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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1340470
審判番号 不服2017-14341  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-27 
確定日 2018-06-05 
事件の表示 特願2014-257651「ハイブリッド車両」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月30日出願公開、特開2016-117376、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月19日の出願であって、平成28年12月27日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月7日付けで手続補正がされ、平成29年6月20日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成29年6月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用例1ないし7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例等一覧
1.国際公開第2013/088509号
2.国際公開第2011/030444号
3.特開2010-143361号公報
4.特開2010-241380号公報
5.特開2011-166995号公報
6.特開2010-42700号公報
7.特許第5352745号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし3に係る発明は、平成29年9月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定された以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)。

「【請求項1】
内燃機関と、
蓄電装置と、
前記蓄電装置から電力の供給を受けて走行駆動力を発生する電動機と、
前記蓄電装置のSOC(State Of Charge)を消費するCD(Charge Depleting)モード及び前記蓄電装置のSOCを維持するCS(Charge Sustaining)モードのいずれかを選択し、前記CDモード及び前記CSモードの各々において、走行状況に応じて、前記内燃機関を停止して前記電動機により走行する第1の走行モードと、前記内燃機関を作動させて走行する第2の走行モードとを切替えて走行するための制御装置と、
燃費の低減よりも車両の加速性又は応答性を優先した走行を実現する駆動優先モードを選択するための入力装置とを備え、
前記CDモードが選択されているときの、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへ切替わるパワーのしきい値は、前記CSモードが選択されているときの前記しきい値よりも大きく、
前記制御装置は、前記CDモードが選択されているときは、前記CSモードが選択されているときよりも、同一の車速及び同一のアクセル開度に対する車両駆動トルクが大きくなるように、前記CDモードと前記CSモードとで車両の駆動力特性を変更し、
前記CDモードが選択されている場合に、前記駆動優先モードが選択されているときは、前記駆動優先モードの非選択時よりも、同一の車速及び同一のアクセル開度に対する車両駆動トルクが大きくなり、かつ、アクセル操作に対する車両応答性が高くなるように、前記駆動優先モードの選択時と前記駆動優先モードの非選択時とで車両の駆動力特性をさらに変更する、ハイブリッド車両。」

本願の特許請求の範囲における請求項2及び3は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。


第4 引用例、引用発明等
1.引用例1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(国際公開第2013/088509号)には、図面(特に、図1、図2参照)とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)

(1)引用例1の記載事項
1a)「[0027]以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の1つの実施形態(以下「第1実施形態」)の制御装置が適用されたハイブリッドシステムを搭載した車両が図1に示されている。第1実施形態のハイブリッドシステム10は、少なくとも、内燃機関11、電動機12、アクセルペダル13、アクセルペダル操作量センサ14、車速センサ15、および、電子制御装置(ECU)16を具備する。内燃機関11は、燃料の燃焼によって運転せしめられて動力を出力し、この内燃機関11としては、たとえば、火花点火式の内燃機関(いわゆるガソリンエンジン)、または、圧縮自着火式の内燃機関(いわゆるディーゼルエンジン)を採用することができる。電動機12は、電力によって駆動せしめられて動力を出力する。なお、電動機12は、そこに動力が入力されたときにその入力された動力によって発電する発電機としても機能する。
[0028]第1実施形態のハイブリッドシステム10は、内燃機関11の運転によって同内燃機関から出力される動力と電動機12の駆動によって同電動機から出力される動力とを選択的に或いは同時に出力可能であり、内燃機関11の運転を停止させて電動機12を駆動させるモード(以下このモードを「EVモード」という)と電動機12を駆動させつつ内燃機関11の運転の実行とその停止とを選択的に行うモード(以下このモードを「HVモード」という)とを所定の切替条件に従って切り替えることによってこれらモードを併用する2つのモードを選択的に実行する。つまり、これらモードのうち一方のモードが選択されたときには、当該モード用の所定の切替条件に従ってEVモードとHVモードとが切り替えられ、他方のモードが選択されたときには、当該モード用の所定の切替条件に従ってEVモードとHVモードとが切り替えられる。ここで、第1実施形態では、これらモードのうち一方のモードの全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が他方のモードの全期間に占める内燃機関の運転期間の割合よりも小さくなるように、上記一方のモード用の所定の切替条件および上記他方のモード用の所定の切替条件が設定される。
[0029]なお、以下の説明では、上記一方のモード(すなわち、当該モードの全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的小さいモード)を「低割合モード」と称し、上記他方のモード(すなわち、当該モードの全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的大きいモード)を「高割合モード」と称する。
[0030]また、上記所定の切替条件とは、たとえば、バッテリ蓄電量(すなわち、電動機に電力を供給するバッテリに蓄電されている電力の量)、アクセルペダル操作量、車速(すなわち、車両の速度)、要求動力(すなわち、ハイブリッドシステムから出力される動力として要求される動力)、車両の空調設備からの要求などに関する条件を採用可能である。
[0031]第1実施形態では、高割合モードが選択された場合であっても、低割合モードが選択された場合であっても、電動機12が駆動されつつ内燃機関11の運転が実行されるときには、電動機12から出力される動力と内燃機関11から出力される動力とがハイブリッドシステム10から同時に出力され、電動機12が駆動されつつ内燃機関11の運転が停止されているときには、電動機12から出力される動力がハイブリッドシステム10から出力される。」

