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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1340177
異議申立番号 異議2018-700075  
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-29 
確定日 2018-05-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6173844号発明「ヒアルロン酸合成促進剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6173844号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6173844号の請求項1及び2に係る特許(以下、「本件特許」ということがある。)についての出願は、平成25年9月9日(優先権主張平成24年9月13日)に出願されたものであって、平成29年7月14日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月2日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年1月29日に特許異議申立人 吉久悦子(以下、「申立人」ともいう。)から特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6173844号の請求項1及び2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第6173844号の請求項1及び2に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

「【請求項1】
真珠由来蛋白加水分解物及び/又は真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とするヒアルロン酸合成促進剤。

【請求項2】
アコヤガイ由来とする真珠由来蛋白加水分解物及び/又はアコヤガイ由来とする真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とするヒアルロン酸合成促進剤。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
(1)申立理由1(新規性)
本件特許発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(進歩性)
申立理由2-1
本件特許発明1及び2は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
申立理由2-2
本件特許発明1及び2は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
申立理由2-3
本件特許発明1及び2は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に規定する発明に該当するものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、同法第113条第4号に該当する。

2.証拠方法
(1)甲第1号証:特開2006-290829号公報
(2)甲第2号証:特開平4-036214号公報
(3)甲第3号証:特開2008-239549号公報
(4)甲第4号証:特開平6-211640号公報
(5)甲第5号証:J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn,1993,Vol.27,No.2,pp.130-135
(6)甲第6号証:特願2012-148366号の審査段階で提出された平成28年4月12日発送の拒絶理由通知書に対する意見書

(以下、「甲第1号証」?「甲第6号証」をそれぞれ「甲1」?「甲6」という。)

第4 甲1?甲6に記載された事項
1.甲1
記載事項ア
「トウキンセンカ、ヘーゼルナッツ、ヤグルマギク、オオムギ、オドリコソウ、キョウニン、ゲンノショウコ、サボンソウ、ショウブ、スイカズラ、セイヨウノコギリソウ、トウニン、トマト、ニンニク、ムクロジ、レタス、酵母、の抽出物、及び/又は加水分解コンキオリンのうちのいずれか1つ以上を有効成分として含んで成る細胞外マトリックス産生促進剤。」(請求項3)

記載事項イ
「加水分解コンキオリン:真珠母貝であるアコヤガイ(学名Pinctada fucata)の真珠層に含まれる硬タンパク質コンキオリンを加水分解した水溶液。・・・」(【0027】)

記載事項ウ
「細胞外マトリックス産生促進剤
本発明は更に、トウキンセンカ、ヘーゼルナッツ、ヤグルマギク、オオムギ、オドリコソウ、キョウニン、ゲンノショウコ、サボンソウ、ショウブ、スイカズラ、セイヨウノコギリソウ、トウニン、トマト、ニンニク、ムクロジ、レタス、酵母、の抽出物、及び/又は加水分解コンキオリンのうちのいずれか1つ以上を有効成分として含んで成る細胞外マトリックス産生促進剤を提供する。ここで、「細胞外マトリックス」とは、当業界で一般的に認識されているものを意味し、特にラミニン5、IV型又はVII型コラーゲンを始めとする、基底膜中の重要な構成成分を意味する。」(【0032】)

記載事項エ
「皮膚外用剤
更に、本発明は上記抽出物等を含んで成る皮膚外用剤を提供する。ここで、本発明の皮膚外用剤は、抗炎症作用、創傷治癒促進作用、更には表皮水泡症改善作用を目的とするものである。しかしながら、本発明の皮膚外用剤はこれらの目的に限定されず、上記抽出物等の基底膜安定化作用、換言すると細胞外マトリックス産生促進作用によりもたらされる皮膚の諸症状の改善を意図した使用が考えられる。」(【0041】)

記載事項オ
「美容方法
別の態様において、本発明は、トウキンセンカ、ヘーゼルナッツ、ヤグルマギク、オオムギ、オドリコソウ、キョウニン、ゲンノショウコ、サボンソウ、ショウブ、スイカズラ、セイヨウノコギリソウ、トウニン、トマト、ニンニク、ムクロジ、レタス、酵母、の抽出物、及び/又は加水分解コンキオリン、のうちのいずれか1つ以上を皮膚に適用することを特徴とする、美容方法、を提供する。当該美容方法は、細胞外マトリックスの産生促進、延いては基底膜の安定化を必要とする皮膚の諸症状、例えば表皮水泡症を改善するための使用が意図される。当該美容方法において、上記抽出物等が適用される対象者は概して哺乳類であり、特にヒトへの適用が考えられる。」(【0049】)

