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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  D21H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
管理番号 1340091
異議申立番号 異議2016-700866  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-14 
確定日 2018-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5885375号発明「塗工液組成物並びに紙及び板紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5885375号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第5885375号の請求項1?3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第5885375号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成19年8月9日に特許出願され、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がされた。
その後、特許異議申立人森田隼明(以下「申立人」という。)より請求項1?3に対して特許異議の申立てがされ、平成28年12月12日付けで取消理由が通知され、平成29年2月10日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年3月27日に特許異議申立人から意見書が提出された。その後、平成29年4月19日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年6月22日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成29年7月31日に申立人より意見書の提出がされ、平成29年8月31日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年10月31日に特許権者より意見書が提出されたものである。

なお、平成29年2月10日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


2.訂正の請求
(1)訂正の内容
平成29年6月22日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

ア 訂正事項1
請求項1の
「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)が10モル%以上であり、」を、
「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、」に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項1の
「アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、」を、
「アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、アクリルアミド類(d)が80?99モル%であり、」に訂正する。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項1
発明の詳細な説明の段落【0061】の【表1】の「炭素数12?18のオレフィン」の使用量として10モル%(〔A〕-3)、20モル%(〔A〕-1、〔A〕-2)を挙げた記載に照らせば、10モル%以上なのは「炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)」ではなく「炭素数12?18のオレフィン」であったと認められる。訂正事項1の訂正は、【表1】の記載との関係において不合理を生じていた明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2
訂正事項2に関連する記載として、発明の詳細な説明の段落【0030】には「アクリルアミド類はサイズ性の観点からアニオン性アクリルアミド系樹脂(B)の単量体単位として80?99モル%を有していることが好ましい。」と記載されているから、アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてアクリルアミド類(d)が80?99モル%であることは、明細書に記載されているものと認められる。
訂正事項2の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内においてアクリルアミド類(d)の使用量を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 一群の請求項
訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1?3について、請求項2?3は請求項1を引用するものであり、請求項1?3は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項についてするものである。

(3)申立人の主張
申立人は平成29年7月31日付け意見書において、訂正事項1の訂正は、共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが20モル%を超える場合を包含しており、本件特許の明細書の段落【0061】には20モル%(〔A〕-1、〔A〕-2)、10モル%(〔A〕-3)の実施例が記載されているのみで20モル%を超える場合は記載されていないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合しないと主張する。
しかし、訂正事項1の訂正は、優れたサイズ性の付与という課題を解決できないと推認される、炭素数12?18のオレフィンが極めて微量のようなケースを除くよう、その使用量の下限値を明細書の記載に基づいて特定したものといえるから、新たな技術的事項を導入するものではない。また、「20モル%を超える場合」は、願書に添付された特許請求の範囲に包含されているところ、本件訂正により新たに導入されたものではない。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。


3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1?3」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)とマレイン酸類(b)を反応して得られる共重合体のアルカリ塩〔A〕と、
不飽和(ジ)カルボン酸(塩)(c)とアクリルアミド類(d)を反応して得られるアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕とを含有し、
共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、
不飽和(ジ)カルボン酸(塩)(c)がイタコン酸であり、
アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、アクリルアミド類(d)が80?99モル%であり、
重量比がアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕100に対して、共重合体のアルカリ塩〔A〕が5?200であることを特徴とする紙および板紙用の塗工液組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工液組成物を用いることを特徴とする紙及び板紙。
【請求項3】
中性ライナーであることを特徴とする請求項2記載の紙及び板紙。

(2)取消理由の概要
平成29年4月19日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

1)平成27年11月2日付け手続補正書でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3)本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号並びに同条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


理由1)について
平成27年11月2日付け手続補正書による請求項1に「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)が10モル%以上であり、」との記載を追加する補正は、出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

理由2)について
甲1:特開平9-13295号公報
甲2:特開平2-210095号公報
甲3:特開昭60-146098号公報
甲4:特開平3-8894号公報

請求項1?3に係る発明は、甲1記載発明及び甲2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項1?3に係る発明は、甲1記載発明及び甲3記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項1?3に係る発明は、甲1記載発明及び甲4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

