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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M
管理番号 1341330
審判番号 訂正2018-390068  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-04-06 
確定日 2018-05-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5096703号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5096703号の明細書を、本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯等

本件訂正審判に係る特許は、発明の名称を「耐水性グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受」とする特許第5096703号(以下、「本件特許」という。)であって、平成18年7月4日を出願日とする特願2006-184641号について、平成24年9月28日に設定登録を受けたものである(設定登録時の請求項の数は2である。)。
その後、平成30年4月6日に本件訂正審判が請求された。

第2 本件訂正審判の請求の趣旨と訂正内容

1 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

2 本件訂正審判において請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容
(1) 訂正事項1
明細書の段落【0039】の「3巣の防錆剤」との記載を、「3種の防錆剤」に訂正する。
(2) 訂正事項2
明細書の段落【0041】【図2】の「実施例れ得られた」との記載を「実施例で得られた」に訂正する。

第3 当審の判断

前記訂正事項1及び2が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであるか否か(訂正の目的の適否)、同条第5項(新規事項の追加の有無)、同条第6項(特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無)及び同条第7項(独立特許要件充足性)の各規定に適合するものであるか否かについて、以下順に検討をする。

1 訂正事項1について
(1) 訂正の目的の適否
訂正前の明細書の段落【0038】?【0040】には、次のように記載されている。
「【0038】
実施例1、2と比較例1,2との比較から、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及び脂肪酸のアミン塩の3種の防錆剤を併用することで、防錆剤を全く含有しないもの(比較例1)及び他の防錆剤を用いたもの(比較例2)に比べて、耐水性、耐フレッチング性及び耐腐食性に総合的に優れることがわかる。
【0039】
また、比較例4から、3巣の防錆剤を併用しても、増ちょう剤として芳香族ジウレアを用いないと耐フレッチング性に劣ることがわかる。
【0040】
また、比較例3から、3種の防錆剤を併用しても、脂肪酸のアミン塩が3質量%を超えると耐水性及び耐フレッチング性が低下することがわかる。」
当該記載からみて、比較例1?4として準備されたものは、防錆剤を全く含有しないもの(比較例1)、他の防錆剤を用いたもの(比較例2)、3種の防錆剤を併用しているものの、脂肪酸のアミン塩が3質量%を超えるもの(比較例3)及び3種の防錆剤を併用しているものの、増ちょう剤として芳香族ジウレアを用いないもの(比較例4)であることが理解できる。このことは、訂正前の明細書の段落【0037】【表1】に記載された比較例1?4の成分組成からも明らかである。
そうすると、訂正前の明細書の段落【0039】に記載された「3巣の防錆剤」は、その前後の文脈からみて、本来、「3種の防錆剤」を意味するものと解するのが合理的であり、当該「3巣の防錆剤」は、これを誤って記載したものということができる。
したがって、訂正事項1は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正であるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものといえる。
(2) 新規事項の追加の有無
訂正事項1は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正に過ぎず、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるから、特許法第126条第5項に規定されている要件に適合するものである。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項1は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正に過ぎず、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定されている要件に適合するものである。
(4) 独立特許要件充足性
訂正事項1は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正に過ぎず、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により、明細書及び特許請求の範囲の記載に、新たな記載不備が生じるわけでもないから、独立特許要件を充足するといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項に規定されている要件に適合するものである。

