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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1340564
審判番号 不服2017-4802  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-05 
確定日 2018-05-17 
事件の表示 特願2014-206962「核酸増幅方法、核酸増幅用の核酸試料の製造方法および核酸解析方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月21日出願公開、特開2015- 96061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26(2014)年10月8日(優先権主張 平成25年10月8日)の出願であって、平成28年4月25日付けの拒絶理由の通知に対し、平成28年7月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成28年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年4月5日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年4月5日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月5日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりに補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「総体積0.01?1mm^(3)の単離した生体組織ならびに水、緩衝液および生理食塩水からなる群から選択された少なくとも一つである水性溶媒10?40μLのみを含む混合物を、5?20分間の加熱処理時間で加熱することにより、前記生体組織から核酸を放出させる加熱処理工程、および、反応液50μL当たりに含まれる核酸試料が、総体積0.01?1mm^(3)の前記生体組織から得られた試料となるように、前記加熱処理工程後の前記混合物の全量をそのまま採取して、その全量を前記核酸試料とし、前記核酸試料を含む前記反応液中で、前記核酸試料中の核酸を鋳型として、核酸増幅を行う増幅工程を含み、前記加熱処理工程の前後において、組織溶解用の酵素による酵素処理を行わず、前記単離した生体組織および前記水性溶媒のみを含む前記混合物の加熱処理のみにより前記核酸試料を調製することを特徴とする、核酸増幅方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年7月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「単離した生体組織ならびに水、緩衝液および生理食塩水からなる群から選択された少なくとも一つである水性溶媒のみを含む混合物を、5?60分間の加熱処理時間で加熱することにより、前記生体組織から核酸を放出させる加熱処理工程、および、反応液50μL当たりに含まれる核酸試料が、総体積0.01?1mm^(3)の前記生体組織から得られた試料となるように、前記加熱処理工程後の前記混合物をそのまま採取して、その全量を前記核酸試料とし、前記核酸試料を含む前記反応液中で、前記核酸試料中の核酸を鋳型として、核酸増幅を行う増幅工程を含み、前記加熱処理工程の前後において、組織溶解用の酵素による酵素処理を行わず、前記単離した生体組織および前記水性溶媒のみを含む前記混合物の加熱処理のみにより前記核酸試料を調製することを特徴とする、核酸増幅方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「単離した生体組織」の総体積、「水性溶媒」の量、「加熱処理時間」の「60分間」、採取する「加熱処理工程後の前記混合物」の量を、それぞれ、出願当初の明細書の【0019】に記載されていた「0.01?1mm^(3)」、同【0026】に記載されていた「10?40μL」、同【0023】に記載されていた「20分間」、同【0016】に記載されていた「全量」に限定するものである。
補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下で検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用発明の認定
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日(平成25年10月8日)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、「Journal of Clinical Pathology,1994年,Vol.47,p.318-323」(平成6年発行。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。(当審にて、翻訳を行い、下線を付与した。)

ア-1
目的
所定に固定されたパラフィン包埋組織から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にDNAを提供する4つの迅速なDNA抽出方法を、評価すること。

手段
様々な組織から得られた18ブロック、子宮頸管がん検体の18ブロック、B細胞リンパ腫の9ブロックが調査された。正常サイズと生検標本サイズの両方の組織が検査された。DNAは、4つの方法、すなわち蒸留された水の中での20分間の沸騰;5%のChelex-100樹脂の溶液中での20分間の沸騰;3時間のproteinase Kでの消化;及び3時間のproteinase Kでの消化に続く5%のChelex-100樹脂の溶液中での20分間の沸騰;により抽出された。p53遺伝子の異なるエクソン、ヒトパピローマウイルス16型(HPV16)の配列、イムノグロブリン重鎖(IgH)遺伝子の再編成物が、抽出物より、増幅された。

結果
Chelex沸騰、proteinase K消化、及びproteinase K消化-Chelex沸騰の方法においては、45のサンプルの全てで所定の増幅が行えた。水中沸騰は、45のサンプルのうち3つ(7%)でPCRの鋳型が不十分となり、42の陽性例のうち6つ(14%)で弱いバンドが観察された。殆どが生検検体の場合であったりB細胞リンパ腫の場合であった。p53遺伝子の断片は、沸騰水抽出で、408bpまで首尾良く増幅した。・・・全ての鋳型は-20℃で3ヶ月保存後も再利用できた。

結論
Chelex沸騰、proteinase K消化、及びproteinase K消化-Chelex沸騰の方法は、多様なパラフィン包埋組織切片から、PCRにとって最適な鋳型を提供した。5%のChelex-100溶液中で20分間沸騰という簡易な方法は、最小限な操作、時間で行えるため、特に多くの材料を所定の手順で処理する際に有用である。(要約)