記載事項カ
「(実験方法-1)
ラミニン5産生促進効果に関する試験方法
(1)表皮角質細胞の培養
表皮角質細胞はヒト包皮より単離し、カルシウム濃度の低い表皮細胞増殖培地(KGM)にて培養した。この培地には牛脳下垂体抽出液とEGFを添加した。細胞は第4代までKGMで培養後、トリプシン-EDTA処理によって接着細胞を浮遊させ、ろ過によって細胞のアグリゲートを除き、均一な細胞懸濁液を得た。遠心分離によって細胞を集め、DMEM-F12(2:1)-0.1%BSAに8×10^(4)/mlとなるように再懸濁させた。この細胞懸濁液を0.5ml、2倍濃度の薬剤を含む同培地0.5mlに加えた。培養は24穴プレートを用いて、37℃にて24時間行った。培養終了時に、培養上清をエッペンドルフチューブに移し、10000rpmで5分間遠心分離し、上清を新たなチューブに移し、ラミニン5の測定の日まで-20℃で保存した。また細胞内と培養プラスチック上に結合したラミニン5を可溶化するため、各種の界面活性剤を含むトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を各穴に添加し、一晩-20℃で保存した。翌日、超音波処理を行い、再度凍結した。翌日、再度溶解後、10000rpmで5分間遠心分離し、上清をチューブに移し、ラミニン5の測定の日まで-20℃にて保存した。
(2)サンドイッチELISA法によるラミニン5の測定
培養上清、細胞層に存在するラミニン5はサンドイッチELISA法にて測定した。96穴ELISAプレートの固層にラミニン5のラミニンα3鎖に対するモノクローナル抗体、BM165を結合させた。ラミニン5をサンドイッチして測定するため、もう一種の抗体としてラミニンβ3鎖に対するモノクローナル抗体である6F12を予めビオチン化(b-6F12)して用いた。本法では、機能を発揮しうるヘテロトリマー体(α3β3γ2)のみを測定し、ヘテロダイマー(β3γ2)を検出しない。b-6F12を含む3%ゼラチン・リン酸緩衝溶液を予め入れておいた各穴に試料を添加する。試料の穴内での最終希釈率は培養液が1/4、細胞層が1/10とした。抗原抗体反応は37℃で2時間行い、プレートを洗浄した後アビヂンHRP(ホースラディシュパーオキシダーゼ)溶液を添加し、更に30分から1時間反応させた。洗浄後、HRPの基質であるABTS溶液を加え、405nmの吸光度をELISAプレートリーダーにて測定した。検量線は0?40ng/mlの範囲で作成した。
ラミニン5の産生量は、培地中に遊離された量と細胞層に残った量との総和を算出し、生物抽出物等を添加していない試料(コントロール)に対する相対的な値をもって示した。以下の表1に、各抽出物等毎のラミニン5産生量の上昇率を要約する。」(【0051】?【0053】)

記載事項キ
「【表1】

」(【0054】)

記載事項ク
「(実験方法-2)
IV型コラーゲン、VII型コラーゲン産生促進効果に関する試験方法
(1)ヒト線維芽細胞の培養
10%FBS含有DMEM培地で培養したヒト線維芽細胞を24穴プレートに播種し、細胞が接着した後、0.25%FBS及び250μMアスコルビン酸グルコシド含有DMEM培地に置換し、薬剤を添加した。1日後、培地上清を回収、遠心分離し、得られた上清中のIV型、VII型コラーゲン測定及び、細胞についてDNA量を測定し、細胞数の指標とした。
(2)DNA定量
DNA量の測定はHoechst社のH33342を用いた蛍光測定法で実施した。
(3)サンドイッチELISA法によるIV型、VII型コラーゲンの測定
IV型、VII型コラーゲンは、サンドイッチELISA法によって測定した。本実施例において使用した抗体は以下の通りである。
・IV型コラーゲン特異的抗体;モノクロナール抗体JK-199およびポリクロナール抗体MO-S-CLIV
・VII型コラーゲン特異的抗体;モノクロナール抗体NP-185およびモノクロナール抗体NP-32

薬剤を添加していない試料(コントロール)のDNAあたりのIV型、VII型コラーゲン量を100としたときの、薬剤添加試料のDNAあたりのIV型、VII型コラーゲン量を、IV型、VII型コラーゲン産生促進率とした。以下の表2に、当該コラーゲンの産生促進率を要約する。」(【0055】?【0058】)

記載事項ケ


」(【0059】)


2.甲2
記載事項ア
「コンキオリンを有効成分とする酸化防止剤。」(特許請求の範囲1)

記載事項イ
「コンキオリンは貝殻や真珠類に含まれる硬蛋白質の一種でありアコヤ貝、イガイ、カラスガイなどの比較的柔らかい殻は、カルシウム量に比して多量に含有する。・・・更にこのコンキオリンに2?10%の塩酸水溶液を加え、50?110℃で5時間?5日間加水分解して、コンキオリンの加水分解物としてもよい。これを単にコンキオリンということもある。」(第2頁左上欄第15行?右上欄第10行)

