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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1340934
審判番号 不服2016-14946  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-05 
確定日 2018-06-07 
事件の表示 特願2012-113352号「遮熱化粧シート」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月28日出願公開、特開2013-237248号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年 5月17日に出願された特願2012-113352号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年12月24日:拒絶理由通知
平成28年 3月 4日:意見書及び手続補正書
平成28年 6月29日:拒絶査定
平成28年10月 5日:審判請求書及び手続補正書
平成29年10月12日:拒絶理由通知
平成29年12月15日:意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層してなる遮熱化粧シートにおいて、前記印刷層は、顔料としてイソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなるベタ印刷と、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなる木目柄印刷層と、黒色顔料としてペリレンブラックを用いた導管模様印刷層とからなることを特徴とする遮熱化粧シート。」

第3 拒絶の理由
当審が通知した平成29年10月12日の拒絶の理由は、次のとおりである。
本願発明は、本願の出願前日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2012-82602号公報
引用文献2:特開2002-60698号公報
引用文献3:特開2005-96266号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工したシート層と、該シート層表面に形成される印刷層とを備え、
前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、
前記印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含むことを特徴とする遮熱化粧シート。・・・」
(2)「【0001】
本発明は、熱を遮蔽する機能を有する化粧シートに関するものである。」
(3)「【0002】
化粧シートは、建築基材などの表面に貼り付けて、基材表面に各種の色や絵柄などを付与することで意匠性を高めるために用いられる。一般に、ドアや外壁材の表面には明るい色より比較的暗い落ち着いた色を付与することが好まれる。それ故に、ドアや外壁材などの表面に貼り付けられる化粧シートには黒色の顔料を含む塗料でベタ印刷や柄印刷がなされている。
【0003】
一般に用いられる黒色の顔料は、熱を吸収し易いカーボンブラックを含んでいる。太陽熱などの赤外線に曝される外表面に貼り付けられる化粧シートに黒色顔料を含む塗料が印刷されていると、化粧シート自体が熱を含んで温度が高くなり、この熱が建築基材を介して建築物内部に伝搬することになるので、建築物内部の温度管理に悪影響を及ぼす問題が生じる。」
(4)「【0007】
しかしながら、シート表面に絵柄などの更に高度な意匠を付与することを考えた場合には、やはり表面に印刷を施すことが必要になる。この場合、シート自体が高い遮熱性能を有していたとしても、印刷層の塗料に蓄熱性のあるカーボンブラックが含まれていると、シート自体で反射した熱が印刷層で蓄熱されることになり、シート全体で効果的に熱を遮蔽することができない問題があった。
