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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01R
管理番号 1340461
審判番号 不服2017-9354  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-27 
確定日 2018-06-05 
事件の表示 特願2015-545559「内部状態推定システム、及びその推定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年1月28日国際公開、WO2016/013241、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成26年7月25日にされた特許出願(特願2014-151904)に基づく特許法第41条第1項の規定による優先権を主張して平成27年2月24日にされた国際特許出願である。そして、平成28年10月7日に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされ、平成29年3月21日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、同28日に査定の謄本が送達された。
これに対して、同年6月27日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正がされた。

第2 本願に係る発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明10」という。)は、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の蓄電池からなる蓄電システム部のシステムSOCの推定を行う内部状態推定システムにおいて、
複数の前記蓄電池における電圧を測定する電圧測定部と、
複数の前記蓄電池を流れる電流を測定する電流測定部と、
前記電圧測定部で測定した複数の蓄電池の時間ごとの電圧値を記憶する電圧値記憶部と、
前記電圧値記憶部に記憶した電圧値の中から最大電圧値と最小電圧値とを選択する電圧値選択部と、
前記最大電圧値と前記最小電圧値に加える重みづけの条件を記憶する決定条件記憶部と、
予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えてシステムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定部と、
前記蓄電池を流れる電流とシステムセル電圧とに基づいて前記蓄電システム部のシステムSOCの推定を行うシステムSOC推定部と、
を備えることを特徴とする内部状態推定システム。
【請求項2】
前記決定条件記憶部は、
前記蓄電システム部の充放電が低SOC領域で行われる場合は前記最小電圧値に対する重みづけを大きくし、
充放電が高SOC領域で行わる場合には前記最大電圧値に対する重みづけを大きくする重みづけ条件を記憶することを特徴とする請求項1に記載の内部状態推定システム。
【請求項3】
前記決定条件記憶部は、
前記蓄電システム部のSOCにおける第1の閾値を記憶し、
前記蓄電システム部のSOCが前記第1の閾値未満の場合には前記最小電圧値がシステムセル電圧となり、前記蓄電システム部のSOC値が前記第1の閾値以上の場合には前記最大電圧値がシステムセル電圧となる重みづけの条件を記憶することを特徴とする請求項1に記載の内部状態推定システム。
【請求項4】
前記決定条件記憶部は、
前記蓄電システム部のSOCにおける第1及び第2の閾値を記憶し、
前記蓄電システム部のSOCが前記第1の閾値未満の場合には前記最小電圧値をシステムセル電圧し、
前記蓄電システム部のSOCが前記第1の閾値以上、且つ第2の閾値未満の場合は複数の蓄電池における電圧値の平均値である平均電圧をシステムセル電圧とし、
前記蓄電システム部のSOCが前記第2の閾値以上の場合には前記最大電圧値をシステムセル電圧とする重みづけの条件を記憶することを特徴とする請求項1に記載の内部状態推定システム。
【請求項5】
前記第1の閾値及び/または第2の閾値は、前記蓄電システム部の充放電曲線における傾きが緩い領域に設定されることを特徴とする請求項4に記載の内部状態推定システム。
【請求項6】
前記複数の前記蓄電池の温度を測定する温度測定部と、
蓄電システム部のシステムSOCの推定の基となるシステムセル温度を決定するシステムセル温度決定部と、
を更に備え、
前記システムSOC推定部は、前記蓄電池を流れる電流、システムセル電圧、及びシステムセル温度に基づいて前記蓄電システム部のシステムSOCの推定を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内部状態推定システム。
【請求項7】
前記電流測定部は、前記蓄電システム部の1か所に設置され、
設置場所で計測される電流値に基づいて、前記電流測定部を構成する前記蓄電池に流れる電流値を算出することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の内部状態推定システム。
【請求項8】
予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCとして、システムSOC推定部で推定した前記蓄電システム部のシステムSOCを使用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の内部状態推定システム。
【請求項9】
予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCとして、前記蓄電システム部における開回路電圧とSOCの関係に基づいて推定したシステムSOCを使用することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の内部状態推定システム。
【請求項10】
複数の蓄電池からなる蓄電システム部のシステムSOCの推定を行う内部状態推定方法において、
複数の前記蓄電池における電圧を測定する電圧測定工程と、
複数の前記蓄電池を流れる電流を測定する電流測定工程と、
前記電圧測定部で測定した複数の蓄電池の時間ごとの電圧値を記憶する電圧値記憶工程と、
前記電圧値記憶部に記憶した電圧値の中から最大電圧値と最小電圧値とを選択する電圧値選択工程と、
前記最大電圧値と前記最小電圧値に加える重みづけの条件を記憶する決定条件記憶工程と、
予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えてシステムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定工程と、
前記蓄電池を流れる電流とシステムセル電圧とに基づいて前記蓄電システム部のシステムSOCの推定を行うシステムSOC推定工程と、
を含むことを特徴とする内部状態推定方法。」

