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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1341082
異議申立番号 異議2016-700993  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-10-18 
確定日 2018-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5905211号発明「熱可塑性樹脂組成物および成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5905211号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第5905211号の請求項1ないし4、6及び7に係る特許を取り消す。 特許第5905211号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5905211号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4、6及び7に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成23年6月9日を出願日とする特許出願であって、平成28年3月25日にその特許権の設定登録がされ、同年その後、その特許に対し、同年10月18日に特許異議申立人 クラリアント・プラスチックス・アンド・コーティングス・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の手続の経緯は以下のとおりであり、平成29年9月27日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかったものである。

平成28年12月16日付け:取消理由通知書(同年12月20日発送)
平成29年 2月 3日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
平成29年 3月31日 :意見書(申立人)
平成29年 4月17日付け:取消理由通知書(同年4月21日発送)
平成29年 6月16日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
平成29年 8月15日 :意見書(申立人)
平成29年 9月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
(同年10月2日発送)

なお、平成29年2月3日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年6月16日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の訂正の内容は以下の(1)ないし(4)のとおりである(なお、合議体により、訂正部分に下線を付した。)。

(1)訂正事項1
請求項1の「ポリアミド樹脂」を、
「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有するポリアミド樹脂」
に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項5の削除する。

(3)訂正事項3
請求項6の引用において、「請求項1乃至5」を「請求項1乃至4」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項7の引用において、「請求項1乃至6」を「請求項1乃至4及び6」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「ポリアミド樹脂」を、「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有するポリアミド樹脂」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」については、願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)の請求項5、段落【0017】に記載され、また、当該キシリレンジアミン系ポリアミドの「相対粘度が1.8?2.8」については、当初明細書の段落【0020】に記載されている。
また、「ポリアミド66」については、当初明細書の段落【0016】にポリアミド樹脂として例示されており、「キシリレンジアミン系ポリアミド」と「ポリアミド66」の併用については、実施例に記載があるので、訂正事項1は新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものでないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正事項1に関連して、訂正前の請求項5を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正前の請求項5の削除するものであるから、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項にも適合する。

(3)訂正事項3、4
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3、4は、訂正前の請求項5の削除に伴って、これを引用する請求項6、7において、請求項5の引用を除く記載とするものであり、明りょうでない記載の釈明に該当し、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3,4は、訂正前の請求項5の削除に伴い、引用する請求項6、7から請求項5を除く記載に改めるものであるから、新規事項の追加には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合し、また、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項にも適合する。

(4)一群の請求項について
訂正事項による本件訂正は、訂正前の請求項1,5ないし7を訂正するものであるところ、訂正前の請求項1ないし7は、請求項1の記載を請求項2ないし7で直接又間接的に引用しており、訂正事項1により連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし7は一群の請求項である。

(5)まとめ
以上総括すると、訂正事項1ないし4による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。


第3 本件発明について
上記第2のとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし4、6及び7に係る発明(以下、順に、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」、「本件特許発明6」及び「本件特許発明7」という。)は、平成29年6月16日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4、6及び7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有するポリアミド樹脂100質量部に対し、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の金属塩混合物を0.05?5質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記混合物は、各成分の合計100質量%基準で、リグノセリン酸金属塩を5?25質量%、セロチン酸金属塩を15?35質量%、モンタン酸金属塩を20?40質量%、及びメリシン酸金属塩を20?40質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属塩が、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が、ナトリウム塩またはカルシウム塩であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
さらに、ガラス繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至4及び6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。」


第4 当審が通知した取消理由(決定の予告)の概要
当審が平成29年9月27日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、同年4月17日付けの取消理由の理由2(特許法第29条第2項)について、依然として理由があるとしたものであって、この概要は次に示すとおりである。

「本件特許発明1ないし4、6及び7は、依然として甲第1号証及び甲第2号証のいずれかに記載された発明、甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第12号証に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1ないし4,6及び7に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、いずれも取り消すべきものである。」


第5 当審の判断
本件は、当審が通知した上記取消理由(決定の予告)に対し、特許権者は応答期間内に何ら応答をしなかったものであるから、当審は、上記取消理由は妥当なものであって、依然として理由があり、本件特許発明1ないし4、6及び7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、いずれも取り消すべきものであると判断する。
以下、詳述する。

1 取消理由通知(予告)における理由(特許法第29条第2号)について
(1)申立人提示の甲号証
甲第1号証:特表2005-506428号公報
甲第2号証:特表2005-506425号公報
甲第3号証:特開2009-149896号公報
甲第4号証:特表2013-538926号公報
甲第5号証及びその抄訳文:Fette, Seifen, Anstrichmittel 67, 1965, 334-340
甲第6号証及びその抄訳文:Fette, Seifen, Anstrichmittel 81, 1979, 158-163
甲第7号証及びその抄訳文:Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Fifth, Completely Revised Edition, Volume A28, 1996, 122-126
甲第8号証及びその翻訳文:Licomont CaV 102 Powderの製品データシート(2011年1月17日版)
甲第9号証及びその翻訳文:Licomont LiV 103の製品データシート(1999年6月1日版)
甲第10号証及びその翻訳文:Licomont NaV 101 Powderの製品データシート(2001年7月10日版)
甲第11号証及びその抄訳文:Licomont CaV 102 FGの分析データ
甲第12号証及びその翻訳文:Licomont CaV 102のガスクロマトグラフィーの分析データ
甲第13号証:Licowax Sのガスクロマトグラフィーの分析データ
甲第14号証及びその抄訳文:独国特許出願公開第102010048025号明細書
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲14」と略していう。) 」

