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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1340632
審判番号 不服2016-5245  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-08 
確定日 2018-05-23 
事件の表示 特願2014-116117「食器手洗い用液体洗剤組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日出願公開、特開2014-159603〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年1月25日(優先権主張 2009年2月2日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2011-548164号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成26年6月4日に新たな特許出願として出願したものであって、平成27年11月30日付けで拒絶査定がなされ、平成28年4月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされると共に同日付けで手続補正書が提出され、同年5月26日に審判請求書に対する手続補正書(方式)が提出され、同年12月28日に上申書が提出されたところ、これに対し、当審より、平成29年2月21日付けで拒絶理由が通知され、同年8月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願請求項1に係る発明は、平成29年8月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
食器手洗い用液体洗剤組成物を用いて食器を洗浄する方法であって、
前記組成物が、
(a)前記組成物全体の15重量%以下のスルホネート界面活性剤を含む、4重量%?40重量%のアニオン性界面活性剤と、
(b)0.005重量%?3重量%の活性真珠光沢剤と、
(c)0.001重量%?3重量%のレオロジー変性剤と、
(d)カチオン性ポリマーと、
を含み、前記レオロジー変性剤が、結晶性ヒドロキシル脂肪酸エステルであり、
前記方法が、前記組成物を前記食器に適用する工程を含む、
方法。」

第3 平成29年2月21日付けの当審拒絶理由の理由1及び2の概要

当審拒絶理由の理由1及び2の概要は、以下のとおりである。

理由1:本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2:この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断

1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について

(1)本願明細書の記載事項

本願明細書には、以下の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、食器手洗い用液体組成物、及び効果的なグリース洗浄性と肌に対する穏やかさを組み合わせるために、特定のアニオン性界面活性剤系と、真珠光沢剤と、レオロジー変性剤と、を含むこのような洗剤組成物を用いて食器を洗浄する方法、に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、グリース洗浄において非常に効果的でありながらも、その上尚手穏やかさが優れている組成物を提供することである。本発明の特定のアニオン性界面活性剤系は、手に非常に優しくかつ穏やかでありながらも、食器手洗い用液体組成物に必要とされる優れた洗浄性を提供することが判明している板状構造を有する例えば雲母などの本発明の真珠光沢剤は、皮膚色調補正及び皮膚光沢補正作用により、皮膚利益に関与することが更に見出されてきた。真珠光沢剤によりもたらされる光による干渉は、皮膚の反射特性の調整を介して色調補正及び皮膚光沢補正に貢献する。したがって本発明の、真珠光沢剤と特定のアニオン性界面活性剤系との組み合わせは、上質なグリース洗浄性と一緒に上質な手ケア利益を提供することが判明している。
【0006】
本発明の組成物の他の利点は、このような製品が、主張される手ケア利益を実際に提供することを消費者に伝達することである。真珠光沢剤の添加は、上質な皮膚に対する穏やかさの利益を消費者に伝達する、優れた美観を実際に提供する。本発明のレオロジー変性剤は、真珠光沢剤の非常に安定した懸濁液を提供し、それにより製品の美観が改善される。」

「【0009】
本発明の食器手洗い用液体洗剤組成物及び食器洗浄法は、驚くべきことに、優れたグリース洗浄と組み合わせて上質な手肌穏やかさを提供する。
【0010】
本明細書で使用するとき、「グリース」は、少なくとも一部(すなわち、グリースの少なくとも0.5重量%)に、飽和及び不飽和の油脂、好ましくは牛肉及び/又は鶏肉のような動物性原料に由来する油脂を含む物質を意味する。
【0011】
本明細書で使用するとき、「起泡特性」は、本発明の組成物の液体洗剤組成物の使用によりもたらされる、洗浄プロセスの全体を通した泡立ちの量(多さ又は少なさ)及び泡立ちの一貫性(持続的な起泡性)を意味する。本明細書で使用するとき、「高起泡性」は、高起泡性(すなわち消費者に許容されると考えられる起泡レベル)であり、かつ起泡を維持する(すなわち食器洗浄操作にわたって高レベルで起泡が維持される)という両方である、食器手洗い用液体洗剤組成物を指す。このことは、消費者が、高い起泡性を洗剤組成物の性能の目安として使用することから、液体食器洗浄洗剤組成物に関して特に重要である。更に、食器洗浄液体洗剤組成物の消費者は、洗浄液がまだ活性洗剤成分を含有している目安としても、起泡特性を使用する。消費者は、通常、起泡がなくなったときに洗浄液を新しくする。したがって、少ない起泡性の液体食器洗浄洗剤組成物の製剤は、少ない起泡レベルのために、消費者によって、必要以上に頻繁に取り替えられる傾向がある。本明細書で使用するとき、「高起泡性」は、本明細書に記載の起泡試験方法を用いて測定するものとして、液体が、汚れ添加前に少なくとも約2cm、好ましくは少なくとも約4cm、より好ましくは約5cmの起泡特性を有し、かつ、本明細書に記載の起泡試験法を用いて測定するものとして、このような液体が、少なくとも2回の汚れ添加、より好ましくは少なくとも5回の汚れ添加、更により好ましくは少なくとも8回の汚れ添加に対して0.5cmを超える起泡高さを維持することを意味する。」

