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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特174条1項  C08G
管理番号 1340135
異議申立番号 異議2017-700625  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-20 
確定日 2018-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6047864号発明「ポリイミド前駆体ワニス,およびポリイミドワニスの製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6047864号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1?22〕について訂正することを認める。 特許第6047864号の請求項1?22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6047864号(請求項の数22。以下,「本件特許」という。)は,平成23年7月21日を出願日とする特許出願(特願2011-160371号)に係るものであって,平成28年12月2日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成28年12月21日である。)。
その後,平成29年6月20日に,本件特許の請求項1?22に係る特許に対して,特許異議申立人である伊東多永子(以下,「申立人伊東」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てA」という。)がされた。
また,平成29年6月21日に,本件特許の請求項1?22に係る特許に対して,特許異議申立人である横山昇(以下,「申立人横山」という。)により,特許異議の申立て(以下,「申立てB」という。)がされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。

平成29年 6月20日 特許異議申立書(申立てA)
6月21日 特許異議申立書(申立てB)
8月 7日 手続補正書(申立てBにつき,特許異議申立書の補正)
9月22日付け 取消理由通知書
11月24日 意見書,訂正請求書
12月 5日付け 通知書(申立人伊東に対し,訂正請求があった旨の通知)
通知書(申立人横山に対し,訂正請求があった旨の通知)
平成30年 1月 4日 意見書(申立人伊東)
1月 9日 意見書(申立人横山)

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成29年11月24日付けの訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?22について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1中,次のア及びイの記載を次のとおり訂正する。

「 但し,次の(a)?(c)の構造は除かれる:」
とあるのを,
「 但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる:」と訂正する。

「で表される1,3-シクロブタンジアミンから2つのNH_(2)基を除いた残基である構造。
)」
とあるのを,
「で表される1,3-シクロブタンジアミンから2つのNH_(2)基を除いた残基である構造;
(d)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化10】

から選ばれ,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化11】

である構造;
(e)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化12】

であり,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化13】

から選ばれる構造;
(f)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化14】

から選ばれ,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化15】

から選ばれる構造。
)」
と訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における一般式(H1)で表されるポリイミド前駆体及び一般式(H2)で表されるポリイミドから,(d),(e)及び(f)で規定される特定の構造を除くものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また,この訂正は,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるから,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1?22について,請求項2?22は,請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1?22に対応する訂正後の請求項1?22は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

3 まとめ
上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条4項に適合するとともに,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?22に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。)。

【請求項1】
少なくとも有機溶剤と,下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または下記一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの製造方法であって,
前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(以下,使用される有機溶剤という)として,光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して,前記ワニスを製造することを特徴とするワニスの製造方法。
【化1】

(一般式(H1)中,A_(1)は4価の脂肪族基または芳香族基であり,B_(1)は2価の脂肪族基または芳香族基であり,R_(1)およびR_(2)は互いに独立して,水素原子,炭素数1?6のアルキル基または炭素数3?9のアルキルシリル基である。)
【化2】

(一般式(H2)中,A_(2)は4価の脂肪族基または芳香族基であり,B_(2)は2価の脂肪族基または芳香族基である。
但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる:
(a)式(H1)および式(H2)において,A_(1)およびA_(2)が,ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基を除いた残基である構造;
(b)式(H1)および式(H2)において,A_(1)およびA_(2)が,次の基:
【化3】

から選ばれ,且つB_(1)およびB_(2)が,次の基:
【化4】

から選ばれる構造;
(c)式(H1)および式(H2)において,B_(1)およびB_(2)が,次式:
【化5】

(一般式(I)中,R^(1),R^(2),R^(3),R^(4)はそれぞれ水素あるいは炭素数1?8のアルキル基を表す)
で表される1,3-シクロブタンジアミンから2つのNH_(2)基を除いた残基である構造;
(d)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化10】

から選ばれ,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化11】

である構造;
(e)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化12】

であり,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化13】

から選ばれる構造;
(f)式(H1)および(H2)において,A_(1)及びA_(2)が,次の基:
【化14】

から選ばれ,且つB_(1)及びB_(2)が,次の基:
【化15】

から選ばれる構造。
)
【請求項2】
使用される有機溶剤として,窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm,400nmにおける光透過率が20%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項3】
使用される有機溶剤として,ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.9553%を超える有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のワニスの製造方法。
【請求項4】
使用される有機溶剤として,ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し,長時間側に現れる不純物ピークの総量が,0.05%以下である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項5】
使用される有機溶剤として,ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が,99.99%以上であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項6】
使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.05%以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項7】
使用される有機溶剤の金属成分の含有率が,300ppb以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項8】
使用される有機溶剤が,窒素含有化合物であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項9】
使用する有機溶剤が,N,N-ジメチルアセトアミド,N,N-ジメチルホルムアミド,N-メチル-2-ピロリドン,N-エチル-2-ピロリドン,ジメチルイミダゾリジノンおよびこれらの2種以上の組み合わせからなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載のワニスの製造方法。
【請求項10】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の芳香族基であり,一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項11】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の芳香族基であり,一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の脂肪族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項12】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の脂肪族基であり,一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項13】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が,下記式(H3)で表される4価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または11に記載のワニスの製造方法。
【化6】

