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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部無効 2項進歩性  C09D
管理番号 1341342
審判番号 無効2016-800033  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-03-09 
確定日 2018-05-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3775972号発明「油性インキ組成物とそれを用いた油性ボールペン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3775972号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1、及び請求項2について訂正することを認める。 特許第3775972号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3775972号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

特許第3775972号の特許(以下、「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1、2のそれぞれに係る発明(以下、それぞれ「本件発明1、2」という。また、本件発明1、2をまとめて「本件発明」という。)は、平成12年4月3日(優先権主張 平成12年2月2日、日本国)に特許出願され、平成18年3月3日にその特許権の設定の登録がされた。
請求人は、平成28年3月9日付けで、本件発明1、2についての特許を無効にすることについて審判を請求した。
これに対し、被請求人は、同年6月1日に、訂正請求書(第1回目)を提出し、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の訂正を請求し、また、同日付け答弁書を提出した。
請求人は、同年7月27日付けで、弁駁書を提出した。
同年12月15日に第1回口頭審理が行われ、これに先立ち、同年11月24日付けで、請求人、及び、被請求人双方から、それぞれ口頭審理陳述要領書が提出され、さらに、請求人から、同年12月13日付けで、口頭審理陳述要領書(2)が提出された。
その後、平成29年1月12日付けで、請求人、及び、被請求人双方から、それぞれ上申書が提出され、さらに、同年同月26日付けで、請求人、及び、被請求人双方から、それぞれ上申書が提出された。
その後、当審は、同年3月23日付けで審決の予告(第1回目)をした。
これに対し、被請求人は、同年5月26日に、訂正請求書(第2回目)を提出し、特許明細書の訂正を請求し、同日付け上申書を提出した。
その後、請求人は、同年7月19日付け弁駁書を提出した。
その後、当審において、特許法第150条第5項の規定に基づき、請求人、及び、被請求人に対して、同年9月8日付け証拠調べ通知書によって通知し、同年10月13日付けで、請求人、及び、被請求人双方から、それぞれ意見書が提出された。
その後、当審は、同年11月22日付けで審決の予告(第2回目)をした。
これに対し、被請求人は、平成30年1月19日に、訂正請求書(第3回目)を提出し、特許明細書の訂正を請求し、同日付け上申書を提出した。
その後、請求人は、同年3月2日に、弁駁書を提出した。

上記のとおり、被請求人から平成30年1月19日付け訂正請求書が提出されて、特許明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたので、特許法第134条の2第6項の規定により、平成28年6月1日付け、及び平成29年5月26日付け訂正請求書による訂正の請求は、それぞれ取り下げられたものとみなす。

第2 訂正請求について

1 訂正の内容

(当審注:当該「1 訂正の内容」における下線は、被請求人が付したものである。)

(1) 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、「顔料分散剤及び粘度調整剤としての」、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、」、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、」、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、」、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、」、及び、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」の記載を追加し、「有彩色の油性インキ組成物。」と記載されているのを、「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物。」に訂正する。

(2) 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、」、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、」、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、」、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、」、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、」、及び、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である、」の記載を追加し、「請求項1記載の有彩色の油性インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペン。」と記載されているのを、「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、」、及び、「油性ボールペン。」に訂正する。

第3 本件訂正の適否についての判断

1 訂正事項1について

訂正事項1は、訂正前請求項1に係る「ブチラール樹脂」、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」、及び、「有機顔料」を、それぞれ、「顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」るもの、及び、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される」ものにそれぞれ限定し、また、訂正前請求項1に係る「塩基性染料と有機酸の造塩染料」、「有機顔料」、及び、「ブチラール樹脂」の量に関して、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり」、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」ものにそれぞれ限定し、さらに、訂正前請求項1に係る「有彩色の油性インキ組成物」を、「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物」とすることにより、油性インキ組成物の用途を限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものである。

そして、この訂正事項1の内、「顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」と限定する訂正は、特許明細書の【0007】において、「顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用」(当審注:下線は、当審において付記したものも含む。以下同じ。)という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項1の内、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」と限定する訂正は、特許明細書の【0010】において、「本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンS.B.N.ブルー701、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110などが挙げられる。これらの染料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。」と記載され、また、本件発明の実施例に関する同【0033】の【表1】の原料名の塩基性染料と有機酸の造塩染料の欄に、「アイゼンスピロンイエローC-2GH」、「アイゼンスピロンイエローC-GNH」、「アイゼンスピロンレッドC-GH」、「アイゼンスピロンバイオレットC-RH」、「バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110」という具体例が記載されていることに基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項1の内、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される」と限定する訂正は、本件発明の有機顔料を具体的に説明した特許明細書の【0012】の「青色の着色剤としての有機顔料」という記載、同【0016】の「赤色の着色剤としての有機顔料」という記載、同【0020】の「黄色の着色剤としての有機顔料」という記載、及び、同【0023】の「緑色の着色剤としての有機顔料」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項1の内、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」と限定する訂正は、特許明細書の【0010】の「本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンS.B.N.ブルー701、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110などが挙げられる。これらの染料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。これらの塩基性染料と有機酸の造塩染料はインキ組成物の全重量に対し5?40重量%の範囲であることが好ましい。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項1の内、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり」、及び、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」と限定する訂正は、特許明細書の【0026】の「これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。更にはこれら有機顔料の分散剤としてブチラール樹脂を使用した場合が好ましい。これら染料及び有機顔料の色材の配合量はトータルではインキ組成物の全重量に対し5?60重量%の範囲であることが好ましく、染顔料併用系では有機顔料の配合量がインキ全量に対して30重量%以下であることが好ましい。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
さらに、この訂正事項1の内、「油性ボールペン用インキ組成物」と限定する訂正は、特許明細書の【0001】の「本発明は、・・・(中略)・・・油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンに関するものである。」という記載、及び同【0007】の「本発明は、・・・(中略)・・・有彩色の油性ボールペンインク組成物と油性ボールペンを提供することを課題とするものである。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
したがって、訂正事項1は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

そのうえ、訂正事項1によって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、訂正事項1は特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

