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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1340507
審判番号 不服2016-18565  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-09 
確定日 2018-05-16 
事件の表示 特願2012-556238「プロセス均一性及び熱消散を改善するダミーTSV(スルーシリコンビア)」拒絶査定不服審判事件〔平成23年9月9日国際公開、WO2011/109595、平成25年6月10日国内公表、特表2013-521661〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)3月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年3月3日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月20日付けで拒絶理由が通知され、同年6月24日付けで意見書が提出され、同年12月28日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月5日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年7月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月9日付けで拒絶査定不服の審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成28年4月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
多重チップ積層体を組み立てる際の使用のための少なくとも第1の集積回路を形成する方法であって、
第1のウエハに形成された少なくとも第1の集積回路内に第1の複数のスルーシリコンビア開口をパターニングし及びエッチングすることと、
前記第1の複数のスルーシリコンビア開口内に1つ以上の伝導性層を形成して、熱を熱的に伝導させるために前記第1の集積回路内に第1の複数のスルーシリコンビア構造を形成することと、を備え、
前記第1の複数のスルーシリコンビア開口は、
前記第1の集積回路内に形成されるいずれの能動回路領域をも貫通せずに第1の側から前記第1の集積回路の全体を通って第2の側に延びる少なくとも第1のスルーシリコンビア開口と、
前記第1の集積回路内に形成されるいずれの能動回路領域まで前記第1の側から下に向かって延びるが通過はしない少なくとも第2のスルーシリコンビア開口と、を有しており、
第2のウエハに形成された第2の複数のスルーシリコンビア構造が前記第1の複数のスルーシリコンビア構造に位置合わせされて接触するように、前記第2のウエハを前記第2の側に接合することを更に備える方法。」

第3 引用発明等
1.引用文献1
原査定で引用された特開2006-245311号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「半導体装置及びその製造方法」に関して、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
(1)「【0005】
しかしながら、このような貫通プラグを有していても、マルチチップ半導体装置が含む半導体チップの放熱性は十分であるとはいえない。すなわち、特にマルチチップ半導体装置の中心部には、発生する熱の放熱経路が存在していない。従って、マルチチップ半導体装置の内部、特にその中心部近傍では、熱がこもって高温になってしまうおそれがある。
【0006】
マルチチップ半導体装置内部の高温化が進行すると、個々の半導体装置(半導体チップ)が具える素子が破壊されてしまうおそれがある。また、マルチチップ半導体装置自体或いはマルチチップ半導体装置が具える構成要素に変形等の不具合が生じるおそれがある。このような素子の破壊、変形等といった不具合に起因して、マルチチップ半導体装置の動作に支障をきたすおそれがある。結果として、マルチチップ半導体装置、すなわちパッケージの信頼性が損なわれてしまうおそれがある。
【0007】
ここでいうパッケージとは、複数個の半導体装置を含む、パッケージ化されたデバイスである。また、以下の説明において、このパッケージを単に積層構造体と称する場合もある。
【0008】
このように、積層型のパッケージ内部の放熱効率を向上させるための技術、また、パッケージ内部の放熱効率を向上させるための構成を有する半導体装置のより簡易な製造工程を実現するための技術が嘱望されている。」
