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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1341090
異議申立番号 異議2018-700119  
総通号数 223 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-07-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-15 
確定日 2018-06-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6182253号発明「調味液、卵とじ料理、卵とじ料理の製造方法および調味液の使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6182253号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6182253号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成28年10月11日に特許出願され、平成29年7月28日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成29年8月16日)がされ、その後、その特許に対し、平成30年2月15日に特許異議申立人角田朗により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6182253号の請求項1?7の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。また、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる調味液であって、
前記調味液のL*a*b*表色系におけるb*値が4.4以上であり、かつ、前記調味液の比重が1.10以上1.40以下であって、
前記調味液が、カツオ、昆布、シイタケ、煮干し及びこれらの抽出物、並びに醤油から選ばれる一種または二種以上を含み、
B型粘度計を用いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη_(60)としたとき、η_(60)が15mPa・s以上、950mPa・s以下である、調味液。
【請求項2】
前記調味液のブリックス値が20以上である、請求項1に記載の調味液。
【請求項3】
粘弾性計を用い、30℃から90℃まで加熱(昇温速度0.05℃/秒、せん断速度1(1/秒))したとき60℃において測定される粘度η_(DMA)が、8mPa・s以上である、請求項1または2に記載の調味液。
【請求項4】
前記調味液が、増粘剤を含む、請求項1乃至3いずれか一項に記載の調味液。
【請求項5】
前記調味液が、スチームコンベクションオーブン用である、請求項1乃至4いずれか一項に記載の調味液。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の調味液と、前記卵の凝固卵と、前記食材と、を含む卵とじ料理。
【請求項7】
前記卵とじ料理が、親子丼、カツ丼、及びたまご丼の中から選ばれる、請求項6に記載の卵とじ料理。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人角田朗は、証拠として以下の甲第1号証?甲第4号証を提出し、本件発明1?7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張し、さらに、発明の詳細な説明には、L*値、a*値に関する記載はされているものの、本件発明1?7に係る特許請求の範囲には記載されておらず、また、発明の詳細な説明において、比重、ブリックス値、粘度η_(DMA)の具体的な数値又は下限について記載も示唆もなく、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

<<引用例>>
甲第1号証:Recoty、”厚揚げステーキ★とろ?り卵とじあんかけ♪”、2011年2月16日、cookpad、<URL:https://cookpad.com/recipe/1276567>
甲第2号証:2018年(平成30年)2月2日付け第18007484001-0301号及び第18007484001-0401号の一般財団法人日本食品分析センター作成の分析試験成績書
甲第3号証:特開2007-89507号公報
甲第4号証:特開2001-157561号公報
(以下「甲第1号証」?「甲第4号証」を「甲1」?「甲4」という。)

第4 甲各号証の記載
1 甲1には、以下の事項が掲載されている。
(1a) 「材料_((2?3人分))
厚揚げ 8cm角×2枚
卵 1個
●和風ダシ 200cc
●酒 大さじ1
●みりん 大さじ1
●砂糖 小さじ2
●薄口醤油 小さじ2
●おろしショウガ 小さじ2分の1
水溶き片栗粉 片栗粉小さじ1+水大さじ1」
(1b) 「1 ●の材料を火にかける。薄口醤油とおろしショウガは沸騰してから入れて下さい♪」
(1c) 「3 〔1〕が沸騰した所へ、水溶き片栗粉を入れてさっと混ぜ、直ぐに溶き卵を流しいれ、卵がふわっと浮いてきたら直ぐに火を止める。」
(1d) 「4 お皿に盛り付けた厚揚げに、〔3〕をかけて、お好みの薬味をのせたら完成」
以上を総合し、さらに下記の甲2を参酌すると、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が掲載されている。

「卵とじあんのための調味液であって、
前記調味液のL*a*b*表色系におけるb*値が10.4であり、前記調味液の比重が1.0346であって、
和風ダシ及び薄口醤油を含む、
調味液。」

