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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07K
管理番号 1340598
審判番号 不服2017-4937  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-06 
確定日 2018-06-12 
事件の表示 特願2014-513198「アフィニティクロマトグラフィーのための、洗浄溶液および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日国際公開、WO2012/164046、平成26年 6月30日国内公表、特表2014-515389、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年5月31日(パリ条約による優先権主張 2011年6月1日 米国)の出願であって、平成28年3月17日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年6月22日付けで手続補正がされ、平成28年11月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年11月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-15に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2010-502737号公報
2.特開平1-238534号公報

第3 本願発明
本願請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、平成29年4月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製した目的のタンパク質を生成する方法であって、8.5?9.5のpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行い、目的のタンパク質が、抗体、またはFc領域を含むタンパク質であり、ACマトリックスが、プロテインAマトリックス、プロテインGマトリックス、およびプロテインA/Gマトリックスからなる群より選択される、方法。」

なお、本願発明2-13の概要は以下のとおりである。

本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明4は、ACマトリックスがプロテインAカラムに減縮された以外は、実質的に本願発明1と同一の発明である。
本願発明5は、本願発明4を減縮した発明である。
本願発明6、7及び9は、本願発明1-5のいずれか1つを減縮した発明である。
本願発明8は、本願発明1-7のいずれか1つを減縮した発明である。
本願発明10は、本願発明9を減縮した発明である。
本願発明11は、本願発明1-10のいずれか1つを減縮した発明である。
本願発明12は、本願発明1-11のいずれか1つを減縮した発明である。
本願発明13は、本願発明1-12のいずれか1つを減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。

(i)
「【0083】
【表2】

(実施例2)
GDF-8 mAb‐2:HCPおよび濁度の低減、並びに産生物の回収に関するProtein A洗浄バッファの比較
GDF-8 mAb‐2を含むCHO細胞培養プロセスからの馴化培地をMabSelect(商標)Protein Aカラムを用いて小規模に精製した。最初の評価に用いたカラムサイズは、直径が0.5cmまたは1.1cmでベッド高さが8cmから25cmであった。GDF-8 mAb‐2の精製のために用いたProtein Aの操作条件、並びにHCPおよびプール濁度のピーク値の低減について評価するための洗浄溶液は、実施例1で用いたものと同じであった(評価された試験溶液については表2参照)。
【0084】
比較参照用の1M NaCl洗浄溶液を用いたとき、Protein Aの溶出プールにおいて著しい沈澱および産生物の損失が観測された(図2)。加えて、Protein Aカラムステップを通したHCPのクリアランスは、1log10より小さかった。10% イソプロパノール、0.5M グアニジン‐HCl(GuHCl)、または2M Tris‐HClのような代替洗浄溶液と比較して、アルギニン洗浄液は、>75%の産生物の回収を維持する一方で、HCPを除去し、溶出プールの濁度を低減するのにより有効であった(図2)。」

(ii)
【図2】


(iii)
「【0024】
【図1】Protein Aカラムステップ後におけるGDF‐8 mAb‐1の回収率(%)、濁度、HCP(“host cell proteins”)およびLRV(“log removal value”)を評価した実験の結果を示す棒グラフである。
【図2】Protein Aカラムステップ後におけるGDF‐8 mAb‐2の回収率(%)、濁度、HCPおよびLRVを評価した実験の結果を示す棒グラフである。」

(iv)
「【0011】
本様態のいくつかの実施形態において、洗浄溶液のpHは約4.5から約8.0である。ある実施形態では、洗浄溶液のpHは約4.5より大きく、約8.0より小さい。いくつかの実施形態において、洗浄溶液のpHは約7.5である。」

上記摘記事項(i)、(ii)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「MabSelect(商標)Protein Aカラムを使用して、精製したGDF-8 mAb‐2を生成する方法であって、7.5のpHのアルギニン及びTrisを含有する洗浄溶液を用いて上記カラムを洗浄することを含む方法。」