【請求項14】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が,下記一般式(H4)で表される4価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項12に記載のワニスの製造方法。
【化7】

(一般式(H4)中,R_(3)は,独立して,CH_(2)基,酸素原子,または硫黄原子を表し,R_(4)およびR_(5)は,独立して,CH_(2)基,C_(2)H_(4)基,酸素原子,または硫黄原子を表し,R_(6)は直接結合,CH_(2)基,C(CH_(3))_(2)基,SO_(2)基,Si(CH_(3))_(2)基,C(CF_(3))_(2)基,酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項15】
一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が,下記一般式(H5-1)?(H5-5)で表される2価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または12に記載のワニスの製造方法。
【化8】

(一般式(H5-1)?(H5-5)中,R_(7)は水素,メチル基,エチル基であり,R_(8)は1価の有機基であり,Ar_(1)?Ar_(28)は,それぞれ独立に,炭素数が6?18の芳香族環を有する2価の基であり,n_(1)は1?5の整数であり,n_(2)?n_(7)は,それぞれ独立に,0?5の整数である。)
【請求項16】
一般式(H1)中のB1および一般式(H2)のB2が,下記一般式(H6)で表される2価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項11に記載のワニスの製造方法。
【化9】

(一般式(H6)中,R_(9)は,水素または炭素数1?3の炭化水素基を表し,R_(10)は,直接結合,CH_(2)基,C(CH_(3))_(2)基,SO_(2)基,Si(CH_(3))_(2)基,C(CF_(3))_(2)基,酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項17】
請求項1?16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき,このポリイミドフィルムの400nmの光透過率が,各請求項で規定される条件を満たさない有機溶剤を使用して製造されたポリイミドフィルムに比べて増加することを特徴とする請求項1?16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項18】
請求項1?16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき,このポリイミドフィルムが,400nmの光透過率70%以上の透明性を有することを特徴とする請求項1?16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項19】
請求項1?18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて,ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項20】
請求項1?18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて,光を透過または反射させて使用する光学材料を製造する方法。
【請求項21】
使用される有機溶剤として,窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm,400nmにおける光透過率が40%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項22】
使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.01%以下であることを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。

第4 取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
(1)申立人伊東による申立てAについて
本件発明1?22(本件訂正前の請求項1?22に係る発明に対応する。)は,下記ア?ウのとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?22に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記のエの甲第1号証?甲第6号証(以下,申立ての記号を付して「甲1A」等という。)を提出する。
ア 取消理由1(進歩性)
本件発明1?22は,甲1Aに記載された発明及び甲2A又は3Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
イ 取消理由2(実施可能要件)
本件発明1?22は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。
ウ 取消理由3(サポート要件)
本件発明1?22は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
エ 証拠方法
・甲1A 国際公開第2009/107429号
・甲2A 特開平5-279495号公報
・甲3A 特開2011-74278号公報
・甲4A 特開2012-41530号公報
・甲5A 特開2012-140399号公報
・甲6A 特開2013-23583号公報

(2)申立人横山による申立てBについて
本件発明1?22は,下記ア?カのとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?22に係る特許は,特許法113条1号,2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記のキの甲第1号証?甲第11号証(以下,申立ての記号を付して「甲1B」等という。)を提出する。
ア 取消理由4(新規性)
本件発明1?22は,甲1B,2B,3B,4B,5B又は6Bに記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができないものである。
イ 取消理由5(進歩性)
本件発明1?22は,甲1B,2B,3B,4B,5B又は6Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
ウ 取消理由6(新規事項の追加)
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について,平成28年4月22日付けの手続補正書及び同年9月28日付けの手続補正書でした補正は,同願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
エ 取消理由7(実施可能要件)
本件発明1?22は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。
オ 取消理由8(サポート要件)
本件発明1?22は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
カ 取消理由9(明確性要件)
本件発明1?22は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではない。
キ 証拠方法
・甲1B Macromolecules,1997,Vol.30,No.4,p.993-1000
・甲2B Polymeric Materials Science and Engineering,1984, Vol.51,p.62-66
・甲3B Polymer,2006,47,p.1443-1450
・甲4B Polymer,2009,50,p.6009-6018
・甲5B Journal of Polymer Science :Part A: Polymer Chemistry,1993, Vol.31,p.2345-2351
・甲6B 米国特許第4603061号明細書
・甲7B 特開平11-92559号公報
・甲8B 特開2001-354647号公報
・甲9B 特開2002-322298号公報
・甲10B 「REACH規則 SVHC項目 対象物質品収載」,関東化学株式会社,2012年9月
・甲10Bの2 N,N-Dimethylacetamide Technical Data Sheet,BASF,10.2007
・甲10Bの3 N-Methylpyrrolidone Standard Grade Technical Data Sheet,BASF,10.2005
・甲11B 「新訂 最新ポリイミド-基礎と応用-」,日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編,2010年8月25日,p.i-viii,p.102-112