1b)「[0033]アクセルペダル操作量センサ14は、アクセルペダル操作量(すなわち、アクセルペダル13の操作量)に対応する出力値を出力する。アクセルペダル操作量センサ14から出力された出力値は、電子制御装置16に入力される。電子制御装置16は、アクセルペダル操作量センサ14から入力された出力値に基づいて要求トルクを算出する。なお、要求トルクとは「ハイブリッドシステムから出力されるトルクとして要求されるトルク」を意味する。
[0034]車速センサ15は、車速(すなわち、車両の速度)に対応する出力値を出力する。車速センサ15から出力された出力値は、電子制御装置16に入力される。電子制御装置16は、車速センサ15から入力された出力値に基づいて車速を算出する。」
[0035]そして、電子制御装置16は、上記算出された要求トルクと上記算出された車速とに基づいて要求ハイブリッドシステム動力値を算出する。なお、要求ハイブリッドシステム動力値とは「ハイブリッドシステムから出力される動力として要求される動力の値」を意味する。
[0036]そして、電子制御装置16は、高割合モードが選択されている場合であっても、低割合モードが選択されている場合であっても、電動機12から出力される動力と内燃機関11から出力される動力とによって要求ハイブリッドシステム動力値の動力がハイブリッドシステム10から出力されるように電動機12の駆動および内燃機関11の運転を制御する。
[0037]次に、第1実施形態のハイブリッドシステム動力制御(すなわち、ハイブリッドシステムから出力される動力の制御)について説明する。なお、以下の説明において「ハイブリッドシステム動力」は「ハイブリッドシステムから出力される動力」を意味し、「ハイブリッドシステム動力の増加分」は「実際のアクセルペダル操作量の増加分に対するハイブリッドシステム動力の増加分」を意味する。
[0038]第1実施形態では、低割合モードが選択されている場合、実際のアクセルペダル操作量が予め定められた操作量(以下この操作量を「所定低操作量」という)よりも小さいときには、ハイブリッドシステム動力の増加分が高割合モードが選択されている場合のハイブリッドシステム動力の増加分よりも大きくされる。
[0039]第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。すなわち、第1実施形態では、低割合モード選択時(すなわち、低割合モードが選択されているとき)において実際のアクセルペダル操作量が比較的小さい領域(すなわち、実際のアクセルペダル操作量が所定低操作量よりも小さい領域であって、以下この領域を「低アクセルペダル操作量領域」という)にあるときには、ハイブリッドシステム動力の増加分が高割合モード選択時(すなわち、高割合モードが選択されているとき)の低アクセルペダル操作量領域のハイブリッドシステム動力の増加分よりも大きくされる。したがって、低割合モード選択時に実際のアクセルペダル操作量が比較的小さい範囲(すなわち、上記所定低操作量よりも小さい範囲)で増大された場合、高割合モード選択時に同じく実際のアクセルペダル操作量が増大された場合に比べて、ハイブリッドシステム動力が大きく増加する。このため、第1実施形態によれば、低割合モード選択時の低アクセルペダル操作量領域において、電動機に特有のトルク感を得ることができるという効果が得られる。」