記載事項ウ
「(酸化防止作用の実験方法)
試料20mgをコンキオリン加水分解物の場合は水20mlに溶解し、B.H.A.、ビタミンEアセテートの場合はエタノール20mlに溶解し、2.5%リノール酸エタノール溶液を20ml加えて、0.05モル、リン酸緩衝液(KH_(2)PO_(4) 0.02M、Na_(2)HPO_(4) 0.03MのPH7.0の緩衝液)を40ml加えて、コンキオリン加水分解物の場合はエタノール20m1を加えたのち、精製水で100mlに定容した。これを50℃の暗所に放置し、24時間ごとにチオシアン酸鉄法で酸化された割合をみた。
その方法は上記のサンプルを0.5ml、75%エタノール水溶液48.5ml、30%チオシアン酸アンモニウム0.5mlを加えて、3分間放置した後、0.02N塩化第一鉄3.5%HCl水溶液0.5mlを加えて75%エタノール溶液で定容した。3分間放置した後、波長500nmで吸光度を測定した。セル長は10mm、対照セルは試料10mgをエタノール20mlに溶解、2.5%リノール酸エタノール溶液を20ml加える代わりにエタノールを40m1加えてそのあと同様の処理を行ったものを入れた。
またコントロールとして試料10mgをエタノール20mlに溶解する代わりにエタノールを20ml加えてそのあと同様の処理を行ったものを実験した。
この酸化防止作用の実験結果を次の第1表に示す。」(第3頁右上欄第1行?左下欄第9行)

記載事項エ


」(第3頁右下欄第1表)

記載事項オ
「パネルテスト
女性25名(18?47才)に3月間実施例と比較例を左右の顔面を用いて連用してもらった。
結果を第3表に示す。
1-比較例の方がよい 4-処方例の方がよい
2-比較例の方がややよい 5-処方例の方がややよい
3-差がない
」(第4頁左上欄第5行?第11行)

記載事項カ


」(第4頁右上欄第3表)


記載事項キ
「この結果より、コンキオリン加水分解物には、ビタミンEに相当する酸化防止作用があることが明らかである。」(第4頁右上欄第1行?第3行)

記載事項ク
「〔発明の効果〕
コンキオリン又はその加水分解物には強い酸化防止効果があることが明らかとなった。コンキオリンは従来より保湿剤として使用されており、その安全性については長年の使用実績がある。
特に不飽和脂肪酸を多く含む動物油を配合した化粧品の酸化防止剤として優れている。
その他の食品の酸化防止剤として有効に使用し得る。
また、老化についてはいろいろな説があるが、その1つに脂質が酸素を吸収し、脂質遊離基が形成され、以後自動触媒的に脂質過酸化物の生成が老化の1因として関与しているともいわれ、皮膚のはり、しみ、なめらかさやしみ、しわに影響をおよぼす。コンキオリンは製剤の酸化防止のみならず、皮脂及び生体膜脂質の酸化防止にも役立つことは当然予想され、その結果、上記のような皮膚の現象に対して好影響をおよぼすのは当然である。」(第4頁右上欄第4行?第4頁左下欄第11行)


3.甲3
記載事項ア
「各種の疾患などは、分裂するすべての細胞の分裂速度の低下、細胞機能の低下と深く関わっている。例えば皮膚は真皮及び表皮は、表皮細胞、繊維芽細胞、及びこれら細胞外の皮膚構造を支持するエラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックスによって構成されている。若い皮膚においては、これらの皮膚組織の相互作用が恒常性を保つことによって柔軟性等の皮膚特性が確保され、肌は外観的にも艶、引き締め、透明感があり、しっとり状態に維持される。ところが、紫外線、乾燥、ストレスなどによって特に細胞外マトリックスや繊維芽細胞の機能低下が引き起こされ、その結果、皮膚の柔軟性等の皮膚特性は低下し、肌は艶、引き締め、透明感を失い、荒れ、しわ、くすみなどの症状が発生する。」(【0002】)

記載事項イ
「・・・細胞外マトリックス産生向上剤」には、「エラスチン産生向上剤」、「コラーゲン産生向上剤」や「ヒアルロン酸産生向上剤」が含まれる。・・・」(【0009】)

4.甲4
記載事項ア
「コンキオリンを有効成分として含有してなる活性酸素抑制剤。」(請求項1)

記載事項イ
「コンキオリンは貝殻や真珠類に含まれる硬蛋白質の一種でありアコヤ貝、イガイ、カラスガイ等に比較的多く含まれている。・・・」(【0007】)

記載事項ウ
「更にこのコンキオリンに濃度2?10%の塩酸水溶液を加えて、50?110℃で5時間?5日間加水分解して、コンキオリンの加水分解物としてもよい。これを単にコンキオリンということもある。」(【0009】)

