2について
上記取消理由1及び2は、特許性(新規性又は進歩性)に係る取消理由であるから、上記各甲号証に係る記載事項の摘示並びに各甲号証に記載された発明の認定をそれぞれ行うべきではあるが、事案に鑑み、各甲号証に係る記載事項の摘示については、下記1.のとおり、申立人が申立書で主張する事項を援用し、各甲号証に記載された発明の認定は、必要に応じて行うこととして、検討を進める。

1.各甲号証に記載された事項

(1)甲1
上記甲1には、申立人が申立書第13頁第22行ないし第16頁末行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(2)甲2
上記甲2には、申立人が申立書第17頁第4行ないし第20頁第4行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、「実施例1」に係る加硫硬化後のゴム組成物につきtanδのピークが0℃付近にあることも記載されている(【図1】参照)。)

(3)甲3
上記甲3には、申立人が申立書第20頁第9行ないし第23頁上段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき30℃におけるtanδに係る事項が記載されているのみである(【表1】参照)。)

(4)甲4
上記甲4には、申立人が申立書第23頁末行ないし第25頁中段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき70℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表1】ないし【表4】参照)。)

(5)甲5
上記甲5には、申立人が申立書第25頁下から第9行ないし第29頁上段(【表2】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき0℃、30℃及び60℃における各tanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表2】参照)。)

(6)甲6
上記甲6には、申立人が申立書第30頁第1行ないし第33頁上段(【表2】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき0℃、30℃及び60℃における各tanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表2】参照)。)

(7)甲7
上記甲7には、申立人が申立書第34頁第2行ないし第36頁第15行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(8)甲8
上記甲8には、申立人が申立書第36頁第19行ないし第39頁第12行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(9)甲9
上記甲9には、申立人が申立書第39頁第16行ないし第42頁中段(【表2】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(10)甲10
上記甲10には、申立人が申立書第42頁下から第3行ないし第45頁上段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(11)甲11
上記甲11には、申立人が申立書第45頁下から第2行ないし第48頁上段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(12)甲12
上記甲12には、申立人が申立書第49頁第1行ないし第50頁中段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(13)甲13
上記甲13には、申立人が申立書第51頁第2行ないし第52頁末行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(14)甲14
上記甲14には、申立人が申立書第53頁第4行ないし第54頁末行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(15)甲15
上記甲15には、申立人が申立書第55頁第4行ないし第57頁第2行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき60℃におけるtanδに係る事項が記載されているのみである(【表3】参照)。)

(16)甲16
上記甲16には、申立人が申立書第57頁第6行ないし第59頁表下第3行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき30℃におけるtanδに係る事項が記載されているのみである(【表3】参照)。)

(17)甲17
上記甲17には、申立人が申立書第59頁下から第6行ないし第62頁第3行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき0℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表1】参照)。)

(18)甲18
上記甲18には、申立人が申立書第62頁第7行ないし第63頁末行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき60℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである([0044]、[表1]ないし[表4]参照)。)

(19)甲19
上記甲19には、申立人が申立書第64頁第4行ないし第66頁上段([表4])で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき60℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである([0044]、[表1]ないし[表5]参照)。)

(20)甲20
上記甲20には、申立人が申立書第67頁第2行ないし第68頁第14行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき0℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表1】参照)。)

(21)甲21
上記甲21には、申立人が申立書第68頁第18行ないし第72頁第4行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(22)甲22
上記甲22には、申立人が申立書第72頁第8行ないし第76頁第4行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき60℃におけるtanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表1】参照)。)

(23)甲23
上記甲23には、申立人が申立書第76頁第8行ないし第81頁第16行で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき0℃及び60℃における各tanδに係る事項が指数表記で記載されているのみである(【表1】参照)。)

(24)甲24
上記甲24には、申立人が申立書第81頁第20行ないし第84頁上段(【表5】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(25)甲25
上記甲25には、申立人が申立書第84頁表下第4行ないし第86頁上段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(26)甲26
上記甲26には、申立人が申立書第86頁表下第4行ないし第88頁上段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

(27)甲27
上記甲27には、申立人が申立書第88頁表下第4行ないし第90頁中段(【表1】)で主張するとおりの事項が記載されている。(なお、加硫硬化後のゴム組成物につき「tanδ」に係る事項が記載又は示唆されていない。)

