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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C10M
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C10M
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C10M
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C10M
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C10M
管理番号 1341323
審判番号 訂正2018-390055  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-03-14 
確定日 2018-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5044858号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5044858号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許第5044858号(以下、「本件特許」という。)は、2006年1月24日〔優先権主張 平成17年1月24日(JP)日本国1件、平成17年7月12日(JP)日本国2件、及び平成17年7月25日(JP)日本国1件〕を国際出願日とする特願2006-554000号について、平成24年7月27日に設定登録がされたものであって、本件訂正審判は、平成30年3月14日に請求されたものである。

2.請求の趣旨と訂正事項
本件訂正審判の「請求の趣旨」は、『特許第5044858号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求める。』であり、その訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線部は訂正箇所を意味する。)。

(1)訂正事項1
明細書の段落0019、0020、0041、0054、0070、0081(前段の「第6実施形態」との記載部分に対応する箇所のみ)、0089、及び0097の「実施形態」との記載を、「参考形態」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落0019、0047、0048、0053、0054、0070(2箇所)、0071、0072、0073、0074、0076、0081、0085、0091、0092、0096、0099、0100、及び0104の「本発明」との記載を、「本参考形態」に訂正し、同段落0121の「本願発明」との記載を、「本参考形態」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落0021の「精製しもの」との記載を、「精製したもの」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落0022の「インパラフィン」との記載を、「イソパラフィン」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落0048の「本発明の目的を損なわない範囲で、」との記載を削除し、明細書の段落0052、0095、及び0103の「本発明の目的を損なわない程度であれば」との記載を削除し、明細書の段落0079、及び0087の「本発明の効果を損なわない範囲であれば」を削除する。

(6)訂正事項6
明細書の段落0105の「実施例及び比較例」との記載を、「実施例、参考例及び比較例」に訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落0106の「上述の実施態様1」との記載を、「上述の第1参考形態」に訂正する。

(8)訂正事項8
明細書の段落0110の「上述の実施態様2」との記載を、「上述の第2実施形態」に訂正する。

(9)訂正事項9
明細書の段落0116の「上述の実施態様3」との記載を、「上述の第3参考形態」に訂正する。

(10)訂正事項10
明細書の段落0122の「上述の実施態様4」との記載を、「上述の第4参考形態」に訂正する。

(11)訂正事項11
明細書の段落0130の「上述の実施態様5」との記載を、「上述の第5参考形態」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の段落0135の「上述の実施態様6」との記載を、「上述の第6参考形態」に訂正する。

(13)訂正事項13
明細書の段落0140の「上述の実施態様7」との記載を、「上述の第7参考形態」に訂正する。

(14)訂正事項14
明細書の段落0145の「上述の実施態様8」との記載を、「上述の第8参考形態」に訂正する。

(15)訂正事項15
明細書の段落0090の「金属石けん、、Li」との記載を、「金属石けん、Li」に訂正する。

(16)訂正事項16
明細書の段落0090の「増ちゃう剤」との記載を、「増ちょう剤」に訂正する。

3.当審の判断
(1)訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲の記載からみて、本件特許明細書中の「実施形態」に該当しないものを「参考形態」に改めて、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正によって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、これらの訂正によって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の記載からみて、本件特許明細書中の「本発明」又は「本願発明」に該当しないものを「本参考形態」に改めて、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正によって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、これらの訂正によって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3?4及び15?16
訂正事項3は、本件特許明細書中の明白な誤記である「精製しもの」を本来の意味である「精製したもの」に訂正するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
訂正事項4は、本件特許明細書中の明白な誤記である「インパラフィン」を本来の意味である「イソパラフィン」に訂正するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
訂正事項15は、本件特許明細書中の明白な誤記である「金属石けん、、Li」を本来の意味である「金属石けん、Li」に訂正するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
訂正事項16は、本件特許明細書中の明白な誤記である「増ちゃう剤」を本来の意味である「増ちょう剤」に訂正するためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正によって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項3?4及び15?16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、これらの訂正によって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項3?4及び15?16は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
さらに、これらの訂正によって独立特許要件が満たされなくなることはないから、訂正事項3は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであって、特許法第126条第7項の規定に適合する。

(4)訂正事項5
訂正事項5は、特許請求の範囲の記載からみて、本件特許発明の具体例に相当しない態様に関する説明において「本発明」という表現を用いた、段落0048の「本発明の目的を損なわない範囲で、」との記載、段落0052、0095、及び0103の「本発明の目的を損なわない程度であれば」との記載、並びに段落0079、及び0087の「本発明の効果を損なわない範囲であれば」との記載を削除して、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、それらの記載を削除することによって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、それらの記載を削除することによって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項6
訂正事項6は、本件特許明細書の段落0105の「実施例及び比較例」との記載を、段落0106?0150の記載と一致させて、「実施例、参考例及び比較例」との記載に改めるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、この訂正によって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項6は、願書に添付した明細書の、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、この訂正によって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(6)訂正事項7?14
訂正事項7?14は、特許請求の範囲の記載からみて、本件特許発明の具体例に相当しない「実施態様1」及び「実施態様3」?「実施態様8」についての記載を「第1参考形態」及び「第3参考形態」?「第8参考形態」との記載に改めることで、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るとともに、本件特許発明の具体例に相当する「実施態様2」についての記載を「第2実施形態」との記載に改めることにより、訂正事項1及び2の訂正による訂正後の「参考形態」と、記載を揃えるためのものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、これらの訂正によって新たな技術的事項が導入されるとはいえないから、訂正事項7?14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法第126条第5項の規定に適合する。
また、これらの訂正によって特許請求の範囲が拡張又は変更されないことは明らかであるから、訂正事項7?14は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