「【0016】
真珠光沢剤
本発明による真珠光沢剤は結晶又はガラス状固体、透明又は半透明化合物であり、光を反射することができ、屈折光は真珠光沢効果を生成する。典型的に、真珠光沢剤は、それらが組み込まれる組成物に不溶な結晶性粒子である。好ましくは、真珠光沢剤は、薄板又は球体の形状を有する。粒径は、その球形の最大直径で測定される。板状粒子は、粒子の2つの寸法(長さと幅)が3番目の寸法(奥行き又は厚さ)の少なくとも5倍であるようなものである。立方体状晶、針状晶、又は他の結晶形状のような別の結晶形状は、パールエッセンス効果を示さない。雲母のような多くの真珠光沢剤は、単斜晶結晶を有する天然鉱物である。形状は、その剤の安定性に影響すると思われる。球形状の剤、更により好ましくは、板様の剤が最もうまく安定する。真珠光沢剤の粒径は通常、200マイクロメートル未満であり、好ましくは100マイクロメートル未満であり、より好ましくは50マイクロメートル未満である。
【0017】
本発明の組成物は組成物の0.005重量%?3.0重量%、好ましくは0.01重量%?1重量%の100%活性真珠光沢剤を含む。真珠光沢剤は有機物であっても無機物であってもよい。組成物は、有機及び/又は無機真珠光沢剤を含み得る。
【0018】
有機真珠光沢剤:
本発明の組成物が有機真珠光沢剤を含む場合、有機真珠光沢剤には、組成物の0.05重量%?2.0重量%、好ましくは0.1重量%?1.0重量%活性濃度の、100%活性有機真珠光沢剤が含まれる。好適な有機真珠光沢剤としては、下式を有するアルキレングリコールのモノエステル及び/又はジエステルが挙げられる:
・・・
【0021】
典型的な例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール又はテトラエチレングリコールと、カプロン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、カプリン酸、ラウリン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ガドレイン酸、ベヘン酸、エルカ酸、及びこれらの混合物のような約6?約22、好ましくは約12?約18の炭素原子を含有する脂肪酸との、モノエステル及び/又はジエステルである。
【0022】
一実施形態においては、エチレングリコールモノステアレート(EGMS)及び/又はエチレングリコールジステアレート(EGDS)及び/又はポリエチレングリコールモノステアレート(PGMS)及び/又はポリエチレングリコールジステアレート(PGDS)は、本組成物において使用される真珠光沢剤である。これらの材料には、いくつかの商業的供給源が存在する。例えば、PEG6000MS(登録商標)は、Stepanから入手可能であり、Empilan EGDS/A(登録商標)は、Albright & Wilsonから入手可能である。
・・・
【0024】
共結晶化剤:所望により、得られる製品中で真珠光沢粒子が製造されるように、共結晶化剤は、有機パールエッセンス剤の結晶化を強化するために使用される。好適な共結晶化剤としては、直鎖又は分枝鎖の、所望によりヒドロキシル置換された、約12?約22個、好ましくは約16?約22個、より好ましくは約18?20個の炭素原子を含有するアルキル基を有する脂肪酸及び/又は脂肪族アルコール、例えば、パルミチン酸、リノール酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、ベヘニル酸、セテアリルアルコール、ヒドロキシステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、リノリルアルコール、リノレニルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、共結晶化剤が存在する場合、組成物は1?5重量%のC12?C20脂肪酸、C12?C20脂肪族アルコール、又はこれらの混合物を含む。他の実施形態では、有機真珠光沢剤と共結晶化剤との重量比は約3:1?約10:1、又は約5:1?約20:1の範囲である。有機真珠光沢剤を組成物に組み込むための好ましい方法は、「コールドパール(cold pearl)」として名づけられる予備結晶化された有機真珠光沢剤分散体を使用する。多くのコールドパールが市販されている。これらとしては、Stepan Pearl-2及びStepan Pearl 4(Stepan Company(Northfield,IL)により製造される)、Mackpearl 202、Mackpearl 15-DS、Mackpearl DR-104、Mackpearl DR-106(全てMcIntyre Group(Chicago,IL)により製造される)、Euperlan PK900 Benz-W及びEuperlan PK 3000 AM(Cognis Corpにより製造される)のような商品名が挙げられる。
【0025】
無機真珠光沢剤:
無機真珠光沢剤は本発明の組成物に好ましい。本発明の組成物が無機真珠光沢剤を含む場合、無機真珠光沢剤には、組成物全体の0.005重量%?1.0重量%、好ましくは0.01重量%?0.2重量%活性濃度で、100%活性無機真珠光沢剤が含まれる。
【0026】
無機真珠光沢剤としてはアルミノケイ酸塩及び/又はホウケイ酸塩が挙げられる。好ましいものは、非常に高い屈折率を有するよう処理されたアルミノケイ酸塩及び/又はホウケイ酸塩であり、好ましくはシリカ、金属酸化物、アルミノケイ酸塩及び/又はホウケイ酸塩コーティングしたオキシ塩化物である。より好ましい無機真珠光沢剤は雲母であり、更により好ましくはBASF Mearlin Superfineなどの、二酸化チタン処理雲母である。」

