• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1340480
審判番号 不服2017-11173  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-27 
確定日 2018-06-05 
事件の表示 特願2015-106495「電子的支払システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月15日出願公開、特開2015-181037、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2009年4月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年4月24日、米国)を国際出願日とする出願(特願2011-506355号)の一部を平成25年6月17日に新たな特許出願(特願2013-126448号)としたものの一部を平成27年5月26日に更に新たな特許出願とするものであって、平成28年8月4日付けの拒絶理由通知に応答して、平成28年12月21日付けで意見書、手続補正書が提出されたが、平成29年3月17日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成29年7月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正書が提出されたものである。

2.原査定の概要
原査定(平成29年3月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
●理由1(特許法第29条第2項)について

・請求項 1?15
・引用文献等 1?4
出願人は、補正書を提出するとともに意見書において、
「補正後の請求項1の特徴は、前述の構成要件(e)である「NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、金融データに関係する命令を、移動体ワイヤレス手段から、NFC可能なポイントオブセールデバイスに送ること」です。このような補正後の請求項1の特徴は、引用文献1には、開示されていません。
引用文献1には、レジにおいてクレジットカードの認証を行うこと、携帯電話を使用して暗証番号を入力し、そのデータをレジに送信するという事項が開示されています。このような引用文献1の事項は、暗証番号をレジに送信することで、レジにおいてクレジットカードの認証を開始するための処理を意味しています。一方、補正後の請求項1の特徴は、「NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、金融データに関係する命令を、移動体ワイヤレス手段から、NFC可能なポイントオブセールデバイスに送ること」という事項であり、引用文献1に開示されている事項とは異なります。
また、引用文献2,3のいずれにも、補正後の請求項1の特徴である前述の構成要件(e)については開示されていません。従って、補正後の請求項1は、引用文献1?3及びそれらの組み合わせから、当業者が容易に想到できるものではなく、進歩性を備えているものと思料致します。
なお、補正後の請求項2-15についても、補正後の請求項1と同様の構成を備えていますから、同様に進歩性を備えているものと思料致します。」
旨、主張している。
しかしながら、
先に通知した引用文献1には、携帯電話1とレジ3とが、Buletooth等により無線通信(本願の「NFC」に対応する。)すること、レジ3において、携帯電話1とレジ3間で通信して、クレジット会社4のカード情報(個人情報)を送信し。次に、レジ3において、情報の確認作業又はクレジット会社4と専用回線でクレジットカードの認証を行い、最後に、携帯電話1を使用して暗証番号を入力し、そのデータをレジ3に送信することが記載されている(特に、段落[0021]、[0025]を参照されたい。)ことから、取引の認証を開始するために、最後に暗証番号をレジ3に送信していて、暗証番号をレジ3に送信することは、支払等金融取引の認証を開始するための命令になっているものと認められる。また、レジ端末として、ポイントオブセールデバイスを用いることは、例えば、新たに通知する引用文献4(例えば、段落[0032]を参照されたい。)等に記載されているように周知事項であるから、NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、金融データに関係する命令を、移動体ワイヤレス手段から、NFC可能なポイントオブセールデバイスに送る」という構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
よって、請求項1?15に係る発明は、引用文献1?3に記載された発明及び引用文献4に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


<引用文献等一覧>
1.特開2002-279320号公報
2.国際公開第2007/149775号
3.特表2001-527258号公報
4.特開2007-65973号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

3.審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

審判請求時の補正は、平成28年12月21日付けの手続補正書に記載された請求項5,10,15(以下、「旧請求項5,10,15」という。)の構成を請求項1,6,11に追加したものであり、旧請求項5,10,15の削除にあたる。
また、審判請求時の請求項1を引用する請求項2?4、審判請求時の請求項5を引用する請求項6?8、審判請求時の請求項9を引用する10?12については、「移動体ワイヤレス手段」に対する限定的減縮にあたる。
そして、「4.本願発明」から「6.対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?12に係る発明は、独立特許要件を満たすものであり、却下できるものではない。