2 訂正事項2について

訂正事項2は、訂正前請求項2が引用する訂正前請求項1の記載を訂正前請求項2に追加し、他の請求項記載を引用する旨の記載を訂正前の請求項2から削除した上で、訂正前請求項1に係る「塩基性染料と有機酸の造塩染料」、及び、「有機顔料」を、それぞれ、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」るもの、及び、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され」るものに限定し、また、訂正前請求項1に係る「塩基性染料と有機酸の造塩染料」、「有機顔料」、及び、「ブチラール樹脂」の量に関して、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり」、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり」、及び、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」ものに限定し、また、訂正前請求項2に係る「有彩色の油性インキ組成物を充填していること」を、「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填していること」と、油性インキ組成物の用途を限定するものである。
したがって、訂正事項2は、訂正前請求項1の記載を引用する訂正前請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり、また、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、及び、第4号に掲げる事項を目的とするものである。

そして、この訂正事項2の内、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され」る、及び、「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填していること」と限定する訂正は、上記「1」で述べたとおり、特許明細書の記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項2の内、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」と限定する訂正は、特許明細書の【0010】の「本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンS.B.N.ブルー701、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110などが挙げられる。これらの染料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。これらの塩基性染料と有機酸の造塩染料はインキ組成物の全重量に対し5?40重量%の範囲であることが好ましい。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
また、この訂正事項2の内、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり」、及び、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり」と限定する訂正は、特許明細書の【0026】の「これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。更にはこれら有機顔料の分散剤としてブチラール樹脂を使用した場合が好ましい。これら染料及び有機顔料の色材の配合量はトータルではインキ組成物の全重量に対し5?60重量%の範囲であることが好ましく、染顔料併用系では有機顔料の配合量がインキ全量に対して30重量%以下であることが好ましい。」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
さらに、この訂正事項2の内、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」とする訂正は、特許明細書の【0033】の【表1】の原料名のブチラール樹脂の一つである「エスレックB BL-1」(実施例1)、及び、同じく「デンカブチラール#2000-L」(実施例2)の重量部の欄の「2.0」、並びに、同じく「エスレックB BX-L」(実施例3)の重量部の欄の「3.0」という記載に基づいたものであって、特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
したがって、訂正事項2は特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

そのうえ、訂正事項2によって、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、訂正事項2は特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

3 一群の請求項について

訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用するものであり、特許法施行規則第45条の4に該当するので、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

4 特許出願の際に独立して特許を受けることができること

本件無効審判事件では、訂正前請求項1、2について特許無効審判の対象とされているから、訂正前請求項1、2に係る訂正事項1、2に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 訂正請求についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件訂正に係る請求項1、2からなる一群の請求項についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、及び、第4号に掲げる事項を目的とし、かつ、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項、及び、第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第4 本件特許に係る発明

上記「第3」で述べたとおりに訂正が認められるから、本件特許の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに係る発明は、訂正した明細書の特許請求の範囲の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
なお、以下では、本件特許の請求項1、及び、請求項2のそれぞれに係る発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件発明1」、及び、「本件発明2」という。また、本件発明1、2をまとめて「本件発明」という。さらに、本件特許の訂正した明細書を「本件明細書」という。

「【請求項1】
塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物。

【請求項2】
有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である、
油性ボールペン。」

第5 請求人が主張する無効理由・証拠方法

請求人は、「特許第3775972号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として下記の書証を提出し、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであり(無効理由1)、また同項第2号の規定により無効とされるべきである(無効理由2、無効理由3)旨、主張している。
その無効理由1?3の概要は、以下のとおりである。

1 無効理由1(記載要件違反)

(1) (サポート要件違反)本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載されていない発明であるから、本件特許出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(2) (委任省令要件違反)本件発明1、2は、本件明細書において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されていないので、本件特許出願は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項(以下、単に「特許法第36条第4項」という。)に記載する委任省令要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
なお、請求人は、審判請求書において、「実施可能要件違反」と題しているが、同請求書第14頁の記載ぶりによれば、専ら、いわゆる「委任省令要件違反」について主張していることから、上記のとおり、「委任省令要件違反」であると認定している。

2 無効理由2(新規性の欠如)

(1) 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2) 本件発明1、2は、甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3) 本件発明1、2は、甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(4) 本件発明1、2は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 無効理由3(進歩性の欠如)

(1) 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第9号証の記載事項に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2) 本件発明1、2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3) 本件発明1、2は、甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4) 本件発明1、2は、甲第4号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4 証拠方法

甲第1号証:特開平9-272251号公報
甲第2号証:特開平6-157966号公報
甲第3号証:特開平11-293174号公報
甲第4号証:特開平10-60356号公報
甲第5号証:特開平4-342777号公報
甲第6号証:特開平5-279615号公報
甲第7号証:特開平8-199105号公報
甲第8号証:特開平11-343444号公報
甲第9号証:特開平10-120962号公報
甲第10号証:対応米国特許出願(第10/182,570)の拒絶理由通知(抄訳付)
甲第11号証:対応米国特許出願(第10/182,570)の補正書及び意見書(抄訳付)
甲第12号証:特開2004-107596号公報
甲第13号証:特願2000-25673号の明細書
甲第14号証:特開2001-279154号公報
甲第15号証:国際公開第02/24821号公報
甲第16号証:国際公開第01/74956号公報
甲第17号証:特開2001-123101号公報
甲第18号証:特開平11-12518号公報
甲第19号証:実験成績証明書(平成28年11月15日 請求人:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第19号証の2:実験成績証明書(平成28年12月9日 請求人:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第19号証の3:実験成績証明書(平成29年1月11日 請求人:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第20号証:武蔵野美術大学ウエブサイトhttp://zokeifile.musabi.ac.jp/wpwp/wp-content/uploads/2014/08/229_chromatic-and-achromatic-colors.pdf
甲第21号証:コトバンクウエブサイトhttps://kotobank.jp/word/%E7%84%A1%E5%BD%A9%E8%89%B2-140389(2017年7月18日検索)
甲第22号証:三菱鉛筆総合カタログ 2000
甲第23号証:特開2001-271018号公報
甲第24号証:陳述書(平成30年2月28日 請求人:株式会社パイロットコーポレーション作成)

第6 被請求人の主張・証拠方法

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記「第5 1?3」に記載した無効理由1?3は、いずれも理由がない旨を主張し、下記の証拠方法を提出している。

