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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1340560
審判番号 不服2017-1817  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-07 
確定日 2018-05-17 
事件の表示 特願2012-204549「光学フィルム用転写体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月 3日出願公開、特開2014- 59456〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成24年9月18日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 3月29日:拒絶理由通知
平成28年 5月24日:意見書
平成28年 5月24日:手続補正書
平成28年10月25日:拒絶査定
平成29年 2月 7日:審判請求書
平成29年 2月 7日:手続補正書
平成29年12月18日:拒絶理由通知(以下、通知された拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。)
平成30年 2月19日:意見書
平成30年 2月19日:手続補正書(以下、「本件補正」という。)

(2)本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載の事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものであると認める。

「被転写基材への積層に供する転写層と、
前記転写層を支持する支持体基材とを備え、
前記支持体基材が、PETフィルムであって、最も配向角の変化が大きな方向における前記配向角の変化の絶対値が500mm当たり5度以内であり、
リタデーションが3000nm以下である
光学フィルム用転写体。」(以下、「本願発明」という。)

2 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち理由3(進歩性)は、概ね、次のとおりである。

本願の平成29年2月7日付けで手続補正がなされた請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2ないし4に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献2:特開2010-276713号公報
引用文献3:国際公開第2009/084180号
引用文献4:特開平10-68816号公報

請求項1ないし3に係る発明の支持体基材のリタデーションが3000nm以下であるとして、以下、検討する。
(1) 引用文献2には、ポリエチレンテレフタレートの支持体上に形成された転写材料について記載されている(段落【0071】-【0074】等参照。)。光学特性を検査する目的には、当該支持体は透明で低複屈折の材料が好ましい(段落【0074】)。
また、引用文献3には、検査精度を高めるため、ポリエステル(代表例ポリエチレンテレフタレート)フィルムにおけるフィルム幅方向の配向角の変動を3度/500mm以下とすることが記載されている(段落[0023]、[0042]、[0045]、[0050]-[0063]等参照。)。
そして、検査精度を高めるという一般的な課題のため、引用文献2に記載された発明のポリエチレンテレフタートを引用文献3に記載されたようなものとすることは、当業者であれば容易になし得ることである。ここで、低複屈折の材料が好ましいとされる引用文献3のポリエステル(代表例ポリエチレンテレフタレート)フィルムのリタデーションは3000nm以下である蓋然性が高いし、仮にそうでないとしても、低複屈折の材料とするためリタデーションを3000nm以下とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
(2)請求項2、3に係る、1/4波長板と1/2波長板を貼り合わせた構成は、引用文献4に記載されている(請求項1、図1等参照。)。

3 引用文献の記載事項
(1)当審拒絶理由で引用文献2として引用された特開2010-276713号公報には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【0022】
[複屈折パターン部材]
(光学異方性層)
パターニング光学異方性層は実質的に同一の層形成組成物から形成されることが好ましい。ここで同一の層形成組成物とは、厳密には分子の電子状態が異なり、複屈折性が異なるが原材料が同一であることをいう。
複屈折パターンは少なくとも1層のパターニング光学異方性層を含む。
パターニング光学異方性層は高分子を含む。高分子を含むことにより、複屈折性、透明性、耐溶媒性、強靭性および柔軟性といった異なった種類の要求を満たすことができる。
(略)
【0024】
光学異方性層でレタデーションを付与した領域のレタデーションの値は20℃においてレタデーションが5nm以上であればよく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましい。レタデーションが5nm未満では複屈折パターンの形成が困難となったり、潜像の鮮明性が低下する場合がある。レタデーションが1000nmを越えると、誤差が大きくなり実用できる精度を達成することが困難である場合がある。
また、被認証体の潜像形成を考慮して、あるいは被認証体を構成するその他の層のレタデーションを考慮して、光学異方性層のレタデーション値を制御することができる。」

イ 「【0063】
(光学異方性層以外の複屈折パターン部材の構成材料)
複屈折パターン部材を得るための光学異方性層を含む構造体(以降、「複屈折パターン作製材料」という。)は複屈折パターンを作製する為の材料であり、所定の工程を経る事で複屈折パターン部材を得る事ができる材料である。複屈折パターン作製材料は製造適性などの観点から、通常、フィルム、またはシート形状であるとよい。複屈折パターン作製材料は前述の光学異方性層のほかに、様々な副次的機能を付与することが可能である機能性層を有していてもよい。機能性層としては、支持体、配向層、後粘着層などが挙げられる。あるいは、複屈折パターン部材は、転写箔の形態であってもよい。
被認証体を構成する光学異方性層以外の層は潜像の形成に影響を与えないレタデーションを有するように構成されるか、それらの層が有するレタデーションを考慮して潜像形成のための光学異方性層のレタデーション値を設定することができる。」