(2)甲1、甲2、甲7、甲9、甲10及び甲12の記載等
ア 甲1の記載等
(ア)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。

(甲1-1)
「【請求項1】
ワックス(成分A)及びポリマー添加剤(成分B)を含む混合物。
【請求項2】
成分Aが、カルボン酸のエステルワックス及び/または塩であることを特徴とする、請求項1の混合物。
・・・
【請求項5】
成分Aが、モンタンワックス酸とカルシウム塩との反応生成物であることを特徴とする、請求項1または2の混合物。
【請求項6】
反応生成物が、1,3-ブタンジオール-モノ-モンタンワックス酸エステル、1,3-ブタンジオール-ジ-モンタンワックス酸エステル、モンタンワックス酸、1,3-ブタンジオール、モンタン酸カルシウム及び使用したカルシウム塩を含む混合物であることを特徴とする、請求項5の混合物。
・・・
【請求項10】
成分Aを10?90重量%及び成分Bを90?10重量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1?9の一つまたはそれ以上の混合物。
【請求項11】
成分Aを30?70重量%及び成分Bを70?30重量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1?10の一つまたはそれ以上の混合物。
【請求項12】
成分Aを45?55重量%及び成分Bを45?55重量%の割合で含むことを特徴とする、請求項1?11の一つまたはそれ以上の混合物。
・・・
【請求項15】
潤滑剤、離型剤及び/または分散剤として請求項1?14の一つまたはそれ以上の混合物を使用する方法。
【請求項16】
重縮合物の成形材料に使用する、請求項15の混合物を使用する方法。
【請求項17】
重縮合物がポリアミドであることを特徴とする、請求項15または16の方法。
【請求項18】
ポリアミドが、アミノ酸タイプ及び/またはジアミン-ジカルボン酸タイプのものであることを特徴とする、請求項15?17の一つまたはそれ以上の方法。
【請求項19】
ポリアミドが、ポリアミド6及び/またはポリアミド66であることを特徴とする、請求項15?18の一つまたはそれ以上の方法。
【請求項20】
ポリアミドが、未変性、着色、充填材添加、充填材未添加、強化、未強化または変性されていることを特徴とする、請求項15?19の一つまたはそれ以上の方法。
・・・
【請求項23】
成分A及びBの合計量が、重縮合物中0.01?10.00重量%であることを特徴とする、請求項15?22の一つまたはそれ以上の方法。
【請求項24】
成分A及びBの合計量が、重縮合物中0.1?2.00重量%であることを特徴とする、請求項15?23の一つまたはそれ以上の方法。」

(甲1-2)
「【0003】
これらの理由により、一部のプラスチックには、架橋反応もしくは分解反応などの変質プロセスを防止するかまたは少なくとも抑制する安定化剤が加えられる。更に、溶融物の流動性を向上させる目的で潤滑剤、特にモンタンワックスが少なからぬ量で殆どのプラスチックに混合されている。この流動性の向上は、潤滑剤が内部及び外部摩擦を低減し、それによって材料の機械化学的な劣化を減少させることによって達成される。」

(甲1-3)
「【0006】
従来技術では、様々なワックスが離型剤としてプラスチック、特にポリアミド中に使用されている。しかし、ポリアミドの高い加工温度及び使用温度並びに高い反応性の故に、可能な添加剤の選択はかなり制限される。最も頻繁に使用される材料群には、各々、要求プロフィルに応じて様々な材料として使用される金属ステアレート、アミドワックス及びモンタンワックスエステルなどがある。これらの三種の材料群の全てが離型剤として働く。
【0007】
上記の金属ステアレートは、同時に、溶融物の流動性を高める。しかし、これは、特にポリアミドの吸湿性を原因として、ポリマーの分子量の少なからぬ減少によって達成されるものである。これに対して、モンタンワックスエステル及びそれの塩は、ポリマーの分子量を減少させることなく、それの内部潤滑作用のみによってポリアミドプラスチックの流動性を向上させる。
【0008】
高い加工温度及び着色剤に対する溶融物の化学的攻撃性によって、特殊なポリアミドの着色には特に高い要求が課される。」

(甲1-4)
「【0015】
これまで公知の従来技術では、上記の様々な(助)剤の作用は、一連の性質、例えば内部もしくは外部潤滑作用、並びに顔料及び充填材の分散、及びプラスチックの光沢に関してはなお満足のいくものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それゆえ、本発明の課題は、総合的に向上された効果をプラスチック、特にポリアミドに及ぼす(助)剤を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題は、ワックス(成分A)及びポリマー添加剤(成分B)とを含む混合物によって解決される。
【0018】
驚くべきことに、モンタンワックスとポリマー添加剤との組み合わせが、その相乗的効果によって、それらを個々に使用した場合及び他の一連のワックスと比較して、内部もしくは外部潤滑、並びに顔料及び充填材の分散、及び光沢に関して最良の結果を特にポリアミドに与えることが見出された。」

