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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C10M
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C10M
管理番号 1341324
審判番号 訂正2018-390065  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-04-02 
確定日 2018-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4980641号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4980641号の明細書、及び、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、及び、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

本件訂正審判に係る特許は、発明の名称を「転がり軸受」とする特許第4980641号(以下、「本件特許」という。)であって、平成18年4月5日を出願日(優先権主張:平成17年4月6日 日本国、平成17年5月11日 日本国)とする特願2006-104248号について、平成24年4月27日、設定登録を受けたものである(設定登録時の請求項の数は6である。)。その後、本件特許に対し、平成30年4月2日に訂正審判の請求がなされたものである。

第2 本件訂正審判の請求の趣旨と訂正内容

1 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

2 本件訂正の内容
本件訂正審判に係る明細書及び特許請求の範囲の訂正の内容は、以下に示す、訂正事項1ないし8である(以下、これらを併せて「本件訂正」という。)。
なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲【請求項1】の「前記導電性グリース組成物は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有する基油と、3種のカーボンブラックと、を含有し、」との記載を、「前記導電性グリース組成物は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有する基油と、3種のカーボンブラックと、極圧剤と、防錆剤として亜鉛スルホネートと、を含有し、」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?4及び6において同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の【請求項5】を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲【請求項6】の「請求項1?5のいずれか一項に記載の転がり軸受」との記載を、「請求項1?4のいずれか一項に記載の転がり軸受」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0010】の「すなわち、本発明に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配された空隙部内に封入された導電性グリース組成物と、を備える転がり軸受において、前記導電性グリース組成物は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有する基油と、2種のカーボンブラックと、を含有し、前記2種のカーボンブラックは、比表面積が20m^(2)/g以上80m^(2)/g以下の第一カーボンブラックと、比表面積が200m^(2)/g以上1500m^(2)/g以下の第二カーボンブラックであることを特徴とする。」との記載を削除する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0011】?【0019】を削除する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0020】の「さらに、」との記載を削除する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0033】の「及び油性剤の少なくとも一方」との記載を削除する。

(8)訂正事項8
明細書の段落【0052】【表1】の「実施例3」、「実施例4」及び「実施例5」を、「参考例3」、「参考例4」及び「参考例5」にそれぞれ訂正し、同段落【0053】【表2】の「実施例6」及び「実施例7」を、「参考例6」及び「参考例7」にそれぞれ訂正し、同段落【0062】の「実施例1?7」との記載を、「実施例1?2及び参考例3?7」に訂正する。

第3 当審の判断

前記訂正事項1ないし8が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否か(訂正の目的の適否)、同条第5項(新規事項の追加の有無)、同条第6項(特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無)及び同条第7項(独立特許要件充足性)の各規定に適合するものであるか否かについて、訂正事項1から順に以下検討をする。

1 訂正事項1について
(1)訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の転がり軸受に封入されている導電性グリース組成物を、「極圧剤」及び「防錆剤として亜鉛スルホネート」をその成分として追加することで減縮するものであるから、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
また、請求項2?4及び6は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正事項1は、請求項2?4及び6についても上記請求項1と同様の訂正を行うものであるところ、当該訂正も、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

(2)新規事項追加の有無
特許請求の範囲の訂正前請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正前請求項5には、「前記導電性グリース組成物が極圧剤及び油性剤の少なくとも一方を含有する」と記載されている。また、本件訂正前の明細書の段落【0045】には、極圧剤に関し、「導電性グリース組成物6には、潤滑剤に一般的に使用される各種添加剤を添加してもよく、添加剤の中でも極圧剤及び油性剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。」と記載され、明細書の段落【0048】には、防錆剤に関し、「極圧剤、油性剤以外の添加剤を、所望により添加してもよい。例えば、酸化防止剤,防錆剤,金属不活性剤である。」、「防錆剤としては、例えば金属系防錆剤,無灰系防錆剤があげられる。金属系防錆剤の具体例としては、(石油)スルフォン酸金属塩(バリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ナトリウム塩,亜鉛塩,アルミニウム塩,リチウム塩等)のような油溶性スルホネートや、フェネート,サリシレート,ホスホネート等があげられる。」と記載され、防錆剤の具体例として、スルフォン酸金属塩(亜鉛塩)、すなわち、亜鉛スルホネートが記載されているといえる。
そして、明細書の段落【0052】の【表1】の実施例1、2には、極圧剤と、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む導電性グリース組成物が具体的に記載されている。
このように、導電性グリース組成物において、「極圧剤」及び「防錆剤として亜鉛スルホネート」をその成分として追加することは、明細書において具体例をもって示されていた事項であるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項1は、特許請求の範囲に記載された「導電性グリース組成物」について、その成分を追加して限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないといえる。
同様に、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?4及び6については、請求項1の訂正以外に何ら訂正するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものである。