理由3)について
ア 請求項1には「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)が10モル%以上であり、」と記載されており、サポート要件違反であり、また実施可能要件違反である。
イ 請求項1には「不飽和(ジ)カルボン酸(塩)(c)とアクリルアミド類(d)を反応して得られるアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕とを含有し、」と記載されているが、本件特許明細書の段落【0029】及び段落【0033】の記載によると、アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕はカチオン性単量体を用いてもよいことから、上記記載は不明確であり、サポート要件違反である。
ウ アクリルアミド類(d)の使用量について何ら特定されていない請求項1?3に係る発明は、サポート要件違反である。

(3)甲各号証の記載
ア 上記取消理由通知において引用した甲第1号証(特開平9-13295号公報)には以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種の樹脂〔A〕1?50重量部と、アクリルアミド類(a)100重量部と、アニオン性ビニルモノマー(b)0.5?50重量部を反応して得られるアクリルアミド系樹脂〔B〕の混合水溶液を含有することを特徴とする表面紙質向上液剤。」

「【0004】そこで、サイズ効果を向上させるべく、上記従来技術の表面紙質向上剤の疎水性成分(アルケニルコハク酸塩)の混合比率を増加させると、サイズ性は改善されるが、一方、表面強度、内部強度は著しく低下するので好ましくない。また、上記混合比率を変えずに、疎水性成分自身(アルケニルコハク酸塩)の疎水性を上げサイズ効果を高めるという方法は、併用するポリアクリルアミド系物質との相溶性の低下をもたらし好ましくない。このため、表面強度、内部強度と共にサイズ性をバランス良く向上させる表面紙質向上剤の出現が強く望まれていた。本発明は上記課題を解決するための表面紙質向上液剤を提供するものである。」

「【0009】次に本発明を詳細に説明する。本発明で使用する樹脂〔A〕であるスチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂は、塊状重合、溶液重合、乳化重合等のいずれの方法で重合したものでも良いが、特に塊状重合品が好ましい。粉末の樹脂を用いる場合には、重合前あるいは重合中に水溶液とするためケン化する必要がある。
【0010】ケン化時に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等から選ばれる1種または2種以上の有機または無機アルカリを用いることができる。また、スチレンとアクリル酸、スチレンとアクリル酸とアクリル酸エステル、スチレンとマレイン酸、スチレンとマレイン酸とマレイン酸半エステル、(ジ)イソブチレンとマレイン酸、(ジ)イソブチレンとマレイン酸とマレイン酸半エステルの組成比、分子量については、アクリルアミド系樹脂〔B〕との相溶性を阻害しない範囲内であれば、特に限定するものではない。」

「【0013】アクリルアミド系樹脂〔B〕に使用する(b)成分のアニオン性ビニルモノマーである不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、不飽和トリカルボン酸、不飽和テトラカルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和ホスホン酸およびそれらの塩類について以下に例示する。」

「【0015】不飽和ジカルボン酸およびそれらの塩類としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸およびそれらのナトリウム、カリウム塩等のアルカリ金属塩類またはアンモニウム塩等が挙げられる。」

「【0020】上記アニオン性ビニルモノマーのうちイタコン酸、アクリル酸及びその塩類が好ましく、特に、イタコン酸およびその塩類が好ましい。アニオン性基の導入方法として、アニオン性ビニルモノマーを用いる方法以外に、アクリルアミド系樹脂〔B〕を酸またはアルカリで加水分解することにより、アニオン基を導入する方法も使用できる。」

「【0041】また、本発明の表面紙質向上液剤を含有する塗工液は、酸性紙あるいは中性紙に塗工することができる。酸性紙あるいは中性紙の種類としては、コート原紙、新聞用紙、ライナー、コートボール、印刷筆記用紙、フォーム用紙、PPC用紙、インクジェット用紙、熱転写用紙、感熱紙等の各種原紙が挙げられる。原紙のサイズ度も任意であるが、サイズプレス等を用いて塗工する場合は、原紙の吸液量を調整する目的で内添サイズ剤を使用することが望ましい。」





「【0053】
【発明の効果】本発明の表面紙質向上液剤は、紙の表面強度、内部強度、サイズ効果をバランス良く向上させ、かつ優れた安定性を示すものである。」

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂から選ばれ、アルカリでケン化した樹脂〔A〕と、
アニオン性ビニルモノマー(b)である不飽和ジカルボン酸およびそれらの塩類とアクリルアミド類(a)を反応して得られるアクリルアミド系樹脂〔B〕とを含有し、
不飽和ジカルボン酸がイタコン酸であり、
樹脂〔A〕が1?50重量部、アクリルアミド系樹脂〔B〕のアクリルアミド類(a)が100重量部、イタコン酸が0.5?50重量部である表面紙質向上液剤。」

