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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1340160
異議申立番号 異議2018-700142  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-22 
確定日 2018-05-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6183696号発明「撥水性フィルム、積層体、及び包装材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6183696号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 主な手続の経緯等
特許第6183696号(設定登録時の請求項の数は7。以下「本件特許」という。)は,平成25年7月25日にされた特許出願に係るものであって,平成29年8月4日にその特許権が設定登録された。
そして,本件特許に係る特許掲載公報は平成29年8月23日に発行されたところ,特許異議申立人石井良夫(以下,単に「異議申立人」という。)は,平成30年2月22日,請求項1?7に係る特許に対して特許異議の申立てをした。

2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明は,その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。なお,請求項2?7の記載は,これを省略する。)。
「基材層と,表面加工によって形成された凹凸構造を有する撥水性フィルムからなる層とを有してなり,前記凹凸構造を有する面が最外面である積層体であって,
前記凹凸構造を有する面の表面粗さRaが,0.5?15μmであり,
前記凹凸構造を有する面の水の接触角が120度以上であり,
前記凹凸構造が,加熱溶融した熱可塑性樹脂を賦型版上に押出して加圧成形して,形成されてなる,積層体。」

3 取消理由の概要
異議申立人の主張は,概略,次のとおりである。
(1) 本件発明1?7は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明である(本決定の便宜上,以下「取消理由1」という。)。すなわち,本件発明1?7は,甲1に記載された発明を主たる引用発明,甲2?4に記載された発明を従たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 本件発明1?7は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた甲5に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができないものである(同じく,以下「取消理由2」という。)。
(3) そして,上記取消理由1?2にはいずれも理由があるから,本件の請求項1?7に係る発明についての特許は,113条2号に該当し,取り消されるべきものである。
(4) また,証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1?8)を提出する。
・甲1: 特開2009-107695号公報
・甲2: 特開平5-185557号公報
・甲3: 特開平9-39061号公報
・甲4: 特開平9-155972号公報
・甲5: 特開2013-209126号公報(決定注:甲5は,証拠方法である特願2012-80864号の願書に最初に添付された明細書などに代えて提出されたものと解される。)
・甲6: 特開2002-155474号公報
・甲7: 特開2013-6309号公報
・甲8: 特開2013-6310号公報

