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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1341058
異議申立番号 異議2017-700714  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-24 
確定日 2018-04-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6068978号発明「ポリアミド製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6068978号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6068978号の請求項5に係る発明についての本件特許異議の申立てを却下する。 特許第6068978号の請求項1ないし4及び6ないし13に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6068978号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、2010年3月9日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年3月20日フランス国)を国際出願日とする特許出願(特願2012-500182号)に係るものであって、平成29年1月6日に設定登録され、平成29年1月25日に特許掲載公報が発行され、その後、平成29年7月24日に本件特許の請求項1?13に係る発明についての特許に対して、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、平成29年10月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月18日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年3月5日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
平成30年1月18日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下の(1)?(3)のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に係る発明を請求項5に係る発明に限定する。

(2)訂正事項2
請求項5を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか」とあるのを「請求項1?4のいずれか」と、請求項7に「請求項1?6のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6のいずれか」と、請求項8に「請求項1?7のいずれか」とあるのを「請求項1?4、6及び7のいずれか」と、請求項9に「請求項1?8のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6?8のいずれか」と、請求項10に「請求項1?9のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6?9のいずれか」と、請求項11に「請求項1?10のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6?10のいずれか」と、請求項12に「請求項1?11のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6?11のいずれか」と、請求項13に「請求項1?12のいずれか」とあるのを「請求項1?4及び6?12のいずれか」と、それぞれ、訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1及び2について
訂正事項1による訂正は、請求項1に係る発明を請求項5に係る発明に限定するものであり、訂正事項2による訂正は、それに伴い、請求項5を削除するものであるから、これらの訂正事項による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、これらの訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3ついて
訂正事項3による訂正は、上記の訂正事項2による請求項の削除に合わせて、引用請求項の一部を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、この訂正は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?13について、請求項2?13は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
そして、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。

3.小括
上記2のとおり、各訂正事項に係る訂正は特許法120条の5第2項ただし書き第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項に適合するとともに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?13に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ項番に従い「本件発明1」等といい、また、本件発明1?4及び6?13をまとめて、単に、「本件発明」ともいう場合がある。)。

「【請求項1】
少なくとも1種の二酸及び少なくとも1種のジアミンからポリアミドを製造するための方法であって、次の工程:
(a)化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液から、溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで、水を蒸発させることによって濃縮する工程;及び
(b)水を除去しながら、所望の重合度まで重合させる工程:
を含み、
工程(a)の間の温度θがどの時点においてもθ_(c)+3℃以上であり(ここで、θ_(c)は当該溶液の固体発現温度である)、
前記工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満であり、
前記ジアミンモノマーがヘキサメチレンジアミンを少なくとも80モル%含み、
前記工程(a)がエバポレーター中で実施され、
前記工程(b)が少なくとも1つの重合器中で実施され、
前記工程(a)から得られる混合物がエバポレーターから重合器に移され、
前記工程(b)が少なくとも1回の加圧下での重合工程(b1)を含み、
工程(b1)の際の圧力が1.5?2.5MPaの範囲である、前記製造方法。
【請求項2】
前記の溶解種の水中の重量濃度が86%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の溶解種の水中の重量濃度が87%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の溶解種の水中の重量濃度が88%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 (削除)
【請求項6】
工程(a)の前の二酸とジアミンとの塩の水性溶液の塩重量濃度が50?70%の範囲であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の終わりに得られる混合物を少なくとも1つの重合反応器中に移すことを特徴とする、請求項1?4及び6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
大気圧又は減圧下でポリマーの温度を保つ工程(b3)を含むことを特徴とする、請求項1?4、6及び7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
バッチ式方法であることを特徴とする、請求項1?4及び6?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
二酸モノマーがアジピン酸、グルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、ピメリン酸、ナフタレンジカルボン酸及び5-スルホイソフタル酸から選択されることを特徴とする、請求項1?4及び6?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ジアミンモノマーがヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシレンジアミン及びイソホロンジアミンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1?4及び6?10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
二酸モノマーがアジピン酸を少なくとも80モル%含むことを特徴とする、請求項1?4及び6?11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1?4及び6?12のいずれかに記載の方法によって得られたポリアミドを粒体の形に造形することを特徴とする、ポリアミドの粒体の製造方法。」


第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要
1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件訂正前の請求項1?13に係る発明に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、本件特許の請求項1?13に係る発明についての特許は、次の(1)?(6)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるというものであって、申立人は、証拠方法として、下記(7)の甲第1号証?甲第5号証を提出した。


(1)取消理由1(甲第1号証に基づく新規性)
訂正前の請求項1?13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(甲第1号証を主たる引用文献とする進歩性)
訂正前の請求項1?13に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、あるいは、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載の技術的事項から、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到することができたものであるから、これらの請求項に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(甲第3号証又は甲第4号証に基づく新規性)
訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲第5号証を参酌するに、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、これらの請求項に係る発明についての特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(甲第3号証又は甲第4号証を主たる引用文献とする進歩性)
訂正前の請求項1?13に係る発明は、甲第5号証を参酌するに、本件特許の優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である、甲第3証、あるいは、甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に想到することができたものであるから、これらの請求項に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)取消理由5(明確性)
訂正前の請求項1?13に係る発明についての本件特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、これらの請求項に係る本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(6)取消理由6(実施可能要件)
訂正前の請求項1?13に係る発明についての本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、これらの請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、これらの請求項に係る本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(7)証拠方法
甲第1号証:特開平02-296827号公報
甲第2号証:福本修編、「ポリアミドハンドブック」、日刊工業新聞社、昭和63年1月30日、初版1刷発行、表紙、第142-143頁、奥付、写し
甲第3号証:米国特許第6,274,697号明細書および抄訳文
甲第4号証:欧州特許第1023359号明細書および抄訳文
甲第5号証:申立人の従業者である佐伯昂太郎作成の2017年7月14日付けの実験成績証明書
(以下、それぞれ「甲1」?「甲5」ともいう。)

