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審決分類 審判 全部申し立て 産業上利用性  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1341037
異議申立番号 異議2017-700809  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-29 
確定日 2018-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6088088号発明「アンカーボルトの超音波探傷検査装置および検査方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6088088号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕、6について訂正することを認める。 特許第6088088号の請求項1、3、4、6に係る特許を維持する。 特許第6088088号の請求項2、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6088088号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年4月15日に特許出願され、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、同年8月29日に特許異議申立人より請求項1?6に対して特許異議の申立てがされ、同年10月24日付けで取消理由通知がされ、同年12月27日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年3月1日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置であって、
前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子として、高分解能広帯域型の超音波探触子を取り付け可能であり、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部を含み、
前記探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具と、
前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段とを含む、
アンカーボルト超音波探傷検査装置。」とあるのを、
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置であって、
前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子として、高分解能広帯域型の超音波探触子を取り付け可能であり、
回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部を含み、
前記探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具と、
前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段とを含み、
前記探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、
前記回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
前記押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、前記押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、前記回転部は1回転する、
アンカーボルト超音波探傷検査装置。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記探触子取り付け部の傾斜面は、検査対象のアンカーボルトごとに最適化される、請求項1または2に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」とあるのを、
「前記探触子取り付け部の傾斜面は、検査対象のアンカーボルトごとに最適化される、請求項1に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記劣化判定手段は、ピーク法を用いて前記アンカーボルトの劣化を判定する、請求項1?3のいずれかに記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」とあるのを、
「前記劣化判定手段は、ピーク法を用いて前記アンカーボルトの劣化を判定する、請求項1または3に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査方法であって、
アンカーボルトの頭部に、高分解能広帯域型の超音波探触子をアンカーボルトの軸心に対して、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能に傾斜して取り付けた探触子取り付け部を有する探触子回転治具を取り付け、
探触子回転治具は、アンカーボルトの軸方向に押し込まれたとき、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転可能であり、
探触子回転治具をアンカーボルトの軸方向に押し込んで、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転させることにより、探触子からの超音波探傷信号を受けて、アンカーボルトの劣化を判定する、アンカーボルトの超音波探傷検査方法。」とあるのを、
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査方法であって、
アンカーボルトの頭部に、高分解能広帯域型の超音波探触子をアンカーボルトの軸心に対して、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能に傾斜して取り付けた探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具を取り付け、
探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
アンカーボルトの軸方向に押し込まれたとき、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転可能であり、
押し込み部は、回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、係合部が溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、回転部は1回転し、
探触子回転治具をアンカーボルトの軸方向に押し込んで、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転させることにより、探触子からの超音波探傷信号を受けて、アンカーボルトの劣化を判定する、アンカーボルトの超音波探傷検査方法。」に訂正する。

2 訂正の適否についての判断

(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、上記訂正事項1?5に係る請求項1?5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項5(請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5)を、訂正前の請求項2を引用する請求項5とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項1は、「前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って回転しながら下方向に移動し」(訂正前の請求項2)という記載を、「前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し」と訂正することを含み、それ自体の記載内容が明らかでない記載を正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1は、訂正前の請求項5(請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5)を、訂正前の請求項2を引用する請求項5とするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項5(請求項2?4のいずれか1項を引用する請求項5)を、訂正前の請求項2を引用する請求項5とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2及び5について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項2及び5は、いずれも、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項2及び5は、いずれも、請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び5は、いずれも、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3及び4について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項3及び4は、いずれも、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項3及び4は、いずれも、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3及び4は、いずれも、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項6について

