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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特174条1項  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1340168
異議申立番号 異議2017-700116  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-08 
確定日 2018-05-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第5989063号発明「シリコーン樹脂基材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5989063号の請求項1ないし20に係る特許を取り消す。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5989063号(設定登録時の請求項の数は20。以下、「本件特許」という。)は、平成19年12月28日に出願された特願2007-340718号(以下、「基礎出願」という。)の一部を新たな特許出願として平成25年3月7日に出願された特願2013-45473号(以下、「親出願」という。)の一部をさらに新たな特許出願として平成26年11月10日に出願された特願2014-228219号の出願に係るものであって、平成28年8月19日に設定登録され、同年9月7日に特許公報が発行された。
特許異議申立人 柏木里実(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成29年2月8日付け(受入日:同月9日)で、本件特許の請求項1ないし20に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当合議体において、平成29年5月8日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年7月11日付け(受入日:同月12日)で、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、同年8月21日付け(受入日:同月22日)で異議申立人から意見書が提出された。
当合議体において、平成29年9月25日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年11月28日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書を提出したので、特許権者に対して訂正拒絶理由を通知をしたところ、平成30年2月5日付け(受入日:同月6日)で特許権者から手続補正書(以下、当該手続補正書による補正を「本件訂正の補正」という。)及び意見書が提出されたものである。
なお、平成29年7月11日付け(受入日:同月12日)の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。



第2 本件訂正の補正の適否についての判断

1 本件訂正の補正の内容
本件訂正の補正の内容は、以下の補正事項(1)及び(2)を含むものであって、訂正明細書の対応する個所及び訂正請求書の対応する個所についても併せて同様の補正をするものである。
なお、下線部は補正個所であり、当合議体で付与した。

補正事項(1)
訂正特許請求の範囲の請求項1の、
「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下とし」
を、
「420nm以上720nm以下で反射率を5%刻みで80%未満とし」
と補正する。

補正事項(2)
訂正特許請求の範囲の請求項20の、
「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下とし」
を、
「420nm以上720nm以下で反射率を5%刻みで80%未満とし」
と補正する。

2 当合議体の判断
上記補正事項(1)及び(2)について検討すると、斯かる補正事項により、本件訂正の内容が、420nm以上720nm以下での反射率を、「82%以下」とするものから、「5%刻みで80%未満」とするものに変更されることとなり、これは明らかに当該反射率の数値範囲を変更するものである。
なお、特許権者は、当該反射率の数値に関し、実験グラフの読み間違いから誤記したものであると縷々主張しているが、下記第3のとおり、この点を誤記であるとすることはできないし、仮に誤記であったとしても、誤記の訂正事項を請求後において追加したり、変更したりすることは、そもそも請求の要旨を変更することとなるから認められない。
そうすると、斯かる補正事項は、本件訂正における訂正請求書に係る訂正を求める範囲を変更するものといわざるを得ないから、斯かる補正事項を含む本件訂正の補正は、本件訂正の要旨を変更するものである。

3 まとめ
したがって、本件訂正の補正は、本件訂正の要旨を変更するものであるから認められない。



第3 本件訂正の適否についての判断

上記第2のとおり、本件訂正の補正は認められないから、以下に、本件訂正の適否について検討する。

1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおり訂正することを求める訂正事項(a)及び(b)を含むものである。
なお、下線部は訂正の適否が問題となる訂正個所であり、当合議体で付与した。

訂正事項(a)
特許請求の範囲の請求項1の、
「420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とすることを特徴とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材」
を、
「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とすることを特徴とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材」
と訂正する。

訂正事項(b)
特許請求の範囲の請求項20の、
「発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1?19の何れかに記載のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品」
を、
「発光ダイオード基板または太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、
その基板及び/又はパッケージが、
シロキサン化合物同士での付加反応又は縮合反応により三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である透明シリコーン樹脂をバインダーとし、
少なくともアルミナ粉末をフィラーとして含み、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、酸化チタン、炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び着色剤から選ばれる何れかをフィラーとして含んでもよく、
前記透明シリコーン樹脂が、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤と架橋反応し得る前記ポリシロキサン化合物であり、
アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる何れかの反応性官能基を有する前記シランカップリング剤と、前記バインダーと、前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を、含有する成形がなされたシリコーン樹脂基材であって、
前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ前記成形がなされており、全体量に対して40?90質量%とする前記フィラーにより不透明になっており、420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とするシリコーン樹脂基材で形成されており、
前記シリコーン樹脂基材に、反射膜層が設けられた窪みを有し、該窪みに発光ダイオードまたは太陽電池が固定されてレンズ又は/及びフィルターが被せられていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品。」
と訂正する。

2 当合議体の判断
(1)訂正事項(a)について
ア 訂正の目的の適否
(ア) 特許法第120条の5第2項ただし書第1号について
訂正事項(a)は、「420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とすることを特徴とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材」との記載を、「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とすることを特徴とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材」と訂正しようとするもの、すなわち、熱伝導性のシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下での反射率について、「80%未満」との記載を、「82%以下」と訂正しようとするものである。
そうすると、訂正事項(a)によって当該反射率の数値範囲が広がることとなるから、訂正事項(a)は、特許請求の範囲を拡張するものであり、特許請求の範囲を減縮するものではない。
したがって、訂正事項(a)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものでない。
(イ) 特許法第120条の5第2項ただし書第2号について
a 特許権者は、平成29年11月28日付け訂正請求書において、「『反射率を80%未満とし』という誤記を、『反射率を82%以下とし』という正しい記載に訂正している。この誤記は、発明者による実験グラフの読み違いによって生じたものである。本件特許の基礎出願の…図5…における3段目(最下位)のグラフは、アルミナ60質量%、アルミナ40質量%のグラフを、反射率が『420nm以上720nm以下』の範囲を縦軸まで延長すると正しく82%に交錯する。この点は、…取消理由通知書…でご指摘いただき、当業者にとっても自明のことである。グラフの延長線或いは交錯点の目盛りを間違って『反射率80%未満』と読解し誤記したもので、それを正しい読解である『反射率82%以下』に訂正したものである。」と主張し、同日付け意見書において、訂正事項(a)について、「当初段落0073?0076の試験5に記載がある。親段落0089?91に記載がある。図5を併せ見ると一層明らかである。…図5の下段のグラフが、各アルミナ質量%についての反射率を示している。アルミナ60質量%、アルミナ40質量%の反射率が重なり合っており、『420nm以上720nm以下』の範囲を縦軸まで延長すると反射率82%で交錯している。反射率80%未満が誤記で、82%以下が正しい記載であることは、親段落0070に『420nm以上の反射率は、…少なくとも80%であってもよい』との記載の数値範囲内になることからも理解できる。」と主張している。
b しかしながら、「誤記の訂正」とは、「本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正す」ことであると認められる。
そして、訂正前の熱伝導性のシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下での反射率が「80%未満」との記載は、本件特許明細書には一切記載されていない事項である。すなわち、本件特許明細書及び図面には、「(試験5.透過率測定試験・反射率測定試験)
フィラーであるアルミナ又は酸化チタンの含有量毎の透過率と反射率との物性についての試験を行った。
フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)、又は酸化チタンTTO-51(石原産業株式会社製;商品名)の20質量%、40質量%、60質量%をシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)に夫々充填し、金型を用いたコンプレッション成形により、成形して、硬化物であるシリコーン樹脂基材を得た。夫々の透過率と反射率とを、分光光度計UV-3150(株式会社島津製作所製;商品名)により測定した。その結果を、図5に示す。
図5から明らかな通り、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材の透過率が低く、何れも40質量%、60質量%含まれていると、透過率が極めて低く、光の遺漏が殆ど認められない。一方、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材での420nm以上の反射率が高い。フィラーがアルミナである方が酸化チタンであるよりも、低波長での320nm近傍の低波長での反射率が高い。」(段落【0089】?【0091】)及び「