ア-2
ホルマリン固定パラフィン包埋組織からのDNA抽出で、最も広く知られたプロトコールは、3時間から数日の範囲で、プロテアーゼ処理を行うもので、追加的に有機溶剤による純化、エタノール沈殿^(9-13)を要するか要しないものである。PCRのための組織処理の代替法として、蒸留水を沸騰する方法^(3 14 15)、捕獲樹脂を含む溶液を沸騰させて溶解した細胞を得る方法^(4 5 10)がある。・・・
大規模且つ所定の手順で、包埋物を処理するために、DNA抽出は、PCRの結果に影響を与えることなく、簡易且つ迅速に行われるべきである。更に、汚染の可能性を最小化するためにできるだけ少ない工程とされるべきである。(318頁右欄21行?39行)

ア-3
DNA抽出
正常サイズ組織から5μmの切片(集められた平均体積1.44mm^(3))、生検標本サイズ組織から10μmの切片(集められた平均体積0.034mm^(3))が切り出され以下の4つの方法(方法A?D)に付された。
方法A
切片は前処理を行い、又は行わずに100μl(生検標本切片は50μl)の蒸留水に再懸濁され、20分間沸騰された(Lenth等の方法^(15)を改訂)。前処理を行う場合には、60℃で20分間のキシレンによる2回のワックス除去、無水エタノールでの脱水(rehydrationはdehydrationの誤記と解した。)、乾燥が含まれる。(319頁左欄下から8行?右欄9行)

ア-4
PCR
PCRは、Perkin Elmer Cetus Thermal Cycler(Perkin-Elme,Norwalk,Connecticut,USA)にて行われた。反応混合物(全容量で50μl又は25μl)で10-20pモルのプライマー、1×PCRバッファー・・・鋳型を含んでいる。(320頁左欄3行?14行)

引用発明の認定
摘記ア-3には、平均体積0.034mm^(3)の生検標本組織を切り出し、50μlの蒸留水に懸濁、20分間沸騰させることによって、当該組織から、DNAを抽出できることが記載され、摘記ア-1、ア-4には、抽出されたDNAを、鋳型として、50μlのPCRの反応混合物に加え、p53遺伝子の断片を首尾良く増幅したことが記載されている。
以上の記載事項からすると、引用文献1には、
「平均体積0.034mm^(3)の生検標本組織と50μlの水を含む混合物を、20分間加熱することによりDNAを抽出し、50μlの反応混合物に、抽出されたDNAを鋳型として加え、DNAの増幅を行う、DNAの増幅方法」の発明(引用発明)が記載されている。

(3)本件補正発明と引用発明との対比
引用発明の「生検標本組織」、「DNA」、「反応混合物」、「抽出」は、本件補正発明の「単離した生体組織」、「核酸」、「反応液」、「放出」にそれぞれ相当し、本件補正発明と引用発明は、核酸(DNA)の放出(抽出)を、水のみを含む混合物の加熱処理にて行うこと、当該加熱処理の前後で組織溶解用の酵素による処理を行わないことで共通している。
そうすると、本件補正発明(前者)と引用発明(後者)は、
「単離した生体組織ならびに水である水性溶媒のみを含む混合物を、20分間の加熱処理時間で加熱することにより、前記生体組織から核酸を放出させる加熱処理工程、および、核酸試料を含む反応液中で、前記核酸試料中の核酸を鋳型として、核酸増幅を行う増幅工程を含み、前記加熱処理工程の前後において、組織溶解用の酵素による酵素処理を行わず、前記単離した生体組織および前記水性溶媒のみを含む前記混合物の加熱処理のみにより前記核酸試料を調製する、核酸増幅方法」で一致し、
前者が、加熱する混合物として、総体積0.01?1mm^(3)の生体組織と水性溶媒10?40μLを含む混合物を使用しているのに対し、後者が、平均体積0.034mm^(3)の生体組織と水性溶媒50μlを含む混合物を使用している点(相違点1)、
前者が、反応液50μL当たりに含まれる核酸試料が、総体積0.01?1mm^(3)となるように、加熱処理工程後の混合物の全量をそのまま採取し、その全量を核酸試料に用いているのに対し、後者では、加熱処理工程後の混合物における核酸試料の全量を反応混合物に用いることについて言及していない点(相違点2)
で相違している。

