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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1340740
審判番号 不服2016-14310  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-26 
確定日 2018-05-22 
事件の表示 特願2013-544673「コーティングまたはインク組成物を基材に塗布し、放射線照射する方法、およびその産物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月21日国際公開、WO2012/082687、平成26年2月27日国内公表、特表2014-504950〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年12月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月13日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
平成27年6月30日付け :拒絶理由の通知
平成27年12月21日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年5月25日付け :拒絶査定
平成28年9月26日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成27年12月21日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。

「コーティングまたはインク組成物を非多孔性基材に塗布する方法であって、
前記組成物を前記非多孔性基材の第1の表面に塗布する工程と、
前記非多孔性基材の前記塗布済みの第1の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
前記非多孔性基材の第2の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
を含み、
前記非多孔性基材がプライマー処理または化学処理されていない、方法。」(以下「本願発明」という)

第3 引用文献・引用発明
1.引用文献1の記載事項及び引用発明

(1)摘記事項及び図示事項

原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された、特開2006-181430号公報(2006年7月13日公開。以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の記載がある。

ア「しかしながら、上記のような紫外線吸収剤を含む紫外線硬化型樹脂の塗工層に紫外線を照射し硬化させる場合、照射した紫外線の一部が紫外線吸収剤に吸収されるため、硬化速度が遅くなったり硬化ムラが生じたりするなどの問題が生じる。特に硬化ムラに関しては、塗工層の紫外線照射面のみが硬化し、それゆえに基材と塗工層の密着性が低くなるという積層体の強度上の問題が発生し、最悪の場合、塗工層と基材が剥離する恐れもある。紫外線の照射強度を上げることも行われているが、紫外線照射装置の大型化、作業環境における紫外線対策、製品への紫外線の影響などがあり、完全に問題を解決できるまでには至っていない。」(【0007】)

イ「本発明の塗工装置は、塗料インキ等が塗布された基材に紫外線を照射する紫外線照射装置を有する塗工装置において、該塗料インキ等が塗布された基材の一方の面に紫外線を照射する第1の紫外線照射装置と、該塗料インキ等が塗布された基材の他方の面に紫外線を照射する第2の紫外線照射装置、とからなることを特徴とする。」(【0009】)

ウ「本発明によれば、一つの塗工装置において積層体の塗工面と基材側面の両方から紫外線を照射することにより、紫外線照射積算量を確保しつつ作業速度の低下、作業時間の増加が起こらす、塗工層の硬化ムラが発生せず、かつ基材と塗工層の密着性がよい積層体を製造することのできる装置、製造方法ならびに該装置および該製造方法により製造される積層体を提供することができる。」(【0018】)

エ「本発明の塗工装置における紫外線照射装置は、一連の塗工工程中において塗料インキ等が塗布された帯状物(積層体)の両面に紫外線を照射することができるものであれば特に限定されるものではなく、一つの装置で複数方向に照射可能な装置でもよく、一方向のみに照射可能な複数の装置でも構わない。」(【0019】)

オ「また、基材に塗料インキ等を塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、基材の材質や形状、塗料インキ等の特性に応じて適宜決定すればよい。・・・」(【0020】)

カ「紫外線照射装置の積層体に対する照射方法は、図2および図3に示す大きく分けて2つの方法がある。図2は、基材の一方の面上に紫外線硬化型樹脂塗料が塗布された塗工層を有する積層体10において、基材がロール31に接した状態で紫外線照射装置20により紫外線を照射する方法で、本発明の実施において好ましい例の一つである。紫外線照射により紫外線硬化型樹脂を硬化させる場合、塗工面の収縮等が起こりやすく、また紫外線照射装置の熱による基材の変形等の問題があり、さらにはそれらが原因と思われる塗工面のシワが発生する問題もあるため、ロールにより積層体に張力を掛けた状態で紫外線照射することが望ましい」(【0021】)

キ「紫外線を照射する順番は、図3の方式であればどちらの面を先に照射しても構わないが、図2の方式の場合、最初に塗工面側、次いで基材面側の順番が望ましい。塗工面が未硬化の状態でロールに接した場合、ロールに未硬化の樹脂が付着することなり、安定した塗工層をもつ積層体の製造が不可能となるからであり、塗工面表面を最初に紫外線照射し硬化させることにより、塗工面が未硬化の状態でロールに接することがなくなる。」(【0023】)