」(【図5】)と記載されるに留まるものであり、訂正前の「80%未満」が誤記であるとか、訂正後の「82%以下」が正しい記載であることを窺わせる根拠となる記載も見当たらない。
特許権者が、訂正の根拠とする上記図5の最下グラフをみても、縦軸の反射率の目盛りは0、50及び100が記載されているだけであって細かな目盛りがないものであるから、420nm以上720nm以下での反射率が具体的にどの値であるのかについては判然としないものであって、訂正前の「80%未満」が誤記であるとも、訂正後の「82%以下」が正しい記載であるともいうことはできないものである。
本件の審査時に特許権者が平成27年8月7日に提出した意見書において図5を拡大した(と称する)図を基に補助線を破線により補っており、それを根拠として反射率が82%以下となっていると主張しているが、仮に、斯かる拡大図が正しく元の図5の拡大図であって、かつ、補助線も正しく補われているとしても、そもそも、斯かる拡大しかつ補助線を補った後になって初めて読み取れるグラフ中に記載されたことまで、当該図5に記載された事項であるとは認めることはできない。
そうすると、本件特許明細書及び図面をみても、訂正前の「80%未満」には根拠となる記載が見当たらないし、訂正後の「82%以下」にも根拠となる記載が見当たらないから、訂正前の「80%未満」との記載が明らかな字句・語句の誤りであるとか、訂正後の「82%以下」との記載が本来その意であることが明らかな字句・語句であるとはいえない。
してみると、訂正事項(a)は、誤記の訂正を目的とするものには相当しない。また、訂正事項(a)が、誤訳の訂正を目的とするものでないことは明らかである。
したがって、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものでない。
(ウ) 特許法第120条の5第2項ただし書第3号について
訂正前の熱伝導性のシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下での反射率が「80%未満」との記載は、それ自体明瞭であるから、訂正事項(a)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも相当しない。
したがって、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものでない。
(エ) 特許法第120条の5第2項ただし書第4号について
訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものでないことは明らかである。
(オ) 小括
以上のとおりであるから、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえない。

新規事項の追加の有無
本件特許明細書及び図面には、ア(イ)で摘記したとおりのことが記載されているのであって、訂正前の「80%未満」はもとより、訂正後の「82%以下」との記載もないことは、ア(イ)で述べたとおりである。
そして、本件特許明細書及び図面の記載から把握できることは、「フィラーが特定のアルミナであるよりも酸化チタン(TTO-51(石原産業株式会社製;商品名)、以下、「特定の酸化チタン」という。)である方が、シリコーン樹脂基材の透過率が低く、何れも40質量%、60質量%含まれていると、透過率が極めて低く、光の遺漏が殆ど認められない、一方、フィラーが特定のアルミナであるよりも特定の酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材での420nm以上の反射率が高い、フィラーが特定のアルミナである方が特定の酸化チタンであるよりも、低波長での320nm近傍の低波長での反射率が高い」というに留まるものであって、本件特許明細書の試験5及び図面の図5の記載を一般化して、熱伝導性のシリコーン樹脂基材に関し、「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とする」ことの課題ないし技術思想が記載されていたものとは認められないし、かかる課題ないし技術思想が自明のことでもない。
そもそも、本件特許明細書の試験5及び図面の図5の記載自体、図中の縦軸には細かな目盛りがないものであり、斯かる図5から、反射率82%以下及び透過率17%を読み取れるものではないことからも、本件特許明細書又は図面には、420nm以上720nm以下での反射率の境界値である「82%以下」及び透過率の境界値である「17%」について根拠となる記載が見当たらず、かかる境界値が自明のことでもない。
さらに、本件特許明細書の試験5及び及び図面の図5においては、シランカップリング剤を使用していないものであって、シランカップリング剤の有無により当該反射率及び透過率が影響を受けないことが自明のことでもない。
そうすると、フィラーが特定のアルミナ粉末はもとよりあらゆるアルミナ粉末であってシランカップリング剤を使用する場合や、フィラーがアルミナ粉末に加えて他のマグネシア粉末等を含む場合において、420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材について、本件特許明細書又は図面に記載されている事項であるとはいえないから、フィラーが特定のアルミナのみならず、アルミナ粉末及び訂正後の請求項1で列挙した全てのフィラーに関し、さらに加えて、「全体量に対して40?90質量%とする前記フィラーにより不透明になっており、420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とする」というものについてまで、本件特許明細書及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる事項であるとはいえない。
そうすると、訂正事項(a)は、本件特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものとはいえず、いわゆる新規事項の追加に相当するものである。
したがって、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさない。

ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
上記ア(イ)で述べたとおり、訂正事項(a)による訂正の結果、熱伝導性のシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下での反射率の数値範囲が広がることとなるから、訂正事項(a)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。
したがって、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に規定する要件を満たさない。

エ 小括
以上のとおり、訂正事項(a)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たさないものであるから、不適法なものである。

(2)訂正事項(b)について
訂正事項(b)につき検討すると、訂正事項(b)においても、「420nm以上720nm以下で反射率を82%以下としかつ透過率を最大で17%とするシリコーン樹脂基材」と訂正する項目を包含するものであるから、上記(1)で述べたのと同じ理由により、訂正事項(b)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものではなく、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たさないものであるから、不適法なものである。

(3)一群の請求項について
訂正事項(a)に係る訂正は請求項1に係るものであり、訂正前の請求項2ないし20は請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項2ないし20に係る訂正後の請求項1ないし36の全請求項で一群の請求項を構成するものである。
ここで、特許権者は、訂正後の請求項20ないし36に関し、訂正が認められる場合には、請求項1ないし19とは異なる訂正単位とすることの求めをしている。
しかしながら、訂正事項(b)に係る訂正は請求項20に係るものであり、上記2で述べたとおり、訂正事項(b)に係る訂正は不適法なものであるから、訂正後の請求項20及び当該請求項20を引用する訂正後の請求項21ないし36に係る訂正は認められない。
したがって、一群の請求項である請求項1ないし36の全請求項及び明細書についての本件訂正請求は、一体として全て認められない。

3 まとめ
以上のとおり、訂正事項(a)及び(b)に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものではなく、しかも、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものではないから、訂正事項(a)及び(b)を含む本件訂正請求は、一体として全て認められない。



第4 本件発明

上記第3のとおり、本件訂正は全て認められないので、本件特許の請求項1ないし20に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明20」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、特許時の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
付加反応又は縮合反応により三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である透明シリコーン樹脂をバインダーとし、アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れかをフィラーとして含み、前記透明シリコーン樹脂が、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤と架橋反応し得る前記ポリシロキサン化合物であり、アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる少なくとも何れかの反応性官能基を有する前記シランカップリング剤と前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされており、前記フィラーにより不透明になっており、420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とすることを特徴とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材。
【請求項2】
前記ポリシロキサン化合物と前記フィラーとへの加熱又は光照射により、前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をして前記三次元架橋シリコーン樹脂となっていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項3】
前記フィラーが、酸化チタン、炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項4】
前記フィラーが、アルミナ、マグネシア、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素、チッ化ケイ素、グラファイト、カーボン粉末、シリカ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ムライト、及びダイヤモンドから選ばれるセラミックス系物質と、銅、アルミニウム、銀、及び鉄から選ばれる金属フィラー系物質との少なくとも何れかの無機フィラー、及びシリコーン樹脂パウダー又はフッ素パウダーである有機フィラーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、
熱伝導率が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項5】
前記フィラーが、チタン酸バリウム、酸化チタン、粉末アルミニウム、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、及びフッ素樹脂パウダーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、
誘電率が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項6】
前記フィラーが、ガラスファイバー、及び/又はカーボンファイバーを含むことにより、物理的強度が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項7】
前記フィラーが、前記三次元架橋シリコーン樹脂と異なる線膨張係数を有するもので、有機フィラーと、ガラスファイバー及びカーボンファイバーから選ばれる無機フィラーとから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、
線膨張係数が調整されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項8】
前記フィラーが、全体量に対して40?90質量%とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項9】
前記フィラーが、ルチル型酸化チタンからなる前記酸化チタン粉末を含むことを特徴とする請求項3に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項10】
前記フィラーが、平均粒径を10?100nmとする前記酸化チタン粉末を含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項11】
梨地面状に仕上がっていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項12】
前記ポリシロキサン化合物が、液状のものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項13】
水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムから選ばれる水和金属化合物類と、アンチモン化合物、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、モリブデン化合物、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ゼオライト、酸化チタン、モンモリロナイト、炭酸カルシウム微粒子、炭酸金属塩、水和金属化合物、銅酸化物、及び酸化鉄から選ばれる無機酸化物と、ナノ水和金属化合物、及びカーボンナノチューブから選ばれるナノフィラーと、フェロセンと、有機金属化合物との少なくとも何れか一種の難燃剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項14】
前記シランカップリング剤が、前記ポリシロキサン化合物の不飽和基又はヒドロシリル基に付加する不飽和基を有していることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項15】
前記バインダーと、シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有された前記組成物で、前記成形がされていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項16】
前記フィラーに対し1質量%の前記シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項17】
反射膜層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項18】
前記ポリシロキサン化合物が、ジフェニルシロキシ基及び/又はジメチルシロキシ基と、加水分解性基含有-、脱反応性縮合性基含有-、アルキルオキシ含有-、ジアルキルオキシ含有-、ビニル含有-、ジビニル含有-、ヒドロ含有-、及びジヒドロ含有-シリル基から選ばれる少なくとも何れかとを有し、前記付加反応又は縮合反応により前記三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項19】
前記バインダーとしての前記透明シリコーン樹脂が、充填剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項20】
発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1?19の何れかに記載のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品。」



