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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09D 審判 全部無効 2項進歩性 C09D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 C09D 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09D |
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管理番号 | 1341341 |
審判番号 | 無効2016-800028 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-02-29 |
確定日 | 2018-05-28 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3789818号発明「太字水性ゲルボールペン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3789818号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1、及び請求項2について訂正することを認める。 特許第3789818号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3789818号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第3789818号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2のそれぞれに係る発明は、平成12年12月20日(優先権主張 平成11年12月24日、日本国)の国際出願日に特許出願され、平成18年4月7日にその特許権の設定の登録がされた。 請求人は、平成28年2月29日に、本件特許の請求項1、2のそれぞれに係る発明についての特許を無効にすることについて審判を請求した。 これに対し、被請求人は、同年6月1日に答弁書を提出した。 そして、審判長は、同年6月23日付けで、口頭審理における審理事項を通知し、請求人及び被請求人は、いずれも同年8月18日に口頭審理陳述要領書を提出した。さらに、被請求人は、同年9月6日に上申書を提出した。 当審は、同年9月8日に第1回口頭審理を行った。 その後、請求人は、第1回口頭審理(第1回口頭審理調書の「請求人4」参照)に基づいて同年9月23日に上申書(1)を提出し、これに対し、被請求人は、同年10月7日に上申書を提出した。また、同じく、被請求人は、第1回口頭審理(第1回口頭審理調書の「被請求人4」参照)に基づいて同年9月23日に上申書を提出し、これに対し、請求人は、同年10月7日に上申書(2)を提出した。 これを受けて、当審は、同年11月30日付けで被請求人に対して審尋を行い、被請求人は、これに対する回答書を平成29年1月31日に提出した。 また、当審は、同年2月22日付けで請求人に対して審尋を行い、請求人は、これに対する回答書を同年4月25日に提出した。 その後、当審は、同年5月31日付けで審決の予告(第1回目)をした。 これに対し、被請求人は、同年8月7日に、訂正請求書(第1回目)を提出し、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の訂正を請求し、同日付け上申書を提出した。 その後、請求人は、同年9月22日に、弁駁書を提出した。 その後、当審は、同年11月7日付けで審決の予告(第2回目)をした。 これに対し、被請求人は、平成30年1月12日に、訂正請求書(第2回目)を提出し、特許明細書の訂正を請求し、同日付け上申書を提出した。 その後、請求人は、同年2月21日に、弁駁書を提出した。 上記のとおり、被請求人から平成30年1月12日付け訂正請求書(第2回目)が提出されて、特許明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたので、特許法第134条の2第6項の規定により、平成29年8月7日付け訂正請求書(第1回目)による訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、水を30重量%超80重量%未満、及び保湿剤としての糖類を含有すること」を挿入し、「太字水性ゲルインキボールペン」と記載されているのを、「、太字水性ゲルインキボールペン(前記着色剤が酸化チタンである場合を除く)」に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、「前記水性ゲルインキは、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%含有することを特徴とする請求項1記載の太字水性ゲルインキボールペン。」と記載されているのを、 「単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、 表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下、及び水を30重量%超80重量%未満含有すること、 前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること を特徴とする、太字水性ゲルインキボールペン。」に訂正する。 第3 本件訂正の適否についての判断 1 訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前請求項1に係る「水性ゲルインキ」に含まれる成分に関して、「前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、水を30重量%超80重量%未満、及び保湿剤としての糖類を含有すること」、及び、「前記着色剤が酸化チタンである場合を除く」ことを規定して、限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、この訂正事項1の内、「前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、水を30重量%超80重量%未満、及び保湿剤としての糖類を含有すること」と特定する訂正は、特許明細書の第6頁第8?11行の「また、着色剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?40重量%程度とすることが好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、着色剤の含有量が40重量%以上では、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」、同じく第7頁第3?12行の「そして、フッ素系界面活性剤の含有量を、ボールペン用インキの全量に対して0.01?1.5重量%程度とすることにより、ボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くすることができるのである。 なお、これらのフッ素系界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。」、同じく第9頁第4?7行の「なお、水の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して30?80重量%程度とすることが好ましい。水の含有量が30重量%以下では、チップの先端からのインキの流出量が低下してしまう。他方、水の含有量が80重量%以上では、他の成分が相対的に増加することにより、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」、及び、同じく第7頁第14?19行の「また、保湿剤としては、マルチトールを主成分とする還元糖、ソルビトールを主成分とする還元糖、還元オリゴ糖、還元マルトオリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン、難消化性デキストリン、還元澱粉分解物、キシリトール、サッカロース、マルチトール、還元澱粉糖化物、還元麦芽糖などの糖類を用いることができる。」(当審注:下線は、当審において付したものである。以下同じ。)という記載に基づいたものである。ここで、例えば、「フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満」とする訂正は、その下限値と上限値については、「0.01?1.5重量%程度」(特許明細書第7頁第3?4行)と記載されている一方、「フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。」(特許明細書第7頁第8?12行)とのことであるから、当該問題点の生じ得る「0.01重量%以下」や、「1.5重量%以上」を数値範囲から除外して「0.01重量%超」、及び、「1.5重量%未満」と規定するものである。また、他の成分についても同様である。 そして、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 また、この訂正事項1の内、「前記着色剤が酸化チタンである場合を除く」と特定する訂正は、訂正前の請求項1に係る発明に包含される一部の事項、すなわち、着色剤が酸化チタンであるという事項のみを当該請求項に記載した事項から除外するものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 したがって、訂正事項1は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 そのうえ、訂正事項1によって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、訂正事項1は特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 2 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前請求項2が引用する訂正前請求項1の記載を訂正前請求項2に追加し、他の請求項記載を引用する旨の記載を訂正前の請求項2から削除した上で、訂正前請求項1と同様に、「水性ゲルインキ」に含まれる成分の内、フッ素系界面活性剤の含有量を「0.01?1.5重量%」から「0.01重量%超1.5重量%未満」と限定し、また、訂正前請求項1と同様に、「水性ゲルインキ」に含まれる成分の内、フッ素系界面活性剤以外の成分に関して、「前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、・・・保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下、及び水を30重量%超80重量%未満含有すること」と限定し、さらに、着色剤を「前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること」と特定するものである。 したがって、訂正事項2は、訂正前請求項1の記載を引用する訂正前請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、また、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、及び、第4号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、この訂正事項2の内、「フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満」と限定する訂正は、特許明細書の第7頁第3?12行の「そして、フッ素系界面活性剤の含有量を、ボールペン用インキの全量に対して0.01?1.5重量%程度とすることにより、ボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くすることができるのである。 なお、これらのフッ素系界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。」という記載に基づいたものである。ここで、フッ素系界面活性剤の含有量の下限値と上限値については、「0.01?1.5重量%程度」(特許明細書第4頁第7頁第3?4行)と記載されている一方、「フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。」(特許明細書第4頁第7頁第8?12行)とのことであるから、当該問題点の生じ得る「0.01重量%以下」や、「1.5重量%以上」を数値範囲から除外して「0.01重量%超」、及び、「1.5重量%未満」と規定するものである。 そして、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 また、この訂正事項2の内、「前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、・・・及び水を30重量%超80重量%未満含有すること」と特定する訂正は、特許明細書の第6頁第8?11行の「また、着色剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?40重量%程度とすることが好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、着色剤の含有量が40重量%以上では、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」、及び、同じく第9頁第4?7行の「なお、水の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して30?80重量%程度とすることが好ましい。水の含有量が30重量%以下では、チップの先端からのインキの流出量が低下してしまう。他方、水の含有量が80重量%以上では、他の成分が相対的に増加することにより、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」という記載に基づいたものである。ここで、例えば、「着色剤を0.1重量%超40重量%未満」とする訂正は、その下限値と上限値については、「0.1?40重量%程度」(特許明細書第6頁第10行)と記載されている一方、「着色剤の含有量が0.1重量%以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、着色剤の含有量が40重量%以上では、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」(特許明細書第6頁第9?11行)とのことであるから、当該問題点の生じ得る「0.1重量%以下」や、「40重量%以上」を数値範囲から除外して「0.1重量%超」、及び、「40重量%未満」と規定するものである。また、他の成分についても同様である。 そして、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 また、この訂正事項2の内、「保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下」と特定する訂正は、特許明細書第7頁第14?19行の「また、保湿剤としては、マルチトールを主成分とする還元糖、ソルビトールを主成分とする還元糖、還元オリゴ糖、還元マルトオリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン、難消化性デキストリン、還元澱粉分解物、キシリトール、サッカロース、マルチトール、還元澱粉糖化物、還元麦芽糖などの糖類を用いることができる。」、同じく第7頁第27?30行の「また、保湿剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?10重量%程度とすることが好ましい。保湿剤の含有量が0.1重量%以下では、保湿剤としての効果が発揮されなくなってしまう。他方、保湿剤の含有量が10重量%以上では、紙面に転写された際に乾きにくくなってしまうからである。」、同じく第10頁第28行(実施例1)、第41行(実施例2)、及び、第11頁第18行(実施例4)の「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、並びに、同じく第11頁第4行(実施例3)、及び、第11頁第31行(実施例5)の「保湿剤:マルチトール:3.0重量%」という記載に基づいたものである。 そして、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 さらに、この訂正事項2の内、「前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること」と特定する訂正は、特許明細書の第5頁第19?20行の「着色剤としては、従来からボールペン用インキに用いられてきた染料又は顔料であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。」、同じく第5頁第41?47行の「また、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナホワイト、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、ステンレス粉、ニッケル粉、銅粉、亜鉛粉、真鍮粉などの無機系顔料を着色剤として用いることもできる。」、同じく第10頁第22?24行の「(実施例1) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量%」、同じく第10頁第35?37行の「(実施例2) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量%」、同じく第5頁第48行?第6頁第5行の「また、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料、より具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などの有機系顔料を着色剤として用いることもできる。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 したがって、訂正事項2は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 そのうえ、訂正事項2によって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、訂正事項1は特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 3 一群の請求項について 訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用するものであり、特許法施行規則第45条の4に該当するので、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。 4 特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件無効審判事件では、訂正前請求項1、2について特許無効審判の対象とされているから、訂正前請求項1、2に係る訂正事項1、2に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 5 訂正請求についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正に係る請求項1、2からなる一群の請求項についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、及び、第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項、及び、第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第4 本件特許に係る発明 上記「第3」で述べたとおりに訂正が認められるから、本件特許の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに係る発明は、訂正した明細書の特許請求の範囲の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。 なお、以下では、本件特許の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに係る発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件発明1」、及び、「本件発明2」という。また、本件発明1、2をまとめて「本件発明」という。さらに、本件特許の訂正した明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、 表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、水を30重量%超80重量%未満、及び保湿剤としての糖類を含有すること を特徴とする、太字水性ゲルインキボールペン(前記着色剤が酸化チタンである場合を除く)。 【請求項2】 単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、 表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下、及び水を30重量%超80重量%未満含有すること、 前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること を特徴とする、太字水性ゲルインキボールペン。」 第5 当事者の主張 1 請求人の主張の概要 請求人は、「特許第3789818号の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」旨の請求を行い、証拠方法として甲第1号証?甲第51号証を提出し(なお、甲第20号証及び甲第21号証は、平成28年10月7日付け上申書(2)に添付して追加された証拠であり、また、甲第22号証?甲第35号証は、平成29年4月25日付け回答書に添付して追加された証拠であり、また、甲第36号証?甲第45号証は、平成29年9月22日付け弁駁書に添付して追加された証拠であり、さらに、甲第46号証?甲第51号証は、平成30年2月21日付け弁駁書に添付して追加された証拠である。)、大略以下のとおりの無効理由を主張している。 (1) 無効理由1(記載要件違反) ア 無効理由1-1(明確性要件違反) 本件特許は、明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 イ 無効理由1-2(サポート要件違反) 本件特許は、明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合せず、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 ウ 無効理由1-3(委任省令要件違反) 本件特許は、明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されていないので、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成14年改正前特許法」という。)第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。 なお、請求人は、審判請求書において、無効理由1-3を「実施可能要件違反」と題しているが、同請求書第11頁?第12頁の記載ぶりによれば、いわゆる「委任省令要件違反」について主張していることは明らかであり、上記のとおり認定した。そして、平成29年9月22日付け弁駁書第2頁等に、「委任省令要件違反(無効理由1-3)」と記載されているように、請求人も自認している。 (2) 無効理由2(新規性の欠如) 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (3) 無効理由3(進歩性の欠如) 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第13号証の記載事項に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 2 甲第1号証?甲第51号証 請求人が提出した証拠方法(甲第1号証?甲第51号証)は、次のとおりである。 (1) 甲第1号証:国際公開第98/26015号(写し) (2) 甲第2号証:実験成績証明書(平成28年2月23日 請求人従業員作成)(写し) (3) 甲第3号証:月刊「文具と事務機」 第75巻 第3号 1998年3月1日発行(写し) (4) 甲第4号証:「三菱鉛筆総合カタログ 1999」 1998年3月頃発行(写し) (5) 甲第5号証:特開平8-143807号公報(写し) (6) 甲第6号証:特開平8-113752号公報(写し) (7) 甲第7号証:特開平7-216283号公報(写し) (8) 甲第8号証:特開平8-231916号公報(写し) (9) 甲第9号証:「PILOT CATALOGUE NO.14」(1999年6月納品)(写し) (10)甲第10号証:「LOOK UP 1999」<1999年パイロット総合カタログ> 株式会社パイロット 1999年1月1日発行(写し) (11)甲第11号証:「PILOT REFILLS for BALL POINT PENS -Compatibility Table -」(パンフレット) 株式会社パイロットコーポレーション 1997年6月発行(写し) (12)甲第12号証:「PILOT CATALOGUE NO.12」 1997年2月頃発行(写し) (13)甲第13号証:特開平11-42884号公報(写し) (14)甲第14号証:対応米国出願(第10/149,656)の拒絶理由通知書(写し及び抄訳) (15)甲第15号証:上記出願に係る出願人の応答書(写し及び抄訳) (16)甲第16号証:国際公開第2001/048103号の再公表特許(写し) (17)甲第17号証:特開平9-316383号公報(写し) (18)甲第18号証:特願2001-548627号の拒絶理由通知書(写し) (19)甲第19号証:特願2001-548627号の拒絶査定書(写し) (20)甲第20号証:特開平8-267984号公報(写し) (21)甲第21号証:「三菱鉛筆総合カタログ MITSUBISHI 2005 Stationery Supplies Catalog 2005」 三菱鉛筆株式会社(写し) (22)甲第22号証:特開平11-1088号公報(写し) (23)甲第23号証:特開平11-1089号公報(写し) (24)甲第24号証:特開平11-42883号公報(写し) (25)甲第25号証:特開平11-43664号公報(写し) (26)甲第26号証:特開平11-48675号公報(写し) (27)甲第27号証:特開平11-48676号公報(写し) (28)甲第28号証:特開平11-50041号公報(写し) (29)甲第29号証:特開平11-99789号公報(写し) (30)甲第30号証:特開平11-277973号公報(写し) (31)甲第31号証:特開平11-129674号公報(写し) (32)甲第32号証:被請求人PRESS RELEASE『水性ゲルインクボールペンで世界初の1.0ミリボール採用!「ユニボールシグノ太字」平成10年3月17日(火) 新発売 新色の朱を含む全10色』https://web.archive.org/web/20020706125720/http://www.mpuni.co.jp:80/newsrelease/bn/press199801082.html(平成10年1月8日付)(写し) (33)甲第33号証:三菱 シグノ太字(φ10)解析結果報告書(平成10年3月31日 請求人従業員作成)(写し) (34)甲第34号証:陳述書(平成29年4月21日 請求人従業員作成)(写し) (35)甲第35号証:実験成績証明書(2)(平成29年4月20日 請求人従業員作成)(写し) (36)甲第36号証:特開平7-76665号公報(写し) (37)甲第37号証:特開平7-266778号公報(写し) (38)甲第38号証:特開平8-209055号公報(写し) (39)甲第39号証:特開平9-249844号公報(写し) (40)甲第40号証:特開平10-219175号公報(写し) (41)甲第41号証:特開平10-231451号公報(写し) (42)甲第42号証:国際公開第98/31755号の再公表特許(写し) (43)甲第43号証:国際公開第99/02617号の再公表特許(写し) (44)甲第44号証:国際公開第99/28398号の再公表特許(写し) (45)甲第45号証:特開2000-168291号公報(写し) (46)甲第46号証:「化学連載 第47回:蒸気圧降下と沸点上昇」http://www.sidaiigakubu.com/examination-measure/chemistry/47/(写し) (47)甲第47号証:「糖類 トウルイ」の項目https://kotobank.jp/word/%E7%B3%96%E9%A1%9E-581674(写し) (48)甲第48号証:特開平2-214785号公報(写し) (49)甲第49号証:特開平8-12916号公報(写し) (50)甲第50号証:特開平8-239617号公報(写し) (51)甲第51号証:特開平9-143410号公報(写し) なお、審判請求書に甲第1号証として添付されたものは国際公開第98/26015号の再公表特許であるが、審判請求書第12頁の「(3-3-1-1)甲第1号証の説明」の欄に、甲第1号証に関して、「本件出願日よりも前の平成10年6月18日に頒布された刊行物(WO98/26015)であり、擬塑性水性ボールペン用インキに係る発明に関する国際公開公報である。」と記載されており、当該「刊行物(WO98/26015)」が、国際出願(PCT/JP97/04479)について、平成10年6月18日に、特許協力条約に基づいて公開された国際公開第98/26015号を意味することが明らかであって、審判請求書に添付された再公表特許の内容は国際公開第98/26015号と同一であるので、審判請求書に甲第1号証として添付された再公表特許を、国際公開第98/26015号とみなして以下検討する。 さらに、甲第42号証として添付された国際公開第98/31755号の再公表特許、甲第43号証として添付された国際公開第99/02617号の再公表特許、及び、甲第44号証として添付された国際公開第99/28398号の再公表特許においても、上記甲第1号証と同様に、それぞれ、国際公開第98/31755号、国際公開第99/02617号、及び、国際公開第99/28398号とみなして以下検討する。 3 被請求人の主張の概要 これに対して被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記「第3 1」の(1)?(3)に記載した無効理由1?3は、いずれも理由がない旨を主張し、証拠方法として下記乙第1号証?乙第20号証を提出している(なお、乙第3号証?乙第11号証は、平成28年8月18日付け口頭審理陳述要領書に添付して追加された証拠であり、また、乙第12号証は、同年9月6日付け上申書に添付して追加された証拠であり、また、乙第13号証?乙第17号証は、同月23日付け上申書に添付して追加された証拠であり、また、乙第18号証は、平成29年1月31日付け回答書に添付して追加された証拠であり、また、乙第19号証は、平成29年8月7日付け上申書に添付して追加された証拠であり、さらに、乙第20号証は、平成30年1月12日付け上申書に添付して追加された証拠である。)。 4 乙第1号証?乙第20号証 被請求人が提出した証拠方法(乙第1号証?乙第20号証)は、次のとおりである。 (1)乙第1号証:ISO 14145-1:1998(E)(写し) (2)乙第2号証:ISO 554-1976(E)(写し及び部分訳) (3)乙第3号証:ISO 304 1985(E)(写し及び部分訳) (4)乙第4号証:協和界面科学株式会社製「自動表面張力計」CBVP-A3型 取扱説明書 VOL.No.9409-150(写し) (5)乙第5号証:実験成績証明書(平成28年8月3日 被請求人従業員作成)(写し) (6)乙第6号証:特許第5926503号公報(写し) (7)乙第7号証:特許第5956247号公報(写し) (8)乙第8号証:特開平10-193863号公報(写し) (9)乙第9号証:実願平5-74205号(実開平7-40180号)のCD-ROM(写し) (10)乙第10号証:特開平10-181271号公報(写し) (11)乙第11号証:特開平11-235892号公報(写し) (12)乙第12号証:陳述書(平成28年9月6日 被請求人従業員作成)(写し) (13)乙第13号証:特開平11-349884号公報(写し) (14)乙第14号証:特開平11-293175号公報(写し) (15)乙第15号証:特開平10-166780号公報(写し) (16)乙第16号証:特開平8-302266号公報(写し) (17)乙第17号証:「PRODUCT CATALOGUE ’97- ’98 uni」(三菱鉛筆株式会社の製品カタログ)(1997年発行)(写し及び部分訳) (18)乙第18号証:実験成績証明書(平成29年1月27日 被請求人従業員作成)(写し) (19)乙第19号証:実験成績証明書(平成29年8月4日 被請求人従業員作成)(写し) (20)乙第20号証:陳述書(平成30年1月9日 被請求人従業員作成)(写し) なお、乙第12号証は、当初、「参考資料1」として、平成28年9月6日付け上申書に添付されていたが、平成28年9月8日に行われた第1回口頭審理において、「乙第12号証」とされた(第1回口頭審理調書参照)。 第6 当審の判断 当審は、本件発明1についての特許は無効理由1の内の無効理由1-2により無効にすべきであり、本件発明2についての特許は無効理由1?3によっては無効とすべきではない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 本件発明について 本件発明は、上記第4で認定したとおりである。 2 証拠について (1) 甲第1号証に記載された事項 甲第1号証(国際公開第98/26015号)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布されたものである。甲第1号証には、「擬塑性水性ボールペン用インキ」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [1-ア] 「技術分野 本発明は、水性ボールペン用インキに関し、更に詳しくは油性ボールペンの長所を有した擬塑性水性ボールペン用インキに関するものである。 背景技術 ボールペン用インキとしては、溶剤が水や水溶性溶媒からなりインキ粘度が10 mPa・s以下である低粘度の水性ボールペン用インキと、鉱物油、多価アルコール、脂肪酸、セルソルブなどの油性溶媒からなりインキ粘度が1000?20000 mPa・sである油性ボールペン用インキが一般的である。 ・・・(中略)・・・ 前記した水性ボールペン用インキおよび油性ボールペン用インキは、それぞれ優れた長所を有している反面、いろいろな問題点を有している。 ・・・(中略)・・・ このような問題点を解決するため、最近では水溶性インキにゲル化剤や水溶性糊剤を添加して特殊な粘度特性を与えた水性ボールペン用インキ(以下、擬塑性水性インキと称す)が知られている。」(明細書第1頁第3行?第2頁第14行) [1-イ] 「この擬塑性水性インキを用いた水性ボールペンは、筆記する際にはチップ先端のボールの回転により、インキに剪断力が加えられるためにインキ粘度が低下し、水性ボールペンのような滑らかな筆記が可能となり、紙面に良好な筆跡をつくりだすことができる。また、非筆記時にはインキの粘度が高いためにペン先からのインキのボタ落ちが防止でき、しかもインキ収納管に直接インキが収納できてボールペンの構造が簡素化できることや透明な材質を使用することでインキ残量の確認が可能となる。このように擬塑性水性ボールペン用インキを用いると水性ボールペンと油性ボールペンの特徴を兼ね備えた筆記具となる。しかし実際に擬塑性水性ボールペン用インキを試作してみると、使用するチップに合わせてインキの粘度調整を行わなければ目的のペン品質を維持させることは非常に難しい。例えば、小径のボール用チップに適した品質を有するインキを、大径ボール用チップで使用するとボールとホルダーのクリアランスが変わることや、筆記時にインキに加わる剪断速度が小さくなることが原因でボテ、線割が発生したり、インキ流量過多に伴う描線乾燥性の低下といった問題が発生してくる。 本発明の目的は上記問題を解決することであり、ボール径、材質、寸法など、どのような条件のチップにも対応し得る、ボテや線割の現象が起こらず、常に滑らかに安定な筆記流量が得られて、経時安定性および描線乾燥性の高い擬塑性水性ボールペン用インキを提供することである。 発明の開示 本発明らは(当審注:「本発明者らは」の誤記と認める。)、前記課題を解決するために研究を行った結果、擬塑性水性インキを充填したボールペンで筆記した際に、発生する描線ボテ、線割および乾燥性の低さの問題を取り除くために、水性インキに特定の界面活性剤を特定量混合することにより目的を達成することを見出し本発明を完成するに至った。 ・・・(中略)・・・ 本発明においての擬塑性とは、静止状態あるいは外力の小さい(低剪断力)ときは、極めて流動しがたくて大きな見かけ粘度を示し、外力が増大する(高剪断力)と流動性が極めて上昇し粘度も急激に減少していく状態を示している。」(明細書第2頁下から第2行?第3頁第11行) [1-ウ] 「着色剤としては、水性系溶媒に溶解もしくは分散可能な染料および顔料がすべて使用可能であり、その具体例としては、エオシン、フオキシン、ウォターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォターレッド、ウォターブルー#105、ブリリアントブル-FCF、ニグロシンNBなどの酸性染料;ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B)バイオレットBBなどの直接染料;ローダミン、メチルバイオレットなどの塩基性染料;カーボンブラック、群青などの無機顔料;銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエローなどの有機顔料などを挙げることができる。これらは、1種もしくは2種類以上混合して使用できる。 また、これらの含有量は0.1から30重量%が好ましい。」(明細書第5頁第7行?第15行) [1-エ] 「水は主要溶剤として使用でき、極性溶剤として水に相溶性のある極性基を有するすべての溶剤が使用できる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ピロリドンなどを挙げることができる。」(明細書第5頁第19行?第23行) [1-オ] 「実施例-3 下記配合で青色擬塑性水性ボールペン用顔料インキを調製した。 フタロシアニンブルー 8.0重量% スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩 3.0 〃 フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸塩: 旭硝子(株)製“サーフロンS-111”) 0.1 〃 ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム (花王(株)製“ペレックスOTP”) 0.5 〃 エチレングリコール 20.0 〃 アミノメチルプロパノール 0.3 〃 ベンゾトリアゾール 0.2 〃 増粘剤(アクリル系合成高分子) 0.4 〃 イオン交換水 残 部」(明細書第9頁第10行?第22行) [1-カ] 「実施例-4 下記配合で黒色擬塑性水性ボールペン用顔料インキを調製した。 カーボンブラック 8.0重量% スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩 3.0 〃 フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸: トーケムプロダクツ製“EF-352”) 0.5 〃 ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム (花王(株)製“ぺレックスTR”) 1.0 〃 エチレングリコール 20.0 〃 アミノメチルプロパノール 0.3 〃 ベンゾトリアゾール 0.2 〃 増粘剤(架橋型アクリル酸重合体) 0.4 〃 イオン交換水 残 部」(明細書第9頁第23行?第10頁第9行) [1-キ] 「 」 (2) 甲第1号証に記載された発明 ア 甲第1号証には、水性ボールペン用の擬塑性水性インキが記載されているといえる([1-ア]、[1-イ])。 イ また、甲第1号証には、実施例3として、フタロシアニンブルーを8.0重量%、スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩を3.0重量%、フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸塩:旭硝子(株)製“サーフロンS-111”)を0.1重量%、エチレングリコールを20.0重量%、アミノメチルプロパノールを0.3重量%、ベンゾトリアゾールを0.2重量%、増粘剤(アクリル系合成高分子)を0.4重量%、イオン交換水 残部である擬塑性水性インキが記載されているといえる([1-オ])。 ここで、上記「エチレングリコール」については、甲第1号証の上記[1-エ]によれば、「極性溶剤として水に相溶性のある極性基を有するすべての溶剤が使用できる。例えば、エチレングリコール、・・・(中略)・・・などを挙げることができる。」と記載されていることから、「極性溶剤として」のものであることがわかり、また、イオン交換水の残部の割合は、67.5重量%(=100重量%-8.0重量%-3.0重量%-0.1重量%-20.0重量%-0.3重量%-0.2重量%-0.4重量%)であることがわかる。 ウ また、甲第1号証には、実施例3の擬塑性水性インキをボール径1.0mmボールペン体に充填した水性ボールペンが記載されており([1-キ])、当該水性ボールペンは、直径が1.0mmのボールが用いられる擬塑性水性インキボールペンであるといえる。 エ 以上のことより、甲第1号証には、 「直径が1.0mmのボールが用いられる擬塑性水性インキボールペンであって、フタロシアニンブルーを8.0重量%、スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩を3.0重量%、フッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルカルボン酸塩:旭硝子(株)製“サーフロンS-111”)を0.1重量%、極性溶剤としてのエチレングリコールを20.0重量%、アミノメチルプロパノールを0.3重量%、ベンゾトリアゾールを0.2重量%、増粘剤(アクリル系合成高分子)を0.4重量%、イオン交換水を67.5重量%を含有する擬塑性水性インキが充填されている擬塑性水性ボールペン。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (3) 甲第2号証に記載された事項 甲第2号証である実験成績証明書(平成28年2月23日 請求人従業員作成)には次の事項が記載されている。 [2-ア] 「1.実験の目的 国際公開第98/26015号に記載された実施例3の擬塑性水性ボールペン用インキについて、本件明細書の記載に従って、表面張力を測定」(第1頁第5行?第7行) [2-イ] 「3.実験の方法 3-1.擬塑性水性ボールペン用インキの製造 下記の国際公開第98/26015号の実施例3に記載の配合で、擬塑性水性ボールペン用インキを製造した(国際公開第98/26015号の10頁下から11行?11頁上から15行)。」(第1頁下から第9行?第6行) [2-ウ] 「3-2.表面張力の測定方法 実施例3の擬塑性水性ボールペン用インキのサンプルは、 ・・・(中略)・・・ 表面張力を測定した。表面張力の測定に使用した装置、測定温度、測定プレートは以下のとおりである。 測定装置:協和界面科学株式会社製「FACE CBVP-A3」 測定温度:20℃ 測定プレート:白金 3-3.表面張力の測定結果 I ・・・ 27.9、 II ・・・ 28.1、 III ・・・ 28.2、 IV ・・・ 28.1、 V ・・・ 27.0、 VI ・・・ 28.3、 VII ・・・ 29.2、 VIII ・・・ 28.7、 IX ・・・ 28.9、 X ・・・ 28.9([表1]、[表2]における表面張力[mN/M]の値の抜粋)」(第2頁第20行?第3頁[表2]) (4) 甲第13号証に記載された事項 甲第13号証(特開平11-42884号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布されたものである。甲第13号証には、「水性ボールペン用インキ追従体ゲル状物」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [13-ア] 「【0004】これらの共通点としては、横乃至上向きで放置されても逆流しないように、難揮発性又は不揮発性溶剤を何らかの増粘剤を用いて疑塑性(当審注:「擬塑性」の誤記と認める。)を与ていることである。もう一つの特徴としては、旧来の油性ボールペンでは潤滑剤などに用いる一般的なグリース(以下潤滑グリース)と同等の粘稠度を持つインキ追従体が用いられることが多かったが、これと比較すると、粘度、稠度とも低いものが多いことが挙げられる。これはインキへの追従性をよくするためである。ボールペンの筆記に要するインキ量はボール径によってまちまちだが、細字0.5mm?太字1.0mmの油性ボールペンでは100mあたり10?30mgであるのに対し、水性ボールペンは細字0.3mm?太字0.7mmで、100mあたり50?300mgのインキ量を要する。水性ボールペンは5?10倍以上のインキを消費するので、インキ追従体には厳しいインキ追従性能が要求されきたのである。さらに、昨今、金・銀色や白色系統など、金属粉や酸化チタンを用いるボールペンが登場して来たが、これら特殊インキの流出量は0.7mmのボールを使用した場合、400mg/100m以上と、従来色の最大値の更に1.5倍にも及ぶ流出量に対応を迫られる場合もある。」 [13-イ] 「【0042】試験2及び試験3の水性ボールペン用インキを次に示すように調製した。 プリンテックス 25(カーボンブラック;デグサ社商品名) 7 重量部 PVP K-30 (ポリビニルピロリドン;GAF社製) 3.5 〃 グリセリン 10 〃 リシノール酸カリウム 0.5 〃 トリエタノールアミン 1 〃 1,2-ベンズイソチアゾリン3-オン 0.2 〃 ベンゾトリアゾール 0.2 〃 水 27.2 〃 以上をビーズミルで混練した後、カーボンブラックの粗大粒子を取り除き プロピレングリコール 20 重量部 カーボポール 940(架橋型ポリアクリル酸;B.F.グッドリッチ社商品名) 0.4 〃 水 30 〃 を加えて、40sec^(-1)の時の粘度が500mPa・sec水性ボールペン用インキを得た。」 (5) 甲第32号証に記載された事項 甲第32号証である被請求人PRESS RELEASE『水性ゲルインクボールペンで世界初の1.0ミリボール採用!「ユニボールシグノ太字」平成10年3月17日(火) 新発売 新色の朱を含む全10色』https://web.archive.org/web/20020706125720/http://www.mpuni.co.jp:80/newsrelease/bn/press199801082.html(平成10年1月8日付)には次の事項が記載されている。 [32-ア] 「三菱鉛筆株式会社(本社:東京都品川区 社長:数原英一郎)では、水性ゲルインクボールペンで世界初の太さとなる1.0ミリボールを採用した「ユニボールシグノ太字」を平成10年3月17日(火)から全国で発売いたします。「ユニボールシグノ太字」は描線幅が約0.8ミリとボールペンでは最も太く、軽くてなめらかな書き味です。」 [32-イ] 「「ユニボールシグノ太字」は、水性ゲルインクボールペンでは世界初の太さとなる1.0ミリボールを採用。描線幅は約0.8ミリと油性、水性を含めたボールペンの中で最も太くなっています。 描線幅が太くなったことで、ボールペンとしての用途のみならず、ハガキなどへの宛名書きといった従来はサインペンが使われていた用途にも使用できるようになりました。 また、この太いボールによりインクの流出量が当社従来品に比べて約3倍となり今までにない軽くてなめらかな書き味を実現いたしました。」 [32-ウ] 「「ユニボールシグノシリーズ」は、今回発売する「ユニボールシグノ太字」を発売することにより全35色となります。平成6年に「ユニボールシグノ」、平成8年に「ユニボールシグノ極細」、平成9年2月に「ユニボールシグノノック式」を、平成9年3月には「ユニボールシグノクリーミィ」を発売。平成9年8月には「ユニボールシグノ グリーンブラック」、「ユニボールシグノ ブラウンブラック」を発売。」 (6) 甲第42号証に記載された事項 甲第42号証(国際公開第98/31755号)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布されたものである。甲第42号証には、「筆記具用水性インキ」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [42-ア] 「請求の範囲 1. 少なくとも、着色剤、分散剤、水及び極性溶剤よりなる筆記具用水性インキにおいて、当該インキは、全インキ重量に対して、デキストリン又はマルトデキストリンを0.5?20重量%含有することを特徴とする筆記具用水性インキ。 2. 請求の範囲1記載の筆記具用水性インキにおいて粘度調整剤を加えて擬塑性を付与した水性ボールペン用インキ。 ・・・(中略)・・・ 4. 粘度調整剤が、ポリアクリル酸塩、架橋型アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、キサンタンガム、グアーガム、カゼイン、アラビアゴム、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸、タラガカントガム、ローカストビーンガムから選んだ少なくとも一種である請求の範囲2又は3記載の水性ボールペン用インキ。」 「42-イ」 「技術分野 本発明は、新規な筆記具用水性インキに関し、詳しくは擬塑性水性ボールペン用インキを含む、耐乾燥性に優れた筆記具用水性インキに関するものである。」(明細書第1頁第3?5行) [42-ウ] 「最近では、水溶性インキにゲル化剤や水溶性糊剤を添加し、インキに特殊な粘度特性を与えた水性ボールペン用インキ(以下、擬塑性水性インキと称す)が提供されている。 この擬塑性水性インキを用いた水性ボールペンは、筆記する際にはチップ先端のボールの回転により、インキに剪断力が加えられる為にインキ粘度が低下し、水性ボールペンのような滑らかな筆記が可能となり、紙面に良好な筆跡をつくり出すことが出来る。また、非筆記時にはインキの粘度が高いためにペン先からのインキのボタ落ちが防止できる。この擬塑性水性インキを用いた水性ボールペンでは、インキ収納管に直接インキを収納でき構造が簡素化出来る事や、インキ収納管に透明な材質を使用することでインキ残量の確認が可能となる。 このように、擬塑性水性ボールペン用インキを用いると、水性ボールペンと油性ボールペンとの両方の特徴を兼ね備えた筆記具となる。