(2)「【発明の効果】
【0016】
この発明の半導体装置の構成によれば、特に、かかる半導体装置を複数個積層してなる積層型のパッケージ内部、特にパッケージの中心部近傍での冷却効率を顕著に向上させることができる。従って、パッケージ内部にこもりがちな熱を効率的に外部環境に導いて放熱することができるので、半導体装置が具える素子の高温、すなわち熱による動作異常、破壊、変形等といった不具合を防止することができる。結果として、パッケージの信頼性を顕著に高めることができる。」
(3)「【0023】
図1(A)、(B)及び(C)に示すように、半導体装置10は、絶縁膜14を具えている。絶縁膜14は、シリコン基板に作り込まれた素子等の構成を覆ってこれを保護している。半導体装置10は、第1主表面10a及びこの第1主表面10aと対向する第2主表面10bを有している。この例では第1主表面10aは、絶縁膜14の表面と一致している。
(中略)
【0027】
貫通電極部12は、第1主表面10aから第2主表面10bに貫通している。貫通電極部12が第1主表面10aから露出する頂面(露出面)を第1頂面部12aと称する。また、貫通電極部12が第2主表面10bから露出する頂面を第2頂面部12bと称する。貫通電極部12は、外部端子として機能する。すなわち、半導体装置10の内部に作り込まれているトランジスタ等の素子に、例えば多層配線構造を経て、電気的に接続されている(図示せず。)。従って、半導体装置10の発生する出力信号又は外部から半導体装置10に入力される入力信号は、第1及び第2主表面10a及び10bのいずれの側からも或いはいずれの側へも入出力が可能である。」
(4)「【0028】
半導体装置10は、複数の放熱貫通部20を有している。この放熱貫通部20は、半導体装置10の動作により発生する熱を、半導体装置10を取り巻く外部環境に放熱しやすくする機能部である。
(中略)
【0030】
放熱貫通部20は、第1主表面10aから第2主表面10bに貫通している。放熱貫通部20が第1主表面10aから露出する頂面(露出面)を第1端面部20aと称する。また、放熱貫通部20が第2主表面10bから露出する頂面を第2端面部20bと称する。
(中略)
【0036】
貫通電極部12、放熱貫通部20及び熱伝導配線22は、好ましくは同一の材料、例えば銅又は銅合金により形成するのがよい。詳細は後述するが、貫通電極部12、放熱貫通部20及び熱伝導配線22は、好ましくは、同一の工程により形成される。また、従って、貫通電極部12、放熱貫通部20及び熱伝導配線22を同一の材料により形成すれば、製造工程をより簡易なものとすることができる。」
(5)「【0038】
図1(C)に示すように、半導体装置10は、同一形状の複数個を積層した積層構造体とされる。このとき、複数個の半導体装置10同士は、互いに導通をとるために、第1及び第2主表面10a及び10bから露出する貫通電極部12同士が電気的に接続される。この接続には、電気的接続用バンプ26が使用される。電気的接続用バンプ26は、第1頂面部12a又は第2頂面部12bのいずれか一方又は両方上に設けられている。すなわち、複数個の半導体装置10の外部端子である貫通電極部12同士を電気的に接続できればよいので、複数個の半導体装置10同士を積層するに際して、互いに対向する第1及び第2頂面部12a及び12bの間に1つが存在するよう設けておけばよい。
(中略)
【0040】
また、半導体装置10は、熱伝導用バンプ24を具えている。熱伝導用バンプ24は、第1及び第2主表面12a及び12bから露出する放熱貫通部20の第1端面部20a又は第2端面部20bのいずれか一方又は両方上に設けられている。すなわち、複数個の半導体装置10の放熱貫通部20同士を熱伝導可能に接続できればよいので、複数個の半導体装置10同士を積層するに際して、互いに対向する第1及び第2端面部20a及び20bの間に1つが存在するよう設けておけばよい。」
(6)「【0053】
(半導体装置、積層構造体及び実装構造体の製造方法例)
以下、図2及び図3を参照して、この発明の半導体装置10の製造方法例につき説明する。
(中略)
【0056】
図2(A)に示すように、先ず、半導体ウェハ1を準備する。半導体ウェハ1は、表面1a及び表面1aと対向する裏面1bを有している。半導体ウェハ1には、従来公知の半導体チップの製造工程と同様に、複数の同一の構成を有するこの発明の半導体装置を同時に形成するため、複数の半導体チップ形成領域がマトリクス状に配列されている。なお、図にはそのうちの1つのみを示してある。
(中略)
【0059】