第5 異議申立ての概要

異議申立人は、概略、以下1ないし3のとおりの特許異議の申立てをするとともに、証拠として以下の甲第1ないし3号証を提出した。

1 本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 本件特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3 本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2005-146191号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2005-136378号公報(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2009-164275号公報(以下、「甲3」という。)



第6 取消理由の概要

平成29年5月8日付けで通知した取消理由の概要は、以下1ないし3のとおりである。

1 本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1又は刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3 本件特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。


刊行物1:特開2009-164275号公報(甲3。基礎出願の公開公報である。)
刊行物2:特開2005-146191号公報(甲1)
刊行物3:特開2005-136378号公報(甲2)



第7 当合議体の判断

当合議体は、以下述べるように、本件発明は、取消理由で通知した刊行物1又は刊行物2及び刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり(取消理由1)、そして、本件特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであり(取消理由2)、また、本件特許は、明細書の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(取消理由3)、と判断する。

1 特許法第29条第2項(進歩性その1)
本件特許に係る下記の発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
刊行物1:特開2009-164275号公報(甲3)

(1)本件における出願日について
本件は、平成19年12月28日に出願された基礎出願(特願2007-340718号、甲3は、基礎出願の公開公報である。)の一部を新たな特許出願として平成25年3月7日に出願された親出願(特願2013-45473号)の一部をさらに新たな特許出願として平成26年11月10日に出願された特許出願である。
ア 基礎出願と本件出願との分割要件について
本件発明1においては、熱伝導性のシリコーン樹脂基材として「アルミナ粉末、マグネシア粉末、・・・及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れかをフィラーとして含み、・・・420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする」と特定されている。
そして、この点に関し、基礎出願の出願当初の明細書には、「(試験5.透過率測定試験・反射率測定試験)
フィラーであるアルミナ又は酸化チタンの含有量毎の透過率と反射率との物性についての試験を行った。
フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)、又は酸化チタンTTO-51(石原産業株式会社製;商品名)の20質量%、40質量%、60質量%をシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)に夫々充填し、金型を用いたコンプレッション成形により、成形して、硬化物であるシリコーン樹脂基材を得た。夫々の透過率と反射率とを、分光光度計UV-3150(株式会社島津製作所製;商品名)により測定した。その結果を、図5に示す。
図5から明らかな通り、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材の透過率が低く、何れも40質量%、60質量%含まれていると、透過率が極めて低く、光の遺漏が殆ど認められない。一方、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材での420nm以上の反射率が高い。フィラーがアルミナである方が酸化チタンであるよりも、低波長での320nm近傍の低波長での反射率が高い。」(甲3段落【0073】?【0075】)及び「

」(甲3【図5】)と記載されるに留まり、フィラーがアルミナ粉末である場合にはともかく、アルミナ粉末以外のマグネシア粉末等である場合においてまで、420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材が記載されているとはいえないし、アルミナ粉末である場合には420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とすることが達成されれば、アルミナ粉末以外のマグネシア粉末等である場合においてまで420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とすることが達成されることが自明のことであるともいえない。
そして、そもそも甲3の試験5及び図5においては、シランカップリング剤を使用していないものであって、シランカップリング剤の有無により当該反射率及び透過率が影響を受けないことが自明のことでもない。
そうすると、フィラーがアルミナ粉末であってシランカップリング剤を使用する場合や、フィラーがアルミナ粉末以外のマグネシア粉末等である場合において、420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする熱伝導性のシリコーン樹脂基材については、基礎出願の出願当初の明細書に記載されている事項であるとはいえないから、斯かる事項を発明を特定する事項とする本件発明1は基礎出願の出願当初の明細書に記載されている事項の範囲内のものでないことは明らかである。
イ 親出願と本件出願との分割要件について
アで検討した点については、親出願と本件出願との関係においても全く同様のことがいえる。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、本件は不適法な分割出願であり、特許法第44条第2項の遡及効を得ることはできず、本件の出願日は現実の出願日(平成26年11月10日)である。

(2)甲3の記載と甲3に記載された発明
(1)で述べたとおり、本件は不適法な分割出願であって、その出願日は現実の出願日となる。そうすると、本件の基礎出願の公開公報(甲3)は、平成21年7月23日に出願公開となっているから本件に対してその出願前に頒布された文献となる。
ア 甲3の記載
(ア)「【請求項1】
三次元架橋しているシリコーン樹脂からなるバインダーと、アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ケイ素粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、チタン酸バリウム粉末、酸化チタン粉末、シルク、カオリン粉末、酸化鉄粉末、酸化亜鉛粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、カーボンファイバー、及び/又は着色剤であるフィラーとが含有されて、成形されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材。
【請求項2】
前記シリコーン樹脂が、シランカップリング剤と、それに架橋反応するシロキサン化合物とにより、前記三次元架橋していることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、前記シロキサン化合物の不飽和基又はヒドロシリル基に付加する不飽和基を有していることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項4】
前記バインダーと、前記フィラーと、前記シランカップリング剤とが混合されつつ含有されて、成形されていることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項5】
前記バインダーと、前記シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有されて、成形されていることを特徴とする請求項2に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項6】
反射膜層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項7】
前記フィラーが、40?90質量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂基材。
【請求項8】
発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品。」(特許請求の範囲請求項1?8)

(イ)「ポリ(ジアルキルシロキサン)やポリ(ジフェニルシロキサン)は直鎖状に高分子量化したものであるから平面被膜を形成するだけであるが、この三次元架橋し得るポリシロキサン化合物はその途中のSi基が、アルキルオキシシリル基やジアルキルオキシシリル基、ビニルシリル基やジビニルシリル基、ヒドロシリル基やジヒドロシリル基であったり、それらの基が複数存在したりすることにより、網目状に三次元的に架橋するというものである。シロキサン化合物同士や、シロキサン化合物とシランカップリング剤とは、夫々のアルキルオキシシリル基又はジアルキルオキシシリル基同士が脱アルコール化反応により縮合して架橋したり、ビニルシリル基やジビニルシリル基とヒドロシリル基やジヒドロシリル基とが白金錯体等の白金触媒存在下で、無溶媒中、加熱や光照射によって付加して架橋したりする。シロキサン化合物はその中でも、付加して架橋するポリシロキサン化合物が好ましい。ジフェニルシロキシ基(-Si(C_(6)H_(5))_(2)-O-)やジメチルシロキシ基(-Si(CH_(3))_(2)-O-)のような繰り返し単位を有するシロキサン化合物であってもよいが、ジフェニルシロキシ基が多くなるほど、架橋して得られるシリコーン樹脂は、その強度が増加する反面、強い光の曝露により黄変し易くなり、反射性が低下したりくすんだりする。シロキサン化合物は、ジメチルシロキシ基の繰り返し単位を有し、アルキルオキシシリル基、ジアルキルオキシシリル基、ビニルシリル基、ジビニルシリル基、ヒドロシリル基、ジヒドロシリル基を有しているポリシロキサン化合物であると、一層好ましい。」(段落【0029】)

(ウ)「シリコーン樹脂は、付加反応性で、無溶媒下で加熱硬化するものであり、型を用いて、コンプレッション成形、射出成形、トランスファー成形、液状シリコーンゴム射出成形(LIMS)、押し出し成形、カレンダー成形のような方法で成形される。」(段落【0035】)

(エ)「シランカップリング剤は、反応性官能基として、アルキルオキシ基やビニル基やアミノ基やエポキシ基を有するものが挙げられる。」(段落【0036】)

(オ)「特に、シランカップリング剤処理してフィラーと、バインダーであるシリコーン樹脂とが架橋しているシリコーン樹脂基材は、フィラーがシランカップリング剤を介してシリコーン樹脂と架橋しているため、曲げ強度、濡れ性・分散性が向上しており、高品質のものとなる。このようなシランカップリング処理は、例えばフィラーに対し1質量%のシランカップリング剤を添加し、ヘンシェルミキサーで撹拌して表面処理を行い、100?130℃で、30?90分間、乾燥させるというものである。」(段落【0042】)