また、上記摘記事項(ii)?(iv)より、引用文献1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「pH5.0のアルギニン洗浄液を使用した場合に、pH7.5のアルギニン洗浄液を使用した場合と比べて、HCPの除去率が高かったこと、すなわち、不純物が少なかったこと。」
「本様態のいくつかの実施形態において、洗浄溶液のpHは約4.5から約8.0であること。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
「実施例1
ボウズ(Bowes)メラノーマ細胞(ATCC CRL 1424G361)を10%熱不活性化(56℃、30分間)胎児牛血清を補充したRPMI-1640組織培養媒体中で培養後、培養物を一度洗い血清を含まない媒体中で24時間培養後、媒体を集め収穫液とした。収穫液10lを適当な方法で部分精製した組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)水溶液を出発物質とした。本溶液のpHは7?8、活性は1×104IU/mlであった。また、この溶液のエンドトキシン含量はリムルス試験法で約20ng/ml(E.coli 0.55:B5相当)であった。
この溶液20mlをF.J.Joubertらの方法(Hoppe-Sol-yers’Z.Phigsid Cham,362,531?538,1981)に従って精製したエリスリナトリプシンインヒビタ-(ETI)をアガロース樹脂に固定化したETI-アガロース(5mg ETI/ml樹脂)2mlに通した。
続いて、0.5Mアルギニン及び0.1M食塩を含む50mMのNaH2PO4-NaOH pH9.5 20mlさらに蒸留水10mlで洗浄した。素通し液中のt-PA活性は添加総量の約5%であった。
続いて、0.1M食塩を含む0.1M NaH2PO4-H3PO4 pH2.85mlでtPAを溶出するとほぼ定量的にtPAが回収でき、かつエンドトキシン含量はリムルス試験法で10pg/ml以下であり、ほぼ完全にエンドトキシンフリーの製剤が得られた。」(第209頁左上欄第9行?同右上欄第14行)

ここで、上記記載の方法がアフィニティクロマトグラフィーに相当することは技術常識より明らかであるから、上記引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製した目的のタンパク質を生成する方法であって、精製したエリスリナトリプシンインヒビタ-(ETI)をアガロース樹脂に固定化したETI-アガロースを使用して、精製した組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)を生成する方法であって、9.5のpHのアルギニン及び食塩を含む緩衝溶液で上記カラムを洗浄することを含む方法。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明における「MabSelect(商標)Protein Aカラム」は、本願発明1における「目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックス」、「プロテインAマトリックス」に相当する。

引用発明における「GDF-8 mAb‐2」は、本願発明1における「目的のタンパク質」、「抗体、またはFc領域を含むタンパク質」に相当する。

引用発明における「アルギニン及びTrisを含有する洗浄溶液」は、第4の1.の摘記事項(i)の表2のとおり、非緩衝塩を含んでいないから、引用発明の「アルギニン及びTrisを含有する洗浄溶液を用いて上記カラムを洗浄」は、本願発明1における「アルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行い」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「目的のタンパク質が結合するアフィニティクロマトグラフィー(AC)マトリックスを使用して、精製した目的のタンパク質を生成する方法であって、アルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液を用いて、ACマトリックスを洗浄することを含み、洗浄を非緩衝塩の存在なしで行い、目的のタンパク質が、抗体、またはFc領域を含むタンパク質であり、ACマトリックスが、プロテインAマトリックス、プロテインGマトリックス、およびプロテインA/Gマトリックスからなる群より選択される、方法。」

(相違点)
本願発明1における洗浄溶液が8.5?9.5のpHであるのに対し、引用発明における洗浄溶液は7.5のpHである点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。
上記第4の2.に記載のとおり、引用文献2には9.5のpHを有する洗浄溶液が記載されている。
しかしながら、引用発明がプロテインAマトリックスを用いて抗体を精製する方法であるのに対して、引用文献2に記載された方法は、エリスリナトリプシンインヒビタ-(ETI)をアガロース樹脂に固定化したETI-アガロースを用いて組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)を精製する方法であり、両者はアフィニティクロマトグラフィーを用いた精製方法である点では共通するものの、精製対象タンパク質とマトリックスの組合せの点で異なっている。
ここで、アフィニティクロマトグラフィーは精製対象タンパク質とマトリックス間の特異的相互作用を利用した方法であり、洗浄溶液についても精製対象タンパク質とマトリックスの組合せに応じて設定するのが基本であるから、引用発明のマトリックスと異なるマトリックスを用いる、引用文献2に記載される精製方法の洗浄溶液を、引用発明において採用することを当業者が想到するとはいえない。さらに、上記第4の1.に記載のとおり、引用文献1には、pH7.5の洗浄溶液よりもpH5.0の洗浄溶液を使用した場合の方が不純物が少なかったことが示されているから、不純物の低減を期待する当業者が、引用文献1に記載された上限値であるpH約8.0よりも高いpHの洗浄溶液をあえて採用する動機付けは見当たらない。
したがって、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から、相違点1に係る本願発明1の「8.5?9.5のpH」という構成を容易に想到することはできない。

したがって、本願発明1は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明4について
本願発明4も、本願発明1と同じく「8.5?9.5のpHのアルギニンまたはアルギニン誘導体を含む洗浄溶液」を用いる洗浄工程を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明2、3、5-13について
本願発明2、3、5-13は、本願発明1または4を減縮した発明であるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-13は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2014-513198(P2014-513198)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 北村 悠美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
松浦 安紀子
発明の名称 アフィニティクロマトグラフィーのための、洗浄溶液および方法  
代理人 大森 規雄  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 片山 英二  
代理人 小林 浩  
代理人 星川 亮  

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