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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
管理番号 1340140
異議申立番号 異議2018-700058  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-04-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6170028号発明「ボーダー織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6170028号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6170028号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年10月31日に特許出願され、平成29年7月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年1月25日に特許異議申立人特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
斜子組織とリップストップ組織が、織物の経方向に交互に繰り返されたボーダー織物であり、
斜子組織またはリップストップ組織のいずれかのうち、面積占有率の低い織組織の経糸方向の長さが1?200cmであり、
前記斜子組織及び前記リップストップの平組織を構成する経糸の繊度が3?60dtexであり、
前記斜子組織の緯糸繊度が、前記リップストップのリップ部の緯糸繊度の0.3?2.5倍であり、
ペンジュラム法に準拠して求められる経緯方向の引裂き強力が5?50Nであることを特徴とするボーダー織物。
【請求項2】
前記斜子組織が、2本斜子及び/又は3本斜子である請求項1に記載のボーダー織物。
【請求項3】
前記斜子組織のトータルカバーファクターが1500?4000であり、
前記リップストップ組織のトータルカバーファクターが1700?3500であり、
前記斜子組織のトータルカバーファクターが、前記リップストップ組織に対し、0.7?3倍である請求項1又は2に記載のボーダー織物。
【請求項4】
前記斜子組織及び前記リップストップの平組織を構成する経糸の繊度が5?20dtexであり、
前記リップ部における糸の引き揃え本数が3本及び/又は4本である請求項1?3のいずれか1項に記載のボーダー織物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のボーダー織物を側地として用いる中綿入り繊維製品。」

3.申立理由の概要
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」等を「甲1発明」等といい、「甲第1号証に記載された事項」等を「甲1記載事項」等という。
申立人は、証拠として、以下の甲1?甲4を提出し、本件発明1?5は、甲1発明、甲2記載事項、甲3記載事項及び甲4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
(証拠一覧)
甲1:特開2005-48298号公報
甲2:特開2004-339672号公報
甲3:特開2004-44018号公報
甲4:特開2006-257592号公報

4.甲1?甲4の記載事項
(1)甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンジュラム法による経糸切断方向の引裂強力と緯糸切断方向の引裂強力のいずれもが10?50Nであって、目付けが50g/m^(2)以下、通気度が1.5cm^(3)/cm^(2)・s以下であることを特徴とする織物。
・・・
【請求項4】
カバーファクターが1600?2000であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の織物。
・・・
【請求項7】
が経緯とも1.5mm以下であるリップストップ組織であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の織物。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は薄くて軽く、かつ引裂強力に優れた織物に関し、特にワタやダウンの吹き出しを抑制した織物であって、特にダウンジャケット等に好適に用いられる織物に関する。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来技術の問題を解決し、軽さと低通気度と高引裂強力のいずれにも優れ、特にダウンジャケットの側地に好適に用いることのできる織物とその製造方法を提供することを目的とする。」
「【0024】
本発明の織物に使用する糸条繊度が30デシテックス以下であり、かつ単糸繊度が1.2デシテックス以下であることが好ましい。糸条繊度が30デシテックスを超えると織物が重くなりやすいため好ましくなく、単糸繊度が1.2デシテックスを超えると通気度が満足しにくいだけでなく、引裂強力が下がり満足するものとなりにくいためである。より好ましい範囲としては糸条繊度が25デシテックス以下であり、単糸繊度が1.1デシテックス以下である。
【0025】
本発明の織物は主にダウンウェア用の側地のような、コンパクトでソフトな薄地織物用途をターゲットとしており、軽さや引裂き強さを高レベルで満足させるために織物の組識は組識点の最も多い平組織、若しくは平組識と石目、ナナコ組識を組合したリップストップ組識が好ましい。中でも、引裂強力が大きい織物とするためにリップストップ組織とすることが好ましく、リップストップ組識における石目、ナナコ部は2本以上であっても構わない。一般的には2本から5本の範囲内で構成され、ダブルリップストップでも構わず、本発明においてはリップストップ組織の細かな限定はない。但し、リップストップ組識では格子柄の大きさが大きすぎると織物全体としての引裂強力向上効果が乏しくなり易いので、好ましくは5mm以下の格子柄、更に好ましくは1.5mm以下の格子柄になるよう織物設計することが望ましい。このような細かいサイズのリップストップ組織にすることが引裂強力の大幅な向上に役立ち、しかも5mm以下の格子柄では格子間隔を変化させても通気度があまり変化しないので特に好ましく採用される。
リップストップの格子部分には通常2本以上引きそろえて構成するが、平織部分の糸条よりも大きい繊度の糸条を1本挿入し格子柄とするものも本発明においてはリップストップ組織の一種とする。この場合、単糸繊度を平織部分の糸条と比べて太くしたり、細くしたりすることもできる。一層好ましい範囲は0.8mm以下である。」
「【0037】
(実施例1)
相対粘度ηr=3.51のナイロン6ポリマーを紡糸温度280℃で丸孔を20個有する口金から溶融紡糸して紡糸速度2400m/min、延伸温度160℃にて延伸し、10%伸長時の強度が2.10cN/dtex、伸度が50%の22デシテックス20フィラメントのマルチフィラメントを得た。該糸条を経糸及び緯糸に用いて経糸密度183本/2.54cm、緯糸密度178本/2.54cmに設定し、図1に示すリップストップ組織で製織を行った。
【0038】
得られた生機を常法に従って精錬、染色した後、カレンダー加工(条件:シリンダー温度120℃、圧力25kgf/cm2、速度20m/分)を織物片面に2回施して仕上げ、経糸密度198本/2.54cm、緯糸密度184本/2.54cmの布帛を得た。得られた布帛は緯引裂強力が18.6N、経引裂強度が14.7kgf、厚みは0.066mmであった。風合いは非常にソフトであり、光沢の押さえられた、薄地にもかかわらず引裂強力に優れたものであった。
【0039】
(実施例2)
図2に示すミニダブルリップ組織で製織した以外は実施例1に従った。風合いは非常にソフトであり、薄地にもかかわらず引裂強力に優れたものであった。」
「【0045】
【表1】