2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)上記1(1)の取消理由1(進歩性)と同旨。
(2)上記1(2)の取消理由4(新規性)と同旨(ただし,甲2B,3B又は4Bに基づくもの。)。
(3)本件発明1?22は,甲2B,3B又は4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである(取消理由10(進歩性))。

第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。
以下,事案に鑑み,取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由1,4及び10),取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由(取消理由4?6,2及び7,3及び8並びに9)の順で検討する。

1 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(進歩性)
ア 甲1Aに記載された発明
甲1Aの記載(請求項2,[0062],実施例1?4等)によれば,甲1Aには,以下の発明が記載されていると認められる。

「少なくとも有機溶剤と,下記一般式(III)で示される構造であるポリイミド前駆体を含有するワニスの製造方法であって,
前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(使用される溶剤)として,N-メチル-2-ピロリドン及びN,N-ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤を使用する,前記ワニスの製造方法。

[式(III)中,mは構造単位の繰り返し数を示す自然数であり,m個のXは相互独立的に二価の有機基であり,Xとして必ず下記一般式(IV)

で示される基とトランス-1,4-シクロへキシレン基とを含む。式(IV)中のR_(1)及びR_(2)は,相互独立的に,-H,-(CF_(2))_(n)-CF_(3),-O(CF_(2))_(n)-CF_(3)から選択される一種であって,少なくとも1つはフッ素を含有する基(nは0以上7以下の整数)である。また,式(III)中,m個のYは相互独立的に四価の有機基であり,Yとして必ず脂肪族基と芳香族基とを含み,2m個のRは相互独立的に水素原子又は一価の有機基である。]」(以下,「甲1A発明」という。)

イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1A発明とを対比すると,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点1
有機溶剤について,本件発明1では,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を用いるのに対して,甲1A発明は,そのような特定はされていない点。

(イ)相違点1の検討
a 甲1Aには,高透明性,低熱膨張性,高耐熱性,低複屈折性を有するポリイミドフィルムを得るためのポリイミド前駆体組成物について記載されており([0013]),ポリイミド前駆体組成物に用いる溶媒成分(有機溶剤)について,N-メチル-2-ピロリドン及びN,N-ジメチルアセトアミド等が例示されている([0050],[0062])。
しかしながら,甲1Aには,上記溶媒成分(有機溶剤)として,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上」のものを用いることについては,記載も示唆もない。
b 甲2Aには,透明性に優れたポリイミドフィルムを製造することについて記載されている(【0001】,【0005】)ところ,その製造に用いるポリアミック酸を重合反応により調整する際に,N-メチル-2-ピロリドン及びジメチルアセトアミド等の有機溶媒を用いることが記載され(【0009】),これらの有機溶媒は,脱水及び蒸留を反復して行い,精製することが好ましいことも記載されている(【0015】)。
しかしながら,甲2Aには,上記有機溶媒に関し,具体的にどの程度まで精製するかについては記載されておらず,また,「光路長1cm,400nmにおける光透過率」を指標とすることや,当該光透過率を「89%以上」とすることについては,記載も示唆もない。
c 甲3Aには,ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は,有機溶媒中で原料を反応させることによって得られることが記載され(【0007】),その有機溶媒として,N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチル-2-ピロリドン等が例示されている(【0029】)。そして,甲3Aの実施例1では,「N,N-ジメチルアセトアミド(和光純薬製,特級)」を用いたことが記載されている(【0047】)。
しかしながら,甲3Aには,上記有機溶媒に関し,「光路長1cm,400nmにおける光透過率」を指標とすることや,当該光透過率を「89%以上」とすることについては,記載も示唆もない。
d 以上のとおり,甲1A,2A及び3Aのいずれにも,透明性に優れたポリイミドフィルムを製造する際に用いる有機溶媒に関し,「光路長1cm,400nmにおける光透過率」を指標とすることや,当該光透過率を「89%以上」とすることについては,記載も示唆もない。また,上記有機溶媒を精製すれば,あるいは,上記有機溶媒が特級グレードであれば,必ず,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上」になることが技術常識であると認めるに足りる証拠もない。
そうすると,甲1A発明において,有機溶剤として,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