乙第1号証、及び、乙第1-1号証:中道敏彦「よくわかる顔料分散」 初版第2刷 表紙、第18、19、28?33、56?65、70?71頁、奥付 日刊工業新聞社発行 2011年4月15日
乙第1-2号証:中道敏彦「よくわかる顔料分散」 初版第3刷 第20、21頁、奥付 日刊工業新聞社発行 2012年6月20日
乙第2号証:実験成績証明書(平成28年11月22日 被請求人:三菱鉛筆株式会社作成)
乙第3-1号証:特開2000-26784号公報
乙第3-2号証:特開平11-116879号公報
乙第3-3号証:特開平11-92706号公報
乙第3-4号証:特開平10-251587号公報
乙第3-5号証:特開平10-60356号公報
乙第3-6号証:特開平9-217037号公報
乙第3-7号証:特開平9-48941号公報
乙第3-8号証:特開平9-111177号公報
乙第3-9号証:特開平9-78020号公報
乙第3-10号証:特開平9-71748号公報
乙第3-11号証:特開平11-246812号公報
乙第3-12号証:特開平11-100539号公報
乙第3-13号証:特開平11-21495号公報
乙第3-14号証:特開平10-245518号公報
乙第3-15号証:特開平10-95948号公報
乙第3-16号証:特開平10-130562号公報
乙第3-17号証:特開平10-36745号公報
乙第3-18号証:特開平9-316381号公報
乙第3-19号証:特開平9-235503号公報
乙第3-20号証:特開平9-176552号公報
乙第3-21号証:特開平9-12959号公報
乙第3-22号証:特開平9-12958号公報
乙第3-23号証:特開平8-319446号公報
乙第3-24号証:特開平8-302265号公報
乙第3-25号証:特開平7-196972号公報
乙第3-26号証:特開平1-275678号公報
乙第3-27号証:特開平6-271804号公報
乙第3-28号証:特開平6-157971号公報
乙第3-29号証:特開平11-335614号公報
乙第3-30号証:特開平11-21494号公報
乙第3-31号証:特開平9-194783号公報
乙第3-32号証:特開平9-169941号公報
乙第3-33号証:特開平8-192594号公報
乙第3-34号証:特開平8-134392号公報
乙第3-35号証:特開平8-85772号公報
乙第3-36号証:特開平6-313144号公報
乙第3-37号証:特開平6-313143号公報
乙第3-38号証:特開平6-247093号公報
乙第3-39号証:特開平6-248216号公報
乙第3-40号証:特開平6-248215号公報
乙第3-41号証:特開昭60-90276号公報
乙第4-1号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンスピロンバイオレットC-RH)(作成日:2012年5月7日)
乙第4-2号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンスピロンイエローC-2GH)(改訂:2001年11月12日)
乙第4-3号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンスピロンイエローC-GNHニュー)(作成日:2009年7月10日)
乙第4-4号証:製品安全データシート(MSDS)(バリファーストイエロー1110)(作成・改訂:2001年1月31日)
乙第4-5号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンスピロンレッドC-GH)(作成日:2009年7月10日)
乙第4-6号証:製品安全データシート(MSDS)(バリファーストレッド1360)(改訂日:2004年3月17日)
乙第4-7号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンS.B.N.ブルー701)(作成日:2009年7月10日)
乙第4-8号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンスピロンブルーC-RH)(作成日:2012年5月7日)
乙第4-9号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンS.B.N.イエロー530)(改訂:2001年11月12日)
乙第4-10号証:製品安全データシート(MSDS)(バリファーストブルー1603)(作成・改訂:2000年10月12日)
乙第4-11号証:製品安全データシート(MSDS)(バリファーストレッド1355)(改訂日:2015年2月10日)
乙第4-12号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンS.B.N.イエロー510)(作成日:2007年12月1日)
乙第4-13号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンS.P.T.ブルー111)(作成日:2009年7月10日)
乙第4-14号証:CAS 63428-00-2の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-15号証:CAS 94481-55-7の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-16号証:CAS 115728-93-3の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-17号証:CAS 108512-51-2の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-18号証:CAS 547-57-9の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-19号証:CAS 1934-21-0の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-20号証:CAS 6375-55-9の登録情報、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2016年11月15日検索)
乙第4-21号証:「オリヱント化学工業株式会社2010」(オリヱント化学工業株式会社の製品カタログ、製作日:2009年10月1日)表紙、第7?9頁
乙第4-22号証:特開平8-48924号公報
乙第4-23号証:特開2003-305985号公報
乙第4-24号証:特開平8-134393号公報
乙第4-25号証:特開2002-12806号公報
乙第4-26号証:米国特許明細書第3912520号及び部分訳
乙第4-27号証:特開平8-73786号公報
乙第4-28号証:”Colour Index International Pigments and Solvent Dyes”, The Society of Dayers and Colourists, 1997, 表紙、pp.200, 201, 222, 223, 226-229, 240-243, 248-255, 268-273及び部分訳
乙第4-29号証:社団法人有機合成化学協会編「新版 染料便覧」第540、541、546、547、554、555、840、841、846、847、852?857、860?867、870、871、874?878頁、奥付 丸善株式会社発行 1970年7月20日
乙第5-1号証:特開平9-78021号公報
乙第5-2号証:特開平8-134391号公報
乙第6-1号証:製品安全データシート(MSDS)(アイゼンS.P.T.レッド533)(改訂:2001年10月11日)
乙第6-2号証:官報公示整理番号 (化審法) (5)-1947の登録情報(CAS 989-38-8)、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2017年1月12日検索)
乙第6-3号証:官報公示整理番号 (化審法) (5)-4325の登録情報(CAS 61814-58-2)、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2017年1月12日検索)
乙第6-4号証:World dye varietyウエブサイトhttp://www. worlddyevariety.com/acid-dyes/acid-red-362.html)(2017年1月12日検索)
乙第7号証:大河原信他編「色素ハンドブック」 第1刷 第30?31頁、奥付 株式会社講談社発行 1986年3月20日
乙第8号証:ぺんてる株式会社編「筆記用具の化学と材料」 第一版第一刷 表紙、第44?65頁、奥付 有限会社グレースラボラトリ発行 1995年1月20日
乙第9号証:「最新 顔料分散技術」 第219?231頁 株式会社技術情報協会発行 1993年1月16日
乙第10号証:「最新 攪拌・混合・混練・分散技術集成」 表紙、第296、297、308、309頁、奥付 株式会社リアライズ社発行 1991年11月29日
乙第11号証:「分散・凝集の解明と応用技術」 初版第1刷 第238?241、246?259頁、奥付 株式会社テクノシステム発行 1992年6月19日
乙第12号証:官報公示整連番号(化審法) (4)-970の登録情報(CAS 63428-04-6)、独立行政法人 製品評価技術基盤機構ウエブサイトURL:http://www.nite.go.jp(2017年1月12日検索)
乙第13証:CAS番号63428-04-6のSTNデータベース検索結果(2017年1月20日検索)及び部分訳
乙第14号証:「顔料の事典」 普及版第2刷 第438頁、奥付 株式会社朝倉書店発行 2012年1月25日
乙第15号証:「色材工学ハンドブック」 新装版第1刷 第236頁、奥付 株式会社朝倉書店発行 2008年10月10日

