• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1340718
審判番号 不服2016-12060  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-09 
確定日 2018-05-24 
事件の表示 特願2012-171258号「不燃化粧板」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月20日出願公開、特開2014-30926号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月1日に出願された特願2012-171258号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 1月18日:拒絶理由通知
平成28年 3月25日:意見書
平成28年 3月25日:手続補正書
平成28年 4月22日:拒絶査定
平成28年 8月 9日:審判請求
平成28年 8月 9日:手続補正書
平成29年10月31日:拒絶理由通知
平成30年 1月 9日:意見書
平成30年 1月 9日:手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「公共施設等に用いられる建築基準法第2条第9号の規定に基づく認定に係わる性能評価方法について不燃性を有する不燃化粧板であり、表面層と芯材層とが接着層を介さないで積層された構造を有する不燃化粧板であって、
前記表面層は意匠面となるポリオレフィン系フィルムからなり、前記表面層の坪量は40g/m^(2)以上、300g/m^(2)以下であり、
前記芯材層はアルミニウム層からなり、前記芯材層の厚みが0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする不燃化粧板。(但し、フッ素系樹脂フィルムと、不燃性または難燃性のシート状基材とを、少なくとも複合してなることを特徴とする化粧シート、を除く。)」

第3 拒絶の理由
当審が通知した平成29年10月31日の拒絶理由通知の理由3の1の概要は、次のとおりである。
本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<刊行物>
引用文献1.特開2001-205733号公報
引用文献2.特開2012-35617号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【請求項1】アルミニウム箔層の少なくとも一方の面に、1層以上の熱可塑性樹脂層を具備することを特徴とする化粧シート。
【請求項2】アルミニウム箔層の表面に、1層以上の熱可塑性樹脂層を具備することを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】前記アルミニウム箔層と前記1層以上の熱可塑性樹脂層との間、前記1層以上の熱可塑性樹脂層の層間、及び/又は、前記1層以上の熱可塑性樹脂層の表面に、絵柄印刷層を具備することを特徴とする請求項2に記載の化粧シート。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅等の建築物の内装や、家具、什器、家電製品等の外装、車両等の輸送機器の内装等に使用するための化粧シートに関するものであり、中でも例えばキッチン扉や浴室内装部材等のように、高鮮映性を主とした高意匠性が要求される用途に特に好適な化粧シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、例えばキッチン扉や浴室内装部材等のように、鮮映性を主とした高意匠性が要求される用途の化粧シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂からなる基材シートの表面に、所望の意匠柄を印刷により表現した絵柄印刷層を介して、透明なポリエステル樹脂フィルムを積層したものが、最も広く使用されて来た。しかしながら近年になって、このようにポリ塩化ビニル樹脂を使用した化粧シートは、火災時や焼却処分時等の燃焼時に塩化水素等の有毒ガスやダイオキシン類等の有毒物質を発生する場合があることや、ポリ塩化ビニル樹脂の柔軟化のために添加されるフタル酸エステル類等の可塑剤が表面にブリードアウトして汚れが付着し易くなること、また、該可塑剤が微量とは言え揮発して呼吸を通して人体内に吸収され、いわゆる環境ホルモン(内分泌攪乱物質)として人体に悪影響を及ぼすおそれがあること等から、ポリ塩化ビニル樹脂を例えばポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂等の非ハロゲン系樹脂で代替した化粧シートによる置き換えが進行しつつある。」
