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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
管理番号 1340064
異議申立番号 異議2016-700738  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-12 
確定日 2018-03-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5931519号発明「茶葉ペクチン含有飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5931519号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第5931519号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5931519号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成24年3月12日に出願され、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年8月12日に特許異議申立人市東勇(以下「申立人A」という。)より、平成28年12月8日に特許異議申立人尾田久敏(以下「申立人B」という。)よりそれぞれ特許異議の申立てがされ、平成29年2月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年4月24日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年6月7日に申立人Aから、同9日に申立人Bから、それぞれ意見書が提出されたものである。
そして、平成29年8月30日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年11月6日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年12月13日に申立人Aから、同19日に申立人Bから、それぞれ意見書が提出された。
なお、平成29年11月6日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成29年4月24日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正について
1 訂正の内容
平成29年11月6日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?2について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
訂正前の請求項1に
「以下の成分(a)?(c);
(a)茶葉由来のペクチン 0.003?0.1%
(b)グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml
(c)カテキン類 100?600ppm
を含有し、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.25以下である、容器詰茶飲料。」
とあるのを、
「以下の成分(a)?(c);
(a)茶葉由来のペクチン 0.052?0.1%
(b)グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml
(c)カテキン類 110?590ppm
を含有し、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24である、容器詰緑茶飲料。」(下線は訂正箇所を示す。)
と訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2も訂正する。

2 訂正の適否
本件訂正は、茶葉由来のペクチンの含有量の範囲を「0.003?0.1%」から「0.052?0.1%」に狭め、カテキン類の含有量の範囲を「100?600ppm」から「110?590ppm」に狭め、濁度の範囲を「0.25以下」から「0.006?0.24」に狭めるとともに、「茶飲料」を「緑茶飲料」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を引用する請求項2についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、特許明細書に、茶葉由来のペクチンの含有量が0.052%の実施例として、茶飲料6、7、10、11が記載され、カテキン類の含有量が110ppmの実施例として、茶飲料6、7が記載され、同じく590ppmの実施例として、茶飲料10、11が記載され、濁度が0.006の実施例として、茶飲料6、10が記載され、同じく0.24の実施例として、茶飲料7、11が記載され、茶飲料として緑茶飲料が記載されている(【0015】、【0016】)から、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
以下の成分(a)?(c);
(a)茶葉由来のペクチン 0.052?0.1%
(b)グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml
(c)カテキン類 110?590ppm
を含有し、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24である、容器詰緑茶飲料。

【請求項2】
成分(c)におけるガレート型カテキン類(C’)の割合[C’/C×100(%)]が、40?95%である、請求項1に記載の茶飲料。

第4 取消理由の概要
平成29年2月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(理由1、2)特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、以下の点で、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
また、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、以下の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)コク味と渋味の「バランス」の評価基準が明確でないため、当業者は本件発明の効果を確認することができない。
(2)本件発明は、濁度の数値範囲が、所定の効果を奏しない範囲を含んでいる。
(3)請求項1に記載された数値範囲の全てについて効果が確認されていない。

(理由3)特許法第29条第2項
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、引用例1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用例1:国際公開2009/116538号(両特許異議申立人の甲第2号証)
引用例2:特開2009-55906号公報(両特許異議申立人の甲第1号証)
引用例3:島田和子、「緑茶浸出液中の茶葉サポニンと水溶性ペクチンの分析」、日本家政学会誌、2003年、Vol.54、No.11、p.957-962(申立人Bの甲第4号証)
引用例4:特開2007-1893号公報(申立人Aの甲第3号証)

