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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
管理番号 1340998
審判番号 不服2016-13446  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-08 
確定日 2018-06-06 
事件の表示 特願2013-538191「後眼部疾患の治療のための液体医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年5月18日国際公開、WO2012/062834、平成25年11月21日国内公表、特表2013-542239〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、国際出願日である平成23年11月10日(パリ条約による優先権主張:平成22年11月11日(欧州特許庁))にされたとみなされる特許出願であって、平成28年4月22日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年9月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正され、平成29年9月4日付けで拒絶理由(以下、「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1-10に係る発明は、平成28年9月8日に補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
また、本件拒絶理由の内容は、本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は、本件拒絶理由に対して、指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして、本件拒絶理由を覆すに足りる根拠は見いだせず、本願は本件拒絶理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。


以下、本件拒絶理由の内容を掲記する。

A この出願は、特許請求の範囲の記載について下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
B この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


〔刊行物〕
1 特表2000-511157号公報
2 畑埜浩子他,臨床眼科,2006年,Vol.60,No.6,pp.913-917
3 岡田アナベルあやめ,眼科手術,2004年,Vol.17,No.2,pp.171-175
4 坂本泰二他,日本眼科学会雑誌,2007年,Vol.111,No.12,pp.936-945
5 宮原晋介,眼科プラクティス 23.眼科薬物治療AtoZ,2008年,pp.574-575
6 河原澄枝,あたらしい眼科,2006年,Vol.23,No.11,pp.1387-1390
7 水島裕編,今日の治療薬(2005年版),株式会社南江堂,2005年,第745,749?754,756?759,764頁
8 特表平6-501258号公報
9 特開昭64-52722号公報

1 本願発明
本願の請求項1-10に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、平成28年9月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2 理由Aについて
本願発明1における「F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H(CF_(2))_(o)F」は、「F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(o)F」の誤記と思われる。
以下、「F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H(CF_(2))_(o)F」は、「F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(o)F」の誤記であると解して検討を行う。

3 理由Bについて
(1)刊行物の記載事項
本願出願前(優先日前)に頒布された刊行物1-9には、以下の記載がある。
ア 刊行物1の記載事項
(ア) 「【特許請求の範囲】
1.下記一般式:
R_(F)R_(H)及びR_(F)R_(H)R_(F)
(式中、R_(F)は、線形または分岐ペルフルオロアルキル基を表し、R_(H)は、線形または分岐飽和(炭化水素)アルキル基を表す)のセミフルオロアルカン。
2.未分岐セミフルオロアルカンが、下記一般式:
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(式中,n=1-20,m=3-20)を有することを特徴とする請求項1記載のセミフルオロアルカン。
・・・
10.1つまたは複数のペルフルオロアルキル部分の炭素原子数がn=3-20である請求項1から8のいずれか1項に記載のセミフルオロアルカンからなることを特徴とする眼治療用助剤。
・・・
14.眼治療に使用される医薬のための溶剤を構成することを特徴とする請求項10に記載の助剤。」
(イ) 「 セミフルオロアルカンは、ペルフルオロカーボン及び炭化水素と同様、水に殆どまたは全く不溶である。」(第9頁第5-6行)
(ウ) 「 ペルフルオロカーボン(密度1.8-2.0g/cm^(3))とは異なり、セミフルオロアルカンの密度は、上記分子に含まれる炭化水素基の割合が大きいので、本質的に小さく1.1-1.7g/cm^(3)の範囲にある。・・・」(第9頁下から第2行-第10頁第1行)
(エ) 「 本発明に係るセミフルオロアルカンは、純ペルフルオロカーボン[8,9]および[10]に請求の改質ペルフルオロカーボンと同様、網膜展開に好適である。更に、本発明に係る線形または分岐セミフルオロアルカンは、比較的高いアルキル成分、-(CH_(2))_(n)または-(CH_(2))_(n)またはR_(H)置換異性体を含む場合に特に、医薬の溶解能および着色性にもとづき眼の治療に特に好適である。
・・・
更に、本発明に係るセミフルオロアルカン、特に、R_(H)成分の高いR_(F)R_(H)タイプの二ブロック化合物は、眼治療に使用される医薬の溶剤として好適である。即ち、

