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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1340117
異議申立番号 異議2016-700772  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-24 
確定日 2018-04-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5870223号発明「ハードコート積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5870223号の特許請求の範囲を平成29年11月14日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項9、10について訂正することを認める。 特許第5870223号の請求項1、2、7ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5870223号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に特許出願され、平成28年1月15日にその特許権の設定登録がされた。
その後、平成28年8月24日に、請求項1、2、7ないし10に係る特許について、特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年11月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月28日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、平成29年1月13日付けで申立人に対し訂正請求があった旨の通知がなされたが、その指定期間内に申立人は意見書を提出しなかった。
その後、平成29年4月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年5月22日付けで特許権者より意見書が提出され、平成29年9月29日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成29年11月14日付けで特許権者より意見書及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。なお、平成28年12月28日付け訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)があり、平成29年11月21日付けで申立人に対し訂正請求があった旨の通知がなされたが、その指定期間内に申立人は意見書を提出しなかった。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの画像表示装置部材としての使用。」とあるのを、「請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの画像表示装置部材としての使用。」に訂正する。

訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。」とあるのを、「請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。」に訂正する。

(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項9及び10は、訂正前の請求項1ないし8の何れか1項をそれぞれ引用するものであり、本件訂正前の請求項9と請求項10との間には引用関係が存在せず、これらに対応する訂正後の請求項9及び10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ではないから、本件訂正請求による訂正には、同条同項に規定する要件が課されない。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項1?8のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項群から、請求項1を除くものであり、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項10が訂正前の請求項1?8のいずれか1項を引用していたところ、引用する請求項群から、請求項1を除くものであり、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項9、10について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求が認められたことにより、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、「本件発明1ないし10」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件発明1、2、7ないし10は以下のとおりである。
【請求項1】
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)及び(ロ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。
【請求項2】
上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が7H以上である請求項1に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項7】
上記第1ハードコートの厚みが、0.5?5μmである
請求項1?6の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項8】
上記第2ハードコートの厚みが、15?30μmである
請求項1?7の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項9】
請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの画像表示装置部材としての使用。
【請求項10】
請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。

(2)取消理由の概要
取消理由通知書に記載した本件発明1、2、7ないし10に係る特許に対する取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、異議申立人が申立てたすべての理由は通知された。

本件発明1、2、7ないし10は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1ないし6は、特許異議申立ての甲第1号証ないし甲第6号証であり、刊行物1に記載された発明を刊行物1発明といい、刊行物1ないし6に記載された事項を各々刊行物1ないし6記載事項という。
ア.本件発明1について
(ア)理由1-1(平成28年11月22日付け取消理由通知書にて通知)
本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
(イ)理由2-1(平成29年4月11日付け取消理由通知書及び平成29年9月29日付け取消理由(決定の予告)通知書にて通知)
本件発明1は、刊行物2発明、刊行物3記載事項、刊行物5記載事項から明らかな従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
イ.本件発明2について
(ア)理由1-2(平成28年11月22日付け取消理由通知書にて通知)
本件発明2は、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
(イ)理由2-2(平成29年4月11日付け取消理由通知書にて通知)
本件発明2は、刊行物2発明並びに刊行物3記載事項及び刊行物5記載事項から明らかな従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
ウ.本件発明7、8について
(ア)理由1-3(平成28年11月22日付け取消理由通知書にて通知)
本件発明7、8は、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
エ.本件発明9、10について
(ア)理由1-4(平成28年11月22日付け取消理由通知書にて通知)
本件発明9、10は、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。
(イ)理由2-3(平成29年4月11日付け取消理由通知書及び平成29年9月29日付け取消理由(決定の予告)通知書にて通知)
本件発明9、10は、刊行物2発明並びに刊行物3記載事項及び刊行物5記載事項から明らかな従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許を取り消すべきである。

<刊 行 物 一 覧>
1.特開2000-52472号公報
2.特開2000-214791号公報
3.特開2014-31397号公報
4.特開平2-11665号公報
5.特表2008-538195号公報
6.特表2010-511206号公報

