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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1340617
審判番号 不服2017-7177  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-18 
確定日 2018-06-12 
事件の表示 特願2014-553386「熱伝達装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 1日国際公開、WO2013/112338、平成27年 3月 5日国内公表、特表2015-507284、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2013年1月17日(パリ条約による優先権主張2012年1月23日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成28年10月20日付けで拒絶理由が通知され,平成29年1月20日付けで手続補正がされ,平成29年2月1日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成29年5月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,平成29年12月6日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成30年3月8日付けで手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成29年2月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は,以下の引用文献A-Eに基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2008-269353号公報
B.特開平11-243289号公報
C.特開2003-258173号公報
D.特開2003-314936号公報
E.特表2010-541238号公報


第3 当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1:この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項8に係る発明の「複数の密閉式ヒート・パイプのそれぞれ」は,「相変化材料」として,固体と液体とで相変化するものを包含しているが,発明の詳細な説明を見ても,ヒート・パイプの相変化材料として,固体と液体とで相変化するものは開示されていない。 よって,請求項8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。

理由2:この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を考慮しても,具体的にどのようなものを相変化材料として採用することにより,固体と液体とで相変化するヒート・パイプを構成することができるのかが不明である。
よって,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

理由3:この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項8の記載では,「蓄熱エンクロージャ」及び「第1及び第2の密閉式ヒート・パイプ」と,「熱伝達装置」との包含関係が不明である。
よって,請求項8に係る発明は明確でない。

理由4: 本願請求項1-8に係る発明は,以下の引用文献1-7に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平11-202979号公報(当審で新たに引用した文献)
2.特開2003-258173号公報(拒絶査定時の引用文献C)
3.特開平09-303981号公報(当審で新たに引用した文献)
4.特開2008-269353号公報(拒絶査定時の引用文献A)
5.特開2000-261175号公報(当審で新たに引用した文献)
6.特開平11-243289号公報(拒絶査定時の引用文献B)
7.実願平05-075460号(実開平07-043021号)のCD-ROM(当審で新たに引用した文献)


第4 本願発明

本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成30年3月8日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1,8は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
使用中に少なくとも2次元の複数の向きに可動であるハウジングと,
前記ハウジング内に配設される熱発生装置と,
前記ハウジング内に配設される熱伝達装置と,を備えており,
前記熱伝達装置は,
前記熱発生装置に近接して配置される蓄熱エンクロージャであって,該蓄熱エンクロージャは,熱伝導及び蓄熱エンクロージャ内に含まれる相変化材料による相転移を利用して前記熱発生装置から熱を移動するように構成され,前記相変化材料は,低出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第1の温度を超えるが,高出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第2の温度より低い所定の温度で相転移するように構成される,蓄熱エンクロージャと,
熱伝導及び相転移を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された複数の密閉式ヒート・パイプと,を有しており,
前記複数の密閉式ヒート・パイプは,前記ハウジングの前記複数の向きに亘る移動中に前記熱発生装置から熱を移動するように配置され,
前記複数の密閉式ヒート・パイプは,反対の向きに配置された第1及び第2のヒート・パイプを含み,第1及び第2のヒート・パイプのそれぞれは,蒸発部及び凝縮部を有しており,第1及び第2のヒート・パイプの前記凝縮部は,互いに,第1及び第2のヒート・パイプの前記蒸発部から離れる方向に位置付けされ,前記複数の密閉式ヒート・パイプのそれぞれは,前記蓄熱エンクロージャ内に同じ相変化材料を含む,又は前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含み,前記複数の密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が相変化することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される,
装置。」