上記記載事項(特に、【0037】?【0039】及び【0045】の実施例2)から、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。
「組識点の最も多い平組織、若しくは平組識と石目、ナナコ組識を組合したリップストップ組織を有する織物であって、リップストップ組織の縦糸及び緯糸の繊度がそれぞれ22dtexで、ペンジュラム法による経糸切断方向の引裂強力と緯糸切断方向の引裂強力のいずれもが10?50Nであり、リップストップ組識の格子柄の大きさが5mm以下である、織物。」

(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0012】
本発明の織物は寝袋、テント類、パラグライダー、パラシュート、スキー・スノーボードウェア、アウトドアウェアなどの資材、衣料用途を主な用途としているので、織物の地合いがしっかりした強固なものが求められる。従って、織物の組識は組識点の最も多い平組織、若しくは平組識と石目、ナナコ組識を組合したリップストップ組識が好ましい。中でも、引裂強力が大きい織物とするためにリップストップ組織とすることが好ましく、リップストップ組識における石目、ナナコ部は2本以上であっても構わない。一般的には2本から5本の範囲内で構成され、ダブルリップストップでも構わず、本発明においてはリップストップ組織の細かな限定はない。但し、リップストップ組識では格子柄の大きさが大きすぎると織物全体としての引裂強力向上効果が乏しくなり易いので、好ましくは1から2cmの格子柄、更に好ましくは1cm以下の格子柄になるよう織物設計することが望ましい。」

(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0007】
また、高い引裂き強力を得るために織物の地部分を構成する織組織の少なくとも一部がヒラ組織以外からなるものとすることが好ましい。織物の地部分とは織物の左右両端部分に必要に応じて設けられた耳部分を除く、本来の織物部分のことである。織組織の少なくとも一部がヒラ組織以外であるとは、ヒラ組織を基本組織とし、部分的にヒラ組織以外の組織が複合された複合組織を包含するものである。具体的には、綾組織、朱子組織、または梨地、経2重、緯2重、経緯2重組織、、リップストップ組織(前記のヒラ組織を基本組織とし、部分的にヒラ組織以外の組織が複合された格子柄を持つ複合組織の代表的なもの)等で構成された織物が例示される。中でも、織物の耐水圧が高く、且つ地合いの丈夫な石目組織やナナコ組織とヒラ組織を複合したリップストップ組織の織物が好ましい。織物の地部分の織組織がヒラ組織ばかりで構成されたヒラ織物では単位面積当たりの組織点が多いことから引裂き強力の低下を招き好ましくない。リップストップ組織の格子柄の間隔は1インチ以下が好ましく、更に好ましくは1cm以下、最も好ましくは5mm以下である。なお、ヒラ組織以外の組織を含んで構成される高密度織物では、経糸と緯糸の組織点が少なくなって、耐水圧が下がることも起こり得るので、必要に応じて染色仕上げ加工においてカレンダー加工や樹脂加工等を施すことも好ましい。」