4.むすび
以上総括するに、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項?第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受、ハブユニット軸受用グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐剥離性に優れ、良好な潤滑を長期間維持することが可能なグリース組成物および車両用ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車や鉄道車両などの車両用軸受としてシール付の密封タイプのいわゆるハブユニット軸受が多用されている。これらの車両用ハブユニット軸受は、通常は屋外において水や塵埃に曝されながら使用される。また、泥水等に水没した状態で使用される場合もある。このような環境下で使用される車両用ハブユニット軸受は、シール装置により密封され外部からの水,塵埃等の侵入が抑制されてはいるものの、水の侵入を完全に防止することは困難であった。そのため、車両用ハブユニット軸受に封入されているグリース組成物は水と接触することとなるが、一般に、グリース組成物に水分が混入すると、転がり軸受の耐久寿命は大きく低下することが知られている。例えば古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水が混入すると、混入がない場合に比べて数分の1?20分の1に転がり疲れ寿命が低下することを報告している(非特許文献1を参照)。また、Schatzbergらは、潤滑油中にわずか100ppmの水分が混入するだけで、鋼の転がり強さが32?48%も低下することを報告している(非特許文献2を参照)。
【0003】
このような寿命の低下は、混入した水が分解して発生した水素が、軸受材料である鋼中に侵入して水素脆性を引き起こし、水素脆性による白色組織への変化を伴った金属剥離(以降は白色組織剥離と記すこともある)が生じることが原因であると考えられている。このような白色組織剥離を抑制するため、種々の添加剤を添加したグリース組成物が提案されている。
例えば、亜硝酸ナトリウム等の不動態酸化剤を含有するグリース組成物(特許文献1を参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を含有するグリース組成物(特許文献2、3を参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を含有するグリース組成物(特許文献4を参照)等がある。これらのグリース組成物は、添加剤に由来する被膜を転がり軸受の転がり接触部(軌道面,転動面)に形成することにより、軸受材料への水素の侵入を防いでいる。
また、含水下においても車両用ハブユニット軸受の剥離を抑制できるグリースとして、ジウレア化合物を増ちょう剤としたグリースにHLBが3?14の界面活性剤を含有させた耐水性グリースがある(例えば特許文献5)。また、基油と増ちょう剤とN-ビニルアミド樹脂を含有させた耐水性グリースがある(例えば特許文献6)。
一方、車輪支持用軸受に用いるグリース組成物として、ZnDTP等を添加することで、耐摩耗性を高めたものが知られている(特許文献7参照)
また、グリースに水分が混入すると、せん断安定性が低下して潤滑部位から流れ出すようになる。このような含水時のせん断安定性を改善したグリースとして、金属フェネートを添加したグリース(特許文献8参照)や、脂肪酸のカルシウム塩やマグネシウム塩を添加したグリース(特許文献9参照)等も提案されている。
グリース組成物以外では、軸受材料としてステンレス鋼を用いる方法(特許文献10を参照)や、転動体をセラミックス製とする方法(特許文献11を参照)も提案されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特表平6-803565号公報
【特許文献3】特許第3512183号公報
【特許文献4】特開平9-169989号公報
【特許文献5】特開平9-87652号公報
【特許文献6】特開2005-105026号公報
【特許文献7】特開2001-254089号公報
【特許文献8】特公平2-8639号公報
【特許文献9】特公平3-26717号公報
【特許文献10】特表平3-173747号公報
【特許文献11】特表平4-244624号公報
【非特許文献1】古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal,No.636、pp.1-10、1977
【非特許文献2】P.Schatzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication,wear 12、pp.331-342、1968
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各種添加剤を添加した前述の特許文献1?4に記載のグリース組成物では、添加剤の作用等による十分な被膜が形成されるまでの間に、水分の混入、振動や速度変化による転動体の滑り等が起こると、転がり接触部で剥離が生じる場合がある。
特許文献5,6に記載されたような耐水性グリースの剥離抑制効果は近年の軸受長寿命化の要求に対して十分とはいえない。また、自動車等では長距離のトラック輸送、鉄道輸送、あるいは運転に伴う振動が転がり軸受にも伝達されるため、転動体と内外輪軌道との間で繰り返し衝撃に起因するフレッチング摩耗が発生し易いが、従来の鉱物油-リチウム石けん系グリースは、このフレッチング摩耗に対する耐久性(耐フレッチング性)も、近年の高耐久性の要求に対して十分とはいえない。また、今後とも要求が高まることが予測される高温・高荷重での運転に対応できる潤滑グリースが求められている。
また、特許文献7に記載されたようなグリース組成物は、ZnDTP等の極圧剤を添加することで耐摩耗性の向上を図ることができるが、水分混入時には上記のように剥離に至るまでの寿命の低下を抑制するのに十分とはいえない。
そして特許文献8,9に記載のような、含水時のせん断安定性を改善したグリースは、撥水性を付与されたためにグリースと水分が接触した際に水分が大きな水滴となってグリース中に取り込まれて不均一に存在する。その結果、潤滑部位の摺動面に形成されている油膜が部分的に取り除かれ、その部分を拠点として潤滑性能の低下を誘引するという問題を抱えている。
また、軸受材料としてステンレス鋼やセラミックスを用いた前述の特許文献10.11に記載の転がり軸受は、高価であるという問題がある。
さらに、軸受鋼のような鉄は、水が存在することにより容易に腐食(錆)が生じるため、軌道面や転動体の剥離まで至らなくとも転がり軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられる車両用ハブユニット軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であるため、前述と同様の方法により対策がなされているが、腐食の抑制効果も、近年の軸受の高信頼性の要求に対して十分とは言えない状況である。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、水が混入した場合でも良好な潤滑状態を長時間維持し、白色組織剥離もしくは腐食、あるいは白色組織剥離と腐食の両方を抑制するグリース組成物を提供することを課題とする。また、水が侵入するような環境下で使用されても白色組織剥離や腐食が生じにくく長寿命な車両用ハブユニット軸受を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)鉱物油及び合成油の少なくとも一種を主成分とする基油と、増ちょう剤と、剥離抑制剤とを含むことを特徴とする、ハブユニット軸受用グリース組成物であって、
前記剥離抑制剤がオレオイルザルコシンであり、その含有量が0.1?5質量%であることを特徴とするハブユニット軸受用グリース組成物。
(2)内径面に軌道面を有する外径側部材と、外径面に軌道面を有する内径側部材と、前記外径側部材の軌道面と前記内径側部材の軌道面との間に転動自在に配した複数の転動体と、前記複数の転動体を転動自在に保持する保持器と、を備えたハブユニット軸受において、前記内径側部材及び前記外径側部材の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、上記(1)に記載のグリース組成物が封入されていることを特徴とする車両用ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るハブユニット軸受用グリース組成物は、耐剥離性、耐水性、および耐腐食性に優れ、水分が混入しやすい環境下または含水下で使用されても白色組織剥離や腐食が生じ難い。したがって、良好な潤滑を長期間維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る車両用ハブユニット軸受の構造を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る他の車両用ハブユニット軸受の構造を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る車両用ハブユニット軸受に使用される軸受を示す図である。
【図4】含水シェルロール試験において、参考例F1のグリースについて、グリース中の水の状態を撮影した写真である。
【図5】含水シェルロール試験において、参考例F2のグリースについて、グリース中の水の状態を撮影した写真である。
【図6】含水シェルロール試験において、参考例F3のグリースについて、グリース中の水の状態を撮影した写真である。
【図7】含水シェルロール試験において、参考例F4のグリースについて、グリース中の水の状態を撮影した写真である。
【図8】含水シェルロール試験において、比較例F1のグリースについて、グリース中の水の状態を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0009】
1 車両用ハブユニット軸受
2 ハブ
3 内輪
4 外輪
5 転動体
6 車輪取り付け用フランジ
8 段部
8a 段差面
10 円筒部
11 ナット
12 シール装置
13 密閉空間
14 カバー
16 保持器
17 車輪取り付け用フランジ
20a,20b 内側軌道面
21a,21b 外側軌道面
7 車両用ハブユニット軸受
73 車輪取り付け用フランジ
74 内輪
75 ハブ
76 転動体
77 保持器
78 シール部材
9 車輪支持用軸受
91 内輪
92 外輪
93 転動体
94 保持器
95 シール部材
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<車両用ハブユニット軸受について>
図1は、本実施形態に係る車両用ハブユニット軸受を示す図である。なお、以降の説明においては、車両用ハブユニット軸受を自動車等の車両に取り付けた状態において、車両の幅方向外側を外端側と称し、幅方向中央側を内端側と称する。すなわち、図1においては、左側が外端側となり、右側が内端側となる。
【0011】
図1の車両用ハブユニット軸受1は、ハブ2と、内輪3と、外輪4と、二列の転動体5,5と、を備えており、ハブ2の外周面の外端側部分には、図示しない車輪に取り付けるための車輪取り付け用フランジ6が設けられている。また、ハブ2の内端側部分は外径の小さな小径部8となっており、該小径部8に内輪3が嵌め込まれている。さらに、ハブ2の小径部8よりも内端側の部分には、円筒部10が突出して形成されており、該円筒部10の外周面には雄ねじが形成されている。そして、この雄ねじに螺合されたナット11、及び、小径部8とこの小径部8よりも外端側の外径の大きな部分との境界にできた段差面8aで内輪3を狭持することにより、内輪3をハブ2に一体的に固定している。なお、内輪3及びハブ2が本発明の内径側部材を構成し、外輪4が本発明の外径側部材を構成する。
【0012】
内輪3の外周面及びハブ2の内輪3よりも外端側に位置する外周面に、それぞれ内側軌道面20a,20bが形成されている。また、外輪4の内周面には各内側軌道面20a,20bに対応する外側軌道面21a,21bが形成されている。さらに、内側軌道面20a,20bと外側軌道面21a,21bとの間には、それぞれ複数の転動体5,5が転動自在に配置されており、前記内径側部材が外輪4に対して回転自在とされている。なお、各転動体5は、乗用車のような比較的軽量の車両用のユニット軸受の場合には、玉が使用されることが多いが、重量が嵩む車両用のユニット軸受の場合には、ころが使用される場合が多い。例えば、大型自動車用のユニット軸受の場合には円すいころ、鉄道車両用のユニット軸受の場合には円すいころ又は円筒ころが使用される場合が多い。
【0013】
さらに、外輪4の外端側端部の内周面とこれに対向するハブ2の外周面との間には、シール装置12が設けられており、内径側部材と外輪4との間に形成される軸受空間の端部開口が塞がれている。また、この軸受空間には、二列の転動体5,5をそれぞれ保持する合成樹脂製の冠形保持器16,16がポケットの開口部を互いに逆方向に向けて配置されており、これら1対の保持器16,16で挟まれた部分は、軸受空間における密閉空間13となっている。そして、この密閉空間13には、図示しないが、各転動体5,5と外側軌道面21a,21b及び内側軌道面20a,20bとを潤滑するグリース組成物(詳細は後述する)が充填されている。密閉空間13に充填されたグリース組成物は、一部が転動体5,5で撹拌され、残りの大部分は撹拌されることがないため、グリース組成物全体としての劣化は少なく、長期間にわたりその品質が保持される。さらに、軸受空間の内端側の開口部は、外輪4の内端側に設けられたカバー14で塞がれており、このカバー14によって軸受空間への水,塵埃等の異物の侵入防止及び軸受空間内のグリース組成物の漏洩防止が図られている。
【0014】
そして、外輪4の外周面には、車輪取り付け用フランジ6から離間する側の端部に、懸架装置取り付け用フランジ17が設けられている。このような車両用ハブユニット軸受1を自動車に組み付けるには、外輪4の外周面に形成した懸架装置取り付け用フランジ17により、外輪4を図示しない懸架装置に固定し、車輪を車輪取り付け用フランジ6に固定する。その結果、車両用ハブユニット軸受1によって車輪が懸架装置に対し回転自在に支持される。
【0015】
なお、本発明の適用は、上述のように内径側部材の一部がハブに一体形成された車両用ハブユニット軸受1に限られない。例えば、図2に示すように外径側部材がハブに一体形成された車両用ハブユニット軸受や、図3に示すように別体となったハブ等に取り付けて用いる車輪支持用軸受9に、本発明を適用してもよい。
【0016】
図2の車両用ハブユニット軸受7は、ハブ75の一部を構成する本発明の外径側部材と、本発明の内径側部材を構成する二つの内輪74,74と、二列の転動体76,76と、保持器77と、を備えている。なお、図2においても、図1と同様に左側が外端側となり、右側が内端側となる。ハブ75の外周面の外端側部分には、図示しない車輪に取り付けるための車輪取り付け用フランジ73が設けられており、円筒状になったハブ75の内端側部分の内周には、二列の外側軌道面が形成されている。また、二つの内輪74,74の外周にはそれぞれ前記外側軌道面に対応する内側軌道面が形成されており、これらの外側軌道面及び内側軌道面間には複数の転動体76が転動自在に配置され、ハブ75が内輪74,74に対して回転自在とされている。内輪74,74は、図示しない軸に嵌合しており、この軸が車体に支持されることで、ハブ75に取り付けられる車輪が車体に対して回転自在に支持される。
【0017】
このような車両用ハブユニット軸受7のハブ75と内輪74,74との間の軸受空間には本発明に係るグリース組成物が充填されており、この軸受空間は、軸受空間の内端側端部に設けられたシール部材78と、ハブ75の外端側端部に設けられた図示しないカバーによって塞がれている。このように、本発明に係るグリース組成物が充填されているため、車両用ハブユニット軸受7は耐剥離性に優れている。
また、図3の車輪支持用軸受9は、本発明の内径側部材を構成する内輪91と、本発明の外径側部材を構成する外輪92と、転動体93と、保持器94と、シール部材95と、を備える転がり軸受である。この内輪91と外輪92との間には本発明に係るグリース組成物が充填されており、従って車輪支持用軸受9は耐剥離性に優れている。
【0018】
以下、本発明に係るハブユニット軸受用グリース組成物(以下、単にグリース組成物とも記載する)について、具体的な実施形態を挙げながら詳細に説明する。
【0019】
<第1参考形態:グリース組成物例A>
本参考形態のグリース組成物は、剥離抑制剤と、基油と、増ちょう剤とを含有する。
前記剥離抑制剤としては不動態化剤が好ましく、他の金属元素も含む各種の鋼で形成される前記内側軌道面20a,20b、及び、前記外側軌道面21a,21bのちの少なくとも一つに不動態膜を形成させる化合物である。この不動態膜は、一般的に不動態膜として形成される酸化膜のみならず、広く、軌道面を構成する金属と不動態化剤に起因する化合物とが共有結合することで強固な被膜として形成される。この不動態化剤としては、例えば、亜硝酸塩、硝酸塩、クロム酸塩、リン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等の無機腐食抑制剤、及び、ペンゾトリアゾール等の金属不活性化剤を使用することができる。これらの不動態化剤は、金属表面に対して不動態膜を形成させることで、耐剥離性を向上させる。これとともに、この不動態膜はグリース組成物に混入した水分と金属の接触を抑制し、金属の腐食を防止することから、軌道面を形成する金属分の溶出を抑制でき、水分が混入するような条件下でも耐剥離効果を発揮することができる。また、不動態化剤の配合量は、グリース組成物全量に対して0.1質量%以上5質量%以下とする。好ましくは、不動態化剤としてベンゾトリアゾールやトルイルトリアゾール等のトリアゾール系化合物を用い、より好ましい添加量は1?3質量%である。配合量が0.1質量%未満であると耐剥離効果が得られず、5質量%を超えると効果が飽和し不経済である。
【0020】
上記の本参考形態に係る車両用ハブユニット軸受1において、密閉空間13に充填されるグリース組成物は、不動態化剤を0.1質量%以上5質量%以下の範囲で含有しているので、鋼で形成される前記内側軌道面20a,20b、及び、前記外側軌道面21a,21bのちの少なくとも一つには不動態膜が形成される。従って、車両が内部に水分が浸入するような環境で走行しても、この不動態膜によって水分と金属の直接接触が抑制されるため、車両用ハブユニット軸受1は軌道面の耐剥離性に優れ、長寿命である。
【0021】
基油は、鉱物油及び合成油のうちの少なくとも一方を、基油全量の50質量%以上含有することが好ましく、さらに80質量%以上含有することが望ましい。
鉱物油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、及びこれらの混合油等があげられるが、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等の精製工程を、1以上組み合わせて精製したものを用いることが好ましい。
【0022】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、ポリα-オレフィン(1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等)又はその水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、アルキルベンゼン(モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等)、アルキルナフタレン(モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等)等が挙げられる。エステル系油としては、ジエステル油(ジブチルセバケート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチルアセチルリシノレート等)、芳香族エステル油(トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等)やポリオールエステル油(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、さらに、二塩基酸及び一塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリグリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等)、フェニルエーテル油(モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等)等が挙げられる。これらの合成油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、基油の動粘度は、40℃における動粘度が40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0024】
前記増ちょう剤は、金属複合石けん及びウレア化合物のうちの少なくとも1種からなることが好ましい。特に種類は限定されるものではなく、通常グリース組成物の増ちょう剤として用いられるものを使用することができるが、車両が走行する環境への影響を考慮すると、重金属を含まないものが好ましい。例えば、金属成分がリチウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム又はナトリウム等である金属石けんや金属複合石けん、ウレア化合物(ジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等)、無機系化合物(ベントナイト、シリカ、カーボンブラック等)を使用できる。中でも、軸受運転時には軸受内部が高温になることから耐熱性のある金属複合石けん及びウレア化合物を用いることが好ましく、特にウレア化合物が好ましい。これらの増ちょう剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0025】
なお、増ちょう剤の含有量は、上記基油とともにグリース組成物として潤滑作用を発揮する範囲であれば制限はないが、グリース組成物全体の5質量%以上35質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上25質量%以下である。5質量%未満であると、増ちょう剤が少なすぎてグリースの機械的特性を得ることが困難になってしまう。また、35質量%超過であると、基油の量が少なくなるため、潤滑性が不十分となる可能性が考えられる。
【0026】
上記の各成分のほかグリース組成物には、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤としては、アミン系化合物、フェノール系化合物、硫黄系化合物、ジチオリン酸亜鉛等を用いることができる。また、防錆剤としては、スルフォン酸金属塩、カルボン酸、エステル系化合物、アミン系化合物等を用いることができる。さらに、油性向上剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル等を用いることができる。また、極圧剤として、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、ジチオリン酸金属塩、ジカルバミン酸金属塩等を、粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等を用いることができる。これらの添加剤は、単独又は複数を適宜組合せて含有させてもよい。これら添加剤全体の含有量は、グリース組成物全量に対して20質量%以下が好ましい。
【0027】
また、前記車両用ユニット軸受や前記車輪支持用軸受は密封軸受であることから、グリース組成物の混和ちょう度は220?340、より好ましくは265?340に調整することが好ましい。上記範囲にあれば、耐水性被膜や酸化被膜を形成しやすくなり良好な潤滑を維持できる。一方、340よりも軟らかいとグリースが漏洩しやすく、220よりも硬いとグリース流動性が悪くなって、潤滑性が悪くなる。
【0028】
<第2実施形態:グリース組成物例B>
[基油]
使用される基油は鉱物油系および合成油系の潤滑油のうち少なくとも一種からなる。前記鉱物油系潤滑油としては、鉱物油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。前記合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。
【0029】
前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。
前記芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。
前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
【0030】
前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。これらの基油は、単独または混合物として用いることができる。
【0031】
また、基油の動粘度は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0032】
[増ちょう剤]
増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石けん、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、現在のハブユニットの急速な進歩に伴い、ハブユニット内ではより高温になる傾向があるため、グリースの耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。上記ウレア化合物は増ちょう剤量としては、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0033】
なお、グリース組成物のちょう度は混和ちょう度で220?340の範囲が好ましく、より好ましくは265?340の範囲である。上記範囲にあれば、耐水性被膜や酸化被膜を形成しやすくなり良好な潤滑を維持できる。一方、220より小さいと硬くなりすぎて十分な潤滑効果が期待できず、340より大きいと軸受内部より漏洩する恐れがある。
【0034】
[剥離抑制剤]
本発明のグリース組成物には剥離抑制剤としてオレオイルザルコシン(oleoyl sarcosine)が含まれることが好ましい。含有量はグリース全量の0.1?5質量%であり、好ましくは0.5?3質量%である。より好ましくは0.5?2質量%である。含有量が0.1質量%未満では効果は得られず、5質量%を超えて配合しても効果の向上がない。オレオイルザルコシンを含有することで、グリース組成物の防錆性、耐水性が向上し、耐剥離性を向上させることができる。
【0035】
[その他の添加剤]
本発明のグリース組成物は、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、他の防錆剤との併用も可能である。
【0036】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどが挙げられる。
【0037】
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤や、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤などが使用される。
【0038】
防錆剤としては、例えば、エステル類等が挙げられる。エステル類の具体例としては、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類などが挙げられる。
【0039】
なお、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではないが、通常はグリース組成物全体に対して0.1?20質量%である。0.1質量%未満では添加剤の添加効果が乏しく、また、20質量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0040】
[製法]
本発明のグリース組成物を調製する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。剥離抑制剤は、得られた基油と増ちょう剤から得られたベースグリースに所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミル等で剥離抑制剤を添加した後十分撹拌し、均一分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するのも有効である。なお、上記製法において、摩耗防止剤や酸化防止剤等の添加剤は、剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0041】
<第3参考形態:グリース組成物例C>
[基油]
使用される基油は鉱物油系および合成油系の潤滑油のうち少なくとも一種からなる。前記鉱物油系潤滑油としては、鉱物油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。前記合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。
【0042】
前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。
前記芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。
前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
【0043】
前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。これらの基油は、単独または混合物として用いることができる。
【0044】
また、基油の動粘度は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0045】
[増ちょう剤]
増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石けん、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、現在のハブユニットの急速な進歩に伴い、ハブユニット内ではより高温になる傾向があるため、グリースの耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。上記ウレア化合物は増ちょう剤量としては、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0046】
なお、グリース組成物のちょう度は混和ちょう度で220?340の範囲が好ましく、より好ましくは265?340の範囲である。220より小さいと硬くなりすぎて十分な潤滑効果が期待できず、340より大きいと軸受内部より漏洩する恐れがある。
【0047】
[剥離抑制剤]
本参考形態のグリース組成物には剥離抑制剤としてポリ(オキシエチレン)ドデシルアミン[{H(OCH_(2)CH_(2))_(n)}_(2)N-(CH_(2))_(11)CH_(3)]が含まれることが好ましい。ここでnは2以上の整数である。含有量はグリース全量の0.1?3質量%であり、好ましくは0.3?1質量%である。さらに好ましくは0.5?2質量%である。含有量が0.1質量%未満では効果は得られず、3質量%を超えて配合しても逆に耐剥離性が低下する。ポリ(オキシエチレン)ドデシルアミンを含有することで、グリース組成物の防錆性、耐水性が向上し、耐剥離性を向上させることができる。
【0048】
[その他の添加剤]
本参考形態のグリース組成物は、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。また、他の防錆剤との併用も可能である。
【0049】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、p,p’-ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどが挙げられる。
【0050】
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤や、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤などが使用される。
【0051】
防錆剤としては、例えば、エステル類等が挙げられる。エステル類の具体例としては、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類などが挙げられる。
【0052】
なお、これら添加剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常はグリース組成物全体に対して0.1?20質量%である。0.1質量%未満では添加剤の添加効果が乏しく、また、20質量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0053】
[製法]
本参考形態のグリース組成物を調製する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。剥離抑制剤は、得られた基油と増ちょう剤から得られたベースグリースに所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミル等で剥離抑制剤を添加した後十分撹拌し、均一分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するのも有効である。なお、上記製法において、摩耗防止剤や酸化防止剤等の添加剤は、剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0054】
<第4参考形態:グリース組成物例D>
本参考形態に係るハブユニット軸受用グリース組成物は、鉱物油及び合成油の少なくとも一方を主成分とする基油と、増ちょう剤と、剥離抑制剤を含有するグリース組成物とされている。そして、剥離抑制剤として2-エチルヘキシル酸ビスマスを、グリース組成物全体の0.1質量%以上5質量%以下含有するのが好ましい。より好ましくは0.5?2質量%である。
2-エチルヘキシル酸ビスマスは優れた耐水性と防錆性を有しているので、グリース組成物に水が混入した場合でも、車両用ハブユニット軸受1の外側軌道面21a,21b及び内側軌道面20a,20bに白色組織剥離や腐食が生じることが抑制される。よって、車両用ハブユニット軸受1は、水が侵入するような環境下で使用されても白色組織剥離や腐食が生じにくく長寿命である。
【0055】
2-エチルヘキシル酸ビスマスの含有量が0.1質量%未満であると、前述の効果が不十分となるおそれがある。一方、5質量%を超えて含有しても、前述の効果がそれ以上向上することはなく飽和する。このような不都合がより生じにくくするためには、2-エチルヘキシル酸ビスマスの含有量は0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
グリース組成物の基油として使用される鉱物油,合成油の種類は特に限定されるものではなく、グリースや潤滑油の基油として一般的に使用される油であれば、問題なく使用することができる。鉱物油としては、パラフィン系鉱物油,ナフテン系鉱物油,及びこれらの混合油等があげられるが、減圧蒸留,溶剤脱れき,溶剤抽出,水素化分解,溶剤脱ろう,硫酸洗浄,白土精製,水素化精製等のうち少なくとも1つにより、精製した鉱物油が好ましい。