ア 訂正の目的の適否
訂正事項6は、訂正前の請求項6に記載の探触子回転治具について、その構造及び動作を具体的に特定し、更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
この探触子回転治具の構造及び動作の説明について、特許明細書の段落【0017】に「探触子回転冶具11は、垂直探触子16を回転させるための押し込み部12aと回転部12bとから成る回転機構12と、回転機構12の下端部に固定され、円形の上端部を有する円筒状であって、内部に垂直探触子16を収容する垂直探触子収容部13と、アンカーボルト27のヘッドに装着され、垂直探触子収容部13を軸方向に案内するガイド部14とを含む。」、段落【0027】に「図3(A)?図3(C)を参照して、押し込み部12aにはその下端部の内壁に凸部を有するベアリング12cが設けられている。一方、回転部12bは円筒の外周にらせん状の溝12dを有し、押し込み部12aをアンカーボルトの軸に沿って下方向に押すことで、回転部12bのらせん状の溝12dが、押し込み部12aのベアリング12cに沿って動く。これにより、回転部12bが回転する。すなわち、ベアリング12cの凸部が回転部12bのらせん状の溝12dに係合して上下方向に移動する。押し込み部12aの軸方向長さと、回転部12bの軸方向長さとはほぼ同一である。」、段落【0028】に「このようにして、探触子回転冶具11は、冶具の頂部を押し込むと探触子16が回転する機構となっており、1回の押し込みで1回転するよう構成されている。」と記載されていることから、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は、発明特定事項を上位概念から下位概念へ変更するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕、6について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、3、4及び6に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」、「本件訂正発明4」及び「本件訂正発明6」という。)は、その請求項1、3、4及び6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(請求項2、5は削除されている)。

(本件訂正発明1)
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置であって、
前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子として、高分解能広帯域型の超音波探触子を取り付け可能であり、
回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部を含み、
前記探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具と、
前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段とを含み、
前記探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、
前記回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
前記押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、前記押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、前記回転部は1回転する、
アンカーボルト超音波探傷検査装置。」

(本件訂正発明3)
「前記探触子取り付け部の傾斜面は、検査対象のアンカーボルトごとに最適化される、請求項1に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」

(本件訂正発明4)
「前記劣化判定手段は、ピーク法を用いて前記アンカーボルトの劣化を判定する、請求項1または3に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。」

(本件訂正発明6)
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査方法であって、
アンカーボルトの頭部に、高分解能広帯域型の超音波探触子をアンカーボルトの軸心に対して、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能に傾斜して取り付けた探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具を取り付け、
探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
アンカーボルトの軸方向に押し込まれたとき、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転可能であり、
押し込み部は、回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、係合部が溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、回転部は1回転し、
探触子回転治具をアンカーボルトの軸方向に押し込んで、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転させることにより、探触子からの超音波探傷信号を受けて、アンカーボルトの劣化を判定する、アンカーボルトの超音波探傷検査方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して平成29年10月24日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1(明確性)
請求項2?5の記載では、探触子回転治具のうち回転する部材が、回転部なのか、それとも押し込み部なのか、明確でない。
また、請求項6の記載では、アンカーボルトの軸方向に押し込まれる部材に、探触子取り付け部が含まれているかどうか明確でない。
よって、請求項2?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(2)取消理由2(進歩性)
甲第1号証:特開2004-77234号公報
甲第2号証の1:特開2011-252708号公報
甲第2号証の2:特開2011-163773号公報
甲第3号証の1:「超音波探傷試験II」一般社団法人 日本非破壊検査協会平成27年3月10日発行 37頁及び40頁
甲第3号証の2:「超音波探傷試験I」社団法人 日本非破壊検査協会 2001年5月15日発行 105頁及び107頁
甲第3号証の3:特開平9-257774号公報
甲第4号証:特開2004-191143号公報