(3)「【0017】本発明の化粧シートは、図1に示すように、アルミニウム箔層1の少なくとも一方の面に、必要に応じて適宜の接着剤層2を介して、1層以上の熱可塑性樹脂層3を積層して構成されるものである。熱可塑性樹脂層3は、アルミニウム箔層1の表面側に設けても裏面側に設けても良いし、図1に示すように、アルミニウム箔層1の表面側に設けた熱可塑性樹脂層3とは別に、裏面側にも熱可塑性樹脂層8を設けることにより、アルミニウム箔層1を表裏の熱可塑性樹脂層3、8で挟持した構成とすることもできる。
【0018】本発明の化粧シートを、アルミニウム箔層1の金属光沢感を活かした金属調の意匠の化粧シートとする場合には、アルミニウム箔層1の裏面側のみに熱可塑性樹脂層8を設けた構成としても良いし、裏面側の熱可塑性樹脂層8を設けずに若しくはそれと併用して、アルミニウム箔層1の保護のためにその表面側に透明な熱可塑性樹脂層3を設けた構成とすることもできる。
【0019】一方、係る化粧シートの意匠としてより一般的な例えば木目調や石目調等の非金属調の意匠の化粧シートとする場合には、アルミニウム箔層1の金属光沢の露出を避けるためには、絵柄印刷層4に不透明な印刷インキを使用し、及び/又は、絵柄印刷層4の下地に不透明ベタ印刷層を設ける手法によっても良いが、より確実に金属光沢感を隠蔽する為には、アルミニウム箔層1の表面に隠蔽性の熱可塑性樹脂層3を設けることが望ましい。
【0020】その際、木目調や石目調等の絵柄印刷層4は当然、隠蔽性の熱可塑性樹脂層3の表面側に設けられることになり、当該絵柄印刷層4の保護のために、絵柄印刷層4の表面上に更に透明な熱可塑性樹脂層3を設けることが望ましい。すなわちこの場合、熱可塑性樹脂層3はアルミニウム箔層1側から順に、隠蔽性の第1の熱可塑性樹脂層(下層)31と、透明な第2の熱可塑性樹脂層(上層)32との2層から構成され、その両者の層間に絵柄印刷層4が挟持されて構成されることになる。」
(4)「【0025】本発明の化粧シートにおいて、アルミニウム箔層1や熱可塑性樹脂層3、8の材質や厚みは、用途や要求特性に応じて任意であり、特に制限されるものではないが、一般的にはアルミニウム箔層1の厚みは8?200μm程度の範囲内から任意の厚みに設定することが可能であり、中でも、加工時の取り扱い易さや、立体形状の被貼着基材の表面への成形貼着時の加工適性等を考慮すると、特に25?100μm程度であることが最も望ましい。」
(5)「【0028】アルミニウム箔層1の表面側の熱可塑性樹脂層3の材質は特に限定されるものではなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、アイオノマー樹脂等のオレフィン系共重合体樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート等のアクリル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、テトラフロロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等、或いはこれらから選ばれる2種以上の混合物、複合体、積層体等を使用することができる。
【0029】但し、近年頓に社会的に関心が高まりつつある環境問題への対応、すなわち火災時や焼却処分時等の燃焼時における有毒ガスや有毒物質の発生を防止するためには、ポリ塩化ビニル樹脂等のようにハロゲン元素を含有する樹脂の使用はあまり望ましいものとは言えず、例えばポリオレフィン樹脂又はポリエステル樹脂等の非ハロゲン系樹脂を使用することが望ましい。」
