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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C
管理番号 1341319
審判番号 訂正2018-390044  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-03-06 
確定日 2018-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4677934号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4677934号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第4677934号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成18年3月10日(優先権主張 平成17年7月19日)に出願され、その請求項1ないし3に係る発明について、平成23年2月10日に特許権の設定登録がなされ、平成30年3月6日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第4677934号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」ものであり、その訂正の内容は次のとおりである。(下線は特許権者が付した。以下同様。)

1 訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】の「ガラス繊維20?55質量%」との記載を「直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3においても同様に訂正する)。

2 訂正事項2
明細書の段落【0008】の「ガラス繊維20?55質量%」との記載を「直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%」に訂正する。

3 訂正事項3
明細書の段落【0035】の「実施例1?4」との記載を「参考例1?4」に訂正し、同段落の「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」との記載を「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例4」にそれぞれ訂正し、同段落【0036】【表2】及び同段落【0039】【表3】中の「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」との記載を「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例4」にそれぞれ訂正する。

4 訂正事項4
明細書の段落【0042】の「実施例6」との記載を「参考例6」に訂正し、同段落【0044】及び【0046】の「実施例及び比較例」との記載を「実施例、参考例及び比較例」に訂正し、同段落【0047】【表4】中の「実施例6」との記載を「参考例6」に訂正する。


第3 当審の判断
1 訂正事項1
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である樹脂組成物の成分の1つであるガラス繊維を「直径12?14μmのガラス繊維」に特定し、訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3においても同様にガラス繊維を特定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項1における、「直径12?14μmのガラス繊維」とする訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0041】の実施例5についての「この樹脂材料を65質量%、繊維径13μm(即ち、平均直径が13μmで、直径12?14μmの範囲のもの)のガラス繊維(アミノ基含有シランカップリング剤処理品)を35質量%の割合で混練して樹脂組成物を得た。そして、この樹脂組成物を、射出成形して図2に示す形状のカバーを得た。」との記載に基くと解されるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、樹脂組成物の成分の1つである「ガラス繊維」を「直径12?14μmのガラス繊維」とすることでガラス繊維を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

(4)独立特許要件について
訂正事項1により訂正された訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、拒絶すべき理由を有しないとして特許された訂正前の特許発明を減縮したものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではないことは明らかであり、特許法126条第7項の規定を満たすものである。

2 訂正事項2