記載事項エ
「(活性酸素抑制試験効果)活性酸素を抑制する効果を測定する方法は各種あるが、今回和光純薬のSODテストワコーを用いて実験した。試料としては、コンキオリン加水分解液(固形分10重量%)について試験した。発色試薬を1.0ml、試料を0.1mlとり37℃で恒温にしたのち、酵素液1.0mlを加えて撹拌したのち、37℃20分間放置後、反応停止液2.0mlを加えて560nmで吸光度を測定した。その結果を表1に示す。
計算式 阻害率=(A-(B-C))/A×100
A:試料を水としたときの吸光度
B:試料の吸光度
C:試料を測定するとき酵素液をブランク液としたときの吸光度」(【0017】)

記載事項カ
「【表1】

」(【0018】)

記載事項キ
「【発明の効果】活性酸素抑制試験結果より明らかなように、コンキオリンは活性酸素の生成を阻害する効果が大きい。使用テストではコンキオリンの保湿性等と重畳しているという難点はあるが、肌荒れを防止して、肌のつやを保つ効果が大きい。」(【0021】)

5.甲5
記載事項ア
「活性酸素によるヒアルロン酸の断片化に対する植物抽出液の抑制作用」(表題)

記載事項イ
「3.3 ヒアルロン酸の断片化抑制作用
活性酸素発生系としてアスコルビン酸-鉄(III)系を用いて、ヒアルロン酸断片化の抑制試験を行った。その結果をTable-2に示す。植物抽出液(直接水抽出)と、対照として活性酸素消去剤、抗酸化剤、鉄イオンのマスク剤について調べた。
活性酸素消去剤のL-システイン、グルタチオンには活性がみられたが、尿酸、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)には活性が見られなかった。カタラーゼは高濃度のみ活性を示した。抗酸化剤のソルビン酸カリウム、没食子酸には強い活性が見られたが、アルコルビン酸には活性が見られなかった。鉄イオンのマスク剤についても検討したところ、50μMの鉄イオンに1000ppmと過剰のアセチルアセトンやトリエタノールアミンを加えても、18%しか阻害しなかった。
植物抽出液に関しては、楊梅皮(Myrica rvbra)、五倍子(Rhus chtnensis)、芍薬(Poeonia albiflora)に強い断片化抑制活性が見られた。」(第133頁左欄「3.3 ヒアルロン酸の断片化抑制作用」の項第1行?同頁右欄第8行)

記載事項ウ


」(Table-2)

記載事項エ
「アスコルビン酸-鉄系におけるヒアルロン酸断片化抑制」(Table-2表題)

記載事項オ
「 L-システイン
グルタチオン
尿酸
D-マンニトール
没食子酸
ソルビン酸カリウム
アスコルビン酸
アセチルアセトン
トリエタノールアミン
タンニン酸
楊梅皮
五倍子
芍薬
黄連
丁子
十薬
鬱金 」(Table-2中の各サンプル名)

記載事項カ
「抑制(%)
-;30%未満,±;30?50%,
+;50?80%,++;≧80%」(Table-2の脚注)

記載事項キ
「ヒアルロン酸の断片化抑制活性とSOD様活性の相関については、楊梅皮、五倍子は断片化抑制活性、SOD様活性共に強い。芍薬はSOD様活性が無く、断片化抑制活性は強いが、逆に丁子はSOD活性が強く、断片化抑制活性は弱いなど、あまり相関は見られず、断片化抑制活性を示すのは単一の効果ではないものと推察される。」(第134頁右欄第2段落)


6.甲6
記載事項ア
「しかしながら、アコヤ貝由来のコンキオリン加水分解物より黒蝶貝の真珠または/および貝殻を由来とするコンキオリン加水分解物の方がコラーゲン産生促進作用が強いことが本発明より判明しました。
このことをより明確にするため以下の実験を行った。
ヒト線維芽細胞を24well-plateへ1.0×10^(4)cell/wellとなるように播種し、48時間培養した。その後試験品(1mg/ml)を含む培地へ交換した。2日後培地を新しい試験培地へ交換し、さらに3日間培養し計5日間培養した。5日後、Semi-Quantitative Collagen Assay Kit( Chondrex 社製)にてコラーゲン量を測定した。
結果を以下に示す。


図の比較例1、は製造例1のクロチョウガイ貝殻に替えてアコヤ貝貝殻を用いてあとは製造例1と同様な操作で製造したものである。
結果をみると、アコヤ貝由来のコンキオリン加水分解物(比較例1)より「黒蝶貝の真珠または/および貝殻を由来とするコンキオリン加水分解物」(製造例)の方が強いコラーゲン産生促進作用を示すことがわかります。(危険率1%で有意差があります。)

引用文献にはアコヤ貝のコンキオリンか、由来が不明なコンキオリンが記載されていますが、本発明のようにコンキオリンの中で「黒蝶貝の真珠または/および貝殻を由来するコンキオリン加水分解物」のコラーゲン産生促進作用が非常に強いことは、引用文献のいずれにも記載されておらず、またいずれの引用文献からも容易に想起することはできません。」(第3頁第5行?第4頁第14行)