1c)「[0041]なお、第1実施形態において、低割合モードが選択されている場合、実際のアクセルペダル操作量が上記所定低操作量よりも小さいときに、ハイブリッドシステム動力の増加分が高割合モードが選択されている場合のハイブリッドシステム動力の増加分よりも大きくされ且つハイブリッドシステム動力が高割合モードが選択されているときのハイブリッドシステム動力よりも大きくされてもよい。
[0042]この場合、実際のアクセルペダル操作量とハイブリッドシステム動力との関係は、図2に示されている関係になる。なお、図2において、横軸は実際のアクセルペダル操作量であり、縦軸はハイブリッドシステム動力であり、ラインLsrは低割合モードが選択されている場合の実際のアクセルペダル操作量とハイブリッドシステム動力との関係を示すラインであり、ラインLlrは高割合モードが選択されている場合の実際のアクセルペダル操作量とハイブリッドシステム動力との関係を示すラインであり、アクセル操作量AP1は上記所定低操作量であり、ハイブリッドシステム動力Psr1は低割合モードが選択されている場合において実際のアクセルペダル操作量が上記所定低操作量AP1であるときのハイブリッドシステム動力であり、ハイブリッドシステム動力Plr1は高割合モードが選択されている場合において実際のアクセルペダル操作量が上記所定低操作量AP1であるときのハイブリッドシステム動力である。」

1d)「[0082]また、上述した実施形態において、低割合モードと高割合モードとを選択的に実行するのに加えて、ノーマルモードとパワーモードとエコモードとを選択的に実行するようにしてもよい。この場合、たとえば、低割合モードが選択され且つノーマルモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った低割合モード選択時のハイブリッドシステム動力と等しい動力がハイブリッドシステムから出力され、低割合モードが選択され且つパワーモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った低割合モード選択時のハイブリッドシステム動力よりも大きい動力がハイブリッドシステムから出力され、低割合モードが選択され且つエコモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った低割合モード選択時のハイブリッドシステム動力よりも小さい動力がハイブリッドシステムから出力される。また、たとえば、高割合モードが選択され且つノーマルモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った高割合モード選択時のハイブリッドシステム動力と等しい動力がハイブリッドシステムから出力され、高割合モードが選択され且つパワーモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った高割合モード選択時のハイブリッドシステム動力よりも大きな動力がハイブリッドシステムから出力され、高割合モードが選択され且つエコモードが選択されているときには、上述した実施形態に従った高割合モード選択時のハイブリッドシステム動力よりも小さい動力がハイブリッドシステムから出力される。」

(2)引用発明
上記記載事項及び図1及び図2の記載から見て引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内燃機関11と、
バッテリと、
前記蓄電装置から電力の供給を受けて走行駆動力を発生する電動機12と、
全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的小さい低割合モード及び全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的大きい高割合モードのいずれかを選択し、前記低割合モード及び前記高割合モードの各々において、走行状況に応じて、前記内燃機関を停止して前記電動機により走行するEVモードと、前記内燃機関を作動させて走行するHVモードとを切替えて走行するための電子制御装置16と、
パワーモードの選択を可能とする手段、を備え、
前記電子制御装置16は、前記低割合モードが選択されているときは、前記高割合モードが選択されているときよりも、実際のアクセルペダル操作量が比較的小さい領域にあるときのハイブリッドシステム動力が大きくされ、
前記低割合モードが選択されている場合に、前記パワーモードが選択されているときは、前記パワーモードの非選択時よりも、大きい動力がハイブリッドシステムから出力される、ハイブリッド車両。」