「【請求項8】
熱伝達装置であって,当該熱伝達装置は,
当該熱発生装置に近接して配置される蓄熱エンクロージャであって,該蓄熱エンクロージャは,熱伝導及び前記蓄熱エンクロージャ内に含まれる一定量の相変化材料を利用して前記熱発生装置から熱を移動するように構成され,前記熱発生装置は,低出力状態おいて,前記熱発生装置によって利用されるリソースを減少させ,又は高出力状態において,前記熱発生装置によって利用されるリソースを増大するように構成され,前記相変化材料は,低出力状態中に前記熱発生装置によって達成される第1の温度を超えるが,高出力状態中に前記熱発生装置によって達成される温度よりも低い所定の温度で融解するように構成される,蓄熱エンクロージャと,
熱伝導及び相変化を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された第1及び第2の密閉式ヒート・パイプと,を有しており,
第1及び第2の密閉式ヒート・パイプは,前記熱発生装置からコンピュータ装置の反対側に向けて熱を移動するように構成され,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプのそれぞれは,蒸発部及び凝縮部を有しており,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプの前記凝縮部は,互いに,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプの前記蒸発部から離れる方向に位置付けされ,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプのそれぞれは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含み,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される,
熱伝達装置。」

なお,本願発明2-7の概要は以下のとおりである。

本願発明2-7は,本願発明1を減縮した発明である。


第5 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について

当審拒絶理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(なお,下線は重要箇所に対して当審が付した。以下,同様。)。

(1)「【0011】
【発明の実施の形態】つぎに,この発明の具体例を図1ないし図3を参照して説明する。この具体例は,ノートブック型のパソコンに搭載したCPUおよびSVGAの冷却にこの発明を適用した例である。アルミ合金やマグネシウム合金などの金属あるいは合成樹脂によってパソコンケース1が中空容器状に形成されている。このパソコンケース1は,図1に示すように矩形状であり,その上端側の一つのエッジに,回動軸(図示せず)を中心にして回動することにより,パソコンケース1に対して開閉されるディスプレイ2が備えられている。」

(2)「【0027】つぎに,図5を参照して更に他の具体例について説明する。パソコンケース1の内部の底部には,プリント基板10が設けられている。このプリント基板10の図5での上面には,図示しないホルダを介してCPU7が固定されている。そのCPU7の上部には,内部に潜熱蓄熱材4の封入された蓄熱材容器3が設けられている。より詳細には,この蓄熱材容器3は,図5での底面にCPU7の形状に倣う窪み部を備えた密閉中空構造のほぼ直方体を成すものであり,窪み部にCPU7を嵌め込んだ状態でCPU7に取り付けられている。
【0028】蓄熱材容器3には,平板状のヒートパイプ11の一端部が液密を担保した状態で挿入されており,その端部は蓄熱材容器3の内壁面のうちCPU7の真上箇所に密着している。これに対して,ヒートパイプ11の他端部は,図示しない部品同士の間のデッドスペースを通って放熱箇所となる電磁シールド板(図示せず)に熱授受可能に配設されている。なお,ヒートパイプ11のうち他の部材と接触しない箇所の外周に断熱被覆してもよく,このようにすれば,ヒートパイプ動作中にコンテナからパソコンケース1の内部に放出される熱を減少させることができる。その他の構成は,図1ないし図3に示す具体例と同じである。
【0029】つぎに,上記の具体例のように構成されたこの発明の作用について説明する。この具体例においても,CPU7の発熱量が通常である状態では,ヒートパイプ11によってCPU7が冷却される。すなわち,CPU7の熱はヒートパイプ11のコンテナのうち図5での下面に伝達され,内部の作動流体が蒸発する。このように,ヒートパイプ11がCPU7の上側に配置され,しかも両者が面接触しているため,CPU7からヒートパイプ11への熱伝達が良好に行われる。
【0030】前記作動流体の蒸気は,コンテナの他端部に向けて流動し,そこで電磁シールド板に熱を奪われて凝縮する。その熱は,電子素子シールド板からパソコンケース1の外部に放散される。つまり,既成の電磁シールド板がいわゆるヒートシンクとして作用し,CPU7の過熱が防止される。
【0031】これに対して,CPU7の発熱量が想定レベルよりも多くなると,電磁シールド板に対するヒートパイプ11の熱輸送能力が不足して,パソコンケース1外部への放熱量が不充分となるために,CPU7の温度が上昇する。その温度が潜熱蓄熱材4の融点に達すると,潜熱蓄熱材4が融解し始めるとともに,その際の融解熱が潜熱として吸収される。そのため,その全量が融解しきるまでの間,潜熱蓄熱材1の温度上昇が停止する。
【0032】潜熱蓄熱材4の融解が進行する間にも,CPU7の熱はヒートパイプ11の作動流体によって電磁シールド板に輸送されるとともに,パソコンケース1の外部に排出される。特にこの具体例では,ヒートパイプ11がCPU7の上側に配置されていて両者の間での熱授受が良好に行われることにより,外部への放熱性がよいために,潜熱蓄熱材4の全量が直ちには融解せず,したがって,CPU7が直ちに過熱することがない。
【0033】これに対して,CPU7の発熱量が通常に戻り,CPU7の温度が潜熱蓄熱材4の凝固点まで低下すると,潜熱蓄熱材4が液体から固体に状態変化する。その際に放出される凝固熱は,ヒートパイプ11の作動流体によって電磁シールド板に供給され,パソコンケース1の外部に排出される。すなわち,潜熱蓄熱材4に冷熱が蓄えられ,そのためCPU7が適温に維持される。」