(6)「【0039】本発明の化粧シートの製造にあたり、各構成層の積層方法や積層順序には一切制限はなく、全く任意である。アルミニウム箔層1と熱可塑性樹脂層3、8との間や熱可塑性樹脂層3、8の各構成層の相互間の積層方法としては、例えば適宜の接着剤2、5、7を介したウェットラミネート法若しくはドライラミネート法や、接着剤を介さない熱圧着法、接着剤の代わりに適宜の熱可塑性樹脂の溶融押し出し層を介して積層するサンドラミネート法、熱可塑性樹脂層3、8を形成するための樹脂を加熱溶融してシート状に押し出すと同時に積層するエクストルージョンラミネート法等を例示することができ、積層箇所によってこれらの2種以上を組み合わせて実施することも可能である。また、積層間の接着強度を向上するために、積層前の積層面に例えばコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、酸処理、アルカリ処理、電離放射線処理、アンカー又はプライマー処理等の適宜の易接着化表面処理を施すこともできる。」
(7)「【0042】実施例1
厚さ120μのポリプロピレンフィルムの片面に印刷用インキ(東洋インキ製造株式会社製;商品名「ラミスター」)を使用して絵柄をグラビア印刷し、印刷ポリプロピレン単層フィルムを得た。
【0043】また、前記と同じ厚さ120μmのポリプロピレンフィルムの片面に、シリカ粉末を含有する2液ウレタン系プライマー樹脂をグラビア塗工し、プライマー層付きポリプロピレン単層フィルムを得た。
【0044】厚さ50μmのアルミニウム箔(昭和アルミニウム株式会社製;Al-Fe系合金箔;グレード名「8079」)の両面に、前記印刷ポリプロピレン単層フィルムの非印刷面と、前記プライマー層付きポリプロピレン単層フィルムの非プライマー層面とを、それぞれ2液ウレタン系ドライラミネート接着剤を介してドライラミネート接着により積層し、ポリプロピレン/アルミニウム3層積層フィルムを得た。
【0045】また、別途用意した厚さ100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱化学ポリエステル株式会社製、商品名「T600」)の片面に、シリコーン添加イソシアネート硬化型ポリウレタン樹脂(東洋インキ製造株式会社製;商品名「YL341」)を厚み3μmにグラビア塗工し、防汚層付きPETフィルムを得た。
【0046】前記ポリプロピレン/アルミニウム3層積層フィルムの印刷面に、前記防汚層付きPETフィルムの非防汚層面を、2液ウレタン系ドライラミネート接着剤を介してドライラミネート接着により積層し、図1に示す構成を有する本発明の化粧シートを得た。」

2 引用発明
上記記載事項(7)「ポリプロピレンフィルム」との実施例を踏まえれば、引用文献1の「ポリオレフィン樹脂…を使用することが望ましい」「アルミニウム箔層1の表面側の熱可塑性樹脂層3」(上記記載事項(5))はポリオレフィン樹脂のフィルムからなることが記載されていると認められる。
上記記載事項(1)?(7)及び上記認定事項を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アルミニウム箔層の表面に、ポリオレフィン樹脂のフィルムからなる熱可塑性樹脂層を具備する化粧シートであって、
アルミニウム箔層と熱可塑性樹脂層との間の積層方法が接着剤を介さない熱圧着法等であり、
熱可塑性樹脂層は、透明な熱可塑性樹脂層、又は、木目調や石目調等の絵柄印刷層を表面側に設けた隠蔽性の熱可塑性樹脂層であり、
アルミニウム箔層の厚みは特に制限されるものではないが、一般的には8?200μm程度の範囲である、
住宅等の建築物の内装等に使用するための化粧シート。」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙等の内装に使用される内装用化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の壁面や天井等の住宅内装や車両内装等に用いられる壁紙化粧シートとしては、基材上に塩化ビニル樹脂からなる樹脂層を有するものや、塩化ビニル樹脂層を発泡させて発泡樹脂層としたもの、あるいは、これに絵柄層や凹凸模様を設けたものなどが一般的に用いられている。しかし、これら塩化ビニル樹脂を用いた化粧シートは、燃焼時に有害な塩化水素ガスを発生するために、焼却処分に制限があるという廃材処理の問題や、また火災時に発生した塩化水素ガスが有毒であるという問題があり、塩化ビニル樹脂を用いた壁紙化粧シートに代わる化粧シートが求められている。」