4.本願発明
本願請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明12」という。)は、平成29年7月27日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
近接フィールド通信(NFC)可能なポイントオブセールデバイスを使用して金融取引を実行する、コンピュータにより実現される方法において、
移動体ワイヤレス手段において、NFC可能な支払手段から金融データを受け取ることと、
前記移動体ワイヤレス手段の記憶媒体において、前記金融データを記憶することと、
前記移動体ワイヤレス手段において、前記金融データの有効性確認を実行することと、
前記移動体ワイヤレス手段と前記NFC可能なポイントオブセールデバイスとの間に通信リンクを確立することと、
前記NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、前記金融データに関係する命令を、前記移動体ワイヤレス手段から、前記NFC可能なポイントオブセールデバイスに送ることと
を含む、コンピュータにより実現される方法。
【請求項2】
前記移動体ワイヤレス手段において、前記NFC可能な支払手段から暗号化された金融データを受け取ることと、
前記移動体ワイヤレス手段において、暗号化キーをサーバから受信することと、
前記移動体ワイヤレス手段において、前記受信された暗号化キーを適用することによって、前記暗号化された金融データを復号化することと
を含む、請求項1記載のコンピュータにより実現される方法。
【請求項3】
前記移動体ワイヤレス手段において、前記金融取引が完了した後、前記暗号化キーを消去することをさらに含む、請求項2記載のコンピュータにより実現される方法。
【請求項4】
前記移動体ワイヤレス手段は、セルラ電話機を含む、請求項1記載のコンピュータにより実現される方法。
【請求項5】
近接フィールド通信(NFC)可能なポイントオブセールデバイスを使用して金融取引を実行する、移動体支払デバイスにおいて、
1つ以上のメモリデバイスと、
前記1つ以上のメモリデバイスに結合された1つ以上のプロセッサとを具備し、前記1つ以上のプロセッサと前記1つ以上のメモリデバイスは、
NFC可能な支払手段から金融データを受け取り、
前記1つ以上のメモリデバイスのうちの少なくとも1つにおいて、前記金融データを記憶し、
前記金融データの有効性確認を実行し、
前記NFC可能なポイントオブセールデバイスとの間に通信リンクを確立し、
前記NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、前記金融データに関係する命令を前記NFC可能なポイントオブセールデバイスに送るように構成されている、移動体支払デバイス。
【請求項6】
前記1つ以上のプロセッサは、
前記NFC可能な支払手段から暗号化された金融データを受け取り、
暗号化キーをサーバから受信し、
前記受信された暗号化キーを適用することによって、前記暗号化された金融データを復号化するように構成されている、請求項5記載の移動体支払デバイス。
【請求項7】
前記1つ以上のプロセッサは、前記金融取引が完了した後、前記暗号化キーを消去するように構成されている、請求項6記載の移動体支払デバイス。
【請求項8】
セルラ電話機を含む、請求項5記載の移動体支払デバイス。
【請求項9】
プロセッサ実行可能なソフトウェア命令をその上に記憶する一時的でない記憶媒体において、前記ソフトウェア命令は、移動体ワイヤレス手段のプロセッサに、近接フィールド通信(NFC)可能なポイントオブセールデバイスを使用して金融取引を実行するための動作を実行させるように構成されており、前記動作は、
NFC可能な支払手段から金融データを受け取ることと、
前記移動体ワイヤレス手段の記憶媒体において、前記金融データを記憶することと、
前記金融データの有効性確認を実行することと、
前記移動体ワイヤレス手段と前記NFC可能なポイントオブセールデバイスとの間に通信リンクを確立することと、
前記NFC可能なポイントオブセールデバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、前記金融データに関係する命令を、前記移動体ワイヤレス手段から、前記NFC可能なポイントオブセールデバイスに送ることとを含む、記憶媒体。
【請求項10】
前記プロセッサ実行可能なソフトウェア命令は、
前記NFC可能な支払手段から暗号化された金融データを受け取ることと、
暗号化キーをサーバから受信することと、
前記受信された暗号化キーを適用することによって、前記暗号化された金融データを復号化することと
を含む、動作を実行させるように構成されている、請求項9記載の記憶媒体。
【請求項11】
前記プロセッサ実行可能なソフトウェア命令は、
前記金融取引が完了した後、前記暗号化キーを消去することを含む、動作を実行させるように構成されている、請求項10記載の記憶媒体。
【請求項12】
前記移動体ワイヤレス手段は、セルラ電話機を含む、請求項9記載の記憶媒体。」

5.引用例
1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成14年9月27日に頒布された特開2002-279320号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審により付した。 )

