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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B43K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B43K
管理番号 1340901
審判番号 不服2017-10699  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-18 
確定日 2018-06-26 
事件の表示 特願2012-194950「筆記具」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 50970、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月5日の出願であって、平成28年8月18日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月24日付けで手続補正がされ、平成29年4月13日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年7月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年3月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年5月2日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、平成30年5月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
ペン先が、筆記部となる多孔体と、該多孔体を保持し、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部を少なくとも1つ有する保持体とを備え、筆記具本体に含まれるインクを、上記保持体に設けたインク誘導部に供給するための中継多孔体を有し、かつ、上記保持体が、筆記方向を視認できる視認部となる筆記具であって、上記インク誘導部は略中央部に配置すると共に、該インク誘導部内にインクを含浸させたインク供給芯を配設し、筆記具本体からのインクを保持体内に配設された上記中継多孔体及びインク供給芯を介して筆記部へ供給すると共に、インク供給芯が中継多孔体と一体であることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
インク供給芯は、インク誘導部とインク供給芯との間に隙間を形成し、該隙間からインクで満たされ、かつ、筆記具本体からのインクを保持体内に配設された上記中継多孔体を介して当該インク供給芯と、上記隙間の毛管作用とにより筆記部へ供給することを特徴とする請求項1記載の筆記具。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-20575号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「ペン先が、筆記部となる多孔体と、該多孔体を保持し、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部を少なくとも1つ有する保持体とを備え、筆記具本体に含まれるインクを、上記保持体に設けたインク誘導部に供給するための中継多孔体を有し、かつ、上記保持体が、筆記方向を視認できる視認部となる筆記具であって、該視認部の面積比率が、筆記具本体先端部より突出したペン先の40%以上であることを特徴とする筆記具。」(【請求項1】)
(2)「以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
図1は、本発明の筆記具の実施形態の一例を示す縦断面図、図2は、ペン先を示す図面であり(a)は縦断面図、(b)は(a)のA?A線断面図、(c)は(a)のB-B線断面図である。
本実施形態の筆記具Aは、マーキングペンタイプの筆記具であり、図1に示すように、筆記具本体となる軸筒10、インク吸蔵体20、中継多孔体30、ペン先40、尾栓60とを備えている。
軸筒10は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス等で形成されるものであり、筆記具用インクを含浸したインク吸蔵体20を収容する本体部11と、ペン先40を固着する先軸部12を有している。」(段落【0013】)
(3)「中継多孔体30は、インク吸蔵体20のインクを後述する保持体55に設けたインク誘導部50に供給する中継芯となるものであり、インク吸蔵体20と同様に繊維束、フェルト等の繊維束を加工した繊維束芯、または、硬質スポンジ、樹脂粒子焼結体等からなる樹脂粒子多孔体、スライバー芯等の連続気孔(流路)を有するものであり、インク吸蔵体20に含浸されたインクを中継多孔体30を介して保持体55のインク誘導部50へ供給できるものであれば、特にその形状、構造等は限定されるものでない。この中継多孔体の断面形状としては、例えば、円、楕円、正方形、長方形、台形、平行四辺形、ひし形、カマボコ形、半月形の形状が挙げられ、本実施形態では、断面形状が円形状となっている。なお、本実施形態の中継多孔体30は、図1に示すように、先軸12内に嵌合される支持部材35に保持される構造となっている。」(段落【0015】)
(4)「上記保持体55内部には、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部50を少なくとも1つ有するものであり、本実施形態では、視認部の面積比率を最大限に発揮せしめる点、筆記部となる多孔体に効率的にインクを供給する点から、図2(a)及び(c)に示すように、長手方向の中央にインク誘導部50が貫通する形で1本設けられている。
このインク誘導部50の形状、大きさ等は、筆記具本体に含まれるインク吸蔵体20に含浸されたインクが上記中継多孔体30を介して直接インク誘導部へ供給できる構造等とるものであれば、その形状、構造、大きさ、本数などは適宜選択することができる。