ウ 「【0071】
(複屈折パターン作製材料の作製方法)
複屈折パターン作製材料を作製する方法としては特に限定されないが、例えば、支持体上に光学異方性層を直接形成する、複屈折パターン作製材料を転写材料として作成後に別の支持体上に転写する、自己支持性の光学異方性層として形成する、自己支持性の光学異方性層上に他の機能性層を形成する、自己支持性の光学異方性層に支持体に貼合する、などの方法が挙げられる。このうち光学異方性層の物性に制約を加えないという点からは支持体上に光学異方性層を直接形成する方法と転写材料を用いて支持体上に光学異方性層を転写する方法が好ましく、さらに支持体に対する制約が少ない点から転写材料を用いて支持体上に光学異方性層を転写する方法がより好ましく用いることができる。
【0072】
光学異方性層を2層以上含む複屈折パターン作製材料を作製する方法としては、複屈折パターン作製材料上に光学異方性層を直接形成する、別の複屈折パターン作製材料を転写材料として用いて複屈折パターン作製材料上に光学異方性層を転写するなどの方法が挙げられる。
【0073】
以下に、転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料について説明する。なお、転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料は、後述の実施例などにおいて「複屈折パターン作製用転写材料」という場合がある。
【0074】
[仮支持体]
転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料は仮支持体上に形成されることが好ましい。仮支持体は、透明でも不透明でもよく特に限定はない。仮支持体を構成するポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステルおよびポリスルホン、ノルボルネン系ポリマーが含まれる。製造工程において光学特性を検査する目的には、透明支持体は透明で低複屈折の材料が好ましく、低複屈折性の観点からはセルロースエステルおよびノルボルネン系が好ましい。市販のノルボルネン系ポリマーとしては、アートン(商品名、JSR(株)製)、ゼオネックス、ゼオノア(いずれも商品名、日本ゼオン(株)製)などを用いることができる。また安価なポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等も好ましく用いられる。
(略)
【0080】
[その他の機能性層]
上記の機能性層以外にも例えば、複屈折パターン部材を剥離して再利用する行為を不可能とするため、破壊もしくは光学特性を変化させる機能層や、非可視光で顕在化する潜像技術など他のセキュリティ技術を組み合わせるための潜像層などの多様な機能性層と組み合わせることができる。被認証体を構成するその他の層は潜像の形成に影響を与えないレタデーション有するように構成されるか、前述のようにそれらの層のレタデーションを考慮して、あるいは光学異方性層の潜像形成ためのレタデーション値を考慮して設定することができる。
【0081】
光学異方性層、感光性樹脂層、転写接着層および所望により形成される配向層、熱可塑性樹脂層、力学特性制御層および中間層等の各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。二以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2761791号、同2941898号、同3508947号、同3526528号の各明細書および原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
また、光学異方性層上に塗布する層(例えば転写接着層)の塗布の際には、その塗布液に可塑剤や光重合開始剤を添加することにより、それらの添加剤の浸漬による光学異方性層の改質を同時に行ってもよい。
【0082】
(転写材料を被転写材料上に転写する方法)
転写材料を支持体等の被転写材料上に転写する方法については特に制限されず、被転写材料上に上記光学異方性層を転写できれば特に方法は限定されない。例えば、フィルム状に形成した転写材料を、転写接着層面を被転写材料表面側にして、ラミネータを用いて加熱および/又は加圧したローラー又は平板で圧着又は加熱圧着して、貼り付けることができる。
【0083】
(転写に伴う工程)
複屈折パターン作製用転写材料を被転写材料上に転写した後、仮支持体は剥離してもよく、しなくともよい。」