(2)「【0007】
本発明の内装用化粧シートは、表面に意匠面を設けた紙質基材からなる化粧紙の裏面側に、厚さ5?50μmの金属箔層を有し、金属箔層の化粧紙側の層の有機物総量を少なくすることで、好適な不燃性を実現できると共に、仮に燃焼した際や廃棄処理する際にも塩化水素ガスを発生することがない。また、当該金属箔層により、化粧紙側の層を薄くしても、化粧シートの剛性を確保でき、施行時にシワやたるみが生じにくく、また、含水による収縮が生じにくい。さらに、紙を基材とする化粧紙と金属箔層の構成により、壁面等の被着体へ貼り付けた際に良好に被着体形状に追従でき、壁面の出隅・入隅や、柱や梁等による角部においても良好に壁面形状に追従し、浮きや剥がれを生じにくい。また、当該金属箔層と粘着剤層との間に、樹脂プライマー層や樹脂フィルム層からなる樹脂薄膜層を有するため、壁面からのアウトガスや基材がアルカリ性または酸性であることによる金属箔層の腐食が生じにくく、腐食による施行後の浮きや剥がれを抑制できる。」
(3)「【0034】
金属箔層から化粧紙側の層の有機物の総量は、150g/m^(2)以下、好ましくは10?90g/m^(2)、より好ましくは30?60g/m^(2)とすることが好ましい。当該有機物総量は少ないほど燃焼成分を低減できるが、一方で、少なすぎると化粧シートの剛性が低減し、シワやたるみが発生しやすくなる。本願発明においては、有機物総量を低減すると共に、一定厚さの金属箔層を構成中に有することで、少ない有機物総量にて良好な不燃性を実現すると共に、好適な施工性や追従性を実現できる。」
(4)「【0052】
(不燃性試験)
上記化粧シート(200mm×300mm)を、合成ゴム系プライマーを塗布したケイ酸カルシウム板のプライマー表面に積層し、ヘラを用いて圧着したあと、99mm×99mmにカットして試料片を得た。
建築基準法第2条第9号で求められる「不燃材料」の発熱性試験に準じた方法で評価
評価基準は以下のとおりである。
コーンカロリーメータによる発熱性試験で
◎:7MJ/m^(2)以下
○:8MJ/m^(2)以下
×:9MJ/m^(2)超」

第5 対比
引用発明の「アルミニウム箔層」は、本願発明の「アルミニウム層からな」る「芯材層」に相当する。
また、引用発明の「アルミニウム箔層の表面に」「具備」された「ポリオレフィン樹脂のフィルムからなる」「透明な熱可塑性樹脂層」は、本願明細書の段落【0012】「意匠面(露出される側の面)」との記載を踏まえると、本願発明の「意匠面となるポリオレフィン系フィルムからな」る「表面層」に相当する。また、本願発明の「意匠面」が、「意匠が形成された」(段落【0012】)面を意味するとしても、引用発明の「アルミニウム箔層の表面に」「具備」された「木目調や石目調等の絵柄印刷層を表面側に設けた隠蔽性の」「ポリオレフィン樹脂のフィルムからなる熱可塑性樹脂層」が、本願発明の「意匠面となるポリオレフィン系フィルムからな」る「表面層」に相当する。
また、引用発明の「アルミニウム箔層と熱可塑性樹脂層との間の積層方法が接着剤を介さない熱圧着法等であ」ることは、本願発明の「接着層を介さないで積層された構造を有する」ことに相当する。
また、引用発明の「化粧シート」は「アルミニウム箔層の表面に、ポリオレフィン樹脂のフィルムからなる熱可塑性樹脂層を具備する」ものであるから「フッ素系樹脂フィルムと、不燃性または難燃性のシート状基材とを、少なくとも複合してなることを特徴とする化粧シート」ではない。したがって、引用発明の「化粧シート」は、本願発明の「不燃化粧板。(但し、フッ素系樹脂フィルムと、不燃性または難燃性のシート状基材とを、少なくとも複合してなることを特徴とする化粧シート、を除く。)」と、「化粧板。(但し、フッ素系樹脂フィルムと、不燃性または難燃性のシート状基材とを、少なくとも複合してなることを特徴とする化粧シート、を除く。)」という限りにおいて一致する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