4 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,取消理由1?2にはいずれも理由はないと判断する。
(1) 取消理由1について
ア 本件発明1について
(ア) 甲1に記載された発明
本件特許に係る出願前に頒布された刊行物である甲1には,特に【特許請求の範囲】,【0012】,【0015】などの記載からみて,次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「液体内容物を収納する容器の注出用開口部を外側から覆うように剥離可能に密封するタブ蓋材において,
前記タブ蓋材は,下側に容器と熱融着して接着するシーラント層をもつ積層フィルム又は積層シートであって,プラスチックフィルム層,紙層,蒸着プラスチックフィルム層,シーラント層の順に積層されてなり,
前記タブ蓋材の容器と貼着するシーラント層の下側面は,水接触角が120°以上となる撥水性を備え,多数の細かい針状のものでエンボスすることで微細な凹凸構造をもつ面が形成されてなる液跳ね防止タブ蓋材。」
(イ) 一致点及び相違点
本件発明1と甲1発明とを対比するに,積層フィルム又は積層シートである甲1発明の「タブ蓋材」は本件発明1の「積層体」に相当し,「プラスチックフィルム層」は「基材層」に,微細な凹凸構造をもつ面が形成されてなる「シーラント層」は表面加工によって形成された凹凸構造を有する「撥水性フィルム」にそれぞれ相当する。
また,甲1発明の「微細な凹凸構造をもつ面」はタブ蓋材における「容器と貼着するシーラント層の下側面」に形成されたものであるから,甲1発明の上記構造は,本件発明1の「凹凸構造を有する面が最外面である」との構成を満たすといえる。
そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
「基材層と,表面加工によって形成された凹凸構造を有する撥水性フィルムからなる層とを有してなり,前記凹凸構造を有する面が最外面である積層体であって,前記凹凸構造を有する面の水の接触角が120度以上である積層体。」である点
・ 相違点1
凹凸構造を有する面の構成について,本件発明1は「表面粗さRaが,0.5?15μm」と特定するのに対し,甲1発明はそのような特定事項を有しない点
・ 相違点2
凹凸構造について,本件発明1は「加熱溶融した熱可塑性樹脂を賦型版上に押出して加圧成形して,形成されてなる」と特定するのに対し,甲1発明は「多数の細かい針状のものでエンボスする」ことで凹凸構造が形成されるものではあるが,上記特定を有しない点
(ウ) 相違点1についての検討
a 異議申立人は,相違点1に係る構成について,甲2あるいは甲3に記載されている技術を適用することで当業者が容易になし得る旨主張するので,その当否について検討する。
b 甲2には,その【特許請求の範囲】(特に【請求項7】),【0001】,【0017】などの記載から,概ね以下に述べるとおりの技術が記載されているといえる。
すなわち,甲2に記載されている技術は,家電製品,建材,鋼製家具,自動車等に利用される樹脂被覆金属材における撥水性,耐汚染性に係る表面改質を目的とするものであり,金属材表面にラミネートされる熱可塑性樹脂フィルムについて,最上層にフッ素原子を30at%以上含み,その表面粗さがJIS-B0601で規定されている中心線平均粗さRa0.85?2.1μmで,かつ抽出曲線の平均線からの高さ0.5μmを閾値とする1インチ当たりの山頂数として表した表面粗さパラメータPPIが100以上である樹脂層を形成させることで,撥水性,耐汚染性に優れた樹脂被覆金属材を提供するものである。
他方で,甲1発明は,甲1の【0001】,【0004】などにも記載されているように,液体内容物を収納する容器,例えば,液体用紙容器又はフルオープンの金属缶などの注出用開口部に,剥離可能に貼着して容器を密封する液跳ね防止タブ蓋材に関するものである。
そうすると,甲1発明と甲2に記載されている技術との間に技術分野の関連性があるとはいえず,当業者において,甲1発明の課題解決のために,甲2に記載の技術を適用しようとする動機付けを見いだすことができない。
また,甲2に記載されている技術は,その課題解決手段として,フィルムの表面粗さRaを特定の数値範囲にすることのほか,少なくとも,フィルムの最上層(表面)にフッ素原子を30at%以上含ませることも必須の構成とするものである。
ところで,樹脂層の表面にフッ素原子を存在させると,その表面には撥水性(疎水性)が付与されつつも接着性が低下してしまうことは,例を挙げるまでもなく当業者の技術常識である。そうすると,仮に,甲1発明に甲2に記載されている技術を適用しようとすると,甲1発明の「シーラント層」の表面にフッ素原子を30at%以上含ませることとなるが,このような技術の採用は,当該シーラント層についての「容器と熱融着して接着する」との技術的意義を滅却することとなると言わざるを得ない。
甲1発明に甲2に記載されている技術を適用することには,阻害事由がある。
c 甲3には,その【特許請求の範囲】(特に【請求項3】),【0001】,【0064】などの記載から,概ね以下に述べるとおりの技術が記載されているといえる。
すなわち,甲3に記載されている技術は,成型品に従来にない高い撥水性および撥油性を付与することを目的とするものであり,フッ素基含有ポリマーと熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物を押出し機から押出し,次いで,表面にフッ素樹脂加工が施された成型機を用いて,該樹脂組成物の溶融状態で該樹脂組成物を成型することで,その樹脂組成物の表面の水による接触角を125°以上とするというものである。また,甲3には,成型機表面の粗さは成型品の撥水性,撥油性に影響を与えるので,フッ素樹脂コートされた面の粗さ(JIS B 0601-1982に準拠して測定されるRa)を例えば0.2μm以上とするとの記載(【0064】)もうかがえる。
しかし,甲3に記載されている技術は,上述のとおり,フッ素基含有ポリマーを含有させることを必須の構成とするものであるところ(因みに,【0015】,【0065】には,フッ素基を表面に多数配向させて撥水性および撥油性を有する成型品が得られる旨の記載もうかがえる。),甲1発明において甲3に記載されている技術を採用すると,上記bで述べたとおり,甲1発明のシーラント層の「容器と熱融着して接着する」との技術的意義を滅却することとなる。そうすると,甲1発明に甲3に記載されている技術を適用することには,阻害事由があるといわざるを得ない。
d 以上のとおり,相違点1に係る構成について,甲1発明に甲2あるいは甲3に記載されている技術を適用することで当業者が容易になし得るとの異議申立人の主張は,理由がない。また,異議申立人の証拠方法によっては,相違点1に係る構成を想到容易であるとすることができない(例えば,甲4についてみると,甲4には,【要約】,【0013】などから,フィルムの表面に多数の微細な突出部又は繊維状の表層を設けることで優れた撥水性を有するフィルムを提供すること,そして,そのようなフィルムは表層に微細な孔を有する型材にフィルムを加熱下で押圧し型材の微細形状を転写することで形成されることが開示されているが,相違点1に係る構成については何ら開示がない。甲4に記載されている多数の微細な突出部などについて,その表面粗さRaが0.5?15μmであると認めるに足りる証拠はない。)。
(エ) 小括
以上のとおりであるから,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明から想到容易であるということはできない。
イ 本件発明2?7について
請求項2?7の記載は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして,本件発明1が甲1発明から想到容易であるということはできないのは上記アで検討のとおりであるから,本件発明2?7も同様の理由により,想到容易であるということはできない。
ウ まとめ
以上のとおり,異議申立人が主張する取消理由1には理由がない。