(4)独立特許要件充足性
訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、先行技術との関係において、特許要件を満たさなくなるような事情は存在せず、訂正事項1により、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載に新たな記載不備が生じるわけでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。

2 訂正事項2について
(1)訂正の目的の適否
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

(4)独立特許要件充足性
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項5を削除するというものであるから、独立特許要件が満たされなくなることはなく、特許法第126条第7項に規定する要件を満たすものといえる。

3 訂正事項3
(1)訂正の目的の適否
訂正事項3は、請求項6を、削除する請求項5を引用せず、訂正後の請求項1?4のみを引用するものとする訂正であって、引用する請求項の数が減少するのであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項3は、請求項6を、削除する請求項5を引用せず、訂正後の請求項1?4のみを引用するものとする訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項3は、請求項6を、削除する請求項5を引用せず、訂正後の請求項1?4のみを引用するものとする訂正であって、訂正前の請求項6に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ訂正前の請求項6に記載された発明の対象や目的を変更するものではない。
よって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

4 訂正事項4
(1)訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書の段落【0010】には、「前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。」との記載に続いて、本件特許出願時の特許請求の範囲【請求項1】の「2種のカーボンブラック」を用いることなどを特徴とする発明の構成が記載されている。
しかしながら、本件特許の設定登録時及び訂正後の特許請求の範囲には、もはや本件特許出願時の特許請求の範囲【請求項1】に対応する態様は含まれておらず、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の間で整合せず、不明瞭となっていた。
訂正事項4は、発明の詳細な説明の記載を、特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項4は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間の整合を図るために、もはや特許請求の範囲に含まれなくなっている態様を削除するものである。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項4は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間の整合を図るために、もはや特許請求の範囲に含まれなくなっている態様を削除するものである。
よって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

5 訂正事項5
(1)訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書の段落【0011】?【0012】には、本件特許出願時の特許請求の範囲【請求項1】に記載されていた発明特定事項の効果が記載され、同段落【0013】?【0015】には、本件特許出願時の特許請求の範囲【請求項2】に記載されていた発明特定事項及び効果が記載され、同段落【0016】?【0018】には、本件特許出願時の特許請求の範囲【請求項3】に記載されていた発明特定事項及び効果が記載され、同段落【0019】には、特許出願出願時の特許請求の範囲【請求項4】に記載されていた発明特定事項及び効果が記載されている。
しかしながら、本件特許の設定登録時及び訂正後の特許請求の範囲には、もはや本件特許の出願時の特許請求の範囲【請求項1】?【請求項4】に対応する態様は含まれておらず、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間で不明瞭となっていた。
訂正事項5は、発明の詳細な説明の記載を、特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするといえる。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項5は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間の整合を図るために、もはや特許請求の範囲に含まれなくなっている態様を削除するものである。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項5は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間の整合を図るために、もはや特許請求の範囲に含まれなくなっている態様を削除するものである。
よって、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

6 訂正事項6
(1)訂正の目的の適否
訂正事項4及び5による本件訂正前の明細書の段落【0010】の「すなわち、本発明に係る転がり軸受は、・・・」?【0019】の「・・・破壊されにくい。」を削除することに伴い、同段落【0010】の「前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。」との記載に続き、同段落【0020】の「さらに、・・・」と記載されることになるから、日本語の文脈が不明瞭なものとなった。
訂正事項6は、同段落【0020】から「さらに、」との記載を削除して、当該不明瞭な文脈を明確にするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項6は、不明瞭な文脈を明確にするために、「さらに、」との不要な記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項6は、不明瞭な文脈を明確にするために、「さらに、」との不要な記載を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

7 訂正事項7
(1)訂正の目的の適否
本件訂正前の明細書の段落【0033】には、本件訂正前の特許請求の範囲【請求項1】に対応する「本発明に係る転がり軸受において、前記導電性グリース組成物が極圧剤及び油性剤の少なくとも一方を含有することが好ましい」との記載がなされていたところ、当該【請求項1】は、訂正事項1によって極圧剤を含むことが必須となったことにより、両者は整合しないものとなった。
訂正事項7は、当該不整合を解消するため、同段落【0033】において「極圧剤及び油性剤の少なくとも一方」との記載から「及び油性剤の少なくとも一方」との記載を削除して、極圧剤を必ず含有することを明確にするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするといえる。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項7は、本件訂正後の特許請求の範囲の記載と整合しない「及び油性剤の少なくとも一方」との記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項7は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載にに対して、明細書の記載を整合させるため、「及び油性剤の少なくとも一方」との記載を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