第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 (理由1、2)特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号について
(1)コク味と渋味の「バランス」の評価基準について
コク味と渋味のバランスに関し、本件明細書には
「本発明の目的は、旨みやコク味が強く、渋味が抑えられ、かつ旨みと渋味のバランスがとれた容器詰茶飲料で、長期保存した場合にもオリの発生が抑制された容器詰茶飲料を提供することにある。」(【0009】)
と記載されているから、コク味が強く、渋味が抑えられることで、コク味と渋味のバランスが好ましいものとなることが理解できる。
そこで、コク味が強く、渋味が抑えられていると評価するための基準が本件明細書から理解できるかを検討する。
本件明細書には、
「本発明の茶飲料においては、茶葉ペクチンとグリセロ糖脂質が協同的に作用することによって、両者が苦味抑制剤及び/又はコク味増強剤の有効成分として機能している。」(【0017】)、
「本発明の茶飲料では、前記成分(a)の含有重量が、茶飲料の重量に対して0.003?0.1%、好ましくは0.003?0.02%の範囲となるように配合する。・・・0.003%未満では、茶葉ペクチンのコク味増強効果が十分に知覚できない場合がある。」(【0018】)(「・・・」は記載の省略を意味する。以下同じ。)、
「また、前記成分(b)の含有重量は、茶飲料に対して0.1?20μg/ml、好ましくは0.1?15μg/ml、より好ましくは0.1?10μg/ml、特に好ましくは0.1?5μg/mlの範囲となるように配合する。・・・グリセロ糖脂質が0.1μg/ml未満であると、上記成分(a)が好ましい範囲にあっても、飲用中期や飲用後期のコク味を知覚することができず、渋味や旨みのバランスのとれた茶飲料とはならない。」(【0019】)
と記載されているから、コク味を増強し、コク味と渋味のバランスを良好なものとするために、茶葉ペクチン(成分(a))とグリセロ糖脂質(成分(b))を所定量以上含有させる必要があるものといえる。
さらに、
「このように成分(a)及び成分(b)を特定濃度で配合するには、主成分となる茶葉(例えば、緑茶)の抽出液に、茶葉ペクチンを高含有する茶抽出液(以下、「茶エキスA」という)とグリセロ糖脂質を高含有する溶液(以下、「エキスB」といい、茶抽出液の場合には「茶エキスB」という)を混合して茶飲料を製造することができる。」(【0020】)、
「本発明者らは、茶葉をペクチナーゼ活性の少ないセルラーゼで処理し、抽出を行って得られる茶エキス(以下、酵素処理エキス)が、茶葉ペクチンを高濃度で含有することを見出している。この酵素処理エキスは、本発明の茶エキスAの好ましい態様の一つとして例示できる。」(【0022】)、
「前記エキスBには、通常の方法により合成したものを用いてもよいし、市販の化合物を用いてもよい・・・。この茶エキスBは、例えば石臼挽きのような細胞壁を破壊しうる粉砕工程を経た茶葉から、水などによる細胞膜成分を溶出させる抽出処理を行うことで調製することができる」(【0023】)
と記載されているから、茶葉ペクチン(成分(a))とグリセロ糖脂質(成分(b))を所定量以上含有させるためには、茶葉の抽出液それ自体では足りず、茶葉ペクチンを高濃度で含有する酵素処理エキス(茶エキスA)や、合成物、市販の化合物、あるいは、粉砕工程を経た茶葉から調整したエキス(エキスB)を混合する必要があるといえる。
すなわち、茶エキスAやエキスBを混合していない緑茶飲料は、茶葉ペクチンとグリセロ糖脂質の含有量が低く、このような緑茶飲料に対して、茶葉ペクチンとグリセロ糖脂質を所定量以上含有させることで、コク味を増強し、コク味と渋味のバランスを良好なものとすることが理解できる。
そうすると、コク味が強く、渋味が抑えられていると評価するための基準として、茶エキスAやエキスBを混合しておらず、茶葉ペクチンとグリセロ糖脂質の含有量が低い緑茶飲料が想定されていることが理解できる。
一方で、コク味が強く、渋味が抑えられているとしても、コク味が強すぎたり、渋味が少なすぎる緑茶飲料が好ましいものでないことは、当然のことであるから、好ましい緑茶飲料とするために、コク味の強さには上限があり、渋味の低さには下限があるといえる。
以上によれば、茶エキスAやエキスBを混合しておらず、茶葉ペクチンとグリセロ糖脂質の含有量が低い緑茶飲料と比べて、コク味が強く、渋味が抑えられており、かつ、コク味の強さが所定の上限の範囲内で、渋味の低さが所定の下限の範囲内である緑茶飲料を「コク味と渋味のバランスが好ましい」と評価したものと理解できる。
そして、本件明細書の実施例において、茶エキスAやエキスBを混合していない茶飲料は明記されていないものの、ペクチンとグリセロ糖脂質の含有量が最も少ない茶飲料17は、茶エキスAやエキスBを混合していないか、混合していたとしてもごくわずかであると認められ、当該茶飲料17に比べて、コク味が強く、渋味が抑えられており、かつ、コク味の強さが所定の上限の範囲内で、渋味の低さが所定の下限の範囲内であることを確認することにより、効果を確認することができるといえる。
また、上記のとおり、「コク味と渋味のバランスが好ましい」と評価されるコク味と渋味には、所定の範囲があることから、本件明細書の【表1】に示される、カテキン含有量のみが異なる試料6、7と試料10、11が、いずれも「○:コク味と渋味のバランスが好ましい」と評価されていることは、特に不自然ではない。
したがって、本件明細書の記載に照らして「コク味と渋味のバランスが好ましい」とする評価基準は理解できるから、当該評価基準が明確でないことを理由として、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