2 訂正事項2について
(1) 訂正の目的の適否
訂正前の明細書の段落【0041】には、【図2】の説明として「実施例れ得られた」との記載があるが、当該「実施例れ得られた」は、それ自体、日本語表記として意味をなしていない、不明瞭な記載である。
そして、当該「実施例れ得られた」は、本来、「実施例で得られた」という意味合いで記載すべきところを誤って記載したものであるか、あるいは、「実施例で得られた」という意味合いが日本語表記として適切に表現されていなかったものと考えるのが合理的である。
そうすると、訂正事項2は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正であるか、あるいは、日本語表記として明瞭に表現されていなかった不明瞭な記載を本来の意味に明瞭化する訂正であるといえるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正、あるいは、同第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
(2) 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正に過ぎないから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか、あるいは、不明瞭な記載を本来の意味に明瞭化する訂正に過ぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるから、特許法第126条第5項に規定されている要件に適合するものである。
(3) 特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無
訂正事項2は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正であるか、あるいは、不明瞭な記載を本来の意味に明瞭化する訂正に過ぎず、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定されている要件に適合するものである。
(4) 独立特許要件充足性
訂正事項2の目的が誤記の訂正である場合には、独立特許要件が課されるが、この場合、訂正事項2は、明白な誤記を本来の意味に訂正する誤記の訂正に過ぎないのであるから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在しない。また、この訂正により、明細書及び特許請求の範囲の記載に、新たな記載不備が生じるわけでもないから、独立特許要件を充足するといえる。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第7項に規定されている要件に適合するものである。