エ 「【0106】
(複屈折パターン作製用材料TR-1の作製)
厚さ100μmの易接着ポリエチレンテレフタレートフィルム(コスモシャインA4100、東洋紡績(株)製)の仮支持体の上に、ワイヤーバーを用いて順に、配向層用塗布液AL-2を塗布、乾燥した。乾燥膜厚は0.5μmであった。次いで、配向層をMD方向にラビングし、ワイヤーバーを用いて光学異方性層用塗布液LC-2を塗布、膜面温度105℃で2分間乾燥して液晶相状態とした後、空気下にて160mW/cm2の空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を照射してその配向状態を固定化して厚さ3.1μmの光学異方性層を形成して光学異方性層塗布サンプルTRC-1を作製した。この際用いた紫外線の照度はUV-A領域(波長320nm?400nmの積算)において100mW/cm2、照射量はUV-A領域において80mJ/cm2であった。光学異方性層は20℃で固体の高分子で、耐MEK(メチルエチルケトン)性を示した。
次いで、光学異方性層の上に保護層用塗布液PL-1を塗布、乾燥して1.2μmの保護層を形成し、複屈折パターン作製用転写材料TR-1を作製した。
【0107】
(複屈折パターン転写材料TR-A、B、C、Dの作製)
フォトマスクA´、B´、C´、D´はいずれも同じ大きさである。TR-1を、フォトマスクと同じ大きさに4枚切り出した。このとき、それぞれ、長辺がMD方向、長辺がMD方向から135度方向、長辺がMD方向から90度方向、長辺がMD方向から45度方向となるように切り出した。長辺がMD方向となるように切り出したTR-1の上にフォトマスクA´を重ねた状態で、ミカサ社製M-3Lマスクアライナーを用いてピーク波長が365nmの光を露光照度6.25mW/cm2で10秒間照射して、複屈折パターン転写材料TR-Aを作製した。
同様に、長辺がMD方向から135度方向となるように切り出したTR-1、長辺がMD方向から90度方向となるように切り出したTR-1、長辺がMD方向から45度方向となるように切り出したTR-1の上に、それぞれ、フォトマスクB´、C´、D´を用いて露光して、複屈折パターン転写材料TR-B、C、Dを作製した。
【0108】
(複屈折パターンBP-2の作製)
アルミニウムを60nm蒸着した、厚さ25μmのポリイミドフィルム(カプトン200H、東レ・デュポン(株)製)を用意した。複屈折パターン転写材料TR-Aをラミネータ((株)日立インダストリイズ製(LamicII型))を用い、100℃で2分間加熱した上記ポリイミドフィルムのアルミ蒸着面に、ゴムローラー温度130℃、線圧100N/cm、搬送速度1.4m/分でラミネートした。ラミネート後、仮支持体を剥離した。この上に、同様の手法で複屈折パターン転写材料TR-B、C、Dをラミネートした。
その後、さらに200℃のクリーンオーブンで30分間のベークを行って、図5の平面図に示すのと同様のパターンの、複屈折パターンBP-2を作製した。
BP-2の文字A12、文字B13、文字C14、背景15の遅相軸はそれぞれ、BP-2の長辺に対して0°、45°、90°、135°であった。また、これらの領域のレタデーションはいずれも270nm(λ/2)であった。」

オ 段落【0071】や【0074】等の記載から、複屈折パターン作製材料と仮支持体とを備え、複屈折パターン作製材料を別の支持体上に転写するために用いられる構造体を把握することができるところ、当該構造体を「転写用構造体」と表現すると、上記アないしウからみて、引用文献2には次の発明が記載されているものと認められる。
「複屈折パターン部材を得るための光学異方性層を含む構造体であり、フィルム状の転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料と、
複屈折パターン作製材料が上に形成される仮支持体を備え、
仮支持体がポリエチレンテレフタレートで構成される、転写用構造体。」(以下、「引用発明」という。)

(2)当審拒絶理由で引用文献3として引用された国際公開第2009/084180号には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「[0023] 本発明のフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等が例示される。また、用いるポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であればよい。 かかる共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸およびオキシカルボン酸(例えば、P-オキシ安息香酸など)等から選ばれる一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。」