(2)濁度の数値範囲について
上記第2のとおり、本件訂正が認められ、本件発明の濁度(OD680nmにおける吸光度)は0.006?0.24と特定されるものとなった。
そして、濁度が0.006の実施例である茶飲料6、10、同じく0.24の実施例である茶飲料7、11は、いずれも、コク味と渋味のバランスが良好で、保存安定性も良好であったことが示されている。
よって、本件発明の濁度の数値範囲が、所定の効果を奏しない範囲を含むことを理由とする取消理由は、解消した。

(3)請求項1に記載された数値範囲の全てについて効果が確認されているかについて
本件明細書において、実施例として【表1】に記載された茶飲料のうち、本件発明1の実施例に相当するのは、茶飲料6、7、10、11、26、27である。これら茶飲料の分析値、評価結果は以下のとおりである。

6 7 10 11 26 27
カテキン(ppm) 110 110 590 590 350 350
OD680 0.006 0.24 0.006 0.24 0.130 0.130
ペクチン(%) 0.052 0.052 0.052 0.052 0.100 0.100
グリセロ(μg/ml) 10 10 10 10 0.1 20
飲用初期 ○ ○ ○ ○ ○ ○
飲用中期 ○ ○ ○ ○ ○ ○
飲用後期 ○ ○ ○ ○ ○ ○
保存安定性 ○ ○ ○ ○ ○ ○

本件発明1は、カテキン類が110?590ppm、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24、茶葉由来のペクチンが0.052?0.1%、グリセロ糖脂質が0.1?20μg/mlと特定するものであるところ、上記カテキン類、濁度、グリセロ糖脂質については、それらの上下限値及び中間値において効果が確認されている。また、上記茶葉由来のペクチンについては、上下限値において効果が確認されているとともに、下限値よりも低い0.003%の場合(茶飲料22、23)にも効果が確認されている。
以上によれば、カテキン類、濁度(OD680nmにおける吸光度)、茶葉由来のペクチン、グリセロ糖脂質の、本件発明1に特定される数値範囲における効果は十分に確認されているといえる。
したがって、請求項1に記載された数値範囲の全てについて効果が確認されていないことを理由として、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえず、また、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

2 (理由3)特許法第29条第2項について
(1)引用例
ア.取消理由通知において引用した引用例1(国際公開2009/116538号)には、以下の事項が記載されている。

「請求の範囲
[1] 粉砕茶葉、及びグリセロ糖脂質1.0μg/ml以上を含み、かつ680nmにおける吸光度が0.25以下である、茶飲料。
[2] カテキン類1重量部に対しグリセロ糖脂質を0.002重量部以上含む、請求項1記載の茶飲料。」

「[0005] 他方、グリセロ糖脂質は、微生物により生産される(特許文献9、10)ほか、茶を含む植物の膜画分にも広く含まれることが知られている成分であるが(非特許文献1)・・・」

「[0007] 本発明者らは、茶飲料について、コク味成分となる画分を分取することを検討した。その結果、ある茶抽出物に含まれうる、ゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分がコク味と相関のある成分であることを見出した。そして、この可溶性高分子画分は、通常の茶葉の水又は熱水抽出物には含まれず、石臼で微粉砕された茶葉など細胞壁が破壊された茶葉の溶媒抽出物中に存在する成分であることを明らかにした。
[0008] また、このゲル濾過クロマトグラフィーの400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分をさらに分画し、コク味改善に有効な成分を探索した結果、グリセロ糖脂質であることを明らかにした。そして、400nmの吸収により検出される分子量30万以上の可溶性高分子画分が0.30μg/ml(色素換算量)以上、すなわちグリセロ糖脂質が1.0μg/ml以上となるように調整した茶飲料は、豊かなコク味を有し、濃厚感のある茶飲料であることを見出し、本発明を完成するに至った。」