化合物に中程度から良好な程度の範囲で溶解できる。Retinolの場合、溶液は、有色であり、従って、良好に目に見える。これは、網膜展開時に展開液を取扱う場合に外科医にとって有利である。」(第12頁第6-22行)
(オ) 「 これに反して、本発明のセミフルオロアルカン、特に、R_(F)R_(H)タイプの線形バリエーションは、シリコーン・オイルに良好に溶解する。セミフルオロアルカンは、R_(H)成分が多ければ多い程、シリコーン・オイルにより良好に溶解する。即ち、例えば、シリコーン・オイル・タンポン法で汎用される5000mPaまたは1000mPaのシリコーン・オイルに、液状セミフルオロ二ブロック化合物であるC_(6)F_(13)C_(8)H_(17)またはC_(4)F_(9)C_(5)H_(11)またはC_(2)F_(5)C_(8)H_(17)は均質に溶解される。例えば、上記R_(F)R_(H)は、1000mPaのシリコーン・オイル中に比2:1?1:2で溶解される。シリコーン・オイルの粘度の増加とともに溶解度は減少する。
・・・
セミフルオロアルカンはペルフルオロカーボンの溶剤であるので、更に、セミフルオロアルカン、特に、R_(F)R_(H)タイプのアルカンに溶解したペルフルオロカーボンの溶液を対応するシリコーン・オイルによって均質で光学的に透明な系に移行させ、次いで、この系をタンポン法に使用することができる。」(第12頁最終行-第13頁第16行)
(カ) 「表1

」(第23頁)
(キ) 「表2

」(第24頁)
イ 刊行物2の記載事項
(ア) 「・・・結論:糖尿病網膜症または網膜静脈分枝閉塞症に併発した黄斑浮腫に対するトリアムシノロンアセトニドのテノン嚢下投与により視力が改善し,浮腫の持続期間が6か月以内であるときには改善が大きい。」(要約の欄)
ウ 刊行物3の記載事項
(ア) 「I ステロイドの眼球周囲投与
・・・
ぶどう膜炎以外の眼底疾患に対してもトリアムシノロンの経Tenon嚢球後注入の効果も検討した.網膜中心静脈閉塞症や網膜静脈分枝閉塞症^(5))および糖尿病網膜症^(6))に合併する黄斑浮腫の改善率は,それぞれ100%,73%と50%であった.幅広い疾患に合併する黄斑浮腫に対してトリアムシノロンの経Tenon嚢球後注入は有用であることが示唆された.」(第171頁左欄下から第6行-第172頁右欄最終行)
エ 刊行物4の記載事項
(ア) 「目 的:我が国の,眼科臨床におけるトリアムシノロンアセトニド(TA)の使用状況を調査する.」(要約左欄第1-2行)
(イ) 「2.TAテノン嚢下注射に関する調査結果
・・・
5)治療効果の評価
治療効果を認める(有効,ある程度有効)という意見が多い疾患(糖尿病黄斑症,網膜静脈閉塞症,ぶどう膜炎,術後消炎)と有効性を疑うもの(加齢黄斑変性,脈絡膜血管新生)に分かれた.硝子体内注射では,糖尿病黄斑症,網膜静脈閉塞症で有効という割合が,20%を超えていた.全般に「無効」とする意見は少なかった(図2).」(第940頁左欄第8行-右欄下から第8行)
(ウ) 「

」(第941頁)
オ 刊行物5の記載事項
(ア) 「 眼内に薬物を投与したい場合,全身投与して血流を介して眼内に到達させるか,眼球周囲に局所投与して角膜もしくは強膜を通過させるか,もしくは眼内に直接投与することとなる.この章では眼球周囲への局所投与である結膜下注射とTenon嚢下注射,そして眼内への直接投与である前房内注射について言及する.」(第574頁左欄下から第14-8行)
(イ) 「 Tenon嚢下に注射された薬剤は,まずは投与部位に隣接する強膜を通過して眼内へ移行する.例えばトリアムシノロンの場合は,投与後4日目に強膜透過量が最大となり,その後少なくとも7日目まで最大濃度が持続することがわかっている^(3)).また十分量のトリアムシノロンをTenon嚢下注射すれば,硝子体腔へ治療効果を発揮する濃度が移行することも確認されている^(4)).残りの薬剤は時間経過とともに次第に後方の視神経へ向かって移動し,視神経鞘周囲へ蓄積して視神経へ浸潤していく^(5)).以上から,Tenon嚢下注射による薬物投与の標的部位は,中間部から後部の眼内ということになる.目的とする病変部位が存在する象限に刺入口を作成することが有効である.」(第575頁左欄第5-18行)
カ 刊行物6の記載事項
(ア) 「 ぶどう膜炎治療の基本は副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)^(1))であり,ステロイド薬の投与方法には,全身投与と局所投与がある.局所投与には,点眼と眼球周囲注射があり,眼球周囲注射は,薬液注入部位および注射方法に応じて,結膜下注射・Tenon嚢下注射・球後注射・経眼瞼的(経皮的)眼窩隔膜注射などに分けられる(表1).現在では結膜下注射・Tenon嚢下注射が一般的である.・・・」(第1387頁左欄第2-9行)
(イ) 「 III Tenon嚢下注射
遷延する強い後眼部炎症や嚢胞様黄斑浮腫(cystoid macular edema:CME)の治療には,トリアムシノロン(triamcinolone acetonide:ケナコルト(R))の後部Tenon嚢下注射を行う.Tenon嚢下注射されたステロイド薬は,経強膜的に眼内移行し(図1),また,トリアムシノロンは徐放性の懸濁ステロイド薬であるため,粒子が徐々に溶解吸収されて抗炎症効果が長期間持続する.1回の投与で数週間から数カ月の効果が期待でき(図2,3),ステロイド薬全身投与に比べると全身的な副作用が少ない.」(第1388頁右欄第2-12行)
キ 刊行物7の記載事項
(ア) 「