第7 当審の判断

当審は、本件発明1についての特許は、無効理由1により無効にすべきものであるが、本件発明2についての特許は、無効理由1?3はいずれも理由がないから無効にすることができない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 本件発明について

本件発明は、上記「第4」で認定したとおりである。

2 証拠について

(1) 甲第1号証に記載された事項

甲第1号証(特開平9-272251号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

[1-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 1種のビヒクルと、2色以上のインクからなる着色剤と、前記ビヒクルと前記着色剤とのインク混合液を吸蔵した単一のゴム弾性を有する多孔質印字体とからなることを特徴とする多色スタンプ。」

[1-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、2色以上の捺印が可能な多色スタンプに関する。」

[1-ウ] 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、単一の印字体に複数の色の異なるインクを吸蔵することができて、印影の絵柄を豊かに表現でき、かつその絵柄の連続性が損なわれず、更に複雑な絵柄も可能になる斬新な多色スタンプの提供を目的とする。」

[1-エ] 「【0006】
【発明の実施の形態】本発明によれば、着色剤は、少なくとも顔料を含み、必要に応じて染料が着色剤に添加される。すなわち、着色剤の主成分は顔料であり、染料は補色として加えられる。本発明において、着色剤として使用される顔料及び染料は、筆記具に通常使用される顔料や染料を使用することが可能である。
【0007】顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系及びキナクリドン系等の無機顔料や有機顔料をそのまま用いても良いし、又は、それらの顔料を樹脂や界面活性剤などで表面改質した加工顔料を使用しても構わない。
【0008】また、染料としては、塩基性染料、酸性染料、直接染料などはもちろん、可溶化やマイクロカプセル化したものなどでも構わない。例えば、後記実施例で使用する染料の他に、オリエント化学(株)製の「バリファストブラック#1802」、「バリファストブラック#1805」、「バリファストブラック#3820」、「バリファストバイオレット#1701」、「バリファストイエローAUM」、及び「バリファストイエロー#3104」や、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンバイオレットC-RH」、「スピロンブラックCMHspecial」、「スピロンイエローC-GNH」、「スピロンオレンジGRH」、及び「スピロンレッドBEH」や、オーラミン、ローダミン等を用いることができる。」

[1-オ] 「【0010】上記の着色剤以外のインク成分であるビヒクルは、1種の分散樹脂と、1種もしくは2種以上の溶剤によって構成される。ここで分散樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂又はエチルセルロース樹脂が採用可能である。また、溶剤としては、オクチレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノリシノレート、プロピレングリコールモノリシノレート等の脂肪酸エステル類、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸ポリオキシエチレングリコール・モノエーテル、及びポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル等が採用可能である。また、必要に応じて上記以外の成分、例えば樹脂、界面活性剤、防腐剤、分散助剤等を適宜添加してもよい。」

[1-カ] 「【0013】
【実施例】
(実施例1)スポンジゴム(NBRの連続気泡スポンジで容積平均細孔径が5μmのもの)製の単一の印字体に、赤インクAと青インクAを一緒に吸蔵させて、実施例1の多色スタンプを製造した。・・・(中略)・・・
【0014】なお、ここで顔料Aは富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」を使用し、顔料BはCIBA-GEIGY社製の「クロモフタールブルーA3R」を使用した。また、分散樹脂Aはポリビニルブチラール樹脂で、積水化学(株)製の「BL-1」を使用し、溶剤Aはプロピレングリコールモノリシノレートで、伊東精油(株)製の「PGMR」を使用し、溶剤Cはポリオキシプロピレングリコール・モノエーテルで、三洋化成(株)製の「LB-65」を使用した。なお、以下の実施例や比較例で使用する顔料A、顔料B、分散樹脂A、溶剤A及び溶剤Cはこれらと同一のものである。」

[1-キ] 「【0017】実施例3
同じく、上記と同一の印字体に赤インクCと青インクCを一緒に吸蔵させて、実施例3の多色スタンプを製造した。この赤インクCと青インクCの組成は以下の通りであり、それぞれ着色剤として顔料と染料を組み合わせて使用した。なお、赤インクCと青インクCの顔料A、Bと染料A、B、C以外のインク成分であるビヒクルは同一である。すなわち、赤インクCと青インクCにそれぞれ使用されているビヒクルは同一であるということである。
赤インクCの組成
顔料A 10(重量%)
染料A 1.5
染料B 3.5
分散樹脂A 3
溶剤A 52
溶剤C 30
青インクCの組成
顔料B 10(重量%)
染料C 5
分散樹脂A 3
溶剤A 52
溶剤C 30
【0018】なお、ここで染料Aは保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-BH」(当審注:「スピロンイエローC-GNH」の誤記と認定して、以下検討する。)を使用し、染料Bは同じく保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」を使用し、染料Cはオリエント化学(株)製の「オイルブルー613」を使用した。なお、以下の実施例や比較例で使用する染料A、染料B、染料C、はこれらと同一のものである。」

[1-ク] 「【0024】上記の実施例1?4、及び比較例1?4のそれぞれのインクについて、インクの固形分の析出、及び顔料の凝集についての評価試験を行なった。インクの固形分の析出評価試験は、印字体の印面の絵柄部の表面を観察し、かつ捺印して、固形分が析出しているか否かを検査して評価するもので、また、顔料の凝集評価試験は、印字体からインクを取り出して粘度及び粒度を測定して評価するもので、いずれもインクを印字体に吸蔵させ、50℃、湿度80%の環境下で1カ月間放置した後に検査した。その結果、実施例1?4の多色スタンプでは、インクの固形分の析出及び顔料の凝集が見られなかったが、比較例1?4の多色スタンプでは、インクの固形分の析出及び顔料の凝集が見られた。」

