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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1340457
審判番号 不服2017-12530  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-24 
確定日 2018-06-05 
事件の表示 特願2013-135052「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 8806、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年6月27日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月4日付け : 拒絶理由通知書
平成28年12月22日 : 意見書の提出
平成29年5月19日付け : 拒絶査定
平成29年8月24日 : 審判請求書、手続補正書の提出
平成29年11月20日付け : 前置報告書

第2 原査定の概要
原査定(平成29年5月19日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-5に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-215130号公報
2.特開2011-030643号公報

第3 審判請求時の補正について
補正前の請求項1では、電子機器が、「加速度検出部により検出した加速度に基づいて、静止状態又は移動状態を判定し、当該判定した結果と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて、身体活動量を算出する制御部」を備えるという事項が記載されていたところ、審判請求時に、当該事項について「前記加速度検出部により検出した加速度に基づいて、静止状態又は移動状態の種別を判定し、当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出する制御部」とする補正がされた(下線は補正によって変更された箇所である)。
そして、本願の出願時における明細書(以下、「当初明細書」という。)の【0016】、【0018】-【0020】には、加速度検出部12の検出結果に基づいて移動状態の種別(人が歩行している状態、人が走っている状態、人が自転車へ乗車している状態等)を判定し、走っている状態のときは歩幅と10歩毎の高度変化とに基づいて路面の勾配を算出し、自転車へ乗車している状態のときは予め設定された速度と時間(10秒)とに基づいて得られた距離と10秒毎の高度変化とに基づいて路面の勾配を算出することが記載されていると認められる。ここで、路面の勾配を算出するためには移動距離と高度変化の双方が必要であるから、走っている状態のときに歩幅から移動距離を算出し、それを使って勾配を算出していることは、当初明細書に明記がなくても、当業者にとって自明な事項である。したがって、「前記加速度検出部により検出した加速度に基づいて、静止状態又は移動状態の種別を判定し、当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出する」ことは、当初明細書に記載された事項であり、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、上記補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「身体活動量を算出する制御部」について、「当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出する」という限定を付して減縮するものであり、また、補正前の請求項1と補正後の請求項1は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題を同じくするものである。よって、上記補正は、特許法17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、上記補正後の請求項1-5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
よって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成29年8月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
気圧を検出する気圧センサ部と、
加速度を検出する加速度検出部と、
前記加速度検出部により検出した加速度に基づいて、静止状態又は移動状態の種別を判定し、当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、判定した移動状態の種別に基づいて、前記気圧センサ部が気圧を検出する周期を変更する電子機器。
【請求項2】
前記制御部は、前記静止状態であると判定した場合、前記気圧センサ部の駆動を停止させる請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記制御部は、前記静止状態であると判定した場合、前記気圧センサ部に気圧を検出させる動作を停止する請求項1記載の電子機器。
【請求項4】
前記制御部は、前記移動状態の種別を判定した後、平均移動速度を算出し、当該移動状態の種別と、当該平均移動速度に基づいて、前記気圧センサ部が気圧を検出する周期を変更する請求項1記載の電子機器。
【請求項5】
前記制御部は、前記移動状態の種別として、歩行をしている状態、走行をしている状態及び移動体に乗って移動している状態を判定する請求項1記載の電子機器。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