イ 「[0042] 本発明におけるポリエステルフィルムは、フィルム内における、実施例に記載した測定法における配向角の変動が3度/500mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは2度/500mm以下である。配向角の変動が3度/500mmを超える場合には、偏光板を検査する際に偏光板の位置により透過光強度が変動し、偏光板の安定した検査の障害となり、好ましくない。
[0043] 本発明におけるポリエステルフィルムは、主配向軸に対して、フィルム面内方向における直角方向の屈折率(nβ)が1.6400以下であることが好ましく、1.6400を超える場合には、フィルムの配向角の変動が大きくなる傾向にあり、偏光板の安定した検査の障害となるばかりか、粒子のボイド形成が顕著になり、偏光板検査の際に輝点となって見えやすく、検査の障害となり、好ましくない。
[0044] 本発明のフィルムの総厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲で有れば特に限定されるものではないが、通常4?100μm、好ましくは9?50μmの範囲である。
[0045] 次に本発明のフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
まず、本発明で使用するポリエステルの製造方法の好ましい例について説明する。ここではポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、使用するポリエステルにより製造条件は異なる。常法に従って、テレフタル酸とエチレングリコールからエステル化し、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応を行い、その生成物を重合槽に移送し、減圧しながら温度を上昇させ、最終的に真空下で280℃に加熱して重合反応を進め、ポリエステルを得る。
(略)
発明の効果
[0050] 本発明によれば、偏光板、位相差板等の離型フィルムに用いる、フィルムの輝点が極力少なく、異物検査精度を高めることができるポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
発明を実施するための最良の形態
[0051] 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例中「部」とあるのは「重量部」を示す。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
(略)
[0054] (3)フィルム内における配向角の変動の測定:
ポリエステルフィルムの幅方向において、中心となる位置より、幅方向に両端に向かって、500mm毎の位置および、最両端のサンプルを切り出し、それぞれ王子計測器社製の自動複屈折率計(KOBRA-21ADH)を用いてフィルム幅方向500mm毎の配向角の変動を求めた。なお、最両端の位置を含む配向角の変動を算出する際、サンプル位置間が500mmに満たない場合は、比例計算にて500mm毎の配向角の変動を算出する。続いてフィルム長手方向について、3m長を切り出し、フィルム幅方向に対して中心となる位置から長手方向に500mm毎(含両端)、計7箇所の位置より、サンプルを切り出し、配向角を求めた。このようにして幅方向、長手方向での500mm毎の配向角の変動を求め、最大の変動値をそれぞれフィルムの配向角の変動とした。また、測定の際にはすべてのサンプルにおいて配向角の基準軸を同一とすることが重要であり、基準軸については任意に決定できる。
[0055] (4)フィルムの屈折率(nβ):
ポリエステルフィルムの幅方向において、中心となる位置より、幅方向に両端に向かって500mm毎の位置および、最両端のサンプルを切り出し、アタゴ光学(株)製Abbe屈折計を用いてフィルム面内の主配向軸に対して直角方向の屈折率を各位置について測定し、平均値を求めて、nβとした。
(略)
[0062] (10)クロスニコル下での異物認知性:
硬化型シリコーン樹脂(信越化学製「KS-779H」)100部、硬化剤(信越化学製「CAT-PL-8」)1部、メチルエチルケトン(MEK)/トルエン混合溶媒系2200部よりなる離型剤を塗工量が0.1g/mm^(2)になるようにポリエステルの片面に塗布して170℃で10秒間の乾燥を行い、離型フィルムを得た後、離型フィルムの幅方向が偏光フィルムの配向軸と平行となるように、公知のアクリル系粘着剤を介して離型フィルムを偏光フィルムに密着させ離型フィルム付きの偏光板を作成した。ここで上記偏光板を作成する際、粘着剤と偏光フィルムとの間に50μm以上の大きさを持つ黒色の金属粉(異物)を50個/m^(2)となるように混入させた。このようにして得られた異物を混入させた偏光板離型フィルム上に配向軸が離型フィルム幅方向と直交するように検査用の偏光板を重ね合わせ、偏光板側より白色光を照射し、検査用の偏光板より10人の検査員がそれぞれ目視にて観察し、粘着剤と偏光フィルムとの間に混入させた異物を見いだせるかどうかを下記分類にて評価した。なお、測定の際には、得られたフィルムの中央部のフィルムを用いて評価した。
[0063]
<異物認知性 分類基準> (異物認知性良好) ◎>○>△>× (異物認知性不良) 上記判定基準中、○以上のものが実使用上問題なく使用できるレベルである。」


「[0068]




4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「複屈折パターン部材を得るための光学異方性層を含む構造体であり、転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料」は、引用文献2の段落【0082】に記載されているように、被転写材料上に転写されるものであるから、本願発明の「被転写基材への積層に供する転写層」に相当する。

(2)引用発明の「複屈折パターン作製材料が上に形成される仮支持体」は、複屈折パターン作製材料を支持するといえるから、本願発明の「前記転写層を支持する支持体基材」に相当する。

(3)引用発明の「仮支持体がポリエチレンテレフタレートで構成される」ことと、本願発明の「前記支持体基材が、PETフィルムであって、最も配向角の変化が大きな方向における前記配向角の変化の絶対値が500mm当たり5度以内であり、リタデーションが3000nm以下である」ことは、「前記支持体基材が、PETで構成される」点で共通する。