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正(請求項1の減縮)に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0008】の、「ガラス繊維20?55質量%」との記載を「直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%」に訂正するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項2における、「ガラス繊維20?55質量%」との記載を「直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0041】の実施例5についての「この樹脂材料を65質量%、繊維径13μm(即ち、平均直径が13μmで、直径12?14μmの範囲のもの)のガラス繊維(アミノ基含有シランカップリング剤処理品)を35質量%の割合で混練して樹脂組成物を得た。そして、この樹脂組成物を、射出成形して図2に示す形状のカバーを得た。」との記載に基くと解されるから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項2に係る訂正は、上記(1)のとおり訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

3 訂正事項3及び4
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項3及び4は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「変性ポリアミド6T/6I」を用いていない実施例1?4を参考例1?4とするとともに、訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「直径12?14μmのガラス繊維」を用いていない実施例6を参考例6とし、実施例5及び実施例6に関連した「実施例」との記載を「実施例、参考例」と記載することで、訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものである。
したがって、訂正事項3及び4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

(2)新規事項の有無について
訂正事項3及び4に係る訂正は、訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるため、訂正後の請求項1に係る発明に含まれない実施例を参考例に訂正するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項3及び4に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項3及び4に係る訂正は、訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを整合させるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3及び4に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定を満たすものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軸受装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転数を検出するエンコーダを備える軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スキッドを防止するためのアンチスキッド用、または有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール用等に用いられる回転数検出装置を備える自動車が増えてきている。このような回転数検出装置を備える自動車では、車輪用の軸受装置として、制御に必要な車輪の回転速度を検出するためのセンサを内蔵したものが一般に使用されており、軸受装置として例えば図1に示すような、独立懸架式のサスペンションにおいて従動輪を支持するための転がり軸受ユニット1を例示することができる。
【0003】
図示される転がり軸受ユニット1において、転動体2は、ハブ3に形成した転動溝4a及びハブ3の端部のかしめ部5にかしめ止めされた内輪6の転動溝4bと、外輪7の前記各転動溝4a,4bと対向する転動溝8a,8bとで形成される空間に保持器9を介して転動自在に保持されている。ハブ3の取付フランジ15側の外輪7との隙間は、シールリング17により密封されている。また、内輪6の端部には、スリンガ10に磁石部11を固着してなるエンコーダ12が固定されている。エンコーダ12の磁石部11は、ゴムや樹脂等の弾性素材に磁性体粉を混入させた弾性磁性材料からなり、その周方向に多極に磁化されている。スリンガは、略円筒状で、内輪6の側端面から突出する位置にて外方に湾曲し、更に軸線側に屈曲する略L字状の断面形状を有する。エンコーダ12の磁石部11と対向する位置に、所定のギャップでセンサ13が配置されており、磁石部11からの磁気パルスを検出することで内輪6の回転数を検出する。センサ13は、カバー14に固定される。カバー14は、外輪7で囲まれた開口部を覆うように装着される蓋部材であり、センサ13は通孔14aに挿通した状態で固定される。更に、外輪7との係合端部には、外部から水や異物が侵入しないようにOリング16が介挿される。