請求項1?4及び6に係る発明は、上記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の1?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?4及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、特許異議申立書において、証拠として、以下の甲第1号証?甲第6号証の3を提出し、さらに、意見書において、以下の参考資料1の1?参考資料4を提出している。
甲第1号証:特開2004-77234号公報
甲第2号証の1:特開2011-252708号公報
甲第2号証の2:特開2011-163773号公報
甲第3号証の1:「超音波探傷試験II」一般社団法人 日本非破壊検査協会 平成27年3月10日発行 37頁及び40頁
甲第3号証の2:「超音波探傷試験I」社団法人 日本非破壊検査協会 2001年5月15日発行 105頁及び107頁
甲第3号証の3:特開平9-257774号公報
甲第3号証の4:特開2001-272384号公報
甲第4号証:特開2004-191143号公報
甲第5号証:特開平9-33494号公報
甲第6号証の1:「5MHzの超音波の音場シミュレーション結果」、平成29年8月2日申立人作成
甲第6号証の2:「10MHZの超音波の音場シミュレーション結果」、平成29年8月2日申立人作成
甲第6号証の3:「超音波の音場シミュレーションの条件を示す図」、平成29年8月2日申立人作成

参考資料1-1:特開2011-13092号公報
参考資料1-2:特開2009-281731号公報
参考資料2-1:特開平9-295694号公報
参考資料2-2:特開平6-320048号公報
参考資料2-3:特開2010-249679号公報
参考資料2-4:特開2008-6159号公報
参考資料2-5:実願昭60-3796号(実開昭61-120478号)のマイクロフィルム
参考資料2-6:特開平11-307161号公報
参考資料2-7:登録実用新案第3159468号公報
参考資料3-1:「JIS G 0801圧力容器用鋼板の超音波探傷検査方法」財団法人日本規格協会 平成20年11月20日第1刷発行 5頁
参考資料3-2:「JIS G 0901建築用鋼板及び平鋼の超音波探傷試験による等級分類及び判断基準」財団法人日本規格協会 平成22年2月22日第1刷発行 5頁
参考資料4:株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道webページ抜粋、平成30年2月26日印刷 https://e-nexco-engiho.co.jp/product/sabhc/ https://www.youtube.com/watch?v=DJni_2NSHiM 平成30年2月26日申立人作成

訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、特許異議申立人が申立てた理由の要旨は、次のとおりである。

(1)申立理由1(進歩性)
請求項1?6に係る発明は、上記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の1?甲第4号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(明確性)
「広帯域探触子」が「広い探傷範囲を有する」ものではないことは明白であり、審判請求書における「高分解能広帯域型の探触子が広い探傷範囲を検査する」との請求人(特許権者)の主張は、失当であることから、請求項1及び6の「高分解能広帯域型の超音波探触子」との発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるため、請求項1?6に係る発明は不明確である(特許異議申立書第26?29頁)。
よって、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3)申立理由3(発明該当性)
上記申立理由2(明確性)のとおり、技術的な欠陥を含む「高分解能広帯域型の超音波探触子」では、一度の探傷で広範囲を探傷することができないため、請求項1?6に記載されたものは「発明」に該当しない(特許異議申立書第29頁)。
よって、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものである。

4 甲号証の記載

(1)甲第1号証の記載及び甲1発明の認定
甲第1号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は、当審において付加したものである。)

(甲1-ア)
「【請求項1】
基礎に植設されたアンカーボルトの頂部上面に超音波垂直探触子をセットし、
前記探触子から前記ボルトに、前記ボルトのねじ溝が形成された基礎表面部付近で反射するように、前記ボルトの軸心に対して斜めに超音波を入射し、
前記探触子が受波した反射波のねじ山毎に出現するピークの欠損から、前記ボルトの前記基礎表面部付近の腐食状態を診断する
ことを特徴とするアンカーボルト腐食診断方法。
・・・
【請求項7】
基礎に植設され、診断時に頂部上面が軸心に直角な平面に加工されるアンカーボルトと、
前記平面に治具を介して接触した超音波垂直探触子と、
前記探触子に電気的に接続され、前記探触子から前記ボルトに超音波を入射し、前記探触子が受波した反射波を波形表示する超音波探傷器とを備え、
前記治具が、前記ボルトの頂部上面又は前記探触子の測定面に着脱自在のキャップ状でキャップ上面に傾斜面が形成された樹脂部材からなることを特徴とするアンカーボルト腐食診断装置。」