「【0030】
界面活性剤系
本発明の組成物は、組成物全体の15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下のスルホネート界面活性剤と共に、組成物全体の4重量%?40重量%、好ましくは6重量%?32重量%、より好ましくは11重量%?25重量%のアニオン性界面活性剤を含む。このような界面活性剤系は、手に非常に優しくかつ穏やかでありながらも、食器手洗い用液体組成物に必要とされる優れた洗浄性を提供することが判明している。
【0031】
本発明の組成物及び方法で使用するのに好適なアニオン性界面活性剤はサルフェート、スルホサクシネート、スルホアセテート及び/又はスルホネートであり、好ましくはアルキルサルフェート及び/又はアルキルエトキシサルフェートであり、より好ましくは組み合わせたエトキシル化度が好ましくは5未満、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である、アルキルサルフェート及び/又はアルキルエトキシサルフェートの組み合わせである。」

「【0051】
レオロジー変性剤
本発明の組成物は、好ましくは、20^(s-1)及び20℃において、50?2000センチポアズ(50?2000mPa.s)、より好ましくは100?1500センチポアズ(100?1500mPa.s)、最も好ましくは500?1300センチポアズ(500?1300mPa.s)の粘度を有する。粘度は、従来の方法で測定できる。本発明による粘度は、直径40mm及び間隙サイズ500μmの平板の鋼製スピンドルを用いるTA instruments製のAR 550レオメーターを使用して測定される。20^(s-1)での高剪断粘度、及び0.05^(s-1)での低剪断粘度は、20℃において3分間の0.1^(s-1)?25^(s-1)の対数剪断速度掃引から得ることができる。ここに述べる好ましいレオロジーは、内部に存在する洗剤成分による構造化を用いて又は外的レオロジー変性剤を用いることにより得ることができる。
【0052】
本発明の組成物は、レオロジー変性剤を更に含む。
【0053】
そのようなレオロジー変性剤を本明細書の組成物に添加する総合的な目的は、製品の厚さ、製品の注入可能性、製品の光学的特性、及び/又は粒子の懸濁性能の観点から、適切に機能的であり、審美的に満足できる液体組成物に到達することである。こうしてレオロジー変性剤は、一般的に液体製品の適切なレオロジー特性を確立するのに役立ち、不適格な光学的特性又は望ましくない相分離などのような製品に対する望ましくないあらゆる属性を付与すること無く役立つ。
【0054】
一般的に、レオロジー変性剤は組成物の0.001重量%?3重量%、好ましくは0.01重量%?1重量%、より好ましくは0.02重量%?0.8重量%の濃度で含まれる。
【0055】
本発明の組成物に特に有用である構造化剤の種類の1つは、その場でマトリックス中に結晶化されると、液体マトリックスの全体にわたって糸状構造系を形成することができる非高分子(従来のアルコキシル化を除く)結晶性ヒドロキシ官能物質を含む。このような物質は、一般に、結晶性ヒドロキシル含有脂肪酸、脂肪酸エステル又は脂肪ろうとして特徴付けることができる。そのような物質は、以下の式を有するものから一般に選択される:
・・・
【0062】
式Iの種類の物質が好ましい。これらは、以下の式でより具体的に定義される:
【0063】
【化8】