2.取消理由通知書に記載した取消理由
取消理由通知書に記載した取消理由は、1.の取消理由4(進歩性)と同旨である。


第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1?4及び6?13に係る発明についての本件特許を取り消すことはできない。

第5-1 取消理由通知書に記載した取消理由(取消理由4)についての判断
1.甲3及び甲4の記載事項
(1)甲3の記載事項
甲3の2頁2欄の32?58行には、以下の記載がある。
(甲3は英語文献であるので、申立人による日本語訳文を基に合議体が訳した。また、後述の(2)に記載の、甲4についても同様である。さらに、甲3の原文及び訳文の下線は、甲4の記載事項との違いを示すために合議体が付したものである。)

(原文)
「Typically, in a nylon 6,6 process, hexamethylenediammonium adipate salt (approximately 52% by weight in water)is added to an evaporator. Various additives may be added at this stage. Under inert atmosphere, this reaction mixture is then heated to a boil (about 160℃.)under slight pressure to remove the excess water and thus increase its concentration. A slight pressure is desirable to minimize the loss of volatile materials like hexamethylenediamine. Upon reaching the desired concentration,typically in the range of 70-90% by weight, the reaction mixture is transferred through a transfer line to an autoclave, which is a high pressure reactor. The reaction mixture is maintained under an oxygen-free atmosphere to avoid undesirable side reactions such as oxidative degradation. While in the autoclave, the reaction mixture is heated to a temperature between about 175℃. and about 200℃., while increasing the pressure to about 300psia to again minimize loss of volatile organic compounds.Oligomers are formed during this stage, which generally takes about an hour. The temperature is then increased to between about 250℃. and 310℃.,and the pressure is released at a slow rate to bleed off steam and thus drive the condensation reaction towards polymerization. While maintaining approximately the same temperature, the reaction mixture is held at a low constant pressure for sufficient time to obtain the desired extent of reaction. The polyamide is then extruded from the reaction vessel and conveniently chopped and dried to produce flake.」

(訳文)
「一般に、ナイロン66の製造工程(プロセス)では、ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩(水中の重量として約52%)がエバポレータ一に入れられる。様々な添加剤がこの段階で加えられてもよい。不活性雰囲気下で、この反応混合物は、過剰な水を除去するため、微加圧下にて沸騰するまで加熱(約160℃)され、濃度を増加させる。微加圧はヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度が望ましい。目標とする濃度に到達後に、一般的に70-90重量%の範囲で、その反応混合物は移送ラインを通じて高圧反応器であるオートクレーブへ移送される。反応混合物は、酸化分解などの望ましくない副反応を避けるために酸素がない雰囲気で保持される。オートクレーブ内では、反応混合液は約175?200℃にて加熱され、圧力は約300psiaに増加して再び揮発性の有機化合物の損失を最小化する。この段階でオリゴマーが生成し、通常約1時間を要する。次に温度は約250?310℃まで上昇され、圧力はゆっくりした速度で開放され、蒸気が放出され、このようにして縮合反応を重合へと向かわせる。概ね同じ温度にて維持しながら、反応混合液は望ましい反応の程度を得るのに十分な時間、低い一定圧力に保持される。それから、ポリアミドは反応器から押し出され、フレーク状粒子を製造するために適切に切断され、乾燥される。」

(2)甲4の記載事項
甲4の[0011]には、以下の記載がある。
(原文)
「Typically, in a nylon 6,6 process, hexamethylenediammonium adipate salt (approximately 52% by weight in water)is added to an evaporator. Various additives may be added at this stage. Under inert atmosphere, this reaction mixture is then heated to a boil (about 160℃)under slight pressure to remove the excess water and thus increase its concentration. A slight pressure is desirable to minimize the loss of volatile materials like hexamethylenediamine. Upon reaching the desired concentration,typically in the range of 70-90% by weight, the reaction mixture is transferred through a transfer line to an autoclave, which is a high pressure reactor. The reaction mixture is maintained under an oxygen-free atmosphere to avoid undesirable side reactions such as oxidative degradation. While in the autoclave, the reaction mixture is heated to a temperature between 175℃ and 200℃, while increasing the pressure to about 300psia to again minimize loss of volatile organic compounds.Oligomers are formed during this stage, which generally takes about an hour. The temperature is then increased to between 250℃ and 310℃,and the pressure is released at a slow rate to bleed off steam and thus drive the condensation reaction towards polymerization. While maintaining approximately the same temperature, the reaction mixture is held at a low constant pressure for sufficient time to obtain the desired extent of reaction. The polyamide is then extruded from the reaction vessel and conveniently chopped and dried to produce flake.」