第5 特許異議申立理由についての検討
1.申立理由1
a.甲1との対比・判断
甲1には、加水分解コンキオリンを有効成分として含む細胞外マトリックス産生促進剤が記載されており(記載事項ア)、当該「細胞外マトリックス」は、特にラミニン5、IV型又はVII型コラーゲンであり(記載事項ウ)、実施例においても、加水分解コンキオリンによる、当該ラミニン5、IV型又はVII型コラーゲンに対する産生促進効果が具体的に示されているから(記載事項カ?ケ)、これらの記載からみて、甲1には、「加水分解コンキオリンを有効成分として含む、ラミニン5、IV型コラーゲン及びVII型コラーゲンからなる群から選択される細胞外マトリックス産生促進剤」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明における「加水分解コンキオリン」はアコヤガイの真珠層に含まれる硬タンパク質コンキオリンを加水分解した水溶液であって(記載事項イ)、本件特許発明1における「真珠層由来蛋白加水分解物」に相当するから、両者は、「真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とする剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「ヒアルロン酸合成促進剤」であるのに対し、甲1発明は「ラミニン5、IV型コラーゲン及びVII型コラーゲンからなる群から選択される細胞外マトリックス産生促進剤」である点。

そして、甲1には、真珠層由来蛋白加水分解物を「ヒアルロン酸合成促進剤」として使用することは何ら開示されていないから、本件特許発明1は甲1発明とは、相違点1において相違するものである。

なお、申立人は、本件特許発明1と甲1に記載された発明とを対比・判断をするに際し、両発明の具体的な適用対象を取りあげ、
1.本件特許明細書の段落【0025】の記載からみて、本件特許発明1における「ヒアルロン酸合成促進剤」は、「肌のキメを整え、ハリ、シワ等の皮膚の諸症状を改善し、リウマチや関節炎等の炎症の治療に有効な皮膚外用剤であること」の意味であり、ヒアルロン酸の合成の促進はその作用機序にすぎず、したがって、本件特許発明1は、「加水分解コンキオリンを有効成分とし、肌のキメを整え、ハリ、シワ等の皮膚の諸症状を改善し、リウマチや関節炎等の炎症の治療に有効な皮膚外用剤」としてとらえられ(以上、「主張1」)、
2.一方、甲1の記載事項ア及びエの記載から、甲1には「抗炎症作用を有し、細胞外マトリックス産生促進作用によりもたらされる皮膚の諸症状の改善を意図し加水分解コンキオリンを含んでなる皮膚外用剤」の発明が記載されていると認定できるところ、甲3には、細胞外マトリックス産生促進により、肌の艶、引き締め(ハリ)等が改善され、シワ等の症状も改善されることが記載されていることから(記載事項ア)、甲1の「細胞外マトリックス産生促進作用によりもたらされる皮膚の諸症状の改善」に、「肌の艶、引き締め(ハリ)、シワ等の改善」が含まれることは明らかであり、本件特許発明1の用途と甲1に開示されている発明の用途とを区別することはできない(以上、「主張2」)
旨の主張をしている。

しかしながら、上記主張1については、本件特許発明1は、請求項1に記載されるように、「ヒアルロン酸合成促進剤」の発明であり、この点を踏まえて、本件特許明細書の【0025】の記載をみれば、本件特許発明1が、「ヒアルロン酸の合成を促進することにより、ヒアルロン酸の合成促進によって改善される肌のハリやシワを減少させるため」のものであることは認められるものの、この記載から、申立人が主張するような、「ヒアルロン酸の合成の促進」によるものであることが特定されていない「肌のキメを整え、ハリ、シワ等の皮膚の諸症状を改善し、リウマチや関節炎等の炎症の治療に有効な皮膚外用剤である発明」を認定することはできない。そして、上記主張2についても、甲1の記載事項ウ及びカ?ケの記載をみれば、甲1発明が、「ラミニン5、IV型コラーゲンあるいはVII型コラーゲンという特定の細胞外マトリックスの産生を促進することにより、ラミニン5、IV型コラーゲンあるいはVII型コラーゲンの産生促進によって改善される皮膚の諸症状を改善するため」のものであることは認められるものの、申立人が主張するような、「ラミニン5、IV型コラーゲンあるいはVII型コラーゲン産生の促進」によるものであることが特定されていない「細胞外マトリックス産生促進作用によりもたらされる皮膚の諸症状を改善する皮膚外用剤の発明」を認定することはできない。
このように、本件特許発明1は、「ヒアルロン酸の合成を促進することにより、肌のハリやシワを減少させるため」に使用される一方、甲1発明は、「ラミニン5、IV型コラーゲンあるいはVII型コラーゲンから選ばれる細胞外マトリックスの産生を促進することにより、皮膚の諸症状を改善するため」に使用されるものであって、甲3の記載を参酌しても、両者は、ヒアルロン酸と、ラミニン5、IV型コラーゲンあるいはVII型コラーゲンという、互いに異なる物質の産生を促進させることにより、当該異なる物質の増加により改善される症状のために使用されるものであるから、改善される具体的な症状が同一のものとはいえず、適用対象の点から検討しても、両者は区別されるものである。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、相違点1において相違するものであるし、また、具体的な適用対象においても、両者は区別されるものであるから、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても、同様である。

