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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A47C 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A47C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47C |
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管理番号 | 1340752 |
審判番号 | 不服2017-8699 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-06-14 |
確定日 | 2018-06-12 |
事件の表示 | 特願2012-225549号「椅子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 1日出願公開、特開2014- 76175号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年10月10日に出願されたものであって、平成28年8月22日付けで拒絶理由が通知され、同年10月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年3月9日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年6月14日に拒絶査定不服審判が請求されたと同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 〔理由A〕この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 〔理由B〕この出願の請求項1?4に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 〔理由C〕この出願の請求項1?4に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特開2009-11741号公報 引用文献2.特開2001-1824号公報 第3 平成29年6月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)について 本件補正は、補正前の請求項1において、 「座と背凭れとからなる複数の座席を、左右方向に離間させて共通の脚体に支持してなる椅子において、 座と背凭れとからなる複数の座席を、左右方向に離間させて共通の脚体に支持してなる椅子において、」 と同じ記載が重複して不明確となっていたのに対し、一方の記載を削除するものであり、特許法第17条の2第5項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3、4項に違反するところはない。 第4 本願発明 本願の請求項1?4に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 座と背凭れとからなる複数の座席を、左右方向に離間させて共通の脚体に支持してなる椅子において、 互いに隣接する座席におけるいずれか一方の座を構成する座板の一の側端面が他方の座席の座を構成する座板の他の側端面と該他方の座席の座の側で近接または当接するように、他方の座側に向かって側方に延出し、この延出部を、互いに隣接する座間に形成される隙間を塞ぐ前後方向のカバー部としたことを特徴とする椅子。 【請求項2】 互いに隣接する座席におけるいずれか一方の背凭れを構成する背板の一の側端面が他方の座席の背凭れを構成する背板の他の側端面と該他方の背凭れの側で近接または当接するように、他方の背凭れ側に向かって延出し、この延出部を、互いに隣接する背凭れ間に形成される隙間を塞ぐ上下方向のカバー部としたことを特徴とする請求項1に記載の椅子。 【請求項3】 前記座板と前記背板とを一体的に形成し、前記上下方向のカバー部を前記前後方向のカバー部に連続させたことを特徴とする請求項2に記載の椅子。 【請求項4】 一体的に形成された前記座板と前記背板との表面に、クッション材を設けたものとし、前記座板及び背板のみを側方に延出させることにより前記上下方向のカバー部と前記前後方向のカバー部としたことを特徴とする請求項3に記載の椅子。」 第5 〔理由A〕の検討 1 原査定の理由 「隣接する2つの座に対し、一方の座の側端面が他方の座の側端面に当接するものを包含する。してみると、この当接面を介して振動が伝わることは当業者に明らかである。」として、発明の詳細な説明の記載は経済産業省令の規定を満たしておらず、特許法第36条第4項第1号に違反する旨説示している。 2 発明の詳細な説明の記載 本願明細書の段落【0005】に従来技術の問題点として「一方、特許文献3及び4に記載されている椅子は、互いに隣接する座席を離間させているので、上記のような問題が生じることはない。しかし、特許文献3に記載の椅子は、互いに隣接する座席間に隙間が形成されているので、この隙間より物を落としたり、子供の手や足が隙間に入り込んで、思わぬ怪我をする虞がある。このような問題が発生するのを防止するために、特許文献4に記載の椅子においては、互いに隣接する座席間の隙間を、スペーサにより塞いでいる。しかし、このスペーサは、椅子とは別体のものであり、しかもスペーサを、互いに隣接する座の対向部を支持するブラケットに、ねじにより固定しているので、その取付けに手間がかかるとともに、部品点数が増えてコスト高にもなる。また着座時の振動が、スペーサを介して隣接する座席に伝わる虞がある。」(下線は当審で付加した。)と記載され、段落【0006】に「本発明は、このような課題に着目してなされたもので、隣接する座席に振動が伝わるのを防止しうるようにして、互いに隣接する座席との間の隙間を簡単に閉塞しうるようにした椅子を提供することを目的としている。」と記載されている。 3 判断 上記段落【0005】の記載より、本願において防止したい振動は「着座時の振動」であることが理解でき、左右方向に体を揺らす等をしない通常の着座時においては、座板において略上下方向の振動が主に生じることは当業者であれば理解できることである。 そして、座板同士が互いに固定されているものではなければ、それらが当接していたとしても互いに略上下方向に相対移動は可能なものであって、座板同士が固定されている場合に比べ、少なくとも略上下方向の振動が軽減され得ることは構成上明らかである。 