(2) 甲第1号証に記載された発明

ア 甲第1号証には、多色スタンプ用インク組成物が記載されているといえる([1-ア]?[1-ウ]、[1-キ])。

イ また、甲第1号証には、実施例3として、顔料A(10重量%)、染料A(1.5重量%)、染料B(3.5重量%)、分散樹脂A(3重量%)、溶剤A(52重量%)、溶剤C(30重量%)からなる多色スタンプ用赤インクCの組成物が記載されており([1-キ])、ここで、顔料A、染料A、染料B、分散樹脂A、溶剤A、溶剤Cは、それぞれ、富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)であり([1-カ]、[1-キ])、また、当該「多色スタンプ用赤インクCの組成物」は、「赤色のスタンプ用インキ組成物」と言い換えることができるから、甲第1号証には、『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」(10重量%)、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」(1.5重量%)、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」(3.5重量%)、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)(3重量%)、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)(52重量%)、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)(30重量%)からなる多色スタンプ用赤インクCの組成物』が記載されているといえる。
ここで、上記「ポリビニルブチラール樹脂」については、甲第1号証の上記[1-オ]によれば、「分散樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂・・・(中略)・・・が採用可能である。」と記載されていることから、「分散樹脂として」のものであることがわかる。

ウ また、上記「イ」の『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」(10重量%)、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」(1.5重量%)、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」(3.5重量%)、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)(3重量%)、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)(52重量%)、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)(30重量%)』の各成分に付されている重量%を足し合わせると100重量%となることから、各成分に付されている上記「重量%」は、赤色のスタンプ用インキ組成物の全重量に対する割合であることが分かり、『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.5重量%であり、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.5重量%であり、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して3重量%であり、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して52重量%であり、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%である』ともいえる。

エ また、甲第1号証の実施例3の赤色のスタンプ用インキ組成物に含まれる、溶剤A、及び溶剤Cとして、『プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)』、及び『ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)』を用いているが、これらが有機溶剤であるから、「赤色のスタンプ用インキ組成物」は、「油性」であるといえる。

オ さらに、甲第1号証には、実施例3の赤色のスタンプ用インキ組成物を吸蔵している油性スタンプが記載されているといえる([1-カ]、[1-キ])。

カ 以上のことより、甲第1号証には、

『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」、分散樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)を含み、
富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.5重量%であり、
保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.5重量%であり、
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して3重量%であり、
プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して52重量%であり、
ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%である、
赤色の油性スタンプ用インキ組成物。』の発明(以下、「甲1発明1」という。)、及び、

『赤色の油性スタンプ用インク組成物を吸蔵している油性スタンプであって、
赤色の油性スタンプ用インキ組成物が、富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」、分散樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)、プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)、ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)を含み、
富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.5重量%であり、
保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.5重量%であり、
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して3重量%であり、
プロピレングリコールモノリシノレート(伊東精油(株)製の「PGMR」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して52重量%であり、
ポリオキシプロピレングリコール・モノエーテル(三洋化成(株)製の「LB-65」)の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%である、
油性スタンプ。』の発明(以下、「甲1発明2」という。)

が記載されているといえる。

(3) 甲第2号証に記載された事項

甲第2号証(特開平6-157966号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

[2-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】油溶性染料又は顔料、油溶性樹脂と有機溶剤を含有してなるボールペン用油性インキ組成物中に、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンを含有していることを特徴とするボールペン用油性インキ組成物。」

[2-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はボールペン用油性インキ組成物に関するものである。更に詳しく言えば優れた潤滑性を示し、ボールペンペン先のボール受け座とボールとの摩耗を抑制し、インキ流出を円滑にするボールペン用油性インキ組成物に関するものである。」

[2-ウ] 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の目的は、従来の油性ボールペンの欠点を克服し、優れた潤滑性を有し、従来のオレイン酸などのように銅や銅合金を腐食しないため書出しカスレが少なく、錆による変色等を起こさない、また顔料インキでは分散性の良好な経時安定なボールペン用油性インキ組成物を得ることである。」

[2-エ] 「【0006】本発明のボールペン用油性インキ組成物に含まれる油溶性染料は、通常の油性ボールペンインキに用いられるものでよく、バリファーストブラック#1805(オリエント化学工業製、登録商標名)、バリファーストバイオレット#1701(オリエント化学工業製、登録商標名)、スピロンオレンジGRH、スピロンレッドBEH、スダンブルーIIベースなどの油溶性染料、オーラミン、ローダミン、メチルバイオレット、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、ビクトリアブルーBOHなどの塩基性染料の遊離塩基などから任意に選ぶことができ、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組合せてもよい。
【0007】顔料は公知の各種顔料が使用可能であり、具体例としてはアゾ系顔料、縮合ポリアゾ顔料、フタロシアン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン、ペリレン系顔料等の有機顔料や、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラツク(当審注:「カーボンブラック」の誤記と認定する。)等の無機顔料及び蛍光顔料等が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上組合せて用いてもよい。これらの着色剤の使用量は全インキ組成物に対し0.1?50重量%が使用でき、好ましくは1?30重量%使用できる。使用量が少ないと筆跡が薄くなり、多くなるとインキ組成物の粘度が高くなり書味が悪くなる。」

[2-オ] 「【0008】分散剤としては一般に用いられる樹脂や界面活性剤等の顔料分散剤として用いられるものが使用でき、その使用量はインキ全量に対して1?30重量%が好ましい。
【0009】樹脂は通常の油性ボールペンインキに用いられるものでよく、具体例としては、ケトン樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラールなどが用いられ、これらを単独あるいは2種以上組合せてもよい。これらの樹脂の使用量はインキ全量に対して1?30重量%の範囲が好ましい。」

[2-カ] 「【0013】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に「部」と記すのは「重量%」を意味する。
・・・(中略)・・・
実施例2
シアニンブルーBNRS(東洋インク社製) 25.0部
スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製) 10.0部
ベンジルアルコール 5.0部
トリプロピレングリコールモノメチルエーテル 30.0部
ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂) 10.0部
4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン 20.0部
上記各成分を60?70℃に加熱し、4時間攪拌溶解後、70℃にて加圧濾過して青色のインキを得た。」

[2-キ] 「【0014】
・・・(中略)・・・
実施例4
シアニンブルー#4933(大日精化製) 20.0部
エスレックBL-1
(ポリビニルブチラール樹脂、積水化学製) 20.0部
プロピレングリコールモノフェニルエーテル 10.0部
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル 39.8部
PVPK-90(ポリビニルピロリドン樹脂、BASF樹脂)0.2部
4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン 10.0部
上記成分中、銅フタロシアニンブルー、ポリビニルブチラール樹脂及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルをサンドミルにて1時間分散後、残りの各成分を混合し攪拌溶解し、70℃にて加圧濾過して黒色インキを得た。」