2.引用例2について
(1)引用例2の記載事項
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(国際公開第2011/030444号)には、図面(特に、図1及び図6参照)とともに、次の事項が記載されている。

2a)「[0020]図1を参照して、プラグインハイブリッド車には、エンジン100と、第1MG(Motor Generator)110と、第2MG120と、動力分割機構130と、減速機140と、バッテリ150とが搭載される。なお、以下の説明においては一例としてプラグインハイブリッド車について説明するが、プラグインハイブリッド車の代わりに、外部の電源からの充電機能を有さないハイブリッド車を用いてもよい。
[0021]エンジン100、第1MG110、第2MG120、バッテリ150は、ECU(Electronic Control Unit)170により制御される。ECU170は複数のECUに分割するようにしてもよい。
[0022]この車両は、エンジン100および第2MG120のうちの少なくともいずれか一方からの駆動力により走行する。すなわち、エンジン100および第2MG120のうちのいずれか一方もしくは両方が、運転状態に応じて駆動源として自動的に選択される。
[0023]たとえばアクセル開度が小さい場合および車速が低い場合などには、第2MG120のみを駆動源としてプラグインハイブリッド車が走行する。この場合、エンジン100が停止される。ただし、発電などのためにエンジン100が駆動する場合がある。
[0024]また、アクセル開度が大きい場合、車速が高い場合、バッテリ150の残存容量(SOC:State Of Charge)が小さい場合などには、エンジン100が駆動される。この場合、エンジン100のみ、もしくはエンジン100および第2MG120の両方を駆動源としてプラグインハイブリッド車が走行する。
[0025]さらに、この車両は、CS(Charge Sustaining)モードとCD(Charge Depleting)モードとをたとえば自動で切替えて走行する。なお、CSモードとCDモードとを手動で切替えるようにしてもよい。
[0026]CSモードでは、バッテリ150に蓄えられた電力を所定の目標値に維持しながら、プラグインハイブリッド車が走行する。
[0027]CDモードでは、走行用としてバッテリ150に蓄えられた電力を維持せず、電力を用いて、主に第2MG120の駆動力のみでプラグインハイブリッド車が走行する。ただし、CDモードでは、アクセル開度が高い場合および車速が高い場合などには、駆動力を補うためにエンジン100が駆動され得る。」