そうすると、座板同士が離間せず当接する場合であっても、隣接する座席に振動が伝わるのを防止する効果を奏し得ることは、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から当業者であれば理解できることであるので、本願の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令の規定を満たしておらず特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないとまではいえない。 第6 〔理由B〕、〔理由C〕の検討 1 引用文献の記載事項並びに引用文献に記載された発明及び技術的事項 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。)。 ア 「【請求項1】 脚体に固着された前後方向を向く左右1対の座フレームの上面に、底面板の両側端部を固定し、この固定部よりも外方において、前記左右の座フレームの上面に、前記底面板の上方に配置された可撓性を有する座板における両側端部下面を載置し、かつ座板における座フレームより内方の部分を、前記底面板の上面に固定したことを特徴とする椅子。」 イ 「【0021】 以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。 図1は、本発明を適用した、複数(実施形態では2個)の単体の椅子1(右方の椅子は、背凭れの背当てを取外してある)を備えるロビーチェアの斜視図、図2は、単体の椅子1の中央縦断拡大側面図である。 【0022】 各椅子1を支持している脚体2は、前後方向に鈍角をなして拡開する側面視山形状のアルミニウム合金等よりなる左右1対の支持脚3、3と、それらの上端部間に横架された角形鋼管よりなる横杆4とからなっている。横杆4の両側端部の開口部は、キャップ5により体裁よく閉塞されている。 【0023】 各椅子1は、前方を向く座フレーム6aと、その後端に連設された側面視凹曲面状の屈曲部6bと、この屈曲部6bの上端よりやや後方に傾斜させて起立し、上端部が後ろ向きに折曲された背フレーム6cとからなる側面視ほぼ前向きL字状の左右1対の側部フレーム6、6を備えている。」 ウ 「【0031】 各椅子1の左右の側部フレーム6における背フレーム6cには、背凭れ19が取付けられている。 背凭れ19は、板金製パンチングプレートよりなる後面板20と、その前方の前後方向 に弾性変形可能な合成樹脂製の背板21と、背板21の前面に取付けられたクッション材よりなる背当て22とからなっている。」 エ 「【0042】 各椅子1における左右の側部フレーム6の座フレーム6aには、座体33が取付けられている。 図2及び図10?図13に示すように、座体33は、板金製の底面板34と、その上面に取付けられた合成樹脂製の座板35と、座板35の上面に取付けられたクッション材36とからなっている。」 (2)引用文献1に記載された発明 上記(1)イ、ウの記載事項及び【図1】の記載より、ロビーチェアは、座体33と背凭れ19とからなる複数の単体の椅子1を、左右方向に離間させて共通の脚体2に支持してなるものであることは明らかである。 以上のことと、上記(1)の各記載事項及び【図1】、【図2】、【図11】?【図13】の記載から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「座体33と背凭れ19とからなる複数の単体の椅子1を、左右方向に離間させて共通の脚体2に支持してなるロビーチェアにおいて、 前記椅子1の座体33は、底面板34と、その上面に取付けられた座板35と、座板35の上面に取付けられたクッション材36とからなり、 脚体2に固着された前後方向を向く左右1対の座フレーム6aの上面に、底面板34の両側端部を固定し、この固定部よりも外方において、前記左右の座フレーム6aの上面に、前記底面板34の上方に配置された可撓性を有する座板35における両側端部下面を載置し、かつ座板35における座フレーム6aより内方の部分を、前記底面板34の上面に固定したロビーチェア。」 (3)引用文献2の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。 ア 「【請求項4】 左右両側に隣接した状態で配置されたシートクッション同士の隙間を覆う車両シートの隙間覆い構造であって、 前記シートクッションの着座面の各対向端部における一方側に切込みを形成し、且つ他方側に、所定幅の延長部を一方側へ向けて形成すると共に該延長部の下側に切込みを形成し、 他方側の延長部を下側の切込み内に折り曲げて格納すると共に、該延長部を引き出して一方側の切込み内に挿入することにより隙間を覆うことを特徴とする車両シートの隙間覆い構造。」 イ 「 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の技術にあっては、左右のシートクッションの間に隙間があるため、三人乗りになる場合に、その中央でシートクッションに跨がって着座する乗員は乗り心地が悪い。また、三人乗りにならない場合も、左右のシートクッションの間に隙間が存在しているため、隙間内に小物等が落ちて、なかなか取り出せない場合がある。」 ウ 「【0027】図7及び図8は、この発明の第4実施形態を示す図である。この第4実施形態は、シートクッション2の着座面の各対向端部における一方側に切込み11を形成し、且つ他方側にのみ薄い延長部12を形成し、その下側に切込み6を形成した。不使用時には、他方側の延長部12を下側の切込み6内に折り曲げて格納すると共に、使用時には延長部12を引き出して一方側の切込み11内に挿入することにより隙間Sを覆うようにしたものである。この第4実施形態によれば、延長部12を他方側に形成するだけで済むため、シートクッション2の製造が容易になる。」 エ 「【0030】 【発明の効果】この発明によれば、延長部によりシートクッション間の隙間を覆うことができるため、三人乗りの場合に、中央の乗員の乗り心地が良くなる。また、隙間内への小物等の落下を防止することができる。」 (4)引用文献2に記載された技術的事項 上記(3)の各記載事項及び【図7】、【図8】の記載から、引用文献2には次の技術的事項(以下「引用文献2技術」という。)が記載されているものと認める。 