イ 甲第2号証(特開2-210095号公報)には、請求項1、第1頁右下欄第15行?第2頁左上欄第12行、第2頁右上欄第17行?同左下欄第11行、第4頁右上欄第3?7行、第6頁表1、表2、第7頁左上欄第1?6行の記載を参酌すると、サイズ効果や酸安定性が良好で低発泡性であり、アクリルアミド系ポリマーと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?20の直鎖状α-オレフィンが60?5モル%、2,4,4-トリメチル-1-ペンテンが5?60モル%、イタコン酸などのα,β-不飽和ポリカルボン酸またはその塩が30?70モル%から構成される表面サイズ剤が記載されている。

ウ 甲第3号証(特開昭60-146098号公報)には、請求項1、第2頁右上欄第16?20行、第3頁左上欄第9?13行、第4頁左上欄第3?10行、第4頁右上欄第9?13行、第4頁右上欄第17行?左下欄第3行の記載を参酌すると、サイズ効果が優れ泡立ちが少ない、ポリアクリルアミドと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?30のα-オレフィン単位、マレイン酸などのα,β-不飽和ポリカルボン酸またはその塩単位などから構成される表面サイズ剤が記載されている。

エ 甲第4号証(特開平3-8894号公報)には、請求項1、第2頁右上欄第7?15行、第5頁右上欄第8?12行、第8頁左下欄第1?9行の記載を参酌すると、サイズ効果が優れ低発泡性である、アクリルアミド系ポリマーと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?30の直鎖状α-オレフィン5?65モル%、無水マレイン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸またはその塩単位0?70モル%などから構成される表面サイズ剤が記載されている。

(4)判断
ア 理由1)について
「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)が10モル%以上であり、」との記載は、本件訂正が認められることにより「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、」とされたから、当該記載に関する新規事項追加についての取消理由は理由のないものとなった。

なお、本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1においては、炭素数12?18のオレフィンの含有量は何ら特定されないものであったところ、炭素数12?18のオレフィンが20モル%を超える場合を包含するような範囲への含有量の特定は、新たな技術的事項を導入するものではないから、新規事項追加であるということはできない。

イ 理由2)について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「不飽和ジカルボン酸およびそれらの塩類」、「表面紙質向上液剤」が、本件発明1の「不飽和(ジ)カルボン酸(塩)」、「紙および板紙用の塗工液組成物」に相当する。また、引用発明のアクリルアミド系樹脂〔B〕はアニオン性ビニルモノマー(b)から得ているからアニオン性と認められるので、引用発明のアクリルアミド系樹脂〔B〕は、本件発明1のアニオン性アクリルアミド系樹脂に相当する。また、引用発明の(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂、(ジ)イソブチレン-マレイン酸-マレイン酸半エステル樹脂は、アルカリでケン化しているから、オレフィンとマレイン酸類とを反応して得られる共重合体のアルカリ塩という点において、本件発明1の共重合体のアルカリ塩〔A〕と一致する。
そうすると両者は
「オレフィンとマレイン酸類を反応して得られる共重合体のアルカリ塩と、不飽和(ジ)カルボン酸(塩)とアクリルアミド類を反応して得られるアニオン性アクリルアミド系樹脂とを含有し、
不飽和(ジ)カルボン酸がイタコン酸である
紙および板紙用の塗工液組成物」
という点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1.本件発明1のオレフィンが、炭素数12?18のオレフィンを、共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位として10モル%以上含むのに対して、引用発明のオレフィンは、炭素数12?18のオレフィンを含まない点
相違点2.本件発明1のアニオン性アクリルアミド系樹脂は、単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、アクリルアミド類が80?99モル%であるのに対して、引用発明のアニオン性アクリルアミド系樹脂は、アクリルアミド類100重量部に対してイタコン酸が0.5?50重量部である点
相違点3.本件発明1ではアニオン性アクリルアミド系樹脂100に対して共重合体のアルカリ塩が5?200という重量比であるのに対して、引用発明ではアニオン性アクリルアミド系樹脂100.5?150重量部(アクリルアミド類100重量部及びアニオン性ビニルモノマー0.5?50重量部)に対して共重合体のアルカリ塩が1?50重量部である点