[2-ク] 「【0016】
【効果】実施例1?4及び比較例1?4で得られたボールペン用油性インキ組成物をポリプロピレン製のチューブの一端に、直径0.7mmφの超硬ボールと洋白製ボールペンソケットを装着したペン体を圧入し、さらに遠心分離でインキ中の泡を除去して得られる所謂フリーインキ式筆記具にて螺線式筆記試験機を用いて効果の確認を行った。そのときの試験機の条件は筆記角度70度、荷重200g、速度4m/min で試験用紙はJIS P3201筆記用紙Aであり、該条件にて500m筆記後のボール沈みを工具顕微鏡(当審注:「光学顕微鏡」の誤記と認定する。)を用いて測定した。また、手書きにて筆記感の官能テストを行い、そのサンプルを50℃、70%の恒温恒湿槽に2週間放置後、ボールペン先の内部の錆の程度を目視にて調べた。また、別のサンプルでキャップをはずして25℃、65%の恒温恒湿槽に1日放置後、筆記角度70度、荷重200gで直線筆記し、そのときのカスレ長さを測定した。 その結果を表1に示す。
【表1】

筆記感の評価基準 なめらか───スムーズに書ける。
きしむ ───抵抗がありスムーズに書けない。
以上の様に、本発明におけるボールペン用油性インキ組成物は潤滑性に優れ、ボール受け座の摩耗を少なくする効果があり、耐久性に優れ筆記感も優れているとともに、従来のオレイン酸などのように銅や銅合金を腐食しないため書出しカスレが少なく、錆による変色等を起こさない、また顔料インキでは分散性の良好な経時安定性に優れたボールペン用油性インキ組成物が得られる。」

(4) 甲第2号証に記載された発明

ア 甲第2号証には、ボールペン用油性インキ組成物が記載されている([2-ア]?[2-エ])。

イ また、甲第2号証には、実施例2として、シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)(25.0重量%)、スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)(10.0重量%)、ベンジルアルコール(5.0重量%)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(30.0重量%)、ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)(10.0重量%)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(20.0重量%)を含む青色のボールペン用油性インキ組成物が記載されており([2-カ])、ここで、当該「青色のボールペン用油性インキ組成物」は、「青色の油性ボールペン用インキ組成物」と言い換えることができる。
ここで、上記「ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)」については、甲第2号証の上記[2-オ]によれば、「顔料分散剤として・・・(中略)・・・ケトン樹脂、・・・(中略)・・・などが用いられ」と記載されていることから、「顔料分散剤として」のものであることがわかる。

ウ また、上記「イ」の「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)(25.0重量%)、スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)(10.0重量%)、ベンジルアルコール(5.0重量%)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(30.0重量%)、ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)(10.0重量%)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(20.0重量%)」の各成分に付されている重量%を足し合わせると100重量%となることから、各成分に付されている上記「重量%」は、青色の油性ボールペン用インキ組成物の全重量に対する割合であることが分かり、「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.0重量%であり、スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して5.0重量%であり、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの量が、該インキ組成物の全重量に対して30.0重量%であり、ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンの量が、該インキ組成物の全重量に対して20.0重量%である」ともいえる。

エ さらに、甲第2号証には、実施例2の青色の油性ボールペン用インキ組成物を充填しているボールペン(油性ボールペン)が記載されているといえる([2-ク])。

オ 以上のことより、甲第2号証には、

「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)、スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)、ベンジルアルコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、顔料分散剤としてのハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンを含み、
シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.0重量%であり、
スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、
ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して5.0重量%であり、
トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの量が、該インキ組成物の全重量に対して30.0重量%であり、
ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、
4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンの量が、該インキ組成物の全重量に対して20.0重量%である、
青色の油性ボールペン用インキ組成物。」の発明(以下、「甲2発明1」という。)、及び、

「青色の油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
青色の油性ボールペン用インキ組成物が、シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)、スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)、ベンジルアルコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、顔料分散剤としてのハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンを含み、
シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.0重量%であり、
スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、
ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して5.0重量%であり、
トリプロピレングリコールモノメチルエーテルの量が、該インキ組成物の全重量に対して30.0重量%であり、
ハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり、
4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンの量が、該インキ組成物の全重量に対して20.0重量%である、
油性ボールペン。」の発明(以下、「甲2発明2」という。)

が記載されているといえる。

(5) 甲第3号証に記載された事項

甲第3号証(特開平11-293174号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

[3-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色剤、有機溶剤、樹脂その他の添加剤を含有する油性インキ組成物において、下記一般式(1)で表されるノニルフェノール系リン酸エステルを含有することを特徴とする油性インキ組成物。
O
?
〔R(CH_(2)CH_(2)O)_(n)〕_(m)P〔OH〕_(3-m) (1)
〔ここで式(1)中のnは2?50の整数、mは1?3の整数、Rはノニルフェノール基を表わす。〕
・・・(中略)・・・
【請求項4】 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の油性インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペン。」

[3-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、油性インキ組成物、特に広範囲な粘度範囲で極めて優れた潤滑性を有するとともにチップ摩耗を抑制する効果が大きくかつ滑らかな書味となる油性ボールペン用に好適な油性インキ組成物と油性ボールペンに関する。」

[3-ウ] 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】従ってより潤滑効果が高く滑らかな書き味で、かつ長時間筆記しても変わらぬ性能を有する油性インキ組成物と油性ボールペンが望まれている。本発明は、上記従来の現状に鑑み、これを解決したものであり、広範囲な粘度範囲で優れた潤滑性を有するとともにボールチップとそのホルダーからなるペン先でのチップ摩耗を抑制する効果が大きくかつ滑らかな書味となる油性インキ組成物と油性ボールペンを提供することにある。」

[3-エ] 「【0012】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。本発明の油性インキ組成物は、着色剤、有機溶剤、樹脂その他の添加剤を含有する。ここで用いる着色剤としては、従来の油性ボールペン用インキ等に使用されている油溶性染料、顔料が使用可能である。油溶性染料としては、使用する有機溶剤に可溶な染料、例えばバリーファーストカラー(オリエント化学(株)製)、アイゼンスピロン染料、アイゼンSOT染料(保土谷化学(株)製)などが挙げられる。
(当審注:平成10年4月22日に提出された手続補正書の【手続補正1】による変更後のもの)」

[3-オ] 「【0013】また、顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、金属粉などの無機系顔料、あるいはアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料が挙げられる。これらの着色剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上混合して用いても良く、また、染料と顔料を併用しても良い。着色剤の配合量は、インキ組成物の全重量に対して、5?60重量%の範囲であることが好ましい。この場合、5重量%以下では、濃度が不足しボールペンとして十分な品質が得られない。また60重量%以上では、保存安定性や溶解性の点で好ましくない。」