8 訂正事項8
(1)訂正の目的の適否
訂正前の明細書の段落【0052】の【表1】及び段落【0053】の【表2】には、本件特許出願時の特許請求の範囲に記載されていた発明特定事項を充足する実施例1?7が記載されているが、平成24年3月12日付手続補正書における手続補正及び訂正事項1による特許請求の範囲の訂正により、実施例3?7は訂正後の特許請求の範囲の発明特定事項を充足しないことになり、「実施例」との記載は、前記訂正事項1により減縮された特許請求の範囲の記載との間で整合しないものとなった。
訂正事項8は、当該不整合を解消するため、訂正後の特許請求の範囲に含まれなくなる訂正前の【表1】及び【表2】に記載されていた「実施例3?7」を、「参考例3?7」に訂正し、同段落【0062】の「実施例1?7」との記載も、「実施例1?2及び参考例3?7」に訂正するものである。
よって、訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるといえる。

(2)新規事項追加の有無
訂正事項8は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲に含まれなくなる態様を「参考例」に訂正するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は 図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。

(3)特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項8は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲に含まれなくなる態様を「参考例」に訂正するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないから、特許法第126条第6項に規定する要件を満たすものといえる。

第4 結び

以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、又は第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れた転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の事務機器や情報機器、例えば複写機においては、その可動部分には多数の転がり軸受が使用されている。このような転がり軸受の内外輪の軌道面と転動体との間には回転中は油膜が形成されていて、軌道面と転動体とは非接触となっている。このような転がり軸受においては回転に伴って静電気が発生するため、その放射ノイズが複写機の複写画像に歪み等の悪影響を及ぼす等の不都合が生じる場合がある。
【0003】
このような不都合が生じることを防止するため、導電性グリースを転がり軸受内部に封入することにより、内外の軌道輪及び転動体を導電状態にするとともに、内外の軌道輪のうち一方を接地することにより、静電気を該転がり軸受から除去するという対策が取られている。そして、導電性グリースとしては、カーボンブラックを増ちょう剤及び導電性付与添加剤として添加したものが主流であった(例えば、特許文献1に記載のもの)。
【0004】
しかしながら、このような導電性グリースを封入した転がり軸受は、初期においては優れた導電性を示す(内外の軌道輪及び転動体が導電状態となっている)ものの、導電性が経時的に低下して転がり軸受の内外輪間の電気抵抗値(以降は軸受抵抗値と記す)が大きくなることがあるという問題点があった。そして、このような現象の原因としては、以下のようなことが考えられた。
【0005】
すなわち、導電性グリースは当初は転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面に十分に存在していて、その導電性グリース中のカーボンブラックにより、軌道輪と転動体との間の導電性が確保されるが、軌道輪と転動体との相対運動により、時間の経過とともに導電性グリースが前記接触面から排除されたり、また、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されたりするため、導電性が低下して軸受抵抗値が経時的に大きくなるという現象が生じるのである。
【0006】
また、特許文献2にも記載されているように、長時間にわたって転がり軸受を回転させた場合には、転がり軸受の軌道面に生じる酸化被膜が内外輪間の電気抵抗値を上昇させるとも言われている。この対策としては、転がり軸受の転がり接触面を保護するために極圧添加剤や摩耗防止剤を用いる方法(特許文献2を参照)や、無機化合物微粒子を配合する方法(特許文献3を参照)がある。しかしながら、極圧添加剤は、一般的には高温では効果が小さい場合が多い。また、単に無機化合物微粒子を添加した場合は、グリースが経時的に硬化又は軟化したり、長期的に離油度が安定しないことが多い。
【0007】
さらに、特許文献4には、フタル酸ジブチル吸収量(以降はDBP吸収量と記す)の小さいカーボンブラックを比較的多量に配合して、長期間にわたる導電性の安定化を図った導電性グリースが記載されている。事務機器や情報機器には、グリースや油分により劣化が促進されやすい樹脂部品が多用されているため、転がり軸受からのグリース漏れや油分の分離は極力少ない方が好ましいが、特許文献4に記載の導電性グリースは、増ちょう剤でもあるカーボンブラックのDBP吸収量が小さいため、特に高温において離油度が高くなるおそれがある。
【0008】
【特許文献1】特公昭63-24038号公報
【特許文献2】特開2002-80879号公報
【特許文献3】特開2003-42166号公報
【特許文献4】特開2002-53890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた導電性を示し、且つ、グリース組成物の漏洩が生じにくい転がり軸受を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。
【0011】(削除)
【0012】(削除)
【0013】(削除)
【0014】(削除)
【0015】(削除)