【0057】
合成油としては、合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,シリコーン油,フッ素油等があげられる。このうち合成炭化水素油としては、ノルマルパラフィン,イソパラフィン,ポリブテン,ポリイソブチレン,1-デセンオリゴマー,1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリα-オレフィン又はその水素化物などがあげられる。また、モノアルキルベンゼン,ジアルキルベンゼン,ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼンや、モノアルキルナフタレン,ジアルキルナフタレン,ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレンなどもあげられる。
【0058】
また、エステル油としては、ジブチルセバケート,ジ(2-エチルヘキシル)セバケート,ジオクチルアジペート,ジイソデシルアジペート,ジトリデシルアジペート,ジトリデシルグルタレート,メチルアセチルリシノレート等のジエステル油や、トリオクチルトリメリテート,トリデシルトリメリテート,テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油があげられる。また、トリメチロールプロパンカプリレート,トリメチロールプロパンペラルゴネート,ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート,ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル油や、一塩基酸及び二塩基酸の混合脂肪酸と多価アルコールとのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などもあげられる。
【0059】
さらに、エーテル油としては、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリエチレングリコールモノエーテル,ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコールや、モノアルキルトリフェニルエーテル,アルキルジフェニルエーテル,ジアルキルジフェニルエーテル,テトラフェニルエーテル,ペンタフェニルエーテル,モノアルキルテトラフェニルエーテル,ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油などがあげられる。
【0060】
上記以外の合成油としては、トリクレジルフォスフェート,シリコーン油,パーフルオロアルキルエーテル油などがあげられる。
これらの油は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。基油の40℃における動粘度は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるためには、40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0061】
グリース組成物に使用される増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、グリース組成物の増ちょう剤として一般的に使用されるものであれば、問題なく使用することができる。例えば、リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム石けん,マグネシウム石けん,ナトリウム石けん等の金属石けんや、リチウム複合石けん,カルシウム複合石けん,アルミニウム複合石けん,マグネシウム複合石けん,ナトリウム複合石けん,バリウム複合石けん等の金属複合石けんがあげられる。さらに、ウレア化合物(ジウレア化合物,トリウレア化合物,テトラウレア化合物,ポリウレア化合物等),ウレア・ウレタン化合物,ウレタン化合物(ジウレタン化合物等),ベントナイト,シリカゲル等も使用できる。これらの増ちょう剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0062】
急速な進歩に伴う車両用ハブユニット軸受の高温化を考慮すると、グリース組成物には耐熱性が必要であるので、これらの増ちょう剤の中では、ウレア化合物,ウレア・ウレタン化合物,ウレタン化合物,又はそれらの混合物が好ましく、その中でも、ジウレア化合物,ウレア・ウレタン化合物,ジウレタン化合物,又はそれらの混合物がより好ましく、ジウレア化合物が特に好ましい。
【0063】
グリース組成物中の増ちょう剤の含有量は特に限定されるものではないが、5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。5質量%未満であると、半固体状のグリースを形成することが困難となるおそれがあり、40質量%超過であると、グリース組成物が硬くなりすぎて潤滑性が不十分となるおそれがある。
さらに、グリース組成物には、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を必要に応じて添加してもよい。例えば、酸化防止剤,防錆剤,極圧剤,油性剤,及び金属不活性化剤等があげられ、これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,硫黄系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。
このうちアミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル-1-ナフチルアミン,フェニル-2-ナフチルアミン,ジフェニルアミン,フェニレンジアミン,オレイルアミドアミン,フェノチアジン等があげられる。
【0065】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどがあげられる。
【0066】
防錆剤としては、エステル類等があげられる。エステル類の具体例としては、多塩基カルボン酸と多価アルコールとの部分エステルであるソルビタンモノラウレート,ソルビタントリステアレート,ソルビタンモノオレエート,ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート,ポリオキシエチレンオレエート,ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類などがあげられる。
【0067】
さらに、極圧剤としては、リン系極圧剤,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデン等があげられる。さらに、油性剤としては、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸や、ラウリルアルコール,オレイルアルコール等のアルコールや、ステアリルアミン,セチルアミン等のアミンや、リン酸トリクレジル等のリン酸エステルや、動植物油等があげられる。さらに、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール等があげられる。
【0068】
グリース組成物中の添加剤の含有量は特に限定されるものではないが、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、添加剤の添加効果が不十分となるおそれがある。一方、20質量%を超えて添加しても、それ以上の添加効果の向上が望めない上、基油の割合が相対的に少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。
【0069】
このようなグリース組成物を製造する方法は、特に限定されるものではなく、一般的なグリース組成物の製造方法を適用できる。ただし、剥離抑制剤は、ニーダ,ロールミル等で十分に撹拌することにより、グリース組成物に均一に分散させる必要がある。この時、加熱しながら撹拌すると、均一分散に対して有効である。なお、酸化防止剤等の他の添加剤をグリース組成物に含有させる場合には、剥離抑制剤と同時に添加することが、製造工程上好ましい。
【0070】
<第5参考形態:グリース組成物例E>
本参考形態に係るグリース組成物は鉱物油を主な基油とし、増ちょう剤として芳香族ウレアを用い、剥離抑制剤としてカルシウムスルフォネート、ジチオカルバミン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体を含むことが好ましい。特に剥離抑制剤として上記の三種類を含むことにより、含水下においても剥離寿命を延長でき、また増ちょう剤として芳香族ジウレアを使用することにより運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を防止することを特徴とする車両用ハブユニット軸受に用いるグリース組成物である。本参考形態のグリース組成物が剥離抑制に優れる理由は完全には解明していないが、鉱物油、芳香族ウレア、カルシウムスルフォネート、ジチオカルバミン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体の原料バランスと適正な配合処方がグリースに耐水性と強力な保護膜層の形成機能を付与したためと推測している。また、増ちょう剤として芳香族ウレアを使用することにより運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を防止することが可能となる。
【0071】
本参考形態では、鉱物油が基油として、増ちょう剤としては運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を考慮し、芳香族ウレアを使用する。芳香族ジウレア化合物の増ちょう剤量は、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0072】
本参考形態に使用するカルシウムスルフォネートには、石油スルフォン酸カルシウム、合成スルフォン酸カルシウムがあり、例えば、ジノニルナフタレン酸スルフォン酸カルシウム、アルキルベンゼンスルフォン酸カルシウム、またはこれらの混合物等が挙げられる。カルシウムスルフォネートの全塩基価が400mgKOH/g以下であり、より好ましくは300mgKOH/g以下、さらに好ましくは100mgKOH/g以下、さらに好ましくは70mgKOH/g以下、最も好ましくは全塩基価が50mgKOH/g以下である。
【0073】
また、本参考形態に用いるジチオカルバミン酸亜鉛としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジヘキシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジヘプチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジノニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジデシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジウンデシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジドデシルジチオカルバミン酸亜鉛、ジトリデシルジチオカルバミン酸亜鉛、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0074】
さらに、本参考形態に用いるベンゾトリアゾールまたはその誘導体の具体例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1,H-ベンゾトリアゾール、4-メチル-1,H-ベンゾトリアゾール、4-カルボキシル-1,H-ベンゾトリアゾール、ナトリウムトリルトリアゾール、5-メチル-1,H-ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾールブチルエーテル、銀ベンゾトリアゾール、5-クロロ-1,H-ベンゾトリアゾール、1-クロロ-ベンゾトリアゾール、1-ジ(C_(8)H_(17))アミノメチル-ベンゾトリアゾール、2,3-ジヒドロキシプロピル-ベンゾトリアゾール、1,2-ジカルボキシエチル-ベンゾトリアゾール、(C_(8)H_(17))アミノメチル-ベンゾトリアゾール、ビス(ベンゾトリアゾール1-イル-メチル)(C_(8)H_(17))アミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール1-メチルアミン、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)-5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール1-メチルアミン等が挙げられる。
【0075】
剥離抑制剤のカルシウムスルフォネート、ジチオカルバミン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体の含有量は、それぞれ0.1?10質量%、より好ましくはそれぞれ0.5?5質量%、さらに好ましくはそれぞれ1?3質量%、最も好ましくはそれぞれ2質量%である。
【0076】
[その他の添加剤]
本参考形態のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。特に好ましい添加剤として、酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0077】
その他の添加剤としては、防錆剤、油性向上剤、極圧剤などが挙げられる。防錆剤としては、エステル類が好ましく、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類等が挙げられる。
【0078】
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
極圧剤としては、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等が挙げられる。
【0079】
これら添加剤の添加量は、それぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて添加することができる。添加量は制限はないが、グリース全量の0.1?20質量%が好ましい。添加量が0.1質量%未満では添加剤の効果が乏しく、20質量%を超えて添加しても効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0080】
[製法]
グリース製造方法には特に制限は無いが、基油中で増ちょう剤を反応させる方法が一般的である。剥離抑制剤のカルシウムスルフォネート、ジチオカルバミン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールは、得られたグリースに所定量を添加し、ニーダやロールミル等で十分に混練して均一に分散させる。この処理を行うときは、加熱するものも有効である。またその他の添加剤は、上記剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。尚、得られるグリースのちょう度は、220?340であることが好ましい。
【0081】
<第6参考形態:グリース組成物例F>
本参考形態のグリース組成物は、基油と、金属複合石けんまたはウレア化合物からなる増ちょう剤とを含み、剥離抑制剤として界面活性剤及び金属不活性化剤を所定量添加したものであることが好ましい。基油、増ちょう剤、界面活性剤及び金属不活性化剤の組み合わせに制限はないが、以下に示す参考形態を示すことができる。
【0082】
[基油]
使用される基油は鉱物油系潤滑油及び合成系潤滑油の少なくとも一種である
鉱物油系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油が挙げられ、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものが好ましい。合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブデン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。前記芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。
また、上記基油は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために40℃における動粘度が40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0083】
[増ちょう剤]
増ちょう剤には、金属複合石けんまたはウレア化合物を用いることが好ましい。金属複合石けんとしては、リチウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウム等の金属複合石けんが挙げられる。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましく、ジウレア化合物を配合することが特に好ましい。増ちょう剤量の配合量は、上記基油とともにグリースを形成し、維持できる量であれば制限されるものではないが、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。増ちょう剤の配合割合が5質量%未満では、グリース状態を維持することが困難となり、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなり、またトルクを増大させる。
【0084】
[剥離抑制剤]
剥離抑制剤のうち、界面活性剤としては陰イオン型界面活性剤、陽イオン型界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン界面活性剤を選択して用いる。好ましくは、水分を微細な水滴、具体的には20μm以下の水滴としてグリース中に均一に分散させることができ、潤滑部位において油膜を良好に維持して潤滑状態を長期にわたり安定して維持できる陰イオン型界面活性剤、陽イオン型界面活性剤及び両性界面活性剤であり、より好ましくは、陰イオン型界面活性剤である。陰イオン型界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルスルホンコハク酸、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等が挙げられ、陽イオン型界面活性剤としてはアルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられ、両性界面活性剤としてはアルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられ、非イオン界面活性剤はアルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸コハク酸塩等が挙げられる。これらの界面活性剤の添加量は、グリース全量0.1?10質量%である。添加量が0.1質量%未満では、水を微細な粒子として取り込むことができず、10質量%を超えて添加しても増分に見合う効果の向上が認められない上、グリースが軟化し、軸受内部より漏洩するおそれがある。これらを考慮すると、界面活性剤の添加量は0.5?5質量%が好ましい。さらに好ましくは0.5?2質量%である。
剥離抑制剤のうち、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、インドール、メチルベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物が挙げられる。その中でも、ベンゾトリアゾールがより好ましい。金属不活性化剤の含有量は0.2?10質量%である。金属不活性化剤は転がり軸受の金属表面に不動態膜を形成する。このため、軸受内部に水が浸入した場合でも、金属表面に水膜を形成することを防止でき、耐剥離性向上が得られる。添加量が0.2質量%未満ではこの効果は得られず、10質量%を超えても効果は飽和して、さらなる性能向上は得られない。
【0085】
[その他の添加剤]
本参考形態のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。特に好ましい添加剤として、酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0086】
その他の添加剤としては、防錆剤、油性向上剤、極圧剤などが挙げられる。
防錆剤としては、エステル類が好ましく、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類等が挙げられる。
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
極圧剤としては、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等が挙げられる。
【0087】
これら添加剤の添加量は、それぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて添加することができる。添加量は制限はないが、グリース全量の0.1?20質量%が好ましい。添加量が0.1質量%未満では添加剤の効果が乏しく、20質量%を超えて添加しても効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0088】
[製法]
グリース製造方法には特に制限は無いが、基油中で増ちょう剤を反応させる方法が一般的である。剥離抑制剤は、得られたグリースに所定量を添加し、ニーダやロールミル等で十分に混練して均一に分散させる。この処理を行なうときは、加熱するものも有効である。またその他の添加剤は、剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。尚、得られるグリースの混和ちょう度は、220?340であることが好ましい。
【0089】
<第7参考形態:グリース組成物例G>
[基油]
使用される基油は鉱物油系潤滑油及び合成系潤滑油の少なくとも一種である
鉱物油系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油が挙げられ、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものが好ましい。
合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブデン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。前記芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。
また、上記基油は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために40℃における動粘度が40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0090】
[増ちょう剤]
増ちょう剤には、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石けん、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、現在のハブユニットの急速な進歩に伴い、ハブユニット内ではより高温になる傾向があるため、グリースの耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。上記ウレア化合物は増ちょう剤量としては、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0091】
[剥離抑制剤]
本参考形態のグリース組成物には剥離抑制剤としてオレイン酸とジシクロヘキシルアミンの塩よりなるアミン系防錆剤が添加される。上記アミン系防錆剤の添加量はグリース全量の0.1?5質量%である。添加量が0.1質量%未満では効果は得られず、5%を超えて添加しても効果の向上がない。こられを考慮すると、添加量は0.5?3質量%が好ましい。より好ましくは0.5?2質量%である。
【0092】
[その他の添加剤]
本参考形態のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上性、金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
【0093】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0094】
防錆剤としては、例えば、エステル類等が挙げられる。エステル類の具体例としては、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類等が挙げられる。
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤や、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤などが使用される。
【0095】
なお、これら添加剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常はグリース組成物全体に対して0.1?20質量%である。0.1質量%未満では添加剤の添加効果が乏しく、また、20質量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0096】
[製法]
本参考形態のグリース組成物を調整する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。剥離抑制剤は、得られたグリース組成物に所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミル等で上記添加剤を添加した後十分撹拌し、均一に分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するものも有効である。なお、上記製法において、摩耗防止剤や酸化防止剤等の添加剤は、剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0097】
<第8参考形態:グリース組成物例H>
[基油]
使用される基油は鉱物油系潤滑油及び合成系潤滑油の少なくとも一種である
鉱物油系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油が挙げられ、特に減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものが好ましい。
合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。前記炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブデン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマーなどのポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物などが挙げられる。前記芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、などのアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレンなどのアルキルナフタレンなどが挙げられる。前記エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテートなどの芳香族エステル油、さらにはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネートなどのポリオールエステル油、さらにはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油などが挙げられる。
前記エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテルなどのポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテルなどのフェニルエーテル油などが挙げられる。その他の合成潤滑基油としてはトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。
また、上記基油は、低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために40℃における動粘度が、40mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下であることが好ましい。さらに好ましくは50mm^(2)/s以上150mm^(2)/s以下、より好ましくは70mm^(2)/s以上120mm^(2)/s以下、最も好ましくは75mm^(2)/s以上110mm^(2)/s以下である。なお、熱帯地域での使用等高温で使用される場合、好ましくは100mm^(2)/s以上250mm^(2)/s以下の範囲である。40mm^(2)/s未満であると、耐水性の点で好ましくなく、250mm^(2)/s以上であるとトルクが大きくなり耐熱性の面で好ましくない。
【0098】
[増ちょう剤]
増ちょう剤には、ゲル構造を形成し、基油をゲル構造中に保持する能力があれば、特に制約はない。例えば、Li、Na等からなる金属石けん、Li、Na、Ba、Ca等から選択される複合金属石けん等の金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、現在のハブユニットの急速な進歩に伴い、ハブユニット内ではより高温になる傾向があるため、グリースの耐熱性を考慮するとウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物または、これらの混合物が好ましい。ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が挙げられ、これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物がより好ましい。さらに好ましくは、ジウレア化合物を配合することが望ましい。上記ウレア化合物は増ちょう剤量としては、グリース全量に対して、5?40質量%であることが好ましい。より好ましくは5?35質量%、さらに好ましくは5?25質量%、最も好ましくは8?25質量%である。ここで、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満であると、グリース状態を維持することが困難になってしまい、一方、増ちょう剤の配合割合が40質量%を超えると、グリース組成物が硬くなりすぎて、潤滑状態を十分に発揮することができなくなってしまうため、好ましくない。
【0099】
[剥離抑制剤]
本参考形態のグリース組成物には剥離抑制剤としてカルボン酸無水物がさらに含まれることが好ましい。カルボン酸無水物としてはアルケニルコハク酸無水物が好ましく挙げられ、アルケニルコハク酸無水物のアルケニル基としては炭素数が6?30のものが好ましく、より好ましくは炭素数が8、12のものであり、最も好ましくは炭素数が8のものである。アルケニルコハク酸無水物の添加量はグリース全量の0.1?5質量%である。添加量が0.1質量%未満では効果は得られず、5%を超えて添加しても効果の向上がない。こられを考慮すると、添加量は0.5?3質量%が好ましい。より好ましくは0.5?2質量%である。
【0100】
[その他の添加剤]
本参考形態のグリース組成物には、各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性向上性、金属不活性化剤など、グリース組成物に一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。
【0101】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノール等が挙げられる。
【0102】
防錆剤としては、例えば、エステル類等が挙げられる。エステル類の具体例としては、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類や、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のアルキルエステル類等が挙げられる。
油性向上剤としては、例えば、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン、セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等が挙げられる。
さらに、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等の極圧剤や、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤などが使用される。
【0103】
なお、これら添加剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常はグリース組成物全体に対して0.1?20質量%である。0.1質量%未満では添加剤の添加効果が乏しく、また、20質量%を超えて添加しても添加効果の向上が望めない上、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0104】
[製法]
本参考形態のグリース組成物を調整する方法には特に制約はない。しかし、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。剥離抑制剤は、得られたグリース組成物に所定量を配合することが好ましい。ただし、ニーダやロールミル等で剥離抑制剤を添加した後十分撹拌し、均一に分散させる必要がある。この処理を行なうときは、加熱するものも有効である。なお、上記製法において、摩耗防止剤や酸化防止剤等の添加剤は、剥離抑制剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例、参考例及び比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0106】
<参考例A>
上述の第1参考形態について、軸受耐水性試験を行ったので説明する。
まず、表1に示す配合にて、参考例A1?A4及び比較例A1?A2の試験グリース組成物を調製した。また、各試験グリース組成物とも、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン;Vanlube81(Vanderbit社製)、防錆剤(ナフテン酸亜鉛;ナフテックス亜鉛(日本化学産業社製)をそれぞれ1.0質量%添加した。
【0107】
次に、上述のようにして調製した各試験グリース組成物を用いて、軸受耐水性試験を行った。軸受耐水性試験は、試験グリース組成物を充填した日本精工株式会社社製の円すいころ軸受「HR32017(内径:85mm、外径:130mm、幅:29mm)」を、ラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kNの条件下、回転速度1500min-1で回転させることにより行った。試験中は外部から水を軸受内に1質量%/secの割合で充填し、100h連続回転させた後に試験を終了し、はくりの発生の発生有無を確認した。なお、試験終了前には各グリース組成物のちょう度を測定した。上記の測定結果及び試験結果を表1にまとめて示す。
【0108】
【表1】