「[0010] 本発明の茶飲料の呈味改善剤に含まれる可溶性高分子画分、すなわちグリセロ糖脂質は、高級茶葉に僅かに含まれる成分であり、この呈味改善剤を配合して得られる茶飲料は、室温以下の温度、具体的には冷蔵の温度(0?20℃程度)で飲用した場合にも、高級茶が有している、まったりとした自然な甘さを感じさせる、高級感あふれる茶飲料として提供される。
[0011] 本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉由来の可溶性高分子画分であるので、茶飲料に配合しても異味の発生や喉越しの悪さという問題を発生させることなく、旨味やコク味(特に、コク味)を改善することができる。
[0012] また本発明によると、コク味が増すという粉末茶葉を多く含む飲料の利点を有しつつ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料が提供される。本発明の茶飲料は、従来のものより、さらに長期保存安定性に優れている。
[0013] また本発明によると、カテキン類等の不快味(例えば、カテキン類の苦味、渋味)がマスキングされた茶飲料を製造することが可能である。」

「[0018] 本発明の茶飲料の呈味改善剤は、茶葉の溶媒抽出物で、グリセロ糖脂質を有効成分として含有する。・・・
[0019] 本発明のグリセロ糖脂質には、少なくともモノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、及びジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)が含まれる。飲料中において、グリセロ糖脂質は、コロイド分散系として存在していると考えられる。
[0020] 本発明の剤は、茶飲料のコク味の増強のために用いることができ、また茶飲料の苦味や渋味、特にカテキン類の苦味や渋味をマスキングするために用いることができ、さらに茶飲料の沈殿の防止のために用いることができる。本発明の剤は特に、粉砕茶葉(抹茶やその粉砕物を含む)を含有する茶飲料の呈味改善のために有効である。ここで本発明でいう「コク味」とは、口当たりの良い濃厚さを意味する。具体的には、粘度増加の目的等に使用される親水コロイドガム(高分子ガム)や水溶性澱粉のような、「ぬるぬる」や「ねばねば」などという不快な口当たりや食感を与えることのない、滑らかな口当たりの濃厚さをいう。
[0021] 本発明においては、カテキン類は、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートをいい、カテキン類の含量をいうときは、これらの総量を指す。本発明の茶飲料においては、カテキン類は、0.20?5.0mg/ml含まれる。
・・・
[0023] 粉砕茶葉の溶媒抽出方法も特に限定されず、通常、粉砕茶葉に対し、5?100重量部、好ましくは10?90重量部の溶媒を用いて抽出を行う。・・・また、高温で抽出した場合には、凝集の原因となるペクチンやヘミセルロース等の高分子成分などの水溶性成分が多量に溶出し、冷却した際にこれら成分と共にグリセロ糖脂質が沈殿する可能性がある。グリセロ糖脂質を高収率で得る目的からも低温で抽出することが好ましい。低温とは、5?50℃、好ましくは10?40℃程度である。」

「[0031] 本発明の剤の使用量は所望により適宜選択すればよいが、茶飲料のコク味の増強のために用いる場合、グリセロ糖脂質が茶飲料中、1.0μg/ml以上となるようにグリセロ糖脂質又はこれを含む茶抽出物を配合すると、室温以下、例えば冷蔵状態で保存して冷蔵状態で飲用するような場合にも、豊かなコク味を有する茶飲料となる。」

「[0034] また、本発明の茶飲料は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、粉末茶飲料で生じがちな長期保存における沈殿を抑制できる。・・・しかし、本発明の特定量以上のグリセロ糖脂質を含有する茶飲料では、グリセロ糖脂質がコロイド分散系として存在するので、茶飲料の長期保存における凝集沈殿や不溶性固形分の沈殿などを抑制することができ、粉末茶飲料では生じがちな沈殿が発生しにくい茶飲料となる。」