(訳文)
「一般に、ナイロン66の製造工程(プロセス)では、ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩(水中の重量として約52%)がエバポレータ一に入れられる。様々な添加剤がこの段階で加えられてもよい。不活性雰囲気下で、この反応混合物は、過剰な水を除去するため、微加圧下にて沸騰するまで加熱(約160℃)され、濃度を増加させる。微加圧はヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度が望ましい。目標とする濃度に到達後に、一般的に70-90重量%の範囲で、その反応混合物は移送ラインを通じて高圧反応器であるオートクレーブへ移送される。反応混合物は、酸化分解などの望ましくない副反応を避けるために酸素がない雰囲気で保持される。オートクレーブ内では、反応混合液は175?200℃にて加熱され、圧力は約300psiaに増加して再び揮発性の有機化合物の損失を最小化する。この段階でオリゴマーが生成し、通常約1時間を要する。次に温度は250?310℃まで上昇され、圧力はゆっくりした速度で開放され、蒸気が放出され、このようにして縮合反応を重合へと向かわせる。概ね同じ温度にて維持しながら、反応混合液は望ましい反応の程度を得るのに十分な時間、低い一定圧力に保持される。それから、ポリアミドは反応器から押し出され、フレーク状粒子を製造するために適切に切断され、乾燥される。」

2.甲3及び甲4に記載された発明
上記1.における甲3の記載事項と甲4の記載事項とは、甲3の記載事項において下線を付した部分が異なるのみであって、具体的な温度について「約」を加えるか否かの違いしかない。
そして、甲3及び甲4における「ナイロン66の製造工程(プロセス)」は、ナイロン66を製造する方法における製造工程を意図するといえるから、甲3及び甲4には、上記1.の記載によれば、以下の発明が記載されているといえる。
(なお、以下において、(1)?(5)は、便宜上合議体が付したもので、技術的な限定をするものではない。)

「ナイロン66を製造する方法であって、以下の工程からなる方法。
(1)ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩(水中の重量として約52%)をエバポレータ一に入れ(必要なら添加剤を追加する。)、不活性雰囲気下で、反応混合物を、過剰な水を除去するため、ヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度の微加圧下で沸騰するまで(約160℃)加熱し、濃度を増加させ70-90重量%の範囲とする工程。
(2)(1)で得られた反応混合物を移送ラインを通じて高圧反応器であるオートクレーブへ移送する工程。
(3)酸素がない雰囲気で保持した状態で、オートクレーブ内で反応混合液を175?200℃にて加熱し、圧力を約300psiaに増加し、オリゴマーが生成する工程。
(4)温度を250?310℃まで上昇し、圧力をゆっくりした速度で開放して縮合反応を重合へと向かわせ、概ね同じ温度にて維持しながら、反応混合液を望ましい反応の程度を得るのに十分な時間、低い一定圧力に保持する工程。
(5)生成したポリアミドを反応器から押し出し、適切に切断し乾燥させてフレーク状粒子を製造する工程。」(以下、「引用発明」という。)

なお、以下、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の塩である「ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩」を「AH塩」ともいう。

3.甲2及び甲5の記載事項
(1)甲2の記載事項
「ナイロン66の生成反応は典型的な重縮合反応であり,水の脱離を伴いながらアミド結合が生成し線状高分子となる反応である.
ポリマーの生成につれて反応系の溶融粘度が大きくなり,系内での水の拡散速度が反応の律速となることが特徴である.この水の系外除去と生成したポリマーの取出しをいかに短時間で効率よく行うかがプロセス設計の基本となる.」(142頁4?8行)

「工業的にはバッチ式重合と連続重合の両者共採用されており、以下にその概要を示す.
バッチ式重合では、pH調整によって得られるヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モルのAH塩水溶液に,重合度調節剤などの添加剤を混合した原料を濃縮槽に仕込み,塩の析出が起こらないように,・・・加熱濃縮する.この濃縮液を重合槽へ供給し,加熱する.槽内は発生する水蒸気で内圧が上昇する.15?20気圧になれば,圧力調節弁で内圧をその圧力にコントロールし,内温を約250℃にまで加熱する.この工程ではすでに重縮合が始まっており,プレポリマーとなっている.内圧は少なくとも10気圧程度が必要で,この圧が低いとジアミン成分が系外へ揮散するため,・・・高重合度のポリマーが得られなくなる.加熱を続け,槽内の蒸気を徐々に放圧しながら内圧を常圧に戻し,内温を270?280℃に上げる.さらに常圧あるいは減圧で数分?数十分間保ち重縮合を完結させると数平均重合度で100前後のナイロン66が得られる.重縮合の終了したポリマーは槽内を不活性ガスで加圧し,吐出口から押し出してペレット化し,必要に応じて乾燥して製品とする.


」(142頁9行?143頁2行及び図3.7)

(2)甲5の記載事項



(なお、甲5において図1は提出された証拠ではカラー表示であるが、この通知中ではカラー表示はできないため、白黒表示となっている。)

4.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「ナイロン66を製造する方法」は、本件発明1の「少なくとも1種の二酸及び少なくとも1種のジアミンからポリアミドを製造するための方法」に相当する。
引用発明の(1)の「ヘキサメチレンジアンモニウムアジピン酸塩(水中の重量として約52%)」は、本件発明1の(a)の「化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液」に相当するし、本件発明1の「ジアミンモノマー」である「ヘキサメチレンジアミン」は、引用発明においては、(塩の形態で)100%含まれているから、本件発明1の「少なくとも80モル%」を満足する。
また、引用発明の(1)の「不活性雰囲気下で、反応混合物を、過剰な水を除去するため、ヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度の微加圧下で沸騰するまで(約160℃)加熱し、濃度を増加させる工程」は、本件発明1の「水を蒸発させることによって濃縮する工程」に相当するし、引用発明では、(1)の工程は「エバポレータ一」で行われるから、本件発明1の「工程(a)がエバポレーター中で実施され」を満足する。
さらに、引用発明の(2)の「高圧反応器であるオートクレーブ」は、本件発明1の「重合器」に、「(1)で得られた反応混合物(合議体注;エバポレータ一中に存在する。)」は、「工程(a)から得られる混合物」に相当するから、引用発明の(2)において、「(1)で得られた反応混合物を移送ラインを通じて高圧反応器であるオートクレーブへ移送する工程」は、本件発明1の「工程(a)から得られる混合物がエバポレーターから重合器に移され」る工程に相当する。
引用発明の「(3)酸素がない雰囲気で保持した状態で、オートクレーブ内で反応混合液を175?200℃にて加熱し、圧力を約300psiaに増加し、オリゴマーが生成する工程」、及び、「(4)温度を250?310℃まで上昇し、圧力をゆっくりした速度で開放して縮合反応を重合へと向かわせ、概ね同じ温度にて維持しながら、反応混合液を望ましい反応の程度を得るのに十分な時間、低い一定圧力に保持してポリアミドとする工程」は、該温度で「圧力をゆっくりした速度で開放」することで水は除去されるものと認められるから、本件発明1の「(b)水を除去しながら、所望の重合度まで重合させる工程」であって、「工程(b)が少なくとも1つの重合器中で実施され」、「(工程(b)が少なくとも1回の加圧下での重合工程(b1)を含」むものに相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1?2で相違する。