【0016】(削除)
【0017】(削除)
【0018】(削除)
【0019】(削除)
【0020】
本発明に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配された空隙部内に封入された導電性グリース組成物と、を備える転がり軸受において、前記導電性グリース組成物は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有する基油と、3種のカーボンブラックと、を含有し、前記3種のカーボンブラックは、比表面積が20m^(2)/g以上80m^(2)/g以下の第一カーボンブラックと、比表面積が200m^(2)/g以上1500m^(2)/g以下の第二カーボンブラックと、比表面積が80m^(2)/g超過200m^(2)/g未満の第三カーボンブラックと、であることを特徴とする。
【0021】
このような構成であれば、極めて優れた導電性を示し、且つ、導電性グリース組成物の漏洩が極めて生じにくい。すなわち、第一及び第三カーボンブラックにより優れた導電性が付与され、且つ、第二カーボンブラックにより導電性グリース組成物の離油が抑制される。そして、3種のカーボンブラックが含有されていることにより、カーボンブラック同士の凝集が抑制され、導電性グリース組成物に適度な流動性が付与される。また、剪断が作用しても、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されにくく、基油の保持力が高い。
【0022】
3種のカーボンブラックの比表面積が前記範囲内であれば、前述のような優れた効果が得られるが、第一カーボンブラックの比表面積は23m^(2)/g以上80m^(2)/g以下であることがより好ましく、23m^(2)/g以上60m^(2)/g以下であることがさらに好ましく、27m^(2)/g以上42m^(2)/g以下であることが最も好ましい。また、第二カーボンブラックの比表面積は250m^(2)/g以上1000m^(2)/g以下であることがより好ましく、320m^(2)/g以上1000m^(2)/g以下であることがさらに好ましく、370m^(2)/g以上1000m^(2)/g以下であることが最も好ましい。さらに、第三カーボンブラックの比表面積は90m^(2)/g以上180m^(2)/g以下であることがより好ましく、100m^(2)/g以上160m^(2)/g以下であることがさらに好ましく、110m^(2)/g以上140m^(2)/g以下であることが最も好ましい。
さらに、鉱油や合成油は樹脂に対するケミカルアタックが小さいので、仮に導電性グリース組成物又は基油が転がり軸受から漏洩して周辺の樹脂製部品に接触しても、樹脂製部品の劣化が生じにくい。
【0023】
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記第一カーボンブラックのDBP吸収量は30ml/100g以上160ml/100g以下であり、前記第二カーボンブラックのDBP吸収量は80ml/100g以上500ml/100g以下であり、前記第三カーボンブラックのDBP吸収量は100ml/100g以上300ml/100g以下であることが好ましい。
【0024】
第一カーボンブラックのDBP吸収量が30ml/100g未満であると、第一カーボンブラックの導電性グリース組成物中への分散性が不十分となりやすく、160ml/100gを超えると、カーボンブラック同士の凝集を防止する効果が低くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックのDBP吸収量は、50ml/100g以上160ml/100g以下であることがより好ましく、60ml/100g以上150ml/100g以下であることがさらに好ましく、67ml/100g以上140ml/100g以下であることが最も好ましい。
【0025】
また、第二カーボンブラックのDBP吸収量が80ml/100g未満であると、基油の漏洩等が生じやすくなり、500ml/100gを超えると、カーボンブラック同士が凝集する傾向が強くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第二カーボンブラックのDBP吸収量は、90ml/100g以上450ml/100g以下であることがより好ましく、100ml/100g以上400ml/100g以下であることがさらに好ましく、140ml/100g以上360ml/100g以下であることが最も好ましい。
【0026】
さらに、第三カーボンブラックのDBP吸収量が100ml/100g未満であると、第一カーボンブラックの場合と同様に導電性グリース組成物中への分散性が不十分となりやすく、160ml/100gを超えると、第一カーボンブラックの場合と同様にカーボンブラック同士の凝集を防止する効果が低くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第三カーボンブラックのDBP吸収量は、110ml/100g以上250ml/100g以下であることがより好ましく、120ml/100g以上200ml/100g以下であることがさらに好ましく、140ml/100g以上180ml/100g以下であることが最も好ましい。
【0027】
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの質量比は、25:75以上95:5以下であり、且つ、前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックと前記第三カーボンブラックとの合計の含有量は、前記導電性グリース組成物の2質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
このような構成であれば、3種のカーボンブラックの特性のバランスがとれて、導電性グリース組成物の導電性及び流動性が良好となる。また、転がり軸受からの漏洩や基油の離油が生じにくくなる。
【0028】