(甲1-5)
「【0042】
適当な潤滑剤は、モンタンワックスの群から誘導される。モンタンワックスは、化学的に酸-及びエステルワックスに属する。極一般的に、これらは、長鎖線状飽和カルボン酸、このカルボン酸と様々なアルコールとの種々のエステル及びこのカルボン酸の塩を含む混合物として記載することができる。極一般的に、これらの材料は、更に、長鎖カルボン酸と長鎖単官能性アルコールとのエステルである、所謂、天然モンタンワックスを含む。モンタンワックス中に含まれるカルボン酸は、炭素原子数24?36の鎖長を有する。
・・・
【0044】
上記の適当なモンタンワックスは、モンタンワックス酸とエチレングリコールとの反応生成物、あるいは天然モンタンワックスエステル及びモンタンワックス酸を含む混合物とエチレングリコールとの反応生成物である。この反応生成物は、モノ-及びジエステルと使用原料を含む混合物である(例えば、クラリアントGmbH製の(R) Licowax(リコワックス)E)。モンタンワックス酸のカルシウム塩も特に好適である。この材料は、モンタンワックス酸とカルシウム塩との反応生成物、あるいは天然モンタンワックスエステル及びモンタンワックス酸を含む混合物とカルシウム塩との反応生成物である。この反応生成物は、モンタン酸カルシウムと使用原料を含む混合物である(例えば、クラリアントGmbH製の(R) Licomont(リコモント)CaV 102)。
・・・
【0046】
それゆえ、ワックス(成分A)及びポリマー添加剤(成分B)からなる本発明の混合物の内部及び外部潤滑作用は、商業的なワックスと同じ総濃度で使用した場合と比較して明らかに高い。これらの両成分の併用、すなわち上記混合物の使用によって、個々の物質を使用した場合と比較してコンパウンドの流動性は明らかに向上する。また同時に、上記の組み合わせは、非常に強い離型作用も特徴とする。高温の機械部材に対するポリアミド成形材料の粘着傾向も明らかに低減する。
【0047】
更に、ワックス(成分A)及びポリマー添加剤(成分B)からなる本発明の混合物を使用することによって、ポリアミド成形品の外見上の特性(表面光沢)も明らかに向上される。」

(甲1-6)
「【0053】
最良のコスト-性能比の潤滑剤濃度は、ポリアミドにおいては通常は、約0.3phr(樹脂100部当たりの部)である。使用される潤滑剤及び添加剤は、ポリマーペレット中に混入し、そして二軸スクリュー押出機を用いて配合し、次いで予備乾燥した後に射出成形によって加工した。」

(甲1-7)
「【0055】
例1
ポリアミド6、未強化品
【0056】
【表1】

【0057】
ポリアミド6、ガラス繊維強化品
【0058】
【表2】



(イ)甲1に記載された発明
摘記事項(甲1-7)の段落【0056】の【表1】では、ポリアミド6に「モンタン酸カルシウム」を添加することが記載されているが、この「モンタン酸カルシウム」に係る記載として、「モンタンワックス酸とカルシウム塩との反応生成物」であること(請求項5)、「モンタンワックス中に含まれるカルボン酸は、炭素原子数24?36の鎖長を有する」こと(摘記事項(甲1-5)の段落【0042】)、「この反応生成物は、モンタン酸カルシウムと使用原料を含む混合物である(例えば、クラリアントGmbH製の(R) Licomont(リコモント)CaV 102)」であることに鑑みると(摘記事項(甲1-5)の段落【0044】)、当該「モンタン酸カルシウム」は、炭素数28の直鎖状飽和カルボン酸カルシウム塩ではなく、モンタンワックス酸とカルシウム塩との反応生成物を意味し、具体的にはLicomont(リコモント)CaV 102が利用されているものと認められる。
摘記事項(甲1-7)の段落【0056】に記載の「phr」は、樹脂100部当たりの部を意味し(摘記事項(甲1-6))、請求項10では「重量%」が記載されているように引用文献1では含有量は重量に基づくと考えられることから、段落【0056】のモンタン酸カルシウムの含有量として記載されている「0.15phr」は、樹脂であるポリアミド6 100重量部に対して0.15重量部含有することと同義であると認められる。
したがって、甲1には、上記記載を整理すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリアミド6 100重量部当たり、Licomont(リコモント)CaV 102を0.15重量部含有する混合物。」

イ 甲2の記載等
(ア)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。

(甲2-1)
「【請求項1】
重縮合体を製造する方法において、重縮合体の製造の際に潤滑剤および離型剤としておよび分散剤としてワックスおよびポリマー添加物を使用することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
ワックスがエステルワックスおよび/またはカルボン酸の塩である、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項5】
ワックスがモンタンワックス酸とカルシウム塩との反応生成物である、請求項1または2に記載の方法。
・・・
【請求項9】
ワックスとポリマー添加物が1:9?9:1の重量比で使用される、請求項1?8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
重量比が3:7?7:3である、請求項1?9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
重量比が4.5:5.5?5.5:4.5である、請求項1?10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
重縮合体がポリアミドである、請求項1?11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
ポリアミドがアミノ酸タイプおよび/またはジアミン-ジカルボン酸-タイプのものである請求項1?12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ポリアミドがポリアミド6および/またはポリアミド66である、請求項1?13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
ポリアミドが未変性であるか、着色されているか、充填剤が添加されているかまたは添加されていないか、強化されているかまたは強化されていないかあるいは他の変性がされている、請求項1?14のいずれか一つに記載の方法。
・・・
【請求項20】
ワックスおよびポリマー添加物をポリアミドを基準として0.01?10.00重量%の量で使用する、請求項1?19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
ワックスおよびポリマー添加物を0.1?2.00重量%の量で使用する、請求項1?20のいずれか一つに記載の方法。」