相違点1について検討する。甲第2号証には、サイズ効果や酸安定性が良好で低発泡性であり、アクリルアミド系ポリマーと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?20の直鎖状α-オレフィンが60?5モル%、2,4,4-トリメチル-1-ペンテンが5?60モル%、イタコン酸などのα,β-不飽和ポリカルボン酸またはその塩が30?70モル%から構成される表面サイズ剤が記載されている。そこで、引用発明の共重合体のアルカリ塩を、甲第2号証の表面サイズ剤に置換し得るか検討するに、引用発明では、表面強度、内部強度と共にサイズ性をバランス良く向上させることを目的として、所定のアクリルアミド系樹脂と共に(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂などを用いている。そのような共重合体のアルカリ塩を、サイズ性の点のみで共通し、表面強度や内部強度の点には何ら言及のない甲第2号証の表面サイズ剤に置換した場合に、表面強度、内部強度、サイズ性をバランス良く向上させるという引用発明の所期の効果が得られるのか当業者が予測することは困難である。そうすると、引用発明の、表面強度、内部強度と共にサイズ性をバランス良く向上させる(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂などを、サイズ効果や酸安定性が良好で低発泡性であるにとどまる甲第2号証に記載された表面サイズ剤にあえて置換する動機付けはない。したがって、相違点1について、引用発明を本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、甲第3号証には、サイズ効果が優れ泡立ちが少ない、ポリアクリルアミドと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?30のα-オレフィン単位、マレイン酸などのα,β-不飽和ポリカルボン酸またはその塩単位などから構成される表面サイズ剤が記載されている。さらに、甲第4号証には、サイズ効果が優れ低発泡性である、アクリルアミド系ポリマーと併用することもできる表面サイズ剤として、炭素数8?30の直鎖状α-オレフィン5?65モル%、無水マレイン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸またはその塩単位0?70モル%などから構成される表面サイズ剤が記載されている。しかし、これらの表面サイズ剤にしても、サイズ効果が良好で低発泡性であるものにとどまるから、引用発明の、表面強度、内部強度と共にサイズ性をバランス良く向上させる(ジ)イソブチレン-マレイン酸樹脂などとあえて置換する動機付けはない。

したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明2、3は、本件発明1の構成を全て含むものであるから、同様に、引用発明及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 理由3)について
(ア)理由3)アについて
a 実施可能要件
「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)が10モル%以上であり、」との記載は、本件訂正が認められることにより「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、」とされたから、当該記載に関する実施可能要件についての取消理由は理由のないものとなった。
なお、申立人は、平成29年7月31日付け意見書において、発明の詳細な説明中には、炭素数12?18のオレフィンが20モル%を超えている実施例等の記載はないので、実施可能要件を満たしていないと主張する。しかし、段落【0059】にはアルカリ塩〔A〕の具体的な合成例が記載され、段落【0060】には単量体の使用量を変えて合成反応を行ったことが記載されている。したがって、「10モル%以上」である10モル%や20モル%の場合はこれらの記載のとおり合成し、20モル%を超える場合でもこれらの記載に沿って使用量を変えて合成すればよいのだから、本件特許の発明の詳細な説明が、本件発明1?3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。

b サポート要件
本件特許の請求項1の「共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、」との記載に関して、発明の詳細な説明の段落【0061】の【表1】には、10モル%(〔A〕-3)、20モル%(〔A〕-1、〔A〕-2)の実施例が記載されるのみであり、炭素数12?18のオレフィンが20モル%を超える場合(例えば30モル%、50モル%、90モル%、99モル%等々)については記載がなく、そのような場合でも優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得るという本件発明の課題を解決できるのか、発明の詳細な説明の記載からは認識できない。また、炭素数12?18のオレフィンが20モル%を超える場合でも優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得られることを認識できる作用機序が発明の詳細な説明に記載されていたとはいえず、そのようなことが本件特許の出願時に技術常識であったともいえない。
本件特許の請求項1の「炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)とマレイン酸類(b)を反応して得られる共重合体のアルカリ塩〔A〕」との記載に関して、共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としてのマレイン酸類(b)の使用量としては、発明の詳細な説明の段落【0061】の【表1】には、50モル%(〔A〕-1、〔A〕-2、〔A〕-3)の実施例が記載されるのみであり、それ以外の場合(例えば1モル%、10モル%、30モル%、90モル%等々)については記載がなく、そのような場合でも優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得るという課題を解決できるのか、発明の詳細な説明の記載からは認識できない。また、マレイン酸類(b)が50モル%以外の場合でも優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得られることを認識できる作用機序が発明の詳細な説明に記載されていたとはいえず、そのようなことが本件特許の出願時に技術常識であったともいえない。
したがって、本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