式中、
(x+a)は11?17であり、
(y+b)は11?17であり、
(z+c)は11?17である。
好ましくは、この式においてx=y=z=10及び/又はa=b=c=5である。
【0064】
好ましい実施形態では、レオロジー変性剤は実際に、ヒマシ油及びその誘導体などの実際に結晶性のヒドロキシル含有レオロジー変性剤である。特に好ましいものは、硬化ヒマシ油及び水素添加ヒマシ蝋などの硬化ヒマシ油誘導体である。市販のヒマシ油系、結晶性、ヒドロキシル含有レオロジー変性剤としては、Rheox,Inc.(現Elementis)製のTHIXCIN(登録商標)が挙げられる。
・・・
【0069】
本発明での使用に好ましい他のレオロジー変性剤は米国特許第2008/0108714号に記載の微小セルロース繊維(MFC)であり、微小繊維状セルロース(細菌的にないしは別の方法で誘導されたもの)を、界面活性剤増粘系に並びに高濃度界面活性剤処方において粒子懸濁物を提供するために使用することができる。このようなMFCは通常、約0.01%?約1%の濃度で存在するが、濃度は所望される製品によって異なる。例えば液体洗剤組成物に小型の雲母板状結晶を懸濁する場合には、0.02?0.05%が好ましい。好ましくはMFCは、CMC、キサンタン、及び/又はグアーガムと微小繊維などのような共剤(co-agents)及び/又は共加工剤(co-processing agents)と共に使用される。米国特許第2008/0108714号は6:3:1比でのMFCとキサンタンガム及びCMCの組み合わせ、並びに3:1:1比でのMFC、グアーガム及びCMCを記載する。これらのブレンドは、高剪断又は高延伸混合を用いて水又は他の水系溶液により「活性化」することのできる、乾燥製品としてのMFCの調製を可能にする。「活性化」は、MFCブレンドが水に添加され、共剤/共加工剤が水和された際に生じる。共剤/共加工剤の水和後、真の降伏点を呈する3次元機能性ネットワークを製造するようMFCを効果的に分散させるために、一般的には次いで高剪断が必要とされる。市販MFC:Cellulon(登録商標)(CPKelko)。」