「[0035] さらに、本発明の茶飲料は、グリセロ糖脂質を1.0μg/ml以上、好ましくは1.5μg/ml以上含有させることにより、カテキン類に固有の苦味、渋味をマスクできる。したがって、カテキン類を高濃度に含有するカテキン高含有茶飲料は、本発明の茶飲料の好ましい態様の一つである。ここで、カテキン類高含有茶飲料とは、カテキン類を0.10?5.0mg/ml、好ましくは0.20?4mg/ml、より好ましくは0.25?3mg/ml、さらに好ましくは0.30?2mg/ml、特に好ましくは0.35?1mg/ml含有する茶飲料をいう。」

「[0036] 本発明のカテキン類高含有茶飲料が粉末茶含有飲料である場合、粉砕茶葉固有の収斂味がカテキン類の苦味、渋味のマスキング作用を阻害する可能性がある。したがって、粉末茶含有飲料である場合には、茶飲料が上述の吸光度、すなわち680nmにおける吸光度が0.02?0.25、好ましくは0.02?0.20、より好ましくは好ましくは0.02?0.15となるように調整する。」

「[0042] 遠心分離や濾過等の分離清澄化処理条件は、適宜設定すればよいが、茶飲料の680nmにおける吸光度が0.25以下となるような清澄化処理条件とすることで、ざらつきのない後味のすっきりとした茶飲料となり、本発明による作用、すなわちコク味の増強をより一層感じられる茶飲料となる。」

「[0043] 本発明により茶飲料特有の適度な渋味を有しながらも旨味・コク味が増強された容器詰茶飲料(特に、緑茶飲料)が提供される。」

「[0079] 実施例2.茶飲料の製造(1)
実施例1で製造したおよそ50μg/mlのpeak1成分を含有する呈味改善剤(20μg/mlのグリセロ糖脂質を含有する呈味改善剤)を、種々の濃度(呈味改善剤:緑茶抽出液=0?5:10?5)で緑茶抽出液に添加して茶飲料を製造した。茶飲料のベースとなる緑茶抽出液は、茶葉(普通煎茶)1.4gに200mlの温水(70℃)を加えて5分間抽出した後、茶葉を濾別して製造した。得られた茶飲料に種々の条件にて遠心分離処理を施し、吸光度の異なるの茶飲料を製造した。
[0080] 得られた茶飲料(10種類)について、実施例1と同様の方法でpeak1成分量(色素換算量)及びグリセロ糖脂質量を求めた。また、分光光度計(島津製作所 分光光度計 UV-1600)を用い、680nmにおける吸光度を測定した。」


以上の記載、特に、表4の試料1、4、6?10及び[0043]の容器詰茶飲料についての記載に着目すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「グリセロ糖脂質 0.119?1.643μg/ml
カテキン類 318.69?334.04ppm
を含有し、680nmにおける吸光度が0.047?0.218である、容器詰茶飲料。」

イ.取消理由通知において引用した引用例2(特開2009-55906号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項5】
(H)非重合体カテキン類のガレート体率が5?55質量%である請求項1?4のいずれか1項に記載の容器詰飲料。」

「【0006】
そこで本発明者らは、カテキン類、特に非重合体カテキン類を高濃度に含む容器詰飲料の加熱殺菌後の苦味を、風味を低下させることなく、低減させるべく種々検討した結果、特定の食物繊維であるペクチンを配合することで、優れた苦味低減効果が得られ、飲料本来の風味を保持し、沈殿発生のない長期の保存に優れた容器詰飲料が得られることを見出した。」

「【0017】
本発明の容器詰飲料における(B)ペクチンは水溶性の食物繊維であり、水溶液中では非重合体カテキン類と複雑に絡み合い、増粘効果により苦味を抑制すると考えられる。・・・また、茶抽出液由来のペクチンも(B)に含まれる。」

「【0018】
本発明の容器詰飲料中のペクチンの含有量は0.005?1.3質量%であるが、好ましくは0.01?1.0質量%、さらに好ましくは0.05?0.9質量%、特に好ましくは0.1?0.8質量%である。ペクチンの含有量が上記範囲内であると、非重合体カテキン類の苦味抑制が十分に発揮され、またペクチンによるゲル化を抑制して非ゲル状の容器詰飲料とすることができる。」

ウ.取消理由通知において引用した、引用例3(島田和子、「緑茶浸出液中の茶葉サポニンと水溶性ペクチンの分析」、日本家政学会誌、2003年、Vol.54、No.11、p.957-962)には、以下の事項が記載されている。