(甲2-2)
「【0011】
それ故に本発明の課題は、合成樹脂、特に重縮合体の製造方法において合成樹脂、特にポリアミドの場合に総合的に改善された効果を示す(助)剤を提供することである。
・・・
【0013】
驚くべきことに本発明者は、重縮合体を製造する方法においてワックスおよびポリマー添加物が、特にポリアミド中で内部、外部潤滑効果ならびに顔料および充填剤の分散および光沢に関して個々の物質並びに他の多くのワックスを使用するのに比較してより良好な結果を相乗作用によってもたらすことを見出した。」

(甲2-3)
「【0035】
本発明の方法にとって適する潤滑剤は、炭素原子数24?36の長鎖の直鎖状飽和カルボン酸、カルボン酸と種々のアルコールとの種々のエステルおよびカルボン酸の塩よりなる混合物として記載されているモンタンワックスである。これらは天然のモンタンワックス、即ち長鎖のカルボン酸と長鎖の単官能性アルコールとのエステルをしばしば含有している。
・・・
【0037】
本発明の方法ために特に有利に使用することができるモンタンワックスはモンタンワックス酸あるいは天然のモンタンワックスエステルとモンタンワックス酸との混合物とエチレングリコールとの反応生成物、即ちモノ-およびジエステルの混合物と出発物質との混合物(例えば(R) Licowax E, Clariant GmbH) が適している。特に適するのはモンタンワックス酸のカルシウム塩でもある。この生成物はモンタンワックス酸あるいは天然のモンタンワックスエステルとモンタンワックス酸とカルシウム塩との混合物、即ちモンタン酸カルシウム塩と出発物質との混合物( 例えば(R) Licomont CaV 102、 Clariant GmbH)である。
本発明の方法に特に有利に使用できるポリマー添加物は、芳香族ジ-またはトリカルボキシルエステルあるいは-アミドのタイプの化合物である。特に、N,N’-ビスピペリジル-1,3-ベンゼンジカルボキシアミド、例えばN,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,3-ベンゼンジカルボキシアミド(Nylostab (R) S-EED 、 Clariant GmbH)) タイプの置換された物質が適している。
【0038】
重縮合体( ポリアミド) の本発明に従う製造方法の場合にワックスおよびポリマー添加物を使用する場合には、内部および外部潤滑効果が高められそして流動性が改善される。同様、非常に強い離型効果が実現されそしてポリアミド成形体の熱い機械部品への接着傾向が著しく低減される。
【0039】
更にワックスおよびポリマー添加物の使用によってポリアミド成形部品の最適な性質( 表面光沢) が本発明に従って明らかに向上される。」

(甲2-4)
「【実施例1】
【0045】


工業用合成樹脂、例えばポリアミドにおける潤滑剤の流動性改善(内部潤滑効果)はいわゆる“スパイラルテスト(Spiraltest)”によって流動長さを測定することによって量を決める。この目的のために射出成形法での傾斜スパイラルを製造しそして長さを測定する。流動路(即ちスパイラル)が長ければ長い程、内部潤滑効果、即ちポリマーの流動性がますます良好である。
【0046】
実施例1と同様に実施しそして実施例1の特別なポリアミドを使用する。
【実施例2】
【0047】
ポリアミドの流動性改善(内部潤滑効果):
0.15phrのNylostab S-EED+0.15phrのモンタン酸カルシウム 42.0cm
比較:
0.3phrのNylostab S-EED* 40.5cm
0.3phrのモンタン酸カルシウム 41.0cm
この流動性改善は従来技術から公知の潤滑剤では達成できなかった。
【0048】
光沢の測定は、特別な入射角(反射角)のもとで反射光を測定する反射率測定器で測定することによって行った。DIN 67530に従って、60°の反射角のもとで70単位以上の値を示す表面は20°の反射角のもとで測定すべきである。以下の値は20°の反射角で測定した場合に得られる。光沢測定のための射出成形板の製造は比較できる様に一定の条件のもとで行った。 」

(イ)甲2に記載された発明
上記記載を整理すると、甲1と同様に、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「ポリアミド6 100重量部当たり、Licomont(リコモント)CaV 102を0.15重量部含有する混合物。」

ウ 甲7の記載
甲7は、以下の事項が記載されている。なお、甲7は英語文献であるので、翻訳文で記載する。

(甲7-1)
「3.3 特徴及び組成
・・・
粗モンタンワックスは、ワックス酸、ワックスエステル、樹脂、アスファルテン、及び暗色の残滓の混合物からなる。・・・(略)・・・