【0008】
特に、ドアの外表面や建築物外壁の外表面に施される化粧シートには意匠として木目調などの柄模様が好まれる傾向があり、また、シートの熱可塑性樹脂に顔料を混合する場合には、シートの成形性などで混合する顔料の種類が制約されて所望の色味を持たせることができないことがある。このような事情で、化粧シートに高い意匠性を付与するためにはシート表面へ印刷を施さざるを得ない場合があり、このような場合に、化粧シートとしての高い意匠性と遮熱性を両立させることができない問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、本発明の目的は、シート表面に柄印刷やベタ印刷などの印刷層を形成するものであっても高い遮熱性能を得ることができる遮熱化粧シートを提供することにある。」
(5)「【0011】
熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工したシート層と、該シート層表面に形成される印刷層とを備え、前記顔料は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、前記印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する遮熱化粧シートは、シート表面に柄印刷やベタ印刷などの印刷層を形成することで高い意匠性を得ることができる。そして、シート層は、カーボンブラックを含まず赤外線反射顔料を含むので、蓄熱することが無く効果的に熱を反射することができる。また、シート層表面に形成される印刷層が、カーボンブラックを含まず赤外線透過顔料を含むので、シート層で反射した熱が印刷層で蓄熱されることもない。このように本発明の遮熱化粧シートは、高い遮熱性能と高い意匠性を両立させることができる。」
(6)「【0014】
以下、図面等を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る遮熱化粧シートを示した概念図である。遮熱化粧シート1は、シート層10と印刷層11を少なくとも備え、必要に応じて印刷層の保護や艶調整を行うための表面コート層12を備えている。印刷層11はシート層10の表面全体に施されるものであっても、シート層10の表面の一部に施されるものであってもよい。
【0015】
シート層10は、熱可塑性樹脂と顔料とを含有する組成物をシート状に成形加工した層である。加工方法としては、カレンダー成形や押し出し成形などが採用される。印刷層11は、シート層10の表面にベタ印刷や柄印刷を施すことで形成される層であり、遮熱化粧シート1に高い意匠性を付与するための層である。
【0016】
シート層10の基材となる熱可塑性樹脂は、シート状に成形加工可能なものであれば特に限定されないが、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリエステル系共重合樹脂、フッソ系共重合樹脂などの単独、もしくは、2種以上の混合樹脂からなるものが好ましい。特にこれらの熱可塑性樹脂のなかでは、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂が、樹脂物性、樹脂特性、成形加工性、コスト性などに優れているので好ましい。しかし、環境上の理由からハロゲン非含有の樹脂が要望される場合には、特にオレフィン樹脂、及びオレフィン系共重合樹脂が、好適に用いられる。」
(7)「【0017】
このような熱可塑性樹脂の基材中に含有される顔料は、少なくとも蓄熱機能が高いカーボンブラックを含まない顔料であり、更には赤外線を比較的高い反射率で反射する赤外線反射顔料20を含むものとする。シート層10中にカーボンブラックを含有させないことでシート層10自体に熱が蓄熱するのを抑止することができ、シート層10中に赤外線反射顔料20を含有させることで、シート層10を熱が通過して遮熱化粧シート1が貼り付けられた基材が加熱されるのを抑止することができる。シート層10の表面には印刷層11が形成されるので、シート層10自体に高い意匠性を求める必要はないが、印刷層11がシート層10の全面に形成されない場合や、印刷層11と透過して下地が視認できる場合を考慮して、シート層10中の顔料は印刷層11の意匠性を低下させないものが好ましい。このような観点から、シート層10中に含有される赤外線反射顔料20の例としては、赤外線反射酸化チタンが好ましい。