【0004】
カバー14は、金属製が主流であったが、製作コストが高く、複雑な形状に成形し難い等の理由から、樹脂製のものが使用されることが多くなってきている。例えば、ポリアミド66製のカバー(特許文献1参照)や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)系合成樹脂からなるカバー(特許文献2参照)等が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2005-30427号公報
【特許文献2】特開2004-44664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車は屋外で使用され、雨天走行時には雨水や泥水、洗車時には洗浄水とそれぞれ接触することから、カバーには耐水性や耐薬品性が要求され、特許文献2では低吸水性を考慮して上記した特定の樹脂を使用している。また、自動車はさまざまな場所や地域で使用され、例えば、海岸沿の地域では海水を含んだ水と接触することがあり、降雪地方では融雪剤を含んだ水と接触することがある。融雪剤は塩化カルシウムを含んでおり、この塩化カルシウムを含んだ水がカバーに浸透すると、乾燥時には水のみが排除され、塩化カルシウムがカバー内に蓄積する。ポリアミド系樹脂ではアミド基の水素結合により強度が発現するが、塩化カルシウム水和物が存在するとアミド基の水素結合が切断され、ミクロクレイズ発生、進展によりカバーに亀裂が発生したり、最悪の場合、破壊するおそれがある。
【0007】
上記のように、樹脂製のカバーは、吸水性が低いだけでは十分ではなく、融雪剤(塩化カルシウム)に対する耐性も要求されることがあり、上記に挙げた樹脂製のカバーでは対応できない。そこで、本発明は、低吸水性に加えて塩化カルシウムに対する耐性にも優れ、降雪地方での使用にも十分に耐え得る信頼性の高い軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の軸受装置及び車輪用軸受を提供する。
(1)内周面に外輪軌道を有し、使用時に回転しない外輪相当部材と、前記外輪相当部材の内周面と対向する外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転する内輪相当部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記内輪相当部材に固定された回転検出用のエンコーダと、前記外輪開口部に固定された合成樹脂製のカバーとを備える軸受装置において、前記合成樹脂製カバーが、ポリアミド66樹脂を60?80質量%、ポリアミド12樹脂を5?15質量%、ポリアミド6T/6Iを基本骨格とし、分子中に、6-アミノカプロン酸またはε-カプロラクタムから選ばれる炭素数6のモノマー単位と、12-アミノドデカン酸またはラウロラクタムから選ばれる炭素数12のモノマー単位とからなる脂肪族ポリアミド部分を含む非晶性の変性ポリアミド6T/6Iを15?25質量%の割合で含む樹脂成分45?80質量%と、直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%を含む樹脂組成物からなることを特徴とする軸受装置。
(2)前記合成樹脂製カバーが、前記外輪に固定するための金属製の取付部材が一体に成形されていることを特徴とする上記(1)記載の軸受装置。
(3)上記(1)または(2)に記載の軸受装置を備えることを特徴とする車輪用軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軸受装置は、強度や耐熱性、低吸水性に加えて、塩化カルシウムに対する耐性にも優れる特定の樹脂からなるカバーを備えるため、融雪剤が使用される降雪地方仕様の自動車の車輪用軸受として特に有効である。また、カバーは、樹脂製であることから、射出成形等により効率よく成形でき、しかも複雑な形状にも容易に成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
本発明は、回転数検出装置を備え、かつ、外輪開口部を密封するためのカバーを備える構成の軸受装置において、前記カバーを低吸水性樹脂を含む材料で形成したことを特徴とするものである。従って、回転数検出装置及びカバーを備える限り、軸受装置の構成には制限が無く、例えば、図1に示したような自動車の従動輪支持用転がり軸受ユニットを例示することができ、後述する特定の樹脂成分を含む樹脂組成物でカバー14を形成する。特定の樹脂成分を用いることで、融雪剤を含有する水がカバー14に浸透するのを抑制し、結果として塩化カルシウムの蓄積を防ぐことができる。
【0012】
樹脂成分は、低吸水性樹脂であるポリアミド12樹脂(PA12)を含む。参考のために、各種ポリアミド樹脂の23℃の水中に24時間浸漬させたときの吸水率(ASTM D570)を示す。
【0013】
【表1】

【0016】