水性インキは主溶剤が水であるために、その水分が蒸発すると、例えば、筆記具の先端においてインキ中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり及びインキの粘度上昇を引き起こし、再筆記に支障が生じるといった弊害がある。そのため、従来より、尿素、チオ尿素、多価アルコール、もしくはその誘導体、テトラヒドロフルフリルアルコール、4-メトキシ-4-メチルペンタン-2オン、P-トルエンスルホンアミドのエチレンオキサイド付加物、チオジエタノールアルカノールアミンなどの難揮発性の染料可溶化剤もしくは染料溶解助剤、ソルビトールなどを添加することが提案されている。」(明細書第2頁第13行?第3頁第6行) [42-エ] 「本発明は、耐乾燥性に優れ、且つ安全でインキの粘度が上昇することのない筆記具用水性インキを提供することを目的とする。特に擬塑性水性ボールペン用インキとして好適な水性インキを提供する。」(明細書第3頁第11?13行) [42-オ] 「本発明において筆記具用水性インキに添加されるデキストリン又はマルトデキストリンは、食用甘味料としても一般に用いられている毒性のない安全な糖類で、水に対する溶解度が高く、極めて優れた水分保持性を有するという特徴がある。 したがってこのデキストリン又はマルトデキストリンを含有した筆記具用水性インキは安全で、インキ粘度を経時的に上昇させるような弊害を生じることなく、耐乾燥性を向上させることが可能となる。 デキストリン又はマルトデキストリンは一般的に用いられている水性インキの性質に対して悪影響を与えず、インキ中の水素イオン濃度などを変化させることもないので、アニオン及びカチオン性の物質に対しても悪影響を及ぼさず、従って着色剤としては全ての水性染料及び有機もしくは無機顔料の中から任意に選択できる利点がある。 本発明の水性インキ中のデキストリン又はマルトデキストリンの含有量はインキ全量に対して0.5?20重量%が好ましい。0.5重量%より少ないと耐乾燥性の効果が少なく、20重量%より多いと曳糸性が強くなり、筆記感を低下させる。」(明細書第4頁第1?15行) [42-カ] 「着色剤としては、水性溶媒に溶解もしくは分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を挙げると、エオシン、フオキシン、ウォターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料、ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料、二酸化チタン、カーボンブラック、群青等の無機顔料、あるいは銅フタロシアニンブルー、ベンジシンイエロー等の有機顔料、および各種金属粉末等が使用でき、これら1種もしくは2種類以上混合して使用できる。 着色剤として顔料を用いた場合には、水溶性高分子分散剤や界面活性剤などを適宜選択、配合する事が必要である。水溶性高分子としては、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体の塩、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等の陰イオン性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の非イオン性高分子等が挙げられる。」(明細書第4頁第16行?第5頁第3行) [42-キ] 「水は主要剤として使用でき、極性溶剤としては水に相溶性のある極性基を有した全ての溶剤が使用でき、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ピロリドン、トリエタノールアミン等が使用することが出来る。」(明細書第5頁第4?8行) [42-ク] 「粘度調整剤は、インキに擬塑性を付与するためのもので、具体的には、ポリアクリル酸塩、架橋型アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの非イオン性高分子、キサンタンガム、グアーガム、カゼイン、アラビアゴム、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸、タラガカントガム、ローカストビーンガムなどの多糖類等を使用することが出来る。」(明細書第5頁第9?14行) [42-ケ] 「実施例4 下記配合で青色擬塑性水性ボールペン用顔料インキを調製した。 フタロシアニンブルー : 8.0重量% スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩 : 3.0 〃 エチレングリコール :20.0 〃 デキストリン : 5.0 〃 リン酸エステル : 0.7 〃 バイオデン : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール : 0.2 〃 ポリアクリル酸塩(アクリル系合成高分子) : 0.4 〃 イオン交換水 :残 部 実施例5 下記配合で青色擬塑性水性ボールペン用顔料インキを調製した。 フタロシアニンブルー : 8.0重量% スチレン-アクリル酸樹脂アンモニウム塩 : 3.0 〃 エチレングリコール :20.0 〃 マルトデキストリン : 4.0 〃 リン酸エステル : 0.5 〃 バイオデン : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール : 0.2 〃 ポリアクリル酸塩(アクリル系合成高分子) : 0.4 〃 イオン交換水 :残 部 実施例6 下記配合で黒色擬塑性水性ボールペン用顔料インキを調製した。 カーボンブラック : 8.0重量% スチレン-マレイン酸樹脂アンモニウム塩 : 3.0 〃 マルトデキストリン : 3.0 〃 カリ石鹸 : 0.5 〃 プロピレングリコール :20.0 〃 バイオデン : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール : 0.2 〃 架橋型アクリル酸重合体 : 0.4 〃 イオン交換水 :残 部 比較例4 実施例4のインキにおいて、デキストリンを除き青色水性ボールペン用インキを調製した。 比較例5 実施例5のインキにおいて、マルトデキストリンを除き尿素を5重量%添加して青色水性ボールペン用インキを調製した。 比較例6 実施例6のインキにおいて、マルトデキストリンを除き黒色水性ボールペン用インキを調製した。 上記実施例4?6の処方によって得られたインキと比較例4?6の処方によって得られたインキをそれぞれ、ボール径1.0mmを有するボールペン体に充填し、キャップをはずしたまま放置してカスレが生じるまでの日時を測定し、更に初期のインキの剪断速度3.84s^(-1)における粘度、およびその50℃、1ケ月間保存後の粘度変化を調べた。その結果を表2に示す。 」(明細書第8頁下から第7行?第11頁表2) (7) 甲第43号証に記載された事項 甲第43号証(国際公開第99/02617号)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布されたものである。甲第43号証には、「筆記具用水性インキ組成物」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [43-ア] 「請求の範囲 1. 少なくとも着色剤、水を含んでなるインキ組成物において、更に全インキの組成物の重量に基づき、還元デキストリン又は還元マルトデキストリンを0.5?15重量%含有させてなる筆記具用水性インキ組成物。 2. 請求の範囲1記載の筆記具用水性インキ組成物が粘度調整剤により擬塑性を付与されたインキ組成物である擬塑性水性ボールペン用インキ組成物。」 [43-イ] 「技術分野 本発明は、ペン先における目詰まり、及び耐乾燥性に優れた筆記具用水性インキ組成物、特に油性ボールペンの長所を有した剪断減粘性水性ボールペン用インキ、すなわち擬塑性水性ボールペン用インキ組成物に関するものである。」(明細書第1頁第3?6行) [43-ウ] 「最近では、水溶性インキにゲル化剤や水溶性糊剤を添加し、インキに特殊な粘度特性を与えた水性ボールペン用インキ(以下擬塑性水性インキと称す)が開発されている。 この擬塑性水性インキを用いた水性ボールペンは、筆記する際にはチップ先端のボールの回転により、インキに剪断力が加えられることによってインキ粘度が低下し、水性ボールペンのような滑らかな筆記が可能となり、紙面に良好な筆跡をつくり出すことが出来る。また、非筆記時にはインキの粘度が高いためにペン先からのインキのボタ落ちが防止できると共に、インキ収納管に直接インキを収納でき、構造を簡素化することが出来ることや、インキ収納管に透明な材質を使用することでインキ残量の確認が可能となる。 このように擬塑性水性ボールペン用インキを用いると、水性ボールペンと油性ボールペンの特徴を兼ね備えた筆記具となる。しかし水性インキは、主溶剤が水であるために、その水分が蒸発すると、例えば筆記具の先端において、インキ中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり、インキの粘度上昇を引き起こし、再筆記に支障が生じる。そこで、従来より、尿素、チオ尿素、多価アルコール、もしくはその誘導体、テトラヒドロフルフラールアルコール、4-メトキシ-4-メチルペンタン-2オン、P-トルエンスルホンアミドのエチレンオキサイド付加物、チオジエタノールアカノールアミンなどの難揮発性の染料可溶化剤もしくは染料溶解助剤、ソルビトールなどを添加することが提案されている。」(明細書第2頁第13行?第3頁第6行) [43-エ] 「本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、耐乾燥性に優れ且つ安全でインキの粘度、pHが経時的に変動することのない筆記具用水性インキ組成物、特に擬塑性水性ボールペン用インキ組成物を提供することを目的とする。」 [43-オ] 「本発明で、筆記具用水性インキ組成物に添加する還元デキストリンまたは還元マルトデキストリンは、食用甘味料としても一般に用いられている人体に毒性のない安全な糖類で、水に対する溶解度が高く、極めて優れた水分保持性を有するという特性がある。 この還元デキストリンまたは還元マルトデキストリンを含有した筆記具用水性インキ組成物は、安全且つインキ粘度、pHが経時的に変するような弊害を生じることなく、耐乾燥性が向上することが可能となる。 還元デキストリンまたは還元マルトデキストリンは、一般的に用いられているインキ組成物の性質に対して悪影響を与えず、インキ中の水素イオン濃度などを変化させることもないので、アニオン及びカチオン性の物質に対しても悪影響を及ぼさず、従って着色剤としては全ての水性染料および有機もしくは無機顔料の中から任意に選択できる利点がある。尚、本発明における水性インキ中の還元デキストリンまたは還元マルトデキストリンの含有量はインキ全量に対して0.5?15重量%であることが好ましい。0.5重量%より少ないと耐乾燥性の効果が少なく、15重量%より多いと曳糸性が強くなり、筆記感を低下させる。」(明細書第4頁第9?23行) [43-カ] 「着色剤としては、前述したとおり、水性系液体媒体に溶解もしくは分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を挙げるとエオシン・フオキシン・ウォターイエロー#6-C・アシッドレッド・ウォターブルー#105・ブリリアントブルーFCF・ニグロシンNB等の酸性染料、ダイレクトブラック154・ダイレクトスカイブルー5B・バイオレットBB等の直接染料、ローダミン・メチルバイオレット等の塩基性染料、二酸化チタン、カーボンブラック・群青等の無機顔料、銅フタロシアニンブルー・ベンジジンイエロー等の有機顔料、および各種金属粉末などが使用でき、これら1種もしくは2種類以上混合して使用できる。 着色剤として顔料を用いた際には、水溶性高分子分散剤や界面活性剤などを適宜選択、配合することが必要である。水溶性高分子としては、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体の塩、β-ナフタレンスルホン酸-ホルマリン縮合物などの陰イオン性高分子やポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの非イオン性高分子などが挙げられる。」(明細書第4頁第24行?第5頁第13行) [43-キ] 「水は主媒体として使用でき、また液体媒体としては、水に相溶性のある極性基を有した全ての媒体が使用でき、例えばエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・ポリエチレングリコール・プロピレングリコール・エチレングリコールモノメチルエーテル・グリセリン・ピロリドン・トリエタノールアミン等を使用することが出来る。」(明細書第5頁第14?18行) [43-ク] 「インキ組成物に擬塑性を付与するために加える粘度調整剤としては、具体的には、ポリアクリル酸塩、加橋型アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体の塩、スチレン-マレイン酸共重合体の塩、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの非イオン性高分子、キサンタンガム、グアーガム、カゼイン、アラビアガムなどの多糖類等を使用することが出来る。」(明細書第5頁第19?23行) [43-ケ] 「[実施例5] 下記の配合で青色擬塑性水性ボールペン用顔料インキ組成物を調製した。 フタロシアニンブルー(着色剤) : 8.0重量% スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩(分散剤) : 3.0 〃 エチレングリコール(液体媒体) :20.0 〃 還元デキストリン : 5.0 〃 リン酸エステル(潤滑剤) : 0.7 〃 1:2-ベンズイソチアゾロン塩(防腐剤) : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール(pH調整剤) : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール(防錆剤) : 0.2 〃 ポリアクリル酸塩(アクリル系合成高分子)(粘度調整剤) : 0.4 〃 イオン交換水 : 残部 [実施例6] 下記の配合で青色擬塑性水性ボールペン用顔料インキ組成物を調製した。 フタロシアニンブルー : 8.0重量% スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩 : 3.0 〃 エチレングリコール :20.0 〃 還元マルトデキストリン : 4.0 〃 リン酸エステル : 0.5 〃 1:2-ベンズイソチアゾロン塩 : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール : 0.2 〃 ポリアクリル酸塩(アクリル系合成高分子) : 0.4 〃 イオン交換水 : 残部 [実施例7] 下記配合で黒色擬塑性水性ボールペン用顔料インキ組成物を調製した。 カーボンブラック : 8.0重量% スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩 : 3.0 〃 還元デキストリン :10.0 〃 カリ石鹸(潤滑剤) : 0.5 〃 プロピレングリコール :20.0 〃 1:2-ベンズイソチアゾロン塩 : 0.3 〃 アミノメチルプロパノール : 0.3 〃 ベンゾトリアゾール : 0.2 〃 架橋型アクリル酸重合体(粘度調整剤) : 0.4 〃 イオン交換水 : 残部 [比較例5] 還元デキストリンを配合しなかったこと以外は、実施例5と同様にして青色擬塑性水性ボールペン用インキ組成物を調製した。 [比較例6] 還元マルトデキストリンを配合せず、尿素を5重量%添加したこと以外は、実施例6と同様にして青色擬塑性水性ボールペン用インキ組成物を調製した。 [比較例7] 還元デキストリンを配合せず、未還元デキストリンを3重量%添加したこと以外は、実施例3と同様にして黒色擬塑性水性ボールペン用インキ組成物を調製した。 (評価方法) 上記実施例5?7の処方によって得られたインキと、比較例5?7の処方によって得られたインキとをそれぞれ、ボール径1.0mmボールペン体に充填し、キャップをはずしたまま放置してカスレが生じるまでの日時を測定し、更に初期のインキの剪断速度3.84s^(-1)における粘度、およびその50℃1ケ月間保存後の粘度変化、pH変化を調べた。その結果を表2に示す。尚、実施例3についても初期粘度の値を示す。 本発明の筆記具用水性インキ組成物のカスレ迄の日時、50℃、1カ月保存後の評価結果は前記表の通りであり、本発明での特異の添加物である、還元デキストリン、還元マルトデキストリンを加えなかった比較例に対し、粘度、pHが経時的に変動する弊害が生じることもなく、耐乾燥性が極めて向上する。 キャップをはずしたまま放置して、カスレの発生までの日時も、本発明の場合長く、耐乾燥性が極めて向上したことが分かる。」(明細書第9頁下から第4行?第12頁下から第5行) (8) 甲第45号証に記載された事項 甲第45号証(特開2000-168291号公報)は、本件特許に係る出願の優先日後に頒布されたものである。甲第45号証には、「インキ追従体及びそれを用いたボールペン」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [45-ア] 「【0076】インキ追従体は摺動物として考えることもできる。インキ追従体を用いるペンではインキの消費量とインキ追従体の追従性能との関係は、ペン性能全体に及ぶ重要な要素である。一般に擬塑性の水性インキを用いたボールペンは、一般的な0.5mmボールを使用したもので、100m辺り100?200mgのインキを消費する。更に太字ともなれば300mg以上のインキを消費する。油性ボールペンは一般的な0.7mmボールを使用したもので、100mあたり20mg前後、太字などでは30?40mgのインキを消費し、特殊なものでは40mg以上のインキを消費する。本実施例では試験4,5が一般的な水性擬塑性インキボールペン、試験6,7が太字の流出量の多い水性擬塑性インキボールペン、試験10,11が一般的ボールペン、試験8,9が特別にインキ量が多い特殊なボールペン、と言う設定で、インキ追従体の追従性能と、インキ収容管内壁へのインキ追従体の付着性能を評価した。」 (9) 甲第47号証に記載された事項 [47-ア] 「糖類 トウルイ デジタル大辞泉の解説 とう‐るい〔タウ‐〕【糖類】 単糖類・少糖類・多糖類の総称。炭水化物と同義に用いられることが多い。」 [47-イ] 「大辞林 第三版の解説 とうるい【糖類】 炭素と水との化合物として表される物質で、多くは一般式 C_(n) (H_(2)O)_(m) で表される。単量体からなるものを単糖類、数分子の単糖類からなるものを少糖類、さらに多数の単糖類からなるものを多糖類と呼ぶ。広義には炭水化物を指す。」 [47-ウ] 「日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 糖類 とうるい saccharide 広義には糖質(炭水化物、含水炭素ともいう)と同じ意味に使われる。狭義には糖質のなかで分子量が小さく、水溶性で甘味を有するもの(単糖類や二糖類)をいう。糖類の英語saccharideはラテン語の砂糖saccharonに由来する。糖質は、タンパク質、脂質に倣った呼び名である。炭水化物は炭素と水の化合物の意味で、分子式(CH_(2)O)_(n)をもつことに由来する。含水炭素は古い呼び名である。栄養学ではこれらの名称を区別して用いる。すなわち、分子式(CH_(2)O)_(n)をもつ一群の化合物を炭水化物といい、そのなかでヒトの消化管で消化吸収されるものを糖質という(消化吸収されないものを食物繊維という)。」 (10) 甲第48号証に記載された事項(当審注:促音と認められるものは、適宜小文字で記している。)。 [48-ア] 「特許請求の範囲 1. 水と着色剤を少なくとも含む水性インキ組成物中にマルチトールを0.5?70重量%添加してなる水性インキ。」(明細書第1頁左下欄第3行?第6行) [48-イ] 「(産業上の利用分野) 本発明は、銀記具用、記録機械用、スタンプ用、印刷用等に供する水性インキの耐乾燥性の向上に関するものである。」(明細書第1頁左下欄下から第4行?末行) [48-ウ] 「(作 用) 本発明において水性インキ組成物中に添加するマルチトール(還元麦芽糖にも主要成分として含まれている)は、・・・(中略)・・・又、極めてすぐれた水分保持性を有するとう特性がある(当審注:「という特性」の誤記と認定する。)。このマルチトールの特性によってマルチトールを含んだ水性インキは、安全で、粘度を上昇させるような弊を生じることなく、耐乾燥性を向上せしめることが可能となる。」(明細書第2頁右上欄第5行?左下欄第3行) [48-エ] 「(発明の効果) 本発明の水性インキは上記の通りであり、極めて安全で、また上記実施列の試験結果からも明らかなように、粘度が上昇する弊が生ずることなく耐乾燥性が極めて向上する効果がある。」(明細書第3頁左下欄下から第5行?末行) (11) 乙第17号証に記載された事項 乙第17号証である「PRODUCT CATALOGUE ’97- ’98 uni」(三菱鉛筆株式会社の製品カタログ)(1997年発行)には次の事項が記載されている。 [17-ア] 「平均 0.3mm線 0.7mmボール」 (第13頁 「uni-ball SigNo fine」の項) [17-イ] 「平均 0.2mm線 0.5mmボール」 (第14頁 「uni-ball SigNo micro」の項) [17-ウ] 「平均 0.1mm線 0.38mmボール」 (第13頁 「uni-ball SigNo DX」の項) (12) 実願昭58-174882号(実開昭60-80978号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムに記載された事項 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された実願昭58-174882号(実開昭60-80978号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和60年6月5日特許庁発行。以下、「引用文献B」という。)には、「筆記具のインキ調節装置」(発明の名称)について、以下の事項が記載されている。 [B-ア] 「従って筆圧に比例してボールへのインキの供給量は大きくなり太く濃い線が円滑に筆記できる。」(第6頁第6行?第8行) [B-イ] 「又筆圧に比例してインキが加圧され供給量が大きくなるので筆圧によって筆記線の巾、濃度を調節できる等多数の長所を発揮できる。」(第7頁第9行?第12行) 3 無効理由1の内、無効理由1-1(明確性要件違反)について 無効理由1-1に関して、請求人は、以下の主張をしている。 『表面張力は、物理的には、液体の表面に平行に、液面上の単位長さの線に直角にはたらく応力として定義される。その測定方法としては、毛細管上昇法、滴下法、吊輪法などが知られているが、正しく測定される限り、いずれの測定方法によっても、測定誤差を別にすれば、理論的に同一の数値が得られる。しかし、表面張力が温度に依存することは技術常識である。したがって、液体の物性値として表面張力を規定するには、測定温度を特定する必要がある。しかるに、本件明細書において表面張力の測定温度を特定する記載は存在しない。したがって、「表面張力が16?32mN/mの範囲となる」という用語の意味が一義的に明確に解釈できないことになる。したがって、当業者は、特定のインキが構成要件Cを充足するか否かを判断できないことになるから、第三者に不測の不利益を及ぼすことになる。よって、本件特許の特許請求の範囲は明確性要件に違反する。』(審判請求書第8頁第15行?末行) そこで検討すると、「表面張力」の測定方法に関して、本件明細書の発明の詳細な説明においては、『「表面張力」とは、ISO規格による表面張力をいう。 この表面張力は、例えば、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用い、垂直平板法によって測定することができる。』〔下記(2)d参照。〕と記載されており、これと異なる解釈をすべき事情も見当たらない。 一方、「表面張力」の測定温度に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例・比較例に関する記載を参照すると、『(表面張力の測定、及び筆記試験の結果) 上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキの表面張力を測定した。 ・・・(中略)・・・ なお、表面張力の測定は、ISO規格に従い、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用いて、垂直平板法により行った。』〔下記(2)i参照。〕と記載されており、いずれにしても、請求人が求める測定温度について明示されていないものと認められる。 しかしながら、被請求人提出の答弁書第8頁?第10頁によれば、当該「ISO規格」とは、「ISO規格14145-1」(乙第1号証)、及び「ISO 554」(乙第2号証)のことであり、これらの記載に基づけば、表面張力の温度は、「23℃(推奨大気温度)」が用いられていると解するのが妥当であり、測定温度が不明とはいえない。 してみると、本件発明1における「表面張力」に関する記載の意味は明確である。また、本件発明2も同様である。 したがって、無効理由1-1を理由として無効とすることはできない。 4 無効理由1の内、無効理由1-2(サポート要件違反)について (1) 特許法第36条第6項第1号の解釈 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」という要件、いわゆる、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号)。 