【0109】
表1に示すように、比較例ではいずれもはく離が発生したが、参考例ではいずれもはく離が発生せず、本発明によれば耐水性及び耐はく離性に極めて優れていることが確認され、軸受が長寿命となることが確認された。
【0110】
<実施例B> 上述の第2実施形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(実施例B1、B2)
まず、基油に鉱物油を用い、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとp-トルイジンとの反応で生成したジウレアを反応させ、撹拌加熱してウレア系ベースグリースを得た。徐冷後、ベースグリースにオレオイルザルコシン(日本油脂製)を添加量が1質量%となるように加え、撹拌、脱泡処理を行なうことで試験グリース(実施例B1)を得た。また、基油として鉱物油及びポリ-α-オレフィン油の混合油を用いた以外は上記方法と同様に試験グリース(実施例B2)を調製した。
【0111】
(比較例B1?B3)
また、比較として、上記ウレア系ベースグリースのみからなる試験グリース(比較例B1)、ウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネート(日本精化製)を1質量%添加した試験グリース(比較例B2)及び基油として鉱物油及びポリ-α-オレフィン油の混合油を用いたウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加した試験グリース(比較例B3)を上記方法により調製した。
なお、各試験グリースとも、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン:東京化成製)を1質量%添加してある。
【0112】
(防錆試験)
日本精工(株)製玉軸受「608」に各試験グリースを空間容積の20%封入し、高湿恒温槽(試験条件:温度80℃、湿度90%)で一週間放置後、目視により内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により以下のようにランク分けを行った。
錆なし:A 錆1?5個:B 錆6個以上:C
【0113】
(軸受耐水性試験)
日本精工(株)製円すいころ軸受「HR32017(内径:85mm、外径:130mm)」に各試験グリースを封入し、ラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入しながら連続回転させた。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各グリースについて10回ずつ行い、下記式により剥離発生確率を求めた。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
試験結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
表2から、オレオイルザルコシンを配合したグリースは耐剥離性に優れるだけでなく、耐腐食性にも優れることがわかる。これに対し、オレオイルザルコシンを配合しないもの及び防錆剤としてバリウムスルホネートを配合したものは、充分な耐剥離性及び耐腐食性を得られないことがわかる。
【0116】
<参考例C>
上述の第3参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(参考例C1)
まず、基油に鉱物油を用い、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートとp-トルイジンとの反応で生成したジウレアを反応させ、撹拌加熱してウレア系ベースグリースを得た。徐冷後、ベースグリースに上述のnが2以上のポリ(オキシエチレン)ドデシルアミン(日本油脂製;ナイミーン)を添加量が1質量%となるように加え、撹拌、脱泡処理を行なうことで試験グリース(参考例C1)を得た。
【0117】
(比較例C1?C3)
また、比較として、上記ウレア系ベースグリースのみからなる試験グリース(比較例C1)、ウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネート(日本精化製)を1質量%配合した試験グリース(比較例C2)及びポリ(オキシエチレン)ドデシルアミンを5質量%配合した試験グリース(比較例C3)を上記方法により調製した。
なお、各試験グリースとも、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン:東京化成製)を1.0質量%添加してある。
【0118】
(防錆試験)
日本精工(株)製玉軸受「608」に各試験グリースを空間容積の20%封入し、高湿恒温槽(試験条件:温度80℃、湿度90%)で一週間放置後、目視により内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により以下のようにランク分けを行った。
錆なし:A 錆1?5個:B 錆6個以上:C
【0119】
(軸受耐水性試験)
日本精工(株)製円すいころ軸受「HR32017(内径:85mm、外径:130mm)」に各試験グリースを封入し、ラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入しながら連続回転させた。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各グリースについて10回ずつ行い、下記式により剥離発生確率を求めた。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
試験結果を表3に示す。
【0120】
【表3】