第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計量における第一カーボンブラックの割合が25質量%未満(すなわち第二カーボンブラックの割合が75質量%超過)であると、カーボンブラックによる増粘効果が大きくなるので全カーボンブラックの含有量を少なくできるが、高温下における離油が大きくなるおそれがある。一方、第二カーボンブラックの割合が5質量%未満(すなわち第一カーボンブラックの割合が95質量%超過)であると、基油の保持力が不十分となるため、全カーボンブラックの含有量を多くする必要がでてくる。また、初期の導電性は良好であるが、長期間にわたって良好な導電性を維持できないおそれがある。
【0029】
このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの質量比は、50:50以上95:5以下であることがより好ましく、75:25以上90:10以下であることがさらに好ましく、75:25以上88:12以下であることが最も好ましい。
また、第一,第二,第三カーボンブラックの合計の含有量が、導電性グリース組成物の2質量%未満であると、導電性が不十分となるおそれがあるとともに、基油の離油が十分に抑制できないおそれがある。一方、25質量%超過であると、導電性グリース組成物の流動性が低下するおそれがある。
このような問題がより生じにくくするためには、第一,第二,第三カーボンブラックの合計の含有量は、導電性グリース組成物の5質量%以上19質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上22質量%以下であることがさらに好ましく、9質量%以上20質量%以下であることが最も好ましい。
【0030】
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記第一カーボンブラックの平均一次粒径は40nm以上200nm以下であり、前記第二カーボンブラックの平均一次粒径は10nm以上40nm以下であり、前記第三カーボンブラックの平均一次粒径は10nm以上40nm以下であることが好ましい。
【0031】
平均一次粒径が10nm未満であると、カーボンブラック同士が凝集する可能性が高くなり、200nm超過であると、導電性グリース組成物の流動性が阻害されるおそれがある。そして、平均一次粒径が異なる3種のカーボンブラックが含有されていることにより、カーボンブラックの分散性が適度に保たれ、その結果、基油の保持力が十分となる。また、剪断が作用しても、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されにくい。
【0032】
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記導電性グリース組成物が1質量%以上10質量%以下のリチウム石けんを含有することが好ましい。
導電性グリース組成物には、混和ちょう度を調整するためにリチウム石けんのような増ちょう剤を添加してもよい。リチウム石けんの平均一次粒径は5nm以上10μm以下であることが好ましく、平均一次粒径が5nm未満であると増ちょう効果が乏しく、10μm超過であると転がり軸受に対して異物として作用するおそれがある。
【0033】
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記導電性グリース組成物が極圧剤を含有することが好ましい。
さらに、本発明に係る転がり軸受において、前記導電性グリース組成物の混和ちょう度が200以上300以下であることが好ましい。
混和ちょう度が200未満であると、導電性グリース組成物が硬いため流動性が不十分であり、300超過であると、導電性グリース組成物がやわらかいため転がり軸受からの漏洩等が生じるおそれがある。
【発明の効果】
【0034】
本発明の転がり軸受は、優れた導電性を示し、且つ、グリース組成物の漏洩が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。図1の深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1及び外輪2の間に転動自在に配置された複数の玉3と、内輪1及び外輪2の間に複数の玉3を保持する保持器4と、外輪2の両端部の内周面に取り付けられたシールド5,5と、を備えている。このシールド5は内輪1及び外輪2の間に介在され、内輪1の外周面と外輪2の内周面との間の開口部分をほぼ覆っている。
【0036】
また、内輪1及び外輪2の間に形成され玉3が配された空隙部内には、導電性グリース組成物6が封入されており、シールド5により深溝玉軸受内部に密封されている。封入されている導電性グリース組成物6の量は、前記空隙部の容積の15体積%以上35体積%以下である。なお、シールド5の代わりにゴムシールを用いてもよい。その場合には、ゴムシールのゴムを、導電性ゴムとしてもよい。
【0037】
この導電性グリース組成物6は、基油と3種のカーボンブラックとを含有し、混和ちょう度が200以上300以下である。3種のカーボンブラックのうち第一カーボンブラックは、平均一次粒径が40nm以上200nm以下、比表面積が20m^(2)/g以上80m^(2)/g以下、DBP吸収量が30ml/100g以上160ml/100g以下である。第二カーボンブラックは、平均一次粒径が10nm以上40nm以下、比表面積が200m^(2)/g以上1500m^(2)/g以下、DBP吸収量が80ml/100g以上500ml/100g以下である。第三カーボンブラックは、平均一次粒径が10nm以上40nm以下、比表面積が80m^(2)/g超過200m^(2)/g未満、DBP吸収量が100ml/100g以上300ml/100g以下である。
【0038】
そして、導電性グリース組成物6に含まれる第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの質量比は、25:75以上95:5以下であり、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックと第三カーボンブラックとの合計の含有量は、導電性グリース組成物6全体の2質量%以上25質量%以下である。