第4 結び

以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号あるいは第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐水性グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と接触する環境で使用される軸受に封入される耐水性グリース組成物に関する。また、本発明は、自動車や鉄道等に組み込まれる車両用ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道車両等の車両用軸受として、例えば図1に示すような、シール付の密封タイプの所謂「ハブユニット軸受」が多用されている。図示されるハブユニット軸受において、内輪素子1と共に内輪相当部材を構成するハブ2の外端部(図中の左端部)外周面には、車輪(図示せず)を固定するための外向フランジ3が形成され、中間部外周面には内輪軌道4aと段部5とが形成されている。また、ハブ2の中間部内端寄り(図中の右寄り)外周面には、その外周面に同じく内輪軌道4bが形成された内輪素子1が、その外端面(図中の左端面)を段部5に突き当てた状態で外嵌支持されている。
【0003】
また、ハブ2の内端寄り部分には、雄ねじ部6が形成されている。そして、この雄ねじ部6にナット7を螺合し、更に緊締することにより内輪素子1がハブ2の外周面の所定部分に固定される。ハブ2の周囲に配置した外輪8の中間部外周面には、この外輪8を懸架装置(図示せず)に固定するための、外向フランジ状の取付部9が設けられている。また、外輪8の内周面には、それぞれが各内輪軌道4a,4bに対向する外輪軌道10a,10bが形成されている。そして、内輪軌道4a,4bと一対の外輪軌道10a,10bとの間に、それぞれ複数個ずつの転動体11,11を設けて外輪8の内側でのハブ2の回転を自在としている。尚、これら各転動体11,11は、各列毎にそれぞれ保持器12,12により転動自在に保持されている。
【0004】
また、外輪8の外端部(図中の左端部)内周面と、ハブ2の外周面との間には、ニトリル系ゴム組成物に代表される弾性材料からなるシールリング13が装着されており、このシールリング13により外輪8の内周面と、ハブ2及び内輪素子1の外周面との間に存在し、複数個の転動体11,11を設けた空間15の外端開口部28を塞いでいる。更に、外輪8の内端(図中の右端)開口部はカバー14で塞がれており、この内端開口部から空間15内への塵芥や雨水等の異物の侵入防止及びこの空間15内に充填したグリース(図示せず)の漏洩防止が図られている。
【0005】
尚、自動車では、図示されるような複列玉軸受のユニット軸受が使用されるが、大型自動車では図1の転動体11として円すいころを用いた複列円すいころ軸受のユニット軸受が、また、鉄道車両では同様の円すいころ軸受のユニット軸受、あるいは転動体11として円筒ころを用いた複列円筒ころ軸受のユニット軸受が使用されることが多い。
【0006】
一方、封入グリースは、ハブユニットが雨水や洗浄時の水と接触するため、耐水性を有することが要求されている。封入グリースに水分が混入すると、軸受寿命を大きく低下させることが知られており、例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal、No.636、pp.1-10、1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32?48%も低下することを報告している(P.Schtzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、Wear 12、pp.331-342、1968)。
【0007】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばれる金属剥離を引き起こすことが考えられている。このような剥離を防ぐために、亜硝酸ナトリウム等の不働態酸化剤を添加したグリース(例えば、特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば、特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば、特許文献3参照)等のように、グリースを改良することが行われている。これらは、転がり接触部に添加剤に由来する被膜を生成して軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が形成されるまでの間に振動や速度変化による転動体の滑りが起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0008】
グリースの改良以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を使用したり(例えば、特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にすること(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、これら材料からなる軸受は一般に高価となる。
【0009】
また、軸受鋼のような鉄は、水により容易に腐食(錆)が生じ、軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられるハブユット軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であり、上記と同様の方法により耐腐食性を同時に付与することがなされているが、錆の発生を抑制する効果が十分に得られていない。
【0010】
しかも、車両等では運転に伴う振動が軸受にも伝達されるため、転動体11と内外輪軌道4a,4b,10a,10bとの間で繰り返し衝撃に起因するフレッチング摩耗が発生しやすい。しかし、従来の鉱油-リチウム系グリースは、このフレッチング摩耗に対する耐久性(耐フレッチング性)が十分とはいえず、今後とも要求が高まることが予測される高温・高荷重での運転に対応しきれないおそれがある。
【0011】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9-169989号公報
【特許文献4】特開平3-183747号公報
【特許文献5】特開平4-244624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、水による腐食及び水から発生する水素に起因する剥離を抑える効果に優れ、更に耐フレッチング性にも優れる耐水性グリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような耐水性グリース組成物を封入してなり、水との接触及び走行に伴う振動に対する耐性に優る車両用ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明は以下に示す耐水性グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受を提供する。