図2(B)に示すように、半導体ウェハ1に、電気的接続用ヴィアホール11a及び放熱用ヴィアホール11bを含むヴィアホール11を、従来公知の例えばホトリソグラフィ及びエッチング技術を用いて、半導体ウェハ1を非貫通として作り込む。ヴィアホール11の形成位置は、上述ウェハプロセスにより形成された素子の機能を損なわないことを条件とし、放熱効果を勘案して任意好適な位置にレイアウトすればよい。
(中略)
【0063】
次いで、図2(D)に示すように、絶縁膜2上に、ヴィアホール11及び溝部13を埋め込む金属膜3、好ましくは、例えば銅膜を形成する。この金属膜3の形成工程は、従来公知の例えばCVD法、スパッタ法等による成膜工程に準じて実施することができる。好ましくは、電気的接続用ヴィアホール11a、放熱用ヴィアホール11b及び溝部13は、同一の材料により同一の工程で埋め込むのがよい。しかしながら、放熱用ヴィアホール11b及び溝部13を埋め込む材料は、必ずしも導電性である必要がないので、放熱用ヴィアホール11b及び溝部13は、より熱伝導性、放熱性の高い材料、例えばセラミック等で埋め込んでもよい。
(中略)
【0067】
最後に、従来公知のダイシング装置等を用いて、半導体ウェハ1をダイシングラインL1に沿って切削して切断し、複数個の図3(C)に示す構成を有する半導体装置10を個片化する。」
(7)「【0081】
(第2の実施の形態)
図6を参照して、この発明の第2の実施の形態につき説明する。第2の実施の形態の積層構造体及び実装構造体は、その最上面に、これらの構造体が発する熱をより効果的に放熱させる構成をさらに具えていることを特徴としている。この放熱効果を増強するさらなる構成を除けば、この実施の形態の積層構造体及び実装構造体自体、並びにこれらを構成する半導体装置及び実装基板については、既に説明した第1の実施の形態と何ら変わるところがない。従って、既に説明した構成についての詳細な説明は、同一番号を付して省略する。
(中略)
【0083】
この例の実装構造体300、すなわち積層構造体100は、その最上面100aに、放熱体30をさらに具えている。放熱体30は、発熱体である半導体装置10の発する熱を、外部環境である大気中に放散させるための部材である。
【0084】
放熱体30としては、例えば、シリコン(Si)製のいわゆるヒートシンクを適用することができる。放熱体30は、上面30a及びこの上面30aと対向する下面30bを有している。放熱体30は、この下面30bを積層構造体100の最上面100a、すなわち、貫通電極部連続体12X及び放熱貫通部連続体20Xに接するように搭載されている。放熱体30は、常法に従って、積層構造体100に固定すればよい。
【0085】
このような構成とすれば、貫通電極部連続体12X及び放熱貫通部連続体20Xにより、積層構造体100の最上面100aに導かれた熱を大気中に効率的に放散させることができるので、積層構造体100を構成する半導体装置10を、より効果的に冷却することができる。」

ア.上記(1)及び(2)によれば、積層構造体とも称されるマルチチップ半導体装置の中心部には、発生する熱の放熱経路が存在していないため、特にその中心部近傍では、熱がこもって高温になってしまうおそれがあるが、引用文献1の「半導体装置及びその製造方法」によって、その放熱効率(冷却効率)を顕著に向上させることができる。
イ.上記(4)によれば、半導体装置10は、複数の放熱貫通部20を有しており、前記放熱貫通部20は、前記半導体装置10の第1主表面10aから第2主表面10bに貫通している。この放熱貫通部20は、半導体装置10の動作により発生する熱を、半導体装置10を取り巻く外部環境に放熱しやすくする機能部であって、銅又は銅合金により形成するのがよい。
ウ.半導体装置10の製造方法に関する記載である上記(6)によれば、放熱貫通部20を形成するための工程には、半導体ウェハ1に、放熱用ヴィアホール11bを含むヴィアホール11を、ホトリソグラフィ及びエッチング技術を用いて作り込むこと(【0059】)と、前記ヴィアホール11を埋め込む金属膜3(例えば銅膜)を形成すること(【0063】)が含まれている。また、半導体ウェハ1には複数の半導体チップ形成領域がマトリクス状に配列されており(【0056】)、半導体装置10の製造工程の最後に、前記半導体ウェハ1をダイシングラインL1に沿って切削して切断し、複数個の半導体装置10を個片化している(【0067】)。
エ.上記(3)によれば、半導体装置10は、シリコン基板にトランジスタ等の素子が作り込まれたものであり、さらに、上記(6)の【0059】の記載によれば、上記ウの前記ヴィアホール11は、前記素子の機能を損なわない位置に形成されている。