(ウ)小括
したがって,本件発明1は,甲1Aに記載された発明及び甲2A又は3Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記イで述べたとおり,本件発明1が,甲1Aに記載された発明及び甲2A又は3Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲1Aに記載された発明及び甲2A又は3Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲1Aに記載された発明及び甲2A又は3Aに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由1によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由4(新規性)(ただし,甲2B,3B又は4Bに基づくもの。)
ア 本件発明1について
(ア)甲2Bに基づくもの
a 甲2Bに記載された発明
甲2Bの記載(62頁「実験」,65?66頁「図1?5」等)によれば,甲2Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「オキシジフタル酸二無水物(ODPA),2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6F)及び4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド酸二無水物(BDSDA)から選ばれるいずれか一つと,1,3-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)とを,重合溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)を用いて重合して,ポリアミック酸溶液を製造する方法であって,ジメチルアセトアミド(DMAc)は,水素化カルシウムにより102℃で真空蒸留したものである,前記方法。」(以下,「甲2B発明」という。)

b 本件発明1と甲2B発明とを対比すると,甲2B発明における「ポリアミック酸」は,本件発明1における「ポリイミド前駆体」に相当するから,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明1では,「ポリイミド前駆体」が,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものであるのに対して,甲2B発明では,「オキシジフタル酸二無水物(ODPA),2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6F)及び4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド酸二無水物(BDSDA)から選ばれるいずれか一つと,1,3-ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)」とから得られる「ポリアミック酸」である点。(注:式及び構造は省略。以下同様。)

c 相違点2の検討
本件発明1におけるポリイミド前駆体は,一般式(H1)から,少なくとも(d)の構造が除かれたものである。
一方,甲2B発明において得られるポリアミック酸の構造は,上記(d)の構造に相当するものと認められる。すなわち,甲2B発明において得られるポリアミック酸の構造は,本件発明1におけるポリイミド前駆体から除かれていることになる。
そうすると,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲2Bに記載された発明であるとはいえない。

(イ)甲3Bに基づくもの
a 甲3Bに記載された発明
甲3Bの記載(1443頁「抄録」,1444頁「2.1.材料」,1445頁「2.3.ポリマー合成」,1446頁「スキーム2」,1447頁「3.2.ポリマー合成」等)によれば,甲3Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)エチリデン]ジフタル酸無水物(9FDA)と,3,4’-オキシジアニリン(3,4’-ODA)又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン(6FAPB)とを,N-メチル-ピロリドン(NMP)中で反応して,ポリアミック酸溶液を製造する方法であって,N-メチル-ピロリドン(NMP)は,使用前にP_(2)O_(5)にて真空蒸留により精製したものである,前記方法。」(以下,「甲3B発明」という。)

b 本件発明1と甲3B発明とを対比すると,甲3B発明における「ポリアミック酸」は,本件発明1における「ポリイミド前駆体」に相当するから,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明1では,「ポリイミド前駆体」が,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものであるのに対して,甲3B発明では,「4,4’-[2,2,2-トリフルオロ-1-(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)エチリデン]ジフタル酸無水物(9FDA)と,3,4’-オキシジアニリン(3,4’-ODA)又は1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン(6FAPB)」とから得られる「ポリアミック酸」である点。

c 相違点3の検討
本件発明1におけるポリイミド前駆体は,一般式(H1)から,少なくとも(e)の構造が除かれたものである。
一方,甲3B発明において得られるポリアミック酸の構造は,上記(e)の構造に相当するものと認められる。すなわち,甲3B発明において得られるポリアミック酸の構造は,本件発明1におけるポリイミド前駆体から除かれていることになる。
そうすると,相違点3は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲3Bに記載された発明であるとはいえない。

(ウ)甲4Bに基づくもの
a 甲4Bに記載された発明
甲4Bの記載(6009頁「抄録」,6010頁「2.1.材料」,6012頁「2.4.フッ素化ポリイミド合成」,「ポリイミドフィルム準備」,6013頁「スキーム2」等)によれば,甲4Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)又は4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)と,1,1-ビス[4-(4’-アミノ-2’-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]-1-(3’’-トリフルオロメチルフェニル)-2,2,2-トリフルオロエタン(12FDA)又は1,1-ビス[4-(4’-アミノ-2’-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]-1-[3’’,5’’-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2,2,2-トリフルオロエタン(15FDA)とを,m-クレゾール及びトルエンを溶媒として反応してポリイミドとして乾燥し,当該乾燥したポリイミドを,無水ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解して,ポリイミド溶液を製造する方法であって,m-クレゾールとDMAcは,使用前にCaH_(2)にて真空蒸留によって精製し,4Åモレキュラーシーブにて保存したものを用いる,前記方法。」(以下,「甲4B発明」という。)

b 本件発明1と甲4B発明とを対比すると,両者は,ポリイミドを製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点4
本件発明1では,「ポリイミド」が,「一般式(H2)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものであるのに対して,甲4B発明では,「4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)又は4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)と,1,1-ビス[4-(4’-アミノ-2’-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]-1-(3’’-トリフルオロメチルフェニル)-2,2,2-トリフルオロエタン(12FDA)又は1,1-ビス[4-(4’-アミノ-2’-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]-1-[3’’,5’’-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-2,2,2-トリフルオロエタン(15FDA)」とから得られるものである点。