(1)鉱油及び合成油の少なくとも一種からなる基油に、
(A)増ちょう剤として芳香族ジウレアをグリース全量に対し5?40質量%、
(B)防錆剤として、それぞれグリース全量に対し、カルボン酸系防錆剤を0.1?5質量%、カルボン酸塩系防錆剤を0.1?5質量%、脂肪酸のアミン塩を0.1?3質量%、
(C)酸化防止剤
を配合してなり、かつ、
ASTM D4170に規定された耐フレッチング試験による重量減が3mg以下であることを特徴とする耐水性グリース組成物。
(2)内輪素子とともに内輪相当部材を構成するハブと、外輪と、前記ハブと前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、
前記ハブと前記外輪との間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に、請求項1記載の耐水性グリース組成物を封入してなることを特徴とする車両用ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐水性グリース組成物は、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及びアミン系防錆剤の3種を含有するため、これまでより優れた耐水性が得られ、水による腐食及び水から発生する水素に起因する剥離をより抑制できる。また、増ちょう剤の芳香族ジウレアにより、フレッチング磨耗をより効果的に防止できる。従って、このような耐水性グリース組成物を封入してなる車両用ハブユニット軸受も耐水性、耐フレッチング性により優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本発明の耐水性グリース組成物の基油には、鉱油及び合成油を用いる。鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0017】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。これらの潤滑油は、単独または混合物として用いることができる。
【0018】
また、基油は、低音起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が10?400mm^(2)/sであることが好ましく、より好ましくは20?250mm^(2)/sであり、更に好ましくは40?150mm^(2)/sである。
【0019】
増ちょう剤には、運転に伴う振動により生じるフレッチング摩耗を考慮し、芳香族ジウレアを用いる。芳香族ジウレアの種類には制限がなく、公知のものを使用できる。また、芳香族ジウレアの配合量は、グリース全量の5?40質量%である。配合量が5質量%未満では、グリース状態を維持することが困難となり、40質量%を超えるとグリースが硬くなりすぎて潤滑状態を十分に発揮することが困難となり、何れも好ましくない。
【0020】
また、耐水性グリース組成物には、防錆剤としてカルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及び脂肪酸のアミン塩の3種が添加される。これら3種の防錆剤を組み合わせることで、これまでよりも耐水性を向上させることができる。添加量は、グリース全量に対し、カルボン酸系防錆剤は0.1?5質量%、カルボン酸塩系防錆剤は0.1?5質量%、脂肪酸のアミン塩は0.1?3質量%である。何れの防錆剤も、下限値を下回ると十分な効果が得られず、上限値を超えて添加しても効果が飽和するとともに、軸受部材表面への付着量が多くなりすぎてグリース由来の酸化膜等の生成を阻害するおそれがある。
【0021】
尚、カルボン酸系防錆剤としては、モノカルボン酸では、ラウリン酸、ステアリン酸等の直鎖脂肪酸、並びにナフテン核を有する飽和カルボン酸が挙げられる。また、ジカルボン酸では、コハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等のコハク酸誘導体、ヒドロキシ脂肪酸、メルカプト脂肪酸、ザルコシン誘導体、並びにワックスやペトロラタムの酸化物等の酸化ワックス等が挙げられる。中でも、コハク酸ハーフエステルが好適である。
【0022】
また、カルボン酸塩系防錆剤としては、脂肪酸、ナフテン酸、アビエチン酸、ラノリン脂肪酸、アルケニルコハク酸、アミノ酸誘導体の各金属塩等が挙げられる。尚、金属元素としては、コバルト、マンガン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、バリウム、リチウム、マグネシウム、銅等が挙げられる。中でも、ナフテン酸亜鉛が好適である。
【0024】
また、耐水性グリース組成物には、酸化防止剤が添加される。更に、各種性能を更に向上させるために、所望によりその他の添加剤を添加してもよい。例えば、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して添加することができる。
【0025】
酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられるが、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤が好適である。アミン系酸化防止剤としては、フェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。また、フェノール系酸化防止剤としては、p-t-ブチル-フェニルサリシレート、2,6-ジ-t-ブチル-p-フェニルフェノール、2,2´-メチレンビス(4-メチル-6-t-オクチルフェノール)、4、4´-ブチリデンビス-6-t-ブチル-m-クレゾール、テトラキス〔メチレン-3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n-オクタデシル-β-(4´-ヒドロキシ-3´,5´-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2-n-オクチル-チオ-4,6-ジ(4´-ヒドロキシ-3´,5´-ジ-t-ブチル)フェノキシ-1,3,5-トリアジン、4、4´-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2-(2´-ヒドロキシ-3´-t-ブチル-5´-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0026】