そこで、まず、本件特許発明が解決しようとする課題を検討し、次に、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該課題を解決できると認識できるかどうかを検討し、最後に、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討する。 (2) 本件明細書の記載 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 なお、本件明細書の摘記箇所(頁行情報)については、特許第3789818号公報に基づくものである。 a 「技術分野 本発明は、中粘度インキ、中性インキ、ゲルインキ、あるいは水性ゲルインキなどと呼ばれるインキを用いたボールペンに関し、特に、インキの消費量が大きいボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに関するものである。」(第1頁第43行?第46行) b 「背景技術 従来から、種々のボールペンが提供されている。 例えば、溶剤として水又は水溶性溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用いたインキ(以下、「水性インキ」という。)を充填したボールペン(以下、「水性ボールペン」という。)が提供されている。 この水性ボールペンは、インキの粘性が低いため、低い筆記圧で筆記することができ、書き味が滑らかであるという利点を有している。しかし、その反面、振動や衝撃に弱く、チップの先端からインキが漏れ出してしまう現象(以下、「直流現象」という。)があり、又、チップの先端からチップの内部に空気を巻き込み、筆記流量の安定性が低下する現象(以下、「脈流現象」という。)を起こし易いという欠点を有している。更に、この水性ボールペンは、描線がにじみ易いという欠点をも有している。 一方、溶剤として有機溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用いたインキ(以下、「油性インキ」という。)を充填したボールペン(以下、「油性ボールペン」という。)も提供されている。 この油性ボールペンは、インキの粘性が高いため、水性ボールペンに見られるような欠点は有していない。しかし、筆記のために高い筆記圧を必要とし、書き味が重いという欠点を有している。更に、この油性ボールペンは、チップの先端や紙面上をインキの塊で汚してしまう現象(以下、「ボテ現象」という。)を起こし易いという欠点をも有している。 また、最近では、溶剤として水又は水溶性溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用い、更に、擬塑性化剤を添加することにより、擬塑性を有するようにしたインキ(以下、「水性ゲルインキ」という。)を充填したボールペン(以下、「水性ゲルインキボールペン」という。)が提供されている。 なお、擬塑性とは、静止状態においては非流動性を示すものの、剪断力が加えられると流動性を示す性質をいう。 この水性ゲルインキは、インキタンク内では油性インキのような非流動性を示し、一方、チップの先端近辺では、ボールの回転により剪断力が加えられるため、水性インキのような流動性を示すのである。 従って、この水性ゲルインキボールペンは、水性ボールペンが有する利点と、油性ボールペンが有する利点とを併せ持つこととなる。即ち、この水性ゲルインキボールペンは、低い筆記圧で筆記することができ、書き味が滑らかであると共に、描線がにじみにくく、ボテ現象も起こしにくいのである。 ところで、この水性ゲルインキボールペンの製造は、実際には容易ではない。 例えば、ボールの直径が0.5mmのチップと、ボールの直径が0.7mmのチップとでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスが異なると共に、ボールの回転によりインキに加えられる剪断力が異なる。 このため、一方のチップに適した水性ゲルインキを他方のチップに使用すると、直流現象や脈流現象を起こしたり、あるいはボテ現象を起こしたりしてしまう。 従って、使用するチップに合わせて、水性ゲルインキの粘度などの調整が行われている。 更に、最近では、比較的太くて濃い字を書くことができる水性ゲルインキボールペン(以下、「太字水性ゲルインキボールペン」という。)が求められている。 この太字水性ゲルインキボールペンでは、太い字に対応するため、直径が0.9mm以上のボールが用いられる。 また、ボールの直径を大きくしただけでは、描線の幅は広くできても、描線の色が薄く見えてしまうこととなるので、この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスも比較的大きく形成される。 更に、この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールの直径を大きくして描線を太くした分と、ボールとホルダーとの間のクリアランスを大きくして流量を多くした分とに見合うだけの多量のインキをチップに供給する必要がある。 具体的には、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、チップにインキを供給する必要がある。 そして、このようなインキの消費量は、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍にも相当するものである。 なお、単位面積当たりのインキ消費量値とは、単位長さ当たりのインキ消費量値を、描線幅で除することによって求められる値をいう。 例えば、太字水性ゲルインキボールペンの単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましい。単位長さ当たりのインキ消費量値が300mg/100m以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、単位長さ当たりのインキ消費量値が750mg/100m以上では、紙面に転写されたインキが乾きにくくなってしまうからである。 また、直径が1.0mmのボールの描線幅は、紙質によって異なるが、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、0.47mm程度である。 従って、太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値は、0.64?1.6mg/cm^(2)程度となる。 ところが、このような太字水性ゲルインキボールペン用のインキの調整が極めて困難である。 例えば、ボールの直径が0.5mmのチップに適した水性ゲルインキを、ボールの直径が1.0mmのチップに使用すると、ボールとホルダーとの間のクリアランスが大きくなることや、ボールの回転によりインキに加えられる剪断力が小さくなることなどにより、ボテ現象や、描線が複数本に分かれてしまう現象(以下、「線割れ現象」という。)などを起こしてしまうことになる。 また、このような太字水性ゲルインキボールペンでは、チップの先端からのインキの流出量が増大することにより、紙面に転写されたインキが乾きにくくなってしまうことも生じる。 更に、このような太字水性ゲルインキボールペンでは、保存環境や筆記状態によって、チップの先端からのインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じてしまうことになる。」(第1頁第47行?第3頁第24行) c 「発明の開示 そこで、本発明のうち請求項1又は請求項2に記載した発明は、上述したような太字水性ゲルインキボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供することを目的とする。」(第3頁第25行?第29行) d 「本発明者等は、上記の目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンにおいては、水性ゲルインキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整しておけば、ボテ現象や線割れ現象などが起こりにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキが生じにくくなることを見出し、以下に示す発明を完成させるに至った。 即ち、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていることを特徴とする。 ここで、「単位面積当たりのインキ消費量値」とは、「単位長さ当たりのインキ消費量値」を、「描線幅」で除することによって求められる値をいう。 また、「単位長さ当たりのインキ消費量値」とは、ISO規格による単位長さ当たりのインキ消費量値をいう。 この単位長さ当たりのインキ消費量値は、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用い、所定の条件(例えば、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件)で測定することができる。 また、「描線幅」とは、紙面上などに描かれる描線の幅をいう。 この描線幅は、紙質によって異なるが、例えば、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、ボールの直径が1.0mmであれば0.47mm程度となる。 そして、上述したように、太字水性ゲルインキボールペンにおける単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましいので、例えば、直径が1.0mmのボールを備えた太字水性ゲルインキボールペンにおける単位面積当たりのインキ消費量値は0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるのである。 また、「表面張力」とは、ISO規格による表面張力をいう。 この表面張力は、例えば、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用い、垂直平板法によって測定することができる。 そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整することにより、このボールペンで筆記したとき、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。 また、請求項2に記載した太字水性ゲルインキボールペンは、請求項1に記載した太字水性ゲルインキボールペンの構成に加えて、前記水性ゲルインキは、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%含有することを特徴とする。 ・・・(中略)・・・ このように、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに、表面張力を16?32mN/mの範囲に調整したボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。」(第3頁第30行?第5頁第8行) e 「発明を実施するための最良の形態 以下、本発明に係るボールペン用インキ、及びそのボールペン用インキを用いたボールペンの実施の形態を説明する。 (ボールペン用インキ) 本実施の形態に係るボールペン用インキは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いられるものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲に調整されている。 ・・・(中略)・・・ (着色剤) 着色剤としては、従来からボールペン用インキに用いられてきた染料又は顔料であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ また、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料、より具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などの有機系顔料を着色剤として用いることもできる。 なお、これらの染料又は顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、着色剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?40重量%程度とすることが好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、着色剤の含有量が40重量%以上では、インキが経時的に不安定となってしまうからである。 (水溶性溶媒) また、水溶性溶媒としては、極性溶媒であって、水に溶解するものすべてを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ また、水溶性溶媒の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して1?40重量%程度とすることが好ましい。水溶性溶媒の含有量が1重量%以下では、書き味が悪くなってしまう。他方、水溶性溶媒の含有量が40重量%以上では、紙面に転写された際に乾きにくくなってしまうからである。 (フッ素系界面活性剤) また、フッ素系界面活性剤としては、フッ素を含む界面活性剤であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ また、フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。 (保湿剤) また、保湿剤としては、マルチトールを主成分とする還元糖、ソルビトールを主成分とする還元糖、還元オリゴ糖、還元マルトオリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン、難消化性デキストリン、還元澱粉分解物、キシリトール、サッカロース、マルチトール、還元澱粉糖化物、還元麦芽糖などの糖類を用いることができる。 具体的には、例えば、TK-16、TK-75(いずれも商品名、松谷化学工業株式会社製)、ダイヤトールN、ダイヤトールK(いずれも商品名、サンエイ糖化株式会社製)、エスイー20、エスイー58(いずれも商品名、日研化学株式会社製)、PO-300、PO-20(いずれも商品名、東和化成工業株式会社製)などを保湿剤として用いることができる。 なお、これらの糖類は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、保湿剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?10重量%程度とすることが好ましい。保湿剤の含有量が0.1重量%以下では、保湿剤としての効果が発揮されなくなってしまう。他方、保湿剤の含有量が10重量%以上では、紙面に転写された際に乾きにくくなってしまうからである。 ・・・(中略)・・・ (増粘剤) また、増粘剤としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ローカストビーンガム、グアーガム及びその誘導体、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、カラギーナン、ゼラチン、ガゼイン、ガゼインナトリウム、キサンタンガム、ラムザンガム、ウェランガム、ジェランガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ラノリン誘導体、キトサン誘導体、ラクトアルブミン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン及びその誘導体、ポリアクリル酸樹脂、架橋型ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂のアルカリ金属塩などを用いることができる。 ・・・(中略)・・・ なお、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (水) また、水は、ボールベン用インキの成分のうち、上記した着色剤から増粘剤までの成分以外の大部分を占めるものである。本実施の形態では、蒸留水、又はイオン交換水を用いている。 なお、水の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して30?80重量%程度とすることが好ましい。水の含有量が30重量%以下では、チップの先端からのインキの流出量が低下してしまう。他方、水の含有量が80重量%以上では、他の成分が相対的に増加することにより、インキが経時的に不安定となってしまうからである。」(第5頁第9行?第9頁第7行) f 「(ボールペン用インキの製造方法) また、本実施の形態に係るボールペン用インキの製造方法は、他のボールペン用インキの製造方法と比べて特に異なるところはない。 即ち、本実施の形態に係るボールペン用インキは、上述した各成分を混合撹拌等することによって製造することができる。 (ボールペン) 次に、本発明に係るボールペンについて説明する。 本実施の形態に係るボールペンは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキが充填されている。 更に詳しくは、本実施の形態に係るボールペンは、チップ、及びインキタンクを備えている。 (チップ) 前記チップは、ボールとホルダーとを備え、ホルダーの先端側にボールを回転自在に保持させている。 前記ボールは、超硬合金によって形成されている。また、このボールの直径は、1.0mmとされている。 また、前記ホルダーは、ステンレス製の線材を切削して形成されている。また、このホルダーには、ボールハウス及びインキ誘導孔などが設けられている。 そして、このチップは、ボールハウスにボールを収納した後に、ホルダーの先端近辺にカシメ部を形成することにより、ホルダーの先端側にボールを回転自在に保持させているのである。 また、ボールとホルダーとの間のクリアランスは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、即ち、太くて濃い字を書くことができるように調整されている。 なお、ボールは、例えば、焼入鋼によって形成してもよく、また、セラミックによって形成してもよい。 また、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように調整されれば、ボールの直径は、1.0mmに限られず、例えば、0.9mmとしてもよく、また、1.1mmとしてもよい。 また、ホルダーは、例えば、洋白又は真鍮などの金属製の線材を切削して形成してもよく、また、例えば、パイプ鋼材を切削するなどして形成してもよい。 (インキタンク) また、前記インキタンクは、樹脂製のチューブによって形成されている。また、このインキタンクは、上述したチップの後端側に連設されている。そして、このインキタンクに、上述したボールペン用インキが充填されている。 (ボールペンの製造方法) また、本実施の形態に係るボールペンの製造方法は、他のボールペンの製造方法と比べて特に異なるところはない。 即ち、上述したようにチップを形成し、また、このチップの後端側にインキタンクを連設し、更に、このインキタンクにボールペン用インキを充填し、その後、遠心処理を行い、ボールペン用インキ内の空気を抜くことによってボールペンを製造することができる。」(第9頁第11行?第10頁第2行) g 「(効果) そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を、16?32mN/mの範囲に調整することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンとすることができるのである。 言い換えれば、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。」(第10頁第3行?第18行) h 「以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳しく説明する。 (実施例1) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:1.0重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.2重量% 水:イオン交換水:68.5重量% (実施例2) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:0.05重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.4重量% 水:イオン交換水:69.2重量% (実施例3) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:フッ素化アルキルエステル:0.5重量% 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:70.4重量% (実施例4) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:1.5重量% 着色剤:酸化チタン:20.0重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.5重量% 水溶性溶媒:ジグリセリンプロピレンオキサイド4モル付加物:5.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルリン酸エステル:1.0重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:アラビアガム:0.4重量% 水:イオン交換水:63.5重量% (実施例5) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:フッ素化アルキルエステル:0.5重量% 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:1.0重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤;サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:69.9重量% (比較例1) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:1.8重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.2重量% 水:イオン交換水:67.7重量% (比較例2) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:なし 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.4重量% 水:イオン交換水:69.3重量% (比較例3) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:なし 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:70.9重量% (比較例4) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:1.5重量% 着色剤:酸化チタン:20.0重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.5重量% 水溶性溶媒:ジグリセリンプロピレンオキサイド4モル付加物:5.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルリン酸エステル:0.005重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:アラビアガム:0.4重量% 水:イオン交換水:64.5重量%」(第10頁第21行?第12頁第40行) i 「(表面張力の測定、及び筆記試験の結果) 上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキの表面張力を測定した。 また、上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキを充填したボールペンについての筆記試験を行った。 その結果を、下記の表1に示す。 なお、表面張力の測定は、ISO規格に従い、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用いて、垂直平板法により行った。 また、ボールペンは、ボールの直径が1.0mmであり、かつ、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)の範囲に形成されているものを用いた。 また、単位面積当たりのインキ消費量値は、単位長さ当たりのインキ消費量値を、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用いて、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で測定すると共に、この値を描線幅で除することによって求めた。 また、筆記試験は、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用い、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で「らせん筆記」し、ボールペン用インキを使い切るまで行った。このとき、筆記試験用紙としては、ISO規格14145-1に準拠したものを用いた。 そして、この筆記試験により、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、及びインキの経時的安定性についての評価を行った。 ここで、インキの流出量の安定性は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)100m毎のインキの流出量が安定していた。