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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G03F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1340084
異議申立番号 異議2017-700461  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-12 
確定日 2018-04-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6026097号発明「半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6026097号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について、訂正することを認める。 特許第6026097号の請求項1,2,4ないし8に係る特許を維持する。 特許第6026097号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6026097号の請求項1?8に係る発明についての出願は、平成23年11月11日(優先権主張平成22年11月17日)に特許出願され、平成28年10月21日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
その後、その特許について、特許異議申立人内野房子により請求項1?8に係る特許について特許異議の申立てがなされ、平成29年7月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月22日に意見書が提出され、同年10月12日付けで、取消理由通知(決定の予告)がされ、同年12月6日に意見書の提出及び訂正請求(この訂正請求を、以下、「本訂正請求」という。また、本訂正請求による訂正を、以下、「本件訂正」という。)がされ、平成30年1月12日に特許異議申立人内野房子から意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6026097号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める。」というものである。

2 本訂正請求について
本件訂正前の請求項2?7は、訂正請求の対象である請求項1を引用する関係にあり、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、訂正前の請求項1?8は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本訂正請求は、一群の請求項である〔請求項1?8〕ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。

3 訂正の内容
本件訂正の訂正内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に
「溶剤中に、以下の成分:
主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A):100質量部;
光酸発生剤(B):1?30質量部;及び
上記光酸発生剤(B)から発生した酸、又は熱により、上記(A)成分と反応しうる化合物(C):1?60質量部;
を含有する、半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物であって、上記主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)の含有率が、上記感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ水溶液可溶性樹脂中50質量%以上である、上記感光性樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「溶剤中に、以下の成分:
主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A):100質量部;
光酸発生剤(B):1?30質量部;及び
上記光酸発生剤(B)から発生した酸、又は熱により、上記(A)成分と反応しうる化合物(C):1?60質量部;
を含有する、半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物であって、上記主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)の含有率が、上記感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ水溶液可溶性樹脂中50質量%以上であり、かつ上記フェノール樹脂(A)の繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下である、上記感光性樹脂組成物。」
に訂正するものであって、請求項1の記載を引用して記載された請求項2,4?8についても、同様に訂正する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項4に「請求項1?3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」と記載されているのを「請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。」に訂正するものであって、請求項4の記載を引用して記載された請求項5?8についても、同様に訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」と記載されているのを「請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」に訂正するものであって、請求項5の記載を引用して記載された請求項6?8についても、同様に訂正する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」と記載されているのを「請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」に訂正するものであって、請求項6の記載を引用して記載された請求項7及び8についても、同様に訂正する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」と記載されているのを「請求項1、2,4?6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」に訂正するものであって、請求項7の記載を引用して記載された請求項8についても、同様に訂正する。

(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項8に「半導体基板上に、請求項1?7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層を形成する工程、」と記載されているのを「半導体基板上に、請求項1、2及び4?7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層を形成する工程、」に訂正する。

4 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の「フェノール樹脂(A)」について、「繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下」とする限定を付加するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項3を削除するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

(3)訂正事項3?7
訂正事項3?7による訂正は、訂正事項2により請求項3が削除されたことに伴い、請求項3の記載を引用して記載されていた請求項4?8の記載が明瞭でないものとなることを避けることを目的としたものである。
したがって、訂正事項3?7による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。

5 新規事項の有無
(1)訂正事項1
訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書の段落【0011】の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内でした訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものといえる。

(2)訂正事項2?7
訂正事項2による訂正は、請求項3を削除する訂正であり、訂正事項3?7による訂正は、引用する請求項から請求項3を除く訂正であるから、これら訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内でした訂正である。
したがって、訂正事項2?7による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものといえる。

6 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1?7による訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1?7による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

7 むすび
以上のとおり、本訂正請求は特許法第120条の5第4項の規定に適合する。また、本訂正請求は、同法同条第2項ただし書、並びに、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許
上記「第2」のとおり本件訂正は認められることとなったので、本件特許の請求項1,2,4ないし8に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,4ないし8に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
溶剤中に、以下の成分:
主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A):100質量部;
光酸発生剤(B):1?30質量部;及び
上記光酸発生剤(B)から発生した酸、又は熱により、上記(A)成分と反応しうる化合物(C):1?60質量部;
を含有する、半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物であって、上記主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)の含有率が、上記感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ水溶液可溶性樹脂中50質量%以上であり、かつ上記フェノール樹脂(A)の繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下である、上記感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂(A)が、下記一般式(1):
【化1】