(カ)「シリコーン樹脂基材の熱伝導性を向上させるのに用いられるフィラーとして無機フィラー例えば、アルミナ、マグネシア、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素(六方晶・立方晶)、チッ化ケイ素、グラファイト、カーボン粉末、シリカ(結晶性シリカ・溶融シリカ)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ムライト、ダイヤモンドのようなセラミックス系物質;銅、アルミニウム、銀、鉄のような金属フィラー系物質が挙げられる。シリコーン樹脂パウダー、フッ素樹脂パウダーで例示されるレジンパウダーのような有機フィラーであってもよい。これらは、フレーク状結晶、不定形状粉末、又は球状粉末であることが好ましい。その粉末の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、0.3?8μmであると一層好ましい。とりわけ、フレーク状、不定形状、又は球状のアルミナが好ましい。アルミナは、二次凝集している場合があるので、ボールミルやジェットミルで微粉砕して、0.3?8μmの略球状の一次粒子としていることが好ましい。これらのフィラーの種類や充填量を調節することにより、シリコーン樹脂基材の熱伝導率を調整することができる。
シリコーン樹脂基材の誘電率を調整するのに用いられるフィラーとして、誘電率の高いフィラーであるチタン酸バリウム、酸化チタン;誘電率が低いフィラーであるシルクフィラー、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、フッ素樹脂パウダー、粉末アルミニウムが挙げられる。なかでも、酸化チタンは、屈折率が大きいため、光反射性や隠蔽性が大きく、光漏れ防止に有効である。酸化チタンは、ルチル型結晶構造であってもアナターゼ型結晶構造であってもよく、平均粒子径を10?100nmとすることが好ましい。ルチル型結晶構造は、屈折率が一層高いから、反射効率を向上させることができる。さらに酸化チタンは、酸化還元触媒作用があるので、黄変対策に有効である。」(段落【0045】?【0046】)

(キ)「シリコーン樹脂基材の物理的強度を向上させるのに用いられるフィラーとして、ガラスファイバー、カーボンファイバーが挙げられる。」(段落【0047】)

(ク)「シリコーン樹脂基材の線膨張係数を調整させるのに用いられるフィラーとして、シリコーン樹脂と異なる線膨張係数を有する有機フィラーや、ガラスファイバー・カーボンファイバーのような無機フィラーが用いられる。適切なフィラーを選択することにより、例えばシリコーン樹脂基材をパッケージに使用した場合、封止剤の材質に合わせて、シリコーン樹脂基材を封止剤で封止しているパッケージと、封止剤との剥離を生じないように、互いの線膨張係数を近づけることができる。」(段落【0048】)

(ケ)「シリコーン樹脂基材を色分けするのに用いられるフィラーとして、着色剤…が挙げられる。」(段落【0050】)

(コ)「シリコーン樹脂基材の難燃性を向上させるために無機系難燃剤が含まれていてもよい。無機系難燃剤は、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムのような水和金属化合物類;アンチモン化合物、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、モリブデン化合物、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ゼオライト、酸化チタンのような無機酸化物;モンモリロナイト、ナノ水和金属化合物、カーボンナノチューブのようなナノフィラー;炭酸カルシウム微粒子、炭酸金属塩、水和金属化合物、銅酸化物、酸化鉄、フェロセン、有機金属化合物が挙げられる。」(段落【0053】)

(サ)「シリコーン樹脂基材は、粒系1μm以下の細かなフィラーを用いることにより鏡面状に仕上げることができる。それよりもっと粗いフィラーを用いることにより梨地面状に仕上げることができる。」(段落【0055】)

(シ)「(試験5.透過率測定試験・反射率測定試験)
フィラーであるアルミナ又は酸化チタンの含有量毎の透過率と反射率との物性についての試験を行った。
フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)、又は酸化チタンTTO-51(石原産業株式会社製;商品名)の20質量%、40質量%、60質量%をシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)に夫々充填し、金型を用いたコンプレッション成形により、成形して、硬化物であるシリコーン樹脂基材を得た。夫々の透過率と反射率とを、分光光度計UV-3150(株式会社島津製作所製;商品名)により測定した。その結果を、図5に示す。
図5から明らかな通り、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材の透過率が低く、何れも40質量%、60質量%含まれていると、透過率が極めて低く、光の遺漏が殆ど認められない。一方、フィラーがアルミナであるよりも酸化チタンである方が、シリコーン樹脂基材での420nm以上の反射率が高い。フィラーがアルミナである方が酸化チタンであるよりも、低波長での320nm近傍の低波長での反射率が高い。」(段落【0073】?【0075】)

(ス)「

」(図5)

イ 甲3に記載された発明
甲3の記載をまとめると、摘示ア(シ)の試験5及び摘示ア(ス)の図5からみて、甲3には、シリコーン樹脂基材をもとにした以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(甲3発明)
「フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%をシリコーン樹脂KJR632(信越化学工業株式会社製;商品名)に充填し、金型を用いたコンプレッション成形により成形して得られる、硬化物であるシリコーン樹脂基材。」

(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比する。
本件発明1と甲3発明とを対比すると、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1ないし3で相違するものであると認められる。

一致点:付加反応又は縮合反応により三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である透明シリコーン樹脂をバインダーとし、フィラーとして含み、前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされており、前記フィラーにより不透明になっている熱伝導性のシリコーン樹脂基材。

相違点1:フィラーについて、本件発明1では、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れか」と特定されているのに対し、甲3発明では「アルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%を充填」したと特定されている点。

相違点2:シリコーン樹脂基材について、本件発明1では、「アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる少なくとも何れかの反応性官能基を有する」「シランカップリング剤」が含有されたと特定されているのに対し、甲3発明では特に特定されていない点。

相違点3:シリコーン樹脂基材について、本件発明1では、「420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする」と特定されているのに対し、甲3発明では特に特定されていない点。

イ 相違点1についての検討
本件発明1では、フィラーとして、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れか」と特定されており、「アルミナ粉末」を包含しているところ、甲3発明では「フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%を充填」しているのであるから、当該フィラーが「アルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%を充填」している場合において、両者は重複一致しており、相違点1は実質的な相違点ではない。
また、当該フィラーが「フィラーであるアルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%を充填」した場合以外の場合について検討すると、甲3には、種々のフィラーを充填することが記載されている(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項1及び摘示(2)ア(カ)?(ク))のであるから、甲3発明における「アルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)の20質量%を充填」した場合に代えて、甲3の斯かる記載にしたがって、それら甲3に記載された他のフィラーを選択し、その充填量を調節することは、当業者が適宜なし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。

ウ 相違点2についての検討
甲3には、シランカップリング剤を混合することが記載されている(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項2?5及び摘示(2)ア(エ)?(オ))のであるから、甲3発明において、甲3の斯かる記載にしたがって、さらにそれら甲3に記載されたシランカップリング剤を混合することは、当業者であれば容易になし得ることであり、その場合には、得られた硬化物は、当然に、アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる少なくとも何れかの反応性官能基を有する前記シランカップリング剤と前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされているものとなる。そして、それによる効果も格別のものではない。

エ 相違点3についての検討
上記(1)で述べたとおり、甲3発明においては、シランカップリング剤を混合していない組成におけるものであって、相違点3に係る反射率及び透過率を満足するかどうかについては判然としないものの、それらの反射率及び透過率の値が相違点3に係る反射率及び透過率の近傍の値であることまでは認められる。
そして、甲3の図5の上のグラフによれば、当該アルミナを40質量%充填した場合には、当該アルミナを20質量%充填した場合よりも、420nm以上720nm以下での透過率が大きく低下して最大でも10%を下回るものであって、同じく反射率も80%付近に上昇することが認められる。
そうすると、斯かる甲3発明の組成をベースとして、甲3の斯かる記載にしたがって、甲3に記載されたシランカップリング剤の種類及びその混合量や、さらには甲3に記載されたフィラーの種類及びその充填量を調整する(例えば、甲3発明における「アルミナA-42-6(昭和電工株式会社製;商品名)」の量を20質量%から増やして25あるいは30質量%充填する)ことにより、相違点3に係る反射率及び透過率を満足させる程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。