c 相違点4の検討
本件発明1におけるポリイミドは,一般式(H2)から,少なくとも(f)の構造が除かれたものである。
一方,甲4B発明において得られるポリイミドの構造は,上記(f)の構造に相当するものと認められる。すなわち,甲4B発明において得られるポリイミドの構造は,本件発明1におけるポリイミドから除かれていることになる。
そうすると,相違点4は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲4Bに記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲2B,3B又は4Bに記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲2B,3B又は4Bに記載された発明であるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲2B,3B又は4Bに記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由4(ただし,甲2B,3B又は4Bに基づくもの。)によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由10(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)甲2Bに基づくもの
a 本件発明1と甲2B発明とは,上記(2)ア(ア)bで述べたとおり,少なくとも,相違点2で相違する。

b 相違点2の検討
甲2B発明は,特定のポリアミック酸を製造することを前提とするものであるから,甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項を考慮したとしても,甲2B発明において,このような特定のポリアミック酸を製造することに代えて,その他のポリアミック酸を製造することが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲2B発明において,特定のポリアミック酸を製造することに代えて,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものを製造することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲2Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲3Bに基づくもの
a 本件発明1と甲3B発明とは,上記(2)ア(イ)bで述べたとおり,少なくとも,相違点3で相違する。

b 相違点3の検討
甲3B発明は,特定のポリアミック酸を製造することを前提とするものであるから,上記(ア)で相違点2について述べたのと同様の理由により,甲3B発明において,特定のポリアミック酸を製造することに代えて,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものを製造することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲3Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)甲4Bに基づくもの
a 本件発明1と甲4B発明とは,上記(2)ア(ウ)bで述べたとおり,少なくとも,相違点4で相違する。

b 相違点4の検討
甲4B発明は,特定のポリイミドを製造することを前提とするものであるから,上記(ア)で相違点2について述べたのと同様の理由により,甲4B発明において,特定のポリイミドを製造することに代えて,「一般式(H2)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものを製造することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲2B,3B又は4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲2B,3B又は4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲2B,3B又は4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由10によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由
(1)取消理由4(新規性)(ただし,甲1B,5B又は6Bに基づくもの。)
ア 本件発明1について
(ア)甲1Bに基づくもの
a 甲1Bに記載された発明
甲1Bの記載(993頁「抄録」,995?996頁「ポリマー合成」,996頁「表6」,998頁「材料」等)によれば,甲1Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-エンド,3-エンド,5-エキソ,6-エキソ-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物(5a)又はビシクロ[2.2.2]オクタン-2-エキソ,3-エキソ,5-エキソ,6-エキソ-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物(5b)と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE),4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(BAB)から選ばれるいずれか一つとを,重合溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)中で重縮合して,ポリアミド酸溶液を製造する方法であって,N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)は,室温で一晩P_(2)O_(5)と撹拌して溶媒に不純物として含まれるジメチルアミンを除去する,前記方法。」(以下,「甲1B発明」という。)

b 本件発明1と甲1B発明とを対比すると,甲1B発明における「ポリアミド酸」は,本件発明1における「ポリイミド前駆体」に相当するから,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点5
本件発明1では,「ポリイミド前駆体」が,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものであるのに対して,甲1B発明では,「ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-エンド,3-エンド,5-エキソ,6-エキソ-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物(5a)又はビシクロ[2.2.2]オクタン-2-エキソ,3-エキソ,5-エキソ,6-エキソ-テトラカルボン酸2,3:5,6-二無水物(5b)と,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE),4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)及び1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(BAB)から選ばれるいずれか一つ」とから得られる「ポリアミド酸」である点。

c 相違点5の検討
本件発明1におけるポリイミド前駆体は,一般式(H1)から,少なくとも(a)の構造が除かれたものである。
一方,甲1B発明において得られるポリアミド酸の構造は,上記(a)の構造に相当するものと認められる。すなわち,甲1B発明において得られるポリアミド酸の構造は,本件発明1におけるポリイミド前駆体から除かれていることになる。
そうすると,相違点5は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明であるとはいえない。

(イ)甲5Bに基づくもの
a 甲5Bに記載された発明
甲5Bの記載(2346頁「材料」,図1,「ポリアミック酸製造」等)によれば,甲5Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「ピロメリット酸二無水物(PMDA),ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から選ばれるいずれか一つと,trans-及びcis-1,4-ジアミノシクロヘキサンの混合物(mix-1,4-CHDA),trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン(trans-1,4-CHDA),4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)及び4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DPM)から選ばれるいずれか一つとを,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)のような極性溶媒中で重合して,ポリアミック酸を製造する方法。」(以下,「甲5B発明」という。)

b 本件発明1と甲5B発明とを対比すると,甲5B発明における「N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)のような極性溶媒」,「ポリアミック酸」は,それぞれ,本件発明1における「有機溶剤」,「ポリイミド前駆体」に相当するから,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点6
有機溶剤について,本件発明1では,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を用いるのに対して,甲5B発明では,そのような特定はされていない点。

c 相違点6の検討
甲5Bには,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)のような極性溶媒について,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上」であることは記載されていない。よって,相違点6は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲5Bに記載された発明であるとはいえない。