(甲1-イ)
「【0063】
なお、実際には、治具10上で探触子11を移動したり、治具10を回転したりして探触子11のボルト3の頂部上面3’に対する位置を種々に変えながら計測をくり返し、ボルト3の全周につき、その基礎表面部分付近の反射波形を観察して前記の腐食診断がくり返し行われる。」

(甲1-ウ)
「【0088】
つぎに、請求項7の場合は、請求項1?6の腐食診断に好適なアンカーボルト腐食診断装置を提供することができる。」

(甲1-エ)
図1には、以下の図面が示されている。

以上の記載によれば、上記甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基礎に植設されたアンカーボルトの頂部上面に超音波垂直探触子をセットし、
前記探触子から前記ボルトに、前記ボルトのねじ溝が形成された基礎表面部付近で反射するように、前記ボルトの軸心に対して斜めに超音波を入射し、
前記探触子が受波した反射波のねじ山毎に出現するピークの欠損から、前記ボルトの前記基礎表面部付近の腐食状態を診断する、
アンカーボルト腐食診断方法に好適なアンカーボルト腐食診断装置であって、
基礎に植設され、診断時に頂部上面が軸心に直角な平面に加工されるアンカーボルトと、
前記平面に治具を介して接触した超音波垂直探触子と、
前記探触子に電気的に接続され、前記探触子から前記ボルトに超音波を入射し、前記探触子が受波した反射波を波形表示する超音波探傷器とを備え、
前記治具が、前記ボルトの頂部上面に着脱自在のキャップ状でキャップ上面に傾斜面が形成された樹脂部材からなり、
実際には、前記治具上で前記探触子を移動したり、前記治具を回転したりして前記探触子の前記ボルトの頂部上面に対する位置を種々に変えながら計測をくり返し、前記ボルトの全周につき、その基礎表面部分付近の反射波形を観察して前記の腐食診断がくり返し行われる、
アンカーボルト腐食診断装置。」

(2)甲第2号証の1の記載
甲第2号証の1には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲2の1-ア)
「【0022】
図4に示すように、スキャナ10は、大略、第一フレーム11、第二フレーム12、回転抽出機構13及び保持機構14よりなる。第一、第二フレーム11,12は、略円筒形を呈し、互いに相対回転可能に嵌め合わされる。第一フレーム11には貫通孔15aが設けられてあり、この貫通孔15aを介して一対の固定用ノブ15,15をナット107側面に押し当てて第一フレーム11を回転不能に固定する。また、第二フレーム12には長孔16bが軸方向に設けられてあり、長孔16bを介して一対の調整用ノブ16,16により第二フレーム12の内側に保持フレーム14aが固定される。」

(甲2の1-イ)
「【0031】
次に、フェーズドアレイ探触子2より超音波を所定角度範囲内で送信して電子的に走査し、その位置における受信信号を得ると共に、図3に示す画像処理装置4がS-scan画像又はB-scan画像を生成する。そして、スキャナ10によりフェーズドアレイ探触子2を適宜角度で機械的に360°回転走査し、探触子の各回転位置での画像を順次生成する。この回転走査による探触子の位置情報は、エンコーダ13aの信号をカウンタ3cによりカウントすることで得られる。このエンコーダ13aの信号は、スキャナ10の回転がその探触子の位置情報を伝えるためにピニオンギア13b、円環状のラック13cを介してエンコーダ13aに回転を与えることで生じる。このようにして生成した画像から、上述の如く減肉部Bの深さDを推定する。」

(甲2の1-ウ)
図4には、以下の図面が示されている。

(3)甲第2号証の2の記載
甲第2号証の2には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲2の2-ア)
「【0022】
具体的には、図1に示すように、使用状態のボルト1の端面2にフェーズドアレイ式探触子3を密着させて、セクタスキャンを行いながら1回転させることにより、ボルトのネジ部の全周のデータを収集し、少なくともセクトリアルビューとサイドビュー、場合によってはマージしたサイドビューを構築し、減肉の有無とその軸方向位置と軸方向の減肉長さ、減肉深さ並びに必要に応じて周方向の減肉範囲を求める。」