「(2)緑茶浸出液の調製法
緑茶試料8種の浸出条件をTable 1に示した.ここでは,通常飲用する場合を想定し,抹茶以外の各緑茶の浸出条件は茶のいれかた研究会が報告した方法を採用した.」(958頁左欄7?11行)

(961頁)

エ.取消理由通知において引用した引用例4(特開2007-1893号公報)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
次の(1)?(5)の条件を満たすカテキン組成物。
(1):(A)ガレート型カテキン類と(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(A)/(B)]が0.50?0.75である。
(2):(B)非重合体カテキン類と(C)総ポリフェノール類との含有重量比[(B)/(C)]が0.80?0.97である。
(3):(D)フラボノールアグリコンと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(D)/(B)]が0.002未満である。
(4):(E)カフェインと(B)非重合体カテキン類との含有重量比[(E)/(B)]が0.1未満である。
(5):カテキン組成物の苦味は、該カテキン組成物をイオン交換水に加えて非重合体カテキン類濃度300ppmの水溶液を調製し、C00型センサを用いてCPA(Change of membrane Potential caused by Adsorption)測定法により測定した時の前記水溶液のCPA値が、非重合体カテキン濃度当たり5μV/ppm以上を示す。」

「【0061】
[比較例1]
緑茶葉15gを80℃の熱水250mLに浸して20分間抽出し、目開き106μmの金属メッシュで固液分離して抽出液を得た。当該抽出液(全部)を濃縮、凍結乾燥させて「対照緑茶抽出物1」4.27mgを得た。」


(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「680nmにおける吸光度」は、本件発明1の「濁度(OD680nmにおける吸光度)」に相当する。
そして、引用発明の「グリセロ糖脂質 0.119?1.643μg/ml」は、本件発明1の「グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml」の範囲内であり、同様に、「カテキン類 318.69?334.04ppm」は「カテキン類 110?590ppm」の範囲内であり、「680nmにおける吸光度が0.047?0.218」は「濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24」の範囲内である。
よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
以下の成分;
(b)グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml
(c)カテキン類 110?590ppm
を含有し、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24である、容器詰茶飲料。

[相違点1]
本件発明1は、「(a)茶葉由来のペクチン 0.052?0.1%」を含有するのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。