(4)甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0005】
本発明の織物は、地組織に経畝組織または/および斜子組織からなるリップストップ組織を用い、かつ該経畝組織または/および斜子組織における緯糸が捻れることなく配置されていることを特徴とする織物である。」
「【0017】
リップストップ部の間隔は、その糸繊度と密度等により適宜選択することができる。リップ部の間隔が広すぎると地組織部分で糸の捻れが発生するため、本発明の目的を達成できなくなるため、リップストップ間隔は重要であり、好ましくはリップストップ部の間隔は10cm以下であり、より好ましくは0.5cm以上5cm以下である。リップストップ間隔が10cmより大きくなると、緯糸を捻れることなく配置することが難しく、かつ衣服とした場合大柄となり一般的に好まれにくい。従って意匠性も加味すると、リップストップ間隔は5cm以下であることが好ましい。ただし、リップストップ間隔を0.5cm未満にするとリップストップ間隔が狭くなりすぎるため、特にシャンブレー織物にした場合異色性を損なうことがある。」

5.判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「組識点の最も多い平組織、若しくは平組識と石目、ナナコ組識を組合したリップストップ組織」の「石目、ナナコ組識」は、「リップストップ組織」の一部を構成するものであるから、本件発明1の「リップストップ組織」とは別の組織を構成する「斜子組織」に相当するものとはいえない。そうすると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、斜子組織とリップストップ組織が、織物の経方向に交互に繰り返されたボーダー織物であり、斜子組織またはリップストップ組織のいずれかのうち、面積占有率の低い織組織の経糸方向の長さが1?200cmであるのに対して、甲1発明は、リップストップ組織を有する織物であるものの、斜子組織とリップストップ組織が、織物の経方向に交互に繰り返されたボーダー織物でない点。

相違点1を検討する。
甲1の【0025】には、「本発明の織物は主にダウンウェア用の側地のような、コンパクトでソフトな薄地織物用途をターゲットとしており、軽さや引裂き強さを高レベルで満足させるために織物の組識は組識点の最も多い平組織、若しくは平組識と石目、ナナコ組識を組合したリップストップ組識が好ましい。・・・但し、リップストップ組識では格子柄の大きさが大きすぎると織物全体としての引裂強力向上効果が乏しくなり易いので、好ましくは5mm以下の格子柄、更に好ましくは1.5mm以下の格子柄になるよう織物設計することが望ましい。」とあり、「石目、ナナコ組識」は「リップストップ組識」を構成するものであり、甲1発明では、柄としては、「リップストップ組識」によりせいぜい5mm以下の小さな格子柄を形成するものである。一方、本件発明1は、「本発明で得られる薄地のボーダー織物は、斜子組織とリップストップ組織の柄の違いを活かして、斜子組織とリップストップ組織の境界を、製品の目立つ部分のアクセントとして用いるとよい。本発明に係るボーダー織物を、例えばダウンジャケットやウィンドブレーカー等の上衣用の生地に用いる場合は、斜子組織とリップストップ組織の境界線が、着用者の身頃や袖部の切り返しにくるように調整するとよい。そのため、ボーダー織物における斜子組織やリップストップ組織の大きさ、斜子組織・リップストップ組織の長さは、適用する製品のデザイン応じて設定するとよい。・・・また本発明のボーダー織物を、寝具やテント等に用いる場合や、要尺が長いため、ボーダー部の経糸方向の長さを、例えば、1?200cmに調整するとよい。また地部の長さは、例えば、1?200cmが好ましく、より好ましくは20?100cmである。」(本件特許明細書【0014】)との記載を踏まえると、本件発明1における、ボーダー柄は、緯方向に長く伸びた模様を形成するものである。そうすると、甲1発明の形成される柄と本件発明1の形成される柄は、大きく異なるものであり、また、甲1に接した当業者にとって、甲1発明について、引裂強力向上効果の得られない斜子組織をオーダー柄として挿入することの動機は生じ得ないし、そのようにすることには、阻害要因が認められる。よって、甲1発明について、相違点1に係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
また、甲2?甲4には、「リップストップ組織」を有する織物の記載はあるが、斜子組織とリップストップ組織が、織物の経方向に交互に繰り返されたボーダー織物であり、斜子組織またはリップストップ組織のいずれかのうち、面積占有率の低い織組織の経糸方向の長さが1?200cmである点は、記載されていないし、その点を示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る構成を有することにより、「ボーダー柄として斜子組織とリップストップ組織を組み合わせ、斜子組織とリップストップ組織の緯糸繊度の関係を調整したことで、薄地であっても、意匠性が高くシワになりにくい上、防風性及びダウンプルーフ性に優れた織物が得られる」(本件特許明細書【0009】)という作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明、甲2記載事項、甲3記載事項及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明、甲2記載事項、甲3記載事項及び甲4記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1?5は、上記(1)及び(2)に述べたように、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものではない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-19 
出願番号 特願2014-223779(P2014-223779)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阪▲崎▼ 裕美平井 裕彰  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 武井 健浩
蓮井 雅之
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6170028号(P6170028)
権利者 東洋紡STC株式会社
発明の名称 ボーダー織物  
代理人 植木 久彦  
代理人 柴田 有佳理  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  
代理人 伊藤 浩彰  

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