(引1a)「【0046】
図9は、本発明の第5の実施の形態に係る高度計のブロック図で、前記第1の実施の形態と同様に使用者が携帯して使用する携帯型高度計の例である。本第5の実施の形態に係る高度計は、使用者の歩行を検出して歩数計測を行う歩数計測機能を備えている。図9では、図1と同一部分には同一符号を付している。
【0047】
図9において、本第5の実施の形態に係る高度計は、発電部101や発電量計測部102を有しておらず、二次電池103の代わりに高度計の各電気的構成要素に駆動電力を供給する電源としての一次電池601を有しており、又、使用者の一歩毎の歩行を検出して歩数計測を行う歩数計測部901を有している。一次電池601の代わりに二次電池を使用してもよい。歩数計測部901は使用者の歩行を検出する歩行検出手段を構成している。尚、制御部105が制御手段を構成する等、その他の構成は図1と同じである。
図10は、本第5の実施の形態に係る高度計の処理を示すフローチャートで、図8と同一処理を行う部分には同一符号を付している。
【0048】
以下、本第5の実施の形態の動作を、図9、図10を用いて説明する。
使用者は高度計を腕等の身体に装着して、あるいは、バッグ等に収容した状態で携帯して使用する。使用者は、入力部107を操作することによって高度計測開始命令と歩数計測開始命令を入力し、高度計に高度計測及び歩数計測を開始させる。
制御部105は、入力部107から高度計測開始命令が入力されたと判定すると(ステップS201)、計測間隔T1を初期状態である第1間隔t1_2に設定した後(ステップS701)、以降の高度検出処理に入る(ステップS204)。
【0049】
一方、歩数計測部901は、使用者の歩行を検出すると、使用者が歩行中であるか否かを表す状態フラグを歩行状態にセットし、又、歩行を検出する毎に歩数信号を制御部105に出力する。制御部105は、前記歩数信号を計数することによって歩行者の累積歩数を算出し、歩数を表示部106に表示する。制御部105は、算出した歩数を随時、メモリ部109に記憶する。
【0050】
制御部105は、高度検出処理では、先ず、所定の計測時間T1を計測するT1タイマ(第1時間計測手段)をリセットし(ステップS205)、T1タイマをスタートした後(ステップS206)、気圧センサによって構成された気圧計測部104の電源をオンして気圧計測を開始させる(ステップS207)。
【0051】
次に制御部105は、気圧計測部104に気圧計測を行わせた後(ステップS208)、気圧計測部104の電源をオフにして気圧計測動作を終了させる(ステップS209)。次に制御部105は、気圧計測部104が計測した気圧データを用いて高度を算出し(ステップS210)、算出した高度値を表示部106に表示する(ステップS211)。制御部105は、処理ステップS210において算出した高度のデータを順次メモリ部109に記憶する。
【0052】
次に制御部105は、歩数計測部901の状態フラグを参照して(ステップS1001)、使用者が歩行中か否かを判定する(ステップS1002)。
制御回路105は、処理ステップS1002において前記状態フラグが歩行状態になっていると判定したときは使用者が歩行中と判定し、気圧の計測間隔T1を第2気圧計測間隔t1_2に設定する(本第3の実施の形態では処理ステップS701において計測間隔T1を第2気圧計測間隔t1_2に設定しているため、ここでは何も処理しない。)(ステップS220)。制御回路105は、処理ステップS1002において前記状態フラグが停止状態になっていると判定したときは使用者が歩行停止中と判定し、計測間隔T1を第2気圧計測間隔t1_2よりも間隔の長い第1気圧計測間隔t1_1に設定する(ステップS219)。
【0053】
このようにして、制御回路105は、歩数計測部901が歩行中であることを検出したときには、歩数計測部901が歩行中でないことを検出したときよりも気圧計測間隔T1が短くなるように気圧計測部104を制御する。また、制御回路105は、歩行中でないことを歩数計測部901が検出したときには、歩行計測部901が歩行中であることを検出したときよりも気圧計測間隔T1が長くなるように気圧計測部104を制御する。
【0054】
次に、制御回路105は、入力部107から高度計測停止命令が入力されたと判定した場合には高度計測動作を終了する(ステップS212)。
制御部105は、処理ステップS212において入力部107から高度計測停止命令が入力されていないと判定した場合、計測間隔T1が経過したか否かを判定する(ステップS213)。制御部105は、処理ステップS213において計測間隔が経過していないと判定した場合には処理ステップS212に戻り、計測間隔が経過したと判定した場合には処理ステップS205に戻る。
【0055】
このように、本第5の実施の形態に係る高度計は、特に、歩行検出する歩数計測部901を有し、制御回路105は、歩数計測部901が歩行中であることを検出したときは、歩数計測部901が歩行中でないことを検出したときよりも気圧計測間隔が短くなるように気圧計測部104を制御するようにしている。
また、本第5の実施の形態に係る高度計は、特に、歩行を検出する歩数計測部901を有し、制御回路105は、歩数計測部901が歩行中でないことを検出したときは、歩数計測部901が歩行中であることを検出したときよりも気圧計測間隔が長くなるように気圧計測部104を制御するようにしている。
【0056】
これにより、使用者が歩行中か否かという高度計の使用環境に応じて、省電力化を図りつつ必要な高度計測を行うこと等が可能になる。また、使用者が停止状態の場合には高度が変化する可能性は低いため測定間隔を長くすることによって測定精度を劣化することなく省電力化を可能にし、使用者が歩行状態にある場合には高度が変化する可能性が高いため測定間隔を短くすることによって測定精度を高く維持することが可能になる。」