(4)相違点の判断
以下、相違点1、2について検討する。

(i)相違点1について
摘記ア-3によれば、正常サイズ組織の場合に、体積1.44mm^(3)のものを100μlの水性媒体に懸濁させるとされているので、使用する生体組織の大きさや種類に応じて、当業者が水性媒体の量を適宜設定できることは、引用文献1に示唆されているといえる。
そうすると、水性媒体の使用量として、50μlに近接する10?40μlの範囲を採用すること、また、この水性媒体の使用量に見合った生体組織の大きさを、平均体積0.034mm^(3)や1.44mm^(3)を参考にして、取捨選択し、総体積0.01?1mm^(3)の範囲に至ることは、当業者が容易になし得たものである。

(ii)相違点2について
摘記ア-2によれば、DNA抽出は、簡易且つ迅速に行われるべきものであり、汚染を防ぐために、工程数を可能な限り少なくすることが求められていたところ、50μlの水に含まれる0.034mm^(3)の生検標本組織から抽出されたDNAを、摘記ア-4に記載される50μlのPCR反応混合物に、そのまま用いる方法が、より簡易且つ迅速で、工程数も少なくなることは、当業者に明らかである。
なお、水性溶媒のみを含む混合物ではないが、組織溶解用の酵素による酵素処理を行わずに加熱によりDNAを抽出する方法において、加熱後の混合物の全量を、PCR反応に供する例は、当業者に各種知られている。
(例えば、摘記ア-2の「蒸留水を沸騰させたり^(3)」の番号3で引用されている「J.EXP.MED.,1988年,Vol.167,p.225-230」の226頁32行?45行や平成28年4月25日付け拒絶理由通知書で引用された「Journal of Clinical Pathology: Molecular Pathology,2000年,Vol.53,p.51-52」(引用文献2)の51頁右欄28行?52頁右欄4行を参照。)
そうすると、引用発明において、加熱処理後の混合物の全量を、PCR反応液の核酸試料として用い、反応液50μL当たりに含まれる核酸試料が、総体積0.01?1mm^(3)となるように調整することは、当業者が容易になし得たものである。

また、本件補正発明の効果についてみても、引用発明では、体積0.034mm^(3)という小さい切片体積の生検標本組織が使用され、p53遺伝子の断片の増幅に成功しているから、本件補正発明によって、当業者の期待、予測を超える効果を奏したとは評価できない。

(iii)審判請求人の主張について
審判請求人は、引用文献1に記載のDNAの抽出方法では、加熱処理前に、本願発明の核酸増幅方法における水性溶媒の量(10?40μL)よりも多い、50?100μlの精製水を添加した後に、20分間加熱処理しており、PCR反応に適切な核酸の量とするためには、加熱処理して得られたサンプル中の水を、更に、蒸発等により除去する時間が必要であり、引用文献1は、本願発明の課題である、「簡易に効率よく核酸を回収する」ことを想定していない、そのため、引用文献1に記載のDNA抽出方法では、加熱処理工程後の混合物の全量を核酸試料とし、核酸増幅を行う動機付けはない、と主張している。
しかし、引用発明の加熱前の混合物とPCR反応混合物は、50μlで同じ容量なので、簡易且つ迅速にDNAの増幅を行うために、加熱後の混合物に含まれるDNAを、そのままPCR反応混合物に利用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
しかも、本願明細書の表1には、水性溶媒として20μLを使用し、加熱温度94?96℃で10分間加熱を行った場合、水性溶媒が9μLまで減少することが記載されているので、この10分よりも加熱時間の長い20分で加熱を実施している引用発明においては、加熱後の水性溶媒の量が、当初の50μlよりも相当程度、減少していることが、推認できる。
そうすると、審判請求人が主張するように、PCR反応に必要な容量50μlに合わせるために、蒸発等により水性溶媒を除去する必要があったとは認められない。
一方、DNA抽出が、簡易且つ迅速に行われるべきものであることは、摘記ア-2に記載されているので、引用文献1は、「簡易に効率よく核酸を回収する」という課題を想定したものといえる。
したがって、引用発明において、混合物の全量を核酸試料とし、核酸増幅を行うことに動機付けがないとの審判請求人の主張を採用することはできない。

(5)小括
本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年4月5日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年7月1日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記の第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?13に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.Journal of Clinical Pathology,1994年,Vol.47,p.318-323

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記の第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、上記の第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「0.01?1mm^(3)」、「10?40μL」、「20分間」、「全量」に係る限定事項を削除したものである。
したがって、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記の第2の[理由]2(3)?(5)に記載したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-13 
結審通知日 2018-03-20 
審決日 2018-03-30 
出願番号 特願2014-206962(P2014-206962)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 福井 悟
高堀 栄二
発明の名称 核酸増幅方法、核酸増幅用の核酸試料の製造方法および核酸解析方法  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  

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