このようなカーボンブラックは、平均一次粒径,比表面積,DBP吸収量をもとにして、各種市販品から選定するとよい。例えば、東海カーボン株式会社製の「トーカブラック」シリーズや「シースト」シリーズ、三菱化学株式会社製の「三菱カーボンブラック」シリーズ、電気化学工業株式会社製の「デンカブラック」シリーズ、ライオンアクゾ社製の「ケッチェンブラック」シリーズが使用できる。また、いわゆるアセチレンブラックやフライアッシュ等も、平均一次粒径,比表面積等の性状が本発明の範囲内であれば使用することができる。
【0039】
具体的には、第一カーボンブラックとしては、「トーカブラック」シリーズのトーカブラック#7360SB,#7350/F,#7270SB,#7100F,#7050,#4500,#4400,#4300,#3845,#3800や、「シースト」シリーズのシースト3,NH,N,116HM,116,FM,SO,V,SVH,FY,S,SPが使用できる。また、「三菱カーボンブラック」シリーズのMA220,MA230,#25,#20,#10,#5,#95,#260,#3030,#3050,CF9や、「デンカブラック」シリーズのデンカブラック粒状品,粉状品,HS-100等が使用できる。
【0040】
これらの中では、トーカブラック#7050(平均一次粒径66nm、比表面積28m^(2)/g、DBP吸収量66ml/100g),シーストV(平均一次粒径62nm、比表面積27m^(2)/g、DBP吸収量87ml/100g),シーストSVH(平均一次粒径62nm、比表面積32m^(2)/g、DBP吸収量140ml/100g),シーストS(平均一次粒径66nm、比表面積27m^(2)/g、DBP吸収量68ml/100g),デンカブラックHS-100(平均一次粒径48nm、比表面積39m^(2)/g、DBP吸収量140ml/100g)が好適に使用できる。
【0041】
また、第二カーボンブラックとしては、トーカブラック#8500/F,#8300/F,#5500や、三菱カーボンブラック#2700,#2650,#2600,#2400,#2350,#2300,#2200,#990,#980,#970,#960,#950,#900,#850,#3230や、ケッチェンブラックEC等が使用できる。
【0042】
これらの中では、トーカブラック#5500(平均一次粒径25nm、比表面積225m^(2)/g、DBP吸収量155ml/100g),三菱カーボンブラック#3230(平均一次粒径23nm、比表面積220m^(2)/g、DBP吸収量140ml/100g),ケッチェンブラックEC(平均一次粒径30nm、比表面積800m^(2)/g、DBP吸収量360ml/100g)が好適に使用できる。
さらに、第三カーボンブラックとしては、三菱カーボンブラック#3350(平均一次粒径24nm、比表面積125m^(2)/g、DBP吸収量165ml/100g)等が使用できる。
【0043】
また、基油としては、鉱油や合成油が好適である。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油やナフテン系鉱油があげられ、合成油としては、例えばエステル油,エーテル油,ポリグリコール油,シリコン油,合成炭化水素油,フルオロシリコーン油,フッ素油があげられる。これらの中では、耐熱性の高さと樹脂に対するケミカルアタックの小ささを考慮すると、フッ素油や合成炭化水素油が好ましく、特にパーフルオロポリエーテル油,ポリα-オレフィン油が好ましい。
【0044】
なお、合成炭化水素油の40℃における動粘度は、10mm^(2)/s以上500mm^(2)/s以下であることが好ましい。40℃における動粘度が10mm^(2)/s未満であると、耐熱性が不十分となるおそれがあり、500mm^(2)/s超過であると、転がり軸受のトルクが過大になるおそれがある。転がり軸受が200℃程度の高温下で使用される場合には、トルク性能と耐熱性との兼ね合いから、合成炭化水素油の40℃における動粘度は、20mm^(2)/s以上200mm^(2)/s以下であることがより好ましく、25mm^(2)/s以上100mm^(2)/s以下であることがさらに好ましい。
【0045】
さらに、導電性グリース組成物6には、混和ちょう度を調整するためにリチウム石けんのような増ちょう剤を添加してもよい。
さらに、導電性グリース組成物6には、潤滑剤に一般的に使用される各種添加剤を添加してもよく、添加剤の中でも極圧剤及び油性剤の少なくとも一方を添加することが好ましい。極圧剤と油性剤との合計の含有量は、導電性グリース組成物6全体の0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0046】
極圧剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、ジチオリン酸亜鉛(Zn-DTP),ジチオリン酸モリブデン(Mo-DTP)等のDTP金属化合物や、ニッケルジチオカーバメイト(Ni-DTC),モリブデンジチオカーバメイト(Mo-DTC)等のDTC金属化合物があげられる。また、イオウ,リン,塩素等を含む有機金属化合物も好適である。さらに、二硫化モリブデン等の極圧性に優れた固体潤滑剤も、極圧剤として使用可能である。これらの極圧剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
油性剤の例としては、オレイン酸等の脂肪酸、コハク酸エステル等の脂肪酸誘導体、有機リン系化合物があげられる。有機リン系化合物としては、例えば、一般式(RO)_(3)POで示される正リン酸エステルや、一般式(RO)_(2)P(O)Hで示される亜リン酸ジエステル及び一般式(RO)_(3)Pで示される亜リン酸トリエステルのような亜リン酸エステルがあげられる(Rはいずれも、アルキル基,アリール基,アルキルアリール基等の炭化水素基である)。正リン酸エステルの具体例としては、トリクレジルフォスフェイトやトリオクチルフォスフェイトがあげられる。これらの油性剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
また、極圧剤,油性剤以外の添加剤を、所望により添加してもよい。例えば、酸化防止剤,防錆剤,金属不活性化剤である。