2 甲2の第18007484001-0301号「分析試験成績書」には、以下の事項が記載されている。
(2a) 「依頼者 角田特許事務所
検体名 引用文献1に記載の調味液」(当審注:引用文献1は、甲1を示す)
(2b) 「分析試験結果」の「分析試験項目」の欄に、「色(反射色)」、「L*」、「a*」、「b*」の記載、「結果」の欄に「30.1」、「-1.7」、「10.4」の記載、「方法」の欄に「色差計法」の記載がそれぞれなされている。
甲2の第18007484001-0401号「分析試験成績書」には、以下の事項が記載されている。
(2c) 「依頼者 角田特許事務所
検体名 引用文献1に記載の調味液」(当審注:引用文献1は、甲1を示す)
(2d) 「分析試験結果」の「分析試験項目」の欄に、「比重」の記載、「結果」の欄に「1.0346」の記載、「方法」の欄に「ピクノメーター法」の記載がそれぞれなされている。

3 甲3には、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0013】
次に、オムレツ用の調味ソースを例とした容器入り電子レンジ調理用調味ソースの製造方法について、以下に述べる。
まず、液体油脂、乳化剤、増粘剤を混合して予備混合オイルとする。後述するように、玉ねぎを焙煎する場合は、上記液体油脂の一部を使用すればよい。この場合は、予備混合オイル中の液体油脂の量は、玉ねぎ焙煎に使用した残りの量になる。増粘剤の量は、最終の調味液ソースのソース部分の粘度が150?300mPa・s程度になる量とするのが好ましい。」
(3b) 「【実施例】
【0015】
(実施例1)
表1の配合に従い、玉ねぎをみじん切りした後、歩留まり70%になるまで菜種油といっしょに中火で炒める。これとは別に、ズッキーニ、赤ピーマン、人参をダイスカットした後に焼成する。また、精製塩、砂糖、チキンエキス、胡椒、セルロースを混合して予備混合調味料とする。また、残りの菜種油、卵黄油、キサンタンガム、馬鈴薯澱粉を混合して予備混合オイルとする。その後、炒め玉ねぎ、カット野菜、予備混合調味料、予備混合オイル、更には無塩バター、生クリーム、水を加えて混合し、焦がさないように中火で撹拌しながら80℃にまで達温させる。炊き上げ直後のソースのみの粘度は200mPa・sであった。また、ソース部分の水分含量は、75質量%であった。よって得られた調味ソースをレトルトパウチに60g充填し、122℃で11分間レトルト殺菌して、容器入り電子レンジ調理用調味ソースを得た。次に、当該容器入り電子レンジ調理用調味ソースを開封してマグカップに調味ソースを入れ、そこに卵1個を割り入れて、よくかき混ぜた後、電子レンジ500Wで1分間加熱調理して洋風オムレツを得た。得られた洋風オムレツは、卵料理本来のふんわりとした柔らかい食感と、半熟状態の非常においしい洋風オムレツであった。なお、容器入り電子レンジ調理用調味ソースの菜種油の量は約5.1gで、セルロースの量は約1gである。」