「左右両側に隣接した状態で配置されたシートクッション2同士の隙間を覆う車両シートの隙間覆い構造であって、 前記シートクッション2の着座面の各対向端部における一方側に切込み11を形成し、且つ他方側に、所定幅の延長部12を一方側へ向けて形成すると共に該延長部12の下側に切込み6を形成し、 他方側の延長部12を下側の切込み6内に折り曲げて格納すると共に、該延長部12を引き出して一方側の切込み内に挿入することにより隙間を覆う車両シートの隙間覆い構造。」 2 対比・判断 (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)後者の「座体33」は前者の「座」に相当し、以下同様に、「背凭れ19」は「背凭れ」に、「椅子1」は「座席」に、「脚体2」は「脚体」に、「ロビーチェア」は「椅子」に、「座板35」は「座板」にそれぞれ相当する。 (イ)上記(ア)を踏まえると、後者の「座体33と背凭れ19とからなる複数の単体の椅子1を、左右方向に離間させて共通の脚体2に支持してなるロビーチェア」は、前者の「座と背凭れとからなる複数の座席を、左右方向に離間させて共通の脚体に支持してなる椅子」に相当するといえる。 (ウ)してみると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりと認める。 〔一致点〕 「座と背凭れとからなる複数の座席を、左右方向に離間させて共通の脚体に支持してなる椅子。」 〔相違点〕 「座板」に関し、本願発明1が「互いに隣接する座席におけるいずれか一方の座を構成する座板の一の側端面が他方の座席の座を構成する座板の他の側端面と該他方の座席の座の側で近接または当接するように、他方の座側に向かって側方に延出し、この延出部を、互いに隣接する座間に形成される隙間を塞ぐ前後方向のカバー部とした」という事項を有するのに対し、引用発明の「座板35」は当該事項を有していない点。 イ 判断 (ア)〔理由B〕について 上記ア(ウ)のとおり、本願発明1と引用発明との間には上記相違点が存在するため、本願発明1は引用発明であるとはいえない。 したがって、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。 (イ)〔理由C〕について a 本願発明1の解決しようとする課題は、上記「第5 2」で示したように、「隣接する座席に振動が伝わるのを防止しうるようにして、互いに隣接する座席との間の隙間を簡単に閉塞しうるようにした椅子を提供すること」にあるものである。 そして、当該課題を解決するため、「座板」に着目して上記相違点に係る事項を採用し、「一方の座を構成する座板の一の側端面が他方の座席の座を構成する座板の他の側端面と該他方の座席の座の側で近接または当接する」よう延出することによって振動が伝わるのを防止し、「延出部を、互いに隣接する座間に形成される隙間を塞ぐ前後方向のカバー部と」することによって隙間を閉塞しているものであって、「座板」の構成に改良を加えることにより、上述した2つの課題を同時に解決しているものである。 b ここで、引用文献2技術は、上述した課題のうち、座席間の隙間を閉塞することに対応しているといえるものであるが、その構成や引用文献2の記載内容からみて、隣接する座席間に振動が伝わるという課題を解決するためになされたものではない。 そして、座席間の隙間を閉塞するために「シートクッション2の着座面の各対向端部における一方側に切込み11を形成し、且つ他方側に、所定幅の延長部12を一方側へ向けて形成すると共に該延長部12の下側に切込み6を形成し、他方側の延長部12を下側の切込み6内に折り曲げて格納すると共に、該延長部12を引き出して一方側の切込み内に挿入することにより隙間を覆う」という手段を採用しているものであって、「座板」におけるものではないため、引用発明に引用文献2技術を適用したとしても、上記相違点に係る本願発明1の事項を有するものには至らない。 c また、引用文献2技術は、「左右のシートクッションの間に隙間があるため、三人乗りになる場合に、その中央でシートクッションに跨がって着座する乗員は乗り心地が悪い」(上記「1(3)イ」)ということを本来の解決しようとする課題としているところ、上記bで述べたように隣接する座席間に振動が伝わるという課題を解決するためになされたものでもないため、引用文献2技術から「シートクッション2」と切り離して単に「延長部」という事項のみを取り出して、それを引用発明の「座板34」に適用し、さらに「一方側の切込み内に挿入する」ことに係る事項も削除して「近接または当接する」ようにすることは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。 d したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 (2)本願発明2?4について 本願発明2?4は、本願発明1の発明特定事項を全て含みさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、引用発明であるとはいえないし、当業者が引用発明及び引用文献2技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本願発明2?4は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえないし、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえないし、また、本願発明1?4は、同法第29条第1項第3号に該当するとはいえないし、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないので、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-05-29 |
出願番号 | 特願2012-225549(P2012-225549) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A47C)
P 1 8・ 536- WY (A47C) P 1 8・ 113- WY (A47C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 井出 和水 |
特許庁審判長 |
氏原 康宏 |
特許庁審判官 |
仁木 学 一ノ瀬 覚 |
発明の名称 | 椅子 |
代理人 | 溝渕 良一 |
代理人 | 秋庭 英樹 |
代理人 | 石川 好文 |
代理人 | 林 道広 |
代理人 | 堅田 多恵子 |
代理人 | 重信 和男 |