【0018】
印刷層11は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料21を含むものとする。ここでいう赤外線透過顔料21とは、赤外線の吸収機能と反射機能が少ない顔料である。赤外線透過顔料21は、無機顔料であっても有機顔料であってもよい。無機顔料としては、カーボブラックを除いた天然無機顔料、クロム、酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、合成酸化鉄赤、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、アルミン酸コバルト、合成ウルトラマリン青などの合成無機顔料などを用いることができる。特には、赤外線透過機能が高いクロム及び鉄の複合酸化物が適する。有機顔料としては、多環式系、アゾ系の顔料があり、多環系顔料としては、ペリレン、ペリノン、フタロシアニン、カルボニウム、キナクリドン、イソインドリノンなど、アゾ系顔料としては、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料などを用いることができる。また、このような赤外線透過顔料21はシート層10内に含有させても良い。」
(8)「【0020】
表面コート層21は、表面保護や艶調整のために設けられる。表面コート層12は、アクリル系樹脂(例えば、アクリル樹脂/塩酢ビ樹脂/セルロース樹脂/シリカの混合物)などによって、印刷層11の形成後にグラビア印刷などで形成することができる。表面コート層21の艶調整は、混合するシリカの量によって調整できるが、ウレタンビーズやアクリルビーズなどの付加でも艶の付与調整を行うことができる。
【0021】
図2は表面コート層12を塗工後の表面にエンボスEを施した例である。印刷層11として木目印刷を行った場合には木目のエンボス加工を施すことで効果的な意匠効果を得ることができる。・・・」
(9)「【0022】
表1は、本発明の実施例(例1,例3)と比較例(例2,例4)の構成例と遮熱効果を示している。例1と例2は、視覚的に同等の木目調の印刷柄を有するものであり、例3と例4は、視覚的に同等の柿渋調の印刷柄を有するものである。よって、例1と例2或いは例3と例4は印刷層によって同等の意匠性が付与されている。
・・・
【0028】
前述したように例1と例2(木目調)或いは例3と例4(柿渋調)は印刷層によって同等の意匠性が付与されている。このような印刷層を得るために、例1と例3の印刷層には赤外線透過顔料含有塗料(SX-860;(株)昭和インク工業所)が用いられ、例2と例4の印刷層にはカーボンブラック(CB)含有塗料(SX-851;(株)昭和インク工業所)が用いられている。例1?例4の表面コート層はいずれもアクリルコート(SX-256;(株)昭和インク工業所)である。
・・・
【0030】
例1と例2の比較では、例2に対して例1のシート表面温度が16.0℃低く、例2に対して例1の槽内温度が5.3℃低い結果になり、例3と例4の比較では、例4に対して例3のシート表面温度が12.2℃低く、例4に対して例3の槽内温度が2.7℃低い結果になった。この試験結果から明らかなように、シート層の顔料が少なくともカーボンブラックを含まず赤外線反射顔料を含み、印刷層が少なくともカーボンブラックを含まず赤外線透過顔料を含む、例1と例3の遮熱化粧シートは、例2と例3(当審注:「例3」は「例4」の誤記と思われる。)化粧シートに対して高い遮熱性能を有していることが判る。
【0031】
【表1】」