【0121】
表3から、ポリ(オキシエチレン)ドデシルアミンを本参考形態の含有量以内で配合したグリースは耐剥離性に優れるだけでなく、耐腐食性にも優れることがわかる。これに対し、ポリ(オキシエチレン)ドデシルアミンを配合しないもの、防錆剤としてバリウムスルホネートを配合したもの、ポリ(オキシエチレン)ドデシルアミンを過剰量配合したものは、充分な耐剥離性及び耐腐食性を得られないことがわかる。
【0122】
<参考例D>
上述の第4参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
構成の異なる5種類のグリース組成物(表4を参照)を用意して、その性能を評価した。
【0123】
【表4】

【0124】
まず、グリース組成物の構成について説明する。参考例D1,D2のグリース組成物は、表4に示すように、鉱物油及びポリα-オレフィン油の少なくとも一方からなる基油と、ジウレア化合物からなる増ちょう剤と、2-エチルヘキシル酸ビスマスと、を含有し、さらに添加剤として酸化防止剤を含有している。比較例D1のグリース組成物は、2-エチルヘキシル酸ビスマスを含有していないものであり、比較例D2,D3のグリース組成物は、2-エチルヘキシル酸ビスマスの代わりに防錆剤を用いたものである。
【0125】
なお、使用した鉱物油,ポリα-オレフィン油,ジウレア化合物,酸化防止剤,及び防錆剤は、以下の通りである。
・鉱物油:40℃における動粘度が98.3mm^(2)/sのもの
・ポリα-オレフィン油:40℃における動粘度が98.7mm^(2)/sのもの
・ジウレア化合物:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとp-トルイジンとを反応させて得られたもの
・酸化防止剤:東京化成工業株式会社製のp,p’-ジオクチルジフェニルアミン
・防錆剤:日本精化株式会社製のバリウムスルホネート
【0126】
これらのグリース組成物は、以下のようにして製造した。まず、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを含有する基油とp-トルイジンを含有する基油とを混合し、加熱しながら撹拌して、ベースグリースを得た。ベースグリースを冷却した後、2-エチルヘキシル酸ビスマス及び酸化防止剤(比較例の場合は、酸化防止剤のみ又は酸化防止剤と防錆剤)を添加し、撹拌及び脱泡処理を行って、試験に用いるグリース組成物を得た。グリース組成物の混和ちょう度(25℃)は、いずれもNLGIちょう度番号のNo.2に調整した。
【0127】
これらのグリース組成物について防錆性試験及び耐水性試験を行った。以下にその方法を説明する。
〔防錆性試験について〕
日本精工株式会社製の呼び番号608の玉軸受に、参考例D1,D2及び比較例D1?D3のグリース組成物を軸受空間容積の20%を占めるように充填した。そして、温度80℃,湿度90%RHに調整された恒温恒湿槽にこの玉軸受を7日間静置した後、玉軸受を分解して内輪の軌道面に発生している錆の状況を目視により確認した。そして、発生した点状の錆の個数により、以下のようなランクに評価した。
A:錆の発生なし B:1?5個 C:6個以上
【0128】
〔耐水性試験について〕
日本精工株式会社製の円すいころ軸受(呼び番号HR32017、内径85mm、外径130mm、幅29mm)に、参考例D1,D2及び比較例D1?D3のグリース組成物を充填した。そして、ラジアル荷重35.8kN,アキシアル荷重15.7kN,回転速度1500rpmという条件で回転させた。その際には、水を20ml/hの速度で軸受の内部空間(空隙部)に連続的に注入しながら回転試験を行った。
【0129】
そして、外輪の軌道面に剥離が発生して振動が生じるまでの時間を測定した。ただし、100時間回転試験を行っても剥離が発生しなかった場合は、回転試験を打ち切った。1種のグリース組成物につき10個ずつ回転試験を行って、剥離が発生した軸受の割合を算出した。
試験結果を表4に示す。表4から分かるように、2-エチルヘキシル酸ビスマスを含有する参考例D1,D2のグリース組成物が封入された軸受は、比較例D1?D3のグリース組成物が封入された軸受と比べて、水が混入するような環境下で使用されても剥離が生じにくく長寿命であった。また、腐食も生じにくかった。
【0130】
<参考例E>
上述の第5参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(参考例E1、比較例E1?E79)
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを混合した鉱物油にp-トルイジンを混合した鉱物油を加えて反応させ、撹拌加熱して芳香族ウレアベースグリースを調製した(比較例E8、E9は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとステアリルアミンにより調製した脂肪族ウレアベースグリースを使用)。徐冷後、表5に示す割合で各種添加剤を添加し、撹拌、ロールミルで良く混練した後、脱泡処理を行ない試験グリースを得た。尚、試験グリースのちょう度は、NLGINo.1?3に調整した。そして、各試験グリースについて、下記に示す軸受耐水性試験及び耐フレッチング試験を実施した。
【0131】
(軸受耐水性試験)
円すいころ軸受HR32017(内径:85mm、外径:130mm)を用いラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入することにより、剥離試験を行なった。剥離試験は、100時間を目標に試験を行なった。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各10例行ない、下記式により剥離発生確率をそれぞれ算出した。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0132】
[耐フレッチング試験]
ASTM D 4170に規定された試験方法により耐フレッチング試験を行ない、重量変化を求めた。この試験は、試験前後の試験片の質量差を測定し、この質量差を三段階に分けて評価を行なった。車両用としては下記基準でAランク及びBランクが好ましいとされており、Aランク及びBランクを合格とした。
Aランク:重量減が3mg以下
Bランク:重量減が3mgを超え5mg未満
Cランク:重量減が5mg以上
【0133】
【表5】