なお、本願発明2ないし本願発明9は、いずれも本願発明1の構成を全て含む。また、本願発明10は、本願発明1に係る内部状態推定システムの動作を方法の発明として表現したものである。

第3 原査定の概要
本願の請求項1ないし請求項10のそれぞれに係る発明は、後記の引用文献1に記載された発明と、例えば後記の引用文献2ないし引用文献5に記載された周知の事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2013-178202号公報
引用文献2:特開2001-153935号公報
引用文献3:特開2012-177588号公報
引用文献4:特表2013-513809号公報
引用文献5:特開平11-55865号公報

第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、充電率演算システムおよび充電率演算方法に関する。」

「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態における充電率演算システムの機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、充電率演算システム1は、温度センサ11と、電圧センサ12と、電流センサ13と、電池インピーダンスモデル部20と、推定開放電圧演算部31と、電圧起因推定充電率取得部(SOCV取得部)32と、誤差設定部41と、電池容量取得部42と、演算周期通知部43と、制限値設定部44と、充電率選択部51と、演算結果送信部52とを具備する。電池インピーダンスモデル部20は、推定インピーダンス管理部21と、推定インピーダンス電圧演算部22とを具備する。
【0013】
温度センサ11は、充電率演算対象の二次電池(以下、単に「二次電池」と称する)の電池容器の温度を測定し、測定結果の温度(を示す信号)を電池インピーダンスモデル部20と電圧起因推定充電率取得部32とに出力する。以下では、二次電池の電池容器の温度を「電池温度」と称する。
【0014】
電圧センサ12は、二次電池の両端電圧値を測定し、測定結果の電圧値(を示す信号)を推定開放電圧演算部31に出力する。
電流センサ13は、二次電池を流れる電流値(出力電流値または充電電流値)を測定し、測定結果の電流値(を示す信号)を電池インピーダンスモデル部20(推定インピーダンス電圧演算部22)と、制限値設定部44とに出力する。以下では、電流センサ13が測定した二次電池を流れる電流の値を「電池電流値」と称する。
【0015】
電池インピーダンスモデル部20は、充電率演算対象の二次電池のインピーダンスモデルにおけるインピーダンス電圧を求める。
推定インピーダンス管理部21は、電池温度および二次電池の充電率と、二次電池内部の推定インピーダンスとを対応付けて記録したデータテーブルであるインピーダンステーブルを、当該推定インピーダンス管理部21の有するメモリ内に複数記憶している。具体的には、推定インピーダンス管理部21は、所定温度ごとに(例えば、20℃、21℃、22℃など1℃毎に)インピーダンステーブルを備え、1つのインピーダンステーブルには、所定充電率ごとの(例えば、40%、45%、50%など5%毎の)推定インピーダンスの値を記憶している。」

「【0021】
推定インピーダンス電圧演算部22は、電流センサ13からの電池電流値と推定インピーダンス管理部21からの推定インピーダンス値とに基づいて、推定インピーダンス電圧値を算出して、推定開放電圧演算部31に出力する。具体的には、推定インピーダンス電圧演算部22は、電池電流値と推定インピーダンス値とを乗算することにより推定インピーダンス電圧値を算出する。
【0022】
推定開放電圧演算部31は、電圧センサ12からの二次電池の両端電圧値と、推定インピーダンス電圧演算部22からの推定インピーダンス電圧値とに基づいて、両端電圧値から推定インピーダンス電圧値を減算することにより、二次電池の推定開放電圧値を算出する。そして、推定開放電圧演算部31は、算出した推定開放電圧値を電圧起因推定充電率取得部32へ出力する。
【0023】
電圧起因推定充電率取得部32は、二次電池の推定開放電圧値に基づいて求められる充電率である電圧起因推定充電率を取得し、得られた電圧起因推定充電率を充電率選択部51へ出力する。
具体的には、電圧起因推定充電率取得部32は、電池温度および推定開放電圧値と、充電率とを対応付けて記録したデータテーブルである充電率テーブルを、当該電圧起因推定充電率取得部32の有するメモリ内に複数記憶している。さらに具体的には、電圧起因推定充電率取得部32は、所定温度ごとに(例えば、20℃、21℃、22℃など1℃毎に)充電率テーブルを備え、1つの充電率テーブルには、所定の推定開放電圧値VO[V]ごとの(例えば、5.0V、5.1V、5.2Vなど0.1V毎の)SOCV[%]の値をそれぞれについて記憶している。」