(甲2の2-イ)
「【0025】
まず、フェーズドアレイ式探触子3は、例えば図4に示すような回転治具を使って、図1に示すように使用状態のボルト1の端面2(この例では上面)に密着させる。回転治具は、検査対象となるボルト1のネジ4を利用してネジ締め付けにより固定されるベースディスク17と、そのディスク17周りに回転可能に支持される外歯付き回転ディスク12と、該外歯付き回転ディスク12の上面に固定されてフェーズドアレイ探触子3を昇降自在に支持する門型の探触子取付用フレーム13と、回転ディスク12の周面の外歯に噛み合い回転ディスク12を任意角度に回転可能とする回転ハンドル14と回転角度を検出するエンコーダ15とで主に構成されている。そして、フェースドアレイ探触子3は押付バネ16により、ボルト1の端面2に弾力的に押し付けられ、回転ハンドル14で回転ディスク12を回すことにより、ボルト1の中心軸周りに回転させられるように取り付けられる。この際に、探触子3を構成する複数の振動子は、ボルト1の中心を通る直線上に位置決めされる。尚、探触子位置をロータリーエンコーダ15によりコンピュータに入力される。また、フェースドアレイ探触子3は図示していないフェーズドアレイ用探傷器に接続される。」

(甲2の1-ウ)
図4には、以下の図面が示されている。

(4)甲第3号証の1の記載
甲第3号証の1には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲3の1-ア)
「(5)広帯域探触子
振動の回数が極めて少ないパルスは、その振動の周波数範囲が広い。このような振動の持続回数が極めて少ない超音波パルスを送受信する探触子を総称して、広帯域探触子と呼ぶ。図3.19で示したように、振動の回数が少ないと表示されるエコーの幅が短く、分解能が良いので、高分解能探触子とも呼ばれる。」(第40頁左欄)

(5)甲第3号証の2の記載
甲第3号証の2には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲3の2-ア)
「広帯域探触子 波数が1波ないし2波のごく短い超音波パルスを発生する探触子で、広い周波数特性を持っている。高分解能探触子とも呼ばれる。探触子の表示の頭に「B」を付け一般の探触子と識別している。」(第107頁)

(6)甲第3号証の3の記載
甲第3号証の3には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲3の3-ア)
「【0014】
【作用】本発明では、基材の前方に楔状の接触空間を形成し、該接触空間の傾斜した背面に沿って所定の入射角を保つ超音波振動子を配置し、接触空間に開口した給水孔から水を供給して接触空間を走査中は常に水で満たすようにしている。これによって、超音波振動子と検査対象物の表面との間は常に均一な水で満たされ、検査対象物の表面が粗いものであっても接触空間内に空気層や気泡が生じることがないので、音響結合を適正な状態に維持することができ,かつ水のみを伝搬媒体にしているため、探触子周波数を10MHz程度の高周波・広帯域にして高感度・高分解能にしても減衰が少なく,また伝達損失が小さいので高感度・高分解能の検査が可能となる。」

(7)甲第3号証の4の記載
甲第3号証の4には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲3の4-ア)
「【0009】本発明による外面腐食測定方法の基本原理を説明するために、棒状部材の外周面の一部に鼓状の減径腐食部が存在する場合を想定する。棒状部材の一端面に超音波探触子を当てて内部に非収束超音波を入射すると、棒状部材内部の腐食部の界面から何回かの反射を経て反射波エコーが探触子に戻ってくる。」