【0134】
表5より、剥離抑制剤としてカルシウムスルフォネート、ジチオカルバミン酸亜鉛、ベンゾトリアゾールの三種を各2%ずつ添加し、増ちょう剤として芳香族ジウレアを使用したグリースは耐剥離性及び耐フレッチング性に優れ、良好な潤滑状態を長期間維持することが可能であることがわかる。上記の結果より、本発明の耐水性グリース組成物を使用した車両用ハブユニット軸受はその軸受寿命を延長することができる。
【0135】
<参考例F>
上述の第6参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(参考例F1?F4、比較例F1?F2)
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを混合した鉱物油にp-トルイジンを混合した鉱物油を加えて反応させ、撹拌加熱して芳香族ウレアグリースを調製した。徐冷後、表6に示す割合で界面活性剤、金属不活性化剤及び酸化防止剤を添加し、撹拌、脱泡処理を行ない試験グリースを得た。尚、試験グリースのちょう度は、NLGINo.1?3に調整した。そして、各試験グリースについて、下記に示す含水シェルロール試験及び軸受耐水性試験を行なった。
【0136】
(含水シェルロール試験)
試験グリース50gとイオン交換水10gとをシェルロール試験機に入れ、回転数165rpm、温度40℃の条件で2時間含水シェルロール試験を行なった。その後、光学顕微鏡によりグリース中の水の粒径の測定を行なった。結果を表6に併記する。また、グリース中の状態を撮影した写真を図4?図8に示す。
【0137】
(軸受耐水性試験)
円すいころ軸受HR32017(内径:85mm、外径:130mm)を用いラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入することにより、剥離試験を行なった。剥離試験は、100時間を目標に試験を行なった。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各10例行ない、下記式により剥離発生確率をそれぞれ算出した。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0138】
【表6】