防錆剤としては、例えば金属系防錆剤,無灰系防錆剤があげられる。金属系防錆剤の具体例としては、(石油)スルフォン酸金属塩(バリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ナトリウム塩,亜鉛塩,アルミニウム塩,リチウム塩等)のような油溶性スルホネートや、フェネート,サリシレート,ホスホネート等があげられる。無灰系防錆剤の具体例としては、コハク酸イミド,ベンジルアミン,コハク酸エステル,コハク酸ハーフエステル,ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリカルボン酸アンモニウム塩等があげられる。
【0049】
さらに、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤(脂肪族アミン系及び芳香族アミン系),フェノール系酸化防止剤,イオウ系酸化防止剤等があげられる。
さらに、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール誘導体,亜硝酸ナトリウム,酸化亜鉛等があげられる。これらは不動態化膜を形成できるので、摩耗等に伴う軌道表面の酸化を抑制する効果がある。
【0050】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、転がり軸受の種類は深溝玉軸受に限定されるものではなく、本発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0051】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。表1,2に示すような組成の導電性グリース組成物を用意して、種々の性能を評価した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1,2において基油,増ちょう剤等の各成分の欄に記載されている数値は、導電性グリース組成物全体を100とした場合の各成分の質量比である。
なお、表に記載された合成炭化水素油の40℃における動粘度は、30mm^(2)/sである。また、本発明の構成要件である第一カーボンブラックに相当するカーボンブラックAは、東海カーボン株式会社製のシーストS(平均一次粒径66nm、比表面積27m^(2)/g、DBP吸収量68ml/100g)で、同じく第一カーボンブラックに相当するカーボンブラックBは、三菱化学株式会社製の#3030B(平均一次粒径55nm、比表面積29m^(2)/g、DBP吸収量130ml/100g)である。さらに、本発明の構成要件である第二カーボンブラックに相当するカーボンブラックCは、ライオンアクゾ社製のケッチェンブラックEC(平均一次粒径30nm、比表面積800m^(2)/g、DBP吸収量360ml/100g)で、本発明の構成要件である第三カーボンブラックに相当するカーボンブラックDは、三菱化学株式会社製の#3350B(平均一次粒径24nm、比表面積125m^(2)/g、DBP吸収量165ml/100g)である。
【0055】
〔導電性の評価について〕
日本精工株式会社製の呼び番号688ZZの深溝玉軸受(内径8mm,外径16mm,幅4mm,金属製シールド付き)の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に、表1,2に示す導電性グリース組成物を封入し、以下のような条件で回転させ、回転中の軸受抵抗値(最大値)を測定した。
雰囲気温度:室温
回転速度 :150min^(-1)
軸受に与えるラジアル荷重(Fr):条件1の場合は19.6N
条件2の場合は196N
【0056】
軸受抵抗値の測定は、条件1の場合は200時間回転後,400時間回転後,及び800時間回転後に、条件2の場合は250時間回転後に行った。なお、深溝玉軸受の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に封入されている導電性グリース組成物の量は、該空隙部の容積の20体積%である。以下に、試験方法を詳細に説明する。
【0057】
図2に示すような装置に深溝玉軸受を装着して、回転中の内外輪間の電気抵抗値(最大値)を測定した。このとき、軸受に印加する電圧を6.2V、抵抗を62kΩとすることにより、軸受を通過する最大電流を100μAに制限した。
図2中、符号11は測定対象の深溝玉軸受を表し、その内輪11aに取付けられた軸部材12をモータ13で回転駆動することによって軸受11を回転するように構成されている。そして、内輪11aと一体となっている軸部材12と外輪11bとの間に、定電圧電源14によって所定の定電圧が印加される。
【0058】
この定電圧電源14と並列に接続されている抵抗測定装置15は、測定した電圧値(アナログ値)をA/D変換回路16に出力する。A/D変換回路16は、予め設定されたサンプリング周期でデジタル値に変換し、当該変換したデジタル信号を演算処理装置17に出力する。本実施例では、サンプリング周期を50kHz(サンプリング時間間隔=0.02ms)に設定してある。
【0059】
演算処理装置17は、最大抵抗値演算部17Aと、閾値処理部17Bと、波数カウント部17Cと、を備える。最大抵抗値演算部17Aは、入力したデジタル信号に基づき最大抵抗値を演算する。閾値処理部17Bは、入力したデジタル信号について所定閾値で閾値処理を行い雑音を除去する。波数カウント部17Cは、閾値処理部17Bからのパルスカウントについて、経時的なパルス値の増減変化によって、所定時間単位毎の変動回数つまり波山の波数をカウントし、その単位時間当たりの波数の平均値を求める。また、演算処理装置17は、求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示装置18に出力する。本実施例では、上記波数をカウントする単位時間を0.328秒に設定してある。表示装置18はディスプレイなどから構成され、演算処理装置17が求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示する。
【0060】
次に、上記構成の装置を使用して深溝玉軸受11の軸受抵抗値を評価する方法について説明する。