上記(引1a)より、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「気圧計測を行う気圧計測部104と、
使用者の歩行を検出すると使用者が歩行中であるか否かを表す状態フラグを歩行状態にセットするとともに、歩行を検出する毎に歩数信号を制御部105へ出力する、歩数計測部901と、
歩数計測部901の状態フラグを参照して使用者が歩行中か歩行停止中であるかを判定するとともに、歩数信号を計数することによって歩行者の累積歩数を算出する制御部105と、を備え、
制御部105は、使用者が歩行中であるときには歩行中でないときよりも気圧計測間隔が短くなるように気圧計測部104を制御する、携帯型高度計。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

(引2a)「【0001】
本発明は、被験者が、平地、坂道等を、歩行、ジョギング、自転車等の人力での移動手段を用いる等の各種の移動形態で移動する際に、その移動形態を精度良く判別することのできる移動形態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者が移動する際の消費カロリーを算出する方法として、平地歩行だけでなく、坂道歩行や山登り、階段の上り下りなどの移動時の運動形態(移動形態)を考慮して算出するものが提案されている。特許文献1では、被験者に取り付けた3軸加速度計の測定値のベクトル和から力積を計算し、予め求めておいた運動形態別の直線状相関データに基づき、力積および被験者の体重から消費カロリーを算出している。このとき、3軸加速度計の測定波形と、予め測定しておいた各種の運動形態における典型的波形とを比較し、所定の誤差範囲内で波形が一致したときに、その一致した波形の運動形態で運動しているものと判定して、消費カロリーの算出に用いる相関データを決定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-258870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で提案されている運動形態の判別方法は、加速度センサのみで運動形態を判別できるものの、判定時に波形の一致度を計算しなければならず、複雑な計算処理が必要である。よって、処理能力の高い計算装置や容量の大きい記憶装置が必要になってしまい、廉価な携帯型装置で実施するのには適さないという問題点があった。
【0005】
また、加速度センサは、被験者が自動車や電車などの乗り物に乗っているときも加速度を検出してしまうので、歩行などの被験者の身体活動による移動と乗り物による移動とを区別できなければ、消費カロリーの算出値が実態と大きく食い違ってしまう。しかしながら、特許文献1には、被験者の身体活動による移動を行ったときの測定波形と自動車や電車で移動したときの測定波形とを判別する方法は提案されていなかった。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、加速度センサの出力に基づき被験者の移動形態を判別する移動形態判別方法において、自動車や電車などの乗り物による移動と被験者の身体活動による移動との判別も含めた各種の移動形態の判別を、簡易な計算で精度良く行う方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の移動形態判別方法は、
予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分の比率のデータを、前記被験者の移動形態の種類ごとに所定数以上集めた複数の移動形態別データ群を準備しておき、
前記被験者が判定対象の移動形態で移動しているときの、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記比率のデータを算出し、
当該算出した前記比率のデータと、各移動形態別データ群との統計的距離を算出し、
当該統計的距離が最も小さい前記移動形態別データ群の移動形態が、前記判定対象の移動形態であると判定することを特徴としている。
【0008】
本発明者等は、予め、被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分を含む所定の軸方向成分の比率のデータを、移動形態の種類ごとに十分な数だけ集めておけば、これらのデータ群を用いた統計的手法(判定対象のデータと予め用意したデータ群との統計的距離を算出する方法)により、未知の移動形態で移動している被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値から算出されたデータ(判定対象の比率のデータ)が、どの移動形態のデータ群に最も近いかを簡易な計算で判別でき、未知の移動形態の種類を精度良く判別できることを見出した。
【0009】
また、本発明者等は、前記統計的距離として、前記合計ベクトルと前記比率を直交する2軸とする2次元空間におけるマハラノビス汎距離を用いた場合に、簡易な計算で精度の良い判別結果が得られることを見出した。マハラノビス汎距離は、各データ群について、平均値および分散共分散行列の逆行列を予め計算しておくことにより、簡易な計算で算出することができる。よって、処理能力の低い計算装置や容量の小さい記憶装置のみを備える簡易な携帯型装置においても実行可能である。
【0010】
更に、本発明者等は、前記3軸加速度センサにより、鉛直方向、前記被験者の前後方向、および前記被験者の左右方向の加速度を検出し、前記所定の軸方向成分として鉛直方向成分を用いることにより、最も精度の良い判別結果が得られることを見出した。
【0011】
そして、本発明者等は、前記複数の移動形態別データ群として、歩行、ランニング、自転車、自動車、電車の各移動形態に対応するデータ群を準備したときに、これらの移動形態の判別を、精度良く行うことができることを見出した。」