よって、申立理由1には理由がない。


2.申立理由2-2
a.甲1との対比・判断
上記「1.申立理由1」で説示したように、甲1には、「加水分解コンキオリンを有効成分として含む、ラミニン5、IV型コラーゲン及びVII型コラーゲンからなる群から選択される細胞外マトリックス産生促進剤」の発明(「甲1発明」)が記載されており、本件特許発明1と当該甲1発明を対比すると、両者は、「真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とする剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1は、「ヒアルロン酸合成促進剤」であるのに対し、甲1発明は「ラミニン5、IV型コラーゲン及びVII型コラーゲンからなる群から選択される細胞外マトリックス産生促進剤」である点。

甲3には、「細胞外マトリックス産生向上剤」(甲1における「細胞外マトリックス産生促進剤」と同義であると認められる。)の中には、「エラスチン産生向上剤」、「コラーゲン産生向上剤」や「ヒアルロン酸産生向上剤」が含まれる旨記載されているものの(記載事項イ)、「コラーゲン」と「ヒアルロン酸」は、異なる合成経路により合成される、異なる構造を有する物質であるから、「コラーゲン産生」させる物質であれば「ヒアルロン酸産生」ももたらすとは直ちに認められず、甲3の当該記載をみても、IV型コラーゲン産生やVII型コラーゲン産生を促進させる甲1発明が、ヒアルロン酸産生をも促進させるものと、当業者は理解できない。
したがって、甲3の記載によっても、甲1発明の「ラミニン5、IV型コラーゲン及びVII型コラーゲンからなる群から選択される細胞外マトリックス産生促進剤」を「ヒアルロン酸合成促進剤」として用いることなどを、当業者が容易に想到し得たとは認められない。

なお、申立人は、上記相違点1に関連して、甲1には、「加水分解コンキオリンを有効成分として含んでなる細胞外マトリックス産生促進剤」が開示されているとし、甲3には、「細胞外マトリックス産生向上剤」の中には、「ヒアルロン酸産生向上剤」が含まれる旨記載されているから、「細胞外マトリックス産生促進剤」のより具体的な用途として、「ヒアルロン酸産生向上剤」は、当業者であれば容易に想到できるものである旨、主張している。
しかしながら、「細胞外マトリックス産生向上剤」という用語の中に、「ヒアルロン酸産生向上剤」という用語が含まれるとしても、甲1の実施例において具体的に示されている細胞外マトリックス産生促進作用は、ラミニン5、IV型又はVII型コラーゲンに対する作用のみであり(記載事項カ?ケ)、また上述のとおり、そのようなラミニンやコラーゲンを産生する成分が、異なる合成経路により合成される、異なる構造を有する細胞外マトリックス物質一般の産生を向上できるものとは理解できない。
したがって、甲1記載の加水分解コンキオリンを「細胞外マトリックス産生促進剤」の中でも、特に「ヒアルロン酸産生向上剤」として使用できることは当業者といえども容易に想到できるものではない。

そして、本件特許明細書には、アコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や市販品の加水分解コンキオリンが、表皮でヒアルロン酸合成の促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3の発現を促進させ(段落【0002】、【0020】?【0024】、図1)、ヒアルロン酸合成を促進する結果、肌のハリが増し、シワが減少すること(段落【0025】)が記載されており、本件特許発明1は、ヒアルロン酸合成を促進することによる、肌のハリの増加やシワの減少という優れた効果を奏するものと認められ、当該効果は、甲1及び3の記載から当業者が予測できない、格別顕著なものと認められる。

したがって、本件特許発明1は、甲1及び甲3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても、同様である。

よって、申立理由2-2には理由がない。


3.無効理由2-1
a.甲2との対比・判断
甲2には、加水分解コンキオリンを有効成分とする酸化防止剤が記載されており(記載事項ア?エ、キ)、当該加水分解コンキオリンを含む処方製剤を顔面に適用したところ、肌のはりやしっとり感が増したことが記載されているから(記載事項オ、カ、ク)、これらの記載からみて、甲2には、「加水分解コンキオリンを有効成分として含む、肌のはりやしっとり感の向上剤」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
ここで、本件特許発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明における「加水分解コンキオリン」は貝殻や真珠類に含まれる硬蛋白質を加水分解したものであって(記載事項イ)、本件特許発明1における「真珠層由来蛋白加水分解物」に相当するから、両者は、「真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とする剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1は、「ヒアルロン酸合成促進剤」であるのに対し、甲2発明は「肌のはりやしっとり感の向上剤」である点。