上記記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「パソコンケース1の内部の底部には,プリント基板10が設けられ,このプリント基板10の上面には,ホルダを介してCPU7が固定され,そのCPU7の上部には,内部に潜熱蓄熱材4の封入された蓄熱材容器3が設けられ,
蓄熱材容器3には,平板状のヒートパイプ11の一端部が液密を担保した状態で挿入されており,ヒートパイプ11の他端部は,放熱箇所となる電磁シールド板に熱接受可能に配設され,
CPU7の発熱量が通常である状態では,ヒートパイプ11によってCPU7が冷却され,すなわち,CPU7の熱はヒートパイプ11のコンテナの下面に伝達され,内部の作動流体が蒸発し,
作動流体の蒸気は,コンテナの他端部に向けて流動し,そこで電磁シールド板に熱を奪われて凝縮し,
CPU7の発熱量が想定レベルよりも多くなると,電磁シールド板に対するヒートパイプ11の熱輸送能力が不足して,パソコンケース1外部への放熱量が不十分となるために,CPU7の温度が上昇し,その温度が潜熱蓄熱材4の融点に達すると,潜熱蓄熱材4が融解し始めるとともに,その際の融解熱が潜熱として吸収され,そのため,その全量が融解しきるまでの間,潜熱蓄熱材4の温度上昇が停止し,
CPU7の発熱量が通常に戻り,CPU7の温度が潜熱蓄熱材4の凝固点まで低下すると,潜熱蓄熱材4が液体から固体に状態変化し,その際に放出される凝固熱は,ヒートパイプ11の作動流体によって電磁シールド板に供給され,パソコンケース1の外部に排出される。
ノートブック型パソコン。」

2 引用文献2-7について

当審拒絶理由に引用された引用文献2の段落【0016】-【0023】及び図1-2の記載からみて,当該引用文献2には,「第1及び第2のヒートパイプの凝縮部位が互いに集熱部材の延在方向の両端外側に各々対称に位置される」という技術的事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献3の段落【0021】-【0022】,【0026】-【0027】及び図4-5の記載からみて,当該引用文献3には,「ヒートパイプがパネルに対して放射状に埋設されているので,パネルが傾斜した状態でも必ず1つ以上のヒートパイプが熱輸送を行い,高発熱機器の放熱が可能となる」という技術的事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献4の段落【0041】及び図8の記載からみて,当該引用文献4には,「発生した熱をヒートパイプを経由してヒートシンクに伝達し,ヒートシンクに伝えられた熱をファンユニットによって筐体の外部に排出する」という技術的事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献5の段落【0019】,【0022】,【0024】及び図1-2の記載からみて,当該引用文献5には,「ヒートパイプの凝縮部の周囲にヒートシンクを配置し,ヒートシンクによる放熱を,強制対流による熱伝達状態に制御する冷却ファンを設ける」という技術的事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献6の段落【0014】及び図3の記載からみて,当該引用文献6には,「ヒートパイプの吸熱部上に放熱板を介してCPUを配する」という技術的事項が記載されていると認められる。