」(第745頁)
(イ)

」(第749?754頁)
(ウ) 「

」(第756?759頁)
(エ) 「

」(第764頁)
ク 刊行物8の記載事項
(ア) 「 広義には、本発明の薬剤組成物は、パーフルオロカーボンまたはフッ素化シリコーン非水性液体担体中に懸濁した1種またはそれ以上のドラッグデリバリー賦形剤を含有する。本発明の教示に従って調製する薬剤組成物はとりわけ、パーフルオロカーボンまたはフッ素化シリコーン液体担体と、液体担体中に懸濁する少なくとも1種のドラッグデリバリー賦形剤(薬学的に有効な量の少なくとも1種の治療用または診断用化合物を組み込んだもの)とから形成し得る。
本発明の教示に従って形成する薬剤組成物は、非水性液体担体の静菌性、非刺激性、およびとりわけ潤滑性の故に、眼の損傷または疾患の診断または処置に関連して使用するのに特に適している。」(第4頁左下欄第14-22行)
(イ) 「 本発明の薬剤組成物の他の利点は、眼環境中で視界を乱し難いということである。本発明の薬剤組成物中に使用する非水性担体は、水に非常に近い屈折率を有する。その上、そのような担体は、眼の涙液フィルムの脂質層とも水層とも混和しない。このように非混和性である故に、涙液フィルム層を乱すような相互作用が少ない。更に、非水性組成物と涙液フィルムの水層との屈折率がほぼ同じであるので、鉱油のような通常の非水性薬剤担体の使用に通例伴う視界の乱れは、実質的に起こらない。」(第7頁左上欄下から第5行-右上欄第2行)
ケ 刊行物9の記載事項
(ア) 「2.特許請求の範囲
眼科用薬剤と、下記式 I で示されるポリシロキサンとを含有する眼科治療用組成物。・・・」

