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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01M 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01M |
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管理番号 | 1340927 |
審判番号 | 不服2016-9335 |
総通号数 | 223 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-23 |
確定日 | 2018-06-23 |
事件の表示 | 特願2013- 91621「熱暴走防止リチウムイオンバッテリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月17日出願公開、特開2014-216141、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年4月24日の出願であって、平成26年11月25日付けで拒絶理由通知がされ、平成27年1月23日付けで意見書が提出され、同年7月31日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され。平成28年3月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、当審より平成30年2月8日付け拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知」という。)が同年3月6日に発送され、平成30年4月24日付けで意見書及び手続補正書が提出された後、平成30年4月30日付けで再度、意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成30年4月24付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 複数のリチウムイオンバッテリが含まれるリチウムイオンバッテリ収納箱の複数箇所からバネでもって前記リチウムイオンバッテリを空中に浮かすか、又は前記リチウムイオンバッテリ収納箱にクッションと断熱を兼ねた断熱材を充填して前記リチウムイオンバッテリを該断熱材に閉じ込め、リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有することを特徴とするリチウムイオンバッテリ装置。」 第3 拒絶理由について 1.当審拒絶理由(特許法第36条第6項第1号)について 当審では、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知したが、平成30年4月24日付け手続補正書による補正によって、請求項1の「リチウムイオンバッテリ相互が物理的に接触しないように間隔調整した」が、「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有する」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 2.原査定の理由(特許法第36条第6項第2号)について (1)原査定の概要 原査定は、補正前の請求項1に記載されていた「リチウムイオンバッテリユニット」について、(a)単に1つの「リチウムイオンバッテリ」を意味しているのか、(b)「リチウムイオンバッテリ」と他の部材(例えばもう1つのバッテリ、回路基板)を備えて1つの単位としたものを意味しているのか、あるいはこれら(a)、(b)の両方を含む意味であるのか等、把握できず、特許を受けようとする請求項1に係る発明が不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満足しないことを理由にするものである。 (2) 当審の判断 平成30年4月24日付けの補正において、「リチウムイオンバッテリユニット」は「リチウムイオンバッテリ」と補正され、上記(1)(a)の単に1つの「リチウムイオンバッテリ」を意味していることが明確となったので、上記(1)の拒絶の理由は解消した。 3.前置審査で報告された新たな引用文献1に記載された発明との関係(特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項)について 引用文献1:国際公開第2007/86495号 (1)引用文献1の記載事項及び引用発明1 平成29年2月27日付けの前置報告書にて、新たに引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(当審注:下線は強調のため当審が付したもの。「・・・」は記載の省略を示す。)。 ア 「技術分野 本発明は、複数個の単電池をケース内に収納して成る電池パックに関するものであって、特に、ケース内に封入された単電池の電圧を監視する電圧監視用コネクタを設けたことを特徴とするものである。」([0001]) イ 「しかしながら、前記のように形成された従来の電池パックには次のような解決すべき課題があった。即ち、前記各特許文献で提案されているような電池パックにおいて、内部に収納する単電池として、リチウムイオン二次電池などを使用した場合、過充電により単電池が破裂して、内部の石油系溶剤が漏れ発火してしまうおそれがある。 ・・・ また、リチウムイオン電池のような二次電池では、水分が電池内部に入ることによって電池の寿命が著しく短くなる。従来技術では、単電池ごとにアルミ缶やラミネートフィルムなどの水分を透過しない材質でできた外被に入れて外部から水分が入らないように厳重にシールを行うが、シール部分の出来不出来による水分の透過量が単電池の外被ごとに異なり、それによって内蔵された単電池ごとにその寿命が相違することになる。 これに対して、特許文献3の技術は、外側のケース自体にガスバリヤ性能を付与することで、ケース内部の各単電池に対する水分の侵入を防止することで寿命に関する課題の解決を図るものである。しかし、この特許文献3の技術は、ケースとして複数種類の素材を積層して成るシート状の部材を使用しているため、ケース自体に剛性がなく、外部からの衝撃や内部の発火事故に十分対応できるものではない。 」 ([0004]?[0008]) ウ 「本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、各単電池の電圧をケース外部から監視することが可能で、衝撃や発火事故に対する強度にも優れた電池パックを提供することを目的とする。 