当審拒絶理由に引用された引用文献7の段落【0011】,【0015】及び図1,7の記載からみて,当該引用文献7には,「電子部品で発生した熱を,熱伝導板を介してヒートパイプの受熱部に伝える」という技術的事項が記載されていると認められる。


第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「ノートブック型パソコン」は,「パソコンケース1」を備えている。そして,一般的に,ノートブック型パソコンは,「使用中に少なくとも2次元の複数の向きに可動である」ことに鑑みれば,引用発明の「ノートブック型パソコン」が備える「パソコンケース1」も「使用中に少なくとも2次元の複数の向きに可動である」といえるから,この「パソコンケース1」は,本願発明1の「使用中に少なくとも2次元の複数の向きに可動であるハウジング」に相当する。

イ 引用発明では,「パソコンケース1の内部の底部には,プリント基板10が設けられ,このプリント基板10の上面には,ホルダを介してCPU7が固定され」ているから,「パソコンケース1」の内部に「CPU7」が配設されているといえ,この「CPU7」が「熱」を発生することは明らかである。
そうすると,引用発明の「CPU7」は,本願発明1の「前記ハウジング内に配設される熱発生装置」に含まれる。

ウ 下記(ア)-(エ)より,引用発明と本願発明1とは,「前記ハウジング内に配設される熱伝達装置と,を備えており,
前記熱伝達装置は,
前記熱発生装置に近接して配置される蓄熱エンクロージャであって,該蓄熱エンクロージャは,熱伝導及び蓄熱エンクロージャ内に含まれる相変化材料による相転移を利用して前記熱発生装置から熱を移動するように構成され,前記相変化材料は,低出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第1の温度を超えるが,高出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第2の温度より低い所定の温度で相転移するように構成される,蓄熱エンクロージャと,
熱伝導及び相転移を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された密閉式ヒート・パイプと,を有して」いる点で共通するといえる。

(ア)引用発明の「潜熱蓄熱材4」は,「融点に達する」と「融解し」,また,「液体から固体に状態変化する」から,液体と固体との間で相変化する材料であるといえる。
また,引用発明では,「CPU7の発熱量が想定レベルよりも多くなると」「CPU7の温度が上昇し,その温度が潜熱蓄熱材4の融点に達すると,潜熱蓄熱材4が融解し始め」,「CPU7の発熱量が通常に戻り,CPU7の温度が潜熱蓄熱材4の凝固点まで低下すると,潜熱蓄熱材4が液体から固体に状態変化する」から,「潜熱蓄熱材4」が相変化する温度は,「CPU7の発熱量が通常」のときに達成される温度より高く,「CPU7の発熱量が想定レベルよりも多くなる」ときに達成される温度より低いといえる。
そうすると,「CPU7の発熱量が通常」のときに達成される温度及び「CUP7の発熱量が想定レベルよりも多くなる」ときに達成される温度は,それぞれ本願発明1の「低出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第1の温度」及び「高出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第2の温度」に相当するといえるから,引用発明の「潜熱蓄熱材4」と本願発明1の「相変化材料」とは,「低出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第1の温度を超えるが,高出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第2の温度より低い所定の温度で相転移するように構成される」点で一致するといえる。

(イ)引用発明では,「CPU7の上部には,内部に潜熱蓄熱材4の封入された蓄熱材容器3が設けられ」,「CPU7の温度が上昇し,その温度が潜熱蓄熱材4の融点に達すると,潜熱蓄熱材4が融解し始めるとともに,その際の融解熱が潜熱として吸収され」るから,「CPU7の熱」は,「蓄熱材容器3」へ伝達され,その内部の「潜熱蓄熱材4」に「潜熱として吸収され」るといえる。
そうすると,引用発明の「潜熱蓄熱材4」と本願発明1の「蓄熱エンクロージャ」とは,「熱発生装置に近接して配置され」,且つ,「熱伝導及び蓄熱エンクロージャ内に含まれる相変化材料による相転移を利用して前記熱発生装置から熱を移動するように構成され」る点で一致するといえる。