2b)「[0077]CSモードおよびCDモードでは、エンジン100および第2MG120のうちの少なくともいずれか一方からの駆動力によりプラグインハイブリッド車が走行する。
[0078]図6に示すように、プラグインハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値より小さいと、第2MG120の駆動力のみを用いてプラグインハイブリッド車が走行する。
[0079]一方、プラグインハイブリッド車の走行パワーがエンジン始動しきい値以上になると、エンジン100が駆動される。これにより、第2MG120の駆動力に加えて、もしくは代わりに、エンジン100の駆動力を用いてプラグインハイブリッド車が走行する。また、エンジン100の駆動力を用いて第1MG110が発電した電力が第2MG120に直接供給される。
[0080]図6から明らかなように、CSモードでプラグインハイブリッド車が制御される領域は、エンジン100が停止される領域と、エンジン100が駆動される領域とを含む。同様に、CDモードでプラグインハイブリッド車が制御される領域は、エンジン100が停止される領域と、エンジン100が駆動される領域とを含む。
[0081]走行パワーは、たとえば、ドライバにより操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)および車速などをパラメータに有するマップに従ってECU170により算出される。なお、走行パワーを算出する方法はこれに限らない。
[0082]本実施の形態において、走行パワーが、ドライバの操作に応じて定められるプラグインハイブリッド車のパラメータとして用いられる。なお、トルク、加速度、駆動力およびアクセル開度などをプラグインハイブリッド車のパラメータとして用いるようにしてもよい。
[0083]CDモードにおけるエンジン始動しきい値は、CSモードにおけるエンジン始動しきい値よりも大きい。すなわち、CDモードにおいてエンジン100が停止し、第2MG120の駆動力のみでプラグインハイブリッド車が走行する領域は、CSモードにおいてエンジン100が停止し、第2MG120の駆動力のみでプラグインハイブリッド車が走行する領域よりも大きい。よって、CDモードでは、エンジン100を停止し、主に第2MG120の駆動力のみでプラグインハイブリッド車が走行するように制御される。一方、CSモードにおいてエンジン100が駆動する頻度は、CDモードにおいてエンジン100が駆動する頻度よりも高い。そのため、CSモードでは、エンジン100および第2MG120の両方を用いて効率よくプラグインハイブリッド車が走行するように制御される。
[0084]以下、CSモードにおけるエンジン始動しきい値を第1エンジン始動パワーとも記載する。CDモードにおけるエンジン始動しきい値を第2エンジン始動パワーとも記載する。
[0085]CDモードにおいてバッテリ150に充電される電力は、CSモードにおいてバッテリ150に充電される電力に比べて小さくされる。具体的には、CSモードでは、バッテリ150の充電電力がバッテリ150のSOCに応じて定められる。エンジン100は、定められた充電電力に相当する電力を、第1MG110を用いて発電できるように駆動される。一方、CDモードでは、通常、バッテリ150の充電電力が零に定められる。すなわち、CDモードでは、回生制動により得られた電力はバッテリ150に充電されるが、バッテリ150を充電することを目的としたエンジン100の駆動は行なわれない。
[0086]したがって、CDモードでは、バッテリ150に蓄えられた電力、特に、プラグインハイブリッド車の外部の電源402から供給された電力が積極的に消費される。」

2.引用例2技術
上記記載事項及び図6の記載から見て、引用例2には次の技術(以下、「引用例2技術」という。)が記載されていると認められる。
「エンジン100と、
バッテリ150と、
前記バッテリ150から電力の供給を受けて走行駆動力を発生する第2MG120と、
前記バッテリ150に蓄えられた電力を消費するCD(Charge Depleting)モード及び前記バッテリ150に蓄えられた電力を所定の目標値に維持するCS(Charge Sustaining)モードのいずれかを選択し、前記CDモード及び前記CSモードの各々において、走行状況に応じて、前記エンジン100を停止して前記第2MG120により走行する領域と、前記エンジン100を作動させて走行する領域とを切替えて走行するためのECU170と、を備えたハイブリッド車両において、
前記CDモードが選択されているときの、前記エンジン100を停止して前記第2MG120により走行する領域から、前記エンジン100を作動させて走行する領域へ切替わる走行パワーのエンジン始動しきい値は、前記CSモードが選択されているときの走行パワーのエンジン始動しきい値よりも大きくする技術。」

3.その他の文献について

(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用例3(特開2010-143361号公報)には、目標駆動力マップを用いて、アクセル開度および車速から、車両の目標駆動力を演算することが記載されている(段落【0033】及び図4)。

(2)原査定の拒絶の理由に引用された引用例4(特開2010-241380号公報)には、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を要求トルク設定用マップとして予め定めておくことが記載されている(段落【0029】及び図4)。

(3)原査定の拒絶の理由に引用された引用例5(特開2011-166995号公報)には、パワーモードを選択するためのパワースイッチを設けること、及び、同一の制御アクセル開度Acc*においては、車速の増加に応じて要求トルクTr*が低下するように、車速と要求トルクの関係を定めることが記載されている(段落【0023】、【0034】及び図7)。