[3-カ] 「【0015】本発明の油性インキ組成物には、樹脂を含有せしめることができ、該樹脂は当該インキ組成物の粘度を調製するために使用するものであり、通常の油性ボールペンインキ組成物に使用されている樹脂、例えば、ケトン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール樹脂、及びそれらの変性物が例示できる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。これらの樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対して、5?30重量%である。この場合、5重量%以下では、必要最低限の粘度が得られない点で好ましくない。また30重量%以上では、得られる粘度が高くなりすぎる点で好ましくない。」

[3-キ] 「【0020】ここで本発明のボールペンは、従来から公知のボール、チップホルダーからなるペン先、インキ収容管、ペン軸などから構成され、該インキ収容管に前記した本発明の油性インキ組成物を充填したものである。この本発明によるボールペンによる筆記は、ペン先のボールの回転によりチップ内部より流出してくるインキが紙などの記録体に転写もしくは浸透し、特に転写により、筆跡・描線を作り出す。その時、余剰のインキがチップホルダーの外周に付着しても、再び書き始めるときや、筆記途中でのインキのボテ現象が発生がなく、いつまでもきれいな描線を得ることができる。」

[3-ク] 「【0021】
【実施例】以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例によって限定されるものでない。また下記の実施例及び比較例におけるインキの粘度の測定、流量変化の確認及び書き味の良否の判定は以下のようにして行った。また得られたインキ組成物をボールペン(インキ収納管:ポリプロピレン製チューブ、チップホルダー:ステンレスチール、ボール:超硬合金タングステンカーバイドで、直径0.7mm)に充填し、その筆記性能をテストした。
【0025】(4)経時変化(強制劣化)試験
50℃80%RHの恒温恒湿槽内に3ケ月放置後、室温まで放冷し、手書きで螺旋筆記して筆記性を調べた。
◎;試験前と同様に筆記できる
○;試験前と比較して多少変化がある
△;カスレが生じる
▲;カスレが酷い
×;筆記できない」

[3-ケ] 「【0026】なお下記実施例等で使用した配合材料の製造メーカーをまとめて示す。
*1 オリエント化学工業(株)製
*2 保土谷化学工業(株)製
*3 日立化成(株)製
*4 ISP製
*5 東邦化学工業(株)製
*6 BASF製
*7 本州化学工業(株)製
*8 積水化学工業(株)製
*9 第一工業製薬(株)製
*10 SANDOZ製
*11 電気化学工業(株)製
*12 NLケミカルズ(株)製
*13 共栄社油脂(株)製
*14 日本アエロジル(株)製」

[3-コ] 「【0029】実施例3
下記の配合の内アセトフェノン樹脂未添加の状態でダイノミルで分散し、アセトフェノン樹脂を添加後濾過し、粘度7,500mPa・sの油性ボールペン用黒インキ組成物を調製し、その筆記性能をテストした。
顔料:カーボンブラック 15 wt%
染料:スピロンバイオレット C-RH *2 15 wt%
スピロンイエロー C-2GH *2 6 wt%
溶剤:フェノキシエタノール 43.5 wt%
樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H) *7 10 wt%
ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1) 2 wt%
ポリビニルピロリドン (PVPK90) *4 0.5 wt%
リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H *9 8 wt%
(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)」

[3-サ] 「【0039】
【表1】

【0040】上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1?5におけるノニル(又はジノニル)フェノール系リン酸エステルを含有した油性ボールペン用インキ組成物は、比較例1?7のようにノニル(又はジノニル)フェノール系リン酸エステル化合物を含有しないか又は高級脂肪酸アルコール系リン酸エステルを含有したインキ組成物に較べ、書味がよく、描線のかすれ、線切れがきわめて少ないことが明らかである。」

[3-シ] 「【0041】実施例6
下記の配合で、ダイノミルで分散後濾過して、粘度350mPa・sの油性ボールペン用黒インキ組成物を調製し、その筆記性能をテストした。
顔料:カーボンブラック 10 wt%
溶剤:フェニルグリコール 25 wt%
ベンジルアルコール 6 wt%
ジプロピレングリコールモノエチルエーテル 54.3 wt%
樹脂:ポリビニルブチラール(デンカブチラール2000-L)*11 2.5 wt%
増粘剤:ベントン SD-2 2 wt%
リン酸エステル化合物:フォスファノール RM-410 *5 0.2 wt%
(ジノニルフェノール系、HLB;5.8)
【0042】実施例7
下記の配合で、実施例6と同様にして、粘度450mPa・sの油性ボールペン用青インキ組成物を調製し、その筆記性能をテストした。
顔料:インダンスレンブルー RS 15 wt%
溶剤:フェニルグリコール 10 wt%
ジプロピレングリコールモノエチルエーテル 42.5 wt%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 20 wt%
樹脂:ポリビニルブチラール(エスレックB BL-1) *8 3 wt%
増粘剤:アエロジル COK-84 *13 1 wt%
リン酸エステル化合物:フォスファノール RM-410 *5 8.5 wt%
(ジノニルフェノール系、HLB;5.8)
【0043】実施例8
下記の配合で、実施例6と同様にして、粘度860mPa・sの油性ボールペン用赤インキ組成物を調製し、その筆記性能をテストした。
顔料:レーキレッド C 6 wt%
溶剤:ベンジルアルコール 5 wt%
ジプロピレングリコールモノエチルエーテル 25 wt%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 56.8wt%
樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1) *8 2 wt%
増粘剤:ターレン VA-100 *14 4 wt%
リン酸エステル化合物:フォスファノール RM-410 *5 1.2 wt%
(ジノニルフェノール系、HLB;5.8)」

[3-ス] 「【0051】
【表2】

(当審注:平成10年4月22日に提出された手続補正書の【手続補正3】による変更後のもの)」

(6) 甲第3号証に記載された発明

ア 甲第3号証には、油性ボールペン用インキ組成物が記載されている([3-イ]、[3-コ]?[3-シ])。

イ また、甲第3号証には、実施例3として、顔料:カーボンブラック(15wt%)、染料:スピロンバイオレット C-RH(15wt%)、及び、染料:スピロンイエロー C-2GH(6wt%)、溶剤:フェノキシエタノール(43.5wt%)、樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)(10wt%)、樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)(2wt%)、及び、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)(0.5wt%)、リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)(8wt%)を含む油性ボールペン用黒インキ組成物が記載されており([3-コ])、ここで、当該「wt%」、「油性ボールペン用黒インキ組成物」は、それぞれ、「重量%」、「黒色の油性ボールペン用インキ組成物」と言い換えることができる。
ここで、上記「樹脂:ポリビニルブチラール」については、甲第3号証の上記[3-カ]によれば、「該樹脂は当該インキ組成物の粘度を調製するために使用するものであり、・・・(中略)・・・ポリビニルブチラール樹脂、・・・(中略)・・・が例示できる。」と記載されていることから、「粘度を調製するため」のものであることがわかる。