「【0029】
なお、複数のセルよりなる組電池では、二次電池の両端電圧値VA[V]が複数ある。例えば、セルがN個ある場合、充電率演算システム1は、セル電圧値VA1、VA2、・・・VAN[V]の最大セル電圧値VAMAX[A]、最小セル電圧値VAMIN[V]、平均セル電圧値VAVR=(VA1+VA2+・・・+VAN)/N[V]、中間セル電圧値VAMID=(VAMAX+VAMIN)/2[V]等のいずれかを、二次電池の両端電圧値として用いる。これにより、充電率演算システム1は組電池にも対応可能である。」

【図1】


(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の前記(1)の記載によれば、以下のことが認められる。

ア 引用文献1には、電圧センサ12を具備する充電率演算システム1が記載されている(【0012】、図1)。

イ 電圧センサ12は、二次電池の両端電圧値を測定し、測定結果の電圧値を推定開放電圧演算部31に出力する(【0014】)。

ウ 充電率演算システム1は、二次電池が複数(N個)のセルからなる組電池である場合にも対応可能であり、その場合は、組電池の各セルの両端電圧値の最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれかを二次電池の両端電圧値として用いる(【0029】)。
ここで、組電池の各セルの両端電圧値は、電圧センサ12で測定されると解されるから、組電池に対応可能な充電率演算システム1が具備する電圧センサ12は、組電池の各セルの両端電圧値を測定し、その最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれかが、二次電池の両端電圧値として推定開放電圧演算部31に出力されると認められる。

エ 以上のことを踏まえて、引用文献1の前記(1)の記載をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「電圧センサ12と、電流センサ13と、推定インピーダンス管理部21及び推定インピーダンス電圧演算部22を具備する電池インピーダンスモデル部20と、推定開放電圧演算部31と、電圧起因推定充電率取得部(SOCV取得部)32と、充電率選択部51とを具備し、複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池に対応可能な充電率演算システム1であって、
電圧センサ12は、複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池の各セルの両端電圧値を測定し、
その最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれかが、二次電池の両端電圧値として推定開放電圧演算部31に出力され、
電流センサ13は、二次電池を流れる電流値を測定し、測定結果の電流値である電池電流値を推定インピーダンス電圧演算部22に出力し、
推定インピーダンス電圧演算部22は、電流センサ13からの電池電流値と推定インピーダンス管理部21からの推定インピーダンス値とに基づいて、推定インピーダンス電圧値を算出して、推定開放電圧演算部31に出力し、
推定開放電圧演算部31は、電圧センサ12からの二次電池の両端電圧値と、推定インピーダンス電圧演算部22からの推定インピーダンス電圧値とに基づいて、二次電池の推定開放電圧値を算出して、電圧起因推定充電率取得部32へ出力し、
電圧起因推定充電率取得部32は、二次電池の推定開放電圧値に基づいて求められる充電率である電圧起因推定充電率を取得して、充電率選択部51へ出力する
充電率演算システム1。」

2 引用文献2
引用文献2(【0001】ないし【0005】、図1)には、複数の電池ユニットを内蔵する組電池は全ての電池ユニットの容量を正確に一致させることが難しいので、組電池の残存容量を複数の電池ユニットの残存容量の平均値で表示すると、最小容量ユニットが過放電され、最大容量ユニットが過充電されるおそれがあるが、この問題は、組電池の残存容量が満充電に近付くと、表示する組電池の残存容量を複数の電池ユニットの残存容量の平均値から最大容量ユニットの残存容量に切り替え、組電池の残存容量が0に近付くと、表示する組電池の残存容量を複数の電池ユニットの残存容量の平均値から最小容量ユニットの残存容量に切り替えることにより解消できるという技術事項が記載されている。