一致点.化粧板であり、表面層と芯材層とが接着層を介さないで積層された構造を有する化粧板であって、
前記表面層は意匠面となるポリオレフィン系フィルムからなり、
前記芯材層はアルミニウム層からなる化粧板。(但し、フッ素系樹脂フィルムと、不燃性または難燃性のシート状基材とを、少なくとも複合してなることを特徴とする化粧シート、を除く。)

相違点.本願発明の不燃化粧板は、公共施設等に用いられる建築基準法第2条第9号の規定に基づく認定に係わる性能評価方法について不燃性を有し、表面層の坪量は40g/m^(2)以上、300g/m^(2)以下であり、芯材層の厚みが0.1mm以上0.5mm以下であるのに対して、引用発明の化粧シートはそのようなものであるか不明な点。

第6 判断
1 相違点について
上記相違点について検討する。
引用文献2には、住宅内装等に用いられる内装用化粧シートにおいて、金属箔層の化粧紙側の層の有機物総量を少なくすることで、好適な不燃性を実現できると共に、仮に燃焼した際や廃棄処理する際にも塩化水素ガスを発生することがないこと、金属箔層から化粧紙側の層の有機物の総量を150g/m^(2)以下、好ましくは10?90g/m^(2)、より好ましくは30?60g/m^(2)とすることで良好な不燃性を実現することが記載されている。
引用発明と引用文献2の内装用化粧シートとは、住宅等の建築物の内装等に使用するための化粧シートという共通の技術分野に属し、火災時等の燃焼時における有毒ガスの発生を防止するという課題においても密接に関連する(引用文献1の段落【0029】、引用文献2の段落【0007】)。よって、引用発明において、燃焼した際に有毒ガスを発生しないことに加えて、そのような燃焼自体がし難い良好な不燃性を実現するために表面層の坪量(有機物の総量)を最適化して相違点に係る本願発明の坪量とすることは、引用文献2の記載事項に接した当業者であれば容易に想到し得たことである。また、引用発明は、住宅等の建築物の内装等に使用するためのものであるから、実現する良好な不燃性を、相違点に係る本願発明の「公共施設等に用いられる建築基準法第2条第9号の規定に基づく認定に係わる性能評価方法」に沿ったものとすることは、引用文献2の段落【0052】の記載に基づき、当業者であれば通常考慮する事項である。さらに、アルミニウム層が厚いほど不燃性が高まることは周知(例えば、特開2011-79297号公報の段落【0016】等を参照。)であるから、良好な不燃性を実現するにあたり、引用発明において例示された8?200μm程度の範囲のうちの200μm付近を使用する、もしくは、特に制限されるものでもないのでより厚い範囲を使用して、相違点に係る本願発明の厚みとすることも、当業者であれば適宜になし得たことである。

2 効果について
本願発明は「不燃性に優れ、薄膜化に対応でき、常温での曲げ加工性に優れる不燃化粧板を提供することを目的とするものである」(本願明細書の段落【0006】)。
ここで、「薄膜化」とは「全体厚みが0.5mm以下である」(本願明細書の段落【0007】)程度を意味するところ、引用発明も「一般的には、アルミニウム箔層1を含む化粧シートの総厚が50?1000μm程度、より望ましくは100?500μm程度となる」(引用文献1の段落【0027】)から、本願発明と同程度に「薄膜化に対応でき」るものである。
また、「常温での曲げ加工性に優れる」ための手段について、本願明細書には「表面層材料15Aは、意匠が形成された熱可塑性フィルムもしくはシート又は壁紙からなるものである。これにより、意匠性と曲げ加工等の加工性を付与することができる。」(本願明細書の段落【0012】)とのみ記載されているところ、引用発明も、ポリオレフィン樹脂のフィルムからなる熱可塑性樹脂層を具備するものであるから、本願発明と同程度に「常温での曲げ加工性に優れる」ものである。
そして、引用発明において上記相違点に係る本願発明の構成を採用することで、「薄膜化に対応でき」、「常温での曲げ加工性に優れる」ことに加えて、「不燃性に優れ」たものとできることは、当業者であれば予見し得たことである。