(4)原査定の拒絶の理由に引用された引用例6(特開2010-42700号公報)には、パワーモードを選択するためのパワースイッチを設けること、及び、パワーモードが選択されているときには、制御用アクセル開度としてアクセル開度よりも大きな値が設定され、ノーマルモードが選択されたときに比べて要求トルクが若干大きくなることが記載されている(段落【0018】、【0022】、図1及び図3)。

(5)原査定の拒絶の理由に引用された引用例7(特許第5352745号公報)には、スポーツモードを選択するための選択操作部材を設けることが記載されている(段落【0019】及び図4)。


第5 対比・判断
1.本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「内燃機関11」は、その機能、構成及び技術的意義から本願発明1の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「バッテリ」は「蓄電装置」に、「電動機12」は「電動機」に、「EVモード」は「第1の走行モード」に、「HVモード」は「第2の走行モード」に、「電子制御装置16」は「制御装置」に、「選択を可能とする手段」は「選択するための入力装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的小さい低割合モード」と本願発明1の「蓄電装置のSOC(State Of Charge)を消費するCD(Charge Depleting)モード」とは、「一方のモード」という限りで一致し、以下同様に、「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的大きい高割合モード」と「蓄電装置のSOCを維持するCS(Charge Sustaining)モード」とは、「他方のモード」という限りで一致し、「パワーモード」と「燃費の低減よりも車両の加速性又は応答性を優先した走行を実現する駆動優先モード」とは、「大出力モード」という限りで一致する。
したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「内燃機関と、
蓄電装置と、
前記蓄電装置から電力の供給を受けて走行駆動力を発生する電動機と、
一方のモード及び他方のモードのいずれかを選択し、前記一方のモード及び前記他方のモードの各々において、走行状況に応じて、前記内燃機関を停止して前記電動機により走行する第1の走行モードと、前記内燃機関を作動させて走行する第2の走行モードとを切替えて走行するための制御装置と、
大出力モードを選択するための入力装置、とを備えた、ハイブリッド車両」

[相違点1]
本願発明1においては「一方のモード」が「蓄電装置のSOC(State Of Charge)を消費するCD(Charge Depleting)モード」であり、「他方のモード」が「蓄電装置のSOCを維持するCS(Charge Sustaining)モード」であるとともに、「CDモードが選択されているときの、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへ切替わるパワーのしきい値は、前記CSモードが選択されているときの前記しきい値よりも大きく」するのに対して、引用発明においては「一方のモード」が「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的小さい低割合モード」であり、「他方のモード」が「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合が比較的大きい高割合モード」であるとともに、「低割合モードが選択されているときの、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへ切替わるパワーのしきい値は、前記高割合が選択されているときの前記しきい値よりも大きく」するものか不明な点。

[相違点2]
「大出力モード」が本願発明1においては「燃費の低減よりも車両の加速性又は応答性を優先した走行を実現する駆動優先モード」であるのに対して、引用発明においては「パワーモード」が「燃費の低減よりも車両の加速性又は応答性を優先した走行を実現」するものか不明な点。

[相違点3]
本願発明1においては「CDモードが選択されているときは、前記CSモードが選択されているときよりも、同一の車速及び同一のアクセル開度に対する車両駆動トルクが大きくなるように、前記CDモードと前記CSモードとで車両の駆動力特性を変更」するのに対して、引用発明においては「低割合モードが選択されているときは、前記高割合モードが選択されているときよりも、実際のアクセルペダル操作量が比較的小さい領域にあるときのハイブリッドシステム動力が大きく」する点。