(4)引用発明において、転写材料として用いられる複屈折パターン作製材料はフィルム状であるから、複屈折パターン部材は光学フィルムであるといえる。そうすると、引用発明の「転写用構造体」は、本願発明の「光学フィルム用転写体」に相当する。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「被転写基材への積層に供する転写層と、
前記転写層を支持する支持体基材とを備え、
前記支持体基材が、PETで構成される、
光学フィルム用転写体。」の点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明では、「前記支持体基材が、PETフィルムであ」るのに対し、
引用発明では、「仮支持体がポリエチレンテレフタレートで構成される」点。

・相違点2
本願発明では、「前記支持体基材」の「最も配向角の変化が大きな方向における前記配向角の変化の絶対値が500mm当たり5度以内であ」るのに対し、
引用発明では、仮支持体についてそのような特定がない点。

・相違点3
本願発明では、「前記支持体基材」の「リタデーションが3000nm以下である」のに対し、
引用発明では、仮支持体についてそのような特定がない点。

5 判断
(1)相違点1について
引用文献2には、実施例として、仮支持体を易接着ポリエチレンテレフタレートフィルムとしたものが記載されている(段落【0106】?【0108】(上記3(1)エ)参照。))から、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、実質的な相違点だとしても、転写層を基材フィルム上に設けることは、この出願時に周知技術であり、また、引用発明の「仮支持体」は、フィルム状の複屈折パターン作製材料と一体となって被転写材料上に転写される(引用文献2の段落【0083】(上記3(1)ウ)参照。)から、複屈折パターン作製材料のようにフィルム状であるのが良いということは当業者であれば容易に理解し得ることである。そうすると、引用発明において、「ポリエチレンテレフタレートで構成される」「仮支持体」をPETフィルムとして、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
ア 引用発明の「ポリエチレンテレフタレートで構成される」「仮支持体」は、製造工程において光学特性を検査する目的に、透明で低複屈折の材料が好ましい(引用文献2の段落【0074】(上記3(1)ウ)参照。)とされている。これは、複屈折パターン作製材料の光学特性を検査する際に、仮支持体が光学的な影響を与えるから、検査精度を高めるため、検査に光学的な影響をできるだけ与えないものが仮支持体の材料として好ましいということを意味していると解される。そして、複屈折パターン作製材料の光学特性の検査に光学的な影響を与え得る要因として、仮支持体の透明性や複屈折性のほかに配向角の変動などがあることは、当業者であれば容易に理解し得ることである。
イ 引用文献3には、偏光板の検査精度を高めるため、前記偏光板の離型フィルムとして用いられるポリエステル(代表例ポリエチレンテレフタレート)フィルムにおける最も配向角の変化が大きな方向における配向角の変動を3度/500mm以下とすることが記載されていると認められる(段落[0023]、[0042]-[0045]、[0050]-[0063](上記3(2)ア及びイ)等参照。)。そして、検査精度を高めるということは一般的な課題であり、また、引用発明においても、検査に光学的な影響を与え得る仮支持体のポリエチレンテレフタレートの配向角の変動を小さくするという課題が潜在しているといえるから、引用発明の仮支持体のポリエチレンテレフタレートを、引用文献3に記載されたように、最も配向角の変化が大きな方向における配向角の変動を3度/500mm以下として、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
ア 引用発明の「ポリエチレンテレフタレートで構成される」「仮支持体」は、製造工程において光学特性を検査する目的に、透明で低複屈折の材料が好ましい(引用文献2の段落【0074】(上記3(1)ウ)参照。)とされている。また、引用発明の「複屈折パターン作製材料」に含まれる「光学異方性層」は、レタデーション値が20nm以上1000nm以下のものが想定されている(引用文献2の段落【0024】(上記3(1)ア)参照。)ところ、「仮支持体」のポリエチレンテレフタレートのレタデーション値が「光学異方性層」のレタデーション値と比べ大きすぎると、検査に光学的な影響が生じることは当業者であれば容易に理解し得ることである。
イ 引用発明において、検査のために仮支持体のポリエチレンテレフタレートをレタデーション値が小さい低複屈折のものとするに際し、仮支持体に支持される「複屈折パターン作製材料」に含まれる層のレタデーション値(20nmも含まれる)を考慮して、仮支持体のポリエチレンテレフタレートのリタデーション値を3000nm以下とし、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)したがって、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献3に記載された事項、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
本願発明は、当業者が引用発明、引用文献3に記載された事項、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-16 
結審通知日 2018-03-20 
審決日 2018-04-04 
出願番号 特願2012-204549(P2012-204549)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 関根 洋之
清水 康司
発明の名称 光学フィルム用転写体  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  

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