「【0081】
カチオン性ポリマー
本発明の好ましい実施形態では、組成物は更にカチオン性ポリマーを含む。カチオン性ポリマーを含むこのような組成物は手ケア利益を、より特定的には保湿利益を提供することが判明している。
【0082】
典型的にはカチオン性ポリマーは、組成物の0.001重量%?10重量%、好ましくは0.01重量%?5重量%、より好ましくは0.05重量%?1重量%の濃度で存在する。
【0083】
本発明での使用に好適なカチオン性堆積ポリマーは、第四級アンモニウム又はカチオン性プロトン化アミノ部分のようなカチオン性窒素含有部分を含有する。カチオン性堆積ポリマーの平均分子量は、約5000?約1000万、好ましくは少なくとも約100000、より好ましくは少なくとも約200000であるが、好ましくは約150万を超えない。同様にポリマーは、食器洗浄液体製剤の意図される使用pHにて、約0.2meq/g?約5meq/g、好ましくは少なくとも約0.4meq/g、より好ましくは少なくとも約0.6meq/gの範囲のカチオン電荷密度を有する。本明細書で使用するとき、カチオンポリマーの「電荷密度」は、ポリマー1グラム原子量(分子量)当たりのカチオン部位の数として定義される。任意のアニオン性の対イオンを、カチオン性堆積ポリマーと会合させて使用することができる。
【0084】
水溶性カチオン化ポリマーの具体例としては、カチオン化セルロース誘導体、カチオン化デンプン及びカチオン化グアーガム誘導体などのカチオン性多糖が挙げられる。同様に、ジアリル第四級アンモニウム塩ホモポリマー、ジアリル第四級アンモニウム塩/アクリルアミドコポリマー、第四級化ポリビニルピロリドン誘導体、ポリグリコールポリアミン縮合物、ビニルイミダゾリウムトリクロリド/ビニルピロリドンコポリマー、ジメチルジアリルアンモニウムクロリドコポリマー、ビニルピロリドン/第四級ジメチルアミノエチルメタクリレートコポリマー、ポリビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレートコポリマー、ポリビニルピロリドン/アルキルアミノアクリレート/ビニルカプロラクタムコポリマー、ビニルピロリドン/メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリドコポリマー、アルキルアクリルアミド/アクリレート/アルキルアミノアルキルアクリルアミド/ポリエチレングリコールメタクリレートコポリマー、アジピン酸/ジメチルアミノヒドロキシプロピルエチレントリアミンコポリマー、及びアルキルアミドから誘導される単位を介してポリマー主鎖に結合した少なくとも1つの複素環式末端基を有する、四級化又はプロトン化縮合ポリマー(結合は場合により置換されたエチレン基を含む(BASF(BAS)による国際公開第2007/098889号、2?19頁に記載))などの合成誘導コポリマーが挙げられる。
【0085】
好ましいカチオン性ポリマーはカチオン性多糖であり、より好ましくはカチオン性セルロースポリマー、又はグアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリドなど(例えばJaguarシリーズ(Rhodiaから)及びN-Hance polymerシリーズ(Aqualonより入手可能))のカチオン性グアーガム誘導体であり、更により好ましくはトリメチルアンモニウム置換エポキシドと反応させたヒドロキシエチルセルロースの塩であり、工業的(CTFA)にはポリクオタニウム-10(Ucare LR400(Dow Amercholから)など)として参照される。」

「【0115】
起泡試験方法
最大で6組のシリンダー(参照+最大で5つの試験製品)を用いる起泡シリンダーテスター(suds cylinder tester)(SCT)を採用することにより、起泡特性を測定することができる。各シリンダーは典型的には長さ30cm、及び直径10cmである。シリンダーの壁は厚さ0.5cm、シリンダーの底は厚さ1cmである。SCTでは密閉したシリンダー、典型的には複数の透明なプラスチック製シリンダー内で、1分あたりの垂直回転数全約21回で、2分にわたって一定速度にて試験溶液を回転させ、その後起泡の高さを測定する。1mLのEileen B.Lewis Soil(12.7%のクリスコ油、27.8%のクリスコショートニング、7.6%のラード、51.7%の精製溶解食用牛脂、0.14%のオレイン酸、0.04%のパルミチン酸及び0.02%のステアリン酸を含む(J&R Coordinating Services(Ohio)により供給))を試験溶液に加え、再度撹拌し、生じた起泡の高さを再度測定した。典型的には、最少量の起泡高さ(典型的には0.5cm)が達成されるまで、更なる汚れサイクルが加えられる。汚れサイクル数は、起泡有用性性能についての指標になる(更なる汚れサイクルはより良好な起泡有用性性能の指標になる)。被洗浄表面からより多くの汚れが取り込まれる場合の、組成物の初期起泡特性、並びに使用中の起泡特性を模擬実験するために、このような試験を使用してもよい。
【0116】
起泡特性試験は以下の通りである。
1.清潔で、乾燥している、検量されたシリンダーと、40℃の温度、及び0.03重量%の界面活性剤活性濃度にて30gpgの水硬度を有する水とを用意する。
2.適切な量の試験組成物を各シリンダーに加え、各シリンダー中で組成物+水の総量が500mLになるように水を加える。
3.シリンダーを密閉して、SCT内に配置する。
4.SCTのスイッチを入れ、シリンダーを2分にわたって回転させる。
5.1分以内に、起泡の高さをセンチメートルで測定する。起泡の高さが0.5cmを超える場合、起泡高さの読み取り直後に汚れを加え、工程4と5を再び開始する。
6.起泡特性は、組成物により2つの複製で生成される、cmでの起泡の平均レベルである。
【0117】
本発明の「高起泡性」の組成物は、汚れ添加前に少なくとも高さ約2cm、より好ましくは少なくとも約4cm、更により好ましくは約5cmの起泡特性を有する。汚れ添加サイクルは、各シリンダー内の起泡高さが0.5cm程度にしか到達しなくなった際に停止させる。「高起泡性の液体」に関しては、汚れを添加した回数は好ましくは少なくとも2回であり、より好ましくは少なくとも5回、更により好ましくは少なくとも8回である。
【実施例】
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

