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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1340949
審判番号 不服2017-6423  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-02 
確定日 2018-06-07 
事件の表示 特願2013-202442号「電子機器、制御方法、制御プログラム及び通信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月13日出願公開、特開2015-67088号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月27日の出願であって、平成28年10月17日付けの拒絶理由通知に対し、平成28年12月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成29年1月31日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して平成29年5月2日に拒絶査定不服の審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、平成28年12月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりものものである。
「加速度センサにより検出された加速度に基づいて所定の走行状態であるかどうかを判断する判断ステップと、
位置測位センサにより位置情報を測位する測位ステップと、
前記判断ステップにより前記所定の走行状態であると判断した場合、前記位置情報を登録されている外部の電子機器に送信する送信ステップとを有する制御方法。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1及び4-8に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、この出願の請求項1及び4-8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2002-302015号公報

第4 引用文献1に記載された事項および発明
1.引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
(i)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両に搭載される車載監視装置と、車両の監視モード(セキュリティーモード)を設定するための端末装置と、端末装置にて設定されたセキュリティーモードに応じて動作するように車載監視装置を制御すると共に、車載監視装置から送信される情報に基づいて車両の状態を管理する車両管理装置とで構成される車両管理システムに関するものである。特に、本発明は、車載監視装置と車両管理装置との間で通信不能になった場合でも、通信不能期間における車両の状態を車両管理装置に把握させることが可能な車載監視装置と、車両監視方法と、車両監視プログラムと、車両監視プログラムを記録した記録媒体と、車両管理システムとに関するものである。」
(ii)「【0008】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、通信不能な場所に車両が位置する場合でも、車両管理装置がその通信不能期間における車両の状態を把握することができ、これによって、車両管理装置の本来の機能を担保することができる車載監視装置と、車両監視方法と、車両監視プログラムと、車両監視プログラムを記録した記録媒体と、車両管理システムとを提供することにある。」
(iii)「【0043】(2.車載監視装置)図4は、車載監視装置1の概略の構成を示している。同図に示すように、車載監視装置1は、センサ11(検知手段)と、入出力部12と、制御部13(制御手段)と、通信部14と、記憶部15(記憶手段)と、計時部16(計時手段)とを備えている。
【0044】センサ11は、車の状態変化を検知するものであり、その検知信号を入出力部12に送る。車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれている。なお、センサ11の詳細については後述する。
【0045】入出力部12は、センサ11から上記検知信号が入力されたときに、その検知信号に対応する信号を制御部13に出力する。なお、センサ11から入出力部12を介して制御部13に入力される信号を、以下では、単に、センサ11からの検知信号と呼ぶこともある。
【0046】制御部13は、例えばマイクロコンピュータによって構成されており、車両管理装置2にて登録されたセキュリティーモードのON/OFFに応じた動作を行う。
【0047】例えば、車両管理装置2にてセキュリティーモードがONに設定され、その情報が車載監視装置1に送信されると、制御部13は、入出力部12から車の異常を示す検知信号が入力されたときに、ハザードランプを点灯させたり、ホーンを鳴らすなどして、車の盗難犯を威嚇すると共に、車に異常があった旨の情報や車の現在の位置情報を通信部14を介して車両管理装置2に送信する。」
(iv)「【0054】センサ11は、基本的には、車に標準装備されているセンサ(以下、標準センサと記載する)と、オプションで装備されるセンサ(以下、オプションセンサ)との2種類に大別される。上記の標準センサは、さらに、侵入検知センサと走行検知センサとで構成され、上記のオプションセンサは、さらに、異常検知センサと位置検出センサとで構成されている。」