オ 小括
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物と前記フィラーとへの加熱又は光照射により、前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をして前記三次元架橋シリコーン樹脂となっている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項であって(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項2?5及び摘示(2)ア(イ))、甲3発明においても実質的に斯かる特定と同じものとなっていると認められるから、この点は新たな相違点ではない。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、酸化チタン、炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤を含有する」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(カ)及び(ケ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、アルミナ、マグネシア、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素、チッ化ケイ素、グラファイト、カーボン粉末、シリカ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ムライト、及びダイヤモンドから選ばれるセラミックス系物質と、銅、アルミニウム、銀、及び鉄から選ばれる金属フィラー系物質との少なくとも何れかの無機フィラー、及びシリコーン樹脂パウダー又はフッ素パウダーである有機フィラーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、熱伝導率が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(カ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、チタン酸バリウム、酸化チタン、粉末アルミニウム、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、及びフッ素樹脂パウダーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、誘電率が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(カ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明5は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、ガラスファイバー、及び/又はカーボンファイバーを含むことにより、物理的強度が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(キ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明6は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(9)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、前記三次元架橋シリコーン樹脂と異なる線膨張係数を有するもので、有機フィラーと、ガラスファイバー及びカーボンファイバーから選ばれる無機フィラーとから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、線膨張係数が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ク))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明7は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(10)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、全体量に対して40?90質量%とする」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項7)から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明8は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(11)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1を間接的に引用するものであって、「前記フィラーが、ルチル型酸化チタンからなる前記酸化チタン粉末を含む」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(カ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明9は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(12)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、平均粒径を10?100nmとする前記酸化チタン粉末を含む」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(カ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明10は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(13)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1を直接引用するものであって、「梨地面状に仕上がっている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(サ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明11は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(14)本件発明12について
本件発明12は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物が、液状のものである」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明12は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(15)本件発明13について
本件発明13は、本件発明1を直接引用するものであって、「水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムから選ばれる水和金属化合物類と、アンチモン化合物、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、モリブデン化合物、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ゼオライト、酸化チタン、モンモリロナイト、炭酸カルシウム微粒子、炭酸金属塩、水和金属化合物、銅酸化物、及び酸化鉄から選ばれる無機酸化物と、ナノ水和金属化合物、及びカーボンナノチューブから選ばれるナノフィラーと、フェロセンと、有機金属化合物との少なくとも何れか一種の難燃剤を含む」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(コ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明13は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(16)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記シランカップリング剤が、前記ポリシロキサン化合物の不飽和基又はヒドロシリル基に付加する不飽和基を有している」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(エ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明14は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(17)本件発明15について
本件発明15は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記バインダーと、シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有された前記組成物で、前記成形がされている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項5)から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明15は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(18)本件発明16について
本件発明16は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーに対し1質量%の前記シランカップリング剤を含有する」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(オ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明16は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明16に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(19)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1を直接引用するものであって、「反射膜層で被覆されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項6)から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明17は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明17に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(20)本件発明18について
本件発明18は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物が、ジフェニルシロキシ基及び/又はジメチルシロキシ基と、加水分解性基含有-、脱反応性縮合性基含有-、アルキルオキシ含有-、ジアルキルオキシ含有-、ビニル含有-、ジビニル含有-、ヒドロ含有-、及びジヒドロ含有-シリル基から選ばれる少なくとも何れかとを有し、前記付加反応又は縮合反応により前記三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(イ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明18は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明18に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(21)本件発明19について
本件発明19は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記バインダーとしての前記透明シリコーン樹脂が、充填剤を含まない」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、透明シリコーン樹脂として充填剤を含まないもの自体周知のものにすぎないと認められるから、甲3発明において斯かる周知の充填剤を含まない透明シリコーン樹脂を使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明19は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明19に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(22)本件発明20について
本件発明20は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、「発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1?19の何れかに記載のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲3に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項8)から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明20は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明20に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(23)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし20は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし20に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 特許法第29条第2項(進歩性その2)
本件特許に係る下記の発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
刊行物2:特開2005-146191号公報(甲1)
刊行物3:特開2005-136378号公報(甲2)

(1)本件における出願日について
上記1(1)で述べたとおり、本件は不適法な分割出願であり、特許法第44条第2項の遡及効を得ることはできず、本件の出願日は現実の出願日(平成26年11月10日)である。

(2)甲1の記載と甲1に記載された発明
ア 甲1の記載(下線は、合議体において付与した。)
(ア)「【請求項1】
(A)SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物、(B)1分子中に少なくとも2個のSiH基を含有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒を必須成分として含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物からなる半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
上記半導体が発光ダイオードであることを特徴とする請求項1に記載のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(D)無機フィラーを含有することを特徴とする、請求項1あるいは2のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(D)成分の無機フィラーが酸化チタンあるいは/およびシリカであることを特徴とする請求項3に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物。

【請求項8】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形したことを特徴とする半導体のパッケージであって、前記半導体が発光ダイオードであり、かつ前記パッケージに発光ダイオードから発した光が照射されるように設計された半導体のパッケージ。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光ダイオードのパッケージ用硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体。」(特許請求の範囲請求項1?4、8及び9)

(イ)「((A)成分の好ましい構造2)
また、(B)成分と良好な相溶性を有するという観点、および(A)成分の揮発性が低くなり、得られるパッケージからのアウトガスの問題が生じ難いという観点からは、(A)成分の例として上記したような、SiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含有する有機化合物から選ばれた1種以上の化合物と、SiH基を有する鎖状及び/又は環状オルガノポリシロキサン(β)との反応物も好ましい。
((β)成分)
(β)成分は、SiH基を有する鎖状及び/又は環状のポリオルガノシロキサンである。
具体的には、例えば
【化29】


が挙げられる。」(段落【0076】?【0079】)

(ウ)「((D)成分)
本発明の(D)成分は無機フィラーである。
無機フィラーとしては各種のものが用いられるが、例えば、石英、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、溶融シリカ、結晶性シリカ、超微粉無定型シリカ等のシリカ系無機フィラー、アルミナ、ジルコン、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、マイカ、黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、ケイソウ土、白土、クレー、タルク、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、無機バルーン、銀粉等の無機フィラーをはじめとして、エポキシ系等の従来の封止材の充填材として一般に使用あるいは/および提案されている無機フィラー等を挙げることができる。 無機フィラーとしては、半導体素子へダメージを与え難いという観点からは、低放射線性であることが好ましい。
無機フィラーは適宜表面処理してもよい。表面処理としては、アルキル化処理、トリメチルシリル化処理、シリコーン処理、カップリング剤による処理等が挙げられる。
この場合のカップリング剤の例としては、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、分子中に有機基と反応性のある官能基と加水分解性のケイ素基を各々少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されない。有機基と反応性のある基としては、取扱い性の点からエポキシ基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ビニル基、カルバメート基から選ばれる少なくとも1個の官能基が好ましく、硬化性及び接着性の点から、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基が特に好ましい。加水分解性のケイ素基としては取扱い性の点からアルコキシシリル基が好ましく、反応性の点からメトキシシリル基、エトキシシリル基が特に好ましい。

以上のような無機フィラーのうち硬化反応を阻害し難く、線膨張係数の低減化効果が大きく、リードフレームとの接着性が高くなりやすいという観点からは、シリカ系無機フィラーが好ましい。さらに、成形性、電気特性等の物性バランスがよいという点において溶融シリカが好ましく、パッケージの熱伝導性が高くなり易く放熱性の高いパッケージ設計が可能になるという点においては結晶性シリカが好ましい。より放熱性が高くなり易いという点ではアルミナが好ましい。また、パッケージ樹脂の光の反射率が高く、得られる発光ダイオードの光取りだし効率が高くなりやすいという点においては、酸化チタンが好ましい。その他、補強効果が高くパッケージの強度が高くなり易いという点においてはガラス繊維、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウムが好ましい。
無機フィラーの平均粒径や粒径分布としては、エポキシ系等の従来の封止材の充填材として使用あるいは/および提案されているものをはじめ、特に限定なく各種のものが用いられるが、通常用いられる平均粒径の下限は0.1μm、流動性が良好になりやすいという点から好ましくは0.5μmであり、通常用いられる平均粒径の上限は120μm、流動性が良好になりやすいという点から好ましくは60μm、より好ましくは15μmである。

無機フィラーの添加量は特に限定されないが、線膨張係数の低減化効果が高く、かつ成形時の組成物の流動性が良好であるという観点からは、好ましい添加量の下限は全組成物中の30重量%、より好ましくは50重量%であり、さらに好ましくは75重量%であり、好ましい添加量の上限は全組成物中の95重量%、より好ましくは85重量%である。」(段落【0156】?【0167】)

(エ)「(接着性改良剤)
本発明の組成物には、接着性改良剤を添加することもできる。接着性改良剤としては一般に用いられている接着剤の他、例えば種々のカップリング剤、エポキシ化合物、フェノール樹脂、クマロン-インデン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン-フェノール樹脂、α-メチルスチレン-ビニルトルエン共重合体、ポリエチルメチルスチレン、芳香族ポリイソシアネート等を挙げることができる。
カップリング剤としては例えばシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、分子中に有機基と反応性のある官能基あるいは/および加水分解性のケイ素基を少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されない。有機基と反応性のある基としては、取扱い性の点からエポキシ基、メタクリル基、アクリル基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ビニル基、カルバメート基、ウレイド基から選ばれる少なくとも1個の官能基が好ましく、硬化性及び接着性の点から、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基が特に好ましい。加水分解性のケイ素基としては取扱い性の点からアルコキシシリル基が好ましく、反応性の点からメトキシシリル基、エトキシシリル基が特に好ましい。