また、本願明細書では、ポリオレフィン系フィルムからなる表面層の坪量は200、500g/m^(2)(実施例1、比較例1)しか、アルミニウム箔層からなる芯材層の厚みは0.1μm(実施例1、比較例1)しか、実際には確認されていないところ、その結果をみても、相違点に係るこれらの数値範囲の上限、下限について、臨界的意義を見出すことはできない。
したがって、本願発明が奏する効果は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

3 請求人の主張について
(1)請求人は、引用文献1の段落【0029】に関して、「…刊行物1(当審注:引用文献1)の当該開示は、樹脂を選択することによって燃焼時に有毒ガスが発生しないことを示すものにとどまり、燃焼そのものを発生させないことまでが開示されていると直ちにいうことはできません。また、刊行物1全体の記載をみても、当該開示を拡張させることを示唆する記載はありません。むしろ、当該開示からは、焼却処分時も想定されていることが把握されるため、引用発明1は、不燃というよりは燃焼されることを前提としているといえます。」(平成30年1月9日の意見書(以下、「意見書」という。)(8)(8.3)(ii))と主張する。
しかし、火災時に、住宅等の建築物の内装を積極的に燃焼させようとするのは、技術常識に明らかに反しており、また、不燃性の化粧シートでも焼却処分する(引用文献2の段落【0007】)から、焼却処分時も想定していることのみをもって、引用発明は燃焼させようとするものであるということはできない。
(2)請求人は、「…絵柄印刷層を備える引用発明1の表面層の坪量(熱可塑性樹脂層と絵柄印刷層を含む)を燃焼し難いものに最適化するとは、引用発明1の絵柄印刷層における材料、模様等といった意匠の要素を限定することであり、その結果、意匠性が低下し、意匠性が良好な化粧シートを得ようとする引用発明1が解決しようとする課題に反することに繋がるといえます。
したがいまして、刊行物1に接した当業者が、引用発明1において、燃焼自体がし難い良好な不燃性を実現するために表面層の坪量(有機物の総量)を最適化して相違点2に係る坪量とする動機づけを見出すことは極めて困難です。」(意見書(8)(8.3)(iii))と主張する。
しかし、引用発明は、「ラッピング加工や真空成形加工等の立体成形加工時に、スプリングバック現象による剥離や、局所的に不均一な伸長による柄伸びや艶ムラ等を発生することがなく、しかも、接着剤の塗工ムラ(糊ダク)が表面に現れにくく、特に高鮮映性の立体化粧部材の製造に好適な化粧シートを提供すること」(引用文献1の段落【0006】)を課題として、「アルミニウム箔層の少なくとも一方の面に、1層以上の熱可塑性樹脂層を具備して構成されてなることにより、当該化粧シートが被貼着基材の表面に貼着された際に、アルミニウム箔層の有する適度のコシによって、被貼着基材の表面の不陸や積層接着用の接着剤の塗工ムラ(糊ダク)等の凹凸が貼着後の化粧シートの表面に現れず、化粧シートの表面の鮮映性を保持することができる。また、被貼着基材が表面に立体形状を有し、その表面に沿ってラッピング加工や真空成形加工等により成形しつつ貼着する場合にあっては、アルミニウム箔層の有する優れた成形後の形状保持性により、当該アルミニウム箔層に積層された熱可塑性樹脂層の弾性的反発力が抑止されるので、貼着後の化粧シートの所謂スプリングバック現象による剥離事故を効果的に防止することができ」(段落【0052】)、「しかも、化粧シートの層構成要素として、特有の均一で滑らかな表面を有するアルミニウム箔層が使用されていることにより、熱可塑性樹脂層のみを主体として構成された化粧シートの場合と比較して、化粧シートの表面に高い鮮映度が得られ、高級な意匠感に優れたものとなる。更にまた、当該化粧シートを、立体形状を有する被貼着基材の表面に沿って成形しつつ貼着する場合には、熱可塑性樹脂層を主体とする化粧シートを使用した場合に発生し勝ちな、局所的に不均一な伸長による柄伸びや艶ムラ等の外観不良が、アルミニウム箔層の持つ優れた伸び特性によって効果的に抑制されるので、高鮮映性を主とした高意匠性に優れた各種化粧部材を、容易且つ安定的に得ることができる」(段落【0053】)というものである。したがって、引用発明は少なくとも、「アルミニウム箔層の少なくとも一方の面に、1層以上の熱可塑性樹脂層を具備」していれば上記課題を解決し得るのであって、絵柄印刷層は、段落【0019】に記載された構成のように設けてもよいし、段落【0018】に記載された構成(アルミニウム箔層1の表面側に透明な熱可塑性樹脂層3を設けた構成)のように設けなくてもよいという程度の事項である。そうすると、絵柄印刷層は必要不可欠な事項とはいえず、絵柄印刷層の存在を前提とした上記主張は当を得たものではない。