(3)判断
ア.本件発明1について
(ア)理由1-1について
a.刊行物1発明
刊行物1の【請求項1】ないし【請求項3】、段落【0001】ないし【0003】、【0012】ないし【0019】、【0023】ないし【0042】及び【表1】ないし【表3】の記載事項からみて、刊行物1には、以下の刊行物1発明が記載されている。
《刊行物1発明》
「透明プラスチックフィルム基材の片面に、第1ハードコート層が設けられ、この第1ハードコート層の上に、第2ハードコート層が設けられてなるハードコートフィルムであって、第1ハードコート層は、無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有する塗料組成物からなり、第2ハードコート層は、無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有しない塗料組成物からなり、上記第2ハードコート層表面の鉛筆硬度が4Hである、ハードコートフィルム。」

b.対比、一致点、相違点
刊行物1発明の「透明プラスチックフィルム基材」、「第1ハードコート層」、「第2ハードコート層」、「ハードコートフィルム」は、各々、本件特許発明1の「透明樹脂フィルム」、「第2ハードコート」、「第1ハードコート」、「ハードコート積層フィルム」に相当する。

してみると、本件発明1と刊行物1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなる;
ハードコート積層フィルム。
《相違点1-1》
本件発明1は、第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上であり、ハードコート積層フィルムの全光線透過率が、85%以上であるのに対し、刊行物1発明の第2ハードコート層(第1ハードコート)表面の鉛筆硬度が4Hであり、ハードコートフィルム(ハードコート積層フィルム)の全光線透過率は不明である点。

c.相違点の判断
刊行物1の段落【0003】の記載を踏まえると、刊行物1発明は、「プラスチックフィルムまたはシートをハードコート形成用の支持体として用いた場合でもハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ、且つ従来の限界を上回る4H以上の鉛筆硬度値を有するハードコートフィルムもしくはシートを提供すること」を解決すべき技術課題としたものであるところ、【0023】ないし【0042】には、「第2ハードコート層(第1ハードコート)表面の鉛筆硬度が4H」であって、「ハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収め」たものが実現できたことが記載されている。
また、画像表示装置に用いるハードコート積層フィルムは、その具体的な用途(表示装置のいずれの部品に用いるのか)等に応じて、全光線透過率が高い方が望まれ、例えば、90%以上程度が好ましいとされていたことは、刊行物3の段落【0049】や刊行物5の段落【0038】の記載からも明らかなように、本件特許の出願前の周知の事項であったといえる。
しかし、刊行物1の段落【0003】の記載及び上記周知の事項からみて、刊行物1発明の「第2ハードコート層表面の鉛筆硬度」を5H以上とし、「ハードコートフィルム」の全光線透過率を85%以上とすることに動機付けが見いだせたとしても、刊行物1には、「第2ハードコート層表面の鉛筆硬度」を5H以上とし、「ハードコートフィルム」の全光線透過率を85%以上とするための、具体的な技術について記載や示唆はされていない。
そして、刊行物2?6には、刊行物1発明と同様のフィルム構造、すなわち、「表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、上記第1ハードコートは無機粒子を含まない塗料からなり、上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなる」ものについて、「ハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ」、「第1ハードコートの鉛筆硬度」を5H以上とし、そのものの全光線透過率を85%以上とするための、具体的な技術が記載されていないし、そのような技術が従来周知の技術的事項であったとすべき証拠もない。
ゆえに、刊行物1発明において、刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、第2ハードコート層(第1ハードコート)表面の鉛筆硬度を5H以上とし、ハードコートフィルム(ハードコート積層フィルム)の全光線透過率を85%以上とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
以上のとおり、理由1-1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