(8)甲第4号証の記載
甲第4号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲4-ア)
「【0020】
ここで、本実施形態の超音波センサ操作治具5は、図3に示すように、接触媒質27が塗布された被検査体6の表面に超音波センサ2を矢印Y1方向に圧接(押圧)する操作に連動して、図4に示すように、被検査体6のその圧接面上で超音波センサ2を矢印S1方向に自転させる探触子自転機構28を備えている。
【0021】
すなわち、この探触子自転機構28を実現する構成として、図2ないし図4に示すように、内側筒状体25には、その本体から径方向に突設された係合突起としての回転バー29が設けられている。一方、外側筒状体26には、回転バー29と係合しこの回転バー29の移動経路を定める案内溝としての螺旋溝30が設けられており、この螺旋溝30は、外側筒状体26にスパイラル状に周回するように形成されている。したがって、外側筒状体26内に対し内側筒状体25を矢印Y2方向に挿入する挿入動作、つまり被検査体6に超音波センサ2先端の接触部位7を矢印Y1方向に圧接する圧接操作により、超音波センサ2が固定された内側筒状体25が、外側筒状体26内で矢印S1方向に自転する。これにより、超音波センサ2を圧接させた被検査体6の圧接面上で接触媒質27を薄く引き延ばして塗布することが可能となる。」

(甲4-イ)
図2には、以下の図面が示されている。

(9)甲第5号証の記載
甲第5号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。

(甲5-ア)
「【0016】
【作用】超音波探傷により得られるAスコープ波形をA/D変換手段によって変換されたデジタルデータは、例えば波形取込回路からなる取込手段と、例えばピーク検出回路からなる抽出手段にそれぞれ転送され、これによりこの両手段は独立した処理を並行して開始する。・・・ピーク検出回路では、A/D変換後のデータが例えばスレッシュホールドレベル設定回路によって、設定されたスレッシュホールドレベルを上回ってから下回るまでを1つのエコーとみなし、そのエコー内において順次取込まれるデータに対しデータの比較を行い、常に高い方のデータを保持することにより最大値のデータをピークとして検出する。」

5 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 取消理由1(明確性)についての判断
本件訂正により、「前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って回転しながら下方向に移動し」(訂正前の請求項2)という記載が、「前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し」と訂正された結果、本件訂正発明1、3及び4は明確となった。
また、本件訂正により、「探触子取り付け部を有する探触子回転治具を取り付け」(訂正前の請求項6)という記載が、「探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具を取り付け」と訂正された結果、本件訂正発明6は明確となった。
よって、本件訂正発明1、3、4及び6では、上記「第3 2(1)」の取消理由1が解消された。

イ 取消理由2(進歩性)についての判断
本件訂正により、本件訂正発明1は、進歩性違反を指摘していない訂正前の請求項5(請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5)に係る発明に訂正され、本件訂正発明6は、本件訂正発明1に対応する発明(発明のカテゴリー上の差異がある程度の発明)に訂正された。
よって、本件訂正発明1、3、4及び6に係る特許は、上記「第3 2(2)」の取消理由2が解消された。

(2)特許異議申立理由について

ア 申立理由1(進歩性)についての判断
(ア)本件訂正発明1

a 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

(a)甲1発明の「アンカーボルト腐食診断装置」は、「アンカーボルトの頂部上面に超音波垂直探触子をセットし」、「前記ボルトの基礎表面部付近の腐食状態を診断する」ものであるから、本件訂正発明1の「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置」に相当する。

(b)甲1発明では、「前記ボルトの頂部上面に」、「着脱自在のキャップ状でキャップ上面に傾斜面が形成された治具を介して」、「超音波垂直探触子」を「接触」させながら、「前記治具上で前記探触子を移動したり、前記治具を回転したりして前記探触子の前記ボルトの頂部上面に対する位置を種々に変えながら計測をくり返し、前記ボルトの全周につき、その基礎表面部分付近の反射波形を観察して前記の腐食診断がくり返し行われる」ことから、甲1発明の「治具」は、「前記ボルトの頂部上面に」「着脱自在」であり、「キャップ状でキャップ上面に」「超音波垂直探触子」を「接触」させて、「回転」のみをすることにより、「前記ボルト」の周囲の「腐食診断がくり返し行われる」「キャップ上面に傾斜面が形成された治具」である。
よって、甲1発明の「キャップ上面に傾斜面が形成された治具」と、本件訂正発明1の「前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子として、高分解能広帯域型の超音波探触子を取り付け可能であり、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部」とは、「前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子を取り付け可能であり、回転のみをすることにより、検査対象部の周囲を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部」である点で共通する。