(ウ)甲6Bに基づくもの
a 甲6Bに記載された発明
甲6Bの記載(クレーム2?4等)によれば,甲6Bには,以下の発明が記載されていると認められる。

「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6F),4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド酸二無水物(BDSDA),4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA),ピロメリット酸二無水物(PMDA)から選ばれるいずれか一つと,3,3’-ジアミノジフェニルスルホン又は2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンとを,N,N-ジメチルアセトアミド,N,N’-ジメチルホルムアミド,N-メチル-2-ピロリドン及びジメチルスルホキシドから選ばれるいずれか一つの溶媒中で,ポリアミック酸溶液を製造する方法であって,溶媒は使用前に蒸留される,前記方法。」(以下,「甲6B発明」という。)

b 本件発明1と甲6B発明とを対比すると,甲6B発明における「ポリアミック酸」は,本件発明1における「ポリイミド前駆体」に相当するから,両者は,ポリイミド前駆体を製造する点で同様のものといえるが,少なくとも,以下の点で相違する。
・相違点7
本件発明1では,「ポリイミド前駆体」が,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものであるのに対して,甲6B発明では,「2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6F),4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド酸二無水物(BDSDA),4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA),ピロメリット酸二無水物(PMDA)から選ばれるいずれか一つと,3,3’-ジアミノジフェニルスルホン又は2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン」とから得られる「ポリアミック酸」である点。

c 相違点7の検討
本件発明1におけるポリイミド前駆体は,一般式(H1)から,少なくとも(b)の構造が除かれたものである。
一方,甲6B発明において得られるポリアミック酸の構造は,上記(b)の構造に相当するものと認められる。すなわち,甲6B発明において得られるポリアミック酸の構造は,本件発明1におけるポリイミド前駆体から除かれていることになる。
そうすると,相違点7は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲6Bに記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1B,5B又は6Bに記載された発明であるとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲1B,5B又は6Bに記載された発明であるとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲1B,5B又は6Bに記載された発明であるとはいえない。
したがって,取消理由4(ただし,甲1B,5B又は6Bに基づくもの。)によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由5(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア)甲1Bに基づくもの
a 本件発明1と甲1B発明とは,上記(1)ア(ア)bで述べたとおり,少なくとも,相違点5で相違する。

b 相違点5の検討
甲1B発明は,特定のポリアミド酸を製造することを前提とするものであるから,甲1B?11Bに記載された事項を考慮したとしても,甲1B発明において,このような特定のポリアミド酸を製造することに代えて,その他のポリアミド酸を製造することが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲1B発明において,特定のポリアミド酸を製造することに代えて,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものを製造することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲1Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲2B,3B又は4Bに基づくもの
上記1(3)で述べたとおり,本件発明1は,甲2B,3B又は4Bに記載された発明並びに甲1B,6B及び7B?10Bの3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。そして,このような判断は,さらに甲2B?5B及び11Bに記載された事項を考慮したとしても,変わるものではない。
したがって,本件発明1は,甲2B,3B又は4Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)甲5Bに基づくもの
a 本件発明1と甲5B発明とは,上記(1)ア(イ)bで述べたとおり,少なくとも,相違点6で相違する。

b 相違点6の検討
甲1B?11Bのいずれにも,透明性に優れたポリイミドフィルムを製造する際に用いる有機溶剤に関し,「光路長1cm,400nmにおける光透過率」を指標とすることや,当該光透過率を「89%以上」とすることについては,記載も示唆もない。また,有機溶剤を精製すれば,あるいは,有機溶剤が特級グレードであれば,必ず,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上」になることが技術常識であると認めるに足りる証拠もない。
そうすると,甲5B発明において,有機溶剤として,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲5Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(エ)甲6Bに基づくもの
a 本件発明1と甲6B発明とは,上記(1)ア(ウ)bで述べたとおり,少なくとも,相違点7で相違する。