4 甲4には、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【請求項1】 増粘剤が添加され、75℃以上に加温して粘度が50?2000mPa秒の熱水中に、液卵を滴下して加熱凝固したこと、を特徴とする溶き玉状にした玉子加工品の製造方法。」
(4b) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液卵を加熱凝固した玉子加工品の製造方法及び玉子加工品に係り、殊に、掻き玉汁の製造や親子丼やカツ丼などの丼物の製造、各種料理のトッピングなどに好適な溶き玉状にした玉子加工品の製造方法及び同方法により得られた溶き玉状にした玉子加工品に関する。」
(4c) 「【0010】そして、本発明は、請求項1又は請求項2の製造方法により得られた溶き玉状にした玉子加工品である(請求項3)。この溶き玉状にした玉子加工品は、掻き玉汁や丼物の素材、パスタのトッピングなどに好適に使用することができる。溶き玉状にした玉子加工品は、熱水を除いた状態(湯切りした状態)で製品にする場合と、熱水が調味液である場合はこの調味液(熱水)を含んだ状態(湯切りしない状態)で製品にする場合がある。後者の調味液を含んだ状態の溶き玉状にした玉子加工品の場合は、調味液たる熱水中の増粘剤の影響で冷凍時に氷結晶の生成が抑制されるので、冷凍保存に適している。なお、製品たる溶き玉状にした玉子加工品は、必要に応じて、適当な大きさに小分けした後、包装などして保存(冷凍・冷蔵・温蔵)、運搬されることがある。」
(4d) 「【0013】液卵Eの凝固を行う熱水Wは、増粘剤が添加されるとともに、75℃以上(好ましくは85℃以上)に加温される。また、熱水Wの粘度は、50?2000mPa秒(好ましくは500?1500mPa秒)の範囲内である。
【0014】増粘剤は、増粘安定剤や増粘多糖類など、食品添加物としての狭義の増粘剤を指し、片栗粉(デンプン)は含まない。このような増粘剤であれば、液卵Eを熱水Wの中で凝固させる際に、液卵Eの過度の分散を防止しつつ該液卵Eを均一に分散させて凝固させることができるので優れている。なお、片栗粉(デンプン)では、液卵Eを熱水Wの中で凝固させる際に、過度に分散してしまい、歩留まりが悪くなってしまう。増粘剤は特に限定するものではないが、増粘材としては、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムなどが好適である。増粘材がグアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムなどであれば、熱水W中で液卵Eが適度に分散して、調和の取れた最終製品を得ることができるからである。また、これらの増粘剤であれば、デンプン類と異なり、所定粘度への立ち上がりが早く、かつ、熱水Wの昇温時及び降温時を含めた温度変化に対する粘度安定性が高いからである。」
(4e) 「【0015】また、これら増粘剤は、片栗粉(デンプン)などよりも冷凍安定性に優れる。従って、増粘剤が添加された熱水Wの中で液卵Eを凝固して熱水Wを含んで最終製品にすると、溶き玉状にした玉子加工品P(製品P)の熱水Wの部分は冷凍安定性に優れた増粘剤を含むことになる。このため、冷凍時、熱水Wの部分の氷結晶の成長が抑制され、冷凍保存するのに適した製品Pになる。なお、熱水Wを含んだ状態で最終の製品Pにするのは、熱水Wに醤油や出し汁が入った調味液である場合が想定される。ちなみに、この熱水Wたる調味液には、必要に応じて野菜などの具剤が入れられることがある。