好ましくは、本発明の効果を最大限に発揮せしめる点から、インク誘導部50の断面幅方向の長さWは、ペン先の長軸長さXの40%未満、更に好ましくは、1?30%であることが望ましく、また、インク誘導部50の断面積は、筆記部の保持体側断面積未満、または、中継多孔体30の保持体側断面積未満であることが望ましい。」(段落【0020】)
これらの記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「ペン先が、筆記部となる多孔体と、該多孔体を保持し、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部を少なくとも1つ有する保持体とを備え、筆記具本体に含まれるインクを、上記保持体に設けたインク誘導部に供給するための中継多孔体を有し、かつ、上記保持体が、筆記方向を視認できる視認部となる筆記具であって、
軸筒は、インク吸蔵体を収容する本体部と、ペン先を固着する先軸部を有しており、
中継多孔体は、先軸内に嵌合される支持部材に保持される構造となっており、
上記保持体内部には、長手方向の中央にインク誘導部が貫通する形で1本設けられている筆記具。」
2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2004-42263号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「軸筒内のインキ吸蔵体に含浸されたインキを筆記部となるペン先に供給する筆記具であって、上記インキ吸蔵体に含浸されたインキは中継芯を介して視認性を有するインキ誘導管へ供給されると共に、該インキ誘導管を介してペン先に供給され、かつ、インキ吸蔵体からのインキ終了サインを軸筒に形成した視認部を介して上記インキ誘導管を視認することにより検知することを特徴とする筆記具。」(【請求項1】)
(2)「図1?図3は、本発明の第1実施形態を示すものであり、サインペン、マーカー、ホワイトボード用マーカー等に好適に適用することができるものである。
本第1実施形態の筆記具Aは、図1及び図3に示すように、筆記具本体となる軸筒10、インキ吸蔵体20、中継芯25、インキ誘導管30、ペン先40、尾栓50とを備えている。
軸筒10は、例えば、合成樹脂製から構成されるものであり、先端側がテーパー部を有する小径部10aと、大径部10bとが一体となったものであり、該小径部10a内にはペン先20を嵌着する嵌着部11を有すると共に、大径部10b内は筆記具用インキを含浸したインキ吸蔵体20、中継芯25、インキ誘導管30を収容する構造となっている。」(段落【0009】)
(3)「また、軸筒10の大径部10bの先端側は、図1及び図3に示すように、軸筒内を視認できるように透明体又は半透明体から構成された視認部12を有し、それ以外は別部材等により非視認部となっている。
なお、軸筒10全体を視認性を有する透明又は半透明材料から構成して、軸筒10全体を視認できるものであってもよいものであり、また、軸筒10全体を視認性を有する透明又は半透明材料から構成して、視認部12以外を着色部や装飾部として非視認部としてもよいものである。
この視認部12の全長は、該視認部12より、軸筒10内に保持されるインキ誘導管30を視認できる長さであればよく、1mm以上筆記具本体(本実施形態では軸筒)の全長以下、好ましくは、5mm以上とすることが望ましい。なお、視認部12の全長が1mm未満であると、インキ終了サインの検知を視認し難く検知機能を果たせないこととなる。」(段落【0010】)
(4)「図7(a)?(c)は、本発明の第4実施形態を示すものである。本第4実施形態の筆記具Dでは、視認性を有するインキ誘導管35の中にインキ吸蔵体20に含浸されたインキよりも表面張力が小さくインキと色の違う繊維束又は樹脂粒子多孔体、例えば、四フッ化ポリエチレンなどからなる繊維束又は樹脂粒子多孔体36〔図7(b)〕又はフッ化ビニリデンなどからなる繊維束又は樹脂粒子多孔体37〔図7(c)〕をインキ誘導管35に充填して、インキ誘導管35の見かけ断面積を維持したまま実質的にインキ誘導管を流れるインキ流路断面積とインキの流動抵抗をコントロールされている点でのみ、上記第1実施形態の筆記具Aと異なるものである。なお、繊維束又は樹脂粒子多孔体36又は37の長さは、中継芯25の挿入部がインキ誘導管35の後端部分に挿入されるので、インキ誘導管30の長さよりも短くなっている。また、図7(a)及び(b)において、上記第1実施形態と同様の構成は同一符号を付けてその説明を省略する。
なお、用いる上記繊維束又は樹脂粒子多孔体は、その材料自身の表面エネルギーがインキよりも低いものを用いるか、または、表面処理を施すことによりインキよりも表面エネルギーを下げたものを用いることが必要である。
本第4実施形態の繊維束又は樹脂粒子多孔体36又は37の色相は、インキ吸蔵体20に含浸されたインキの色と異なること、好ましくは、用いるインキ色で隠蔽される色となるものが望ましい。例えば、インキが黒色の場合は白色、インキが赤色の場合は青色、インキが黄色の場合は黒色が挙げられるが、透明又は半透明でも良く、必ずしも着色する必要はない。」(段落【0026】)
(5)「本第4実施形態の筆記具Dでは、インキ吸蔵体20に含浸されたインキは中継芯25dを介して棒状等の繊維束又は樹脂粒子多孔体36又は37がインキ誘導管35の内壁と接することなく挿入された視認性を有するインキ誘導管35をとおりペン先40に供給されて筆記が可能となる。この筆記具Dでは、インキよりも表面張力が小さく、かつ、インキと色の違う繊維束又は樹脂粒子多孔体36又は37をインキ誘導管35の内部にインキ誘導管35の内壁と接することなく具備させることにより、インキ誘導管35を流れるインキ流路断面積を減らし、インキ誘導管の見かけ断面積をそのままに実質的に断面積を減らすことができるので、インキ誘導管35内を流れるインキ容量も減らすことができるので、インキ終了の検知機能とインキ終了時のインキ流出過剰の問題を同時に解決できることとなる。