1:非イオン性は、9個のエトキシ基を含有するC_(11)アルキルエトキシ化界面活性剤又は8個のエトキシ基を含有するC10アルキルエトキシ化界面活性剤のいずれでもよい。
【0120】
【表3】

^( *)微量成分:染料、乳白剤、香料、防腐剤、ヒドロトロープ、加工助剤、安定剤、...」

(2)前提

本願発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすか否かを、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」(平成17年(行ケ)10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)の観点に照らして検討する。

(3)本願発明が解決しようとする課題について

本願明細書で【発明が解決しようとする課題】とされる段落【0005】及び【0006】の記載によれば、本願発明の課題は、「グリース洗浄において非常に効果的でありながらも、その上尚手穏やかさが優れている組成物を提供」することであり、また、当該組成物による「手ケア利益を実際に提供することを消費者に伝達すること」であるといえる。

(4)理由1についての検討

上記課題に関連して、本願発明の各成分に関する本願明細書の記載を参照するに、本願明細書の段落【0030】には、「組成物全体の15重量%以下のスルホネート系界面活性剤を含む、4重量%?40重量%のアニオン性界面活性剤」は、手に非常に優しくかつ穏やかでありながらも、食器手洗い用液体組成物に必要とされる優れた洗浄性を提供するものであることが記載され、同段落【0005】及び段落【0006】には、「真珠光沢剤」は、皮膚色調補正及び皮膚光沢補正作用により、皮膚利益に関与するとともに、上質な皮膚に対する穏やかさの利益を消費者に伝達し、優れた美観を実際に提供するものであることが記載されている。そして、この「真珠光沢剤」によりもたらされるとされる、皮膚色調補正及び皮膚光沢補正作用等は、「手ケア利益」に含まれるものであるといえる。
また、同段落【0006】には、「レオロジー変性剤」は、真珠光沢剤の非常に安定した懸濁液を提供し、それにより製品の美観を改善するものであり、同段落【0053】には、「製品の厚さ、製品の注入可能性、製品の光学的特性、及び/又は粒子の懸濁性能の観点から、さらに審美的に満足できる液体組成物に到達されるために添加されるものであることが記載されている。
さらに、同段落【0081】には、「カチオン性ポリマー」は、手ケア利益を、より特定的には保湿利益を提供するものであることが記載されている。
本願発明の各成分に関する上述の記載を踏まえると、上記発明の課題の解決に関して、本願発明の各成分の作用機序が一応説明されているとはいえる。
しかしながら、これら作用機序は、理論あるいは実験等により裏付けられたものではない。
加えて、本願の原出願の優先日当時の技術常識によると、各成分の作用が、ある程度推測できたとしても、それら各成分を組み合わせた洗浄剤組成物の特性は、各成分の相互の関連にも関係するといえるから、一概に、それら各成分の作用を足し合わせたものになるとまで言い切ることはできない。
例えば、本願発明の「カチオン性ポリマー」は、同段落【0081】の記載によれば、「特定的には保湿利益」を提供するとされるものであるが、請求人が、平成29年8月31日に提出した意見書に添付した添付資料1での実験結果によれば、本願明細書に記載された事項であるとは認められないものの、本願発明のカチオン性ポリマーは、アニオン性界面活性剤とコアセルベートを形成し、真珠光沢剤をコアセルベート内に閉じ込めるものであることが記載され、前述の「保湿利益」とは、異なる作用を発揮しているということができる。このことからも分かるように、洗浄剤組成物に添加される各成分は、相互に関連し合うことがあり、各成分それ自体の作用がそのまま、洗浄剤組成物の作用として発現するとは必ずしもいえないから、本願発明の各成分の一応の作用機序が本願明細書に記載されているとしても、それらの各成分を組み合わせた本願発明の洗浄剤組成物が、本願発明の課題に対応する特性を満たすものになるということはできない。
一方、同段落【0118】?【0120】には、実施例1?12の洗浄剤組成物が記載されているものの、単に、配合例が記載されるのみで、上記発明の課題の「グリース洗浄において非常に効果的」、「手穏やかさが優れている」及び「手ケア利益」といった点に対応する特性の評価がなされておらず、本願発明の洗浄剤組成物であれば、上記発明の課題を解決することの実証がなされていない。
また、同段落【0117】には、「高起泡性」に関する記載があるものの、この特性が、上記本願発明の課題に対応する特性であるのか明らかでないし、具体的にどの様な洗浄剤組成物に対しての「高起泡性」であるのか明らかでないから、本願発明の洗浄剤組成物であれば、上記発明の課題を解決することの実証とはならない。