モータ13を駆動して軸部材12つまり内輪11aを所定回転速度で回転させた状態で、定電圧電源14から深溝玉軸受11の内外輪11a,11b間に所定の定電圧を印加する。このとき、内外輪11a,11b間に電流が流れるが、スパーク等によって電圧が変動する。その電圧が抵抗測定装置15で測定され、続いて、A/D変換回路16によってデジタル値に変換され、そのデジタル信号に基づいて、演算処理装置17が最大抵抗値及び所定単位時間当たりの波数を求め、その値が表示装置18に表示される。
軸受抵抗値の評価結果を、表1,2にまとめて示す。なお、表1,2においては、軸受抵抗値が10kΩ未満であった場合は◎印、10kΩ以上20kΩ未満であった場合は○印、20kΩ以上40kΩ未満であった場合は△印、40kΩ以上であった場合は×印で示してある。
【0061】
〔軸受トルクの評価について〕
日本精工株式会社製の呼び番号608ZZの深溝玉軸受(内径8mm,外径22mm,幅7mm,金属製シールド付き)の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に、表1,2に示す導電性グリース組成物を封入し、後述する条件で回転させ、起動時と回転3分後の動トルクを測定した。なお、深溝玉軸受の内輪及び外輪の間に形成された空隙部内に封入されている導電性グリース組成物の量は、該空隙部の容積の30体積%である。
雰囲気温度 :室温
回転速度 :150min^(-1)
アキシアル荷重(Fa):27.4N
【0062】
結果を表1,2にまとめて示す。なお、表1,2の動トルクの数値は、起動時及び回転3分後のいずれについても、実施例1の深溝玉軸受の動トルクを1とした場合の相対値で示してある。
表1,2から、実施例1?2及び参考例3?7の深溝玉軸受は、比較例1?3の深溝玉軸受と比べて、軸受抵抗値が小さい(導電性が優れている)ことが分かる。条件2のような高荷重条件では、摩耗等に伴う絶縁膜(例えば酸化膜)によって導電性が低下するおそれがあるが、実施例1?2及び参考例3?7の深溝玉軸受は優れた導電性を示した。また、カーボンブラックを含む増ちょう剤の含有量が30質量%以上である比較例1,2の深溝玉軸受は、実施例1?2及び参考例3?7の深溝玉軸受と比べて、トルクが高かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の転がり軸受は、例えば、複写機,レーザービームプリンタ等の事務機器や情報機器における高温となる部分(感光ドラム(定着部),ヒートローラ支持部等)に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】軸受の抵抗値を測定する装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1 内輪
2 外輪
3 玉
6 導電性グリース組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配された空隙部内に封入された導電性グリース組成物と、を備える転がり軸受において、
前記導電性グリース組成物は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有する基油と、3種のカーボンブラックと、極圧剤と、防錆剤として亜鉛スルホネートと、を含有し、
前記3種のカーボンブラックは、比表面積が20m^(2)/g以上80m^(2)/g以下の第一カーボンブラックと、比表面積が200m^(2)/g以上1500m^(2)/g以下の第二カーボンブラックと、比表面積が80m^(2)/g超過200m^(2)/g未満の第三カーボンブラックと、であり、
前記第一カーボンブラックの平均一次粒径は40nm以上200nm以下であり、前記第二カーボンブラックの平均一次粒径は10nm以上40nm以下であり、前記第三カーボンブラックの平均一次粒径は10nm以上40nm以下であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記第一カーボンブラックのDBP吸収量は30ml/100g以上160ml/100g以下であり、前記第二カーボンブラックのDBP吸収量は80ml/100g以上500ml/100g以下であり、前記第三カーボンブラックのDBP吸収量は100ml/100g以上300ml/100g以下であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの質量比は、25:75以上95:5以下であり、且つ、前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックと前記第三カーボンブラックとの合計の含有量は、前記導電性グリース組成物の2質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記導電性グリース組成物が1質量%以上10質量%以下のリチウム石けんを含有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記導電性グリース組成物の混和ちょう度が200以上300以下であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の転がり軸受。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-04-25 
結審通知日 2018-04-27 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2006-104248(P2006-104248)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (C10M)
P 1 41・ 851- Y (C10M)
最終処分 成立  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
登録日 2012-04-27 
登録番号 特許第4980641号(P4980641)
発明の名称 転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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