また、本第4実施形態の筆記具Dでは、上述の第1?第3実施形態の筆記具におけるインキの終了サインをインキ誘導管におけるインキ切れの視認により検知したものと相違し、インキが終了(インキ切れ)した場合に、インキ誘導管35にはインキ色と異なる繊維束又は樹脂粒子多孔体36又は37の色相で視認することができるので、インキの終了サインをより明確に視覚に訴えることができるものとなる。」(段落【0027】)
これらの記載を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「軸筒内のインキ吸蔵体に含浸されたインキを筆記部となるペン先に供給する筆記具であって、上記インキ吸蔵体に含浸されたインキは中継芯を介して視認性を有するインキ誘導管へ供給されると共に、該インキ誘導管を介してペン先に供給され、かつ、インキ吸蔵体からのインキ終了サインを軸筒に形成した視認部を介して上記インキ誘導管を視認することにより検知し、
筆記具本体となる軸筒、インキ吸蔵体、中継芯、インキ誘導管、ペン先、尾栓とを備えており、
軸筒は、先端側がテーパー部を有する小径部と、大径部とが一体となったものであり、該小径部内にはペン先を嵌着する嵌着部を有すると共に、大径部内は筆記具用インキを含浸したインキ吸蔵体、中継芯、インキ誘導管を収容する構造となっており、
軸筒の大径部の先端側は、軸筒内を視認できるように透明体又は半透明体から構成された視認部を有し、
視認性を有するインキ誘導管の中に繊維束又は樹脂粒子多孔体をインキ誘導管に充填しており、
インキ吸蔵体に含浸されたインキは中継芯を介して棒状等の繊維束又は樹脂粒子多孔体がインキ誘導管の内壁と接することなく挿入された視認性を有するインキ誘導管をとおりペン先に供給されて筆記が可能となる筆記具。」
3.引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2007-69426号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「軸筒内のインキ吸蔵体に含浸されたインキが、インキ誘導部を介して筆記部となるペン先に供給されると共に、前記インキ吸蔵体のインキの終了サインを上記インキ誘導部を視認することにより検知するインキ終了検知式の筆記具であって、前記インキ誘導部は、筆記方向を視認できる可視部と、該可視部の側部にインキ誘導管とを有することを特徴とする筆記具。」(【請求項1】)
(2)「以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
図1及び図2は、本発明の実施形態の一例を示すものであり、図1はその縦断面図、図2(a)及び(b)は中継芯を取り付けインキ誘導部のインキ誘導管部分を示す縦断面図と、インキ誘導部の中央部を分断した態様で示す分解斜視図である。
本実施形態の筆記具Aは、マーキングペンタイプの筆記具であり、図1に示すように、筆記具本体となる軸筒10、インキ吸蔵体20、中継芯30、インキ誘導部40、ペン先50及び尾栓60とを備えている。
軸筒10は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス等で形成されるものであり、筆記具用インキを含浸したインキ吸蔵体20を収容する本体部11と、インキ誘導部40を固着する先軸部12を有している。」(段落【0009】)
(3)「中継芯30は、インキ吸蔵体20と同様に繊維束、フェルト等の繊維束を加工した繊維束芯、または、硬質スポンジ、樹脂粒子焼結体等からなる樹脂粒子多孔体、スライバー芯等の連続気孔(流路)を有するものであり、インキ吸蔵体20に含浸されたインキを該中継芯30を介してインキ誘導部40へ供給できるものであれば、特にその形状、構造等は限定されるものでない。
本実施形態では、図1に示すように、中継芯30は先軸12内に嵌合される保持部材25に保持されると共に、その先端側はインキ誘導部40の後端側の保持筒部41に装着されている。」(段落【0011】)
(4)「可視部42は、視認性を有する材料、例えば、PP、PE、PET、PEN、ナイロン(6ナイロン、12ナイロン等の一般的なナイロン以外に非晶質ナイロン等を含む)、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ABS等からなるものであり、インキ誘導管43等と共に同一材料又は別材料で成形することができる他、窓部(空間部)としての可視部であってもよく、更にレンズ部材からなる可視部であっても良いものである。」(段落【0014】)
これらの記載を総合すると、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「軸筒内のインキ吸蔵体に含浸されたインキが、インキ誘導部を介して筆記部となるペン先に供給されると共に、前記インキ吸蔵体のインキの終了サインを上記インキ誘導部を視認することにより検知するインキ終了検知式の筆記具であって、前記インキ誘導部は、筆記方向を視認できる可視部と、該可視部の側部にインキ誘導管とを有し、
筆記具本体となる軸筒、インキ吸蔵体、中継芯、インキ誘導部、ペン先及び尾栓とを備えており、
軸筒は、インキ吸蔵体を収容する本体部と、インキ誘導部を固着する先軸部を有しており、
中継芯は、インキ吸蔵体に含浸されたインキを該中継芯を介してインキ誘導部へ供給できるものであり、
可視部は、レンズ部材からなる筆記具。」

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、
後者における「ペン先」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「ペン先」に相当し、以下同様に、「筆記部」は「筆記部」に、「多孔体」は「多孔体」に、「インク」は「インク」に、「インク誘導部」は「インク誘導部」に、「保持体」は「保持体」に、「『筆記具本体』及び『軸筒』」は「筆記具本体」に、「中継多孔体」は「中継多孔体」に、「視認部」は「視認部」に、「筆記具」は「筆記具」に、それぞれ相当する。