さらに、本願発明では、レオロジー変性剤が「結晶性ヒドロキシル脂肪酸エステル」であることが特定され、この「結晶性ヒドロキシル脂肪酸エステル」は、同段落【0055】及び【0064】の記載によれば、実施例での「硬化ヒマシ油Thixcin(登録商標)Elementis」に対応するものであるといえるが、このレオロジー変性剤である「硬化ヒマシ油」が含まれているのは、実施例2、4、6、8、9、10及び11である。しかしながら、これらの実施例には、同段落【0085】の記載によれば、カチオン性ポリマーであるといえる「UCARE LR400 Dow Amerchol Polyquat 10」が含まれておらず、実施例における具体的な配合例ですら、本願発明の洗浄剤組成物が記載されていないから、上記発明の課題を解決するものとして、本願発明の洗浄剤組成物が、本願明細書の発明の詳細な具体的に記載されているとはいえない。

そうすると、本願発明は、本願の原出願の優先日における技術常識に照らしても、上記本願発明の課題を解決することができるものであるとはいえないから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について

上記1(4)で検討したとおり、本願明細書には、本願発明の課題を実際に解決することを実証する洗浄剤組成物が記載されておらず、本願の出願時の技術常識を考慮したとしても、本願発明の洗浄剤組成物が、上記課題を解決し得るか明らかでない。
そして、本願発明を実施するには、本願発明の洗浄剤組成物に含まれる態様を逐一、上記発明の課題を解決するものであるのか実証しなければならず、しかも、どの様な特性をどの様に評価することにより、上記発明の課題を解決することができたとするのか、その実証の方法も本願明細書では明らかにされていないから、本願発明を実施する上で過度の試行錯誤が求められることになるといえる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

3 平成29年8月31日に提出された意見書について

請求人は、上記当審拒絶理由の理由1及び2に対して「本願明細書には、組成物の各構成成分がもたらす効果について明記されており、構成成分を組み合わせた組成物は、本願発明の課題を解決し得ると理解され得る。そして、本願発明で使用する洗剤組成物を構成する成分については、明細書中に具体例をもって説明されており、本願発明を実施するために、当業者は過度の試行錯誤を必要としない。
以上により、本発明は、本拒絶理由に該当しないと確信する。