<一致点>
「少なくとも1種の二酸及び少なくとも1種のジアミンからポリアミドを製造するための方法であって、次の工程:
(a)化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液を、水を蒸発させることによって濃縮する工程;及び
(b)水を除去しながら、所望の重合度まで重合させる工程:
を含み、
前記ジアミンモノマーがヘキサメチレンジアミンを少なくとも80モル%含み、
前記工程(a)がエバポレーター中で実施され、
前記工程(b)が少なくとも1つの重合器中で実施され、
前記工程(a)から得られる混合物がエバポレーターから重合器に移され、
前記工程(b)が少なくとも1回の加圧下での重合工程(b1)を含む、
前記製造方法。」

<相違点1>
二酸とジアミンとの塩の水性溶液を、水を蒸発させることによって濃縮する工程(a)について、本件発明1では、「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」、「工程(a)の間の温度θがどの時点においてもθc+3℃以上である(ここで、θcは当該溶液の固体発現温度である)」条件で、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」行うことが特定されているのに対し、引用発明では、(過剰な水を除去するため、)「ヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度の微加圧下で沸騰するまで(約160℃)加熱し、濃度を増加させ70-90重量%の範囲とする」ことが特定されている点。

<相違点2>
少なくとも1回の加圧下での重合工程(b1)における圧力について、本件発明1では、「1.5?2.5MPaの範囲」と特定されているのに対し、引用発明では工程(3)で「約300psia」の状態にした後に、「圧力をゆっくりした速度で開放して縮合反応を重合へと向かわせ・・・望ましい反応の程度を得るのに十分な時間、低い一定圧力に保持する」と特定されている点。

(2)判断
まず、相違点1について判断する。
本件発明1の「溶解種」に関し、本件特許明細書の【0019】に、「『溶解種』という表現は、媒体中に遊離の形若しくはイオン化した(塩の)形又はその他の形で存在するすべての二酸及びジアミン種(適宜にアミノ酸モノマー又はラクタムモノマーが加えられたもの)を意味するものと理解されたい。」と記載されているから、引用発明の濃縮後の反応混合物に含まれるAH塩は、本件発明1の「溶解種」に相当するといえる。
ここで、引用発明では、ナイロン66の製造方法において、AH塩水溶液を70?90重量濃度まで濃縮する工程が特定されており、本件発明1で特定される「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」との条件は、引用発明で特定される範囲に形式的に含まれている。
しかしながら、本件特許の優先日当時の技術常識を示す刊行物である甲2に、ナイロン66の製造に関し、「系内での水の拡散速度が反応の律速となる」こと、及び、「この水の系外除去と生成したポリマーの取出しをいかに短時間で効率よく行うかがプロセス設計の基本となる」ことが記載されている(142頁6?8行)ように、従来から、ナイロン66の製造において、製造効率の改善は当業者に周知の課題であり、これを解決する為に、水の系外除去を最適化する試みがなされてきたところ、甲2に、「塩の析出が起こらないように,・・・約80%濃度になるまで加熱濃縮する。」(同15?16行)と記載されているとおり、従来、AH塩の濃縮工程において、製造効率を考慮しつつ塩の析出のない状態(すなわち、「均質水性溶液」の状態)とするための好適な濃縮濃度としては、より具体的には、約80重量%までとすることが一般的であったことが理解できる。
そうすると、引用発明のナイロン66の製造方法において、AH塩水溶液を70?90重量%の範囲まで濃縮することが示唆され、塩の析出のない状態で濃縮することが一般的であるとしても、本件発明1で特定される、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」との条件範囲とする点が甲3又は甲4に実質的に開示されているとまではいえない。
また、甲3又は甲4には、ナイロン66の製造方法において、濃縮の工程を、「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」となる条件で行う点の記載や示唆はないし、濃縮工程を塩の析出が起こらないように行うことが一般的であるとしても、「工程(a)の間の温度θがどの時点においてもθc+3℃以上である(ここで、θcは当該溶液の固体発現温度である)」との条件とする点の具体的な記載まではない。