典型的な粗モンタンサンワックスの含有物(約)
ワックス酸 35%
ワックスアルコール 20%
ヒドロキシカルボン酸 10%
ジカルボン酸 3%
ワックスケトン 1%
樹脂酸 15%
ステロール 10%
暗色残滓 4%

・・・(略)・・・
ワックス成分. 粗モンタンサンワックスは、70?75%のワックス状成分を含有し、該成分からは以下の成分が遊離された:
直鎖状のカルボン酸 C16-C34
直鎖状のアルコール C16-C34
直鎖状のω-ヒドロキシカルボン酸 C16-C32
直鎖状の2-ヒドロキシカルボン酸 C16-C32
直鎖状のω-ジヒドロキシカルボン酸 C22-C32
直鎖状の脂肪族炭化水素 C25-C33

これらの化合物が同族列を形成し、その際、鎖長はC28-C30の範囲を占める。GC分析によって判明した直鎖状のカルボン鎖及びアルコールの鎖長の分布を図2に示す。


」(第123頁左欄第29行ないし右欄下から11行、第124頁図2(抄訳文第1頁第4行ないし第2頁第8行、第3頁図2))

(甲7-2)
「3.4.3. 誘導体化
二価アルコール又はCa(OH)_(2)によって得られるワックス酸を処理することによる元来のワックス構造の再構築が試みられている。遊離酸及び石けんの割合、及びエステル化の程度を変えることによって、形成された生成物が、特定の用途[3.1]、[3.8]、[3.9]、[3.13]に最適化されるように反応を行うことができる。
・・・(略)・・・
CH_(3)-(CH2)_(n)-COOH + Ca(OH)_(2) →
(CH_(3)-(CH2)_(n)-COO)_(2)-Ca^(2+)
」(第125頁右欄第第26行ないし第126頁左欄第8行(抄訳文第5頁下から第5行ないし第6頁第5行))

エ 甲9の記載
甲9には、Licomont LiV103、モンタン酸リチウム混合物の製品データシートであり、次の事項が記載されている。なお、甲9は独語で記載されているので、翻訳文で示す。

(甲9-1)
「製品データシート
----------------------------------------------------------------
Licomont(R) LiV 103 Powder
モンタン酸のリチウム塩
・・・
製品の形態 主な用途
粉末 部分的結晶化プラスチックのための晶核剤
ポリマー溶融物の流動性向上、離型時の離型剤 」

オ 甲10の記載
甲10には、Licomont NaV 101 Powder、モンタン酸ナトリウム混合物の製品データシートであり、次の事項が記載されている。なお、甲10は英語で記載されているので、翻訳文で示す。

(甲10-1)
「製品データシート
----------------------------------------------------------------
Licomont(R) NaV 101 Powder
長鎖カルボン酸のナトリウム塩
・・・
製品の形態 主な用途
粉末 部分的結晶化プラスチック(例えば、ポリエステル、
ポリアミド)のための晶核剤。メルトフロー及び
離型挙動の向上 」

カ 甲12の記載
甲12には、Liccomont CaV102のガスクロマトグラフィーの分析データが掲載され、以下の事項が記載されている。なお、甲12は英語で記載されているので、翻訳文で示す。

(甲12-1)
「ピーク RT BL 表面積 係数 重量% 成分
# [分]
----------------------------------------------------------------
・・・(略)・・・
102 39.31 VV 57860 0.9241 4.6955 C24-酸
・・・(略)・・・
114 ・・・(略)・・・ C24-オキソ酸
115 41.84 VE 97784 0.9241 7.9354 C26-酸
・・・(略)・・・
126 ・・・(略)・・・ C24-ヒドロキシ酸
・・・(略)・・・
128 ・・・(略)・・・ C26-オキソ酸/1
129 ・・・(略)・・・ C26-オキソ酸/2
130 44.22 VE 122325 0.9241 9.9270 C28-酸
・・・(略)・・・
132 ・・・(略)・・・ C24-二酸
・・・(略)・・・
141 ・・・(略)・・・ C26-ヒドロキシ酸
・・・(略)・・・
143 ・・・(略)・・・ C28-オキソ酸/1
144 ・・・(略)・・・ C28-オキソ酸/2
145 46.44 VV 123057 0.9241 9.9865 C30-酸
146 ・・・(略)・・・ C26-二酸
・・・(略)・・・
154 ・・・(略)・・・ C28-ヒドロキシ酸
・・・(略)・・・
156 ・・・(略)・・・ C30-オキソ酸/1
157 ・・・(略)・・・ C30-オキソ酸/2
・・・(略)・・・
159 ・・・(略)・・・ C28-二酸
・・・(略)・・・
167 ・・・(略)・・・ C30-ヒドロキシ酸
・・・(略)・・・
172 ・・・(略)・・・ C30-二酸
」(翻訳文の第2頁ないし第6頁)

(3)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
甲1発明及び甲2発明における「ポリアミド6」は、本件特許発明1における「ポリアミド樹脂」に相当し、甲1発明及び甲2発明における「混合物」は、熱可塑性樹脂であるポリアミドを含んだ組成物であることから、本件特許発明1における「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明は、
「ポリアミド樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、「リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の金属塩混合物を0.05?5質量部含有」含有するのに対して、甲1発明及び甲2発明は、ポリアミド6 100重量部当り、「Licomont(リコモント)CaV 102を0.15重量部含有」する点。

