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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
管理番号 1340173
異議申立番号 異議2018-700244  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-24 
確定日 2018-05-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6205111号発明「ダストの洗浄処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6205111号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6205111号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成24年5月15日に、特許権者である住友大阪セメント株式会社によりされた特許出願に係るものであって、平成29年9月8日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、平成29年9月27日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人千葉 奈々枝(以下、「申立人」という。)により、請求項1?3に係る特許について、平成30年3月24日に特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項1?3に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明3」ともいう。)

「【請求項1】
鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、
前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する固液分離工程と、
前記液体成分における鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀及びタリウムに対して硫黄が当量比1.0を超え2.0未満になるように、前記液体成分に硫黄化合物を添加して沈殿物を形成した後、該沈殿物と上澄み水とを固液分離する第一沈殿工程と、
前記第一沈殿工程で得られた上澄み水に、第一鉄イオン源を添加して沈殿物を形成した後、該沈殿物と上澄み水とを固液分離する第二沈殿工程とを備えるダストの洗浄処理方法であって、
更に、前記固液分離工程の後、前記硫黄が前記当量比になるように前記硫黄化合物を添加するために、前記液体成分に含まれる鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、タリウム及び硫黄の含有量を測定する工程を備えるダストの洗浄処理方法。
【請求項2】
前記硫黄化合物が、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムおよび四硫化ナトリウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載のダストの洗浄処理方法。
【請求項3】
前記第二沈殿工程において、前記第一鉄イオン源として塩化第一鉄を添加する請求項1又は2に記載のダストの洗浄処理方法。」


第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、証拠方法として以下(2)の甲第1号証?甲第3号証を提出しつつ、概略、以下(1)の取消理由には理由があるから、請求項1?3に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。

(1)本件発明1?3は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証、甲第3号証に記載される技術的事項から、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?3に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(以下「取消理由1」という。)

(2)証拠方法
甲第1号証:特開2009-106853号
甲第2号証:近藤秀幸ら、「硫化水素を用いたCu,Zn,Ni混合めっき廃水の選択的硫化による金属硫化物の分離」、表面技術、(社)表面技術協会、2006年、VoL.57、No.12、95?100頁、
甲第3号証:征矢勝秀ら、「硫化カルシウムを用いた模擬めっき廃液中の銅,亜鉛,ニッケルの不均一系硫化反応特性」、表面技術、(社)表面技術協会、2008年、Vol.59、No.7、43?47頁
(以下、それぞれ「甲1」?「甲3」という。)


第4 当審の判断
当審合議体は、以下に述べるように、取消理由1には理由はなく、申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?3に係る発明についての特許を取り消すことはできないと判断する。

1.甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
請求項1、2及び7の記載から、甲1の特許請求の範囲には、
「焼却灰の水洗時に発生する、鉛、亜鉛、銅、タリウム及びセレンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上を含む排水から重金属類を除去する排水処理方法であって、
前記排水のpHが10以上の状態で硫化剤を添加した後、第一鉄化合物又は第二鉄化合物を添加し、
該第一鉄化合物又は第二鉄化合物を添加した排水から析出物をろ過分離する排水処理方法。」
の発明が記載されている。
また、上記発明の具体的態様として、甲1の【0028】?【0033】には、飛灰と塩素バイパスダスト、つまり、「焼却灰」の処理にあたり、焼却灰を、「水に溶解させてスラリー化した後」、(水洗しながら)「固液分離」し、「生じた排水」、すなわち、「母ろ液」から重金属類を除去して浄化処理する方法が記載され、当該方法においては、「硫化剤」として「水硫化ソーダ」を添加した後に、凝集剤及び還元剤としての「塩化第一鉄」を添加して、塩化第一鉄の凝集作用により、硫化鉛及び硫化タリウムを沈殿させるとともに、塩化第一鉄の還元作用によりセレンを0価まで還元し、塩化第一鉄の凝集作用により、「固形分として沈殿させ」、上記固形分を「ろ過分離」によって回収することが記載されている。