そして、甲2には、真珠層由来蛋白加水分解物(加水分解コンキオリン)を「ヒアルロン酸合成促進剤」として使用することは何ら開示されておらず、また、本件特許発明1は、「ヒアルロン酸の合成を促進することにより、肌のハリを向上させ、シワを減少させるため」に使用される一方、甲2発明は、真珠層由来蛋白加水分解物の酸化防止作用に基づき、「皮脂や生体膜脂質等の生体内の酸化を防止することにより、肌のはりやしっとり感の向上させるため」に使用されるものであって(記載事項ク)、両者は異なる生体成分に作用し、当該異なる生体成分の増加、もしくは酸化防止により改善される症状のために使用されるものである。
そして、本件特許明細書には、アコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や市販品の加水分解コンキオリンが、表皮でヒアルロン酸合成の促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3の発現を促進させ(段落【0002】、【0020】?【0024】、図1)、ヒアルロン酸合成を促進する結果、肌のハリが増し、シワが減少すること(段落【0025】)が記載されており、本件特許発明1は、ヒアルロン酸合成を促進することによる、肌のハリの増加やシワの減少という優れた効果を奏するものと認められ、当該効果は、甲2の記載からは当業者が予測できない、格別顕著なものと認められる。

したがって、本件特許発明1は、甲2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても、同様である。

よって、申立理由2-1には理由がない。


4.申立理由2-3
a.甲4との対比・判断
甲4の記載事項ア?カの記載からみて、甲4には、「加水分解コンキオリンを有効成分として含有する活性酸素抑制剤」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明における「加水分解コンキオリン」は貝殻や真珠類に含まれる硬蛋白質を加水分解したものであって(記載事項イ)、本件特許発明1における「真珠層由来蛋白加水分解物」に相当するから、両者は、「真珠層由来蛋白加水分解物を有効成分とする剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1は、「ヒアルロン酸合成促進剤」であるのに対し、甲4発明は「活性酸素抑制剤」である点。

上記相違点1について、申立人は、甲5には、活性酸素を阻害すればヒアルロン酸の断片化が減少し、ヒアルロン酸量を増大できることが示唆されているから、甲4発明の加水分解コンキオリンを配合した薬剤が、活性酸素を減少させ、その結果ヒアルロン酸量を増大させる効果を有することは、当業者が容易に想到できることである旨、主張している。
しかしながら、甲5には、活性酸素によるヒアルロン酸の断片化を、ある種の活性酸素消去剤が抑制したことが記載されているものの(記載事項イ?カ)、同時に、活性酸素消去剤とされる物質であってもヒアルロン酸の断片化を抑制できないものが存在することや(記載事項イ)、活性酸素除去作用とヒアルロン酸の断片化抑制作用に相関性が見られないことも記載されている(記載事項キ)。
そうすると、甲4発明の活性酸素抑制剤を、ヒアルロン酸の断片化抑制剤として使用することが当業者にとって容易に想到し得たことであるとは認められない。
なお、そもそも、甲5記載の「ヒアルロン酸の断片化抑制作用」とは、「ヒアルロン酸が分解され減少することを抑制する作用」であり、これは現に存在するヒアルロン酸の量の減少を抑制する作用である。
本件特許発明1における「ヒアルロン酸合成促進」は、その字句のとおり、ヒアルロン酸を積極的に合成促進することを意味すると認められ、加えて、本件特許明細書には、アコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や市販品の加水分解コンキオリンが、表皮でヒアルロン酸合成の促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3の発現を促進させ(段落【0002】、【0020】?【0024】、図1)、ヒアルロン酸合成を促進する結果、肌のハリが増し、シワが減少すること(段落【0025】)が記載されていることからしても、現に存在するヒアルロン酸の量よりも増加させることを意味するものと認められる。そうすると、甲5記載の「ヒアルロン酸の断片化抑制」と本件特許発明1における「ヒアルロン酸合成促進」とは、ヒアルロン酸に対する異なる作用を規定したものである。そして、本件特許の優先日前、「ヒアルロン酸の断片化抑制」作用を有するものであれば、「ヒアルロン酸合成促進」作用を有することが技術常識であったものとも認められない。
したがって、仮に甲4発明の活性酸素抑制剤をヒアルロン酸の断片化抑制剤として使用することを当業者が容易に想到し得たとしても、さらに進んで、ヒアルロン酸合成促進剤として使用することまでも容易に想到し得たとはいえない。

そして、本件特許明細書には、アコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や市販品の加水分解コンキオリンが、表皮でヒアルロン酸合成の促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3の発現を促進させ(段落【0002】、【0020】?【0024】、図1)、ヒアルロン酸合成を促進する結果、肌のハリが増し、シワが減少すること(段落【0025】)が記載されており、本件特許発明1は、ヒアルロン酸合成を促進することによる、肌のハリの増加やシワの減少という優れた効果を奏するものと認められ、当該効果は、甲4及び5の記載からは当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。

したがって、本件特許発明1は、甲4及び5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
この点は、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2についても、同様である。