ここで、申立人は、濃縮の工程を、「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」となる条件で行う点に関し、実験成績証明書(甲5)を提示して、概ね以下の主張をしている。
(1) AH塩水溶液濃度85重量%および90重量%での単独の蒸気圧についての、放圧バルブを完全に閉止しての測定結果(85重量%:実験成績証明書図1の緑線、90重量%:同図1のオレンジ線、同表2参照)から、内温160℃における蒸気圧は85重量%で0.21MPa(ゲージ圧)、90重量%で0.18MPa(ゲージ圧)であったことから、AH塩濃度が85重量%以上の組成液の蒸気圧は少なくとも0.21MPa(ゲージ圧)以下となることが理解できる。
(2) 上記(1)で得られたAH塩水溶液90重量%での蒸気圧である0.18MPa(ゲージ圧)を、制圧を行うバルブ設定圧力として、AH塩水溶液52重量%を用いて濃縮試験を実施した結果によれば、52重量%から85重量%(実測値:84.7重量%)、さらには、90重量%(実測値:90.3重量%)まで濃縮できることが確認されている(実験成績証明書図1:水色の点)。
(3) そうすると、甲5から、引用発明のAH塩水溶液(52重量%)を、0.18MPa(ゲージ圧)の加圧下で、加熱し過剰な水を除去し、90.3重量%まで濃度を増加させることができることが理解できるし、ヘキサメチレンジアミンの1気圧における沸点は204℃であるから、当該濃縮条件ではこのジアミンは揮散しないと認められる。
(4) したがって、引用発明における「ヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度の微加圧下」の条件は、本件発明1の「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」を満足している蓋然性が高い。

そこで、申立人の主張について検討すると、甲3又は甲4に、「反応混合物(合議体注;AH塩の約52重量%水性溶液である。)は、過剰な水を除去するため、微加圧下にて沸騰するまで加熱(約160℃)され、濃度を増加させる。」と記載されているとおり、引用発明においては、微加圧下、AH塩の約52重量%水性溶液を沸騰するまで(約160℃)加熱して、過剰な水を除去して濃縮するものであると認められるところ、甲5の実験結果から、内温160℃における蒸気圧が85重量%で0.21MPa(ゲージ圧)、90重量重量%で0.18MPa(ゲージ圧)であることが理解できるとしても、引用発明において、AH塩の約52重量%水性溶液を、水性溶液が沸騰する温度(160℃)で濃縮する工程における間の圧力が0.3MPa未満であることが示されているのではない。また、甲5の実験結果から、90重量%濃度のAH塩水溶液の蒸気圧である0.18MPa(ゲージ圧)をバルブ設定圧力として濃縮することで、AH塩水溶液52重量%を85重量%、さらには90重量%まで濃縮することが可能であることが理解できるとしても、引用発明における濃縮は、約160℃で加熱して行われていると認められ、一方、甲5での濃縮条件は当該条件を満足しているとは認められないから、甲5に記載の実験結果を参酌しても、引用発明における「ヘキサメチレンジアミンのような揮発性物質の損失を最小化する程度の微加圧下」の条件が、本件発明1の「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」を満足すると認めることはできない。
また、引用発明において、濃縮の工程を、「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」となる条件で行う点は、甲3?5(及び本件特許の優先日当時の技術常識を示す甲2)のいずれからも示唆されないから、この点はたとえ当業者であっても、容易に想到することができたものとはいえない。

一方、本件発明1では、濃縮工程において、「工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満」、「θc+3℃以上」の条件で、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」濃縮する特定の濃縮工程(a)を備えることによって、「ジアミンの損失、即ち蒸発工程の間に水蒸気と同時に運び去られる量は、許容範囲のままであり、工程(a)の間の反応の進行は、媒体中のオリゴマーの存在に結び付けられる固相の発現を防止するのに充分遅い」ながら、「オートクレーブのサイクル時間を短縮」することを可能となり、「プロセスの生産性の増大」につながるという効果が奏されるものであり(本件特許明細書の【0017】)、本件特許明細書の実施例においても、本件発明1で特定される「0.3MPa未満」を満足する0.24MPaの絶対圧下で、加熱されて溶液状態であるAH塩水性溶液を、「重量濃度が85%超」の条件である「86.5重量%」(例2)や「87.0重量%」(例4)まで濃縮することで、この条件を満足しない「84.7重量%」(例1)や「85重量%」(例3)まで濃縮する場合と比べて、同等の物性を有しながら(【0056】と【0061】との対比、及び、【0064】と【0068】との対比)、1サイクル当たりに製造されるポリマーを2質量%増やすことができ(【0060】)、また、オートクレーブのサイクル時間を3分短くすることができたことが示されている。(そして、この製造効率の改善は、特に、大規模なプラントレベルでの実施を考えた場合、大きな効果上の違いとなる。)

そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、当業者といえども、甲5(及び甲2に示される本件特許の優先日当時の技術常識)を参酌しても、引用発明(甲3又は甲4に記載された発明)に基いて、本件発明1を容易に発明をすることができたものとはいえない。

5.本件発明2?4及び6?13について
本件発明2?4及び6?13は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、4.で述べたとおり、本件発明1について、甲5を参酌しても、甲3又は甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明2?4及び6?13についても同様に、甲5を参酌しても、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.まとめ
以上のとおり、本件発明1?4及び6?13はいずれも、甲5を参酌しても、甲3又は甲4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1?4及び6?13に係る発明についての特許を取り消すことはできない。


第5-2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由は、第4の1.に記載した取消理由1?3、5及び6である。
事案に鑑み取消理由3から先に検討する。

1.取消理由3(甲3又は甲4に基づく新規性)について
本件発明1?4及び6?13に係る発明(「本件発明」)と、甲3又は甲4に記載された発明とは、少なくとも、第5-1の4.(1)で記載したとおりの相違点1で相違しており、この相違点は実質的な相違点であるといえるから、本件発明が甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明であるとはいえず、申立人が主張する取消理由3には理由がない。
よって、取消理由3によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。