また、ボールペン用インキを使い切るまで、カスレや濃度ムラの発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)100m毎のインキの流出量に多少のバラツキが認められた。また、ボールペン用インキを使い切るまでの間に、カスレや濃度ムラの発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)100m毎のインキの流出量に大きなバラツキが認められた。また、ボールペン用インキを使い切るまでの間に、カスレや濃度ムラの発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、ボテ現象の発生の有無は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)ボテ現象の発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)ボテ現象の発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)ボテ現象の発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、線割れ現象の発生の有無は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)線割れ現象の発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)線割れ現象の発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)線割れ現象の発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、描線の速乾性は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)筆記後30秒以内に描線が乾燥した。→評価「○」 (ロ)筆記後30秒?1分以内に描線が乾燥した。→評価「△」 (ハ)筆記後1分以内に描線が乾燥しなかった。→評価「×」 また、インキの経時的安定性は、製造直後のものと、ガラス瓶に封入して50℃の環境下で1ヶ月間保管したものとについて粘度測定を行い、その結果を下記の基準で判断し、「○」「×」の2段階で評価した。 (イ)粘度変化がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)著しい粘度変化が認められた。→評価「×」 また、表1中、「A」は「インキの流出量の安定性」を、「B」は「ボテ現象の発生の有無」を、「C」は「線割れ現象の発生の有無」を、「D」は「描線の速乾性」を、「E」は「インキの経時的安定性」を示す。 【表1】 このように、実施例1から5までのボールペン用インキを充填したボールペンについては、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、及びインキの経時的安定性のいずれの項目の評価も「○」又は「△」であった。即ち、これらのボールペンは、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写されたインキが乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくかった。 他方、比較例1から4までのボールペン用インキを充填したボールペンについては、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、又はインキの経時的安定性のいずれかの項目の評価が「×」であった。即ち、これらのボールペンは、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易かったり、紙面に転写されたインキが乾きにくかったり、あるいは保存環境や筆記状態によって描線の濃度や幅にバラツキを生じ易かったりした。 更に、表面張力の限界数値についての実験を行ったところ、少なくとも16?32mN/mの範囲においては、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくなることが確認された。 また、フッ素系界面活性剤を加えなくても、あるいは他の物質を加えても、表面張力が16?32mN/mの範囲に調整されていれば、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくなることが確認された。 このように、表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまい、他方、表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によって描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうことが確認された。 また、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%加えることによって、表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くなることが確認された。 なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではない。」(第12頁第41行?第14頁第43行) (3) 本件発明の課題について 上記(2)b、cの記載からみて、太字水性ゲルインキボールペンでは、ボテ現象や、描線が複数本に分かれてしまう現象(以下、「線割れ現象」という。)などを起こしてしまう、チップの先端からのインキの流出量が増大することにより、紙面に転写されたインキが乾きにくくなってしまう、保存環境や筆記状態によって、チップの先端からのインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じてしまう、といった筆記上の問題があるところ、本件特許の請求項1及び2の特許を受けようとする発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「太字水性ゲルインキボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供すること」と認められる。 ここで、「ボテ現象」とは、上記(2)bによれば、チップの先端や紙面上をインキの塊で汚してしまう現象のことである。 (4) 判断 ア 水性ゲルインキにおける保湿剤の種類及びその含有量について 水性ゲルインキにおける保湿剤の含有量について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「保湿剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?10重量%程度とすることが好ましい。」、「保湿剤の含有量が0.1重量%以下では、保湿剤としての効果が発揮されなくなってしまう。」〔上記(2)e〕と記載されている。 ここで、当該「保湿剤としての効果」が、どのようなものであるのか、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても不明であるが、一般的には、保湿剤を含有させることによって、水分の揮散やインキの粘度上昇を抑制し、ペン先の目詰まりを防止し、再筆記に支障が生じにくくなることは技術常識であるから(必要であれば、上記[42-イ]、「43-イ」、及び、特開平8-209055号公報の【0008】等参照。)、上記課題の内、「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」「ボールペンを提供すること」という課題については解決できるといえる。それについて、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、保湿剤は、すべての実施例において使用されており(実施例1「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例2「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例3「保湿剤:マルチトール:3.0重量%」、実施例4「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例5「保湿剤:マルチトール:3.0重量%」)、表1〔上記(2)h〕の評価と併せて勘案すると、「保湿剤としてのマルチトール」を用い、かつ、その含有量が、「3.0重量%以上5.0重量%以下」であれば、「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」という効果を奏することが一応確認できる。 (ア) 本件発明1について 本件発明1においては、「保湿剤としての糖類」を含有するという発明特定事項を有するものであるが、当該「糖類」の種類が規定されていない。 ここで、当該「糖類」には、それぞれ特性の異なる様々な種類の糖類を含み得ることは、本件発明1の出願時において技術常識である〔「糖類」については、本件明細書に「マルチトールを主成分とする還元糖、ソルビトールを主成分とする還元糖、還元オリゴ糖、還元マルトオリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン、難消化性デキストリン、還元澱粉分解物、キシリトール、サッカロース、マルチトール、還元澱粉糖化物、還元麦芽糖など」(第7頁第14行?第18行)と列記されているが、一般的には、例えば、甲第47号証の上記[47-ア]?[47-ウ]によれば、それぞれ、「単糖類・少糖類・多糖類の総称。炭水化物と同義に用いられることが多い。」、「炭素と水との化合物として表される物質で、多くは一般式 C_(n) (H_(2)O)_(m) で表される。単量体からなるものを単糖類、数分子の単糖類からなるものを少糖類、さらに多数の単糖類からなるものを多糖類と呼ぶ。広義には炭水化物を指す。」、「広義には糖質(炭水化物、含水炭素ともいう)と同じ意味に使われる。狭義には糖質のなかで分子量が小さく、水溶性で甘味を有するもの(単糖類や二糖類)をいう。」と記載されているように、「単糖類、少糖類(含む二糖類)、多糖類」や、広義としては「炭水化物」を含むものである。〕ところ、上記「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」という効果が確認されているのは、「保湿剤としてのマルチトール」を用い、かつ、その含有量が、「3.0重量%以上5.0重量%以下」のみであり、マルチトール以外の糖類を用いた場合についてはその効果が確認されておらず、ここで、マルチトールとは、少糖類であって、水溶性食物繊維(炭水化物)の一種であると認められるところ、「糖類」であれば、どのようなものでも〔例えば、単糖類や多糖類、セルロース、ヘミセルロース等不溶性食物繊維(炭水化物)でも〕、等しく上記課題を解決できるかどうか不明である。 また、本件発明1においては、「保湿剤としての糖類」の含有量は明示的に規定されていない。 ここで、本件明細書の上記「(2)e」には、「保湿剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?10重量%程度とすることが好ましい。」と記載されていることから、本件明細書を参酌すると、保湿剤としての糖類の含有量は、最大で10重量%程度を規定したものであると認められる。 しかしながら、上記「ア」で述べたとおり、本件発明の「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」という効果が確認できるのは、あくまでも、本件明細書の実施例に記載された組成物についてであり、インキ全量に対して「3.0?5.0重量%」のものである。そして、線割れ現象の発生の有無などの特性が、当該保湿剤としての糖類の含有量によって左右されることは当業者にとっては技術常識であるといえるから、インキ組成物における「本件発明1の保湿剤としての糖類」の配合量が「3.0?5.0重量%」である場合に所望の作用効果を奏するからといって、「本件発明1の保湿剤としての糖類」の含有量が特定されていないインキ組成物全般にわたって、同様の作用効果を奏するとは認められない。 そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本件出願の出願日時点の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容を本件発明1にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。 なお、被請求人は、平成30年1月12日付けの上申書第6頁において、「第2訂正発明1(当審注:「本件発明1」に相当。)に係る請求項1においては、水性ゲルインキが糖類を「保湿剤として」含むことを規定しており、したがって、当該糖類の量が保湿剤として機能する量であることは、当該請求項1の記載ぶりから自明です。保湿剤として機能しない量で存在する糖類は、そもそも保湿剤とはいえません。すなわち、この第2訂正発明1は、保湿剤としての効果を奏さない程度の少量の糖類のみを含有する態様は包含していません。」と述べており、本件発明1において、保湿剤として機能しない量で存在する糖類は含まれていない旨主張しているが、上記のとおり、保湿剤としての糖類としてその機能が発揮できる含有量は、最大で10重量%程度を規定したものであると認められ、「保湿剤としての糖類」を配合したインキ組成物全般にわたって本件発明の課題が解決できるものとは認められない。 よって、被請求人の上記主張を参酌しても、本件発明1に対する無効理由1-2を解消する根拠となり得ない。 (イ) 本件発明2について 本件発明2においては、「保湿剤としてのマルチトール」を「3.0重量%以上5.0重量%以下」含有することと規定されていることから、上記のとおり「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供すること」という所望の効果を奏することが技術的に明らかであり、上記「(3)」の本件発明の課題が解決できることが認識できる。 そして、上記本件訂正により、本件発明2については、「保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下」を含有することが特定されたことから、本件発明2が、本件明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。 したがって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 イ 小括 以上のとおりであるから、本件特許の優先日時点の技術常識を参酌しても、保湿剤の種類及びその含有量を十分特定していない本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明の記載を超えるものであるので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、本件特許は特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものである。 これに対して、本件発明2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 5 無効理由1の内、無効理由1-3(委任省令要件違反)について (1) 平成14年改正前特許法第36条第4項は、「前項第3号の発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。」と記載されているところ、当該通商産業省令は、特許法施行規則第24条の2であって、それには、「特許法第36条第4項の通商産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と記載されていることから、委任省令要件違反とは、本件明細書において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されているという要件を満たしていない場合に適用されるのであるから、本件発明について、本件明細書に、「発明の属する技術の分野」、及び「発明が解決しようとする課題及びその課題解決手段」が記載されているかどうか、以下検討する。 (2) 「発明の属する技術の分野」について まず、本件発明の属する技術の分野については、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとおり、『技術分野 本発明は、中粘度インキ、中性インキ、ゲルインキ、あるいは水性ゲルインキなどと呼ばれるインキを用いたボールペンに関し、特に、インキの消費量が大きいボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに関するもの』〔上記4(2)a参照。〕と認められる。 (3) 「発明が解決しようとする課題」について 次に、本件発明が解決しようとする課題については、上記4(3)で述べたとおり、「太字水性ゲルインキボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供すること」と認められる。 (4) 「課題解決手段」について ア 太字水性ゲルインキボールペンの水性ゲルインキの表面張力を「16?32mN/mの範囲となるように調整された」について 本件発明1では、「表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され」との発明特定事項がある。 ここでは、当該発明特定事項である「表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され」について、本件明細書の発明の詳細な説明の、実施例1?5、及び比較例1?4の記載からみて、以下検討する。 水性ゲルインキの表面張力が「16?32mN/mの範囲」となるように調整された実施例1?5の太字水性ゲルインキボールペンについての「インキの流出量の安定性」に関する筆記試験〔上記(2)iの表1の「A」欄参照。〕では、「○」(○:100m毎のインキの流出量が安定していた。また、ボールペン用インキを使い切るまで、カスレや濃度ムラの発生がほとんど認められなかった。)であるのに対して、水性ゲルインキの表面張力が「32mN/m」「超」となるように調整された比較例2?4の太字水性ゲルインキボールペンについての「インキの流出量の安定性」に関する筆記試験で、「×」(×:100m毎のインキの流出量に大きなバラツキが認められた。また、ボールペン用インキを使い切るまでの間に、カスレや濃度ムラの発生が明らかに認められた。)であり、 また、水性ゲルインキの表面張力が「16?32mN/mの範囲」となるように調整された実施例1?5の太字水性ゲルインキボールペンについての「ボテ現象の発生の有無」に関する筆記試験〔上記(2)iの表1の「B」欄参照。〕、及び、「線割れ現象の発生の有無」に関する筆記試験〔上記(2)iの表1の「C」欄参照。〕では、一方のいずれかは「○」であって、他方のいずれかは「○」または「△」であり、 また、水性ゲルインキの表面張力が「16?32mN/mの範囲」となるように調整された実施例1?5の太字水性ゲルインキボールペンについての「描線の速乾性」に関する筆記試験〔上記(2)iの表1の「D」欄参照。〕では、「○」(○:筆記後30秒以内に描線が乾燥した。)であるのに対して、水性ゲルインキの表面張力が「32mN/m」「超」となるように調整された比較例2?4の太字水性ゲルインキボールペンについての「描線の速乾性」に関する筆記試験で、「△」(△:筆記後30秒?1分以内に描線が乾燥した。)であり、 また、水性ゲルインキの表面張力が「16?32mN/mの範囲」となるように調整された実施例1?5の太字水性ゲルインキボールペンについての「経時安定性」に関する筆記試験〔上記(2)iの表1の「E」欄参照。〕では、「○」(○:粘度変化がほとんど認められなかった。)であるのに対して、水性ゲルインキの表面張力が「16mN/m」「未満」となるように調整された比較例2?4の太字水性ゲルインキボールペンについての「経時安定性」に関する筆記試験で、「×」(×:著しい粘度変化が認められた。)であり、ここで、「経時安定性」に関する項目は、インキの粘度を測定しているものであって、筆記状態を直接評価するものではないが、当該インキの粘度が、上記課題における「保存環境」に密接に関連し、「保存環境」によっては、インキの粘度上昇(変質)が起こり、描線の濃度や幅にバラツキが生じることが予想されることから、当該「経時安定性」は、保存環境によるインキの変質を評価するものであると認められる。 したがって、これらを総合的に見ると、水性ゲルインキの表面張力が「16?32mN/mの範囲」となるように調整された太字水性ゲルインキボールペンにおいては、「インキの流出量の安定性に優れた」、「ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく」、「速乾性に優れた」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」という顕著な効果を一応確認することができ、上記(3)の課題である、「ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供すること」という課題については解決できるといえる。 イ 太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値を「0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている」について (ア) 太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値を「0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている」に関しては、本件明細書によれば、以下のとおり記載されている。 「この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールの直径を大きくして描線を太くした分と、ボールとホルダーとの間のクリアランスを大きくして流量を多くした分とに見合うだけの多量のインキをチップに供給する必要がある。 具体的には、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、チップにインキを供給する必要がある。 そして、このようなインキの消費量は、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍にも相当するものである。 ・・・(中略)・・・ また、直径が1.0mmのボールの描線幅は、紙質によって異なるが、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、0.47mm程度である。 従って、太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値は、0.64?1.6mg/cm^(2)程度となる。」〔上記4(2)b〕 「本発明者等は、上記の目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンにおいては、水性ゲルインキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整しておけば、ボテ現象や線割れ現象などが起こりにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキが生じにくくなることを見出し、以下に示す発明を完成させるに至った。 即ち、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていることを特徴とする。 ・・・(中略)・・・ そして、上述したように、太字水性ゲルインキボールペンにおける単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましいので、例えば、直径が1.0mmのボールを備えた太字水性ゲルインキボールペンにおける単位面積当たりのインキ消費量値は0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるのである。 ・・・(中略)・・・ そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整することにより、このボールペンで筆記したとき、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 ・・・(中略)・・・ このように、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに、表面張力を16?32mN/mの範囲に調整したボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。」〔上記4(2)d〕 「(ボールペン用インキ) 本実施の形態に係るボールペン用インキは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いられるものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲に調整されている。」〔上記4(2)e〕 「(ボールペン) 次に、本発明に係るボールペンについて説明する。 本実施の形態に係るボールペンは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキが充填されている。 ・・・(中略)・・・ (チップ) 前記チップは、ボールとホルダーとを備え、ホルダーの先端側にボールを回転自在に保持させている。 ・・・(中略)・・・ また、ボールとホルダーとの間のクリアランスは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、即ち、太くて濃い字を書くことができるように調整されている。 ・・・(中略)・・・ また、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように調整されれば、ボールの直径は、1.0mmに限られず、例えば、0.9mmとしてもよく、また、1.1mmとしてもよい。」〔上記4(2)f〕 「(効果) そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を、16?32mN/mの範囲に調整することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンとすることができるのである。 言い換えれば、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。」〔上記4(2)g〕 「(表面張力の測定、及び筆記試験の結果) 上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキの表面張力を測定した。 また、上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキを充填したボールペンについての筆記試験を行った。 その結果を、下記の表1に示す。 なお、表面張力の測定は、ISO規格に従い、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用いて、垂直平板法により行った。 また、ボールペンは、ボールの直径が1.0mmであり、かつ、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)の範囲に形成されているものを用いた。 また、単位面積当たりのインキ消費量値は、単位長さ当たりのインキ消費量値を、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用いて、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で測定すると共に、この値を描線幅で除することによって求めた。」〔上記4(2)h〕 (イ) これらの記載からみると、「0.64?1.6mg/cm^(2)」という単位面積当たりのインキ消費量値は、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機、及び筆記試験用紙を用いて、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で測定されたインキ消費量値を描線幅(0.47mm)で除することによって求められるものであって、この量を従来よりも多くすることによって、太くて濃い字を書くことができるという定性的なことが把握できるといえる。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明においては、何をもって濃いとするのか、その具体的な基準・程度が直接的には記載されていないが、「具体的には、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、チップにインキを供給する必要がある。 そして、このようなインキの消費量は、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍にも相当するものである。」〔上記4(2)b〕とのことであるから、本件発明のインキによって書かれた字は、他の条件が等しいと仮定した場合に、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍なので、上記数値範囲であれば、少なくとも、従来のインキによって書かれた字に比較して濃いものと推察される。 (5) 小括 以上のとおりであるから、本件発明1、2は、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されているといえるので、本件特許は平成14年改正前特許法第36条第4項の規定を満たした特許出願に対してなされたものである。 6 無効理由3(進歩性の欠如)について (1) 本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア) 甲1発明の「増粘剤(アクリル系合成高分子)を0.4重量含む擬塑性水性インキ」における「擬塑性」については、甲第1号証の上記[1-イ]によれば、「本発明においての擬塑性とは、静止状態あるいは外力の小さい(低剪断力)ときは、極めて流動しがたくて大きな見かけ粘度を示し、外力が増大する(高剪断力)と流動性が極めて上昇し粘度も急激に減少していく状態を示している。」と記載されていることから、「静止状態あるいは外力の小さい(低剪断力)ときは、極めて流動しがたくて大きな見かけ粘度を示し、外力が増大する(高剪断力)と流動性が極めて上昇し粘度も急激に減少していく状態」のことであると認められ、一方、本件明細書の上記4(2)bによれば、「溶剤として水又は水溶性溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用い、更に、擬塑性化剤を添加することにより、擬塑性を有するようにしたインキ(以下、「水性ゲルインキ」という。)を充填したボールペン(以下、「水性ゲルインキボールペン」という。)が提供されている。 なお、擬塑性とは、静止状態においては非流動性を示すものの、剪断力が加えられると流動性を示す性質をいう。」と記載されていることもあり、甲1発明の「増粘剤(アクリル系合成高分子)を0.4重量含む擬塑性水性インキ」が、本件発明1における「増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキ」に相当することは、当業者に自明であり、さらに、甲1発明の「擬塑性水性インキボールペン」は、本件発明1における「水性ゲルインキボールペン」に相当するともいえる。 (イ) また、ボールペンのボールの直径について、本件発明1の「0.9mm以上」と、甲1発明の「1.0mm」とは、「1.0mm」である点で一致する。 (ウ) また、甲1発明の「フタロシアニンブルーを8.0重量%」における「フタロシアニンブルー」については、甲第1号証の上記[1-ウ]によれば、「着色剤としては、水性系溶媒に溶解もしくは分散可能な染料および顔料がすべて使用可能であり、その具体例としては、・・・(中略)・・・銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエローなどの有機顔料などを挙げることができる。」と記載されていることから、「銅フタロシアニンブルー」に属することがわかり、一方、本件明細書の上記4(2)eによれば、「着色剤としては、従来からボールペン用インキに用いられてきた染料又は顔料であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。・・・(中略)・・・また、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料、より具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などの有機系顔料を着色剤として用いることもできる。」と記載されていることもあり、甲1発明の「フタロシアニンブルー」が、本件発明1における「着色剤」に包含されることは、当業者に自明であるから、本件発明1と甲1発明とは、着色剤を8.0重量%含有する点で一致する。 さらに、甲1発明の「フタロシアニンブルー」が「酸化チタン」でないことから、甲1発明の着色剤がフタロシアニンブルーである「擬塑性水性インキボールペン」は、本件発明1の「太字水性ゲルインキボールペン(前記着色剤が酸化チタンである場合を除く)」に相当するといえる。 (エ) また、本件発明1と甲1発明とは、フッ素系界面活性剤を0.1重量%含有する点で一致する。 (オ) さらに、甲1発明の「イオン交換水を67.5重量%」における「イオン交換水」については、本件明細書の上記4(2)eによれば、「また、水は、ボールベン用インキの成分のうち、上記した着色剤から増粘剤までの成分以外の大部分を占めるものである。本実施の形態では、蒸留水、又はイオン交換水を用いている。」と記載されていることもあり、本件発明1における「水」に相当することは、当業者に自明であるから、本件発明1と甲1発明とは、水を67.5重量%含有する点で一致する。 (カ) したがって、両発明は、 「直径が1.0mmのボールが用いられる水性ゲルインキボールペンであって、 増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を8.0重量%、フッ素系界面活性剤を0.1重量%、及び水を67.5重量%含有する 水性ゲルインキボールペン(前記着色剤が酸化チタンである場合を除く)。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 水性ゲルインキについて、本件発明1が「表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 <相違点2> 「水性ゲルインキボールペン」について、本件発明1が「太字」と特定しているのに対して、甲1発明は、特定していない点。 <相違点3> 水性ゲルインキボールペンについて、本件発明1が「単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 <相違点4> 本件発明1が「保湿剤としての糖類を含有する」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 イ 判断 (ア) <相違点1>について 上記甲第2号証の実験成績証明書によれば、甲第1号証の実施例3に記載された擬塑性水性ボールペン用インキは、表面張力の値が、27.0?29.2mN/mであるから、本件発明1の、表面張力が16?32mN/mの範囲を満足しているものと認められることから、相違点1は、実質的な相違点に当たらないということができる。 なお、当該相違点1については、被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書、回答書において、何らの主張もなされていない。 また、甲第2号証の実験成績証明書によれば、表面張力の測定温度が「20℃」であって、被請求人が規定する「23℃」とは異なるものであるが、被請求人提出の口頭審理陳述要領書によれば、「少なくとも20℃?30℃の範囲において、表面張力の測定温度による影響が測定装置の測定精度との関係において無視できる程度に小さいことは、乙第5号証から明らかです。」(第8頁7行?第9行)とのことであり、被請求人自ら測定温度の違いについて、問題としていないものと認められる。 (イ) <相違点2>について 本件発明1の「太字」については、本件明細書の上記4(2)bによれば、「この太字水性ゲルインキボールペンでは、太い字に対応するため、直径が0.9mm以上のボールが用いられる。」、「前記ボールは、超硬合金によって形成されている。また、このボールの直径は、1.0mmとされている。 ・・・(中略)・・・ また、ボールとホルダーとの間のクリアランスは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、即ち、太くて濃い字を書くことができるように調整されている。」と記載されていることから、ボールペンで用いられるボールの直径が1.0mmならば、当該ボールペンは、太字ボールペンであるといえるものである。 してみると、甲1発明の擬塑性水性インキボールペンで用いられるボールの直径が1.0mmであるので、甲1発明も「太字擬塑性水性インキボールペン」といいかえることができ、相違点2は、実質的な相違点に当たらないということができる。 (ウ) <相違点3>について 本件発明1の「単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)」については、本件明細書の上記4(2)bによれば、「太字水性ゲルインキボールペンの単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましい。・・・(中略)・・・直径が1.0mmのボールの描線幅は、紙質によって異なるが、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、0.47mm程度である。 従って、太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値は、0.64?1.6mg/cm^(2)程度となる。」とのことであるから、「300?750mg/100m程度」という単位長さ当たりのインキ消費量値を基に、直径が1.0mmのボールの描線幅0.47mm程度を基準に計算され規定されたものであるといえる。 そして、同じく上記4(2)bによれば、「ボールの直径を大きくしただけでは、描線の幅は広くできても、描線の色が薄く見えてしまうこととなるので、この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスも比較的大きく形成される。 ・・・(中略)・・・ そして、このようなインキの消費量は、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍にも相当するものである。」とのことであるから、当該「従来の水性ゲルインキボールペン」とは、同じく上記4(2)bの「例えば、ボールの直径が0.5mmのチップと、ボールの直径が0.7mmのチップとでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスが異なると共に、ボールの回転によりインキに加えられる剪断力が異なる。」、「この太字水性ゲルインキボールペンでは、太い字に対応するため、直径が0.9mm以上のボールが用いられる。」という記載をも考慮すれば、ボールの直径が大きくなる前のボールペンであって、0.9mm未満の例えば、0.7mmや0.5mmの直径のボールを有するボールペンであると認められる。 そこで、「従来の水性ゲルインキボールペン」のインキ消費量値について、検証すると、甲第13号証の上記[13-ア]によれば、「ボールペンの筆記に要するインキ量はボール径によってまちまちだが、細字0.5mm?太字1.0mmの油性ボールペンでは100mあたり10?30mgであるのに対し、水性ボールペンは細字0.3mm?太字0.7mmで、100mあたり50?300mgのインキ量を要する。」とのことであり、同じく[13-イ]によれば、甲第13号証の水性ボールペン用インキは、「カーボポール 940(架橋型ポリアクリル酸;B.F.グッドリッチ社商品名)」という本件発明における増粘剤を含んでいることがわかり、すなわち、甲第13号証においては、水性ゲルインキボールペン用インキを用いた、0.3?0.7mmというボール径を有する従来のボールペンのインキ消費量値が「50?300mg/100m」であることが記載されているといえる〔なお、上記従来の消費量値については、甲第22号証?甲第29号証にも、同様に記載されている(要すれば、甲第22号証の【0004】、【0018】、甲第23号証の【0004】、【0018】、甲第24号証の【0005】、【0015】、甲第25号証の【0005】、【0015】、甲第26号証の【0004】、【0020】、甲第27号証の【0004】、【0023】、甲第28号証の【0004】、【0010】、【0023】、甲第29号証の【0004】、【0018】等参照。)。〕。 これに対して、甲第1号証には、インキ消費量に関する直接的な記載はないものの、甲第1号証の上記[1-イ]によれば、「小径のボール用チップに適した品質を有するインキを、大径ボール用チップで使用するとボールとホルダーのクリアランスが変わることや、筆記時にインキに加わる剪断速度が小さくなることが原因でボテ、線割が発生したり、インキ流量過多に伴う描線乾燥性の低下といった問題が発生してくる。」とのことであるから、ボールの直径を大きくすると、ボールとホルダーとの間のクリアランスも変わりインキの流量が過多となる、すなわち、ボールの直径を大きくすると、ボールとホルダーとの間のクリアランスも大きくなりインキの消費量が従来より増加する旨、示唆されている。 そして、甲第32号証には、上記[32-イ]によれば、『「ユニボールシグノ太字」は、水性ゲルインクボールペンでは世界初の太さとなる1.0ミリボールを採用。・・・(中略)・・・この太いボールによりインクの流出量が当社従来品に比べて約3倍となり』とのことであり、ここで、当社とは、被請求人のことであり、被請求人従来品とは、同じく上記[32-ウ]によれば、平成6年に発売された「ユニボールシグノ」や平成8年に発売された「ユニボールシグノ極細」という「ユニボールシグノシリーズ」の商品を指すことは当業者に明らかであり、具体的な商品としては、乙第17号証の上記[17-ア]?[17-ウ]によれば、「uni-ball SigNo fine」、「uni-ball SigNo micro」、「uni-ball SigNo DX」を指すものと認められ、それらのボールの直径が「0.38?0.7mm」であるから、従来のボールの直径が「0.38?0.7mm」のものに対して、ボールの直径が「1.0mm」のインキ消費量が約3倍であることが示唆されており、従来の単位長さ当たりのインキ消費量値が、「50?300mg/100m」であって、例えば、甲第32号証の示唆に基づいて3倍すると、「150?900mg/100m」となり、本願発明のように単位面積当たりのインキ消費量値に換算すると、「0.32?1.9mg/cm^(2)」となり、この数値範囲は、本件発明1の「0.64?1.6mg/cm^(2)」を完全に包含するものである。 してみれば、本件発明1の単位面積当たりのインキ消費量値が「0.64?1.6mg/cm^(2)」の数値範囲については、従来のインキ消費量値に対して、甲第32号証の示唆に基づいて導き出した「0.32?1.9mg/cm^(2)」を適宜最適化したものに過ぎず、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、当業者にとっては、容易に想到することができるといわざるを得ない。 なお、本件明細書の特に、実施例・比較例を参照しても、「ボールペンは、ボールの直径が1.0mmであり、かつ、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)の範囲に形成されているものを用いた」〔本件明細書の上記4(2)i〕ものばかりであり、当該数値範囲以外の比較例が存在しないことから、当該数値範囲に対する臨界的意義を認めることができず、当該数値範囲を規定することによる顕著な効果を認めることはできない。 (エ) <相違点4>について a 甲第1号証には、「保湿剤」の使用や、「糖類」の使用については、記載されていない。 しかしながら、甲第42号証の上記[42-ア]、[42-ウ]、[42-ケ]、甲第43号証の上記[43-ア]、「43-ウ」、[43-ケ]、及び、特開平8-209055号公報の【0008】等の記載からすると、本件特許に係る出願の優先日時点において、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性ゲルインキにおいて、例えば、ソルビトール、デキストリン、マルトデキストリン等を含有させることは、周知技術である。ここで、当該「ソルビトール」は単糖類であり、同じく、デキストリン、及び、マルトデキストリンは多糖類であって、これらは「糖類」の一種であることは当業者に自明であり、甲第42号証の上記[42-オ]、甲第43号証の上記「43-オ」によれば、「水分保持性を有する」とのことであるので、これら「糖類」は、いわゆる「保湿剤」としての機能を有するというべきである。 してみると、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性ゲルインキにおいて、保湿剤としての糖類を含有する構成(上記相違点4に係る本件発明1の構成)は、周知であったということができる(なお、甲第48号証には、上記[48-ア]等によれば、マルチトールという糖類の一種が記載されているが、その技術分野は、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性インキであるものの、水性「ゲル」インキでないことから、上記周知の構成の認定から除外している。)。 次に、甲1発明に上記周知の構成を適用する動機付けの有無について検討する。 甲1発明は、極性溶剤としてのエチレングリコールを含有するのであるから、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性ゲルインキを用いたものといえる。 そして、甲第42号証の上記[42-ウ]、及び、甲第43号証の上記「43-ウ」の記載からすると、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性ゲルインキにおいて、当該水性ゲルインキは、水を含有していることから、その水分が蒸発すると、ペン先において、インキ中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり、インキの粘度上昇を引き起こし、再筆記に支障が生じることは周知の課題であると認められる。 しかるに、甲1発明の擬塑性水性インキボールペンに充填されている、擬塑性水性インキ(水性ゲルインキ)においても、水(イオン交換水)を含有していることから、その水分が蒸発すると、ペン先において、インキ中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり、インキの粘度上昇を引き起こし、再筆記に支障が生じるという課題を有していることは、当業者に自明なものと認められる。 そうすると、甲1発明における着色剤(フタロシアニンブルー)、水(イオン交換水)、極性溶剤を含有する水性ゲルインキにおいて、水分が蒸発することにより、ペン先において、インキ中の溶解物や混合物が濃縮、析出、乾燥固化して目詰まり、インキの粘度上昇を引き起こし、再筆記に支障が生じることを防止するために、保湿剤としての糖類を含有させることは、当業者が容易に想到し得るものということができる。 b 効果について 上記4(3)で検討した「太字水性ゲルインキボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供すること」という本件発明の課題の解決は、上記4(4)で説示したとおり、特定の保湿剤を特定量で配合した場合に達成するものであるから、保湿剤としての糖類の種類を特定せず、かつその含有量を特定しない本件発明1の全般にわたって、このような効果を奏するものとはいえない。 (オ) 小括 したがって、本件発明1は、甲1発明、甲第13号証、甲第42号証、甲第43号証に記載された技術事項、及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 本件発明2について ア 対比 本件発明2と甲1発明とを対比する。 (ア) 上記(1)ア(ア)で検討したように、甲1発明の「増粘剤(アクリル系合成高分子)0.4重量含む擬塑性水性インキ」が、本件発明2における「増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキ」に相当することは、当業者に自明であり、さらに、甲1発明の「擬塑性水性インキボールペン」は、本件発明2における「水性ゲルインキボールペン」に相当するともいえる。 (イ) また、ボールペンのボールの直径について、本件発明2の「0.9mm以上」と、甲1発明の「1.0mm」とは、「1.0mm」である点で一致する。 (ウ) また、上記(1)ア(ウ)で検討したように、甲1発明の「フタロシアニンブルー」が、本件発明2における「着色剤」に包含されることは、当業者に自明であるから、本件発明2と甲1発明とは、着色剤を8.0重量%含有する点で一致する。 さらに、甲1発明の「フタロシアニンブルー」が「有機系顔料」であることから、甲1発明の「着色剤」が「フタロシアニンブルー」である事項は、本件発明2の「前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること」という発明特定事項に相当するといえる。 (エ) また、本件発明2と甲1発明とは、フッ素系界面活性剤を0.1重量%含有する点で一致する。 (オ) さらに、上記(1)ア(オ)で検討したように、本件発明2と甲1発明とは、水を67.5重量%含有する点で一致する。 (カ) したがって、両発明は、 「直径が1.0mmのボールが用いられる水性ゲルインキボールペンであって、 増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を8.0重量%、フッ素系界面活性剤を0.1重量%、及び水を67.5重量%含有すること、 前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料である、 水性ゲルインキボールペン。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1’> 水性ゲルインキについて、本件発明2が「表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 <相違点2’> 「水性ゲルインキボールペン」について、本件発明2が「太字」と特定しているのに対して、甲1発明は、特定していない点。 <相違点3’> 水性ゲルインキボールペンについて、本件発明2が「単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 <相違点4’> 本件発明2が「保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下」「含有する」と特定しているのに対して、甲1発明は、そのような特定を有していない点。 イ 判断 本件発明2については、事案に鑑みて、まず、<相違点4’>について検討する。 (ア) <相違点4’>について a 本件発明2の水性ゲルインキボールペンにおける水性ゲルインキは、本件発明1の水性ゲルインキにおける「保湿剤としての糖類」を、「保湿剤としてのマルチトール」と限定し、かつ、その含有量を新たに規定したものである。 上記「(エ) <相違点4>について」で述べたとおり、甲第1号証には、「保湿剤」の使用や、「糖類」の使用については、記載されていない。 また、上記「<相違点4>について」において検討したとおり、着色剤、水、極性溶剤を含有する水性ゲルインキにおいて、ソルビトール(単糖類)、並びに、デキストリン、及び、マルトデキストリン(多糖類)を含有するすることは周知技術であるといえるが、「マルチトール(少糖類)」の含有については、周知技術であるといえない。 してみると、甲1発明に上記周知の構成を適用したとしても、ソルビトール、デキストリン、または、マルトデキストリンを含有させるか、せいぜい、これらの上位概念である糖類を含有させるかという相違点4に留まり、マルチトールを特定量で含有する本件発明2の構成に至らないというべきである。 また、甲第48号証には、保湿剤としてのマルチトールが記載されているが、これは水性インキ組成物を対象とするものであり、甲第48号証の上記[48-ウ]によれば、「マルチトールを含んだ水性インキは、安全で、粘度を上昇させるような弊を生じることなく、耐乾燥性を向上せしめることが可能となる。」とのことであるから、水性ゲルインキ組成物である甲1発明に適用する動機付けが見当たらない。 b 効果について 上記相違点4’に関して、本件明細書の実施例を参照すると、上記4(4)アでも述べたように、すべての実施例において保湿剤としてのマルチトールが使用されており(実施例1「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例2「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例3「保湿剤:マルチトール:3.0重量%」、実施例4「保湿剤:マルチトール:5.0重量%」、実施例5「保湿剤:マルチトール:3.0重量%」)、表1〔上記(2)h〕の評価と併せて勘案すると、「保湿剤としてのマルチトール」を用い、かつ、その含有量が、「3.0重量%以上5.0重量%以下」であれば、「線割れ現象などを起こしにくく」、「保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくい」という優れた作用効果を奏していると認められ、本件発明2は、「保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下」「含有する」という構成を採用することにより、甲1発明やその他請求人の示したいずれの証拠に記載された事項からは当業者が想到し得ない予測外の効果を奏するものと認められる。 (イ) 小括 したがって、相違点4’に係る本件発明2の構成を、当業者が容易に想到し得たとはいえないことから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 7 無効理由2(新規性の欠如)について (1) 対比 本件発明1と甲1発明との間には、上記「6(1)」で述べたとおりの一致点、<相違点1>?<相違点4>を有する。 (2) 判断・小括 上記「6(1)」で述べたとおり、本件発明1と甲1発明とは、<相違点1>、及び<相違点2>については実質的ではないが、<相違点3>、<相違点4>を有するから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 また、本件発明2も同様である。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項、及び、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号、及び、第4号に該当し、無効とすべきである。 また、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件発明2についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その2分の1を請求人が負担し、2分の1を被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 太字水性ゲルボールペン (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、 表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、水を30重量%超80重量%未満、及び保湿剤としての糖類を含有すること を特徴とする、太字水性ゲルインキボールペン(前記着色剤が酸化チタンである場合を除く)。 【請求項2】 単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、 表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていること、 前記水性ゲルインキは、着色剤を0.1重量%超40重量%未満、フッ素系界面活性剤を0.01重量%超1.5重量%未満、保湿剤としてのマルチトールを3.0重量%以上5.0重量%以下、及び水を30重量%超80重量%未満含有すること、 前記着色剤が、それぞれ単独の又は2種類以上が組み合わされた染料、カーボンブラック、又は有機系顔料であること を特徴とする、太字水性ゲルインキボールペン。 【発明の詳細な説明】 技術分野 本発明は、中粘度インキ、中性インキ、ゲルインキ、あるいは水性ゲルインキなどと呼ばれるインキを用いたボールペンに関し、特に、インキの消費量が大きいボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに関するものである。 背景技術 従来から、種々のボールペンが提供されている。 例えば、溶剤として水又は水溶性溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用いたインキ(以下、「水性インキ」という。)を充填したボールペン(以下、「水性ボールペン」という。)が提供されている。 この水性ボールペンは、インキの粘性が低いため、低い筆記圧で筆記することができ、書き味が滑らかであるという利点を有している。しかし、その反面、振動や衝撃に弱く、チップの先端からインキが漏れ出してしまう現象(以下、「直流現象」という。)があり、又、チップの先端からチップの内部に空気を巻き込み、筆記流量の安定性が低下する現象(以下、「脈流現象」という。)を起こし易いという欠点を有している。更に、この水性ボールペンは、描線がにじみ易いという欠点をも有している。 一方、溶剤として有機溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用いたインキ(以下、「油性インキ」という。)を充填したボールペン(以下、「油性ボールペン」という。)も提供されている。 この油性ボールペンは、インキの粘性が高いため、水性ボールペンに見られるような欠点は有していない。しかし、筆記のために高い筆記圧を必要とし、書き味が重いという欠点を有している。更に、この油性ボールペンは、チップの先端や紙面上をインキの塊で汚してしまう現象(以下、「ボテ現象」という。)を起こし易いという欠点をも有している。 また、最近では、溶剤として水又は水溶性溶媒を用いると共に、着色剤として染料又は顔料を用い、更に、擬塑性化剤を添加することにより、擬塑性を有するようにしたインキ(以下、「水性ゲルインキ」という。)を充填したボールペン(以下、「水性ゲルインキボールペン」という。)が提供されている。 なお、擬塑性とは、静止状態においては非流動性を示すものの、剪断力が加えられると流動性を示す性質をいう。 この水性ゲルインキは、インキタンク内では油性インキのような非流動性を示し、一方、チップの先端近辺では、ボールの回転により剪断力が加えられるため、水性インキのような流動性を示すのである。 従って、この水性ゲルインキボールペンは、水性ボールペンが有する利点と、油性ボールペンが有する利点とを併せ持つこととなる。即ち、この水性ゲルインキボールペンは、低い筆記圧で筆記することができ、書き味が滑らかであると共に、描線がにじみにくく、ボテ現象も起こしにくいのである。 ところで、この水性ゲルインキボールペンの製造は、実際には容易ではない。 例えば、ボールの直径が0.5mmのチップと、ボールの直径が0.7mmのチップとでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスが異なると共に、ボールの回転によりインキに加えられる剪断力が異なる。 このため、一方のチップに適した水性ゲルインキを他方のチップに使用すると、直流現象や脈流現象を起こしたり、あるいはボテ現象を起こしたりしてしまう。 従って、使用するチップに合わせて、水性ゲルインキの粘度などの調整が行われている。 更に、最近では、比較的太くて濃い字を書くことができる水性ゲルインキボールペン(以下、「太字水性ゲルインキボールペン」という。)が求められている。 この太字水性ゲルインキボールペンでは、太い字に対応するため、直径が0.9mm以上のボールが用いられる。 また、ボールの直径を大きくしただけでは、描線の幅は広くできても、描線の色が薄く見えてしまうこととなるので、この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールとホルダーとの間のクリアランスも比較的大きく形成される。 更に、この太字水性ゲルインキボールペンでは、ボールの直径を大きくして描線を太くした分と、ボールとホルダーとの間のクリアランスを大きくして流量を多くした分とに見合うだけの多量のインキをチップに供給する必要がある。 具体的には、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、チップにインキを供給する必要がある。 そして、このようなインキの消費量は、従来の水性ゲルインキボールペンにおけるインキ消費量の1.5倍から3倍にも相当するものである。 なお、単位面積当たりのインキ消費量値とは、単位長さ当たりのインキ消費量値を、描線幅で除することによって求められる値をいう。 例えば、太字水性ゲルインキボールペンの単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましい。単位長さ当たりのインキ消費量値が300mg/100m以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、単位長さ当たりのインキ消費量値が750mg/100m以上では、紙面に転写されたインキが乾きにくくなってしまうからである。 また、直径が1.0mmのボールの描線幅は、紙質によって異なるが、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、0.47mm程度である。 従って、太字水性ゲルインキボールペンの単位面積当たりのインキ消費量値は、0.64?1.6mg/cm^(2)程度となる。 ところが、このような太字水性ゲルインキボールペン用のインキの調整が極めて困難である。 例えば、ボールの直径が0.5mmのチップに適した水性ゲルインキを、ボールの直径が1.0mmのチップに使用すると、ボールとホルダーとの間のクリアランスが大きくなることや、ボールの回転によりインキに加えられる剪断力が小さくなることなどにより、ボテ現象や、描線が複数本に分かれてしまう現象(以下、「線割れ現象」という。)などを起こしてしまうことになる。 また、このような太字水性ゲルインキボールペンでは、チップの先端からのインキの流出量が増大することにより、紙面に転写されたインキが乾きにくくなってしまうことも生じる。 更に、このような太字水性ゲルインキボールペンでは、保存環境や筆記状態によって、チップの先端からのインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じてしまうことになる。 発明の開示 そこで、本発明のうち請求項1又は請求項2に記載した発明は、上述したような太字水性ゲルインキボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供することを目的とする。 本発明者等は、上記の目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンにおいては、水性ゲルインキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整しておけば、ボテ現象や線割れ現象などが起こりにくく、また、紙面に転写された際の速乾性に優れ、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキが生じにくくなることを見出し、以下に示す発明を完成させるに至った。 即ち、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されている、直径が0.9mm以上のボールが用いられる太字水性ゲルインキボールペンであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整され、かつ、増粘剤の添加により擬塑性を付与した水性ゲルインキが充填されていることを特徴とする。 ここで、「単位面積当たりのインキ消費量値」とは、「単位長さ当たりのインキ消費量値」を、「描線幅」で除することによって求められる値をいう。 また、「単位長さ当たりのインキ消費量値」とは、ISO規格による単位長さ当たりのインキ消費量値をいう。 この単位長さ当たりのインキ消費量値は、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用い、所定の条件(例えば、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件)で測定することができる。 また、「描線幅」とは、紙面上などに描かれる描線の幅をいう。 この描線幅は、紙質によって異なるが、例えば、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験用紙に描いた場合には、ボールの直径が1.0mmであれば0.47mm程度となる。 そして、上述したように、太字水性ゲルインキボールペンにおける単位長さ当たりのインキ消費量値は、300?750mg/100m程度が好ましいので、例えば、直径が1.0mmのボールを備えた太字水性ゲルインキボールペンにおける単位面積当たりのインキ消費量値は0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるのである。 また、「表面張力」とは、ISO規格による表面張力をいう。 この表面張力は、例えば、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用い、垂直平板法によって測定することができる。 そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整することにより、このボールペンで筆記したとき、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。 また、請求項2に記載した太字水性ゲルインキボールペンは、請求項1に記載した太字水性ゲルインキボールペンの構成に加えて、前記水性ゲルインキは、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%含有することを特徴とする。 ここで、「フッ素系界面活性剤」としては、例えば、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物(例えば、旭硝子株式会社製のサーフロンS-145(商品名)、ダイキン工業株式会社製のユニダインDS-401(商品名))、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、大日本インキ化学工業株式会社製のメガファックF-150(商品名))、パーフルオロアルキルカルボン酸塩(例えば、旭硝子株式会社製のサーフロンS-111(商品名))、アクリル酸ポリオキシアルキレングリコールモノエステル・アクリル酸N‐パーフルオロオクチルスルホニル‐N‐プロピルアミノエチル共重合物(例えば、株式会社トーケムプロダクツ製のEF-352(商品名))、フッ素化アルキルエステル(例えば、住友スリーエム株式会社製のフロラードFC-430(商品名))、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基親水性基含有ウレタン、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルアルコキシレート、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどを用いることができる。 そして、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%加えることにより、ボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くすることができ、更には、このように調整したボールペン用インキをボールペンに用いることにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、表面張力が32mN/m以上となり、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくくなる。更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、表面張力が16mN/m以下となり、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。 このように、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるようなボールペン、即ち、太くて濃い字を書くためのボールペンに、表面張力を16?32mN/mの範囲に調整したボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。 発明を実施するための最良の形態 以下、本発明に係るボールペン用インキ、及びそのボールペン用インキを用いたボールペンの実施の形態を説明する。 (ボールペン用インキ) 本実施の形態に係るボールペン用インキは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いられるものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲に調整されている。 また、本実施の形態に係るボールペン用のインキは、着色剤、水溶性溶媒、フッ素系界面活性剤、保湿剤、潤滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、増粘剤、水などを含有する。 (着色剤) 着色剤としては、従来からボールペン用インキに用いられてきた染料又は顔料であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。 具体的には、例えば、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.アシッドイエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同141、同127、同135、同142、C.I.アシッドレッド8、同9、同14、同18、同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同111、同129、同131、同138、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオレット15、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103、同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27などの酸性染料を着色剤として用いることができる。 また、例えば、C.I.ベーシックイエロー1、同2、同21、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、C.I.ベーシックブラウン12、C.I.ベーシックブラック2、同8などの塩基性染料を着色剤として用いることもできる。 また、例えば、C.I.ダイレクトブラック17、同19、同22、同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトイエロー4、同26、同44、同50、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、同15、同71、同86、同106、同119などの直接染料を着色剤として用いることもできる。 また、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナホワイト、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、ステンレス粉、ニッケル粉、銅粉、亜鉛粉、真鍮粉などの無機系顔料を着色剤として用いることもできる。 また、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料、より具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などの有機系顔料を着色剤として用いることもできる。 なお、これらの染料又は顔料は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、着色剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?40重量%程度とすることが好ましい。着色剤の含有量が0.1重量%以下では、描線の色が薄く見えてしまう。他方、着色剤の含有量が40重量%以上では、インキが経時的に不安定となってしまうからである。 (水溶性溶媒) また、水溶性溶媒としては、極性溶媒であって、水に溶解するものすべてを用いることができる。 具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2‐プロパンジオール、1,3‐プロパンジオール、1,2‐ブタンジオール、2,3‐ブタンジオール、1,3‐ブタンジオール、1,4‐ブタンジオール、1,2‐ペンタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、2,5‐ヘキサンジオール、3‐メチル1,3ブタンジオール、2‐メチルペンタン‐2,4‐ジオール、3‐メチルペンタン‐1,5‐ジオール、1,2,3‐ブタントリオール、1,2,4‐ブタントリオール、3‐メチルペンタン‐1,3,5‐トリオール、1,2,3‐ヘキサントリオールなどのアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどのグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ‐n‐ブチルエーテルなどのグリコールの低級アルキルエーテル、チオジエタノール、N‐メチル‐2‐ピロリドン、1,3‐ジメチル‐2‐イミダリジノン、スルホランなどの極性溶媒を水溶性溶媒として用いることができる。 なお、これらの極性溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、水溶性溶媒の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して1?40重量%程度とすることが好ましい。水溶性溶媒の含有量が1重量%以下では、書き味が悪くなってしまう。他方、水溶性溶媒の含有量が40重量%以上では、紙面に転写された際に乾きにくくなってしまうからである。 (フッ素系界面活性剤) また、フッ素系界面活性剤としては、フッ素を含む界面活性剤であって、水に溶解又は分散するものすべてを用いることができる。 具体的には、例えば、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物(例えば、旭硝子株式会社製のサーフロンS-145(商品名)、ダイキン工業株式会社製のユニダインDS-401(商品名))、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、大日本インキ化学工業株式会社製のメガファックF-150(商品名))、パーフルオロアルキルカルボン酸塩(例えば、旭硝子株式会社製のサーフロンS-111(商品名))、アクリル酸ポリオキシアルキレングリコールモノエステル・アクリル酸N‐パーフルオロオクチルスルホニル‐N‐プロピルアミノエチル共重合物(例えば、株式会社トーケムプロダクツ製のEF-352(商品名))、フッ素化アルキルエステル(例えば、住友スリーエム株式会社製のフロラードFC-430(商品名))、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基親水性基含有オリゴマー、パーフルオロアルキル基親水性基含有ウレタン、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルアルコキシレート、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどを用いることができる。 そして、フッ素系界面活性剤の含有量を、ボールペン用インキの全量に対して0.01?1.5重量%程度とすることにより、ボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くすることができるのである。 