カップリング剤の添加量としては種々設定できるが、[(A)成分+(B)成分]100重量部に対しての好ましい添加量の下限は0.1重量部、より好ましくは0.5重量部であり、好ましい添加量の上限は50重量部、より好ましくは25重量部である。添加量が少ないと接着性改良効果が表れず、添加量が多いと硬化物物性に悪影響を及ぼす場合がある。」(段落【0173】?【0178】)

(オ)「(その他添加剤)
本発明の組成物には、その他、着色剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、界面活性剤、消泡剤、乳化剤、レベリング剤、はじき防止剤、アンチモン-ビスマス等のイオントラップ剤、チクソ性付与剤、粘着性付与剤、保存安定改良剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、可塑剤、反応性希釈剤、酸化防止剤、熱安定化剤、導電性付与剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、金属不活性化剤、熱伝導性付与剤、物性調整剤等を本発明の目的および効果を損なわない範囲において添加することができる。」(段落【0219】)

(カ)「(硬化)
本発明の組成物は、あらかじめ混合し組成物中のSiH基と反応性を有する炭素-炭素二重結合とSiH基の一部または全部およびを反応させることによって硬化させて用いることができる。
組成物を反応させて硬化させる場合において、(A)、(B)、(C)(および(D))各成分の必要量を一度に混合して反応させてもよいが、一部を混合して反応させた後残量を混合してさらに反応させる方法や、混合した後反応条件の制御や置換基の反応性の差の利用により組成物中の官能基の一部のみを反応(Bステージ化)させてから成形等の処理を行いさらに硬化させる方法をとることもできる。これらの方法によれば成形時の粘度調整が容易となる。
硬化させる方法としては、単に混合するだけで反応させることもできるし、加熱して反応させることもできる。反応が速く、一般に耐熱性の高い材料が得られやすいという観点から加熱して反応させる方法が好ましい。
硬化温度としては種々設定できるが、好ましい温度の下限は30℃、より好ましくは100℃であり、好ましい温度の上限は300℃、より好ましくは200℃である。反応温度が低いと十分に反応させるための反応時間が長くなり、反応温度が高いと成形加工が困難となりやすい。
硬化は一定の温度で行ってもよいが、必要に応じて多段階あるいは連続的に温度を変化させてもよい。一定の温度で行うより多段階的あるいは連続的に温度を上昇させながら反応させた方が歪のない均一な硬化物が得られやすいという点において好ましい。また、一定温度で行う方が成形サイクルを短くできるという点において好ましい。
硬化時間も種々設定できるが、高温短時間で反応させるより、比較的低温長時間で反応させた方が歪のない均一な硬化物が得られやすいという点において好ましい。逆に、高温短時間で反応させる方が成形サイクルを短くできるという点において好ましい。」(段落【0229】?【0234】)

(キ)「半導体が発光ダイオード素子の場合において、好ましくは発光ダイオード素子から出た光が照射されるように設計されたものであり、さらに好ましくは発光ダイオード素子から出た光を反射させて外部に取出すように設計されたものである。その形状等には特に制約はない。例えば、図1に示すように、発光ダイオード素子を搭載するための凹部を有する形状のものでもよいし、単に平板状のものであってもよい。本発明の発光ダイオードのパッケージの表面は平滑であってもよいし、エンボス等のような平滑でない表面を有していてもよい。」(段落【0244】)

(ク)「以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明は以下によって限定されるものではない。
(合成例1)
5Lの四つ口フラスコに、攪拌装置、滴下漏斗、冷却管をセットした。このフラスコにトルエン1800g、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン1440gを入れ、120℃のオイルバス中で加熱、攪拌した。トリアリルイソシアヌレート200g、トルエン200g及び白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)1.44mlの混合液を50分かけて滴下した。得られた溶液をそのまま6時間加温、攪拌した後、未反応の1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン及びトルエンを減圧留去した。^(1)H-NMRによりこのものは1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンのSiH基の一部がトリアリルイソシアヌレートと反応したものであることがわかった(反応物Aと称する)。また、1,2-ジブロモメタンを内部標準に用いて^(1)H-NMRによりSiH基の含有量を求めたところ、8.08mmol/gのSiH基を含有していることがわかった。生成物は混合物であるが、本発明の(B)成分である下記のものを主成分として含有している。また、本発明の(C)成分である白金ビニルシロキサン錯体を含有している。
【化47】

(実施例1)
本発明の(A)成分としてトリアリルイソシアヌレート20.00g、本発明の(B)成分として合成例1で得た生成物29.78g、本発明の(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0251g、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.147gを混合して硬化性組成物とした。このものに本発明の(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)24.98g、および溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)249.8gを添加し、セラミック製の3本ロールを用いて3回混練し、本発明の半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物とした。このものは室温では固いペースト状であるが、少量を150℃に加熱した熱板上に置くと一旦低粘度化して流動状態となり40秒後にゲル化した。
この半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を株式会社丸七鉄工所製MF-0型トランスファー成形機を用いてトランスファー成形を行った。10x10x3mmの試験片6個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:150℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:60秒の条件で成形を行ったところ、バリ、クラック、ボイド等のない良好な成形体を得た。また、44x10x5mmの試験片4個取りの金型を用いて、原料ポット温度:室温、金型温度:140℃、成形圧力:70kgf/cm^(2)、成形時間:120秒の条件で成形を行ったところ、バリ、クラック、ボイド等のない良好な成形体を得た。得られた成形体を空気下150℃の熱風循環オーブン中で1時間加熱して後硬化させ、白色の硬化物を得た。」(段落【0250】?【0252】)

イ 甲1に記載された発明
摘示ア(ク)から、甲1の実施例1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(甲1発明)
「(A)成分としてトリアリルイソシアヌレート20.00g、(B)成分として下記式の化合物29.78g、(C)成分として白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金として3wt%含有)0.0251g、1-エチニル-1-シクロヘキサノール0.147gを混合して硬化性組成物とし、このものに(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)24.98g、および溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)249.8gを添加し、混練し、半導体のパッケージ用硬化性樹脂組成物を成形し、得られた成形体を後硬化させて得られる白色の硬化物。



(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における(D)成分は、無機フィラーである(摘示(2)ア(ウ))ことから、本件発明1の「フィラー」とフィラーである限りにおいて相当する。
そして、甲1発明における(B)成分は、その構造からみて、本件発明1における「付加反応により三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である透明シリコーン樹脂」に相当するといえ、同じく(A)成分と付加反応によって加熱三次元架橋をし得るものであることが理解され、甲1発明においては、(A)成分と(B)成分とヒドロシリル化触媒である(C)成分とを混合して硬化性組成物とし、このものに(D)成分を添加し混練し成形して得られた成形体を後硬化させているから、摘示(2)ア(ア)、(カ)及び(ク)の記載を併せ読めば、本件発明1における「前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされており」に相当するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点4ないし6で相違するものであると認められる。

一致点:付加反応又は縮合反応により三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である透明シリコーン樹脂をバインダーとし、フィラーを含み、前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされている、シリコーン樹脂基材。

相違点4:フィラーについて、本件発明1では、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れか」と特定されているのに対し、甲1発明では、「(D)成分として酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)」および「溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)」と特定されている点。

相違点5:本件発明1では、「アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる少なくとも何れかの反応性官能基を有する前記シランカップリング剤」が含有されたと特定されているのに対し、甲1発明では特に特定されていない点。

相違点6:本件発明1では、「前記フィラーにより不透明になっており、420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする」と特定されているのに対し、甲1発明では特に特定されていない点。

相違点7:シリコーン樹脂基材について、本件発明1では、「熱伝導性」と特定されているのに対し、甲1発明では特に特定されていない点。

イ 相違点4についての検討
甲1発明における(D)成分(酸化チタンおよび溶融シリカ)のうちの一方の成分である溶融シリカは、シリカ粉末といえるから、本件発明1の「シリカ粉末」と一致するから、相違点4は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、甲1には、「無機フィラーとしては各種のものが用いられるが、例えば、…ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、溶融シリカ、結晶性シリカ、超微粉無定型シリカ等のシリカ系無機フィラー、アルミナ、…窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミ、…ガラス繊維、…炭素繊維、…黒鉛、カーボンブラック、グラファイト、…白土、…タルク、…銀粉等の無機フィラーをはじめとして、エポキシ系等の従来の封止材の充填材として一般に使用あるいは/および提案されている無機フィラー等を挙げることができる。」(摘示(2)ア(ウ))と記載されているから、斯かる記載にしたがって、甲1発明における(D)成分(酸化チタンおよび溶融シリカ)に代えて、斯かる(D)成分として記載されたものとする程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。