2.取消理由1及び2(甲1を主たる引用文献とする新規性及び進歩性)について
申立人が主張する取消理由1は、本件発明(本件訂正後の請求項1?4及び6?13に係る発明)は、甲1に記載された発明であるというものであり、同取消理由2は、本件発明は、甲1に記載された発明あるいは、これと甲2に記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたというものである。

まず、新規性について検討する。

甲1の特許請求の範囲の請求項1には、次の記載がある。(下線は、当審合議体による。以下、同様である。)

「1.カプロラクタムを、ジカルボン酸とジアミンからなるポリアミドを形成する化合物と一緒に上から下に向かって直立した重合管をポリアミドを形成する温度で貫流させることにより、カプロラクタム及びジアミンとジカルボン酸の塩からコポリアミドを連続的に製造する方法において、
(a)等モル量のジアミンとジカルボン酸からなる塩の水溶液を高めた圧力下にかつ同時に水を蒸発させながら管状初期縮合帯域をプレポリマーの融点より高い温度で貫流させて蒸気相及びプレポリマーを形成させ、
(b)蒸気相をプレポリマー溶融物から分離し、
(c)蒸気相を塔内で水蒸気と水性ジアミン溶液とに分離しかつジアミンを含有する水溶液を重合管中に戻し、
(d)プレポリマー溶融物を溶融したカプロラクタムとポリアミドを形成する温度で混合しかつ
(e)プレポリマーとカプロラクタムの混合物を上から下に向かって直立した重合管をポリアミドを形成する温度で貫流させかつコポリアミドを得ることを特徴とする、カプロラクタム及びジアミンとジカルボン酸の塩からコポリアミドを連続的に製造する方法。」 (以下、「甲1発明」という。)

本件発明と、甲1発明を対比すると、両者は、甲1発明には、本件発明の工程(a)である、(化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液から、溶解種の水中の重量濃度が85%超である)「均質水性溶液が得られるまで、水を蒸発させることによって濃縮する工程」がない点で少なくとも相違している。

よって、本件発明は甲1に記載された発明ではない。

申立人は、申立書の20頁B.において、本件発明1の発明特定事項である、
「(a)化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液から、溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで、水を蒸発させることによって濃縮する工程」
との構成(申立人のいうところの「構成B」)に関し、
甲1の請求項1の工程(a)と、該工程についての、以下の、明細書3頁の記載(特に下線部)によれば、「甲第1号証には、当量のジアミンとカルボン酸からなる塩の水溶液を水を蒸発させながら管状初期縮合帯域を貫流させて濃縮し、プレポリマーを得ることが記載されている。プレポリマーは融点より高い温度であり、溶解種に相当する。このプレポリマーの含水率は『<2重量%』と記載されており、これは、重量濃度が98重量%以上に相当する。よって、本件特許発明1の構成B.は、甲第1号証に記載されている。」と主張する。

<甲1の3頁(右上欄13行?左下欄5行)の記載>
「本発明によれば、工程(a)で、当量のジアミンとカルボン酸からなる塩の水溶液を高めた圧力下にかつ同時に水を蒸発させながら管状初期縮合帯域をプレポリマーの融点より高い温度で貫流させて蒸気相及びプレポリマーを形成させる。有利には初期縮合帯域内で250?350℃、特に255?285℃の温度を維持する。一般に、初期縮合帯域内で0.5?2.5バールの圧力を維持する。有利には、初期縮合帯域内の滞留時間は40?600秒である。更に、初期縮合滞留から排出する際の反応度は>81%、特に86?96%でありかつプレポリマーの含水率は<2重量%である。」

そこで、検討すると、確かに、甲1の工程(a)では、当量のジアミンとカルボン酸からなる塩の水溶液から水を蒸発させることから、水溶液は濃縮されるが、甲1に記載の工程(a)の目的は、塩の水溶液の濃縮ではなく、あくまで重合によるプレポリマーの形成を主な目的とする工程であり、当該プレポリマーの形成工程で得られるものは、(含水率<2重量%の)「プレポリマー溶融物」であって、「プレポリマー溶融物」に、不純物としての水分は含まれているにせよ、これが、本件発明の、水性媒体中に「溶解種」が溶解されている、均質「水性溶液」に相当しないことは、「水性溶液」に「不純物としての水分を含む、樹脂溶融物」は含まれないという、本件特許の優先日当時の技術常識を考慮すれば、明らかであるといえる。
そうすると、甲1に、本件発明の工程(a)である、「均質水性溶液が得られるまで、水を蒸発させることによって濃縮する工程」が記載されているとはいえないし、当該工程を含む構成Bが記載されているともいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

次に、進歩性について検討する。
本件発明は、本件特許明細書の【0010】に、「二酸及びジアミンの2つの異なるモノマーからポリアミドを製造するための最も普及している工業的な方法は、二酸とジアミンとの塩を形成させることから成るものである:例えば二酸がアジピン酸であり且つジアミンがヘキサメチレンジアミンである場合、形成される塩はヘキサメチレンジアンモニウムアジペートであり、これは『N塩』又はナイロン塩の名称でよく知られている。・・・この『N塩』の溶液は、『N塩』を少なくとも50重量%含有し、随意に水を蒸発させることによって濃縮される。この『N塩』の溶液を、媒体を液体状態に保ちながら、高温高圧において加熱して水を蒸発させて重合反応を活性化させることによって、ポリアミドが得られる。」と記載されるとおり、二酸及びジアミンからポリアミドを製造するための最も普及している工業的な方法である「N塩」を調製するための「濃縮工程」及びそれに続く「媒体を液体状態に保ちながら、高温高圧において加熱して水を蒸発させて重合反応を活性化させる」工程(すなわち、「重合工程」)によるポリアミドの製造方法を前提として、これを改良する発明であって、重合工程でオートクレーブにおけるサイクル時間を短縮してプロセスの生産性を向上させるという課題を解決するものである(【0015】)。
そして、当該課題を解決するために、本件発明においては、「(a)化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液から、溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」、「圧力が0.3MPa未満」等の条件で、「水を蒸発させることによって濃縮する工程」(請求項1)を採用したものであって、「塩溶液を有意に濃縮することにより、オートクレーブ中の除去すべき水の量が少なくなるので、オートクレーブのサイクル時間を短縮すること」が可能になり、「プロセスの生産性の増大につながる」という効果が奏されるものである(【0017】)。