<相違点2>
本件特許発明1は、ポリアミド樹脂が「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有」するものであるのに対して、甲1発明及び甲2発明は、ポリアミド樹脂がポリアミド6である点。

(イ)判断
a 相違点1について
「Licomont(リコモント)CaV 102」の組成について、甲12の翻訳文にはガスクロマトグラフィーの分析データが掲載され、Peak#102では成分「C24-酸」が「4.6955」重量%、Peak#115では成分「C26-酸」が「7.9354」重量%、Peak#130では成分「C28-酸」が「9.9270」重量%、及びPeak#145では成分「C30-酸」が「9.9865」重量%であることが示されている。
ここで、上記分析データでは「オキソ酸」、「二酸」、「ヒドロキシ酸」の各酸成分とは区別して「C24-酸」、「C26-酸」、「C28-酸」及び「C30-酸」を同定しており、モンタンワックスには「長鎖線状飽和カルボン酸」を含むことや(甲1の段落【0042】、甲2の段落【0035】)、ワックス酸をCa(OH)_(2)で処理することで「(CH_(3)-(CH2)_(n)-COO)_(2)-Ca^(2+)」、つまり長鎖線状飽和カルボン酸のカルシウム塩が得られることが知られていることを参酌すると(摘記事項(甲7-2))、上記「C24-酸」、「C26-酸」、「C28-酸」及び「C30-酸」は、「長鎖線状飽和カルボン酸」であると認められる。そして、「Licomont(リコモント)CaV 102」がモンタンワックス酸のカルシウム塩であることから、「C24-酸」が「4.6955」との分析データから、炭素数24の線状飽和カルボン酸カルシウム塩、つまりリグノセリン酸カルシウムを4.6955%含有することが読み取れ、以下同様に各々、炭素数26の線状飽和カルボン酸カルシウム塩であるセロチン酸カルシウムを7.9354%、炭素数28の線状飽和カルボン酸塩であるモンタン酸カルシウムを9.9270%、炭素数30の線状飽和カルボン酸カルシウム塩であるメリシン酸カルシウムを9.9865%含有し、合計32.5444%含有することが読み取れる。
したがって、甲1発明及び甲2発明では、「Licomont(リコモント)CaV 102」中に含まれるリグノセリン酸、セロチン酸を、モンタン酸、及びメリシン酸のカルシウム塩を、ポリアミド6 100重量部当たり、約0.049質量部(=0.15重量部×32.5444%÷100)で含有するものと考えられ、上記約0.049質量部は略0.05質量部であることを踏まえると、甲1発明及び甲2発明は、本件特許発明1の「ポリアミド樹脂100質量部に対し、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の金属塩混合物を0.05?5質量部含有」を満たすものと認められる。
また、仮に、本件特許発明1と甲1発明および甲2発明とが、金属混合物の配合量において異なるとしても、甲1、甲2には、金属配合物に相当する「Licomont(リコモント)CaV 102」などのワックスと、ポリマー添加剤の配合割合および重縮合物に対する配合量が記載されており(摘記事項(甲1-1)の請求項10?12、23?24、(甲2-1)の請求項9?11、20?21)、これらの数値範囲によれば、本件特許発明1と金属混合物の量は重複するから、甲1発明及び甲2発明において、「ポリアミド樹脂100質量部に対し、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の金属塩混合物を0.05?5質量部」程度で含有することは、甲1又は甲2の記載からみて、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、相違点1は実質的な相違点とは認められないか、あるいは仮に相違点であるとしても、甲1又は甲2の記載からみて、当業者が容易になし得たことである。

b 相違点2について
甲1発明及び甲2では、ポリアミド樹脂として、キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いること、その相対粘度が1.8?2.8であること、ポリアミド66と併用することは記載されていない。
しかし、成形体に利用されるポリアミド樹脂組成物において、ポリアミド6以外に、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂やポリアミド66を利用すること及びそれを併用することは、周知慣用技術であって、またその流動性や外観を考慮して上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の相対粘度を1.8?2.8とすることも汎用である(例えば、申立人が平成29年3月31日付け意見書により提出した参考資料1ないし6を参照。(参考資料1(国際公開第2007/139200号):段落[0022]、段落[0032]、段落[0042]、段落[0043]、段落[0049]ないし段落[0051]、実施例1、17及び18、参考資料2(特開平3-52953号公報):請求項1、参考資料3(特開2001-40208号公報):請求項1、段落【0008】、参考資料4(特開2001-106902号公報):請求項1、段落【0011】、参考資料5(特開2001-106903号公報):請求項1、段落【0007】、参考資料6(特開2001-106907号公報):請求項1、段落【0007】)。
したがって、甲1発明及び甲2発明において、ポリアミド樹脂として、ポリアミド6の代わりに、キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有するものを用いることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