(イ)理由2-1について
a.刊行物2発明
刊行物2には、以下の刊行物2記載事項が記載されている。
「【請求項1】 透明基材の少なくとも一方の面に、ハードコート層が形成されているハードコートフィルムであって、上記ハードコート層が2層以上に形成されており、前記透明基材に最も近く形成されたハードコート層の弾性率σmが、表層のハードコート層の弾性率σsよりも高いことを特徴とするハードコートフィルム。」
「【請求項5】 前記ハードコートフィルムの表面硬度が鉛筆硬度で4H以上であり、且つスクラッチ硬度が150g以上である請求項1?4の何れか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項6】 少なくとも上記透明基材の最も近くに形成されたハードコート層が、無機微粒子を20?80質量百分率含有している請求項1?5の何れか1項に記載のハードコートフィルム。
【請求項7】 前記透明基材の最も近くに形成されたハードコート層の無機微粒子の含有量が、表層のハードコート層の含有量よりも高い請求項1?6の何れか1項に記載のハードコートフィルム。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高硬度な透明ハードコートフィルム及び反射防止フィルムに関し、特にCRT、LCD、PDP等のディスプレイの表面に用いられるハードコートフィルム及び反射防止フィルムに関する。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、基材上に2層以上からなるハードコート層を形成したハードコートフィルムとし、表面硬度の向上を図るとともに、応力集中によるハードコートフィルムの損状を防ぎ、傷付きにくいハードコートフィルムの提供を目的としている。」
「【0010】又、本発明は、前記ハードコートフィルムの表面硬度が鉛筆硬度法で4H以上であり、且つスクラッチ硬度が150g以上であるハードコートフィルム、少なくとも上記透明基材の最も近くに形成されたハードコート層が、無機微粒子を20?80質量百分率含有しているハードコートフィルム、少なくとも上記透明基材の最も近くに形成されたハードコート層の無機微粒子の含有量が、表層のハードコート層の含有量よりも高いハードコートフィルムを提供する。」
「【0015】すなわち、透明基材1上に全体で厚み10μm?50μmのハードコート層2,2’を形成し、且つその一方のハードコート層2に無機微粒子を20?80質量百分率含有させ、且つハードコート層2の弾性率を、ハードコート層2’よりも高くすることによって、ハードコート層の割れや剥れ、及びカールを防止しながら、鉛筆硬度4H以上の優れた硬度を有するハードコートフィルムを実現した。」
「【0031】そして、ハードコート層2を形成するための塗工液には、粒径が100nm以下の無機微粒子を20?80質量百分率の割合で加える。この無機粒子の添加によって、形成されるハードコート層の弾性率が向上し、又、ハードコート層の厚みを厚くした場合にも、ハードコート層形成材料の硬化時における応力を緩和させる効果がある。無機微粒子が20質量百分率未満では十分な割れ防止、剥離防止及びカール防止効果が得られず、一方、無機微粒子が80質量百分率を超えると得られるハードコートフィルムの透明性が低下し、又、ハードコート層の可撓性が低下して上記と同様に十分な割れ防止及び剥離防止効果が得られない。尚、表層のハードコート層2’の形成に際しては、上記無機微粒子を含有させても、含有させなくてもよいが、含有させる場合にはハードコート層2の含有量未満であることが好ましい。」
「【0040】実施例2
透明基材として188μm厚の易接着PETフィルム(U-42:商品名、東レ(株)製)を用い、その上に表面処理された粒径10nm?50nmのシリカ超微粒子を約40質量百分率含有する電離放射線硬化型樹脂(KZ7992、JSR(株)製;188μm厚のPETフィルム上に14μm厚で形成した時の弾性率は11.5mN/μm)をドライ厚みで約6μmとなるように塗工し、フュージョンHバルブを用い、120mJ/cm2の紫外線で硬化し、ハードコート層2を形成した。
【0041】次いで、ハードコート層2上に電離放射線硬化型樹脂(EH65、ザ・インクテック(株)製;188μm厚のPETフィルム上に14μm厚で形成した時の弾性率は7.8mN/μm)をドライ厚みで約8μmとなるように塗工し、加速電圧175kV及び照射線量10Mradの電子線で硬化させてハードコート層2’を形成して本発明のハードコートフィルムを得た。
実施例3
前記実施例2で得られたハードコート層2’のドライ厚みを約12μmとした以外は実施例2と同様にして本発明のハードコートフィルムを得た。」
また、段落【0056】の【表1】には、上記段落【0040】に記載された実施例3の鉛筆硬度が5Hであったことが記載されている。
刊行物2記載事項を整理すると、刊行物2には、以下の刊行物2発明が記載されている。
《刊行物2発明》
「透明基材としてのPETフィルムの片面に、シリカ超微粒子を含有する電離放射線硬化型樹脂をドライ厚みで約6μmとなるように塗工し、硬化して形成されたハードコート層2と、ハードコート層2上に電離放射線硬化型樹脂をドライ厚みで約12μmとなるように塗工し、硬化して形成されたハードコート層2’が形成され、ハードコート層2’表面の鉛筆硬度が5Hである、ハードコートフィルム。」

b.対比、一致点、相違点
刊行物2発明の「透明基材としてのPETフィルム」、「ハードコート層2」、「ハードコート層2’」、「ハードコートフィルム」は、各々、本件特許発明1の「透明樹脂フィルム」、「第2ハードコート」、「第1ハードコート」、「ハードコート積層フィルム」に相当する。
そして、刊行物2発明の「ハードコート層2’表面の鉛筆硬度が5Hである」は、本件訂正発明1の「上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上」との要件を満たしている。
してみると、本件発明1と刊行物2発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
《一致点》
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなり;
下記、(ロ)を満たすハードコート積層フィルム。
(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。
《相違点2-1》
本件発明1は、全光線透過率が85%以上であるのに対して、刊行物2発明は、全光線透過率が不明である点。