上記相違点1について検討する。
引用例3には、緑茶浸出液中の水溶性ペクチンの含量が示されているところ、当該水溶性ペクチンは、茶葉由来のペクチンである。そうすると、引用例3によれば、煎茶における茶葉由来のペクチンは、7.6?8.6mg/100ml(0.0076?0.0086%)と認められ、最も茶葉由来のペクチンが多い緑茶(Gyokuro(B))であっても、43.3mg/100ml(0.0433%)であるから、上記本件発明1の0.052?0.1%に比べて少量である。
そうすると、引用例3における緑茶浸出条件は、通常飲用する場合を想定したものであるから、引用発明において、通常飲用する場合を想定した浸出条件を設定すれば、茶葉由来のペクチン含有量は、本件発明1の範囲にならないというべきである。
一方、引用例2には、「カテキン類、特に非重合体カテキン類を高濃度に含む容器詰飲料の加熱殺菌後の苦味を、風味を低下させることなく、低減させる」ことについて、「ペクチンを配合することで、優れた苦味低減効果が得られ、飲料本来の風味を保持し、沈殿発生のない長期の保存に優れた容器詰飲料が得られることを見出した。」ことが記載され(【0006】)、ペクチンの含有量について「容器詰飲料中のペクチンの含有量は0.005?1.3質量%」とすることが記載されている(【0018】)。
しかしながら、引用例1には「高温で抽出した場合には、凝集の原因となるペクチンやヘミセルロース等の高分子成分などの水溶性成分が多量に溶出し、冷却した際にこれら成分と共にグリセロ糖脂質が沈殿する可能性がある。」と記載され([0023])、該記載は、引用例1に係る「呈味改善剤」を製造する際の、粉砕茶葉の溶媒抽出方法について記載したものであるが、ペクチンとグリセロ糖脂質が共存すると、沈殿が生じる可能性を示唆したものといえる。
そして、引用発明は、グリセロ糖脂質の含有量が高い上に、沈殿が発生しにくく、長期保存安定性に優れるというものでもあるから([0012]、[0034])、あえて、グリセロ糖脂質と共存することで沈殿が生じる可能性のあるペクチンを配合する動機付けがあるとはいえない。
また、引用例4にも、引用発明にペクチンを配合することの示唆はない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、引用発明及び引用例2?4に記載の技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明1は、引用発明及び引用例2?4に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、引用発明及び引用例2?4に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人Aは、
(a)本件明細書に記載された実施例1の茶飲料1?32を再現するには、過度の試行錯誤を要すること(特許異議申立書4頁17行?7頁19行)、
(b)濁度(OD680nmにおける吸光度)と効果の関係を理解することができないこと(特許異議申立書7頁20行?9頁7行)
を理由に、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし、特許法第36条第4項第1号は、実施例や比較例に記載された実験を完全に同一の条件で再現し得るまでの記載を要求する趣旨の規定であるとは解されないから、申立人Aの上記(a)の主張は採用できない。
また、濁度が効果に影響する機序が明らかにされることは、必ずしも要求されるものではなく、上記第5の1(2)、(3)で検討したように、本件明細書においては、具体例によって、本件発明1に特定される濁度の数値範囲における効果は十分に確認されているから、申立人Aの上記(b)の主張は採用できない。
また、申立人Aは、
(c)本件明細書に記載された実施例1の茶飲料1?32を作製することができないこと(特許異議申立書9頁9?26行)、
(d)本件発明2の効果が一切確認されていないこと(特許異議申立書10頁19行?11頁4行)
を理由に、本件発明1、2は発明の詳細な説明に実質的に記載されておらず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないと主張する。
しかし、実施例1の茶飲料1?32を作製できなくとも、本件明細書の記載に基づいて、本件発明1の範囲内に成分を調整することはできるし、上記第5の1(3)で検討したように、本件発明1の効果は確認されているから、本件発明1を更に減縮した本件発明2の効果を否定すべき理由はない。
よって、本件発明1、2が発明の詳細な説明に実質的に記載されていないということはできず、申立人Aの上記(c)、(d)の主張は採用できない。
なお、申立人Aは、請求項1に濁度の下限値が特定されていないから、発明が不明確であると主張したが(特許異議申立書11頁5?15行)、上記第2のとおり、本件訂正が認められ、本件発明の濁度(OD680nmにおける吸光度)は0.006?0.24と特定されたから、申立人Aの上記主張は理由のないものとなった。

申立人Bは、茶葉の種類によって茶飲料の味のバランスは異なるから、本件発明1、2が課題を解決できるかは不明であると主張する(特許異議申立書29頁13?22行)。
しかし、本件発明は、茶葉の種類を調節して課題を解決しようとする発明ではないから、本件発明1、2において、茶葉の種類を特定することまでが必要であるとはいえない。そして、本件明細書の実施例では、茶葉の種類を変えることなく、本件発明1が特定する各成分を変化させて効果を確認しているから、本件発明1、2は、課題を解決できるものといえる。
よって、申立人Bの上記主張は採用できない。

特許法第29条第2項違反を理由とする特許異議申立理由に関し、取消理由通知で引用した引用例1?4に加え、申立人Aは、甲第4号証(特開2005-229918号公報)、甲第5号証(特開2010-239869号公報)を提出し、申立人Bは、甲第3号証(野菜・茶業試験場研究報告 B(茶業)、1991年3月、第4号、p.25-91)を提出している。
しかし、上記甲各号証も、引用発明にペクチンを配合することを示唆するものではないから、これらを考慮しても、上記第5の2(2)ア.で検討した相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえず、本件発明1、2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)?(c);
(a)茶葉由来のペクチン 0.052?0.1%
(b)グリセロ糖脂質 0.1?20μg/ml
(c)カテキン類 110?590ppm
を含有し、濁度(OD680nmにおける吸光度)が0.006?0.24である、容器詰緑茶飲料。
【請求項2】
成分(c)におけるガレート型カテキン類(C’)の割合[C’/C×100(%)]が、40?95%である、請求項1に記載の茶飲料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-09 
出願番号 特願2012-54409(P2012-54409)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A23F)
P 1 651・ 536- YAA (A23F)
P 1 651・ 121- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 紀本 孝
窪田 治彦
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5931519号(P5931519)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 茶葉ペクチン含有飲料  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  
代理人 梶田 剛  
代理人 中村 充利  
代理人 梶田 剛  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 充利  

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