そうすると、甲1には、次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「焼却灰の水洗時に発生する、鉛、亜鉛、銅、タリウム及びセレンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上から選ばれる重金属類を含む排水から重金属類を除去する排水処理方法であって、
焼却灰を水に溶解させてスラリー化した後、固液分離し、得られた母ろ液排水に、前記排水のpHが10以上の状態で硫化剤である水硫化ソーダを添加した後、塩化第一鉄を添加し、
該塩化第一鉄を添加した排水から固形分として沈殿した析出物を、ろ過分離する、排水処理方法。」

2.甲2及び甲3に記載の技術的事項
(1)甲2には、「硫化水素を用いたCu,Zn,Ni混合めっき廃水の選択的硫化による金属硫化物の分離」の技術について記載されており、金属模擬液にH_(2)Sを1.2当量で流通することにより、Cu,Zn,Niの金属残留率(C/Co)は、<0.01となったことから、金属模擬液へのH_(2)S吸収量のうち約83%が金属の硫化反応に使われたものと考えられること(98頁左欄14行?17行)等が記載されている。

(2)甲3には、「硫化カルシウムを用いた模擬めっき廃液中の銅,亜鉛,ニッケルの不均一系硫化反応特性」の技術について記載されており、Cu,Zn,Niの単一金属のCaSによる硫化物化へのpHの影響について、pHを固定しながら1当量のCaS粉末を添加したところ、ZnはpH>4でほぼ100%,NiはpH=7.5で91%分離除去できたこと、また、CuはpH=1.8-2.0で1.5当量のCaS粉末の添加によってほぼ完全に沈殿分離することができたこと(47頁右欄5?10行)等が記載されている。

3.本件発明1についての判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1発明の「焼却灰」は、本件発明1の「ダスト」に相当するところ、甲1発明においては、焼却灰の水洗時に発生する排水が、鉛等の重金属類を含むことから、甲1発明の焼却灰には、「鉛、亜鉛、銅、タリウム及びセレンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の重金属類」が含まれていると認められる。そして、本件発明1の「鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウム」は、いずれも「重金属類」であるから、本件発明1の「ダスト」と甲1発明の「焼却灰」は、「重金属類を含む」ものである限りにおいて、一致する。
(イ) 甲1発明の「焼却灰を水に溶解させてスラリー化」する工程は、本件発明1の「ダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程」に、「固液分離」する工程は、「スラリーを液体成分と固体成分とに分離する固液分離工程」に、「得られた母ろ液排水に、前記排水のpHが10以上の状態で硫化剤である水硫化ソーダを添加」する工程は、「液体成分に硫黄化合物を添加」する工程に、それぞれ、相当する。
また、甲1発明の「塩化第一鉄」は、本件発明1の「第一鉄イオン源」に相当するし、「ろ過分離」は、「沈殿物と上澄み水とを固液分離する」ことと同義であるから、甲1発明の「塩化第一鉄を添加した排水から固形分として沈殿した析出物を、ろ過分離する」工程は、本件発明1の「第一鉄イオン源を添加して沈殿物を形成した後、該沈殿物と上澄み水とを固液分離する沈殿工程」に相当する。
(ウ) 甲1発明の「焼却灰の水洗時に発生する、・・・重金属類を除去する排水処理方法」は、焼却灰の水洗洗浄処理に伴う排水の処理方法であるから、本件発明1の「ダストの洗浄処理方法」に相当するといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1?3で相違するといえる。
<一致点>
重金属類を含むダストと水とを混合してスラリーを得る混合工程と、
前記スラリーを液体成分と固体成分とに分離する固液分離工程と、
前記液体成分に硫黄化合物を添加する工程と、
第一鉄イオン源を添加して沈殿物を形成した後、該沈殿物と上澄み水とを固液分離する沈殿工程とを備えるダストの洗浄処理方法。

<相違点1>
本件発明1では、重金属類を含むダストについて、「鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、セレン及びタリウムを含む」と特定されているのに対して、甲1発明では、「鉛、亜鉛、銅、タリウム及びセレンからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の重金属類を含む」と特定されている点。

<相違点2>
本件発明1では、液体成分に添加される硫黄化合物について、「液体成分における鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀及びタリウムに対して硫黄が当量比1.0を超え2.0未満」(以下、「所定の当量比」という。)の添加量とすることが特定され、また、ダストの洗浄処理方法について、固液分離工程の後、硫黄化合物を添加する工程の前に、「前記硫黄が前記当量比になるように前記硫黄化合物を添加するために、前記液体成分に含まれる鉛、銅、亜鉛、カドミウム、水銀、タリウム及び硫黄の含有量を測定する工程」(以下、「所定の成分の測定工程」という。)を備えることが特定されているのに対し、甲1発明では、液体成分に添加される硫黄化合物について、添加量を所定の当量比とすることの特定はないし、また、上記所定の成分の測定工程を備えることについての特定もない点。