【0139】
表6からグリース中に水を微粒子として分散することのできる陰イオン、陽イオン及び両性界面活性剤1%、及び軸受表面に不動態化膜を形成することのできるベンゾトリアゾール1%を含む参考例F1?F3、特に陰イオン界面活性剤を含む参考例F1記載のグリースは耐剥離性に優れ、良好な潤滑状態を長期間維持することが可能であることがわかる。これに対し、界面活性剤及び金属不活性化剤を含まないものでは十分な耐剥離性が得られないことがわかる。
【0140】
<参考例G>
上述の第7参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(参考例G1、G2)
まず、ジイソシアネートを混合した鉱物油にアミンを混合した基油を反応させ、撹拌加熱してウレア系ベースグリースを得た。徐冷後、ベースグリースにオレイン酸とジシクロヘキシルアミンの塩よりなるアミン系防錆剤の添加量が1質量%となるように加え、撹拌、脱泡処理を行なうことで試験グリースを得た。また、基油として鉱物油及びポリαオレフィン油の混合油を用いたウレア系グリースも上記方法を用いて調整した。
(比較例G1?G3)
また、比較例として、上記ウレア系ベースグリースのみからなる試験グリース(比較例G1)、ウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネート(日本精化製)を1質量%添加したグリース(比較例G2)及び基油として鉱物油及びポリαオレフィン油の混合油を用いたウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加したグリース(比較例G3)を上記方法により調製した。
尚、試験グリースのちょう度は、NLGI No.2に調整した。また、各試験グリースとも、アミン系酸化防止剤(p、p’-ジオクチルジフェニルアミン;東京化成製)を1質量%添加してある。
【0141】
(防錆試験)
日本精工(株)製玉軸受「608」に各試験グリースを空間容積の20%封入し、恒湿恒温槽(試験条件:温度80℃、湿度90%)で一週間放置後、目視により内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により以下のようにランク分けを行った。
錆なし:A 錆1?5個:B 錆6個以上:C
【0142】
(軸受耐水性試験)
日本精工(株)製円すいころ軸受「HR32017(内径:85mm、外径:130mm)」に各試験グリースを封入し、ラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入しながら連続回転させた。剥離試験は、100時間を目標に試験を行なった。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各グリースについて10回ずつ行ない、下記式により剥離発生確率を求めた。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0143】
【表7】