これに対し、甲1発明は、カプロラクタム及びジアミンとジカルボン酸の塩からコポリアミドを連続的に製造する方法に関し、従来の、カプロラクタム、AH塩及び水を供給し下部から生成するコポリアミドを取り出す方法では、重合管(VK管)から上に逃げる蒸気と一緒にジアミンが排出されて失われ、また、供給されたAH塩と一緒に遊離する水によってVK管管部部内の正確な温度制御が著しく劣化されるという欠点があったのを解決したものであって、「等モル量のジアミンとジカルボン酸からなる塩の水溶液を…水を蒸発させながら管状初期縮合帯域を・・・貫流させて蒸気相及びプレポリマーを形成させ」る工程、及び、それに続く「(b)蒸気相をプレポリマー溶融物から分離」する工程を必須の工程としている(甲1の請求項1)。
そして、甲1には、この、「蒸気相」と「プレポリマー」を形成させる工程を、本件発明のような、プレポリマーの製造を目的とはしない、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで・・・濃縮する工程」とすることを示唆するような記載はないし、仮に、甲1発明の工程(a)を、プレポリマーの重量濃度が85%超である「均質水性溶液」とする場合には、「蒸気相」とは異なり「水性溶液相」であることから、そのまま重合管に供給した場合には、遊離する水によってVK管頂部内の正確な温度制御が難しくなる問題が生じると解される。
そうすると、甲1発明における、「蒸気相」と「プレポリマー」を形成させる工程を、本件発明のような、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで・・・濃縮する工程」とすることにはむしろ、甲1発明の目的からすると、阻害要因があるといえる。
よって、甲1発明のポリアミド共重合体の製造方法を、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで・・・濃縮する工程」を備えたものとする動機付けが存在しない。

また、甲2には、ナイロン66の製造工程において重合時の圧力を15?20気圧(1.5?2.0MPa)とすることは記載されているが、N塩の濃縮工程を、本件発明のように、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで」行うことも、「圧力が0.3MPa未満」の条件で行うことも記載されていないし、「蒸気相」と「プレポリマー」を形成させる工程を必須とする甲1発明を甲2に記載の製造方法と組み合わせる動機付けも存在しない。

よって、本件発明は甲1に記載された発明から、あるいは、甲1に記載された発明及び甲2の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

以上のとおり、申立人の取消理由1及び2の主張には理由がなく、これらの取消理由によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。

3.取消理由5(明確性)について
申立人は、取消理由5に関し、具体的には、概略次の(i)?(ii)の主張をしている。
(i)本件発明(本件訂正後の請求項1?4及び6?13に係る発明)は、工程(a)にプレポリマーが存在するか否かが不明確であるから、本件発明は明確ではない。
本件特許明細書の【0024】及び【0025】の記載や、特許権者の平成28年10月25日付け上申書における、「付随的に多少の重合が起こることを完全に排除することはしていない」との主張によれば、工程(a)においては、プレポリマーが含まれることになるが、その場合工程(a)が、どの程度の重合反応までを包含するのか把握できないから、本件発明は明確でない。
(ii)特許権者の説明によれば、工程(a)から得られる混合物には、水、二酸、ジアミン、二酸とジアミンの塩、固化/結晶化が抑制されたプレポリマー、および固体(プレポリマー)が含まれると考えられるが、本件特許明細書の【0019】からは、溶解種は、二酸、ジアミン、二酸とジアミンの塩からなると解される。そうすると、工程(a)で得られる、「溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液」が、どのような組成を有するのか、「均質水性溶液」の定義が不明であるし、それが技術常識であるともいえない。よって、本件発明は不明確である。

そこで検討すると、(i)の主張に関しては、本件特許の請求項1には、「工程(a)の間の温度θがどの時点においてもθ_(c)+3℃以上であり(ここで、θ_(c)は当該溶液の固体発現温度である)」と特定され、本件特許明細書の【0024】に、「工程(a)において、重合させていない塩溶液又は一部重合させた塩溶液を、どの時点でも媒体を液体状態に保って固相の発現を防止するのに充分な温度θに保つ。」と、また、【0025】に、「実際、多少なりとも重合したモノマー溶液の固化又は結晶化を防止するためには、どの時点でもその固体発現温度より高い温度に保つのが有利である。」と記載され、また、特許権者が審査段階で提出した平成28年10月25日付け上申書における、「付随的に多少の重合が起こることを完全に排除することはしていない」(7頁下から5?4行)と主張していることからすれば、工程(a)において、「均質水性溶液」中に、濃縮固化/結晶化が抑制されたプレポリマーが含まれてもよいこと、及び、固体状のプレポリマーは含まれないことは、当業者に明らかである。
そして、濃縮固化/結晶化が抑制されたプレポリマーとしては、均質水性溶液の性状が維持される範囲の任意の重合度のプレポリマーが包含されていてよいと解される。
したがって、本件発明は明確であり、申立人の(i)の主張は理由がない。