ク「図4は、積層体10の基材面をバックアップロール31に接した状態で第1の紫外線照射装置21により積層体10の塗工面側より塗工層を紫外線硬化させ、次いで積層体10の塗工面をバックアップロール32に接した状態で第2の紫外線照射装置22により積層体10の基材面側より塗工層を紫外線硬化させることを示した概略図である。・・・」(【0025】)

ケ「本発明に係る積層体の基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系、トリアセチルセルロース等のセルロース系、ポリメタクリル酸メチル等のアクリレート系、ポリカーボネート系、オレフィン系等、紫外線が透過する材料であれば特に限定されないが、紫外線吸収剤が添加されておらず、紫外線透過率が高い樹脂が好ましく、また、各々の基材において、あらかじめ、塗布面との密着性を向上するために易接着層を設けることも可能である。・・・」(【0029】)

(2)引用文献1に記載された発明

ア 摘記事項エ及びケからみて、引用文献1には「ポリエチレンテレフタレートからなる基材に塗料インキが塗布された積層体の両面への紫外線の照射を含む一連の塗工方法」が記載されている。

イ 摘記事項エないしキからみて、引用文献1には、「前記一連の塗工方法」が「塗料インキを前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の一方の面上に塗布する工程」を含むことが記載されている。

ウ 摘記事項エ及びクからみて、引用文献1には、「前記一連の塗工方法」が「前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の塗工面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程」を含むことが記載されている。

エ 摘記事項エ及びクからみて、引用文献1には、「前記一連の塗工方法」が「前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の基材面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程」を含むことが記載されている。

オ 摘記事項ケからみて、引用文献1には、「前記基材の材料は紫外線が透過するものであれば特に限定されない」ことが記載されている。

上記の摘記事項アないしケを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ポリエチレンテレフタレートからなる基材に塗料インキが塗布された積層体の両面への紫外線の照射を含む一連の塗工方法であって、
塗料インキを前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の一方の面上に塗布する工程と、
前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の塗工面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程と、
前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の基材面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程と、
を含み、
前記基材の材料は紫外線が透過するものであれば特に限定されない、塗工方法。」

第4 引用発明との対比
1.本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「塗料インキ」は、本願発明の「インク組成物」に相当する。

(2)引用発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる基材に塗料インキが塗布された積層体の両面への紫外線の照射を含む一連の塗工方法」は、塗料インキのポリエチレンテレフタレートからなる基材への塗装状態を完成させるための複数の工程の集まりであるから、全体として「塗料インキをポリエチレンテレフタレートからなる基材に塗布する方法」であると言える。
また、引用文献1には「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」が多孔性であるとは記載されておらず、さらに、樹脂素材は、製造時に発泡させる等の特別の処理をしない限り一般的に非多孔性であることが技術的に明らかであるところ、引用文献1には「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」がそのような処理の施されたものであることを示唆する記載も見当たらないから、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」は非多孔性であると認められる。
よって、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる基材に塗料インキが塗布された積層体の両面への紫外線の照射を含む一連の塗工方法」は、本願発明の「インク組成物を非多孔性基材に塗布する方法」に相当する。

(3)引用発明の「塗料インキを前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の一方の面上に塗布する工程」は、本願発明の「前記組成物を前記非多孔性基材の第1の表面に塗布する工程」に相当する。

(4)本願発明の「放射線」という語句は、「放射性元素の崩壊に伴って放出される粒子線または電磁波」または「広義には種々の粒子線および電磁波の総称」(広辞苑・第六版DVD-ROM版)を意味するものである。
また、本願明細書の段落【0035】には具体的なものとして、「広義には種々の粒子線および電磁波の総称」に含まれる「紫外線」が挙げられている。
よって、引用発明の「前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の塗工面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程」は、本願発明の「前記非多孔性基材の前記塗布済みの第1の表面に放射線を1回以上照射する工程」に相当する。