b 相違点7の検討
甲6B発明は,特定のポリアミック酸を製造することを前提とするものであるから,上記(ア)で相違点5について述べたのと同様の理由により,甲6B発明において,特定のポリアミック酸を製造することに代えて,「一般式(H1)であらわされる」ものであって,「但し,次の(a)?(f)の構造は除かれる」ものを製造することが,当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,本件発明1は,甲6Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?22について
本件発明2?22は,本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるが,上記アで述べたとおり,本件発明1が,甲1B,2B,3B,4B,5B又は6Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?22についても同様に,甲1B,2B,3B,4B,5B又は6Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ まとめ
以上のとおり,本件発明1?22は,いずれも,甲1B,2B,3B,4B,5B又は6Bに記載された発明及び甲1B?11Bに記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由5によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由6(新規事項の追加)
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について,平成28年4月22日付けの手続補正書及び同年9月28日付けの手続補正書でした補正は,当該補正前の請求項1における一般式(H1)で表されるポリイミド前駆体及び一般式(H2)で表されるポリイミドから,(a),(b)及び(c)で規定される特定の構造を単に除くものにすぎないから,同願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかであり,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものといえる。
したがって,取消理由6によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由2及び7(実施可能要件)
本件明細書には,本件発明1における有機溶剤及びその製造方法(【0042】?【0056】,【0100】)のほか,同ポリイミド前駆体及びポリイミド(【0057】?【0080】)並びにそれらの製造方法(【0082】?【0096】)について,具体的な説明がなされている。
そして,本件明細書には,実施例において,実際に各種のワニスを製造し,そのワニスからポリイミドフィルムを製造したことが記載されている。また,実施例以外のワニス及びポリイミドフィルムについても,当業者であれば,各種の原料を入手し,上記製造方法により製造することができる。
そうすると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件発明1に係るワニスの製造方法を使用することができ,その製造方法により製造したワニスを使用することができるといえるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明1について,実施可能要件を満たすものである。
また,本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?22についても同様であり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明2?22について,実施可能要件を満たすものである。
したがって,取消理由2及び7によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(5)取消理由3及び8(サポート要件)
本件明細書の記載(【0006】,【0047】,【0130】)によれば,本件発明1の課題は,フレキシブルディスプレイ用や,太陽電池用,タッチパネル用の透明基材に最適な,「10μm膜厚で波長400nmにおける透過率が70%以上」という高い透明性を有するポリイミドを得ることができるポリイミド前駆体ワニス及びポリイミドワニスの製造方法を提供することであると認められる。
本件明細書の記載(【0035】,【0036】,【0046】,【0047】)を踏まえ,本件発明1の構成を前提とすれば,本件発明1の課題は,ワニスの製造方法において,有機溶剤として,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を使用することによって,解決されるとされていることが理解できる。
そして,本件明細書には,本件発明1を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(表1?4,図5?8等を参照。),これらの実施例及び比較例によれば,実施例において,製造されたワニスから得られたポリイミドフィルムが,実際に高い透明性を有することが示されているといえる。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,本件発明1の構成を備えるワニスの製造方法によれば,同実施例と同様に,製造されたワニスから得られたポリイミドフィルムが,高い透明性を有することが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
また,本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?22についても同様であり,本件発明2?22は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
したがって,取消理由3及び8によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

(6)取消理由9(明確性要件)
本件発明1は,ワニスの製造方法において,有機溶剤として,「光路長1cm,400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤」を使用するものである。
この有機溶剤は,上記のとおり,「光路長1cm,400nmにおける光透過率」を指標とし,当該光透過率が「89%以上」であることが特定されるものであり,その意味は明確である。また,本件明細書には,有機溶剤の種類について,ポリイミド前駆体又はポリイミドを溶解できる溶剤であれば,特に限定されないとして,多数のものが例示されており(【0056】),当業者であれば,本件発明1において使用される有機溶剤が,具体的にどのようなものであるのかが理解できる。
以上によれば,本件発明1は,特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確なものとはいえない。よって,本件発明1は明確である。
また,本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?22についても同様であり,本件発明2?22は明確である。
したがって,取消理由9によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも有機溶剤と、下記一般式(H1)であらわされるポリイミド前駆体または下記一般式(H2)であらわされるポリイミドを含有するワニスの製造方法であって、
前記ワニス中に含まれることになる有機溶剤(以下、使用される有機溶剤という)として、光路長1cm、400nmにおける光透過率が89%以上である有機溶剤を使用して、前記ワニスを製造することを特徴とするワニスの製造方法。
【化1】

(一般式(H1)中、A_(1)は4価の脂肪族基または芳香族基であり、B_(1)は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R_(1)およびR_(2)は互いに独立して、水素原子、炭素数1?6のアルキル基または炭素数3?9のアルキルシリル基である。)
【化2】

(一般式(H2)中、A_(2)は4価の脂肪族基または芳香族基であり、B_(2)は2価の脂肪族基または芳香族基である。
但し、次の(a)?(f)の構造は除かれる:
(a)式(H1)および式(H2)において、A_(1)およびA_(2)が、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-テトラカルボン酸から4つのカルボキシル基を除いた残基である構造;
(b)式(H1)および式(H2)において、A_(1)およびA_(2)が、次の基:
【化3】