なお、これらのフッ素系界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、フッ素系界面活性剤の含有量が0.01重量%以下では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまう。他方、フッ素系界面活性剤の含有量が1.5重量%以上では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまうのである。 (保湿剤) また、保湿剤としては、マルチトールを主成分とする還元糖、ソルビトールを主成分とする還元糖、還元オリゴ糖、還元マルトオリゴ糖、デキストリン、マルトデキストリン、還元デキストリン、還元マルトデキストリン、α‐サイクロデキストリン、β‐サイクロデキストリン、マルトシルサイクロデキストリン、難消化性デキストリン、還元澱粉分解物、キシリトール、サッカロース、マルチトール、還元澱粉糖化物、還元麦芽糖などの糖類を用いることができる。 具体的には、例えば、TK-16、TK-75(いずれも商品名、松谷化学工業株式会社製)、ダイヤトールN、ダイヤトールK(いずれも商品名、サンエイ糖化株式会社製)、エスイー20、エスイー58(いずれも商品名、日研化学株式会社製)、PO-300、PO-20(いずれも商品名、東和化成工業株式会社製)などを保湿剤として用いることができる。 なお、これらの糖類は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 また、保湿剤の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して0.1?10重量%程度とすることが好ましい。保湿剤の含有量が0.1重量%以下では、保湿剤としての効果が発揮されなくなってしまう。他方、保湿剤の含有量が10重量%以上では、紙面に転写された際に乾きにくくなってしまうからである。 (潤滑剤) また、潤滑剤としては、脂肪酸塩や、ノニオン系界面活性剤などを用いることができる。 具体的には、例えば、リノール酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩や、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンゾルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物などのノニオン系界面活性剤を潤滑剤として用いることができる。 なお、これらの脂肪酸塩又はノニオン系界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (防腐剤) また、防腐剤としては、例えば、ナトリウムオマジン、1‐2ベンゾイソチアゾリンなどを用いることができる。 なお、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (防錆剤) また、防錆剤としては、例えば、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、リン酸オクチル、チオリン酸ジオクチルなどの脂肪酸リン誘導体、イミダゾール、ベンゾイミダゾール及びその誘導体、ベンゾイミダゾール、2‐メルカプトベンゾチアゾール、オクチルオキシメタンホスホン酸、ジシクロヘキシルアンモニウム・ナイトライト、ジイソプロピルアンモニウム・ナイトライト、プロパルギルアルコール、ジアルキルチオ尿素、サポニンなどを用いることができる。 なお、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (pH調整剤) また、pH調整剤としては、無機アルカリや、有機アミンなどを用いることができる。 具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機アルカリや、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピル、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、イソブチルアミン、ジイソブチルアミン、2‐ブタンアミン、N‐(1‐メチルプロピル)‐1‐プロパンアミン、N,N‐ジメチルブチルアミン、1,2‐ジメチルプロピルアミン、N‐エチル1,2‐ジメチルプロピルアミン、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、N,N‐ジメチルアリルアミン、N‐メチルジアリルアミン、3‐ペンチルアミン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミン、2‐(ヒドロキシメチルアミノ)エタノール、2‐アミノプロパノール、3‐アミノプロパノール、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2‐アミノ2‐メチル‐1プロパノール、N‐イソブチルジエタノールアミン、3‐メトキシプロピルアミン、3‐プロピルオキシプロピルアミン、3‐イソプロピルオキシプロピルアミン、3‐ブトキシプロピルアミンなどの有機アミンをpH調整剤として用いることができる。 なお、これらの無機アルカリ又は有機アミンは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (増粘剤) また、増粘剤としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ローカストビーンガム、グアーガム及びその誘導体、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、カラギーナン、ゼラチン、ガゼイン、ガゼインナトリウム、キサンタンガム、ラムザンガム、ウェランガム、ジェランガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、ラノリン誘導体、キトサン誘導体、ラクトアルブミン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン及びその誘導体、ポリアクリル酸樹脂、架橋型ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂のアルカリ金属塩などを用いることができる。 具体的には、例えば、日本純薬株式会社製のジュンロンPW‐111(商品名)、和光純薬株式会社製のハイビスワコー103(商品名)、三晶株式会社製のKELZAN、KELZAN AR、K1A96、K1A112、レオザン、K7C233(いずれも商品名)、ローヌ・プーランジャパン株式会社製のJAGUAR HP‐8、JAGUARHP‐60、RHODOPOL23、RHODOPOL 50MC(いずれも商品名)、大日本製薬株式会社製のエコーガムGM(商品名)などを用いることができる。 なお、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。 (水) また、水は、ボールベン用インキの成分のうち、上記した着色剤から増粘剤までの成分以外の大部分を占めるものである。本実施の形態では、蒸留水、又はイオン交換水を用いている。 なお、水の含有量は、ボールペン用インキの全量に対して30?80重量%程度とすることが好ましい。水の含有量が30重量%以下では、チップの先端からのインキの流出量が低下してしまう。他方、水の含有量が80重量%以上では、他の成分が相対的に増加することにより、インキが経時的に不安定となってしまうからである。 (その他) また、上記した成分以外に、例えば、顔料の分散剤として、スチレンマレイン酸のアンモニウム塩や、スチレンアクリル酸のアンモニウム塩などの樹脂を添加することもある。 (ボールペン用インキの製造方法) また、本実施の形態に係るボールペン用インキの製造方法は、他のボールペン用インキの製造方法と比べて特に異なるところはない。 即ち、本実施の形態に係るボールペン用インキは、上述した各成分を混合撹拌等することによって製造することができる。 (ボールペン) 次に、本発明に係るボールペンについて説明する。 本実施の形態に係るボールペンは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているものであって、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキが充填されている。 更に詳しくは、本実施の形態に係るボールペンは、チップ、及びインキタンクを備えている。 (チップ) 前記チップは、ボールとホルダーとを備え、ホルダーの先端側にボールを回転自在に保持させている。 前記ボールは、超硬合金によって形成されている。また、このボールの直径は、1.0mmとされている。 また、前記ホルダーは、ステンレス製の線材を切削して形成されている。また、このホルダーには、ボールハウス及びインキ誘導孔などが設けられている。 そして、このチップは、ボールハウスにボールを収納した後に、ホルダーの先端近辺にカシメ部を形成することにより、ホルダーの先端側にボールを回転自在に保持させているのである。 また、ボールとホルダーとの間のクリアランスは、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように、即ち、太くて濃い字を書くことができるように調整されている。 なお、ボールは、例えば、焼入鋼によって形成してもよく、また、セラミックによって形成してもよい。 また、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)程度となるように調整されれば、ボールの直径は、1.0mmに限られず、例えば、0.9mmとしてもよく、また、1.1mmとしてもよい。 また、ホルダーは、例えば、洋白又は真鍮などの金属製の線材を切削して形成してもよく、また、例えば、パイプ鋼材を切削するなどして形成してもよい。 (インキタンク) また、前記インキタンクは、樹脂製のチューブによって形成されている。また、このインキタンクは、上述したチップの後端側に連設されている。そして、このインキタンクに、上述したボールペン用インキが充填されている。 (ボールペンの製造方法) また、本実施の形態に係るボールペンの製造方法は、他のボールペンの製造方法と比べて特に異なるところはない。 即ち、上述したようにチップを形成し、また、このチップの後端側にインキタンクを連設し、更に、このインキタンクにボールペン用インキを充填し、その後、遠心処理を行い、ボールペン用インキ内の空気を抜くことによってボールペンを製造することができる。 (効果) そして、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに用いるボールペン用インキの表面張力を、16?32mN/mの範囲に調整することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンとすることができるのである。 言い換えれば、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)となるように形成されているボールペンに、表面張力が16?32mN/mの範囲となるように調整されたボールペン用インキを充填することにより、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくすることができるのである。 なお、ボールペン用インキの表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまう。他方、ボールペン用インキの表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によってインキの流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうのである。 また、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%加えることにより、ボールペン用インキの表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くすることができるのである。 以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳しく説明する。 (実施例1) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:1.0重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.2重量% 水:イオン交換水:68.5重量% (実施例2) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:0.05重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.4重量% 水:イオン交換水:69.2重量% (実施例3) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:フッ素化アルキルエステル:0.5重量% 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:70.4重量% (実施例4) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:1.5重量% 着色剤:酸化チタン:20.0重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.5重量% 水溶性溶媒:ジグリセリンプロピレンオキサイド4モル付加物:5.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルリン酸エステル:1.0重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:アラビアガム:0.4重量% 水:イオン交換水:63.5重量% (実施例5) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:フッ素化アルキルエステル:0.5重量% 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:1.0重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤;サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:69.9重量% (比較例1) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルスルホン酸塩:1.8重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.2重量% 水:イオン交換水:67.7重量% (比較例2) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:カーボンブラック:7.0重量% 樹脂:スチレンアクリル酸樹脂アンモニウム塩:2.0重量% 水溶性溶媒:プロピレングリコール:15.0重量% フッ素系界面活性剤:なし 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:リン酸エステル:0.6重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.4重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.4重量% 水:イオン交換水:69.3重量% (比較例3) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:7.5重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.2重量% 水溶性溶媒:グリセリン:15.0重量% フッ素系界面活性剤:なし 保湿剤:マルチトール:3.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:ポリアクリル酸樹脂:0.3重量% 水:イオン交換水:70.9重量% (比較例4) 以下の成分を配合してボールペン用インキを製造した。 着色剤:フタロシアニンブルー:1.5重量% 着色剤:酸化チタン:20.0重量% 樹脂:スチレンマレイン酸樹脂アンモニウム塩:2.5重量% 水溶性溶媒:ジグリセリンプロピレンオキサイド4モル付加物:5.0重量% フッ素系界面活性剤:パーフルオロアルキルリン酸エステル:0.005重量% 保湿剤:マルチトール:5.0重量% 潤滑剤:カリセッケン:0.5重量% 防腐剤:ナトリウムオマジン:0.2重量% 防錆剤:サポニン:0.1重量% pH調整剤:アミノメチルプロパノール:0.3重量% 増粘剤:アラビアガム:0.4重量% 水:イオン交換水:64.5重量% (表面張力の測定、及び筆記試験の結果) 上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキの表面張力を測定した。 また、上述した実施例1から5まで、及び比較例1から4までのボールペン用インキを充填したボールペンについての筆記試験を行った。 その結果を、下記の表1に示す。 なお、表面張力の測定は、ISO規格に従い、共和界面科学株式会社製の表面張力計を用いて、垂直平板法により行った。 また、ボールペンは、ボールの直径が1.0mmであり、かつ、単位面積当たりのインキ消費量値が0.64?1.6mg/cm^(2)の範囲に形成されているものを用いた。 また、単位面積当たりのインキ消費量値は、単位長さ当たりのインキ消費量値を、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用いて、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で測定すると共に、この値を描線幅で除することによって求めた。 また、筆記試験は、ISO規格14145-1に準拠した筆記試験機を用い、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記負荷100gの条件で「らせん筆記」し、ボールペン用インキを使い切るまで行った。このとき、筆記試験用紙としては、ISO規格14145-1に準拠したものを用いた。 そして、この筆記試験により、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、及びインキの経時的安定性についての評価を行った。 ここで、インキの流出量の安定性は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)100m毎のインキの流出量が安定していた。また、ボールペン用インキを使い切るまで、カスレや濃度ムラの発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)100m毎のインキの流出量に多少のバラツキが認められた。また、ボールペン用インキを使い切るまでの間に、カスレや濃度ムラの発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)100m毎のインキの流出量に大きなバラツキが認められた。また、ボールペン用インキを使い切るまでの間に、カスレや濃度ムラの発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、ボテ現象の発生の有無は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)ボテ現象の発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)ボテ現象の発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)ボテ現象の発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、線割れ現象の発生の有無は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)線割れ現象の発生がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)線割れ現象の発生がわずかに認められた。→評価「△」 (ハ)線割れ現象の発生が明らかに認められた。→評価「×」 また、描線の速乾性は、下記の基準で判断し、「○」「△」「×」の3段階で評価した。 (イ)筆記後30秒以内に描線が乾燥した。→評価「○」 (ロ)筆記後30秒?1分以内に描線が乾燥した。→評価「△」 (ハ)筆記後1分以内に描線が乾燥しなかった。→評価「×」 また、インキの経時的安定性は、製造直後のものと、ガラス瓶に封入して50℃の環境下で1ヶ月間保管したものとについて粘度測定を行い、その結果を下記の基準で判断し、「○」「×」の2段階で評価した。 (イ)粘度変化がほとんど認められなかった。→評価「○」 (ロ)著しい粘度変化が認められた。→評価「×」 また、表1中、「A」は「インキの流出量の安定性」を、「B」は「ボテ現象の発生の有無」を、「C」は「線割れ現象の発生の有無」を、「D」は「描線の速乾性」を、「E」は「インキの経時的安定性」を示す。 【表1】 このように、実施例1から5までのボールペン用インキを充填したボールペンについては、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、及びインキの経時的安定性のいずれの項目の評価も「○」又は「△」であった。即ち、これらのボールペンは、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写されたインキが乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくかった。 他方、比較例1から4までのボールペン用インキを充填したボールペンについては、インキの流出量の安定性、ボテ現象の発生の有無、線割れ現象の発生の有無、描線の速乾性、又はインキの経時的安定性のいずれかの項目の評価が「×」であった。即ち、これらのボールペンは、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易かったり、紙面に転写されたインキが乾きにくかったり、あるいは保存環境や筆記状態によって描線の濃度や幅にバラツキを生じ易かったりした。 更に、表面張力の限界数値についての実験を行ったところ、少なくとも16?32mN/mの範囲においては、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくなることが確認された。 また、フッ素系界面活性剤を加えなくても、あるいは他の物質を加えても、表面張力が16?32mN/mの範囲に調整されていれば、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写された際には乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくくなることが確認された。 このように、表面張力が16mN/m以下では、直流現象を起こし易く、また、顔料の凝集や沈降を起こし易くなってしまい、他方、表面張力が32mN/m以上では、ボテ現象や線割れ現象などを起こし易く、また、紙面に転写された際には乾きにくく、更に、保存環境や筆記状態によって描線の濃度や幅にバラツキを生じ易くなってしまうことが確認された。 また、フッ素系界面活性剤を0.01?1.5重量%加えることによって、表面張力を16?32mN/mの範囲に調整し易くなることが確認された。 なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではない。 産業上の利用可能性 以上説明したように、請求項1又は請求項2に記載した発明によれば、太くて濃い字を書くためのボールペンであって、ボテ現象や線割れ現象などを起こしにくく、また、紙面に転写されたインキが乾き易く、更に、保存環境や筆記状態によっても描線の濃度や幅にバラツキを生じにくいボールペンを提供することができた。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-03-29 |
結審通知日 | 2018-04-03 |
審決日 | 2018-04-17 |
出願番号 | 特願2001-548628(P2001-548628) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZDA
(C09D)
P 1 113・ 113- ZDA (C09D) P 1 113・ 537- ZDA (C09D) P 1 113・ 536- ZDA (C09D) |
最終処分 | 一部成立 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
國島 明弘 井上 能宏 |
登録日 | 2006-04-07 |
登録番号 | 特許第3789818号(P3789818) |
発明の名称 | 太字水性ゲルボールペン |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 近藤 惠嗣 |
代理人 | 堀田 幸裕 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 萩尾 保繁 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 前川 英明 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 山口 健司 |
代理人 | 山口 健司 |
代理人 | 砂山 麗 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 柏 延之 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 萩尾 保繁 |
代理人 | 島田 哲郎 |