2.対比・検討

(1)本件発明1について
上記甲1ないし甲27の記載を検討すると、ウェット(制動・スキッド抵抗)性能の向上のためにtanδのピークが-20℃?0℃付近にあるべきこと(甲2、甲5、甲6、甲17、甲20及び甲23)及びそのピーク、0℃又は30℃におけるtanδ値が大きいこと(甲3、甲5、甲6、甲16、甲17、甲20及び甲23)並びに転がり抵抗及び低燃費性能の向上のために50℃?70℃付近の範囲におけるtanδ値が小さいこと(甲4ないし甲6、甲15、甲18、甲19、甲22及び甲23)については、一部の甲号証に記載又は示唆されており、それら複数の性能の両立を図るために、0℃付近のtanδ値は大きく、60℃付近のtanδ値は小さくすべきことも記載又は示唆されてはいる(甲5、甲6及び甲23)。
しかしながら、上記甲1ないし甲27には、本件発明1における「tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であり、60℃におけるtanδが0.135以下であり、かつ-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいこと」を同時に全て具備すべきこと、特に「-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいこと」を具備すべきことにつき、記載又は示唆されていない。
なお、申立人は、申立書において、各甲号証に記載のものであれば「請求項1の構成要件C-Gの各パラメータを満たす蓋然性が非常に高い」と主張している(第90頁ないし第243頁)が、当該「蓋然性」に至る技術的理由などの論拠が不明であり、当該主張を直ちに採用することはできず、また、特許権者が平成29年7月12日付け意見書に添付して提示した乙第5号証の実験結果に係る開示を参酌すると、甲3の実施例のものであっても上記「tanδ」に係る事項を具備しておらず、上記「蓋然性」が存するものと認めることはできないから、申立人の上記主張は採用することができない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(比較例)に係る記載(特に【表1】)からみて、本件発明の上記「tanδ」に係る事項を具備する実施例のものが、同事項を具備しない比較例のものに比して、低発熱性は維持した状態で10℃又は30℃におけるウェット制動性能が向上していることが看取できるから、本件発明は、上記「tanδ」に係る事項の点で特異な効果を奏しているものと認められる。
してみると、本件発明の上記「tanδ」に係る事項は、上記甲1ないし甲27に記載されていない実質的な相違点であり、また、甲1ないし甲27に記載されている技術において、当業者が適宜なし得ることとはいえない。
したがって、本件発明1は、上記甲1ないし甲27に記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲27に記載されている技術又はそれらの技術の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

(2)本件発明2ないし15について
本件発明2ないし15は、いずれも本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるところ、本件発明1が、上記(1)で説示した理由により、上記甲1ないし甲27に記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲27に記載されている技術又はそれらの技術の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえないのであるから、本件発明2ないし15についても、上記甲1ないし甲27に記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲27に記載されている技術又はそれらの技術の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。

(3)小括
よって、本件発明1ないし15は、いずれも、甲1ないし甲27に記載された発明であるということはできず、甲1ないし甲27に記載されている技術又はそれらの技術の組合せに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものでもない。

3.取消理由1及び2に係るまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも、特許法第29条に違反してされたものではないから、申立人が主張する取消理由1及び2はいずれも理由がない。
(よって、上記2回の取消理由通知では、この取消理由1及び2につき通知しなかった。)

第7 むすび
以上のとおり、申立人が主張する理由及び証拠並びに当審が通知した理由では、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許につき、取り消すことはできない。
また、ほかに、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許につき、取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含むゴム成分及び充填材を含み、該充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比が質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(30:70)であり(但し、(100:0)の場合を除く。)、tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-16.0℃以上-6.0℃以下にあって、ピーク位置のtanδが1.13よりも大きく、0℃におけるtanδが0.95以上であり、60℃におけるtanδが0.135以下であり、かつ-5℃におけるtanδと5℃におけるtanδとの差の絶対値を-5℃と5℃との温度差で除した値{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.045/℃より小さいことを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
[tanδの測定方法: 動的引張粘弾性測定試験機を用いて、周波数52Hz、初期歪2%、動歪1%、3℃/分の昇温速度で-25℃から80℃におけるtanδの値を測定する。]
【請求項2】
前記{|(-5℃におけるtanδ)-(5℃におけるtanδ)|/10}(/℃)が0.025/℃より大きい請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記tanδの温度曲線のピーク位置の温度が-12.0℃以上である請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記充填材中のシリカとカーボンブラックの含有比は、質量比(シリカ:カーボンブラック)で(100:0)?(50:50)である(但し、(100:0)の場合を除く。)請求項1?3のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記充填材中のシリカは、前記ゴム成分100質量部に対して、10?100質量部である請求項1?4のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記充填材中のシリカは、前記ゴム成分100質量部に対して、30?80質量部である請求項5に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記充填材中のシリカのBET比表面積は150m^(2)/g以上である請求項1?6のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分100質量部に対して、前記充填材30?55質量部を含有する請求項1?7のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項9】
前記ゴム成分は、結合スチレン含量が37?60質量%のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と結合スチレン含量が25?35質量%のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを60?100質量%含む請求項1?8のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
[結合スチレン含量(質量%)の測定方法: ^(1)H-NMRスペクトルの積分比から算出する。]
【請求項10】
前記充填材が、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)に偏在している請求項9に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項11】
前記ゴム成分は、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを60?100質量%、並びにスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムを40?0質量%を含有する請求項9又は10に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項12】
前記ゴム成分は、前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)とを80?100質量%、並びにスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のジエン系ゴムを20?0質量%を含有する請求項11に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項13】
前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(A)の結合スチレン含量St(A)と前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)の結合スチレン含量St(B)との差[{St(A)}-{St(B)}]が11質量%以上である請求項9?12のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項14】
前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(B)が、窒素含有化合物、ケイ素含有化合物、並びに窒素及びケイ素含有化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものである請求項9?13のいずれか1項に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項15】
前記窒素含有化合物、ケイ素含有化合物、並びに窒素及びケイ素含有化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物が、ヒドロカルビルオキシシラン化合物である請求項14に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-07 
出願番号 特願2012-148065(P2012-148065)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平海老原 えい子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 渕野 留香
橋本 栄和
登録日 2016-04-08 
登録番号 特許第5914216号(P5914216)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 タイヤトレッド用ゴム組成物  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  
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