前記の目的を達成するために、本発明の電池パックは、金属ケースと、前記金属ケース内に外気と密封して接続配置した複数の単電池と、前記金属ケースに設けられ、接続状態にある単電池からケース外部に電流を取り出すための端子と、前記各単電池の電圧を取り出すために金属ケース内部に設けた配線と、前記配線に接続した、金属ケース外部に設けた単電池電圧監視用コネクタ、からなること特徴とする。 ・・・ なお、前記記載の電池パックおいては、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを封入したり、発泡ウレタンや発泡スチロールなどの発泡材を充填することも可能である。」([0009]?[0012]) エ 「(1)第1実施形態 図1に示す第1実施形態は、本発明の基本的な構成を示すものであって、複数個の単電池を備え、各単電池1として、その上下端部に+端子と-端子を備えた柱状のものを使用した。これら複数の単電池1は、鉄やアルミのプレス成型品や鋳造品から成る気密・水密性の金属ケース2内に収納されている。 前記複数個の単電池1は、金属ケース2内において交互に上下の向きを変えて収納されており、その-側と+側の端子を接続部材3によって接続することで、電気的には直列に接続されている。金属ケース2には、+側と-側の外部端子4が設けられ、これら外部端子4と単電池1の端子とがリード5によって接続されている。 金属ケース2には、電圧監視用コネクタ6が設けられ、この電圧監視用コネクタ6における金属ケース内側の接点に各単電池1の+側と-側から伸びる電圧取出用電線7が接続されている。 前記金属ケース2と各単電池1との空隙部Sには、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを封入するか、あるいは、発泡ウレタンや発泡スチロールなどの発泡材を充填する。 ・・・ なお、前記のように前記金属ケース2と各単電池1との空隙部に不活性ガスを封入した場合には、耐発火性能が向上する。また、発泡ウレタンや発泡スチロールなどの発泡材を充填した場合には、金属ケース2内での単電池の振動を防止したり、石油系溶剤の漏出防止や外部からの水分浸入防止などの効果がある。」([0018]?[0024]) オ 「 」([図1]) カ 「[1] 金属ケースと、 前記金属ケース内に外気と密封して接続配置した複数の単電池と、 前記金属ケースに設けられ、接続状態にある単電池からケース外部に電流を取り出すための端子と、 前記各単電池の電圧を取り出すために金属ケース内部に設けた配線と、 前記配線に接続した、金属ケース外部に設けた単電池電圧監視用コネクタ、からなること特徴とする電池パック。 ・・・ [5] 前記金属ケース内部の空隙部分に発泡材を充填したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電池パック。 [6] 前記発泡剤は、発砲(当審注:発泡の誤記であると認められる。)ウレタンや発泡スチロールであることを特徴とする請求項5に記載の電池パック。」(請求の範囲) キ 上記ア及びウから引用文献1に記載の電池パックは、衝撃や発火事故に対する強度にも優れるものであり、金属ケースと、前記金属ケース内に外気と密封して接続配置した複数の単電池とこれらの単電池の電圧を監視する電圧監視用コネクタを設けたことを特徴とするものといえる。 ク また、上記イから、引用文献1に記載の電池パックに含まれる単電池はリチウムイオン電池を前提にしているものであるといえる。 ケ そして、上記ウ及びエから、引用文献1に記載の電池パックにおいて、金属ケースと各単電池との空隙部には、発泡ウレタンや発泡スチロールなどの発泡材を充填することができ、これにより、金属ケース2内での単電池の振動を防止したり、石油系溶剤の漏出防止や外部からの水分浸入防止などの効果が得られるものといえる。 コ さらに、上記オから、引用文献1に記載の電池パックの金属ケース2内において、単電池1は、間隔を空けて配置されているものといえる。 サ 上記キ?コの検討の上、請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6に係る発明に注目すると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明1> 「金属ケースと、 前記金属ケース内に外気と密封して間隔を空けて接続配置した複数のリチウムイオン単電池と、 前記金属ケースに設けられ、接続状態にあるリチウムイオン単電池からケース外部に電流を取り出すための端子と、 前記各リチウムイオン単電池の電圧を取り出すために金属ケース内部に設けた配線と、 前記配線に接続した、金属ケース外部に設けたリチウムイオン単電池電圧監視用コネクタとからなり、 前記金属ケース内部の空隙部分に発泡ウレタンや発泡スチロールを充填したことを特徴とする、金属ケース内でのリチウムイオン単電池の振動を防止したり、石油系溶剤の漏出の防止や外部からの水分浸入の防止がされた電池パック。」 (2) 対比・判断 ア 本願発明1と引用発明1との対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「リチウムイオン単電池」、「金属ケース」、は、それぞれ本願発明1の「リチウムイオンバッテリ」、リチウムイオン収納箱」に相当し、引用発明1の「発泡ウレタン」、「発泡スチロール」は、それらの性質としてクッション性と断熱性を有することは技術常識から明らかであるから、いずれも本願発明1の「クッションと断熱を兼ねた断熱材」に相当するものである。 そして、引用発明1の「電池パック」は、リチウムイオン単電池を含むのであるから、本願発明1の「リチウムイオンバッテリ装置」に相当するものである。 そうすると、引用発明1の「金属ケースと、前記金属ケース内に外気と密封して接続配置した複数のリチウムイオン単電池と」からなる電池パックにおいて、「前記金属ケース内部の空隙部分に発砲ウレタンや発泡スチロールを充填した」「電池パック」は、本願発明1の「リチウムイオンバッテリ収納箱にクッションと断熱を兼ねた断熱材を充填して前記リチウムイオンバッテリを該断熱材に閉じ込め」られた「リチウムイオンバッテリ装置」に相当する。 さらに、引用発明1の「間隔を空けて」「配置した複数のリチウムイオン単電池」の状態は、本願発明1の「リチウムイオンバッテリ相互が」「物理的に」「間隔を有する」状態に相当する。 