(引2b)「【0040】
(4)判定対象の移動形態に高度変化を伴うものを含める場合には、3軸加速度センサの出力値に気圧センサの出力値を組み合わせて、判別を行うことも考えられる。すなわち、気圧センサの出力値を3軸加速度センサの出力値と同様にサンプリングして、被験者の上昇高度あるいは下降高度を算出し、この高度変化に基づいて移動形態を判別することができる。あるいは、高度変化に基づく酸素消費量の変化を消費カロリーの算出式に組み込んでおいて、消費カロリーの測定値に反映させてもよい。」

上記(引2a)及び(引2b)の記載より、上記引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記被験者が移動しているときの3軸方向の加速度の合計ベクトルに対する、当該3軸方向の加速度のうちの少なくとも1つの軸方向成分の比率のデータを、前記被験者の移動形態の種類(歩行、ランニング、自転車、自動車、電車)ごとに所定数以上集めた複数の移動形態別データ群を準備しておき、前記被験者が判定対象の移動形態で移動しているときの、当該被験者に取り付けた3軸加速度センサの出力値に基づき、前記比率のデータを算出し、当該算出した前記比率のデータと、各移動形態別データ群との統計的距離を算出し、当該統計的距離が最も小さい前記移動形態別データ群の移動形態が、前記判定対象の移動形態であると判定し、
被験者に取り付けた気圧センサの出力値に基づき、被験者の上昇高度あるいは下降高度を算出し、この高度変化に基づく酸素消費量の変化と、判定された移動形態とに基づいて、消費カロリーを計算する、
移動形態判別装置。」

3 その他の引用文献について
また、前置報告書において引用された引用文献3(特開2011-090426号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

(引3a)「【0068】
たとえば、歩数計200の演算部103では、測定動作として、加速度検知部101からの信号に基づいて歩数を測定すると共に、所定の歩数ごとに気圧検知部108からの信号に基づいて高度を測定し、歩数と所定歩数ごとの高度とを歩数データとして記憶部105に記憶することができる。そして、歩数計200は上記S505での通信によって、他の歩数計から、歩数計200を携帯するユーザにとっての目的地点から現在地点までの歩行経路に沿って測定された、歩数と所定歩数ごとの高度とを歩数データとして受信する。この場合、S515では図19(A)の表示がなされる。すなわち、図19(A)を参照して、横軸を歩数、縦軸を高度とし、領域51に当該歩数計200の記憶部105に記憶されている歩数データに基づいた単位歩数ごとの高度、領域53に他の歩数計から受信した歩数に基づいた単位歩数ごとの高度データが表示される。
【0069】
また、上述のように、各歩数計には予め身長を示すデータまたは歩幅を示すデータが記憶されており、歩数計200は上記S505での通信によって、他の歩数計から、歩数データと共に身長または歩幅を示すデータを受信する。この場合、S515では図19(B)の表示がなされてもよい。すなわち、図19(B)を参照して、予め演算部103において歩数に歩幅を乗じて歩行距離が算出され、横軸を距離、縦軸を高度とし、領域51に当該歩数計200の記憶部105に記憶されている歩数データに基づいた単位距離ごとの高度、領域53に他の歩数計から受信した歩数データに基づいた単位距離ごとの高度が表示されてもよい。
【0070】
または、S515では図20の表示がなされてもよい。すなわち、図20を参照して、予め演算部103において歩数に歩幅を乗じて歩行距離と高度差とに基づいて勾配が算出され、横軸を歩数、縦軸を勾配とし、領域51に当該歩数計200の記憶部105に記憶されている歩数データに基づいた歩数ごとの勾配、領域53に他の歩数計から受信した歩数データに基づいた歩数ごとの勾配が表示されてもよい。」