(1)「【0021】図1に示す携帯電話クレジット決済装置は、携帯電話1、クレジットカード2およびレジ3により構成される。携帯電話1およびレジ3は、それぞれアンテナ11、31を有し無線通信(例えばBuletooth等)を可能にする。この携帯電話1は、クレジットカード2に関する個人情報を取得して記憶する、例えばIC(半導体)メモリ等のメモリ(記憶装置)12を備えている。また、携帯電話1は、クレジットカード2に記録された個人情報を読み取るカードリーダ13を備えてもよい。このカードリーダ13は、磁気記憶型クレジットカードの場合には、接触式の磁気読み取りヘッドを備え、ICカード内蔵型クレジットカードの場合には、非接触式の読取装置である。」
(2)「【0023】尚、半導体集積回路技術の進歩により、極めて大容量の記憶容量を有するIC(半導体)メモリが、小型且つ安価に入手可能であるので、携帯電話2のクレジットカードリーダ13に予め複数のクレジットカード2に記録された個人情報を読み取り、メモリ12に記憶しておいてもよい。そして、決済時に、予め読み取ってメモリ12に記憶されたクレジットカード情報を読み出し、レジ3へ無線通信により送信して決済してもよい。また、クレジットカード2による決済データ、例えば日時、店舗名、決済(支払)金額および残高等のクレジット内容等も内蔵メモリ12に記憶することが可能である。しかし、携帯電話1は、小型軽量であり取扱が便利である反面、紛失すること又は盗難に遭う虞もあるので、セキュリティーを考慮すると、決済の都度読み取る方が好ましい。また、メモリ12に記憶された個人情報は、消去手段(図示せず)により適宜又は記憶時点から一定時間経過後に自動的に消去するのが、セキュリティーの観点で好ましい。」
(3)「【0025】次に、図1および図3のフローチャートを参照して、本発明によるクレジット機能付き携帯電話1によるクレジット決済(支払い)手順を説明する。先ず、携帯電話1によりクレジット会社4を任意に選択する(ステップS11)。次に、レジ3において、携帯電話1とレジ3間で通信して、クレジット会社4のカード情報(個人情報)を送信する(ステップS12)。次に、レジ3において、情報の確認作業又はクレジット会社4と専用回線でクレジットカードの認証を行う(ステップS13)。最後に、携帯電話1を使用して暗証番号を入力し、そのデータをレジ3に送信する(ステップS14)。」

引用例1には、
「携帯電話1、クレジットカード2およびレジ3により構成された携帯電話クレジット決済装置であって、
携帯電話1は、クレジットカード2に関する個人情報を取得して記憶するIC(半導体)メモリ等のメモリ(記憶装置)12と、ICカード内蔵型クレジットカード2に記録された個人情報を読み取る非接触式の読取装置であるカードリーダ13を備え、クレジットカード2に記録された個人情報を読み取り、メモリ12に記憶し、
クレジット決済を行う場合、レジ3において、携帯電話1とレジ3間で無線通信(例えばBuletooth等)してカード情報(個人情報)を送信し、
レジ3において、情報の確認作業又はクレジット会社4と専用回線でクレジットカードの認証を行い、
最後に、携帯電話1を使用して暗証番号を入力し、そのデータをレジ3に送信する携帯電話クレジット決済装置を用いた方法」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。