(5)引用発明の「基材面」は「塗工面」とは別の面であるから、引用発明の「前記ポリエチレンテレフタレートからなる基材の基材面側より紫外線を照射して塗工層を紫外線硬化させる工程」は、本願発明の「前記非多孔性基材の第2の表面に放射線を1回以上照射する工程」に相当する。

2.以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「インク組成物を非多孔性基材に塗布する方法であって、
前記組成物を前記非多孔性基材の第1の表面に塗布する工程と、
前記非多孔性基材の前記塗布済みの第1の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
前記非多孔性基材の第2の表面に放射線を1回以上照射する工程と、
を含む方法。」

<相違点>
「非多孔性基材」について、本願発明では、「プライマー処理または化学処理されていない」のに対し、引用発明では、「材料は紫外線が透過するものであれば特に限定されない」こととされているものの、プライマー処理または化学処理がなされていないか否かは直接的には明らかでない点。

第5 判断
1.以下、相違点について検討する。

(1)本願発明には「プライマー処理または化学処理」の目的や処理内容は特定されていないところ、出願当初の本願明細書の段落【0006】の「プライマー処理または化学処理を施した層(単一または複数)を基材に塗布すると、接着性は向上させることができる」との記載を参酌すれば、「プライマー処理または化学処理」は接着性の向上を目的としたものであると解釈される。
一方、引用文献1の段落【0029】には、基材の具体的材料として「ポリエチレンテレフタレート」を挙げた上で、「各々の基材において、あらかじめ、塗布面との密着性を向上するための易接着層を設けることも可能である。」と記載されているから、引用文献1には、「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」として、易接着層を設けたもののみならず、易接着層を設けないものも含まれていると理解できる。
したがって、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」は、易接着層を設けないものも含むところ、易接着層を設けないということは、接着性の向上を目的とした層を設ける様々なタイプの処理のいずれをも行わないということであるから、当然、接着性の向上を目的としたプライマー処理や化学処理も行わないということになる。
そうすると、引用発明において、基材として易接着層を設けないものを選択すること、すなわち、プライマー処理または化学処理をされていないものを選択することは、当業者が容易に想到できた事項である。

2.したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものである。

3.審判請求人の主張について

審判請求人は審判請求書の第4ページ第17行?第23行で「しかしながら、本願発明の技術的特徴は、非多孔性基材がプライマー処理又は化学処理されていなくても、コーティング又はインク組成物の接着性能を著しく向上させることができる点にあります。これに対し、引用文献1の実施例では両面が易接着処理されたPETフィルムを基材として使用しており、易接着処理された表面と塗工層との密着性のみが評価されています。すなわち、プライマー処理又は化学処理されていない場合に、基材とコーティング又はインク組成物との密着性が向上するか否かについては、記載されていません。」と主張している。
しかしながら、1.(1)に示したように、引用文献1には、塗料インキが塗布される「ポリエチレンテレフタレートからなる基材」として、易接着層を設けたもののみならず、易接着層を設けないものも含まれていると理解でき、易接着層を設けないということは、結局、接着性の向上を目的としたプライマー処理や化学処理も行わないということである。
そして、引用文献1に記載の技術は、段落【0007】に記載されているように、紫外線硬化型の塗料インクを塗布した基材の塗工層に紫外線を照射した場合、基材と塗工層の密着性が低くなるという積層体の強度上の問題が発生し、最悪の場合、塗工層と基材が剥離する恐れもある、という課題に対し、塗工面側及び基材面側に紫外線を照射することで、基材と塗工層との密着性を向上させた、というものであるところ、その基材の具体例として、上記した、易接着層を設けない、すなわち、接着性の向上を目的としたプライマー処理または化学処理が施されていないものも含まれている以上、このような基材においても、程度の差こそあれ、基材と塗工層との密着性の向上はあるというべきである。
このように、引用文献1に、プライマー処理又は化学処理されていない場合、基材と塗料インキとの密着性が向上するか否かについて記載されていない、とは言えないから、上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-12-20 
結審通知日 2017-12-25 
審決日 2018-01-09 
出願番号 特願2013-544673(P2013-544673)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 西村 泰英
柏原 郁昭
発明の名称 コーティングまたはインク組成物を基材に塗布し、放射線照射する方法、およびその産物  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  

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