オ.上記(5)によれば、複数個の半導体装置10を積層して積層構造体100とされ、前記複数個の半導体装置10同士を積層する際に、前記複数個の半導体装置10の放熱貫通部20同士は、熱伝導用バンプ24により互いに接続される。
カ.上記(7)によれば、第2の実施の形態として、積層構造体100は、その最上面100aに、放熱貫通部連続体20Xに接するように搭載された放熱体30をさらに具えており、前記積層構造体100を構成する前記半導体装置10を、より効果的に冷却することができる。

したがって、上記(1)ないし(7)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「半導体ウェハ1に形成された半導体装置10内に複数の放熱用ヴィアホール11bをホトリソグラフィ及びエッチング技術を用いて作り込むことと、
前記複数の放熱用ヴィアホール11bを埋め込む金属膜3を形成して、前記半導体装置10内に複数の放熱貫通部20を形成することと、を備え、
前記放熱貫通部20は半導体装置10の動作により発生する熱を、半導体装置10を取り巻く外部環境に放熱しやすくする機能部であり、かつ、前記半導体装置10の第1主表面10aから第2主表面10bに貫通しており、
前記放熱用ヴィアホール11bは、シリコン基板に作り込まれたトランジスタ等の素子の機能を損なわない位置に形成されており、
さらに、
前記半導体ウェハ1をダイシングラインL1に沿って切削して切断し、複数個の半導体装置10を個片化することと、
前記複数個の半導体装置10を積層して積層構造体100とすること、を備え、
前記複数個の半導体装置10同士を積層する際に、前記複数個の半導体装置10の前記放熱貫通部20同士は、熱伝導用バンプ24により互いに接続される、
方法。」

2.引用文献4
原査定で引用された特開2010-21451号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「固体撮像装置およびその製造方法」に関して、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0013】
また、ウェハレベルの固体撮像装置には、外部からの給電を目的として、半導体基板を貫通する貫通電極が設けられており、その貫通電極が給電経路となっている。一方、この貫通電極は、固体撮像装置から外部への放熱経路にもなっている。すなわち、例えば固体撮像装置をプリント基板にそれらの間に実装部材を介在させて実装した場合には、半導体基板上に形成された固体撮像素子から発生した熱は、主に貫通電極に充填された金属から実装部材を経てプリント基板へ放熱される。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来のウェハレベルの固体撮像装置では、受光部の周囲に形成されている配線層の直下に給電を目的として形成した貫通電極が主な放熱経路となる。しかしながら、従来のウェハレベルの固体撮像装置では、CCD型固体撮像装置の主要な発熱源である水平CCD部や出力アンプ部、MOS型固体撮像装置の主要な発熱源であるタイミング・ジェネレータやA/Dコンバータなどからなるロジック回路部、あるいは発熱が画質劣化の直接の要因となる受光部の直下からの放熱を効率よく行うことができない。」
(3)「【0034】
半導体基板2には、半導体基板2の下面(第2の面)から上面へ向かう方向へ半導体基板2を貫通して上面側配線層4に接続する貫通電極6が形成されている。また、半導体基板2には、さらに非貫通放熱部7が形成されている。非貫通放熱部7は、一端が半導体基板2の下面に開口し半導体基板2の下面から上面へ向かう方向へ延在し且つ他端が半導体基板2の上面に非到達の非貫通孔の内部に金属を充填した構造となっている。」
(4)「【0035】
半導体基板2の下面には、貫通電極6および非貫通放熱部7の端部に接続する下面側配線層(裏面側配線)8が形成されている。WLCSPの固体撮像装置の場合、下面側配線層8上には外部接続電極として半田ボール9が設けられる。半田ボール9は、下面側配線層8を介して貫通電極6および非貫通放熱部7に接続する。
【0036】
以上のように構成された固体撮像装置1をプリント基板10に実装することにより、半導体基板2上に形成された固体撮像素子から発生した熱は、貫通電極6および非貫通放熱部7から下面側配線層8および半田ボール9を経てプリント基板10へ至る放熱経路11を通じて放熱される。したがって、従来の固体撮像装置における放熱経路が、受光部の周囲に形成されている配線層の直下に給電を目的として形成した貫通電極からプリント基板へ至る経路のみであったのに対し、本実施の形態では、非貫通放熱部7からプリント基板へ至る経路が追加されているので、放熱効果を従来に比べて高めることが可能となる。」