本件特許発明1による効果について検討する。
甲1及び甲2は「外部潤滑」、「光沢」に関して最良の結果を特にポリアミドに与えることが記載され(摘記事項(甲1-4)の段落【0018】、(甲2-2)の段落【0013】)、外部潤滑は離型性のことを意味し、光沢は可塑剤に起因したガス発生が抑制されたことが要因の一つといえることから、本件特許発明1による離型性とガス発生の低減の両方についてバランスよく満足するという効果は、当業者の予測し得たものである。
さらに、離型剤である脂肪酸金属塩の金属塩混合物の配合量が少なければ、射出成形時のガス発生量が増大しないことは周知の効果といえる(平成29年8月15日付け意見書により申立人が提出した参考資料7(国際公開第2008/126381号)の段落[0037]ないし[0038]、[0050]、[0077]、表1ないし3、[0084]、表4、[0087]を参照。)。

(ウ) 特許権者の主張について
a 相違点2について
相違点2に関し、特許権者は、平成29年6月16日付け意見書において、参考文献1?6は、異議申立人により特許異議申し立て期間の経過後に提出されたものであって、審査において提示された証拠あるいは職権調査により発見した証拠でもなく、本件特許異議申立事件における証拠として採用するのは決して適切でない旨の主張をしている(以下、「主張1」という。)。さらに、特許権者は、参考文献1は、メタキシリレン基含有ポリアミドは非常に剛性が高いため、フィルム等の柔軟性を求められる用途に使用するには問題があり(参考文献1【0014】)、このために「リン原子含有化合物の存在下で重縮合し得られたメタキシリレン基含有ポリアミドに、脂肪酸金属塩及び必要に応じた他の添加剤を混合したポリアミド組成物が、フィルターの目詰まりを起こさず、外観が良好で、成形加工性、生産性が優れ、透明性、高湿度下でのガスバリア性に優れた成形性にすることができることを見出した。」ものであり、メタキシリレン基含有ポリアミド特有の課題を解決するものであって、このような参考文献1をもって、甲1又は甲2の発明において、本件特許発明1のポリアミド樹脂を用いることを容易とするのは、当を得たものではない旨の主張もしている(以下、「主張2」という。)。
まず、特許権者の主張1について検討する。
参考資料1?6は、訂正により新たに生じた技術的事項に対して、異議申立人から提出されたものではあるが、周知慣用技術を示す文献として職権により採用しているのであって、これらの採用を妨げる事情が存するものでもないから、この主張1は採用できない。
次に、主張2について検討する。
参考文献1?6は、成形加工性にポリアミド組成物において、キシリレンジアミンとα、ω-直鎖脂肪族二塩基酸とから得られるポリアミド樹脂とポリアミド66との組み合わせること、及び、当該組合せにおいて特定の相対粘度のキシリレンジアミンとα、ω-直鎖脂肪族二塩基酸とから得られるポリアミド樹脂を用いることがよく知られた周知慣用技術に相当することを示す文献として提示されたものであり、参考文献1の課題や効果との関係など、個々の文献の課題や効果等を引用するために用いたものではないから、主張2についても採用できない。

b 本願特許発明1の効果について
本件特許発明1の効果について、特許権者は、平成29年6月16日付け意見書において、
「本件特許発明1は、a)キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸の重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミドとb)ポリアミド66を併せて含有すること、そして、上記a)の相対粘度が1.8?2.8であるポリアミド樹脂に、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の4種のカルボン酸金属塩を特定量含有することにより、離型性とガス発生の低減の両方をバランス良く満足し、良好な外観性状の成形品を得ることができるという顕著な効果を奏します。」と述べ、「このような顕著な効果は甲1、甲2によっては容易に達成できるものではありません。」と主張している。
上記の主張について検討する。
まず、本件特許発明1に係る特定のポリアミド樹脂の組合せが、離型性及びガス発生の低減に寄与することを示唆する記載は特許明細書にはなく、特許権者が主張する「離型性とガス発生の低減の両方をバランス良く満足」するとの効果は、もっぱら、離型剤である、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の4種のカルボン酸の金属塩混合物により発揮されるものといえる。
そして、本件特許発明1における、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の4種のカルボン酸の金属塩混合物は、カルボン酸金属塩として、これら4種のカルボン酸金属塩の金属塩混合物のみを配合することを特定するものではないから、甲1発明及び甲2発明に含まれる成分(Licomont CaV 102)と相違せず、かつ、その配合量についても、本件特許発明1と甲1発明及び甲2発明とで大きく異なるものでもない。
そうであれば、上記(イ)で本件特許発明1の効果について述べたとおり、甲1及び甲2における外部潤滑あるいは光沢に係る効果の開示や参考資料7の記載から、本願特許発明1の効果が顕著であるとはいえず、甲1発明または甲2発明において容易に達成できるものではないとの主張は採用できない。

(エ) 小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に発明のいずれかの発明、甲7及び甲12に記載の事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明及び甲2発明を対比すると、上記(2)ア(ア)の「対比」に加えて、甲1発明及び甲2発明における「Licomont(リコモント)CaV 102」は、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸のカルシウム塩を、各々、4.6955%、7.9354%、9.9270%、9.9865%含有し、合計32.5444%含有であることから、各成分の合計100重量%基準で、14重量%、24重量%、34重量%、33重量%であることから、本件特許発明2における各成分含有量に相当する。
したがって、本件特許発明2と甲1発明及び甲2発明とは、上記相違点1及び2において相違するが、上記(2)ア(イ)の判断のとおり、相違点1は実質的な相違点ではなく、仮に相違するとしても当業者が容易になし得ることであり、また、相違点2は当業者が適宜なし得たことである。
よって、本件特許発明2は、甲1発明及び甲2発明のいずれかの発明、甲7及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