また、樹脂成分は、ポリアミド66を含む。ポリアミド66は一般に耐熱性や機械的強度に有利な特性を有しており、これらを適量配合することでカバー全体の耐熱性や機械的特性が高まる。ポリアミド66樹脂は、射出成形性を考慮すると、数平均分子量で13000?30000のものが好ましく、更に耐疲労性、高成形精度を考慮すると、数平均分子量で18000?25000のものがより好ましい。数平均分子量が13000未満の場合には、分子量が低すぎて、耐疲労性が低く、実用性がない。一方、数平均分子量が30000を越える場合には耐疲労性は向上するものの、カバーに必要な衝撃強度等の機械的強度を達成するためにガラス繊維を規定量含有させると、成形時の溶融粘度が高くなり、射出成形により高精度で製造することが難しくなる。
【0017】
上記に挙げたポリアミド樹脂は、何れも市販品を使用することができ、例えば、ポリアミド12としてダイセル(株)製「テグサ」等を入手できる。また、ポリアミド66として宇部興産(株)製「宇部ナイロン」やデュポン(株)製「ザイテル」を入手できる。
【0018】
また、樹脂成分は非晶性の変性ポリアミド6T/6Iを含む。この非晶性変性ポリアミド6T/6Iは、ポリアミド66樹脂とポリアミド12樹脂とを相溶させるために配合される。この非晶性変性ポリアミド6T/6Iは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸及びイソフタル酸との重縮合体であるポリアミド6T/6Iを基本骨格とし、更に分子中に脂肪族ポリアミド部分を形成したものである。脂肪族ポリアミド部分を形成するためのモノマーとしては、6-アミノカプロン酸またはε-カプロラクタムの炭素6のものと、12-アミノドデカン酸またはラウロラクタムの炭素数12のものとを組み合わせて用いると、ポリアミド66樹脂及びポリアミド12樹脂と分子構造が類似し、相溶性がより向上する。
【0019】
樹脂組成物には、カバー14の機械的強度を高め、寸法変化を抑えるために、補強材としてガラス繊維を配合させる。また、樹脂成分である上記のポリアミド樹脂との接着性を考慮してシランカップリング剤等で表面処理したものが更に好ましい。ガラス繊維は、細いものの方が、同一含有量でも本数が多くなり補強効果がより高くなり、更に樹脂中での配向性が良くなる。但し、細すぎると補強効果が少なくなる。そこで、直径が5?15μm、好ましくは5?9μm、より好ましくは6?8μmのガラス繊維を用いることが好ましい。また、ガラス繊維の繊維長は100?900μmであることが好ましく、より好ましくは300?600μmである。繊維長が100μm未満の場合は、短すぎて補強効果及び寸法抑制効果が小さい。繊維長が900μmを越える場合は、補強効果及び寸法抑制効果は向上するものの、樹脂部成形工程での繊維の破損や、配向性の低下による成形精度悪化が想定される。
【0021】
樹脂組成物は、ポリアミド66樹脂を60?80質量%、ポリアミド12樹脂を5?15質量%及び非晶性変性ポリアミド6T/6Iを15?25質量%の割合で含む樹脂成分45?80質量%と、ガラス繊維20?55質量%とを混合したものである。ポリアミド66樹脂が60質量%未満では、相対的にポリアミド12樹脂の含有量が増すことができるため耐塩化カルシウム性を向上させることができるものの、耐熱性及び耐疲労性が低下して好ましくない。一方、ポリアミド66樹脂が80質量%を超えると、相対的にポリアミド12樹脂の含有量が減ることになり目的とする耐塩化カルシウム性が得られない。また、ガラス繊維が脂組成物全量の20質量%未満では補強効果が少なく、55質量%を越える場合は、射出成形に適した流動性が得られないばかりでなく、精度良く成形するのが難しくなる。
【0026】
樹脂組成物は上記の如く構成されるが、必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。
【0027】
例えば、カバー14は、走行時に路面からの小石等が衝突して亀裂等が発生することが想定されるため、樹脂組成物にエラストマーを配合して耐衝撃性を付与することが好ましい。エラストマーとしては、エチレンプロピレン非共役ジエン(EPDM)ゴムやウレタンゴムを例示でき、樹脂組成物全量の2?15質量%配合する。
【0028】
また、樹脂部の放熱性を向上させるために、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導性充填材、具体的には、アルミナ、マグネシア、窒化アルミニウム、炭化珪素、ベリリア、グラファイト等を添加してもよい。
【0029】
更に、カバー14の凹凸を減少したり、耐摩耗性を更に向上させるために、粒子状充填材、具体的には、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイト等を更に添加してもよい。粒子状充填材としては、上記説明した高熱伝導性充填材も粒子状であれば、同様の効果を有する。
【0030】
その他にも、成形時及び使用時の熱による劣化を防止するために、樹脂にヨウ化物系熱安定剤やアミン系酸化防止剤を、それぞれ単独あるいは併用して添加することが好ましい。また、着色剤等を添加してもよい。
【0031】
カバー14を製造するには、通常の樹脂成形法に従い、上記の樹脂組成物を所定の形状に成形すればよい。尚、樹脂組成物は、樹脂成分と補強材、エラストマー、樹脂用添加剤等を定法に従い混練して得られる。成形方法は、種々可能であるが、生産性から射出成形が好ましい。
【0032】