(5)「【0043】
また、非貫通放熱部7は、受光部3以外の領域で、電力消費量の大きい部分の近傍に形成してもよい。例えば、非貫通放熱部7は、図4(b)に示すように、半導体基板2の上面側の端部が出力アンプ部14の直下の位置に配置されるように形成してもよいし、図4(c)に示すように、水平CCD部13の直下の位置に配置されるように形成してもよい。このようにすれば、主要な発熱源となる部分に近い領域に放熱経路を設けることができ、効率よく放熱を行うことができる。
(中略)
【0045】
MOS型固体撮像装置の場合には、非貫通放熱部7は、図5(a)に示すように、半導体基板2の上面側の端部が受光部3の直下の位置に配置されるように形成したり、図5(b)に示すように、ロジック回路部21の直下の位置に配置されるように形成すればよい。このようにすれば、MOS型固体撮像装置の主要な発熱源であるタイミング・ジェネレータやA/Dコンバータなどからなるロジック回路部21、あるいは発熱が画質劣化の直接の要因となる受光部3の直下からの放熱を効率よく行うことができる。」

ア.上記(3)によれば、半導体基板2には、非貫通放熱部7が形成されており、前記非貫通放熱部7は、一端が前記半導体基板2の下面に開口し前記半導体基板2の下面から上面へ向かう方向へ延在し且つ他端が前記半導体基板2の上面に非到達の非貫通孔の内部に金属を充填した構造となっている。
イ.上記(1)によれば、半導体基板上で発生した熱はプリント基板へ放熱される。具体的には、上記(4)によれば、前記半導体基板2の下面には、下面側配線層8が形成され、半田ボール9によってプリント基板10に接続されており、半導体基板2上の発熱源で発生した熱は、非貫通放熱部7から下面側配線層8および半田ボール9を経て、放熱先であるプリント基板10へ至る放熱経路11を通じて放熱される。なお、半導体基板2の下面側に放熱先であるプリント基板10が接続されているから、半導体基板2の下面は「放熱先側の面」ということができ、半導体基板2の上面は「放熱先側の面とは反対側の面」ということができる。
ウ.上記(2)及び(5)によれば、非貫通放熱部7は、受光部以外の発熱源の近傍に形成してもよく、例えば、発熱源である出力アンプ部14の直下の位置やロジック回路部21の直下の位置に配置されるように形成することにより、発熱源となる部分に近い領域に放熱経路を設けることができ、効率よく放熱を行うことができる。

したがって、上記(1)ないし(5)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用文献4には、次の技術事項が記載されている。

「半導体基板において、発熱源から効率良く放熱するために、一端が半導体基板2の放熱先側の面に開口し、前記放熱先側の面とは反対側の面へ向かう方向へ延在するとともに、他端が前記反対側の面に非到達の非貫通孔の内部に金属を充填した構造となっている非貫通放熱部を、前記発熱源の近傍に形成すること。」

第4 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「半導体ウェハ1」及び「半導体ウェハ1に形成された半導体装置10」は、本願発明の「第1のウエハ」及び「第1のウエハに形成された第1の集積回路」に相当する。また、引用発明の「積層構造体100」は複数個の半導体装置10を積層したものであるから、本願発明の「多重チップ積層体」に相当する。
そうすると、引用発明の半導体装置10は、本願発明の第1の集積回路と同様に、「多重チップ積層体を組み立てる際の使用のための」ものであるといえる。
(2)引用発明の放熱貫通部20は前記半導体装置10の第1主表面10aから第2主表面10bに貫通しているから、当該放熱貫通部20を形成するための放熱用ヴィアホール11bも前記半導体装置10の第1主表面10aから第2主表面10bに貫通している。また、引用発明の半導体装置10はシリコン基板に作り込まれているから、前記放熱用ヴィアホール11はシリコン基板を貫通しているといえる。したがって、これらを総合すると、引用発明の「放熱用ヴィアホール11」は本願発明の「第1のスルーシリコンビア開口」に相当する。
(3)放熱用ヴィアホール11bを作り込むために、引用発明は「ホトリソグラフィ及びエッチング技術を用いて」いるが、これは本願発明における「パターニングし及びエッチングすること」に相当する。