(v)「【0062】位置検出センサは、例えばGPS(Global Positioning System )やPHS(Personal Handyphone System)を利用した既存の位置検出手段で構成されている。このような位置検出センサを備えていることにより、車両管理装置2は、位置検出センサからの位置情報に基づいて車の現在の位置を常に把握することができ、例えば車が盗難にあった場合でも、その位置情報に基づいて、車を追跡することが可能となる。」

2.引用文献1に記載された発明
上記記載より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「車載監視装置1はセンサ11と入出力部12と制御部13と通信部14とを備え、センサ11は、車の状態変化を検知するものであり、その検知信号を入出力部12に送り、
車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれており、
入出力部12から車の異常を示す検知信号が入力されたときに、車に異常があった旨の情報や車の現在の位置情報を通信部14を介して車両管理装置2に送信する、
車両監視方法。」

第5 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明のセンサ11は、「車の状態変化を検知するものであり」、「車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれて」いることから、加速度センサを含むものであり、当該加速度センサによって加速度を検出することは明らかである。
また、引用発明の「車の走行状態の変化」には、車が停止している状態(停車状態)から走行している状態(走行状態)への変化も含み、引用発明の「車の状態変化を検知する」ことには、この停車状体から走行状態への変化を検知することも含まれると解されるところ、停車状態から走行状態への変化を検知することは、走行状態を検知ことと実質的に違いはないといえる。そして、車の走行状態と加速度の間には関連性があるから、車の走行状態を検知するため、加速度に基づいて走行状態であるかどうかを判断する判断ステップが引用発明に具備されていることは、技術的に明らかであるといえる。
したがって、引用発明の「センサ11は、車の状態変化を検知するものであり」、「車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれて」いることは、本願発明の「加速度センサにより検出された加速度に基づいて所定の走行状態であるかどうかを判断する判断ステップと」、「を有する」こととの対比において、「加速度センサにより検出された加速度に基づいて走行状態であるかどうかを判断する判断ステップを有する」ことの限度で共通する。
(2)引用発明のセンサ11は、「車の状態変化を検知するものであり」、」「車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれて」いることから、車の位置情報を測位する位置測位センサを含むものであるといえる(引用文献1の段落【0054】、【0062】)。
そして、引用発明のセンサ11は「車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化」を検知するものであるので、当該センサ11により、位置情報を測位するステップを有することは明らかである。
よって、引用発明の、「センサ11は、車の状態変化を検知するものであり」、「車の状態変化には、車の異常の有無や、車の走行状態(例えば速度、加速度、車の位置)の変化などが含まれて」いるという事項は、本願発明の「位置測位センサにより位置情報を測位する測位ステップと」、「を有する」に相当する事項を含むといえる。
(3)引用発明の「車両管理装置2」は、機能的に本願発明の「電子機器」に相当する。また、引用発明は、「車の現在の位置情報を通信部14を介して車両管理装置2に送信する」ために、車両管理装置2をあらかじめ送信先として登録して、この登録されている車両管理装置2へ車の現在の位置情報を送信する送信ステップを有するものといえる。
したがって、上記(2)を踏まえると、引用発明の「車の現在の位置情報を通信部14を介して車両管理装置2に送信する」ことは、本願発明の「前記位置情報を登録されている外部の電子機器に送信する送信ステップとを有する」との対比において、「前記位置情報を登録されている電子機器に送信する送信ステップとを有する」の限度で共通する。
(4)引用発明の「車両監視方法」は、制御方法であるといえ、本願発明の「制御方法」に相当する。
(5)したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「加速度センサにより検出された加速度に基づいて走行状態であるかどうかを判断する判断ステップと、
位置測位センサにより位置情報を測位する測位ステップと、
前記位置情報を登録されている電子機器に送信する送信ステップとを有する制御方法。」
<相違点1>
判断ステップで判断されるのが、本願発明では、「所定の走行状態であるかどうか」なのに対し、引用発明では、そのように特定されていない点。
<相違点2>
送信ステップにより送信を開始する基準が、本願発明では、「前記判断ステップにより所定の走行状態であると判断した場合」であるのに対し、引用発明では、「入出力部12から車の異常を示す検知信号が入力されたとき」である点。
<相違点3>