c.相違点の判断
本件発明1の全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に従い測定される(本件特許明細書の段落【0022】及び【0118】を参照。)ことから、その意味は、前記JISに記載された「試験片の平行入射光束に対する全透過光束の割合」であり、測定対象の透明性を示す指標の一つと解される。
一方、上記3.(3)ア.(イ)a.に示したように、刊行物2には、刊行物2発明の「無機粒子」について、「無機粒子の添加によって、形成されるハードコート層の弾性率が向上し、又、ハードコート層の厚みを厚くした場合にも、ハードコート層形成材料の硬化時における応力を緩和させる効果がある。無機微粒子が20質量百分率未満では十分な割れ防止、剥離防止及びカール防止効果が得られず、一方、無機微粒子が80質量百分率を超えると得られるハードコートフィルムの透明性が低下し、又、ハードコート層の可撓性が低下して上記と同様に十分な割れ防止及び剥離防止効果が得られない。」(段落【0031】を参照)と記載されている。
この記載から、刊行物2発明の「無機粒子」は、ハードコート層形成材料の硬化時における応力を緩和させる効果が奏されることを念頭にその添加量が20ないし80質量百分率の範囲内で調整され得るものであり、得られるハードコートフィルムの透明性は、前記範囲内で担保されるものに限定されると解するのが自然であるところ、刊行物2には、前記範囲内で担保される透明性の具体的な値について記載されていない。
また、刊行物2発明において、前記範囲内で担保される透明性の具体的な値を推認させる根拠等は、刊行物1及び刊行物3ないし6にも記載されていない。
一方、画像表示装置に用いるハードコート積層フィルムは、その具体的な用途(表示装置のいずれの部品に用いるのか)等に応じて、全光線透過率が高い方が望まれ、例えば、90%以上程度が好ましいとされていたことは、刊行物3の段落【0049】及び刊行物5の段落【0038】の記載からも明らかなように、本件特許の出願前の周知の事項であり、その下限値は、製造コスト等を勘案して、当業者が適宜設定すべき事項であったと解される。
してみると、刊行物2発明において、その具体的な用途等に応じて、ハードコートフィルムの透明性を確保するために、無機微粒子の添加量を調整すること自体は当業者が容易になし得たことであったとしても、刊行物2発明において、得られるハードコートフィルムの全光線透過率を85%以上に設定することが、前記範囲内で実現可能である(担保される)ことを示す証拠がない以上、そのような値を設定することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

したがって、本件発明1は、刊行物2発明並びに刊行物3記載事項及び刊行物5記載事項から明らかな従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、理由2-1によっても、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

イ.本件発明2、7ないし10について
本件発明1の発明特定事項の全てを発明特定事項とし、さらに、技術的な限定を加える事項を発明特定事項としている、本件発明2、7ないし10は、上記3.(3)ア.(ア)及び(イ)で示した理由と同様の理由により、刊行物1発明及び刊行物1記載事項ないし刊行物6記載事項並びに従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、刊行物2発明並びに刊行物3記載事項及び刊行物5記載事項から明らかな従来周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、理由1-2、1-3、1-4、2-2、2-3によって、本件発明2、7ないし10に係る特許を取り消すことはできない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1、2、7ないし10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第113条第2号の規定に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1、2、7ないし10に係る特許を取り消すことはできず、また、他に本件発明1、2、7ないし10に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートは無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)及び(ロ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ロ)上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が5H以上。
【請求項2】
上記第1ハードコート表面の鉛筆硬度が7H以上である請求項1に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項3】
更に下記(ハ)及び(ニ)を満たす請求項1又は2に記載のハードコート積層フィルム。
(ハ)ヘーズが2.0%以下。
(ニ)最小曲げ半径が40mm以下。
【請求項4】
更に下記(ホ)及び(ヘ)を満たす請求項1?3の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
(ホ)上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上。
(ヘ)上記第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上。
【請求項5】
上記透明樹脂フィルムが、
第一ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α1);
芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);
第二ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α2);が、
この順に積層された透明多層フィルムである
請求項1?4の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項6】
上記第1ハードコートがシランカップリング剤を含む塗料からなる;
請求項1?5の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項7】
上記第1ハードコートの厚みが、0.5?5μmである
請求項1?6の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項8】
上記第2ハードコートの厚みが、15?30μmである
請求項1?7の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項9】
請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの画像表示装置部材としての使用。
【請求項10】
請求項2?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-27 
出願番号 特願2015-54439(P2015-54439)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 小野田 達志
渡邊 豊英
登録日 2016-01-15 
登録番号 特許第5870223号(P5870223)
権利者 リケンテクノス株式会社
発明の名称 ハードコート積層フィルム  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 瀬田 寧  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 瀬田 寧  

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