(4)引用発明は、放熱用ヴィアホール11bを埋め込む金属膜3を形成することによって、放熱貫通部20を形成しているが、当該放熱貫通部20が半導体装置10の動作により発生する熱を、半導体装置10を取り巻く外部環境に放熱しやすくする機能部であることを勘案すると、引用発明の前記「金属膜3」及び前記「放熱貫通部20」は、本願発明の「伝導性層」及び「第1のスルーシリコンビア構造」にそれぞれ相当する。
(5)一般にトランジスタは能動素子に含まれるものであるから、引用発明における「シリコン基板に作り込まれたトランジスタ等の素子」が存在する領域は、本願発明における「能動回路領域」に相当するものである。そして、引用発明の放熱用ヴィアホール11bは、シリコン基板に作り込まれたトランジスタ等の素子の機能を損なわない位置に形成されており、かつ、上記(2)で述べたとおり前記半導体装置10の第1主表面10aから第2主表面10bに貫通しているから、引用発明の前記放熱用ヴィアホール11bは、本願発明の第1のスルーシリコンビア開口と同様に、「前記第1の集積回路内に形成されるいずれの能動回路領域をも貫通せずに第1の側から前記第1の集積回路の全体を通って第2の側に延びる」ものであるといえる。
(6)引用発明において、放熱用ヴィアホール11bを作り込むこと、及び、放熱貫通部20を形成することは、半導体装置10の製造方法の一部であるから(上記「第3」の「1.」の「ウ.」参照)、引用発明の方法は、半導体装置10すなわち第1の集積回路を形成する方法を少なくとも含んでいる。
(7)引用発明においては、「前記半導体ウェハ1をダイシングラインL1に沿って切削して切断し、複数個の半導体装置10を個片化すること」の後に「前記複数個の半導体装置10を積層して積層構造体100とすること」を行っているので、本願発明のように半導体ウエハ同士を接合してはいない。

そうすると、本願発明と引用発明は、
「多重チップ積層体を組み立てる際の使用のための少なくとも第1の集積回路を形成する方法であって、
第1のウエハに形成された少なくとも第1の集積回路内に第1の複数のスルーシリコンビア開口をパターニングし及びエッチングすることと、
前記第1の複数のスルーシリコンビア開口内に1つ以上の伝導性層を形成して、熱を熱的に伝導させるために前記第1の集積回路内に第1の複数のスルーシリコンビア構造を形成することと、を備え、
前記第1の複数のスルーシリコンビア開口は、
前記第1の集積回路内に形成されるいずれの能動回路領域をも貫通せずに第1の側から前記第1の集積回路の全体を通って第2の側に延びる少なくとも第1のスルーシリコンビア開口を有している、
方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、「前記第1の集積回路内に形成されるいずれの能動回路領域まで前記第1の側から下に向かって延びるが通過はしない少なくとも第2のスルーシリコンビア開口」を有しているのに対して、引用発明はそのような開口を有していない点。

[相違点2]
本願発明は、「第2のウエハに形成された第2の複数のスルーシリコンビア構造が前記第1の複数のスルーシリコンビア構造に位置合わせされて接触するように、前記第2のウエハを前記第2の側に接合すること」を更に備えているのに対して、引用発明は、半導体ウェハ1を切断して複数個の半導体装置10を個片化した後に積層しているので、ウエハ同士を接合することは行っていない点。

2.判断
(1)相違点1について
引用発明は、積層構造体の放熱効率(冷却効率)を向上させることを課題とする発明であるが(上記「第3」の「1.」の「ア.」参照)、引用文献1の第2の実施の形態には、放熱効率(冷却効率)をより向上させるために、引用発明のように放熱貫通部20を形成することに加えて、放熱効率(冷却効率)を向上させることができる他の手段(放熱体30)を積層構造体に採用(併用)することが記載されている(上記「第3」の「1.」の「カ.」参照)。
そして、引用文献4に記載の非貫通放熱部も、半導体装置において放熱効率(冷却効率)を向上させることができる手段であるから、引用発明において、放熱効率(冷却効率)をより向上させるために、引用文献4に記載の「半導体基板において、発熱源から効率良く放熱するために、一端が半導体基板2の放熱先側の面に開口し、前記放熱先側の面とは反対側の面へ向かう方向へ延在するとともに、他端が前記反対側の面に非到達の非貫通孔の内部に金属を充填した構造となっている非貫通放熱部を、前記発熱源の近傍に形成すること。」という技術事項を採用(併用)して、放熱貫通部20に加えて、トランジスタ等の素子(すなわち、能動回路領域)の近傍に前記非貫通放熱部を形成するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。そして、前記非貫通放熱部を形成する際に、前記放熱貫通部20を形成する際と同様に、半導体装置10内に複数のヴィアホール(本願発明の「第2のスルーシリコンビア開口」に相当)をホトリソグラフィ及びエッチング技術を用いて作り込むことは、当業者が普通になし得ることである。