本願発明では、「電子機器」が「外部の」ものであるのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。
2.判断
(1)相違点1について
本願明細書の段落【0034】の「所定の移動状態とは、例えば、自転車による移動状態、自動車による移動状態、自動二輪車による移動状態をいう。」との記載や、段落【0044】の「携帯電話機1が設置されている車等が自走等することにより移動した場合、携帯電話機1は、所定の移動状態であると判断し、・・・」との記載からすれば、本願発明の「所定の走行状態」とは、自転車の走行状態、自動車の走行状態、自動二輪車の走行状態のことをいい、したがって、本願発明の「所定の走行状態であるかどうか」とは、自転車、自動車あるいは自動二輪車が走行状態であるかどうかをいうと解される。そして、本願発明においては、走行状態であるかどうかの判断の材料として加速度センサによって検出された加速度を用いている。
一方、引用発明においては、引用文献1の段落【0056】の記載から、走行検知センサ(加速度を検知するセンサ)によって車が走行状態にあるか否かを検知した結果に基づき、車の走行状態の変化(加速度の変化)を判断している、すなわち、加速度を検知するセンサによって検出された加速度を用いて車が走行状態であるかどうかを判断している。
よって、引用発明においても、所定の走行状態であるかどうかを判断しているといえるから、相違点1は相違点とはいえない。
(2)相違点2について
本願発明において、「送信ステップ」が「前記判断ステップにより前記所定の走行状態であると判断した場合、前記位置情報を登録されている外部の電子機器に送信する」のは、これによって、精度の高い盗難判断を行うためと解される(明細書の段落【0005】、【0046】)。
そして、車が盗難された場合には、車の走行状態(加速度)の変化がある蓋然性が高いとういことが当業者における通常の知見であるから、引用発明における「入出力部12から車の異常を示す検知信号が入力されたとき」に代えて、車の走行状態(加速度)の変化を検知した時、すなわち、所定の走行状態であるときと判断した場合に、車が盗難されたとして「車両管理装置2に送信する」ように構成すること、すなわち、相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者であれば容易に想到し得たものといえる。
(3)相違点3について
引用文献1の、段落【0001】の「車載監視装置と車両管理装置との間で通信不能となった場合でも・・・」との記載や、段落【0092】の「例えば、車載監視装置1を搭載した車を、車両管理装置2からの電波が届かない場所(例えば地下)に駐車した場合でも・・・」との記載からすれば、引用発明の「車両管理装置2」は「車」あるいは「車載監視装置1」の外部に設けられているといえる。したがって、引用発明は、本願発明の「外部の電子機器に送信する」に相当する構成を実質的に有しているといえる。
よって、相違点3は相違点とはいえない。
(4)効果について
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(5)小括
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(6)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の「(c)本願発明と引用発明との対比」において、概略次のとおり主張する。
「本願発明は、『所定の走行状態であると判断』するという特徴的な構成を有します。これに対して、引用発明1は、車の異常を検出するものであって、所定の走行状態を検出するものでなく、・・・車の走行状態を検出した場合に、車の位置情報を外部の車両管理装置2に送信することは記載されておりません。・・・引用発明1に記載の走行検知センサは、車両の走行状態を監視するために設けられているに過ぎず、車の異常の有無を示す盗難状態を監視するために設けられているわけではありません。よって、引用発明1には、車の異常検出の1つとして車の走行状態を検出し、車の位置情報を外部の車両管理装置2に送信することも記載されていません。・・・本願発明は、引用発明に比べ、・・・盗難判断の精度を高めることができるという顕著な効果を奏します。・・・」
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、引用発明の走行検知センサである加速度センサによる車の走行状態(加速度)を、車の異常の有無を示す盗難状態を監視するために用いることは当業者にとって容易に想到し得た事項であるといえる。また、引用発明は、車の位置情報を外部の車両管理装置2に送信するものである。この両者を踏まえると、審判請求人の上記主張は採用し得ない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-18 
出願番号 特願2013-202442(P2013-202442)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三宅 龍平  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
出口 昌哉
発明の名称 電子機器、制御方法、制御プログラム及び通信システム  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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