【0144】
表7から、オレイン酸とジシクロヘキシルアミンの塩よりなるアミン系防錆剤を配合したグリースは、耐剥離性に優れるだけでなく、耐腐食性にも優れることがわかる。これに対し、上記アミン系防錆剤を配合しないグリース及び防錆剤としてバリウムスルホネートを配合したグリースは、充分な耐剥離性及び耐腐食性を得られないことがわかる。
【0145】
<参考例H>
上述の第8参考形態について、以下の試験を行ったので説明する。
(参考例H1、H2)
まず、ジイソシアネートを混合した鉱物油にアミンを混合した基油を反応させ、撹拌加熱してウレア系ベースグリースを得た。徐冷後、ベースグリースにアルケニルコハク酸無水物の添加量が1質量%となるように加え、撹拌、脱泡処理を行なうことで試験グリースを得た。また、基油として鉱物油及びポリαオレフィン油の混合油を用いたウレア系グリースも上記方法を用いて調製した。
(比較例H1?H3)
また、比較例として、上記ウレア系ベースグリースのみからなる試験グリース(比較例H1)、ウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加したグリース(比較例H2)及び基油として鉱物油及びポリαオレフィン油の混合油を用いたウレア系ベースグリースに防錆剤としてバリウムスルホネートを1質量%添加したグリース(比較例H3)を上記方法により調製した。
尚、試験グリースのちょう度は、NLGI No.2に調整した。また、各試験グリースとも、アミン系酸化防止剤(p,p’-ジオクチルジフェニルアミン)を1質量%添加してある。
【0146】
(防錆試験)
日本精工(株)製玉軸受「608」に各試験グリースを空間容積の20%封入し、恒湿恒温槽(試験条件:温度80℃、湿度90%)で一週間放置後、目視により内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により以下のようにランク分けを行った。
錆なし:A 錆1?5個:B 錆6個以上:C
【0147】
(軸受耐水性試験)
日本精工(株)製円すいころ軸受「HR32017(内径:85mm、外径:130mm)」に各試験グリースを封入し、ラジアル荷重35.8kN、アキシアル荷重15.7kN、回転速度1500rpmにて、外部から水を軸受内に20ml/h毎の割合で導入しながら連続回転させた。剥離試験は、100時間を目標に試験を行なった。軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、あるいは剥離が発生しない場合には100時間経過した時点で試験を終了した。試験は各グリースについて10回ずつ行ない、下記式により剥離発生確率を求めた。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0148】
【表8】

【0149】
表8から、アルケニルコハク酸無水物を配合したグリースは、耐剥離性に優れるだけでなく、耐腐食性にも優れることがわかる。これに対し、アルケニルコハク酸無水物を配合しないもの及び防錆剤としてバリウムスルホネートを配合したものは、充分な耐剥離性及び耐腐食性を得られないことがわかる。
【0150】
以上の実施例・参考例・比較例A?Hを考慮すると、いずれの実施形態においても、バリウムスルホネートは含有しないのが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明に係るハブユニット軸受用グリース組成物は、耐剥離性、耐水性、および耐腐食性に優れ、水分が混入しやすい環境下または含水下で使用されても白色組織剥離や腐食が生じ難い。したがって、良好な潤滑を長期間維持することが可能である。
なお、本出願は、2005年1月24日出願の日本特許出願(特願2005-15496)、2005年7月12日出願の日本特許出願(特願2005-203328)、2005年7月12日出願の日本特許出願(特願2005-203329)および2005年7月25日出願の日本特許出願(特願2005-214053)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-04-17 
結審通知日 2018-04-19 
審決日 2018-05-07 
出願番号 特願2006-554000(P2006-554000)
審決分類 P 1 41・ 855- Y (C10M)
P 1 41・ 853- Y (C10M)
P 1 41・ 854- Y (C10M)
P 1 41・ 841- Y (C10M)
P 1 41・ 852- Y (C10M)
P 1 41・ 856- Y (C10M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 天野 宏樹
木村 敏康
登録日 2012-07-27 
登録番号 特許第5044858号(P5044858)
発明の名称 転がり軸受、ハブユニット軸受用グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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