また、油性向上剤としては、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミンやセチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、動植物油等が挙げられる。
【0027】
また、極圧剤としては、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等が挙げられる。
【0028】
また、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0029】
これらその他の添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、通常はグリース全量の0.1?20質量%である。添加量が0.1質量%未満では添加効果が十分ではなく、20質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0030】
本発明の耐水性グリース組成物は上記の各成分を含有するが、その製造方法には制限がないが、一般的には基油中で芳香族ジウレアの原料を反応させた後、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及び脂肪酸のアミン塩の3種をそれぞれ定量添加し、ニーダやロールミル等で十分に混練して得られる。尚、この処理に際し、加熱することも有効である。また、その他の添加剤を添加する場合は、3種の防錆剤と同時に添加することが工程上好ましい。
【0031】
また、本発明は、上記の耐水性グリース組成物を封入してなる車両用ハブユニット軸受を提供する。車両用ハブユニットには制限がなく、例えば図1に示したものを例示でき、空間15内に上記の耐水性グリース組成物を封入すればよい。また、円すいころ軸受や円筒ころ軸受のユニット軸受とすることもできる。耐水性グリース組成物の封入量にも制限がなく、従来と同様で構わない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0033】
(実施例1?2、比較例1?4)
表1に示す配合にて試験グリースを調製した。そして、試験グリースを用いて下記に示す(1)耐水性試験、(2)耐フレッチング試験及び(3)防錆試験を行った。結果を表1に併記する。
【0034】
(1)耐水性試験
転がり四球試験により、試験グリースの耐水性を評価した。即ち、直径15mmの軸受用鋼球を3個用意し、底面の内径36.0mm、上端部の内径31.63mm、深さ10.98mmの円筒状容器内に正三角形状に置き、試験グリースに水を20%混入させたものを20g塗布し、更に3個の鋼球で形成される窪みに直径5/8インチの軸受用鋼球を1個置き、室温で、直径5/8インチの軸受用鋼球を面圧4.1GPaの負荷を加えながら1000rpmで回転させた。これにより、3個の直径15mmの軸受用鋼球も自転しながら公転するが、剥離が生じるまで連続回転させた。剥離が生じた時点の総回転数を寿命とし、1000×10^(3)回転以上を合格とした。
【0035】
(2)耐フレッチング試験
試験グリースについて、ASTM D4170に規定された試験方法により耐フレッチング試験を行い、試験前後の重量差を測定し、下記3ランクに分類した。自動車用としてはAランク及びBランクが好ましいとされており、本試験でもAランク及びBランクを合格とした。
Aランク:重量減が3mg以下
Bランク:重量減が3mg超5mg未満
Cランク:重量減が5mg以上
【0036】
(3)防錆試験
試験軸受として日本精工(株)製玉軸受「608」を用い、各試験グリースを空間容積の20%となるように封入し、恒湿恒温槽(温度80℃、湿度90%)に入れ、一週間放置した後、目視にて内輪の錆の有無を確認した。錆の個数により、以下のようにランク分けを行った。錆の発生の無いAランクを合格とした。
Aランク:錆の発生無し
Bランク:1?5個の錆発生
Cランク:6個以上の錆発生
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1、2と比較例1,2との比較から、カルボン酸系防錆剤、カルボン酸塩系防錆剤及び脂肪酸のアミン塩の3種の防錆剤を併用することで、防錆剤を全く含有しないもの(比較例1)及び他の防錆剤を用いたもの(比較例2)に比べて、耐水性、耐フレッチング性及び耐腐食性に総合的に優れることがわかる。
【0039】
また、比較例4から、3種の防錆剤を併用しても、増ちょう剤として芳香族ジウレアを用いないと耐フレッチング性に劣ることがわかる。
【0040】
また、比較例3から、3種の防錆剤を併用しても、脂肪酸のアミン塩が3質量%を超えると耐水性及び耐フレッチング性が低下することがわかる。これは、脂肪酸のアミン塩の軸受部材表面への吸着量が多くなりすぎ、封入グリースに由来する酸化膜等の生成が阻害され、耐剥離性が低下することが原因であると推察される。尚、図2に、カルボン酸系防錆剤及びカルボン酸塩系防錆剤を共に1質量%に固定し、脂肪酸のアミン塩の添加量を変えた試験グリースを調製し、耐水性試験を行った結果をグラフ化して示すが、脂肪酸のアミン塩の添加量は0.1質量%以上必要であり、かつ、3質量%を超えると耐水性が低下することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明及び従来の車両用ハブユニット軸受の一例を示す断面図である。
【図2】実施例で得られた脂肪酸のアミン塩の添加量と耐水性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 内輪素子
2 ハブ
4a,4b 内輪軌道
5 段部
6 雄ねじ部
7 ナット
8 外輪
10a,10b 外輪軌道
11 転動体
12 保持器
13 シールリング
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-05-07 
結審通知日 2018-05-09 
審決日 2018-05-22 
出願番号 特願2006-184641(P2006-184641)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C10M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 木村 敏康
日比野 隆治
登録日 2012-09-28 
登録番号 特許第5096703号(P5096703)
発明の名称 耐水性グリース組成物及び車両用ハブユニット軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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