ウ 相違点5についての検討
甲1には、無機フィラーは官能基(例えば、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基)を有するシランカップリング剤等で適宜表面処理すること(摘示(2)ア(ウ))や接着性改良剤として官能基(例えば、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基)を有するシランカップリング剤等を添加すること(摘示(2)ア(エ))も記載されている。
そうすると、甲1発明において、甲1の斯かる記載にしたがって、さらに甲1に記載された官能基(例えば、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基)を有するシランカップリング剤を添加することは、当業者であれば容易になし得ることであり、その場合には、得られた硬化物は、当然に、アルキルオキシ基、ビニル基、アミノ基、及びエポキシ基から選ばれる少なくとも何れかの反応性官能基を有する前記シランカップリング剤と前記バインダーと前記フィラーとが含有された加熱三次元架橋性又は光照射三次元架橋性の混合組成物で前記三次元架橋をしている三次元架橋シリコーン樹脂を含有する成形がなされているシリコーン樹脂基材であって、前記付加反応又は縮合反応によって前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をした三次元架橋シリコーン樹脂として硬化している前記三次元架橋シリコーン樹脂の分子間に前記フィラーが内包されて含まれつつ、前記成形がなされているものとなる。そして、それによる効果も格別のものではない。

エ 相違点6についての検討
甲1発明は、(D)成分として「酸化チタン」及び「溶融シリカ」を含有する白色の硬化物であるところ、摘示(2)ア(ウ)の記載にしたがって、(D)成分の種類や配合量を調整するなどして、相違点6に係る反射率及び透過率とし、不透明とする程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。

オ 相違点7についての検討
甲1発明では、多量の溶融シリカを含有するものであるから、得られた硬化物は熱伝導性であるといえる。そうすると、相違点7は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、甲1には、「パッケージの熱伝導性が高くなり易く放熱性の高いパッケージ設計が可能になるという点においては結晶性シリカが好ましい」(摘示(2)ア(ウ))と記載されているから、斯かる記載にしたがって、甲1発明における「溶融シリカ」を「結晶性シリカ」に代えて、熱伝導性を有するものとする程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。

カ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物と前記フィラーとへの加熱又は光照射により、前記ポリシロキサン化合物が前記三次元架橋をして前記三次元架橋シリコーン樹脂となっている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項であって(例えば、摘示(2)ア(ア)、(カ)及び(ク))、甲1発明においても実質的に斯かる特定と同じものとなっていると認められるから、この点は新たな相違点ではない。
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、酸化チタン、炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤を含有する」と特定するものであるところ、本件発明3における前記フィラーが「酸化チタン」である場合には、甲1発明においては成分(D)として「酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)」を含有するものであるから、この点は新たな相違点ではない。また、本件発明3における前記フィラーが「炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤酸化チタン」である場合には、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ)及び(オ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、アルミナ、マグネシア、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素、チッ化ケイ素、グラファイト、カーボン粉末、シリカ、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ムライト、及びダイヤモンドから選ばれるセラミックス系物質と、銅、アルミニウム、銀、及び鉄から選ばれる金属フィラー系物質との少なくとも何れかの無機フィラー、及びシリコーン樹脂パウダー又はフッ素パウダーである有機フィラーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、熱伝導率が調整されている」と特定するものであるところ、本件発明4における前記フィラーが「シリカ」である場合には、甲1発明においては「溶融シリカ(株式会社龍森製、ヒューズレックスRD-8)」を多量に含有するものであるから、当然に熱伝導率が向上しているものと認められ、この点は新たな相違点ではない。また、本件発明4における前記フィラーが「アルミナ、マグネシア、チッ化アルミニウム、チッ化ホウ素、チッ化ケイ素、グラファイト、カーボン粉末、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ムライト、及びダイヤモンドから選ばれるセラミックス系物質と、銅、アルミニウム、銀、及び鉄から選ばれる金属フィラー系物質との少なくとも何れかの無機フィラー、及びシリコーン樹脂パウダー又はフッ素パウダーである有機フィラーから選ばれる少なくとも何れかのフィラー炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤酸化チタン」である場合には、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ)及び(オ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、甲1に記載されたフィラーを用いる程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明4は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、チタン酸バリウム、酸化チタン、粉末アルミニウム、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、及びフッ素樹脂パウダーから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、誘電率が調整されている」と特定するものであるところ、本件発明5における前記フィラーが「酸化チタン」である場合には、甲1発明においては成分(D)として「酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークR820)」を含有するものであるから、そのことにより誘電率が調整されているものであるといえ、この点は新たな相違点ではない。また、本件発明5における前記フィラーが「チタン酸バリウム、酸化チタン、粉末アルミニウム、カオリンフィラー、酸化鉄フィラー、酸化亜鉛、シリカアルミナ、タルク、及びフッ素樹脂パウダーから選ばれる少なくとも何れか」である場合には、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ)及び(オ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、そのことにより誘電率が調整されているものであるといえ、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明5は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、ガラスファイバー、及び/又はカーボンファイバーを含むことにより、物理的強度が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、甲1に記載されたガラス繊維又は炭素繊維を用いる程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明6は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(9)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、前記三次元架橋シリコーン樹脂と異なる線膨張係数を有するもので、有機フィラーと、ガラスファイバー及びカーボンファイバーから選ばれる無機フィラーとから選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含むことにより、線膨張係数が調整されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、甲1に記載されたガラス繊維又は炭素繊維を用いる程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それにより線膨張係数が調整されるという効果も格別のものではない。
したがって、本件発明7は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(10)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、全体量に対して40?90質量%とする」と特定するものであるところ、甲1発明における(D)成分の量を計算すると、全体量に対して84.6質量%と算出され、この値は本件発明8における数値範囲と重複一致しているから、この点は新たな相違点ではない。仮にそうでないとしても、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、甲1に記載された(D)成分の量を変更する程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明8は、本件発明1と同様の理由に加えて上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(11)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1を間接的に引用するものであって、「前記フィラーが、ルチル型酸化チタンからなる前記酸化チタン粉末を含む」と特定するものである。
斯かる特定事項について検討すると、甲2の段落【0096】に「酸化チタンは、…耐久性の観点から、その結晶形はルチル型が好ましい。」と記載されているものであって、甲1と甲2とは技術分野が共通するものであるから、甲1発明において甲2の斯かる記載にしたがって、ルチル型酸化チタンを使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明9は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(12)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーが、平均粒径を10?100nmとする前記酸化チタン粉末を含む」と特定するものである。
斯かる特定事項について検討すると、平均粒径が10?100nmである酸化チタン粉末自体周知のものにすぎないと認められるから、甲1発明において斯かる周知の酸化チタン粉末を使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明10は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(13)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1を直接引用するものであって、「梨地面状に仕上がっている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項であるといえる(例えば、摘示(2)ア(キ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、梨地面状に仕上げる程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明11は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(14)本件発明12について
本件発明12は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物が、液状のものである」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1においても液状のポリシロキサン化合物を包含するものであるといえ(例えば、摘示(2)ア(イ))、甲1に記載されているに等しい事項であるから、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、液状のポリシロキサン化合物を使用する程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明12は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明12に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(15)本件発明13について
本件発明13は、本件発明1を直接引用するものであって、「水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムから選ばれる水和金属化合物類と、アンチモン化合物、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、モリブデン化合物、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ゼオライト、酸化チタン、モンモリロナイト、炭酸カルシウム微粒子、炭酸金属塩、水和金属化合物、銅酸化物、及び酸化鉄から選ばれる無機酸化物と、ナノ水和金属化合物、及びカーボンナノチューブから選ばれるナノフィラーと、フェロセンと、有機金属化合物との少なくとも何れか一種の難燃剤を含む」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に実質的に記載されている事項といえる(例えば、摘示(2)ア(オ))から、甲1発明において、それら甲1の記載にしたがって、それらの難燃剤を使用する程度のことは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明13は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(16)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記シランカップリング剤が、前記ポリシロキサン化合物の不飽和基又はヒドロシリル基に付加する不飽和基を有している」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ)及び(エ))から、この点は、相違点5について検討したとおり、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明14は、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(17)本件発明15について
本件発明15は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記バインダーと、シランカップリング剤で被覆された前記フィラーとが混合されつつ含有された前記組成物で、前記成形がされている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ウ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明15は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(18)本件発明16について
本件発明16は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記フィラーに対し1質量%の前記シランカップリング剤を含有する」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(エ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明16は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明16に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(19)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1を直接引用するものであって、「反射膜層で被覆されている」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に実質的に記載されている事項であるといえる(例えば、摘示(2)ア(キ))し、仮にそうでないとしても、発光ダイオードのパッケージにおいて反射膜層で被覆されているもの自体周知のものにすぎないと認められるから、甲1発明において斯かる周知の反射膜層で被覆することは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明17は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明17に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(20)本件発明18について
本件発明18は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記ポリシロキサン化合物が、ジフェニルシロキシ基及び/又はジメチルシロキシ基と、加水分解性基含有-、脱反応性縮合性基含有-、アルキルオキシ含有-、ジアルキルオキシ含有-、ビニル含有-、ジビニル含有-、ヒドロ含有-、及びジヒドロ含有-シリル基から選ばれる少なくとも何れかとを有し、前記付加反応又は縮合反応により前記三次元架橋をし得るポリシロキサン化合物である」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(イ))から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明18は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明18に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(21)本件発明19について
本件発明19は、本件発明1を直接引用するものであって、「前記バインダーとしての前記透明シリコーン樹脂が、充填剤を含まない」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、透明シリコーン樹脂として充填剤を含まないもの自体周知のものにすぎないと認められるから、甲1発明において斯かる周知の充填剤を含まない透明シリコーン樹脂を使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明19は、本件発明1と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明19に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(22)本件発明20について
本件発明20は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、「発光ダイオード基板、半導体素子基板、集積回路基板、高周波基板、電気回路基板、太陽電池基板、およびそれらのパッケージの何れかの製品であり、その基板及び/又はパッケージが、請求項1?19の何れかに記載のシリコーン樹脂基材で形成されていることを特徴とするシリコーン樹脂基材含有製品」と特定するものであるところ、斯かる特定事項は、甲1に記載されている事項である(例えば、摘示(2)ア(ア)の請求項8及び9)から、この点は、当業者が容易になし得ることにすぎず、それによる効果も格別のものではない。
したがって、本件発明20は、本件発明1ないし19と同様の理由に加えて、上記の理由により、甲1に記載された発明あるいは甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明20に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(23)まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし20は、甲1に記載された発明あるいは甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし20に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(1)本件発明1について
本件発明1においては、フィラーとして、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れか」と特定されており、「420nm以上720nm以下で反射率を80%未満としかつ透過率を最大で17%とする」とも特定されている。
また、本件特許明細書においては、反射率及び透過率に関し、以下のとおり記載されている。
「【図5】