そして、相違点1に係る本願発明の効果も、引用発明及び引用文献4に記載の技術事項の効果に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、
「しかしながら、引用文献4に記載された発明では、例えば図1に示されているように、受光部3及びレンズ5を半導体基板2の上面(本願発明の「第2の側」に対応)に設けることによって、半導体基板2の上方に位置する撮像対象を撮像可能に構成されております。したがって、引用文献4に記載された発明において、外部装置(例えば、貫通電極6に位置合わせされて接触可能な複数のスルーシリコンビア構造を有する他のウエハ等)を半導体基板2の上面側に接合することは、撮像対象を撮像するのが外部装置の存在によって困難になることから、全く想定されていないものと思料致します。」及び「さらに、引用文献4には、貫通電極6の他端が形成されている一方で非貫通放熱部7の他端が形成されていない半導体基板2の上面(本願発明の「第2の側」に対応)において外部装置を接合するという構成が何等開示又は示唆されていない以上、仮に、引用文献1?3に記載された発明に対して、引用文献4に記載された構成を採用したとしても、本願請求項1に係る発明と同等の構成を得ることは到底不可能であります。」
と主張している。
しかしながら、引用文献4に記載されている発熱源は、上記「第3」の「2.」の(2)及び(5)に摘示したように、受光部のような固体撮像素子に特有なものに限定されておらず、アンプ部やロジック回路部のような固体撮像素子以外の半導体基板においても存在し得る発熱源も含まれているから、引用文献4に記載されている非貫通放熱部を発熱源の近傍に形成して効率良く放熱するという技術事項は、放熱源を有する半導体基板全般に適用可能なものであることは明らかである。
したがって、引用文献4に記載の固体撮像素子において、外部装置を半導体基板の上面側に接合することは全く想定されていないからといって、引用文献4に記載の上記技術事項を、トランジスタ等の素子という発熱源を有する引用発明に適用できないというものではないから、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)相違点2について
積層構造体を製造する際に、個片化された半導体装置を積層することに代えて、複数の半導体装置が形成されたウエハを積層して接合した後に、当該ウエハを切断して複数個の積層構造体を得るようにすることは、例えば、国際公開第2008/108334号(原査定で引用された引用文献2。段落[0030]参照。)、特開2004-55770号公報(段落【0061】ないし【0066】参照。)、国際公開第2006/027981号(段落[0079]ないし[0082]参照。)に記載があるように周知技術にすぎない。
したがって、上記周知技術を採用することによって、引用発明においてもウエハを積層して接合した後に、当該ウエハを切断して複数個の積層構造体を得るようにすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことではない。また、ウエハを積層して接合する際に、放熱貫通部20同士が接続されるように位置合わせをすることは、当業者であれば当然に行うことである。
そして、相違点2に係る本願発明の効果も、引用発明及び周知技術の効果に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献4に記載の技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用文献4に記載の技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-08 
結審通知日 2017-12-12 
審決日 2017-12-25 
出願番号 特願2012-556238(P2012-556238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
國分 直樹
発明の名称 プロセス均一性及び熱消散を改善するダミーTSV(スルーシリコンビア)  
代理人 佐野 良太  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  

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