【0016】熱水Wには、清水が使用されるが、この清水は食品加工に使用されるものであればよい。なお、増粘剤との関係でpH調整を行ってもよい。また、前記のとおり、醤油や塩、出し汁(各種ソース)などが適宜入れられ調味液の役割を有する場合がある。」
(4f) 「【0026】〔製造方法〕次に、溶き玉状にした玉子加工品(製品)の製造方法(例)における各工程を、図1及び図3を参照して説明する。まず、鍋4に清水を所定量入れると共に、所定量の増粘剤(ここではグアーガム)を添加する。これを、所定温度まで加熱して熱水Wとする(S1)。熱水Wの温度は、前記の通り75℃以上、好ましくは85℃以上である。熱水Wの温度が高いほど、液卵Eは迅速に熱凝固する。熱水の粘度は、前記の通り50?2000mPa秒がよい。ちなみに、熱水Wに調味料やタレを入れて、熱水W自体を調味液とすることもできる。このようにすることで、製品Pに味付けをするに際して、製品Pを熱水Wから取り出した後に、調味液をかけたり浸したりする場合に比べ、工程数を少なくすることができる。また、味も製品Pによく浸透する。なお、製品Pを取り出した後に調味液をかけたり、浸したりしてもよい。
【0027】液卵Eは、液卵容器1に入れられ、必要に応じて所定温度に加温される(S2)。液卵Eの温度が高いほど、熱水Wの温度低下が少なく、迅速に製品Pを得ることができる。また、熱水Wの量を少なくすることができる。なお、液卵Eには、必要に応じて調味料や具材などが添加される。
【0028】液卵Eは、ノズルヘッド3を介して鍋4の中にある熱水Wに滴下される(S3)。熱水Wの中で液卵Eは、掻き玉状やリボン状や薄膜状などに熱凝固し、溶き玉状にした玉子加工品P(製品P)になる。ノズルヘッド3の孔h(図2参照)の口径が小さい場合は、掻き玉汁などに適した製品Pになる。また、孔hの口径が大きい場合は、丼物などに適した製品Pになる。前記したとおり、液卵Eの滴下量は、熱水Wの質量の1/3?1/6である。但し、液卵Eを50℃程度に加温しておくことで、熱水Wの質量の1/2程度を滴下することもできる。なお、液卵Eを熱水Wの中に滴下する滴下速度(送液ポンプ2の送液量)は、ノズルヘッド3の孔hの口径や孔hの数により異なるが、ノズルヘッド3当り、5?10kg/分の滴下速度で滴下するのがよい。液卵Eの滴下速度が小さい場合は製品Pが細くなり、滴下速度が大きい場合は製品Pが太くなる。
【0029】液卵Eを所定量、熱水Wの中に滴下したら、液卵Eの供給及び鍋4の加熱を停止し、製品Pの取り出しを行う(S4)。製品Pの取り出しは、様々な手段により行うことができる。例えば、網などにより固形分だけを掬い取ってもよいし、お玉などにより固形分と共に熱水Wを一緒に掬い取ってもよい。また、鍋4を傾斜することにより取り出すこともできる。鍋4を傾斜して取り出す場合、迅速に作業を行うことができる。
【0030】製品Pを鍋4から取り出したら、必要に応じて湯切りを行う(S5)。湯切りは、ザル5などに製品Pを入れることより行うことができる。湯切り工程では、必要に応じて製品Pを圧縮することにより水分調整が行われる。ちなみに、製品Pを冷凍する場合、水分が多いと冷凍に対する熱的負荷が大きくなると共に、粗大な氷結晶が成長し易くなり解凍後の製品Pの食感が劣化する。なお、熱水Wが調味液である場合は、湯切りを行わないことがある(熱水Wと固形分の比率の調整を行うことはある)。」