(イ)理由3)イについて
アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕がカチオン性単量体を用いてもよい点については、特許権者から提出された乙第1号証(特許第2860554号公報)、乙第2号証(特許第4817109号公報)からみて、カチオン性単量体を含んでいても、アクリルアミド系樹脂全体としてアニオン性を呈するものであればアニオン性アクリルアミド系樹脂といえるから、この点についての取消理由は理由がないというべきである。

(ウ)理由3)ウについて
本件特許の請求項1の「アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、アクリルアミド類(d)が80?99モル%であり、」との記載に関して、発明の詳細な説明の段落【0065】の【表2】には、イタコン酸が5モル%、アクリルアミド類(d)が95モル%(〔B〕-1)、イタコン酸が10モル%、アクリルアミド類(d)が90モル%(〔B〕-2)の実施例が記載されるのみであり、イタコン酸が1モル%、アクリルアミド類(d)が99モル%の場合やイタコン酸が20モル%、アクリルアミド類(d)が80モル%の場合については記載がなく、そのような場合でも優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得るという課題を解決できるのか、発明の詳細な説明の記載からは認識できない。発明の詳細な説明の段落【0030】、【0032】にはイタコン酸を1?20モル%、アクリルアミド類(d)を80?99モル%とする旨の記載はあるが、該数値範囲全般において優れたサイズ性及びインクジェット印刷適性を得られることは実施例で確認されていないから、該数値範囲全般において上記課題を解決できることは裏付けられていない。また、該数値範囲とすることによりサイズ性及びインクジェット印刷適性を得られることを認識できる作用機序が発明の詳細な説明に記載されていたとはいえず、そのようなことが本件特許の出願時に技術常識であったともいえない。
したがって、本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

なお、申立人は、平成29年7月31日付け意見書において、発明の詳細な説明中には、イタコン酸が10モル%を超え、及びアクリルアミド類が90モル%未満である実施例の記載はないので、実施可能要件を満たしていないと主張する。しかし、段落【0063】にはアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の具体的な合成例が記載され、段落【0064】には単量体の使用量を変えて合成反応を行ったことが記載されている。したがって、イタコン酸が10モル%を超えるような場合でもこれらの記載に沿って使用量を変えて合成すればよいのだから、本件特許の発明の詳細な説明が、本件発明1?3について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。


4.むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数12?18のオレフィンを含むオレフィン(a)とマレイン酸類(b)を反応して得られる共重合体のアルカリ塩〔A〕と、
不飽和(ジ)カルボン酸(塩)(c)とアクリルアミド類(d)を反応して得られるアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕とを含有し、
共重合体のアルカリ塩〔A〕の単量体単位としての炭素数12?18のオレフィンが10モル%以上であり、
不飽和(ジ)カルボン酸(塩)(c)がイタコン酸であり、
アニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕の単量体単位としてイタコン酸が1?20モル%であり、アクリルアミド類(d)が80?99モル%であり、
重量比がアニオン性アクリルアミド系樹脂〔B〕100に対して、共重合体のアルカリ塩〔A〕が5?200であることを特徴とする紙および板紙用の塗工液組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の塗工液組成物を用いることを特徴とする紙及び板紙。
【請求項3】
中性ライナーであることを特徴とする請求項2記載の紙及び板紙。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-02 
出願番号 特願2007-208676(P2007-208676)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (D21H)
P 1 651・ 536- ZAA (D21H)
P 1 651・ 55- ZAA (D21H)
P 1 651・ 537- ZAA (D21H)
最終処分 取消  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
小野田 達志
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5885375号(P5885375)
権利者 星光PMC株式会社
発明の名称 塗工液組成物並びに紙及び板紙  
代理人 蔦 康宏  
代理人 蔦 康宏  

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