なお、添付資料1も参照されたい。試験結果が示すとおり、カチオンポリマーおよび真珠光沢剤の両方を含むleg Cは、それらの片方のみを含むleg AおよびBよりもコアセルベートの形成が著しい。
真珠光沢剤は、皮膚色調補正および皮膚光沢補正の作用により皮膚利益に関与している。さらに、カチオン性ポリマーが、アニオン性界面活性剤と配合され、当該組成物が水に希釈されると、コアセルベートが形成される。そして、真珠光沢剤は、コアセルベート内に閉じ込められる。コアセルベートの疎水性の外層のために、このコアセルベートは、洗浄水溶液から分離し、皮膚に堆積し、真珠光沢剤を付着されるであろう。コアセルベートの疎水性のために、コアセルベートは、すすぎの間、すすぎ落とし難くなり、洗浄プロセスの最後に真珠光沢剤の堆積が向上すると考えられる。このように、添付資料1は、本発明の課題を解決するにあたり、本発明で使用する組成物の各成分の存在が不可欠であることを示している。」と主張している。

しかしながら、上記1(4)で述べたように、組成物の各構成成分のもたらす効果(作用)が、本願明細書に記載されていたとしても、これらは何ら裏付けられたものでなく、また、各構成を組み合わせた組成物における効果(作用)は、各構成の効果(作用)を加えたものになるとは限らないから、実際の各構成を組み合わせた組成物の効果(作用)は、実証してみなければ明らかにならないことは、当業者にとり明らかであるといえる。
そして、本願発明ではそれがなされていないのであるから、本願発明は、上記発明の課題を解決するものであると理解することができるとはいえないし、単純に、各構成を組み合わせれば、本願発明の効果(作用)が得られるとは限らないのであるから、明細書に記載されている効果を得るには(本願発明を実施するには)、本願発明の洗浄剤組成物に含まれる配合を、上記発明の課題を解決するものであるのか否かを逐一実証する必要があり、過度の試行錯誤を必要としないとまではいえない。

また、添付資料1の実験結果に関し、「カチオン性ポリマーが、アニオン性界面活性剤と配合され、当該組成物が水に希釈されると、コアセルベートが形成される。そして、真珠光沢剤は、コアセルベート内に閉じ込められる。コアセルベートの疎水性の外層のために、このコアセルベートは、洗浄水溶液から分離し、皮膚に堆積し、真珠光沢剤を付着されるであろう。コアセルベートの疎水性のために、コアセルベートは、すすぎの間、すすぎ落とし難くなり、洗浄プロセスの最後に真珠光沢剤の堆積が向上すると考えられる。」という技術的な事項は、本願明細書に記載されているものではないし、本願発明の「アニオン性界面活性剤」は、同段落【0030】の記載によれば、手に非常に優しくかつ穏やかでありながらも、食器手洗い用液体組成物に必要とされる優れた洗浄性を提供するものであり、本願発明の「カチオン性ポリマー」は、同段落【0081】の記載によれば、「特定的には保湿利益」を提供するとされるものであるから、上記の技術的な事項は、本願明細書の「アニオン性界面活性剤」及び「カチオン性ポリマー」の記載に対応するものではなく、本願発明の洗浄剤組成物が、上記発明の課題を解決することを示す根拠として採用できるものではない。
しかも、仮に、「コアセルベートの疎水性の外層のために、このコアセルベートは、洗浄水溶液から分離し、皮膚に堆積し、真珠光沢剤を付着されるであろう。コアセルベートの疎水性のために、コアセルベートは、すすぎの間、すすぎ落とし難くなり、洗浄プロセスの最後に真珠光沢剤の堆積が向上する」ということが、同段落【0005】の皮膚色調補正及び皮膚光沢補正作用による上記発明の課題の手ケア利益に対応するものであるとすれば、「カチオン性ポリマー」といった漠然とした特定のみで、アニオン性界面活性剤との間にコアセルベートが形成されるといえるのか、さらには、コアセルベートの外層が疎水性となるのか明らかでない。
そうすると、「カチオン性ポリマー」について、アニオン性界面活性剤との間で外層が疎水性のコアセルベートを形成することに対応する「特定」が欠けていることになり、ひいては、本願発明の洗浄剤組成物の特定では、上記本願発明の課題を解決できるとはいえないことになる。

よって、同意見書における請求人の主張は、採用することができない。

第5 むすび

したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるし、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-22 
結審通知日 2017-12-26 
審決日 2018-01-10 
出願番号 特願2014-116117(P2014-116117)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 536- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯貝 香苗柴田 啓二松波 由美子  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
阪▲崎▼ 裕美
発明の名称 食器手洗い用液体洗剤組成物  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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