また、(ii)の主張に関しては、「均質水性溶液」に含まれる「溶解種」に関し、本件特許明細書の【0019】には、「『溶解種』という表現は、媒体中に遊離の形若しくはイオン化した(塩の)形又はその他の形で存在するすべての二酸及びジアミン種(適宜にアミノ酸モノマー又はラクタムモノマーが加えられたもの)を意味するものと理解されたい。」と記載されており、本件発明の、「溶解種」には、二酸及びジアミン種であって、「その他の形で存在するもの」に相当するものが含まれるところ、これには、「水性溶液に」「溶解」した性状の「プレポリマー」が包含されると認められる。また(i)で記載したとおり、「均質水性溶液」に、固体状のプレポリマーが含まれないことは明らかである。
そうすると、「均質水性溶液」を当業者は明確に理解でき、本件発明は明確であって、申立人の(ii)の主張も理由がない。

以上のとおりであるから、取消理由5によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。

4.取消理由6(実施可能要件)について
申立人が主張する取消理由6は、具体的には、概略次のとおりである。
本件発明(本件訂正後の請求項1?4及び6?13に係る発明)に関し、工程(a)の水溶液中には、固化/結晶化が抑制されたプレポリマーが存在する可能性があるが、固化/結晶化が抑制されたプレポリマーは、二酸、ジアミン及び二酸とジアミンの塩ではないので、本件発明の「溶解種」には含まれない。一方、本件特許明細書には工程(a)に存在するものの中から、「溶解種」のみを取り出して、その水中の重量濃度が85%超であることを確認する方法が記載されていないし、水溶液中の「溶解種」のみの重量濃度は、本件特許の出願時の技術常識でもない。そうすると、本件特許明細書の記載から、「溶解種」のみの水中の重量濃度が85%超であることを確認することは、当業者であっても困難である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

そこで検討すると、申立人の主張は、本件発明における「溶解種」に、固化/結晶化が抑制されたプレポリマーが含まれないことを前提としている。
しかしながら、3.で記載したとおり、本件発明の「溶解種」に、固化/結晶化が抑制されたプレポリマーが含まれることは明らかであり、申立人の主張はその前提において間違っている。
そして、本件発明においては、「均質水性溶液」から水を除去することで、「均質水性溶液」に含まれている「溶解種」の重量を測定することができ、「均質水性溶液」の重量中での割合を計算することで、当業者は容易に溶解種の水中の重量濃度を決定できる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、申立人の取消理由6の主張には理由がない。
よって、取消理由6によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1?4及び6?13に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?4及び6?13に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件特許の請求項5が削除された結果、同請求項5に係る発明についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項5に係る発明についての本件特許異議の申立ては、決定をもって却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の二酸及び少なくとも1種のジアミンからポリアミドを製造するための方法であって、次の工程:
(a)化学量論的量の少なくとも1種の二酸と少なくとも1種のジアミンとを混合することによって得られる二酸とジアミンとの塩の水性溶液から、溶解種の水中の重量濃度が85%超である均質水性溶液が得られるまで、水を蒸発させることによって濃縮する工程;及び
(b)水を除去しながら、所望の重合度まで重合させる工程:
を含み、
工程(a)の間の温度θがどの時点においてもθ_(c)+3℃以上であり(ここで、θ_(c)は当該溶液の固体発現温度である)、
前記工程(a)の間の圧力が0.3MPa未満であり、
前記ジアミンモノマーがヘキサメチレンジアミンを少なくとも80モル%含み、
前記工程(a)がエバポレーター中で実施され、
前記工程(b)が少なくとも1つの重合器中で実施され、
前記工程(a)から得られる混合物がエバポレーターから重合器に移され、
前記工程(b)が少なくとも1回の加圧下での重合工程(b1)を含み、
工程(b1)の際の圧力が1.5?2.5MPaの範囲である、前記製造方法。
【請求項2】
前記の溶解種の水中の重量濃度が86%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の溶解種の水中の重量濃度が87%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の溶解種の水中の重量濃度が88%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
工程(a)の前の二酸とジアミンとの塩の水性溶液の塩重量濃度が50?70%の範囲であることを特徴とする、請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の終わりに得られる混合物を少なくとも1つの重合反応器中に移すことを特徴とする、請求項1?4及び6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
大気圧又は減圧下でポリマーの温度を保つ工程(b3)を含むことを特徴とする、請求項1?4、6及び7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
バッチ式方法であることを特徴とする、請求項1?4及び6?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
二酸モノマーがアジピン酸、グルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、ピメリン酸、ナフタレンジカルボン酸及び5-スルホイソフタル酸から選択されることを特徴とする、請求項1?4及び6?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ジアミンモノマーがヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシレンジアミン及びイソホロンジアミンを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1?4及び6?10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
二酸モノマーがアジピン酸を少なくとも80モル%含むことを特徴とする、請求項1?4及び6?11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1?4及び6?12のいずれかに記載の方法によって得られたポリアミドを粒体の形に造形することを特徴とする、ポリアミドの粒体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-10 
出願番号 特願2012-500182(P2012-500182)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 淳柳本 航佑岩田 行剛武貞 亜弓  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 堀 洋樹
渕野 留香
登録日 2017-01-06 
登録番号 特許第6068978号(P6068978)
権利者 ロディア オペレーションズ
発明の名称 ポリアミド製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 清流国際特許業務法人  

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