(10)「【図1】



2 引用発明
上記記載事項(1)、(5)及び(6)より、引用文献1には、熱可塑性樹脂と顔料とを含有するシート層と、該シート層表面に形成される印刷層と、表面コート層とを備えた遮熱化粧シートにおいて、シート層の顔料として少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を含む遮熱化粧シートが記載されているものと認められる。
そして、上記記載事項(7)より、引用文献1には、印刷層の赤外線透過顔料として、ペリレン、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジスアゾ顔料等が挙げられている。
さらに、上記記載事項(3)、(4)、(5)、(6)及び(9)より、引用文献1には、印刷層は、シート表面に柄印刷やベタ印刷などの印刷層を形成し、木目調の印刷柄を有するものであることが記載されているものと認められる。

上記記載事項(1)?(9)及び上記認定事項からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「熱可塑性樹脂と顔料とを含有するシート層と、該シート層表面に形成される印刷層と、表面コート層とを備えた遮熱化粧シートにおいて、シート層の顔料として少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線反射顔料を含み、印刷層は、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料であるペリレン、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジスアゾ顔料を用いることができる柄印刷やベタ印刷層などの印刷層を形成し、木目調の印刷柄を有する、遮熱化粧シート。」

3 引用文献2の記載
引用文献2には、次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽光などに含まれる赤外線を反射する赤外線反射体、およびその製造に使用できる赤外線透過層形成用組成物、それを利用した処理物に関するものである。」
(2)「【0007】
【発明の実施の形態】[赤外線透過層形成用組成物]本発明の赤外線透過層形成用組成物は、樹脂成分と、波長800?1600nmの赤外線に対する吸収率が50%以下の顔料を含み、カーボンブラックの含有量が0.1重量%以下のものである。この赤外線透過層形成用組成物は、液状もしくは粉体の塗料であってもよいし、フィルム状であってもよいし、物品の表面を構成する壁材やパネル等であってもよい。本発明では、太陽光に含まれる赤外線の中で特に発熱に大きく寄与する波長800?1600nmの赤外線を強く吸収するカーボンブラックの使用量を少なく、又はゼロにすることにより、赤外線の吸収を抑制する。一方、発色剤として上記条件を満たす顔料を使用することにより、赤外線の吸収は制限しながら、さまざまな発色が可能となる。カーボンブラックの含有量が少ないほど赤外線吸収は少なく、カーボンブラックの含有量は好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0重量%である。」
(3)「【0009】赤外線透過層形成用組成物に含まれる顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。無機顔料としては、酸化鉄顔料、酸化チタン顔料、複合酸化物系顔料、酸化チタン被覆雲母顔料、酸化鉄被覆雲母顔料、鱗片状アルミニウム顔料、酸化亜鉛等が使用可能である。有機顔料としては、銅フタロシアニン顔料、異種金属(ニッケル、コバルト、鉄など)フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、塩素化フタロシアニン顔料、塩素/臭素化フタロシアニン顔料、臭素化フタロシアニン顔料、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、金属錯体系顔料、キノフタロン系顔料、インダンスレンブルー顔料、ジオキサジンバイオレット顔料、アンスラキノン顔料、金属錯体顔料、ベンツイミダゾロン系顔料などが使用可能である。これら以外にも赤外線吸収が少ない顔料は使用可能である。特に、暗い色調を発色させる場合には、カーボンブラックに代わる黒色顔料として、大日精化工業株式会社製商品名「A-1130 ブラック」などのアゾメチン系有機顔料や、BASF製商品名「ペリレンブラックS-0084」などのペリレン系顔料が好適であり、これらを単独で、または他の顔料と混合したうえで樹脂成分に分散させて使用する。これらの含有量は0.01?80重量%が好ましく、より好ましくは0.1?30重量%である。着色用顔料の、波長800?1600nmの赤外線に対する吸収率が50%より大きいと、色調の自由度が低下する。より好ましくは、上記赤外線吸収率は30%以下である。なお、本明細書でいう「顔料の赤外線吸収率」は、塗料用樹脂であるアクリル樹脂に顔料を5重量%分散させ、厚さ20μmのフィルムを作成し、波長800?1600nmの赤外線に対する吸収率を測定した数値とする。着色用顔料の含有量としては、5?80重量%であることが好ましく、より好ましくは10?30重量%である。顔料量が多いと、赤外線が赤外線透過層を透過しにくくなって塗膜に吸収される赤外線量が増加してしまい、他方、顔料量が少ないと、十分に発色させることが困難になるからである。顔料の平均粒径は0.01?30μmであることが好ましく、より好ましくは0.05?1μmである。・・・」