上記(引3a)の記載より、引用文献3には、「加速度検知部101からの信号に基づいて測定された歩数に予め記憶された歩幅を乗じて算出された歩行距離と、気圧検知部108により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、勾配を算出し、算出された勾配を表示する、歩数計。」が開示されているものと認められる。

また、前置報告において周知技術として引用された引用文献4(特開平8-131425号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。)

(引4a)「【0020】次に、上記のような運動量測定装置の全体動作例を図10及び図11のフロー図を参照して説明する。まず、装置の電源をONにすると、測定が開始され、加速度センサ1により被測定者の体動に関するデータが取り込まれる(ST21)。勿論、測定に先立っては装置を被測定者に装着しておくと共に、被測定者の性別・年令・身長・体重等を入力しておく。ST22では、測定開始から10秒経過したか否かが判定され、まだの場合は加速度センサ1によるデータ取得が続行され、10秒間分のデータが蓄積される。
【0021】10秒経過したなら、運動が5歩以上行われたかどうかが判定され(ST23)、YESの場合は、後述の加速度振幅の計算処理(ST32)に移行する。つまり、5歩以上の行動があったということは、その行動が「歩く」か「走る」に相当すると判定され、それに係る処理に移行するわけである。ST23でNOの場合は、0歩(静止若しくは安静状態)が一定時間連続したかどうかが判定され(ST24)、YESなら一定時間に全く動かなかったと判断され、この行動は「寝る」と断定され、それに係る処理(ST40)に移行する。
【0022】ST24でNOの場合は、更にST25で「座る」(「立つ」)特徴か否かが図5に基づいて説明したように判定され、これがYESならその行動が「座る」と、NOなら「立つ」と断定され、それぞれに係る処理(ST26,ST29)に移行する。「座る」行動の処理では、前記したようにRMR=0.34とされ(ST26)、前記エネルギー代謝量(総消費カロリー)E_(day )を求める式に基づき、一定時間(10秒間)の「座る」行動の消費エネルギーA_(1 )が算出される(ST27)。そして、「座る」行動の数n1 が1インクリメントされた(ST28)後、ST43に移る。
【0023】「立つ」行動の処理では、RMR=0.98(女),0.8(男)とされ(ST29)、同じく「立つ」行動の消費エネルギーA_(2 )が算出され(ST30)、「立つ」行動の数n_(2) が1インクリメントされた(ST31)後、ST43に移る。一方、ST32では、加速度振幅の平均振幅(VP_(mean))の計算が前記した通り行われ、算出されたVP_(mean)が予め設定しておいた所定値VP_(th)より大きいか(VP_(mean)>VP_(th))が判定される(ST33)。これがNO(VP_(mean)≦VP_(th))の場合、「歩く」行動と断定され、YESの場合、「走る」行動と断定される。
【0024】「歩く」行動の処理では、RMR=2.3とされ(ST34)、その消費エネルギーA_(3) が算出される(ST35)と共に、その行動数n_(3 )が1インクリメントされた(ST36)後、ST43に移る。「走る」行動の処理では、RMR=3.8とされ(ST37)、その消費エネルギーA_(4 )が算出される(ST38)と共に、その行動数n_(4 )が1インクリメントされた(ST39)後、ST43に移る。
【0025】又、「寝る」行動の場合は、RMR=0.3とされ(ST40)、その消費エネルギーA_(5 )が算出され(ST41)、その行動数n_(5) が1インクリメントされた(ST42)後、ST43に移る。ST43では、当期間(10秒間)の消費エネルギーaが、a=A_(1) +A_(2) +A_(3) +A_(4 )+A_(5) で求められ、この値aが小計の消費エネルギーbに加えられる(ST44)。次いで、1時間が経過したかどうかが判定され(ST45)、NOならば総消費エネルギーAに10秒間の消費エネルギーaが加算され(ST46)、当10秒間の処理が終了する。」