(2) 取消理由2について
ア 本件発明1について
(ア) 甲5に記載された発明
本件特許に係る出願日前に出願され,その出願後に出願公開された明細書など(決定注:当該明細書などの記載について,以下,その特許公開公報である甲5の記載を援用する。)には,特に【特許請求の範囲】(特に【請求項1】,【請求項6】,【請求項8】),【0039】,【0047】,【0054】,実施例1?7などの記載から,次のとおりの発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。
「少なくとも基材層,アルミニウム層,熱接着層,内容物付着防止層が順次積層された積層体からなる蓋材であって,前記内容物付着防止層が球状粒子と疎水性酸化物微粒子とバインダー樹脂からなり,前記内容物付着防止層は球状粒子と疎水性酸化物微粒子とバインダー樹脂とからなる塗布液を塗布機で塗布することで形成されたものであり,前記内容物付着防止層の表面は中心線平均粗さRaがRa>4μmであり水の接触角が140°以上である蓋材。」
(イ) 一致点及び相違点
本件発明1と甲5発明とを対比すると,基材層,アルミニウム層,熱接着層,内容物付着防止層が順次積層された積層体からなる甲5発明の「蓋材」は本件発明1の「積層体」に相当する。また,甲5発明における表面の中心線平均粗さRaがRa>4μmである「内容物付着防止層」と「熱接着層」とを一体のものとして考えたとき,この一体のものは本件発明1の凹凸構造を有する「撥水性フィルム」に対応する(このとき,甲5発明の「内容物付着防止層」は本件発明1の「凹凸構造」に対応するものとなる。)。
また,甲5発明の「中心線平均粗さRaがRa>4μm」である面は,主として食品類の密閉容器に適用される蓋材における当該容器と貼着する側に形成されたものであるから(甲5の【0001】など),甲5発明の上記構造は,本件発明1の「凹凸構造を有する面が最外面である」との構成を満たすといえる。
そうすると,本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。
・ 一致点
「基材層と,凹凸構造を有する撥水性フィルムからなる層とを有してなり,前記凹凸構造を有する面が最外面である積層体であって,前記凹凸構造を有する面の水の接触角が120度以上である積層体。」である点
・ 相違点3
凹凸構造について,本件発明1は「表面加工によって形成された」ものであり,かつ,「加熱溶融した熱可塑性樹脂を賦型版上に押出して加圧成形して,形成されてなる」ものと特定するのに対し,甲5発明は「球状粒子と疎水性酸化物微粒子とバインダー樹脂」からなるものと特定する点
・ 相違点4
凹凸構造を有する面の構成について,本件発明1は「表面粗さRaが,0.5?15μm」と特定するのに対し,甲5発明は「中心線平均粗さRaがRa>4μm」と特定する点
(ウ) 相違点についての検討
まず相違点3について検討するに,甲5発明の「内容物付着防止層」は球状粒子と疎水性酸化物微粒子とバインダー樹脂とからなる塗布液を塗布機で塗布することで形成されたものであり,本件発明1の「加熱溶融した熱可塑性樹脂を賦型版上に押出して加圧成形して,形成」されてなる「凹凸構造」とは,その構成は明らかに異なる。凹凸構造を有する面の構成が,仮に,表面粗さという観点(相違点4)において実質的に相違しないといえるとしても,そのことからただちに,相違点3が実質的な相違点でないということにはならない。また,このような判断は,甲6?8の記載によって何ら左右されない。
そうすると,相違点4について検討するまでもなく,本件発明1は甲5発明と同一であるということはできない。
イ 本件発明2?7について
請求項2?7の記載は,請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして,本件発明1が甲5発明と同一であるということはできないのは上記アで検討のとおりであるから,本件発明2?7も同様の理由により,甲5発明と同一であるということはできない。
ウ まとめ
以上のとおり,異議申立人が主張する取消理由2には理由がない。

5 むすび
したがって,異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては,特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許が113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-04-24 
出願番号 特願2013-154976(P2013-154976)
審決分類 P 1 651・ 16- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか福井 弘子平井 裕彰  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
須藤 康洋
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6183696号(P6183696)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 撥水性フィルム、積層体、及び包装材料  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 浅野 真理  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 柏 延之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  

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