(ウ)引用発明の「ヒートパイプ11」は,「液密を担保」しているから,「密閉式ヒートパイプ」であるといえ,また,「ヒートパイプ11のコンテナ」に「熱」が「伝達」されると「内部の作動流体が蒸発し」,「作動流体の蒸気」が「コンテナの他端部に向けて流動し」て「凝縮」することで「排熱」しているから,「熱伝導及び相転移を利用して」いるといえる。
さらに,引用発明では,「潜熱蓄熱材4が液体から固体に状態変化」し,「その際に放出される凝固熱は,ヒートパイプ11の作動流体によって」「パソコンケース1の外部に排出される」から,「ヒートパイプ11」は,「蓄熱材容器3」の内部の「潜熱蓄熱材4」から「熱を移動させる」ものといえる。
そうすると,引用発明の「ヒートパイプ11」と本願発明1の「熱伝導及び相転移を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された複数の密閉式ヒート・パイプ」とは,「熱伝導及び相転移を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された密閉式ヒート・パイプ」である点で共通するといえる。

(エ)引用発明では,「蓄熱材容器3」に「ヒートパイプ11の一端部が液密を担保した状態で挿入されて」いるから,両者は一体の構造であるといえる。また,上記(イ),(ウ)で述べたとおり,両者には「CPU7の熱」が伝達されている。
そうすると,引用発明の「蓄熱材容器3」及び「ヒートパイプ11」は,本願発明1の「前記ハウジング内に配設される熱伝達装置」に相当するといえる。

エ 引用発明では,「CPU7の熱はヒートパイプ11のコンテナの下面に伝達され,内部の作動流体が蒸発し,作動流体の蒸気は,コンテナの他端部に向けて流動し,そこで電磁シールド板に熱を奪われて凝縮」するから,引用発明の「ヒートパイプ11」と本願発明1の「ヒートパイプ」とは,「蒸発部及び凝縮部を有して」いる点で一致している。

オ 引用発明の「ヒートパイプ11」は,「一端部が液密を担保した状態」であり,「CPU7の熱」で「作動流体が蒸発」するから,液体と気体との間で相変化するものといえる。また,引用発明の「潜熱蓄熱材4」は,「液体から固体に状態変化する」ものである。
そうすると,引用発明と本願発明1とは,「密閉式ヒート・パイプ」が,「前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含」む点で共通するといえる。

カ 引用発明の「ノートブック型パソコン」は,本願発明1の「装置」に含まれる。

よって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「使用中に少なくとも2次元の複数の向きに可動であるハウジングと,
前記ハウジング内に配設される熱発生装置と,
前記ハウジング内に配設される熱伝達装置と,を備えており,
前記熱伝達装置は,
前記熱発生装置に近接して配置される蓄熱エンクロージャであって,該蓄熱エンクロージャは,熱伝導及び蓄熱エンクロージャ内に含まれる相変化材料による相転移を利用して前記熱発生装置から熱を移動するように構成され,前記相変化材料は,低出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第1の温度を超えるが,高出力状態の動作で前記熱発生装置によって達成される第2の温度より低い所定の温度で相転移するように構成される,蓄熱エンクロージャと,
熱伝導及び相転移を利用して前記蓄熱エンクロージャから熱を移動させるように構成された密閉式ヒート・パイプと,を有しており,
前記密閉式ヒート・パイプは,前記ハウジングの前記複数の向きに亘る移動中に前記熱発生装置から熱を移動するように配置され,
前記密閉式ヒート・パイプは,蒸発部及び凝縮部を有しており,前記密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含む,
装置。」