4 引用文献3の記載
引用文献3には、次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、玄関ドア、店舗引き戸、住宅やビルの窓枠、テラス、車庫等の屋外に使われる耐候性の高い高耐候性化粧シートに関する。」
(2)「【0007】
本発明は、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層からなる熱可塑性化粧シートにおいて、着色ベースフィルム層が重合度500から2000の半硬質塩化ビニル樹脂フィルムにバリウム、亜鉛系の熱安定剤、可塑剤(TOTM トリ2-エチルヘキシルトリメリテート)、顔料としてキナクリドン、チタンイエロー、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルーのうちのひとつ以上の顔料からなり、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、キナクリドン、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなり、オーバーレイフィルム層がポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなることを特徴とする高耐候性化粧シートに関する(図1.)。
【0008】
また、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層、コーティング層からなる熱可塑性化粧シートにおいて、ベースフィルム層がランダムまたはホモ系ポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂にヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、着色顔料に少なくとも酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、イソインドリノンの一つ以上からなり、印刷層のバインダー樹脂にポリオールにイソシアネートを反応させてもわずかにのこった水酸基にさらにヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートの混合からなる硬化剤を印刷直前に添加する樹脂に顔料として少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、ジスアゾ系顔料の一つ以上からなり、オーバーレイフィルムとしてホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加し、コーティング剤としてコーティング直前に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の入ったアクリルポリオールにヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤を添加してなることを特徴とする高耐候性化粧シートに関する(図2.)。」
(3)「【0011】
ベースフィルム層1は、重合度500から2000の半硬質塩化ビニル樹脂フィルムにバリウム、亜鉛系の熱安定剤、可塑剤(TOTM トリ2-エチルヘキシルトリメリテート)、顔料としてキナクリドン、チタンイエロー、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルーのうちのひとつ以上の顔料からなる。また、ベースフィルム層がランダムまたはホモ系ポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂にヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤を添加したものに、着色顔料に少なくとも酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニンブルー、イソインドリノンの一つ以上からなる。また、共重合ポリエステル樹脂、発泡タイプのポリエステル系樹脂、アクリル樹脂系等も使える。厚みは、25μmから200μmの範囲のものが使える。
【0012】
印刷層2としては、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、キナクリドン、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなるものからなる。また、印刷層のバインダー樹脂にポリオールにイソシアネートを反応させてもわずかにのこった水酸基にさらにヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートの混合からなる硬化剤を印刷直前に添加する樹脂に顔料として少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、ジスアゾ系顔料の一つ以上からなるものが使える。また、印刷層のバインダー樹脂がアクリル樹脂と塩化酢酸ビニル樹脂、顔料が少なくともイソインドリノン、ジケトピロロピロール、カーボンブラック、フタロシアニンブルーの一つ以上からなるものが使える。より強固な接着性が必要な場合は、熱接着剤層3を使う。2液ウレタン樹脂系やポリエステル樹脂とアクリル樹脂及び塩化酢酸ビニル樹脂系の混合物も使える。
【0013】
オーバーレイフィルム層4としては、ポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなフィルム、ホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加したフィルム、ポリメチルメタアクリル樹脂に紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤からなるフィルム等が使える。厚みは25μmから200μmのものが使える。
【0014】
コーティング層5としては、コーティング直前に紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の入ったアクリルポリオールにヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤を添加してなる塗液を乾燥後の重さで2g/m^(2)から20g/m^(2)の塗布量のものが使える。」
(4)「【図1】


「【図2】



第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「シート層」は、熱可塑性樹脂と顔料とを含有するので、本願発明の「着色ベースフィルム層」に相当する。
ここで、本願発明の「ベタ印刷」、「木目柄印刷層」及び「導管模様印刷層」からなる「印刷層」は、それによって「木目印刷」(本願明細書【0019】参照)を構成するものであるところ、「木目印刷」が引用発明の「木目調の印刷柄」に相当することが当業者において明らかであることを踏まえれば、引用発明の「木目調の印刷柄」を形成する「少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料であるペリレン、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジスアゾ顔料を用いることができる柄印刷やベタ印刷層などの印刷層」と、本願発明の「顔料としてイソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなるベタ印刷と、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなる木目柄印刷層と、黒色顔料としてペリレンブラックを用いた導管模様印刷層とからなる」「印刷層」とは、「木目調の印刷柄を形成する、顔料としてイソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなる印刷層」である限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、
「着色ベースフィルム層、印刷層を少なくともこの順に積層してなる遮熱化粧シートにおいて、前記印刷層は、木目調の印刷柄を形成する、顔料としてイソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなる印刷層である、遮熱化粧シート。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
着色ベースフィルム層、印刷層を少なくともこの順に積層した上に、本願発明は、少なくともオーバーレイフィルム層を積層しているのに対して、引用発明は、表面コート層を備えている点。
(相違点2)
木目調の印刷柄を形成する、顔料としてイソインドリノン、フタロシアニンの少なくとも一つ以上を用いた印刷インキからなる印刷層について、本願発明は、ベタ印刷、木目柄印刷層及び導管模様印刷層とからなるのに対して、引用発明は、柄印刷やベタ印刷層などの印刷層である点。
(相違点3)
印刷層に用いる黒色顔料について、本願発明は、導管模様印刷層のペリレンブラックであるのに対して、引用発明は、少なくともカーボンブラックを含まないものである点。