(c)甲1発明の「前記探触子が受波した反射波のねじ山毎に出現するピークの欠損から、前記ボルトの前記基礎表面部付近の腐食状態を診断する」ことは、本件訂正発明1の「前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段」に相当する。

してみると、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。

(一致点)
「超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置であって、
前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子を取り付け可能であり、回転のみをすることにより、検査対象部の周囲を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部を含み、
前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段とを含む、
アンカーボルト超音波探傷検査装置。」

(相違点1)
超音波探触子が、本件訂正発明1では、「高分解能広帯域型」の超音波探触子であるのに対し、甲1発明では、超音波「垂直」探触子である点。

(相違点2)
本件訂正発明1では、探触子取り付け部を、回転のみをさせることにより、検査対象部の「全」周を探傷可能とするのに対し、甲1発明では、「治具上で前記探触子を移動したり、前記治具を回転したりして」、検査対象部の全周を探傷可能とする点。

(相違点3)
本件訂正発明1では、「前記探触子取り付け部を回転可能に保持」し、
「外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、
前記回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
前記押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、前記押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、前記回転部は1回転する」、
「探触子回転治具」を備えているのに対し、
甲1発明では、「前記探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具」を備えていない点。

b 相違点についての判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。

(a)上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成、とりわけ、「前記押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、前記押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、前記回転部は1回転する」点については、上記甲第2号証の1?甲第5号証、上記参考文献1の1?参考文献2の7のいずれにも記載も示唆もされていない。

(b)また、上記相違点2にあるように、甲1発明は、探触子を移動したり回転したりして、検査対象部の全周を探傷するものであるのに対し、本件訂正発明1は、探触子の回転のみで検査対象部の全周を探傷するものであるから、両者は、探触子の使い方を異にするものである。
よって、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成がたとえ公知であったとしても、甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用する動機付けは存在しない。

(c)なお、甲第2号証の1又は甲第2号証の2には、アンカーボルト超音波探傷検査装置において、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能とする探触子回転治具を備える点が記載されている。
そして、仮に、主たる引用発明を、甲1発明に代えて、甲第2号証の1又は甲第2号証の2に記載された発明とした場合、甲第2号証の1又は甲第2号証の2に記載された発明において、甲第2号証の1又は甲第2号証の2に記載された発明の探触子回転治具を、わざわざ上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成のような他の構成の回転治具に変更する動機付けは存在しない。

(d)よって、甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことでない。

c 小括
以上のとおり、本件訂正発明1は、他の相違点について判断するまでもなく、甲1発明及び上記甲第2号証の1?甲第5号証、上記参考文献1の1?参考文献2の7に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本件訂正発明3、4及び6
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1の構成を全て含み、また、本件訂正発明6は、本件訂正発明1に対応する発明(発明のカテゴリー上の差異がある程度の発明)であることから、上記(ア)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立理由2(明確性)についての判断

(ア)「高分解能広帯域型」の超音波探触子は、甲第3号証の1?甲第3号証の3にあるように本件出願時の技術常識の超音波探触子であるから、本件訂正発明1、3、4及び6の「高分解能広帯域型」の超音波探触子は、その用語のとおりであり、明確である。