イ 本願発明1と引用発明1との一致点と相違点 上記アの対比・検討から、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 <一致点> 複数のリチウムイオンバッテリが含まれるリチウムイオンバッテリ収納箱にクッションと断熱を兼ねた断熱材を充填して前記リチウムイオンバッテリを該断熱材に閉じ込め、リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に間隔を有することを特徴とするリチウムイオンバッテリ装置。 <相違点> 相違点1:リチウムイオンバッテリ相互の間隔について、本願発明1では、リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起すことがないように調整されたものであるのに対し、引用発明1では、どのような間隔であるのか明らかではない点。 ウ 相違点についての判断 (ア) 上記相違点1について検討する。引用文献1には、リチウムイオンバッテリ相互の間隔がどのような理由により設けられているのかについて、特に上記第3の3.(1)(1-1)の摘記エ及びオを参照しても、何ら記載されていない。一方、本願の発明の詳細な説明には、「このように構成された装置において、隣り合うバッテリ同志の間隔Wは、一つのバッテリが発熱しても隣のバッテリが熱伝導しないような空間Wが設けられている。従って、あるバッテリが発熱しても隣のバッテリが接触しないので、接触して熱膨張事故を起こすことはない。」(【0008】)と記載されているように、相違点1に係る構成は、「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがない」という技術的意義をもって設けられたものであることから、上記相違点1は、本願発明が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であるといえる。 そうすると、本願発明1は、引用発明1と実質的な相違点があり、同一の発明であるということはできない。 (イ) そして、引用発明1は、「金属ケース内でのリチウムイオン単電池の振動を防止したり、石油系溶剤の漏出の防止や外部からの水分浸入の防止がされた」もの、すなわち、一つのリチウムイオンバッテリに生じ得る発火事故を抑制するものであるところ、本願発明1は、たとえ一つのリチウムイオンバッテリが発熱しても、複数ある「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがない」という引用発明1とは異なる技術思想に基づくものであるため、本願発明1の技術思想と異なる引用発明1に基づいて、本願発明1を導く動機付けは存在しない。また、引用文献1には、複数の「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有する」とする技術事項について、記載も示唆もされていない。 よって、相違点1に係る本願発明1の「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有する」という構成は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないことから、本願発明1は、当業者であっても引用発明1に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 エ 小括 上記ウのとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、当業者であっても引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項に該当するものでもない。 4.前置審査で報告された新たな引用文献2に記載された発明との関係(特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項)について 引用文献2:特開平7-315782号公報 平成29年2月27日付けの前置報告書にて、新たに引用された引用文献2には、「フォークリフトのピッチング抑制装置」に関する発明が開示されており、当該引用文献2に記載された発明と、本願発明1との間には、少なくとも上記3.(2)のイで示した相違点1で相違するものである。そして、当該相違点1は、上記3.(2)のウで示したように、本願発明が解決すべき課題に関連する実質的な相違点であり、また、本願発明1は、たとえ一つのリチウムイオンバッテリが発熱しても、複数ある「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがない」という引用文献2に記載された発明とは異なる技術思想に基づくものであるため、本願発明1の技術思想と異なる引用文献2に記載された発明に基づいて、本願発明1を導く動機付けは存在しないし、引用文献2には、複数の「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有する」とする技術事項について、記載も示唆もされていない。 よって、相違点1に係る本願発明1の「リチウムイオンバッテリ相互が、物理的に接触して熱伝導による熱暴走を起こすことがないように調整された間隔を有する」という構成は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではないことから、本願発明1は、当業者であっても引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 以上より、本願発明1は、引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、当業者であっても引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項に該当するものでもない。 第4 むすび 以上第3の1.乃至4.のとおり、本願発明1は、原査定の理由、当審から通知した拒絶理由及び前置報告で報告された理由のいずれによっても、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-06-04 |
出願番号 | 特願2013-91621(P2013-91621) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H01M)
P 1 8・ 121- WY (H01M) P 1 8・ 537- WY (H01M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 井原 純、宮田 透 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
板谷 一弘 宮本 純 |
発明の名称 | 熱暴走防止リチウムイオンバッテリ装置 |