3 引用文献3
引用文献3(【0038】ないし【0044】、図4)には、複数のセル電池によって構成される組電池である二次電池の充電率推定装置において、各セル電池のSOC出力部106から出力されたSOC(充電率)のうち、最大値を示す最大SOCと最小値を示す最小SOCとを特定し、最大SOCと最小SOCの2入力に対して、通常運用域ではそれらの平均値を演算して充電率として出力し、通常運用域以外の過充電側では最大SOCの比重を高くした充電率を、過放電側では最小SOCの比重を高くした充電率を、それぞれ演算して出力するという技術事項が記載されている。

4 引用文献4
引用文献4(【0001】ないし【0009】、図3)には、複数の個別バッテリセルで構成されるバッテリパックの充電状態に関し、高い充電状態については個別バッテリセルの充電率の最大値を出力し、低い充電状態については個別バッテリセルの充電率の最小値を出力するとともに、重み関数を用いることにより、その出力を連続的なものにするという技術事項が記載されている。

5 引用文献5
引用文献5(【0008】、【0009】、【0038】)には、二次電池の電圧測定回路において、直列接続された複数個の二次電池の端子電圧のばらつきの影響をなくすために、通常は直列接続された複数個の二次電池のそれぞれの端子電圧の平均値を電池電圧の測定値とし、それぞれの端子電圧のうちの最大値がある程度以上大きい場合や、最小値がある程度以下に小さい場合は、それらの最大値または最小値を電池電圧の測定値とするという技術事項が記載されている。

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 引用発明の「セル」は、本願発明1の「蓄電池」に相当し、したがって、引用発明の「複数(N個)のセルよりなる組電池である二次電池」は、本願発明1の「複数の蓄電池からなる蓄電システム部」に相当する。

イ 引用発明の「充電率」は、明らかに「二次電池」の「充電率」であるから、前記アを踏まえると、本願発明1の「システムSOC」に相当し、したがって、引用発明において「二次電池の推定開放電圧値に基づいて求められる充電率である電圧起因推定充電率を取得」することは、本願発明1において「複数の蓄電池からなる蓄電システム部のシステムSOCの推定を行う」ことに相当する。

ウ 前記ア、イを踏まえると、引用発明の「複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池に対応可能な充電率演算システム1」は、本願発明1の「複数の蓄電池からなる蓄電システム部のシステムSOCの推定を行う内部状態推定システム」に相当する。

エ 引用発明の「電圧センサ12」は、「複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池の各セルの両端電圧値を測定」するから、前記アを踏まえると、本願発明1の「複数の前記蓄電池における電圧を測定する電圧測定部」に相当する。

オ 前記アを踏まえると、引用発明の「二次電池を流れる電流値」は、本願発明1の「複数の前記蓄電池を流れる電流」に相当する。

カ 前記オを踏まえると、引用発明の「電流センサ13」は、「二次電池を流れる電流値を測定」するから、本願発明1の「複数の前記蓄電池を流れる電流を測定する電流測定部」に相当する。

キ 引用発明の「二次電池の両端電圧値」は、本願発明1の「システムセル電圧」に相当する。

ク 引用発明は、「電圧センサ12」が「複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池の各セルの両端電圧値を測定し」、「その最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれかが、二次電池の両端電圧値として」「出力され」るから、「複数(N個)のセルからなる組電池である二次電池の各セルの両端電圧値」に基づいて「二次電池の両端電圧値」を決定する構成を備えるものと認められる。
引用発明のこの構成は、前記キを踏まえると、本願発明1の「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えてシステムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定部」と、「システムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定部」である点で共通する。

ケ 引用発明の「推定インピーダンス管理部21及び推定インピーダンス電圧演算部22を具備する電池インピーダンスモデル部20」、「推定開放電圧演算部31」及び「電圧起因推定充電率取得部(SOCV取得部)32」は、全体として、「二次電池の両端電圧値」と「二次電池を流れる電流値」とに基づいて「充電率である電圧起因推定充電率を取得」するから、前記オ、キを踏まえると、本願発明1の「前記蓄電池を流れる電流とシステムセル電圧とに基づいて前記蓄電システム部のシステムSOCの推定を行うシステムSOC推定部」に相当する。