{式中、Rは、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、炭素数1?10の不飽和結合を有していてもよい脂肪族基、炭素数3?10の脂環式基、及び炭素数6?20の芳香族基から成る群から選ばれる基であり、各々の基の水素原子は、さらにハロゲン原子、カルボキシル基及び/又は水酸基で置換されていてもよく、p及びqはそれぞれ独立に0?4の整数であり、rは0?3の整数であり、そして、p、q、又はrが2以上の場合、各々のRはそれぞれ同じであっても、異なってもよい。}で表される繰り返しユニットを含む、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記光酸発生剤(B)が、フェノール化合物と1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸又は1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-4-スルホン酸とのエステル化合物である、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記光酸発生剤(B)が、下記式:
【化2】

{式中、Qは、水素原子又は下記:
【化3】

で表されるナフトキノンジアジドスルホン酸エステル基であり、全てのQが同時に水素原子であることはない。}で示される化合物である、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記化合物(C)が、エポキシ基、オキセタン基、-N-(CH_(2)-OR’)基{式中、R’は、水素又は炭素数1?4のアルキル基である。}、及び-C-(CH_(2)-OR’)基{式中、R’は、水素又は炭素数1?4のアルキル基である。}から成る群から選ばれる少なくとも2つの基を有する、請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
熱塩基発生剤(D)をさらに含有する、請求項1、2及び4?6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
以下の工程:
半導体基板上に、請求項1、2及び4?7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層を形成する工程、
該感光性樹脂層を活性光線で露光する工程、
該露光された感光性樹脂層を現像してレリーフパターンを得る工程、及び
得られたレリーフパターンを加熱する工程
を含む、半導体装置の製造方法。」(以下、請求項1、2、4?8に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」?「本件発明8」という。)

2 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1,2,4?8に係る特許に対して平成29年10月12日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件訂正前の請求項1,2,4?8に係る発明は、発明が解決しようとする課題を解決することができない発明を含むものであるから、発明の詳細な説明において発明が解決しようとする課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
よって、本件訂正前の請求項1,2,4?8に係る発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。

3 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正によって、本件発明1,2,4?8(以下、「本件各発明」という。)は、フェノール樹脂(A)について、「繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下」とする限定が付加された。
本件各発明の、発明が解決しようとする課題は、本件特許の明細書の段落【0007】に記載された「半導体装置に適用して、250℃以下の熱で硬化させた際でも、伸度が高く、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂の代替材料となり得るフェノール樹脂組成物、該組成物を用いた硬化レリーフパターンの製造方法、及び該硬化レリーフパターンを有してなる半導体装置を提供すること」にある。そして、本件特許の明細書の段落【0025】には、「繰り返しユニットの繰り返し単位数は、2?100、伸度の観点から、より好ましくは8?80、更に好ましくは18?80である」と記載されている。
そうしてみると、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者ならば、フェノール樹脂組成物の繰り返し単位数によって膜の伸度を高くする(所望の伸度にする)ことが可能であると理解することにより、本件各発明は、発明が解決しようとする課題を解決できると認識することができる。
したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

(2)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人内野房子は、ビフェニルに架橋性のカルボキシル基、水酸基、炭素数1?10の不飽和結合を有する脂肪族基等の官能基が結合したフェノール樹脂を用いた場合には、本件発明1の課題である適度な伸度を得られないはずであると主張している。
しかしながら、請求項2に記載されているのは、式中の「R」が、「ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、炭素数1?10の不飽和結合を有していてもよい脂肪族基、炭素数3?10の脂環式基、及び炭素数6?20の芳香族基から成る群から選ばれる基」であるという事項である。そして、当業者ならば、本件優先権主張の日前の技術常識に従って、伸度が所望の程度となるように、これら選択肢の中から適切な基を選ぶことができる。
したがって、本件各発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許法第29条第2項
(ア)特許異議申立人内野房子は、本件訂正前の請求項1?8に係る特許について、以下の甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2009-93095号公報
甲第2号証:特開2006-343384号公報
甲第3号証:特開2009-122588号公報