から選ばれ、且つB_(1)およびB_(2)が、次の基:
【化4】

から選ばれる構造;
(c)式(H1)および式(H2)において、B_(1)およびB_(2)が、次式:
【化5】

(一般式(I)中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)はそれぞれ水素あるいは炭素数1?8のアルキル基を表す)
で表される1,3-シクロブタンジアミンから2つのNH_(2)基を除いた残基である構造;
(d)式(H1)および式(H2)において、A_(1)およびA_(2)が、次の基:
【化10】

から選ばれ、且つB_(1)およびB_(2)が、次の基:
【化11】

である構造;
(e)式(H1)および式(H2)において、A_(1)およびA_(2)が、次の基:
【化12】

であり、且つB_(1)およびB_(2)が、次の基:
【化13】

から選ばれる構造;
(f)式(H1)および式(H2)において、A_(1)およびA_(2)が、次の基:
【化14】

から選ばれ、且つB_(1)およびB_(2)が、次の基:
【化15】

から選ばれる構造。
)
【請求項2】
使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が20%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項3】
使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が99.9553%を超える有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1または2に記載のワニスの製造方法。
【請求項4】
使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析で求められる主成分ピークの保持時間に対し、長時間側に現れる不純物ピークの総量が、0.05%以下である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項5】
使用される有機溶剤として、ガスクロマトグラフィー分析より求められた純度が、99.99%以上であることを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項6】
使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.05%以下であることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項7】
使用される有機溶剤の金属成分の含有率が、300ppb以下であることを特徴とする請求項1?6のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項8】
使用される有機溶剤が、窒素含有化合物であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項9】
使用する有機溶剤が、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンおよびこれらの2種以上の組み合わせからなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載のワニスの製造方法。
【請求項10】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項11】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の芳香族基であり、一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の脂肪族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項12】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が4価の脂肪族基であり、一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が2価の芳香族基であることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項13】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が、下記式(H3)で表される4価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または11に記載のワニスの製造方法。
【化6】

【請求項14】
一般式(H1)中のA_(1)および一般式(H2)中のA_(2)が、下記一般式(H4)で表される4価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項12に記載のワニスの製造方法。
【化7】

(一般式(H4)中、R_(3)は、独立して、CH_(2)基、酸素原子、または硫黄原子を表し、R_(4)およびR_(5)は、独立して、CH_(2)基、C_(2)H_(4)基、酸素原子、または硫黄原子を表し、R_(6)は直接結合、CH_(2)基、C(CH_(3))_(2)基、SO_(2)基、Si(CH_(3))_(2)基、C(CF_(3))_(2)基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項15】
一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が、下記一般式(H5-1)?(H5-5)で表される2価芳香族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項10または12に記載のワニスの製造方法。
【化8】

(一般式(H5-1)?(H5-5)中、R_(7)は水素、メチル基、エチル基であり、R_(8)は1価の有機基であり、Ar_(1)?Ar_(28)は、それぞれ独立に、炭素数が6?18の芳香族環を有する2価の基であり、n_(1)は1?5の整数であり、n_(2)?n_(7)は、それぞれ独立に、0?5の整数である。)
【請求項16】
一般式(H1)中のB_(1)および一般式(H2)のB_(2)が、下記一般式(H6)で表される2価脂肪族基からなる群より選ばれることを特徴とする請求項11に記載のワニスの製造方法。
【化9】

(一般式(H6)中、R_(9)は、水素または炭素数1?3の炭化水素基を表し、R_(10)は、直接結合、CH_(2)基、C(CH_(3))_(2)基、SO_(2)基、Si(CH_(3))_(2)基、C(CF_(3))_(2)基、酸素原子または硫黄原子を表す。)
【請求項17】
請求項1?16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムの400nmの光透過率が、各請求項で規定される条件を満たさない有機溶剤を使用して製造されたポリイミドフィルムに比べて増加することを特徴とする請求項1?16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項18】
請求項1?16のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて膜厚10μmのポリイミドフィルムを製造したとき、このポリイミドフィルムが、400nmの光透過率70%以上の透明性を有することを特徴とする請求項1?16のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項19】
請求項1?18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、ポリイミドを製造することを特徴とするポリイミドの製造方法。
【請求項20】
請求項1?18のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたワニスを用いて、光を透過または反射させて使用する光学材料を製造する方法。
【請求項21】
使用される有機溶剤として、窒素中で3時間加熱還流した後の光路長1cm、400nmにおける光透過率が40%以上である有機溶剤を使用することを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
【請求項22】
使用される有機溶剤の250℃での不揮発成分が0.01%以下であることを特徴とする請求項1?18のいずれか1項に記載のワニスの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-29 
出願番号 特願2011-160371(P2011-160371)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 55- YAA (C08G)
P 1 651・ 121- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 海老原 えい子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 渕野 留香
井上 猛
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6047864号(P6047864)
権利者 宇部興産株式会社
発明の名称 ポリイミド前駆体ワニス、およびポリイミドワニスの製造方法  
代理人 伊藤 克博  
代理人 伊藤 克博  
代理人 小野 暁子  
代理人 小野 暁子  

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