上記(引4a)の記載より、引用文献4には、「人体に装着されて体動を検出する加速度センサ1と、加速度センサ1で得られた出力波形のパターンを識別して生体の行動を『寝る』、『座る』、『立つ』、『歩く』、『走る』に類別し、各行動ごとに異なるRMRを用いて消費エネルギーを算出する運動量測定装置。」が開示されているものと認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「気圧計測を行う気圧計測部104」は、本願発明1における「気圧を検出する気圧センサ部」に相当し、引用発明における「携帯型高度計」は、本願発明1における「電子機器」に相当する。
次に、引用発明における「歩数計測部901の状態フラグを参照して使用者が歩行中か歩行停止中であるかを判定するとともに、歩数信号を計数することによって歩行者の累積歩数を算出する制御部105」において、使用者が歩行停止中であることは、本願発明1における「静止状態」に相当し、歩行者の累積歩数を算出していることは、本願発明1における「身体活動量を算出」していることに相当する。
また、引用発明における「使用者が歩行中であるときには歩行中でないときよりも気圧計測間隔が短くなるように気圧計測部104を制御する」ことのうち、気圧計測間隔の長さを変更している部分は、本願発明1における「気圧センサ部が気圧を検出する周期を変更する」ことに相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致する。

「気圧を検出する気圧センサ部と、
身体活動量を算出する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記気圧センサ部が気圧を検出する周期を変更する電子機器。」

また、本願発明1と引用発明とは、次の点で相違する。

(相違点1)本願発明1においては、「加速度を検出する加速度検出部」を備え、制御部において「加速度検出部により検出した加速度に基づいて、静止状態又は移動状態の種別を判定」するのに対して、引用発明においては、「使用者の歩行を検出すると使用者が歩行中であるか否かを表す状態フラグを歩行状態にセット」する「歩数計測部901」を備え、制御部において「歩数計測部901の状態フラグを参照して使用者が静止中か歩行停止中であるかを判定」する点。

(相違点2)制御部における身体活動量の算出を、本願発明1においては、「(静止状態又は移動状態の種別を判定し、)当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、前記気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて」行うのに対して、引用発明においては、歩数計測部901から出力された歩数信号を計数することにより行う点。

(相違点3)気圧センサ部が気圧を検出する周期の変更を、本願発明1においては、「判定した移動状態の種別に基づいて」行うのに対して、引用発明においては、歩行中であるかないかに基づいて行う点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
前述のように、引用文献2には、被験者に取り付けられた3軸加速度センサの出力値に基づいて被験者の移動形態の種類(歩行、ランニング、自転車、自動車、電車)を判定し、被験者に取り付けた気圧センサの出力値に基づき、被験者の上昇高度あるいは下降高度を算出し、この高度変化に基づく酸素消費量の変化と、判定された移動形態とに基づいて、消費カロリーを計算する、移動形態判別装置が開示されている。しかしながら、静止状態又は移動状態の種別を判定し、当該判定した結果に基づいて取得される移動距離と、当該気圧センサ部により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出することについては、引用文献2には記載されていない。
次に、引用文献3には、加速度検知部101からの信号に基づいて測定された歩数に予め記憶された歩幅を乗じて算出された歩行距離と、気圧検知部108により検出した気圧に基づいて取得される高度の変化とに基づいて、勾配を算出することが開示されている。しかしながら、引用文献3には、そのようにして算出した勾配に基づいて身体活動量を算出することは記載されていない。
また、引用文献4にも、移動距離と、気圧センサ部により検出した気圧に基づいて、路面の勾配を算出し、当該勾配に基づいて身体活動量を算出することは記載されていない。
したがって、相違点2のうち、「(路面の勾配を算出し、)当該勾配に基づいて身体活動量を算出する」ことについては、いずれの引用文献にも記載されていない。すると、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項は、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)小括
よって、前述したその余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2-5について
本願発明2-5は、本願発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 原査定について
1 原査定の理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1-5は「(路面の勾配を算出し、)当該勾配に基づいて身体活動量を算出する」という構成を備えるものとなっているから、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-2に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2013-135052(P2013-135052)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 福田 裕司  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 東松 修太郎
▲高▼見 重雄
発明の名称 電子機器  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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