(イ)甲第1号証の段落【0001】、【0010】、【0011】?【0013】、【0015】、【0018】の記載に基づけば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「有機溶剤、アルカリ可溶性フェノール樹脂の誘導体である重合物、重合物に対する配合量が該重合物100質量部に対し5?30質量部である光酸発生剤、重合物100質量部に対して3?30質量部の範囲の熱架橋性化合物から構成され、半導体装置における表面保護膜や層間絶縁膜等の各種のレリーフパターン形成に有用なアルカリ現像性のポジ型感光性レリーフパターン形成材料として用いられるポジ型感光性樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)

(ウ)本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点]本件発明1では、フェノール樹脂(A)が、主鎖にビフェニルジイル構造を有するとともに、繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下であるのに対し、甲1発明では、アルカリ可溶性フェノール樹脂の誘導体が、主鎖の構造をビフェニルジイル構造を有するものに限定しておらず、繰り返しユニットの繰り返し単位数も制限していない点。

(エ)上記[相違点]について検討すると、甲第2号証の段落【0010】?【0013】の記載に基づけば、主鎖にビフェニルジイル構造を有し、繰り返し単位数が1?10であるフェノール性水酸基を有する化合物により光重合性不飽和化合物を構成することが、本件特許の優先権主張の日より前に知られていたといえる。
しかし、効果について検討すると、本件発明1の効果は、本件特許の明細書の段落【0016】の記載に基づけば、感光性樹脂組成物について、低温で硬化が可能、かつ伸度といった硬化膜の機械的物性に優れるというものである。一方、甲1発明の効果は、甲第1号証の段落【0009】の記載によれば、感度、解像度に優れるというものであり、ビフェニルジイル構造も有さないことから、その構成から本件発明1と同等の効果を奏するものとは認められない。また、甲第2号証の段落【0006】の記載によれば、甲第2号証に記載された感光性樹脂組成物も、樹脂層を形成した際に、耐熱性に優れるというものであり、段落【0022】には、多官能ジヒドロキシベンゾオキサジン化合物(B)の含有量としては、光重合性不飽和化合物(A)100重量部に対し、5?100重量部が好ましく、10?50重量部がより好ましいと記載されているものの、ガラス転移温度などの熱時特性を良好とするものであって、伸度を調整しようとするものではない。
そうすると、主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂の繰り返しユニットの繰り返し単位数を1?10とすることが知られており、一方、光重合性不飽和化合物と反応しうる化合物を光重合性不飽和化合物100重量部に対し10?50重量部とすることが知られているものの、これらを組み合わせることにより、伸度を、表面保護膜や層間絶縁膜として半導体装置に適用できる伸度とすることが、本件発明の優先権主張の日より前に知られていたということはできない。
したがって、本件発明1の効果を、当業者が予測しうるものとはいえないから、上記相違点について、本件発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たということはできない。

(オ)また、本件発明2,4?8も、「フェノール樹脂(A)が、主鎖にビフェニルジイル構造を有するとともに、繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下である」とする構成を備えるものであるから、本件特許1と同じ理由により、当業者が容易になし得たということができない。

(カ)以上のとおりであるから、本件特許1、2、4?8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 特許法第36条第6項1号
(ア)特許異議申立人内野房子は、本件訂正前の請求項3について、フェノール樹脂(A)の繰り返しユニットの繰り返し単位が8以上100以下であることが記載されているが、本件明細書の具体的な実施例で使用するA-1:明和化成株式会社製MEH-7851 4H(重量平均分子量=9986)及びA-2:明和化成株式会社製MEH-7851 H(重量平均分子量=2769)は、それぞれ、重量平均分子量から計算される繰り返し単位数nが、9及び35程度であり、それ以外の繰り返し単位数のフェノール樹脂を用いた実施例の記載がないとし、フェノール樹脂は、硬化特性等が繰り返しユニットの繰り返し単位数によって変動することが出願時の技術常識であるし、例えば、nが35よりも大きいフェノール樹脂を用いた場合にも、本件発明の効果が得られるのかどうかが明らかではないと主張している。