<相違点3>
本件発明1では、液体成分に硫黄化合物を添加する工程の後に、「沈殿物と上澄み水とを固液分離する第一沈殿工程」が設けられ、「第一沈殿工程で得られた上澄み水」に、第一鉄イオン源が添加されるのに対し、甲1発明では、液体成分に硫黄化合物を添加する工程の後に、沈殿工程は設けられておらず、硫黄化合物を添加した液体成分に第一鉄イオン源が添加される点。

イ 相違点についての検討
事案に鑑み、相違点3から検討する。

(ア)相違点3について
甲1には、甲1発明の、「硫化剤である水硫化ソーダを添加した後、塩化第一鉄を添加し、該塩化第一鉄を添加した排水から固形分として沈殿した析出物を、ろ過分離する」工程に関し、硫化剤の添加により、「母ろ液L1中の鉛(Pb^(2+))を硫化物イオン(S^(2-))と反応させて硫化鉛(PbS)とし、タリウム(Tl^(+))を硫化物イオン(S^(2-))と反応させて硫化タリウム(Tl_(2)S)とする」こと(【0031】)、次いで、「凝集剤及び還元剤」(【0030】)である塩化第一鉄を添加することで、「塩化第一鉄の凝集作用により、硫化鉛及び硫化タリウムを沈殿させるとともに、塩化第一鉄の還元作用によりセレンを還元し、塩化第一鉄の凝集作用により、固形分として沈殿させる」こと(【0032】)が記載されている。
すなわち、甲1発明は、塩化第一鉄の凝集作用により、硫化鉛及び硫化タリウムを沈殿させるものであり、甲1では、甲1発明において、硫化剤の添加により生成した硫化鉛及び硫化タリウムを、塩化第一鉄の生成前に固形の沈殿物として析出させ、ろ過分離するものとすることは想定されていない。
むしろ、甲1に「焼却灰等を水洗することにより生じる排水から、低コストで、鉛、タリウム及びセレン等の重金属類を除去して浄化処理することを目的とする」(【0016】)と記載されていることからすれば、甲1発明において、塩化第一鉄の添加前に、硫化剤添加により生成した硫化鉛及び硫化タリウムを沈殿させて固形の沈殿物として析出させ、ろ過分離する第一沈殿工程を加えることは、ろ過分離工程が加わることでコストが増すことになる点で、甲1発明の目的に反するといえる。
そうすると、甲1発明において、硫化剤を添加した後に、固形の沈殿物を析出させ、ろ過分離する第一沈殿工程を設けて、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることには、阻害要因があるといえる。

(イ)相違点2について
相違点2に関し、甲2及び甲3には、銅や亜鉛等の重金属を含む廃水に、硫黄化合物を添加して重金属の硫化物を生成させる際に、硫黄化合物の量を、廃水に含まれる重金属に対し、本件発明1で特定されている所定の当量比を満足する1.2当量等とした例が記載されている。
しかしながら、甲2及び甲3を含めたいずれの証拠にも、硫黄化合物の添加量(当量比)を決めるために、硫黄の含有量の測定を含め、所定の成分の測定工程を設けることを示唆する記載はない。
そうすると、申立人が提出した証拠からは、当業者は、相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得るということはできない。

(ウ) (ア)及び(イ)で検討したとおり、甲1発明を相違点2及び3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることが当業者にとって容易であるとはいえないのであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、及び、甲2、3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を更に減縮するものであるから、3.における本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲1に記載された発明、及び、甲2、3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5.まとめ
以上のとおり、本件発明1?3は、甲1発明(甲1に記載された発明)、及び、甲2、3に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立人の主張する取消理由1には理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-16 
出願番号 特願2012-111577(P2012-111577)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 瞳  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渕野 留香
大島 祥吾
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6205111号(P6205111)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 ダストの洗浄処理方法  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 日東 伸二  
代理人 藤本 昇  

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