(相違点)
(相違点1)
本願発明1は,「密閉式ヒート・パイプ」を「複数」有しており,「前記複数の密閉式ヒート・パイプは,前記ハウジングの前記複数の向きに亘る移動中に前記熱発生装置から熱を移動するように配置され」,「前記複数の密閉式ヒート・パイプは,反対の向きに配置された第1及び第2のヒート・パイプを含み」,且つ,「第1及び第2のヒート・パイプの前記凝縮部は,互いに,第1及び第2のヒート・パイプの前記蒸発部から離れる方向に位置付けされ」ているのに対して,引用発明は,「ヒートパイプ11」を複数有しておらず,したがって,「前記ハウジングの前記複数の向きに亘る移動中に前記熱発生装置から熱を移動するように配置され」,「前記複数の密閉式ヒート・パイプは,反対の向きに配置された第1及び第2のヒート・パイプを含み」,且つ,「第1及び第2のヒート・パイプの前記凝縮部は,互いに,第1及び第2のヒート・パイプの前記蒸発部から離れる方向に位置付けされ」ていない点。

(相違点2)
本願発明1では,「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が相変化することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」のに対して,引用発明では,「CPU7の発熱量が通常である状態では,ヒートパイプ11によってCPU7が冷却され」,「CPU7の発熱量が想定レベルよりも多くなると」,「潜熱蓄熱材4が融解し始めるとともに,その際の融解熱が潜熱として吸収され」る点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,まず上記相違点2について検討すると,相違点2に係る本願発明1の「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」ことは,上記引用文献1-7には記載されておらず,本願優先日前において周知技術であるともいえない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2-7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-7について
本願発明2-7も,本願発明1の「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が相変化することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明8について

本願発明8は,本願発明1の「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が相変化することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」における「相変化」を「融解」に下位概念化した「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」という技術的事項を有しているから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2-7に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 当審拒絶理由におけるその他の拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
当審では,請求項8の「複数の密閉式ヒート・パイプのそれぞれ」は,「相変化材料」として,固体と液体とで相変化するものを包含しているが,発明の詳細な説明を見ても,ヒート・パイプの相変化材料として,固体と液体とで相変化するものは開示されていないとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年3月8日付けの補正において,「前記相変化材料は,・・・(中略)・・・,高出力状態中に前記熱発生装置によって達成される温度よりも低い所定の温度で融解するように構成される,蓄熱エンクロージャと,・・・(中略)・・・,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプのそれぞれは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含み」とされた結果,この拒絶理由は解消した。

2 特許法第36条第4項第1号について
当審では,発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を考慮しても,具体的にどのようなものを相変化材料として採用することにより,固体と液体とで相変化するヒート・パイプを構成することができるのかが不明であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年3月8日付けの補正において,請求項8が「前記相変化材料は,・・・(中略)・・・,高出力状態中に前記熱発生装置によって達成される温度よりも低い所定の温度で融解するように構成される,蓄熱エンクロージャと,・・・(中略)・・・,第1及び第2の密閉式ヒート・パイプのそれぞれは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料の相転移とは異なる相転移を受けるように構成された異なる相変化材料を含み」とされた結果,この拒絶理由は解消した。

3 特許法第36条第6項第2号について
当審では,請求項8の記載では,「蓄熱エンクロージャ」及び「第1及び第2の密閉式ヒート・パイプ」と,「熱伝達装置」との包含関係が不明であるとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年3月8日付けの補正において,「熱伝達装置であって,当該熱伝達装置は,・・・(中略)・・・,蓄熱エンクロージャと,・・・(中略)・・・第1及び第2の密閉式ヒート・パイプと,を有しており,」とされた結果,この拒絶理由は解消した。


第8 原査定についての判断

平成30年3月8日付けの補正により,補正後の請求項1-7は,「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」という技術的事項を有し,また,請求項8は,「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」という技術的事項を有するものとなった。
当該「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」又は「密閉式ヒート・パイプは,前記蓄熱エンクロージャ内の相変化材料が融解することに応答して,前記蓄熱エンクロージャからの熱を前記複数の密閉式ヒート・パイプを介して伝達するように構成される」という技術的事項は,原査定における引用文献A-Eには記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1-8は,当業者であっても,原査定における引用文献A-Eに基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。


第9 むすび

以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2014-553386(P2014-553386)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 536- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 境 周一片岡 利延  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 松田 岳士
山田 正文
発明の名称 熱伝達装置  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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