(2)一致点及び相違点
前記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点
「複数の蓄電池からなる蓄電システム部のシステムSOCの推定を行う内部状態推定システムにおいて、
複数の前記蓄電池における電圧を測定する電圧測定部と、
複数の前記蓄電池を流れる電流を測定する電流測定部と、
システムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定部と、
前記蓄電池を流れる電流とシステムセル電圧とに基づいて前記蓄電システム部のシステムSOCの推定を行うシステムSOC推定部と、
を備えることを特徴とする内部状態推定システム。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1は、「前記電圧測定部で測定した複数の蓄電池の時間ごとの電圧値を記憶する電圧値記憶部」を備えるのに対し、
引用発明は、このような「電圧値記憶部」を備えない点。

(イ)相違点2
本願発明1は、「前記電圧値記憶部に記憶した電圧値の中から最大電圧値と最小電圧値とを選択する電圧値選択部」を備えるのに対し、
引用発明は、このような「電圧値選択部」を備えない点。

(ウ)相違点3
本願発明1は、「前記最大電圧値と前記最小電圧値に加える重みづけの条件を記憶する決定条件記憶部」を備えるのに対し、
引用発明は、このような「決定条件記憶部」を備えない点。

(エ)相違点4
本願発明1は、「システムセル電圧決定部」が「システムセル電圧」を「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えて」「決定する」のに対し、
引用発明は、「電圧センサ12」(本願発明1の「システムセル電圧決定部」に相当する。)が「二次電池の両端電圧値」(本願発明1の「システムセル電圧」に相当する。)を「二次電池の各セルの両端電圧値」の「最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれか」とする点。

(3)相違点4についての判断
事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
引用文献1には、「二次電池の両端電圧値」を「二次電池の各セルの両端電圧値」の「最大セル電圧値、最小セル電圧値、平均セル電圧値、中間セル電圧値のいずれか」とすることが記載されているだけで、「二次電池の両端電圧値」を本願発明1のように「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えて」「決定する」ことは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献2ないし引用文献5にも、引用発明の「二次電池の両端電圧値」を「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えて」「決定する」ことは、記載も示唆もされていない。
したがって、相違点4に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献1ないし引用文献5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

(4)本願発明1についてのまとめ
前記(3)のとおり、相違点4に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献1ないし引用文献5に記載された事項に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、相違点1ないし相違点3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1に記載された発明と、例えば引用文献2ないし引用文献5に記載された周知の事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 本願発明2ないし本願発明9について
本願発明2ないし本願発明9は、いずれも本願発明1の構成を全て含むから、少なくとも本願発明1と引用発明との相違点1ないし相違点4(前記1(2)イ(ア)ないし(エ))で引用発明と相違する。
そして、前記1(3)のとおり、相違点4に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献1ないし引用文献5に記載された事項に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、相違点4に係る本願発明2ないし本願発明9の構成も同様である。
したがって、本願発明2ないし本願発明9は、いずれも、引用文献1に記載された発明と、例えば引用文献2ないし引用文献5に記載された周知の事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 本願発明10について
本願発明10は、本願発明1に係る内部状態推定システムの動作を方法の発明として表現したものであるから、相違点4に係る本願発明1の構成に対応する構成、すなわち、「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えてシステムセル電圧を決定するシステムセル電圧決定工程」を備える。
そして、前記1(3)のとおり、相違点4に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献1ないし引用文献5に記載された事項に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、これに対応する本願発明10の構成も同様である。
したがって、本願発明10は、引用文献1に記載された発明と、例えば引用文献2ないし引用文献5に記載された周知の事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 原査定について
原査定は、引用文献1(【0029】)には二次電池の両端電圧値を中間セル電圧値とすることが記載されているから、最大電圧値と最小電圧値とに重み付けを加えることの示唆はあるし、また、電圧と残存容量との間に対応関係があることは周知の事項であるから、最大電圧値と最小電圧値とに対し、周知の重み付けを適用することは、当業者であれば格別困難なことではないと判断した。
しかし、前記第5の1(3)のとおり、引用発明の「二次電池の両端電圧値」を「予め算出した前記蓄電システム部のシステムSOCに応じて前記最大電圧値と前記最小電圧値に前記重みづけを加えて」「決定する」ことは、引用文献1ないし引用文献5に記載も示唆もされていない。
したがって、原査定の理由は、維持することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願は拒絶をするべきものであるということはできない。
また、他に、本願は拒絶をするべきものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-21 
出願番号 特願2015-545559(P2015-545559)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
小林 紀史
発明の名称 内部状態推定システム、及びその推定方法  
代理人 木内 光春  
代理人 木内 光春  

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