(2)刊行物1に記載された発明
上記(1)ア(ア)、(ウ)、(エ)の摘記事項から、刊行物1には、
「下記一般式:
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(式中,n=3-20,m=3-20)
を有し、1.1?1.7g/cm^(3)の密度を有するセミフルオロアルカンからなる眼治療用助剤により構成される、眼治療に使用される医薬のための溶剤。」
に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
ア 本願発明1について
引用発明1における「セミフルオロアルカン」は、本願発明1における「部分フッ素化アルカン」に相当する。
引用発明1における「医薬」は、本願発明1における「活性医薬成分」に相当する。
引用発明1における「医薬のための溶剤」は、「溶剤」が一般に溶質と反応しない液体であること(要すれば、例えば、化学大辞典編集委員会編、化学大辞典9 縮刷版、共立出版株式会社、1964年、第437頁等参照)からみて、「液体ビヒクル」に相当する。
本願発明1における「生理学的に許容できる」について、本願明細書【0025】には「生理学的に許容できるとは、ビヒクルまたは賦形剤が、意図する投与経路、使用頻度、治療する状態の重症度、および投薬ごとに投与されるビヒクルの量を考慮して製薬用途に許容されることを意味する。」と記載されている。一方、引用発明1における溶剤も、「医薬のため」である以上、投与形態等を考慮した製薬用途に許容されるのは明らかであるから、本願発明1における「生理学的に許容できる」ものに相当する。
また、刊行物1における、「医薬のための溶剤を構成する・・・助剤」、「本発明に係るセミフルオロアルカン・・・は、眼治療に使用される医薬の溶剤として好適」との記載から(上記(1)ア(ア)、(エ))、当該医薬及び溶剤を用いて得られる医薬組成物も記載されているに等しい事項であると認められる。その際、「溶剤」である以上、医薬が「溶解形態」で存在しているものと認められる。
してみると、本願発明1と引用発明1とは、
「患者の眼の治療のための医薬組成物であって、
前記組成物が、溶解形態の活性医薬成分と、
所定の密度を有する生理学的に許容できる液体ビヒクルを含み、前記液体ビヒクルは、式
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)H
F(CF_(2))_(n)(CH_(2))_(m)(CF_(2))_(n)F
(ここで、n、mは独立して3?20の範囲から選択される)
に従う部分フッ素化アルカンを含む、医薬組成物」
である点で一致し、次の点で一応相違している。
相違点1:本願発明1は「後眼部に付随する組織」の治療のための医薬組成物であって、「患者が加齢性黄斑変性、糖尿病性網膜症、緑内障、網膜色素変性症、およびサイトメガロウイルス網膜炎から選択される疾患または状態に罹患して」いるのに対し、引用発明1では「眼治療用」とのみ特定されている点。
相違点2:本願発明1では、「治療には、前記組成物の投与の後の一定期間がさらに含まれ、その期間の間、前記患者は上方に顔を向ける仰臥位の状態であって、前記期間が、前記組成物を投与部位から前記後眼部の部位へ移動させ、そこで前記組成物がデポーを形成し、そこから組成物の中に組み込まれた活性成分が経時的に放出されるのに十分であり、かつ、前記治療が、眼球周囲注射を含む」と特定されているのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点。
相違点3:セミフルオロアルカンの密度が、本願発明1では「少なくとも1.2g/ml」であるのに対し、引用発明1では「1.1?1.7g/cm^(3)」である点。
相違点4:本願発明1では、液体ビヒクルが「非水性」であるのに対し、引用発明1ではその旨特定されていない点。
上記相違点について検討する。
相違点1、2について、刊行物2-6に記載されるように、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症等の治療のために眼球周囲注射を行うことは本願優先日前に広く行われており(上記(1)イ-カ)、刊行物7に記載されるように、緑内障、感染症等の各種眼科疾患用の治療成分が本願優先日前に周知である(上記(1)キ)。したがって、眼の治療に使用される医薬の溶剤として好適である引用発明1の部分フッ素化アルカンを、眼球周囲注射用の薬剤の溶剤として用いることや、その際に周知の疾患及び治療成分の組合せを採用することは、当業者が容易になしうることである。そして、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、緑内障、感染症等の治療は、本願発明1における「後眼部に付随する組織の治療」と区別ができないものである。また、本願発明1における「前記治療には、前記組成物の投与の後の一定期間がさらに含まれ、・・・活性成分が経時的に放出されるのに十分であり」との記載は、医薬組成物の構成を特定するものではないから、引用発明1との間の実質的な相違点とはならない。
相違点3について、本願発明1及び引用発明1における密度の数値範囲は重複しており、当該重複部分において両発明に差異はない。また、当該数値範囲を変更することは、当業者が適宜なしうる事項である。
相違点4について、本願明細書【0025】には「非水性とは、実質的に水を含んでいない特性を指す。」と記載されていることからみて、本願発明1の「非水性の・・・液体ビヒクル」は実質的に水を含んでいないものと認められる。刊行物1には、部分フッ素化アルカンが水にほとんど溶けないことが記載されているから(上記(1)ア(イ))、そのような部分フッ素化アルカンを含む溶剤に対し、溶解しにくい水を含有させることなく医薬組成物を製造することに困難性は見いだせない。
そして、本願明細書においては、本願発明1の医薬組成物の効果が確認されておらず、当該発明により格別顕著な効果が奏せられるとも認められない。
したがって、本願発明1は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本願発明2、9について
引用発明1は、液体ビヒクルにさらにパーフルオロカーボン又はポリシロキサンを含有させることが特定されていない点で、本願発明2とさらに相違する。