また、図2は軸受装置の他の例を示す断面図であるが、図1に示した転がり軸受ユニット1において、カバー14を変更した例を示している。尚、その他の部材には変更がなく、同一の符号を付して説明を省略する。同図において、カバー14は、外輪7への装着のための取付部材20を一体に成形した構成となっている。この取付部材20は、ステンレス鋼等の金属製の円筒状部材であり、その先端部分が外側に略直角に屈曲しており、この屈曲部を囲繞するように上記の樹脂組成物が成形される。尚、カバー14と取付部材20との接合をより強固にするために、取付部材20の屈曲部の表面を粗面化したり、適当な接着剤を焼き付ける等の処理を施してよい。また、取付部材20の外径が外輪7の内径と一致しており、取付部材20の外周面を外輪7の内壁に嵌入することで、カバー14が外輪7に固定される。金属は経年によるヘタリが少ないため、このような取付部材20を備えるカバー14は、外輪7に長期間安定して固定される。
【0033】
尚、取付部材20は上記に限らず、外輪7への装着部位と、カバー14との接合部位とを備える限り、種々の形状が可能である。
【0034】
また、図1及び図2に示す軸受装置では、カバー14に通孔14aを設け、この通孔14aにセンサ13を挿通させ、エンコーダ12と対向させている。これに代わり、図3に示すように、カバー14に通孔14aを設けることなく、センサ13とエンコーダ12とを対向させてもよい。しかし、センサ13とエンコーダ12とが離れるほど、エンコーダ12からの磁力が低下する。一方、センサ13とエンコーダ12とを接近させるには、カバー14の厚さを薄くすればよいが、全体を一様に薄くすると強度低下を招く。そこで、図示のように、カバー14の外面にセンサ13の先端部を収容できる大きさの凹部14bを設け、この凹部14bにセンサ13の先端部を収容する。これにより、センサ13とエンコーダ12との距離が縮まり、強度を維持しつつ、感度の低下を抑えることができる。また、軸受装置の組み立てに際し、センサ13の位置決めも容易になる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を更に明確にする。但し、参考例1?4及び比較例1?2は吸水性を確認するための予備試験である。
(参考例1?4、比較例1?2)
カバー用樹脂組成物として、ガラス繊維30質量%含有ポリアミド66(比較例1)、ガラス繊維30質量%含有ポリアミド6(比較例2)、ポリアミド66とポリアミド612とを当量混合した樹脂にガラス繊維を全量の33質量%となるように配合したもの(参考例1)、ガラス繊維30質量%含有ポリアミド12(参考例2)、ガラス繊維35質量%含有ポリアミドMXD6(参考例3)、ポリアミドMXD6にガラス繊維を全量の15質量%、EPDMゴムを全量の5質量となるように配合したもの(参考例4)を準備した。そして、各樹脂組成物から直径30mm、厚さ2mmの円板状の試験片を作製した。作製した試験片を恒温恒湿槽(50℃、80%RH)中に24時間放置し、放置前後の重量差を吸水率として求めた。結果を表1に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表1から、本発明で使用する低吸水性ポリアミド樹脂は、ポリアミド6やポリアミド66に比べて吸水率が半分以下であり、低い吸水性を示すことがわかる。
【0038】
また、ステンレス鋼板を、図2に示すような円筒状で屈曲部を備える形状にプレス加工し、更に屈曲部をコアとして上記の各樹脂組成物を射出成形してカバーを作製した。そして、各カバーを、恒温恒湿槽(50℃、80%RH)中に10時間放置した後、塩化カルシウム10%水溶液中に1分浸漬した後80℃で1時間乾燥するサイクルを繰り返し行い、サイクル毎に10倍の光学顕微鏡にてカバー表面を観察し、亀裂が発生するまでサイクル数を求めた。尚、サイクル数は50回を上限とし、50回に達した時点で終了した。結果を表2に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表2から、本発明に従う樹脂組成物からなるカバーは、塩化カルシウムの蓄積が抑えられ、耐久性に優れることがわかる。このことから、本発明の軸受装置は、融雪剤が使用される降雪地方で使用される自動車の車輪用軸受として好適であるといえる。
【0041】
(実施例5)
ポリアミド66(宇部興産(株)製「UBEナイロン2020U」、数平均分子量20000、ヨウ化銅系添加剤含有)72質量%(但し、樹脂とガラス繊維との合計量に対しては46.8質量%)、非晶性芳香族ポリアミド(変性ポリアミド6T/6I、(株)エムスケミ-ジャパン製「グリボリーG21」)20質量%(但し、樹脂とガラス繊維との合計量に対しては13質量%)、低吸水性脂肪族ポリアミド(ポリアミド12、宇部興産(株)製「UBEナイロン3014U」、数平均分子量14000、ヒンダードフェノール系酸化防止剤含有)8質量%(但し、樹脂とガラス繊維との合計量に対しては5.2質量%)を混合して樹脂材料を調製した。この樹脂材料を65質量%、繊維径13μm(即ち、平均直径が13μmで、直径12?14μmの範囲のもの)のガラス繊維(アミノ基含有シランカップリング剤処理品)を35質量%の割合で混練して樹脂組成物を得た。そして、この樹脂組成物を、射出成形して図2に示す形状のカバーを得た。
【0042】
(参考例6)