(イ)本件発明1が解決しようとする課題は、前記(1)に記載したとおり「半導体装置に適用して、250℃以下の熱で硬化させた際でも、伸度が高く、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂の代替材料となり得るフェノール樹脂組成物、該組成物を用いた硬化レリーフパターンの製造方法、及び該硬化レリーフパターンを有してなる半導体装置を提供すること」にある。
一方、本件発明1は、構成要件として、「化合物C」(架橋剤)の「主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)」に対する含量を特定し、「主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)」について、「上記主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)の含有率が、上記感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ水溶液可溶性樹脂中50質量%以上である」こと、および「繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下である」ことを特定している。
そして、本件特許の明細書の段落【0025】には、「繰り返しユニットの繰り返し単位数は、2?100、伸度の観点から、より好ましくは8?80、更に好ましくは18?80である」と記載されている。
そうしてみると、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者ならば、フェノール樹脂組成物の繰り返し単位数によって膜の伸度を高くする(所望の伸度にする)ことが可能であると理解することにより、本件発明1は、発明が解決しようとする課題を解決できると認識することができる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができ、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものといえる。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1,2,4?8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1,2,4?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して、特許異議申立人内野房子がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤中に、以下の成分:
主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A):100質量部;
光酸発生剤(B):1?30質量部;及び
上記光酸発生剤(B)から発生した酸、又は熱により、上記(A)成分と反応しうる化合物(C):1?60質量部;
を含有する、半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物であって、上記主鎖にビフェニルジイル構造を有するフェノール樹脂(A)の含有率が、上記感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ水溶液可溶性樹脂中50質量%以上であり、かつ上記フェノール樹脂(A)の繰り返しユニットの繰り返し単位数が8以上100以下である、上記感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂(A)が、下記一般式(1):
【化1】

{式中、Rは、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、炭素数1?10の不飽和結合を有していてもよい脂肪族基、炭素数3?10の脂環式基、及び炭素数6?20の芳香族基から成る群から選ばれる基であり、各々の基の水素原子は、さらにハロゲン原子、カルボキシル基及び/又は水酸基で置換されていてもよく、p及びqはそれぞれ独立に0?4の整数であり、rは0?3の整数であり、そして、p、q、又はrが2以上の場合、各々のRはそれぞれ同じであっても、異なってもよい。}で表される繰り返しユニットを含む、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記光酸発生剤(B)が、フェノール化合物と1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホン酸又は1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-4-スルホン酸とのエステル化合物である、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記光酸発生剤(B)が、下記式:
【化2】

{式中、Qは、水素原子又は下記:
【化3】

で表されるナフトキノンジアジドスルホン酸エステル基であり、全てのQが同時に水素原子であることはない。}で示される化合物である、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記化合物(C)が、エポキシ基、オキセタン基、-N-(CH_(2)-OR’)基{式中、R’は、水素又は炭素数1?4のアルキル基である。}、及び-C-(CH_(2)-OR’)基{式中、R’は、水素又は炭素数1?4のアルキル基である。}から成る群から選ばれる少なくとも2つの基を有する、請求項1、2、4及び5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
熱塩基発生剤(D)をさらに含有する、請求項1、2及び4?6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
以下の工程:
半導体基板上に、請求項1、2及び4?7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物から成る感光性樹脂層を形成する工程、
該感光性樹脂層を活性光線で露光する工程、
該露光された感光性樹脂層を現像してレリーフパターンを得る工程、及び
得られたレリーフパターンを加熱する工程
を含む、半導体装置の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-23 
出願番号 特願2011-247336(P2011-247336)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G03F)
P 1 651・ 121- YAA (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉本 勝利  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐藤 秀樹
宮澤 浩
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6026097号(P6026097)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 半導体素子表面保護膜又は層間絶縁膜用の感光性樹脂組成物  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  
代理人 中村 和広  
代理人 石田 敬  
代理人 三橋 真二  

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