しかしながら、刊行物1には、部分フッ素化アルカンがパーフルオロカーボン及びシリコーン・オイルの溶剤であることが記載され(上記(1)ア(オ))、一方で、刊行物8、9の記載から、パーフルオロアルカン(パーフルオロカーボンの一種である。)及びポリシロキサン(シリコーン・オイルの一種である。)は眼科用薬剤の液体担体又は基剤として本願優先日前に公知であるから(上記(1)ク、ケ)、引用発明1の部分フッ素化アルカンを溶剤として眼球周囲注射用の医薬組成物を製造するにあたり、パーフルオロカーボン又はポリシロキサンをさらに含有させることは、当業者が容易になしうることである。また、パーフルオロカーボン又はポリシロキサンは、本願発明9における「共溶媒」と区別が付かないものである。
そして、これらを含有させることにより格別顕著な効果が奏せられるとも認められない。
したがって、本願発明2、9は、刊行物1-9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本願発明3、4について
引用発明1は、部分フッ素化アルカンにおける過フッ素化部分及び非フッ素化部分の長さについて「n、mは独立して3?20の範囲から選択される」と特定されているのに対し、本願発明3においては「n、m、oはそれぞれ独立して3?10の範囲から選択されるものである」と特定され、本願発明4ではn及びmが、4と5、6と6、又は、6と8の組合せに特定されている点でさらに相違する。
しかしながら、引用発明1の溶剤を用いた眼球周囲注射用の医薬組成物の製造において、n、mの値を3?20の間で設定することは当業者が適宜なしうることであり、特に本願発明3又は4の部分フッ素化アルカンを採用することにより格別顕著な効果が奏せられるとも認められない。
したがって、本願発明3、4は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 本願発明5について
セミフルオロアルカンの密度が、本願発明5では「少なくとも1.35g/ml」であるのに対し、引用発明1では「1.1?1.7g/cm^(3)」であり、両数値範囲は一部重複し、該重複部分において両発明に差異はない。また、密度の数値範囲を変更することは、当業者が適宜なしうる事項である。
したがって、本願発明5は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 本願発明6について
引用発明1は、液体ビヒクルの沸点が特定されていない点で本願発明6とさらに相違する。
しかしながら、刊行物1によれば、同文献記載の部分フッ素化アルカンの沸点は120℃以上であり(上記(1)ア(カ)、(キ))、それらを助剤として沸点120℃以上の溶剤を調製することに困難性は見いだせず、そのことによる効果も格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明6は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 本願発明7について
引用発明1は、動的粘度について特定されていない点で本願発明7とさらに相違する。
しかしながら、引用発明1の溶剤を用いて眼球周囲注射用の医薬組成物を製造する際に、その動的粘度の数値範囲は当業者が適宜設定しうる事項であり、特に5mPas以下とすることによる効果も格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明7は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 本願発明8について
引用発明1は、液体ビヒクルの屈折率の数値範囲が特定されていない点で本願発明8とさらに相違する。
しかしながら、刊行物8に記載されるように、薬剤組成物の製造において、眼環境中で視界を乱し難いように水に近い屈折率の非水性担体とすることは本願優先日前に公知であるから(上記(1)ク(イ))、引用発明1の溶剤を用いて眼球周囲注射用の医薬組成物を製造するにあたり、水に近い屈折率の液体ビヒクルとすることは当業者が容易になしうる事項である。
そして、そのことによる効果も格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明8は、刊行物1-8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ク 本願発明9について
引用発明1は、医薬組成物に共溶媒、界面活性剤、安定剤等の賦形剤を含ませる旨特定されていない点で本願発明9とさらに相違する。
しかしながら、医薬組成物の製造の技術分野において、共溶媒、界面活性剤、安定剤等の賦形剤を使用することは本願優先日前における周知慣用技術であるから、引用発明1の溶剤を用いて眼球周囲投与用の医薬組成物を製造する際に、任意の賦形剤を含有させることは当業者が適宜なしうることである。
そして、そのことによる効果も格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明9は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ケ 本願発明10について
引用発明1は、医薬組成物が活性成分の持続放出をもたらすように処方されている旨特定されていない点で、本願発明10とさらに相違する。
刊行物5には、Tenon嚢下投与したトリアムシノロンが、7日目まで最大濃度を持続することが開示され、(上記(1)オ(イ))、刊行物6には、後部Tenon嚢下注射されるトリアムシノロンが徐放性の懸濁ステロイド薬であることが開示されている(上記(1)カ(イ))。
したがって、引用発明1の溶剤を用いて眼球周囲注射のための医薬組成物を製造する際に、当該医薬が持続放出をもたらすように処方することは、当業者が容易になしうることである。
そして、そのことによる効果も格別顕著なものとは認められない。
したがって、本願発明10は、刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 
審理終結日 2018-01-10 
結審通知日 2018-01-12 
審決日 2018-01-23 
出願番号 特願2013-538191(P2013-538191)
審決分類 P 1 8・ 537- WZF (A61K)
P 1 8・ 121- WZF (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 理文  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
長谷川 茜
発明の名称 後眼部疾患の治療のための液体医薬組成物  
代理人 関口 一哉  

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