(イ)本件特許明細書の段落【0021】には、「図2は垂直探触子16と角度ウェッジ17の要部を示す図である。図2を参照して、垂直探触子16は固定したまま(前後・左右方向には動かさない)1回転させてアンカーボルト27の検査対象部位aの全周を探傷する。このため一度に広範囲に探傷できる垂直探触子16を選定した。具体的には、従来使用していた集束型垂直探触子に比べて超音波ビームの拡がった垂直探触子であって、周波数10MHzの高分解能広帯域型のものを選定した。」と記載されているように、「従来使用していた集束型垂直探触子に比べて超音波ビームの拡がった垂直探触子」すなわち非集束型の「垂直探触子」(非集束型の「垂直探触子」は、特許異議申立書第30頁に記載のとおり従来周知(甲第3号証の4)のものである。)を選定して「一度に広範囲に探傷できる」ようにし、その上でさらに、「高分解能広帯域型」のものを選定して分解能を良くすることが読み取れる。
よって、発明の詳細な説明の記載及び本件出願時の技術常識(甲第3号証の1?甲第3号証の3)によれば、「高分解能広帯域型の超音波探触子」の「広帯域」を「広い探傷範囲を有する」という意味で用いていないことは明らかであり、また、「高分解能広帯域型の超音波探触子」では、一度の探傷で広範囲を探傷することができないとはいえないため、特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)以上のとおり、本件訂正発明1、3、4及び6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいない。

ウ 申立理由3(発明該当性)についての判断
上記イのとおり、「高分解能広帯域型の超音波探触子」では、一度の探傷で広範囲を探傷することができないとはいえず、また、本件訂正発明1、3、4及び6は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であることが明らかであるから、「発明」に該当する。
よって、本件訂正発明1、3、4及び6に係る特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものであるとはいない。

第4 むずび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、3、4及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1、3、4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2及び5に係る発明は、本件訂正により削除されたので、本件特許の請求項2及び5に対してなされた特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査装置であって、
前記アンカーボルトの頭部に装着可能であり、円筒状でその頂部に前記超音波探触子として、高分解能広帯域型の超音波探触子を取り付け可能であり、
回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能な傾斜面を有する探触子取り付け部を含み、
前記探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具と、
前記探触子からの超音波探傷信号の反射エコーを受けて、アンカーボルトの劣化を判定する劣化判定手段とを含み、
前記探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、
前記回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
前記押し込み部は、前記回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、前記係合部が前記溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
前記押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、前記押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、前記回転部は1回転する、
アンカーボルト超音波探傷検査装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記探触子取り付け部の傾斜面は、検査対象のアンカーボルトごとに最適化される、請求項1に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。
【請求項4】
前記劣化判定手段は、ピーク法を用いて前記アンカーボルトの劣化を判定する、請求項1または3に記載のアンカーボルト超音波探傷検査装置。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
超音波探触子を用いてアンカーボルトの腐食部を検査するアンカーボルト超音波探傷検査方法であって、
アンカーボルトの頭部に、高分解能広帯域型の超音波探触子をアンカーボルトの軸心に対して、回転のみをすることにより、検査対象部の全周を探傷可能に傾斜して取り付けた探触子取り付け部を回転可能に保持する探触子回転治具を取り付け、
探触子回転治具は、外周に螺旋状の溝を有する円筒状の回転部と、回転部の外周に沿って下方に移動可能に設けられた円筒状の押し込み部とを含み、
アンカーボルトの軸方向に押し込まれたとき、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転可能であり、
押し込み部は、回転部の螺旋状の溝に係合可能な係合部を内周に有し、下方向に押されることによって、係合部が溝に沿って下方向に移動し、
それによって、前記探触子が回転し、
押し込み部は第1の軸方向の長さを有し、押し込み部が第1の軸方向の長さを移動したときに、回転部は1回転し、
探触子回転治具をアンカーボルトの軸方向に押し込んで、探触子取り付け部をアンカーボルトの軸を中心に回転させることにより、探触子からの超音波探傷信号を受けて、アンカーボルトの劣化を判定する、アンカーボルトの超音波探傷検査方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-26 
出願番号 特願2016-82311(P2016-82311)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01N)
P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 14- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6088088号(P6088088)
権利者 株式会社ニチゾウテック 株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道
発明の名称 アンカーボルトの超音波探傷検査装置および検査方法  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  

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