2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である2007年12月27日に頒布された国際公開2007/149775号(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審により付した。 )
(1)「[0035] The portable consumer device 32 may further include a contactless element 32(g), which is typically implemented in the form of a semiconductor chip (or other data storage element) with an associated wireless transfer (e.g., data transmission) element, such as an antenna. Contactless element 32(g) is associated with (e.g., embedded within) portable consumer device 32 and data or control instructions transmitted via a cellular network may be applied to contactless element 32(g) by means of a contactless element interface (not shown). The contactless element interface functions to permit the exchange of data and/or control instructions between the mobile device circuitry (and hence the cellular network) and an optional contactless element 32(g).
[0036] Contactless element 32(g) is capable of transferring and receiving data using a near field communications (NFC) capability (or near field communications medium) typically in accordance with a standardized protocol or data transfer mechanism (e.g., ISO 14443/NFC). Near field communications capability is a short- range communications capability, such as RFID, Bluetooth#, infra-red, or other data transfer capability that can be used to exchange data between the portable consumer device 32 and an interrogation device. Thus, the portable consumer device 32 is capable of communicating and transferring data and/or control instructions via both cellular network and near field communications capability.」
(当審訳)
「[0035]携帯用の消費者装置32は、非接触素子32(g)を更に有してもよい。この非接触素子32(g)は、一般的にはアンテナのような無線転送(例えば、データ送信)要素を有する半導体チップ(又は他のデータ記憶素子)の形状に形成されている。非接触素子32(g)は、携帯用の消費者装置32に関連し(または埋め込まれ)ていて、携帯電話用のネットワークを介して送られるデータ又は制御命令は、非接触素子インタフェース(図示せず)により非接触素子32(g)に印加されてもよい。非接触素子インターフェースは、携帯装置回路(携帯電話ネットワーク)と光学的な非接触素子を32(g)との間でのデータ及び/または制御命令の交換を可能にするように機能する。
[0036] 非接触要素32(g)は、一般的には標準化プロトコルまたはデータ転送機構(例えば、ISO14443/NFC)による近距離無線通信(「NFC」)の能力を用いてデータを転送及び受信することができる。近距離無線通信の能力は、携帯用の消費者装置32と質問装置との間でのデータの交換に使用することができるRFID、BluetoothTM(登録商標)、赤外線または他のデータ転送能力のような近距離通信能力である。従って、携帯用の消費者装置32は、携帯電話ネットワークと近距離無線通信の能力の両方を介して、データ及び/または制御命令を通信及び転送することができる。」
(2)「[0055] Methods according to embodiments of the invention can be described with reference to FIGS. 1 and 4. In a typical purchase transaction, the consumer 30 purchases a good or service at the merchant 22 using a portable consumer device 32 such as a credit card. The consumer's portable consumer device 32 can interact with an access device 34 such as a POS (point of sale) terminal at the merchant 22 (step 102). For example, the consumer 30 may take a credit card and may swipe it through an appropriate slot in the POS terminal. Alternatively, the POS terminal may be a contactless reader, and the portable consumer device 32 may be a contactless device such as a contactless card.」
(当審訳)
「 本発明の実施例による方法は、図1と図4に関して記載することができる。一般的な購入取引では、コンピュータ30は、クレジット・カードのような携帯用の消費者装置を使用してマーチャント22で商品またはサービスを購入する。消費者の携帯用の消費者装置32は、マーチャント22で、POS(店頭)端末のようなアクセス装置34と相互作用することができる(ステップ102)。例えば、消費者30は、クレジット・カードを取り出してもよく、そして、それをPOS端末のしかるべき孔に通してもよい。または、POS端末は、非接触リーダであってもよく、携帯用の消費者装置32は、非接触カードのような非接触装置であってもよい。」
これらの記載から、引用例2には、
「NFC通信可能なPOS端末を利用して、クレジットカードの決済を行うこと。」が記載されている。

3)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成13年12月25日に頒布された特表2001-527258号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審により付した。 )
「 【0010】
本発明の第6の態様では、加入者ユニットまたはページャは、電子キャッシュ・カードすなわちファンド・ストレージ・カード,デビット・カード,クレジット・カードまたは銀行口座のうち少なくとも2つに対応する複数の所定のアカウント識別子を内蔵する。
【0011】
本発明の第7の態様では、ページング端末内の暗号エンジンと、加入者ユニットまたはページャ内のセキュリティ・モジュールとは、複数の暗号手順に対応する。これらの暗号手順は、適宜、秘密鍵および公開鍵システム(private and public key systems)の両方によって構成される。このような秘密鍵システムの一つとして、CBCモードでANSI X3.92 DESアルゴリズムを利用するDES(Data Encryption Standard)がある。同様に、第1の公開鍵システムは、モジュロn整数乗算および冪法(exponentiation)を利用して実施される劣指数単向関数(sub-exponential one-way functions)に基づいた暗号手順である、RSA(Rivest,Shamir,Adlemanの三者によって開発)である。第2の公開鍵システムは、楕円曲線技術(elliptic curve technology)を利用し、これは有限フィールド上で実施される高度に非線形的な指数単向関数に基づく暗号手順である。」
これらの記載から引用例3には、
「金融情報の取引きメッセージを暗号化すること」
が記載されている。

4)引用例4
原査定の周知事項として引用された、本願の優先日前である2007年3月15日に頒布された特開2007-65973号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審により付した。 )
「【0032】
プリント料金の徴収方法については、特に指定はなく、クレジットカードで支払う方法や、受付機の隣にコインピットを設置して行う方法、または、店頭で店員に現金で支払い、店員がPOS端末を操作して行う方法などが挙げられる。店員がPOS端末を操作する場合は、店員が、POS端末やレジ端末などの装置を使って、料金を計算し、通知して徴収するという形になる。
料金徴収が終了すると、その情報は、自動的に、またはPOSやレジ端末などへの店員の手入力によって、料金徴収手段22へ送られる。料金徴収手段22は、料金徴収の終了を確認すると、生産装置14にプリント生産の開始許可を通知する。
また、インターネットを介したシステムの場合は、クレジットカードなどにより料金徴収を行ってもよいし、もしくは、ユーザが店頭に出かけて、支払いを行ってもよい。」
この記載事項から、引用例4には、
「レジ端末がPOS端末と同様に使用されること」
が記載されている。