[相違点4]
本願発明1においては「CDモードが選択されている場合に、前記駆動優先モードが選択されているときは、前記駆動優先モードの非選択時よりも、同一の車速及び同一のアクセル開度に対する車両駆動トルクが大きくなり、かつ、アクセル操作に対する車両応答性が高くなるように、前記駆動優先モードの選択時と前記駆動優先モードの非選択時とで車両の駆動力特性をさらに変更する」のに対して、引用発明においては「低割合モードが選択されている場合に、前記パワーモードが選択されているときは、前記パワーモードの非選択時よりも大きい動力がハイブリッドシステムから出力される」点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用例2技術は「エンジン100と、
バッテリ150と、
前記バッテリ150から電力の供給を受けて走行駆動力を発生する第2MG120と、
前記バッテリ150に蓄えられた電力を消費するCD(Charge Depleting)モード及び前記バッテリ150に蓄えられた電力を所定の目標値に維持するCS(Charge Sustaining)モードのいずれかを選択し、前記CDモード及び前記CSモードの各々において、走行状況に応じて、前記エンジン100を停止して前記第2MG120により走行する領域と、前記エンジン100を作動させて走行する領域とを切替えて走行するためのECU170と、を備えたハイブリッド車両において、
前記CDモードが選択されているときの、前記エンジン100を停止して前記第2MG120により走行する領域から、前記エンジン100を作動させて走行する領域へ切替わる走行パワーのエンジン始動しきい値は、前記CSモードが選択されているときの走行パワーのエンジン始動しきい値よりも大きくする技術。」である。
そして、引用発明の「低割合モード」及び「高割合モード」は、引用例1の段落[0028]ないし段落[0030]によれば、「所定の切替条件」によって、「低割合モード」の方が「高割合モード」のよりも、「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合」が小さくなるように、「内燃機関11の運転を停止させて電動機12を駆動させるモード」と「電動機12を駆動させつつ内燃機関11の運転の実行とその停止とを選択的に行うモード」とを切り替えるものであって、「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合」という観点から定められるものである。
一方、引用例2技術の「CDモード」及び「CSモード」は、蓄電装置のSOCを消費するか維持するかという観点から定められるものである。
したがって、結果的に引用例2技術の「CDモード」が「CSモード」よりも「全期間に占める内燃機関の運転期間の割合」が小さくなり、この場合に、引用発明の「低割合モード」、「高割合モード」と共通するとしても、引用発明の「低割合モード」及び「高割合モード」はSOCの消費や維持については明らかでないことから、引用発明における「低割合モード」及び「高割合モード」を、引用例2技術の「CDモード」及び「CSモード」に相当するとみることはできない。
さらに、引用発明の「低割合モード」及び「高割合モード」を、引用例2技術の「CDモード」及び「CSモード」に置き換えて適用する動機付けも見出せない。
そうすると、引用発明に、引用例2技術を適用し、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることはできないものである。
また、引用例3ないし7を検討しても、上記相違点1に係る本願発明1の構成を開示ないし示唆する記載は見当たらない。
したがって、本願発明1は、上記相違点2ないし4について検討するまでもなく、引用発明、引用例2技術及び引用例3ないし7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明2及び3について
本願の特許請求の範囲における請求項2及び3は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく直接又は間接的に引用して記載されたものであるから、本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2及び3は、本願発明1と同様の理由により、引用発明、引用例2技術及び引用例3ないし7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 原査定について
本願発明1ないし3は、「蓄電装置のSOC(State Of Charge)を消費するCD(Charge Depleting)モード及び前記蓄電装置のSOCを維持するCS(Charge Sustaining)モードのいずれかを選択し、前記CDモード及び前記CSモードの各々において、走行状況に応じて、前記内燃機関を停止して前記電動機により走行する第1の走行モードと、前記内燃機関を作動させて走行する第2の走行モードとを切替えて走行する」、「前記CDモードが選択されているときの、前記第1の走行モードから前記第2の走行モードへ切替わるパワーのしきい値は、前記CSモードが選択されているときの前記しきい値よりも大きく」するという発明特定事項を有するものであるから、上記「第5」で検討したとおり、当業者であっても原査定で引用された引用例に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-21 
出願番号 特願2014-257651(P2014-257651)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 鈴木 充
水野 治彦
発明の名称 ハイブリッド車両  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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