また、引用発明が、段落【0019】に記載されたように、木目調や石目調等の絵柄印刷層を熱可塑性樹脂層の表面側に設けた場合であっても、引用発明の「表面層の坪量(熱可塑性樹脂層と絵柄印刷層を含む)」を150g/m^(2)以下、または、さらに限定して30?60g/m^(2)としたからといって、意匠が形成できなくなるという技術常識を見出すことはできないから、そのようにすることに阻害事由があるとは、ただちにいうことはできない。また、仮にその程度の坪量では意匠が形成できないことが技術常識であるということであれば、本願発明の「前記表面層の坪量は40g/m^(2)以上」との下限値及び本願明細書の段落【0014】「坪量が下限値未満であると、意匠性が低下したり、しわの問題から、使用が困難となる恐れがある。」との記載と整合しない。
(3)請求人は、「…かりに、引用発明1が、住宅等の建築物の内装等に使用されることのみをもって、「不燃性」の課題が内在しているとするならば、あらゆる内装部材が、不燃性を実現するための材料、構造などに限定されることとなり、これにより意匠性が低下したり、場合によっては建築物の強度や耐久性にまで影響が及ぶことが推測されます。
したがいまして、引用発明1において、住宅等の建築物の内装等に使用されることのみをもって、不燃性の課題が内在していると直ちにいうことはできません。」(意見書(8)(8.3)(iv))と主張する。
しかし、「火災」(引用文献1の段落【0002】)が想定されるような「住宅等の建築物の内装」に使用される引用発明に、不燃性の課題が内在していないということはできない。また、「火災」が想定されるような「住宅等の建築物の内装」に不燃性の課題が内在し、当該課題を解決する動機づけがあるということと、「あらゆる内装部材が、不燃性を実現するための材料、構造などに限定されること」とは、ただちに結びつくものではない。
(4)請求人は、「…引用発明1において、アルミニウム層を厚くすることは、「加工時の取り扱い易さや、立体形状の被貼着基材の表面への成形貼着時の加工適性」(刊行物1、段落0025)といった効果が得られなくなり、さらには、意匠性が低下し、引用発明1が解決しようとする課題を解決できなくなることが容易に推測されるため、当業者としては考えないものです。」(意見書(8)(8.3)(v))と主張する。
しかし、請求人の主張する「加工時の取り扱い易さや、立体形状の被貼着基材の表面への成形貼着時の加工適性」は、引用発明において必要不可欠な事項ではない。そして、引用文献1の段落【0025】には「アルミニウム箔層1…の材質や厚みは、用途や要求特性に応じて任意であり、特に制限されるものではないが、一般的にはアルミニウム箔層1の厚みは8?200μm程度の範囲内から任意の厚みに設定することが可能」と記載されていることに鑑みれば、アルミニウム箔層の厚みを、例示された200μm付近、もしくは、特に制限されるものでもないのでより厚い範囲とすることが阻害されるということはできない。
(5)したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-20 
結審通知日 2018-03-27 
審決日 2018-04-09 
出願番号 特願2012-171258(P2012-171258)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 小野田 達志
蓮井 雅之
発明の名称 不燃化粧板  
代理人 速水 進治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