ポリアミド66として、平均分子量26000の宇部興産(株)製「UBEナイロン2026U」を用い、ガラス繊維として繊維径6μm(即ち、平均直径が6μmで、直径5?7μmの範囲のもの)に代えた以外は実施例5と同様にしてカバーを得た。
【0043】
(比較例3)
ガラス繊維含有ポリアミド66(宇部興産(株)製「UBEナイロン2020GU6」、数平均分子量20000、ヨウ化銅系添加剤含有、直径13μmのシランカップリング剤処理したガラス繊維を30質量%含有)を行い、同様にしてカバーを得た。
【0044】
[吸水率測定]
実施例、参考例及び比較例と同じ配合にて樹脂材料を調製し、直径30mm、厚さ2mmの円板状の試験片を成形し、その試験片を50℃、80%RHの恒温恒湿槽に24時間放置し、放置前後の重量差を吸水率とした。結果を表3に示す。
【0045】
[耐塩化カルシウム性評価]
カバーを80℃の熱水中に2時間浸漬して吸水させた後、塩化カルシウム50%水溶液に5分間浸漬する。次に、浸漬後のカバーをラジアル負荷150kgfかけた状態で、恒温槽中にて次のような処理を施した。即ち、20℃?110℃まで30分かけて昇温した後110℃で2時間保持し、その後、30分かけて20℃まで降温した後20℃で1時間保持するサイクルを繰り返し行い、その間、2サイクル毎にカバーを塩化カルシウム50%水溶液に5分間浸漬する。これを10サイクル繰り返し行った後、クラックが発生していないかを確認した。結果を表3に示す。
【0046】
[機械的強度評価]
実施例、参考例及び比較例と同じ配合にて樹脂材料を調製し、別途試験片を成形した。そして、ASTM D-790に従い曲げ強度を測定した。結果を表3に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表3から明らかなように、本発明に従い、ポリアミド66と、非晶性芳香族ポリアミドと、低吸水性脂肪族ポリアミドとを含む樹脂にガラス繊維を配合した樹脂組成物からなるカバーは、耐塩化カルシウム性及び曲げ強度の両特性をバランスよく発現することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の軸受装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の軸受装置の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の軸受装置の更に他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 軸受ユニット
2 転動体
3 ハブ
6 内輪
7 外輪
9 保持器
12 エンコーダ
13 センサ
14 カバー
20 取付部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有し、使用時に回転しない外輪相当部材と、前記外輪相当部材の内周面と対向する外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転する内輪相当部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、前記内輪相当部材に固定された回転検出用のエンコーダと、前記外輪開口部に固定された合成樹脂製のカバーとを備える軸受装置において、
前記合成樹脂製カバーが、ポリアミド66樹脂を60?80質量%、ポリアミド12樹脂を5?15質量%、ポリアミド6T/6Iを基本骨格とし、分子中に、6-アミノカプロン酸またはε-カプロラクタムから選ばれる炭素数6のモノマー単位と、12-アミノドデカン酸またはラウロラクタムから選ばれる炭素数12のモノマー単位とからなる脂肪族ポリアミド部分を含む非晶性の変性ポリアミド6T/6Iを15?25質量%の割合で含む樹脂成分45?80質量%と、直径12?14μmのガラス繊維20?55質量%を含む樹脂組成物からなることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記合成樹脂製カバーが、前記外輪に固定するための金属製の取付部材が一体に成形されていることを特徴とする請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の軸受装置を備えることを特徴とする車輪用軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-04-17 
結審通知日 2018-04-19 
審決日 2018-05-07 
出願番号 特願2006-66561(P2006-66561)
審決分類 P 1 41・ 856- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 854- Y (F16C)
P 1 41・ 855- Y (F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2011-02-10 
登録番号 特許第4677934号(P4677934)
発明の名称 軸受装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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