しかしながら、シリコーン樹脂基材において、配合するフィラーの種類の違いや配合量の違いによって得られる基材の420nm以上720nm以下における反射率及び透過率が変化することは技術常識であるといえる(例えば、甲3の試験5及び上記の図5においても、アルミナと酸化チタンとでは当該反射率及び透過率に大きな差が認められるし、同じアルミナや酸化チタンであっても、その配合量によって当該反射率及び透過率が変化することが認められる。)。
また、本件特許明細書の図5では、シランカップリング剤を使用していないものであって、シランカップリング剤の有無により当該反射率及び透過率が影響を受けないことが自明のことでもない。
そして、本件特許明細書において、反射率及び透過率が具体的に記載されているのは、図5に記載されたもののみであるが、上記のとおり、シリコーン樹脂基材を構成するフィラーの種類や配合割合の違いによって、得られるシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下における反射率及び透過率が大きく変化することは、本願出願時の技術常識であり、しかも当業者であってもその変化の傾向をうかがい知ることはできない。また、シリコーン樹脂基材を構成するシランカップリング剤の有無(加えてシランカップリング剤の種類や配合割合の違い)によって、得られるシリコーン樹脂基材の420nm以上720nm以下における反射率及び透過率が影響を受ける場合があることは、本願出願時の技術常識であり、しかも当業者であってもその変化の傾向をうかがい知ることはできない。
してみると、本件特許明細書の図5を手がかりとしても、420nm以上720nm以下における反射率及び透過率を満たすものか否かを知るためには、候補シリコーン樹脂基材を作成し、製造されたシリコーン樹脂基材に対し、逐一、420nm以上720nm以下における反射率及び透過率を測定し、その結果得られたデータに基いて判断する外はないのであって、かかる候補シリコーン樹脂基材として、フィラーの種類やその配合量及びシランカップリング剤の種類や配合割合などの各種要素を種々変更して製造してなる各種候補シリコーン樹脂基材について、上記した物性測定試験を逐一繰り返し、その結果において420nm以上720nm以下における反射率及び透過率を満たすものか否かを確認する操作を、候補シリコーン樹脂基材を種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
よって、上記した本件特許明細書の図5においてシランカップリング剤を使用していない特定のシリコーン樹脂基材を作成し、それらの物性を測定したことのみをもってして、本件発明1を実施したとは到底いうことはできないし、かかる図5以外のものにおいて、420nm以上720nm以下における反射率及び透過率を満たすものを製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤が必要であると認められる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。

(2)本件発明2ないし20について
本件発明2ないし20は、本件発明1を直接あるいは間接的に引用してなるものであるから、上記(1)で述べたのと同じ理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2ないし20を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1ないし20を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

4 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(1)本件発明3について
本件発明1においては、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れかをフィラーとして含み」と特定されており、斯かる記載からは、当該フィラーは、「アルミナ粉末、マグネシア粉末、チッ化アルミニウム粉末、チッ化ホウ素粉末、チッ化ケイ素粉末、グラファイト粉末、カーボン粉末、シリカ粉末、炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、ムライト粉末、ダイヤモンド粉末、銅粉末、アルミニウム粉末、銀粉末、鉄粉末、レジンパウダー、カオリン粉末、酸化鉄粉末、シリカアルミナ粉末、タルク粉末、ガラスファイバー、及びカーボンファイバーから選ばれる少なくとも何れか」を指すものと認められる。
しかしながら、本件発明3においては、「前記フィラーが、酸化チタン、炭化ケイ素粉末、チタン酸バリウム粉末、酸化亜鉛粉末、及び/又は着色剤を含有する」と特定されているところ、引用する本件発明1においては、前記フィラーとして、本件発明3で列挙する何れのものも特定されていない。
そうすると、本件発明3におけるフィラーは本件発明1におけるフィラーと異なるものであるから、その意味が不明瞭である。

(2)本件発明4について
本件発明4においては、「前記フィラーが、…炭化ケイ素、…から選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含む」と特定されているところ、引用する本件発明1においては、前記フィラーとして、炭化ケイ素は特定されていない。
そうすると、本件発明4における炭化ケイ素を含むフィラーは本件発明1におけるフィラーと異なるものであるから、その意味が不明瞭である。

(3)本件発明5について
本件発明5においては、「前記フィラーが、チタン酸バリウム、酸化チタン、…酸化亜鉛、…から選ばれる少なくとも何れかのフィラーを含む」と特定されているところ、引用する本件発明1においては、前記フィラーとして、チタン酸バリウム、酸化チタン及び酸化亜鉛は特定されていない。
そうすると、本件発明5におけるチタン酸バリウム、酸化チタン又は酸化亜鉛を含むフィラーは本件発明1におけるフィラーと異なるものであるから、その意味が不明瞭である。

(4)本件発明9について
本件発明9においては、「前記フィラーが、ルチル型酸化チタンからなる前記酸化チタン粉末を含む」と特定されているところ、引用する本件発明3がさらに引用する本件発明1においては、上記(1)で述べたとおり、前記フィラーとして、酸化チタンは特定されていない。
そうすると、本件発明9におけるルチル型酸化チタンは本件発明1におけるフィラーと異なるものであるから、その意味が不明瞭である。

(5)本件発明10について
本件発明10においては、「前記フィラーが、…前記酸化チタン粉末を含む」と特定されているところ、引用する本件発明1においては、上記(1)で述べたとおり、前記フィラーとして、酸化チタンは特定されていない。
そうすると、本件発明10における酸化チタンは本件発明1におけるフィラーと異なるものであるから、その意味が不明瞭である。

(6)まとめ
以上のとおり、本件発明3ないし5、9及び10は、その特許請求の範囲の記載が不明瞭である。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。



第8 附言

なお、親出願の審理手続中、平成26年9月8日付けで通知した拒絶理由において、分割出願の適法性に関し、420nm以上の反射率の具体的な数値に技術的な意義があるとすれば新たな技術的事項を追加するものといえるから適法な分割出願とはいえないことを指摘していることを付記する。



第9 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし20は、取消理由で通知した刊行物1又は刊行物2及び3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであり、そして、本件特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであり、また、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-03-23 
出願番号 特願2014-228219(P2014-228219)
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C08L)
P 1 651・ 537- ZB (C08L)
P 1 651・ 536- ZB (C08L)
P 1 651・ 55- ZB (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 飛彈 浩一芦原 ゆりか大村 博一松岡 美和加賀 直人  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 小野寺 務
加藤 友也
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989063号(P5989063)
権利者 株式会社朝日ラバー
発明の名称 シリコーン樹脂基材  
代理人 小宮 良雄  
代理人 特許業務法人眞久特許事務所  
代理人 大西 浩之  

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