6.対比・判断
(1)本願発明1,5,9について
ア.対比
引用例1発明と本願発明1を対比する。
引用例1発明の「レジ3」と本願発明1の「ポイントオブセールスデバイス」とは、「デバイス」である点で共通している。
引用例1発明の「携帯電話1」による処理手順は、コンピュータである「携帯電話1」が、レジ3というデバイスを通して支払を行うための処理手順であるから、本願発明1の「通信可能なデバイスを使用して金融取引を実行する、コンピュータにより実現される方法」に相当する。
引用例1発明の「クレジットカード2」は、カード情報(個人情報)すなわち、金融データを有した支払手段であることから、本願発明1の「支払手段」に相当する。
引用例1発明の「携帯電話1」は、「ICカード内蔵型クレジットカード2に記録された個人情報を読み取る非接触式の読取装置であるカードリーダ13」を有していて、カード情報を取得していて、メモリ12に記憶していることから、本願発明1の「移動体ワイヤレス手段」に相当し、「NFC可能な支払手段から金融データを受け取る」機能、「移動体ワイヤレス手段の記憶媒体において、前記金融データを記憶する」機能を有する。
引用例1発明の「クレジット決済を行う場合、レジ3において、携帯電話1とレジ3間で無線通信(例えばBuletooth等)してカード情報(個人情報)を送信し、レジ3において、情報の確認作業又はクレジット会社4と専用回線でクレジットカードの認証を行い、」は、携帯電話1とレジ3において無線通信、すなわち、通信リンクを確立しているから、これは、本願発明1の「前記移動体ワイヤレス手段と」「デバイスとの間に通信リンクを確立すること」に相当する。
引用例1発明の「最後に、携帯電話1を使用して暗証番号を入力し、そのデータをレジ3に送信する」は、これによって、カード認証のための処理、決済処理が動作することになるから、本願発明1の「デバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、前記金融データに関係する命令を、前記移動体ワイヤレス手段から、前記デバイスに送ること」に相当する。
引用例1発明の「携帯電話クレジット決済装置を用いた方法」は、携帯電話がコンピュータであることを考慮すれば、本願発明1の「コンピュータにより実現される方法」に相当する。

してみると、両発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「通信可能なデバイスを使用して金融取引を実行する、コンピュータにより実現される方法において、
移動体ワイヤレス手段において、NFC可能な支払手段から金融データを受け取ることと、
前記移動体ワイヤレス手段の記憶媒体において、前記金融データを記憶することと、
前記移動体ワイヤレス手段とデバイスとの間に通信リンクを確立することと、
デバイスを使用して、クレジットネットワークを通して金融取引を実行するために、前記金融データに関係する命令を、前記移動体ワイヤレス手段から、デバイスに送ることと
を含む、コンピュータにより実現される方法。」
である点。

[相違点1]
本願発明1おいて「デバイス」が、「ポイントオブセール」であるのに対して、引用例1発明の「レジ3」は、「ポイントオブセール」ではない点。
[相違点2]
本願発明1は、「前記移動体ワイヤレス手段において、前記金融データの有効性確認を実行」しているのに対して、引用例1発明の携帯電話1では、金融データであるカード情報の有効性を確認していない点。

[相違点3]
本願発明の「移動体ワイヤレス手段」と「ポイントオブセールスデバイス」とは「近接フィールド通信(NFC)」を行っているのに対して、引用例1発明の携帯電話1とレジ3は、NFCを行っていると特定されていない点。

イ.相違点についての判断
相違点2の構成については、引用例2には記載されていないし、引用例3,4にも記載されていない。したがって、本願発明1は、当業者が引用例1発明及び引用例2?4の記載事項から容易に発明することができたものとはいえない。
また、本願発明5及び9についても、上記相違点2に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用例1発明及び引用例2?4の記載事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(2)本願発明2?4,6?8,10?12について
本願発明の2?4についても、請求項1を直接または間接的に引用するものであり、「前記移動体ワイヤレス手段において、前記金融データの有効性確認を実行」する構成を含むものであるから、本願発明1と同じ理由により引用例1発明、引用例2?4の記載事項から容易に発明することができたものとはいえない。
また、本願発明6?8は、本願発明5を、本願発明10?12は本願発明9を直接または間接的に引用するものであるから、本願発明1と同じ理由により引用例1発明、引用例2?4の記載事項から容易に発明することができたものとはいえない。

7.原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1?12の「移動体ワイヤレス手段」は、「金融データの有効性確認を実行」する構成となっており、拒絶査定において引用された引用例1発明、引用例2?4及び周知事項から当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

8.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2015-106495(P2015-106495)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 雅士  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 宮久保 博幸
石川 正二
発明の名称 電子的支払システム  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 井関 守三  
代理人 岡田 貴志  
代理人 福原 淑弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