ウ 本件特許発明3及び4について
甲1発明及び甲2発明は、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸のカルシウム塩を含有する。
したがって、本件特許発明3及び4と、甲1発明及び甲2発明とは、上記相違点1及び2で相違するが、上記(2)ア(イ)の判断のとおり、相違点1は実質的な相違点ではないか、仮に相違するとしても当業者が容易になし得ることであり、相違点2は当業者が適宜なし得たことである。
よって、本件特許発明3及び4は、甲1発明及び甲2発明のいずれかの発明、甲7及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

また、本件特許発明3の「アルカリ金属塩」及び本件特許発明4の「ナトリウム塩」について、甲9及び甲10に、モンタン酸のリチウム塩や長鎖カルボン酸のナトリウム塩が離型挙動を示すことが記載されていることから、甲1発明及び甲2発明において、「Licomont(リコモント)CaV 102」のカルシウム塩の代わりに、ナトリウム塩やリチウム塩等のアルカリ金属塩を用いることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
よって、本件特許発明3及び4は、甲1発明及び甲2発明のいずれかの発明、甲7、甲9、甲10及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもある。

エ 本件特許発明6及び7について
甲1及び甲2には、ポリアミド6にガラス繊維強化品を含有させることが記載されている(摘記事項(甲1-7)の段落【0055】、摘記事項(甲2-3)の段落【0045】)。また、甲1及び甲2には、成型品として用いることが記載されている(摘記事項(甲1-1)の請求項16、摘記事項(甲2-2)の段落【0038】及び段落【0039】)。
したがって、本件特許発明6及び7と甲1発明及び甲2発明とは、上記相違点1及び2でのみ相違するが、上記(2)ア(イ)の判断のとおり、相違点1は実質的な相違点ではないか、仮に相違するとしても当業者が容易になし得ることであり、また、相違点2は当業者が適宜なし得たことである。
よって、本件特許発明6及び7は、甲1発明及び甲2発明のいずれかの発明、甲7、甲9、甲10及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
本件特許発明1ないし4、6及び7は、甲1発明及び甲2発明のいずれかの発明、甲7、甲9、甲10及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


第6 取消理由通知(予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号に対する申立てについて
申立人は、訂正前の請求項1ないし4、6ないし7に係る発明は、甲1ないし甲3に記載された発明に該当するので、特許法第29条第1項第3号に該当し、これらに係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1に訂正により追加された事項である「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」の点は、甲1ないし3に記載ないし示唆されていない。
したがって、上記主張は理由がない。

2 甲3に基づく特許法第29条第2項に対する申立てについて
申立人は、訂正前の請求項1ないし4、6ないし7に係る発明は、甲3に記載された発明および甲5ないし10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨の主張をしている。
甲3には、訂正により追加された事項である「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」の点について記載ないし示唆がないものであるが、それに加えて、甲3発明は、これとは異なる特定の構造のポリアミド樹脂を用いた組成物に関するものである。
そして、他の甲5ないし10にも、上記点について記載も示唆もなく、甲3に記載された特定の構造のポリアミドを、訂正により追加された「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」とすることはできない。
したがって、上記主張は理由がない。

3 特許法第29条の2に対する申立てについて
申立人は、訂正前の請求項1ないし7に係る発明は、甲14出願を優先基礎出願とした甲4出願において、甲4出願の国際出願日における国際出願の明細書等に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、これらに係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨の主張をしている。
しかしながら、本件特許発明1に訂正により追加された事項である「キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」の点は、甲4出願の明細書等には記載されていない。
したがって、上記主張は理由がない。


第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4、6及び7に係る発明は、甲1発明及び甲2発明、甲7、甲9、甲10及び甲12に記載された事項並びに周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件特許発明1ないし4,6及び7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、請求項5に係る特許は、本件訂正の請求による訂正により削除されたため、請求項5に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジアミンとα,ω-直鎖脂肪族二塩基酸との重縮合反応により得られる相対粘度が1.8?2.8のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂及びポリアミド66を含有するポリアミド樹脂100質量部に対し、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸及びメリシン酸の金属塩混合物を0.05?5質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記混合物は、各成分の合計100質量%基準で、リグノセリン酸金属塩を5?25質量%、セロチン酸金属塩を15?35質量%、モンタン酸金属塩を20?40質量%、及びメリシン酸金属塩を20?40質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属塩が、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が、ナトリウム塩またはカルシウム塩であることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
さらに、ガラス繊維を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至4及び6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-02-13 
出願番号 特願2011-128996(P2011-128996)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 赤澤 高之  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 岡崎 美穂
橋本 栄和
登録日 2016-03-25 
登録番号 特許第5905211号(P5905211)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物および成形体  
代理人 小野 尚純  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 上西 克礼  
代理人 小野 尚純  
代理人 江崎 光史  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 平川 さやか  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 虎山 一郎  
代理人 平川 さやか  
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