また、後者の「インク誘導部」は、保持体内部の長手方向の中央に設けられているから、「略中央部に配置されている」といえる。
また、後者においては、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部を少なくとも1つ有する保持体とを備え、筆記具本体に含まれるインクを、上記保持体に設けたインク誘導部に供給するための中継多孔体を有しているから、「インク誘導部は、筆記具本体からのインクを中継多孔体を介して筆記部へ供給する」といえる。
したがって、両者は、
「ペン先が、筆記部となる多孔体と、該多孔体を保持し、筆記部にインクを供給するためのインク誘導部を少なくとも1つ有する保持体とを備え、筆記具本体に含まれるインクを、上記保持体に設けたインク誘導部に供給するための中継多孔体を有し、かつ、上記保持体が、筆記方向を視認できる視認部となる筆記具であって、上記インク誘導部は略中央部に配置すると共に、筆記具本体からのインクを上記中継多孔体を介して筆記部へ供給する筆記具。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願発明1は、「インク誘導部内にインクを含浸させたインク供給芯を配設し」、筆記具本体からのインクを「保持体内に配設された」中継多孔体及び「インク供給芯」を介して筆記部へ供給すると共に、「インク供給芯が中継多孔体と一体である」のに対して、引用発明1は、そのようなものでない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
上記「第3 2.」によれば、引用発明2における「ペン先」は、その構造、機能、作用等からみて、本願発明1における「ペン先」に相当し、以下同様に、「筆記部」は「筆記部」に、「インキ」は「インク」に、「インキ誘導管」は「インク誘導部」に、「『筆記具本体』及び『軸筒』」は「筆記具本体」に、「中継芯」は「中継多孔体」に、「視認部」は「視認部」に、「(棒状等の)繊維束又は樹脂粒子多孔体」は「インク供給芯」に、「筆記具」は「筆記具」に、それぞれ相当する。
してみると、引用発明2は、上記相違点に係る本願発明1の「保持体内に配設された」中継多孔体、及び「インク供給芯が中継多孔体と一体である」との発明特定事項を具備していない。
また、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。
そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「インク吸蔵体20に含浸されたインクが上記中継多孔体とインク誘導部とが一体となったインク供給体31を介して直接筆記部となる多孔体45へ毛管作用により効率よくインク供給するものであり、インク供給芯が中継多孔体と一体とすることで、インク供給芯と中継多孔体との接続部間でのインク供給によるムラが無くなり、また、衝撃等によるインクカスレの防止をより向上させることができるものとなる」(段落【0028】)という作用効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお、引用発明3は、上記「第3 3.」のとおりであって、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を具備していない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本願発明2は、上記「1.」と同様の理由により、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成28年10月24日付けで手続補正された請求項1?4について、上記引用文献1、及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、平成28年10月24日付けで手続補正された請求項5について、上記引用文献1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、上記「第4」のとおりであるから、本願発明1及び2は、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たしていない。
1.特許請求の範囲の請求項3には、「保持体のインク誘導部の外形を凸状に形成した」という記載がある。
上記の「保持体のインク誘導部の外形」がどの部分を指すのか明りょうではないし、「凸状に形成した」の意味も明りょうではない。(円筒体の外形部も凸条といえる。)
また、上記の記載は発明の詳細な説明の記載とも整合していない。
2.同じく請求項4には、「保持体のインク誘導部の外形を凹状に形成した」という記載がある。
この記載も請求項3の場合と同様に明りょうとはいえないし、発明の詳細な説明の記載とも整合していない。

2.当審拒絶理由の判断
平成30年5月2日付けの手続補正書において、上記「第2」のとおり、請求項3及び4は削除されたことにより、当審拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-11 
出願番号 特願2012-194950(P2012-194950)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B43K)
P 1 8・ 121- WY (B43K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤井 達也  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 黒瀬 雅一
藤本 義仁
発明の名称 筆記具  
代理人 藤本 英介  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 馬場 信幸  
代理人 神田 正義  

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