上記相違点1について検討する。
引用文献3には、高耐候性化粧シートとして、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層する化粧シートが記載されており(【0001】、【0007】、【0011】?【0013】及び図1)、また、表面にコーティング層を備える化粧シートとする場合には、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層、コーティング層を少なくともこの順に積層することが記載されている(【0001】、【0008】、【0011】?【0014】及び図2)。いずれの場合も、オーバーレイフィルム層は、印刷層を保護し、高耐候性化粧シートの高耐候性の向上に寄与するものといえる。
そして、引用発明の化粧シートは、ドアや外壁材などの表面に貼り付けられるものであるところ(【0002】)、当該化粧シートには耐候性が求められるとの課題は内在するし、引用発明の表面コート層は印刷層の保護を行うためのものでもあることが示されている(【0014】、【0020】)。
そうすると、引用発明の化粧シートの層構成について、耐候性を発揮させるために、その表面コート層に代えて引用文献3記載のオーバーレイフィルム層を適用し、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層する化粧シートとすること、あるいは、その表面コート層に加えて引用文献3記載のオーバーレイフィルム層を適用し、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層、コーティング層を少なくともこの順に積層する化粧シートとすること、すなわち、上記相違点1における本願発明に係る構成となすことは、当業者が容易になし得ることと認める。

次に、上記相違点2について検討する。
化粧シートにおいて、意匠性を高めるために木目調の印刷柄として、ベタ印刷や木目柄印刷層に加えて、導管模様印刷層を設けることは本願出願前周知の技術にすぎない(例えば、特開平6-182957号公報の【0019】及び【0053】、特開2008-254237号公報の【0019】及び【0023】参照)。そして、化粧シートは装飾材であって、その意匠性を高めたいとの動機は常に存在するから、引用発明の化粧シートにおいても木目調の印刷層を形成する印刷層について、その意匠性を高めるために上記周知の技術を適用する程度のことは当業者が容易に想到し得ること、すなわち、引用発明について上記相違点2における本願発明に係る構成となすことは当業者が容易になし得ることである。

そして、上記相違点3について検討する。
引用文献1(【0002】)に記載されているとおり、従来ドアや外壁材などの表面に貼り付けられる化粧シートには黒色の顔料を含む塗料でベタ印刷や柄印刷がなされており、引用発明の柄印刷やベタ印刷層を含む印刷層にも黒色顔料が用いられていることは明らかであるところ、引用発明の印刷層に用いることができる顔料は、少なくともカーボンブラックを含まないものとされている。
ここで、引用文献2(【0007】及び【0009】)に記載されるように、ペリレンブラックは、カーボンブラックに代わる黒色顔料として好適であることが知られており、また、赤外線透過層形成用組成物に含まれる顔料(引用発明の「赤外線透過顔料」に相当。)でもあるところ、引用発明について、少なくともカーボンブラックを含まず、赤外線透過顔料を用いることができる印刷層の具体的顔料として、引用文献2記載のペリレンブラックを使用すること、すなわち、上記相違点3における本願発明に係る構成となすことは、当業者が容易になし得ることと認める。そして、印刷層の導管模様印刷層には、黒色の顔料を含むインキが用いられることは本願出願前周知の技術(例えば、特開平10-58817号公報の【0014】及び【0015】、特開平8-174785号公報の【0019】参照)であることを踏まえれば、印刷層に導管模様印刷層を設ける際に、その黒色顔料に、引用文献2に記載されたペリレンブラックを用いることは、当業者が必要に応じてなし得る設計上の事項にすぎない。

そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項、引用文献3に記載された事項及び周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず、格別なものではない。

よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項、引用文献3に記載された事項及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2012-113352(P2012-113352)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 蓮井 雅之
谿花 正由輝
発明の名称 遮熱化粧シート  

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