よって、申立理由2-3には理由がない。


5.申立理由3

本件特許明細書には、

「ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖単位が連結した構造をした高分子であり、皮膚細胞には広く分布し、皮膚の水分保持や粘弾性に深く関与し、肌表面のキメを整え、肌表面の立体的な構造を支え肌にハリや艶を保っている、皮膚の重要な成分の1つである。
ヒアルロン酸は高分子化合物であるため、皮膚の外側から表皮に供給することは困難であり、生体内で低分子の原料物質からヒアルロン酸合成酵素によって産生されているから、表皮細胞間にヒアルロン酸を供給するためにはヒアルロン酸合成酵素の発現が重要である。
表皮でヒアルロン酸の合成促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)の発現を促進することで、肌表面のキメを整え、肌表面の立体的な構造を支え肌にハリや艶を保つことが可能となる。」 (【0002】)

「本発明の目的はヒアルロン酸の産生を促進し、肌表面のキメを整え、肌表面の立体的な構造を支え肌にハリや艶を保ち、老化に伴う皮膚の保水力の減少を防ぎ、さらには関節リウマチ、化膿性関節炎や通風性関節炎に有効な製剤を得ることである。」(【0006】)

と記載されていることからみて、本件特許の請求項1に係る発明の解決すべき課題は、「真珠由来蛋白加水分解物及び/又は真珠層由来蛋白加水分解物を用いてヒアルロン酸合成を促進させる剤を提供すること」であると認められる。

ここで、本件特許明細書には、実施例において、アコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や市販品の加水分解コンキオリンが、表皮でヒアルロン酸合成の促進に関与するヒアルロン酸合成酵素3の発現を促進させたことが具体的に示され(段落【0002】、【0020】?【0024】、図1)、ヒアルロン酸合成を促進する結果、肌のハリが増し、シワが減少すること(段落【0025】)が記載されている。
さらに、古くから、真珠や真珠層由来蛋白加水分解物は「加水分解コンキオリン」として化粧品に使用されていること(【0004】)、及び真珠層を有する貝類としては、アコヤガイの他、シロチョウガイやクロチョウガイ等、種々のものが使用できること(【0007】)も記載されており、このような本件特許明細書の記載と、真珠層を有する貝類として代表的な貝であると認められるアコヤガイ貝殻から抽出した蛋白加水分解物や、市販品の加水分解コンキオリンを用いた実施例の記載を考慮すれば、アコヤガイ貝殻のみならず他の真珠層を有する貝殻由来の蛋白加水分解物である加水分解コンキオリンであっても、同様に、ヒアルロン酸の合成促進作用を有するものと当業者は理解できる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、上記本件特許の請求項1に係る発明の解決すべき課題を解決できることが当業者に認識できるように記載されていると認められる。

なお、申立人は、甲6を示し、加水分解コンキオリンが由来する真珠貝の種類により、加水分解コンキオリンを有効成分とする薬剤の作用、効果は大きく変動するから、ある真珠貝に由来する加水分解コンキオリンを有効成分とする薬剤についての効果から、他の種類に由来する加水分解コンキオリンを有効成分とする薬剤についての効果を、当業者が容易に予測することはできないとし、アコヤガイ由来の加水分解コンキオリンを用いた実施例の記載から、アコヤガイ以外の種類の真珠貝に由来する加水分解コンキオリン(真珠や真珠層由来の蛋白加水分解物)を有効成分とする本件特許発明1の範囲まで、発明を拡張ないし一般化できない旨の主張をしている。
そこで甲6の記載を検討するに、甲6は、クロチョウガイ由来の加水分解コンキオリンとアコヤガイ由来の加水分解コンキオリンでは、そのコラーゲン産生効果の程度に違いがあることを示したものであり(記載事項ア)、その記載からは、コラーゲン産生効果においては、加水分解コンキオリンが由来する真珠貝の種類により、その効果に差があると理解できる。しかしながら、上記のとおり、「コラーゲン産生」と「ヒアルロン酸産」は、互いに、異なる合成経路により合成される、異なる構造を有する物質の産生に関するものであるから、甲6で示された、コラーゲン産生効果と加水分解コンキオリンが由来する真珠貝の種類との関係が、「ヒアルロン酸産生」に関する本件特許発明にそのまま適用できるものではない。
また、そもそも、甲6で示されたデータは、加水分解コンキオリンが由来する真珠貝の種類によって、コラーゲン産生の程度に差があることを示すにとどまり、真珠貝の種類によっては全くコラーゲン産生がされないことがあることを示すものではない。むしろ、甲6の記載は、加水分解コンキオリンが由来する真珠貝の種類が異なっても、その程度に差はあれ、類似した効果を奏することが期待できることを当業者に示唆するものともいえる。
よって、申立理由3には理由がない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由(申立理由1?3)及び証拠によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-11 
出願番号 特願2013-185862(P2013-185862)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菊池 美香  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 井上 明子
田村 聖子
登録日 2017-07-14 
登録番号 特許第6173844号(P6173844)
権利者 御木本製薬株式会社
発明の名称 ヒアルロン酸合成促進剤  

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