第5 判断
1 特許法第29条第2項について
(1) 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、「卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる調味液」の粘度について、本件発明1は、「B型粘度計を用いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη_(60)としたとき、η_(60)が15mPa・s以上、950mPa・s以下である」のに対して、甲1発明はそのような特定はなされていない点で、少なくとも両者は相違する(以下「相違点」という。)。
上記相違点については、甲1の調味液の分析試験成績書である甲2にも、さらに甲3及び甲4においても記載されていない。
そして、本件発明1は、上記相違点に係る構成を採用することにより、「卵が熱変性によって凝固する前であって、加熱により調味液が対流し始める60℃での粘度に着目し、これを特定の範囲内に高度に制御することが、調味液の加熱による対流を抑制して調味液と卵との混合を低減させると共に、口あたりの低下を抑制し、食感が良好な卵とじ料理を得る」(本件特許明細書【0007】)ものであるから、上記相違点を、単なる設計的事項とすることはできない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?甲4に記載の事項から、当業者が容易に想到し得たものではない。
(2) 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲2?甲4に記載の事項から、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3) 以上のとおり、本件発明1?7は、甲1発明及び甲2?甲4に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1?7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、取り消すことはできない。

2 特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号について
(1) 特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、L*値、a*値に関する記載はされているものの、本件発明1?7に係る特許請求の範囲には記載されておらず、本件発明を実施することができないか、本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨の主張をしているので(特許異議申立書14ページ7行?16ページ5行)、以下に検討する。
本件発明は、「卵を用いて卵とじ料理を調理した際、卵と割り下が混合することで卵の色が茶色っぽくなり、美味しそうに見えなくなるといった問題に着目し」(本件特許明細書【0007】)、「B型粘度計を用いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη_(60)としたとき、η_(60)が15mPa・s以上、950mPa・s以下」とすることにより、「卵が熱変性によって凝固する前であって、加熱により調味液が対流し始める60℃での粘度に着目し、これを特定の範囲内に高度に制御することが、調味液の加熱による対流を抑制して調味液と卵との混合を低減させると共に、口あたりの低下を抑制し、食感が良好な卵とじ料理を得る」(本件特許明細書【0007】)ものである。
そうすると、調味液の粘度を特定の範囲とし、割り下である調味液と卵との混合を低減することで、本件発明の課題は解決できるものといえ、粘度に加えて、「L*a*b*表色系」を特定したのは、「調味液のL*a*b*表色系におけるb*値は、卵の色味をきれいに見せる観点から、4.4以上であることが好ましく、4.9以上であることがより好ましい。なかでも、卵とじ料理の食材としてカツを用いた場合、卵とのコントラストが良好になり、より一層見栄えが良好となる。一方、美味しそうな卵の印象を与える観点から、当該b*値は、9以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。」(本件特許明細書【0020】)とされるように、本件発明の課題の解決に加えて、卵とじ料理の改善項目として、見栄えを更に意図したものということができる。
そして、本件発明の調味液は、「卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる」こと、及び「前記調味液が、カツオ、昆布、シイタケ、煮干し及びこれらの抽出物、並びに醤油から選ばれる一種または二種以上を含」むものであることを前提とするものであり、調味液の色として、L*a*b*表色系におけるb*値を特定の範囲とすることで、見栄えについて改善されたものが得られるというに過ぎず、b*値に加えて、L*値及びa*値を特定しなければ、本件発明を当業者が実施することができない、又は本件発明の課題を解決することができないというものでもない。
したがって、この点で、特許異議申立人の主張は採用できない。
(2) さらに、特許異議申立人は、「比重」について、「1.17より低い比重の調味液において課題が解決されうる具体的な数値範囲を理解することができない」(特許異議申立書16ページ末行?17ページ1行)、「ブリックス値」について、「実施例においては、ブリックス値が37より低い例は存在せず、本件明細書の記載から、課題を解決できるブリックス値の下限値を読み取ることはできない。」(特許異議申立書18ページ10?12行)、「η_(DMA)」について、「η_(DMA)を調整することでη_(60)の調整と独立した効果が発揮されるとは到底考えられない。」(特許異議申立書19ページ下から4?3行)と主張しているので、以下に検討する。
上記(1)で検討したとおり、本件発明の課題を解決する手段は、「卵とじ料理において卵と食材と共に用いられる調味液」において、その粘度を「B型粘度計を用いて測定される前記調味液の液温60℃、回転開始から120秒後における粘度をη_(60)としたとき、η_(60)が15mPa・s以上、950mPa・s以下」とすることである。
そうすると、本件発明において、上記「比重」、「ブリックス値」、及び「η_(DMA)」を特定したことは、調味液の粘度に加えて、調味液における他の物性を示す各項目について、調味液として好適な数値範囲を特定したに過ぎず、「粘度」に加えて、「比重」、「ブリックス値」、及び「η_(DMA)」を特定しなければ、本件発明を当業者が実施することができない、又は本件発明の課題を解決することができないというものでもない。
したがって、この点で、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものでないから、取り消すことはできない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-05-22 
出願番号 特願2016-199841(P2016-199841)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 山崎 勝司
槙原 進
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6182253号(P6182253)
権利者 日本食研ホールディングス株式会社
発明の名称 調味液、卵とじ料理、卵とじ料理の製造方法および調味液の使用方法  
代理人 速水 進治  

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