ウ また、上記「イ」の「顔料:カーボンブラック(15重量%)、染料:スピロンバイオレット C-RH(15重量%)、及び、染料:スピロンイエロー C-2GH(6重量%)、溶剤:フェノキシエタノール(43.5重量%)、樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)(10重量%)、樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)(2重量%)、及び、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)(0.5重量%)、リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)(8重量%)」の各成分に付されている重量%を足し合わせると100重量%となることから、各成分に付されている上記「重量%」は、黒色の油性ボールペン用インキ組成物の全重量に対する割合であることが分かり、「顔料:カーボンブラックの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、染料:スピロンバイオレット C-RHの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、染料:スピロンイエロー C-2GHの量が、該インキ組成物の全重量に対して6重量%であり、溶剤:フェノキシエタノールの量が、該インキ組成物の全重量に対して43.5重量%であり、樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%であり、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)の量が、該インキ組成物の全重量に対して0.5重量%であり、リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して8重量%である」ともいえる。

エ また、甲第3号証には、実施例3の「顔料:カーボンブラック」が「無機系顔料」であると記載されており([3-オ])、ここで、当該「無機系顔料」は、「無機顔料」と言い換えることができる。

オ さらに、甲第3号証には、実施例3の黒色の油性ボールペン用インキ組成物を充填しているボールペン(油性ボールペン)が記載されているといえる([3-ク])。

カ 以上のことより、甲第3号証には、

「無機顔料:カーボンブラック、染料:スピロンバイオレット C-RH、及び、染料:スピロンイエロー C-2GH、溶剤:フェノキシエタノール、樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)、粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)、及び、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)、リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)を含み、
無機顔料:カーボンブラックの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
染料:スピロンバイオレット C-RHの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
染料:スピロンイエロー C-2GHの量が、該インキ組成物の全重量に対して6重量%であり、
溶剤:フェノキシエタノールの量が、該インキ組成物の全重量に対して43.5重量%であり、
樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%であり、
樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)の量が、該インキ組成物の全重量に対して0.5重量%であり、
リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して8重量%である、
黒色の油性ボールペン用インキ組成物。」の発明(以下、「甲3発明1」という。)、及び、

「黒色の油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
黒色の油性ボールペン用インキ組成物が、無機顔料:カーボンブラック、染料:スピロンバイオレット C-RH、及び、染料:スピロンイエロー C-2GH、溶剤:フェノキシエタノール、樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)、粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)、及び、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)、リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)を含み、
無機顔料:カーボンブラックの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
染料:スピロンバイオレット C-RHの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
染料:スピロンイエロー C-2GH(6重量%)の量が、該インキ組成物の全重量に対して6重量%であり、
溶剤:フェノキシエタノール(43.5重量%)の量が、該インキ組成物の全重量に対して43.5重量%であり、
樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%であり、
樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)の量が、該インキ組成物の全重量に対して0.5重量%であり、
リン酸エステル化合物:プライサーフ A207H(ジノニルフェノール系、HLB;7.1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して8重量%である、
油性ボールペン。」の発明(以下、「甲3発明2」という。)

が記載されているといえる。

(7) 甲第4号証に記載された事項

甲第4号証(特開平10-60356号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

[4-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色剤、有機溶剤、樹脂を含むボールペン用油性インキであって、前記樹脂はポリビニルブチラール、ロジン変性フェノール樹脂及び/又はα-及びβ-ピネン・フェノール重縮合物であるボールペン用油性インキ組成物。」

[4-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はボールペン用油性インキ組成物に関する。」

[4-ウ] 「【0002】
【従来の技術】従来、ポリビニルブチラールを含有した蛍光色ボールペン用インキが開示されている(特公昭57-43185号公報)。前記蛍光色ボールペン用インキは、増粘剤としてポリビニルブチラールを添加することによりインキの粘度調製を行ない、適度なインキ出を有するボールペンを得るものである。しかしながら、一般的に油性インキを用いるボールペンにおいては、ボールと前記ボールを抱持する金属製チップ、及びチップと嵌合するインキ収容管からなる簡易な構造であるため、筆記先端部が下向き状態(倒立状態)においては、筆記先端部からインキ垂れを生じる恐れがある。特に、水性ボールペンのように滑らかな筆記感が得られる比較的低粘度の油性ボールペンにおいては、前記したインキ垂れが生じ易い。前記インキ垂れを抑制する方法として、インキ粘度を高くしたり、或いはボールとチップの空隙を狭くする等の手段を挙げることができるが、インキ粘度を高くすると筆記感が重く、滑らかな筆記ができ難くなる。又、ボールとチップの空隙を狭くすると、インキ出が悪くなると共に、かすれを生じる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、インキ垂れを起こすことなく、しかも筆記感が良好で、かすれ等の筆記不良を起こすことのないボールペン用油性インキ組成物を提供しようとするものである。」

[4-エ] 「【0005】前記着色剤は、例えば、カラーインデックスにおいてソルベント染料として分類される有機溶剤可溶性染料が挙げられる。前記ソルベント染料の具体例としては、バリファーストブラック3806(C.I.ソルベントブラック29)、同3807(C.I.ソルベントブラック29の染料のトリメチルベンジルアンモニウム塩)、スピリットブラックSB(C.I.ソルベントブラック5)、スピロンブラックGMH(C.I.ソルベントブラック43)、バリファーストレッド1308(C.I.ベーシックレッド1の染料とC.I.アシッドイエロー23の染料の造塩体)、バリファーストイエローAUM(C.I.ベーシックイエロー2の染料とC.I.アシッドイエロー42の染料の造塩体)、スピロンイエローC2GH(C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩)、スピロンバイオレットCRH(C.I.ソルベントバイオレット8-1)、バリファーストバイオレット1701(C.I.ベーシックバイオレット1とC.I.アシッドイエロー42の染料の造塩体)、スピロンレッドCGH(C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩)、スピロンピンクBH(C.I.ソルベントレッド82)、ニグロシンベースEX(C.I.ソルベントブラック7)、オイルブルー603(C.I.ソルベントブルー5)、ネオザポンブルー808(C.I.ソルベントブルー70)等が挙げられる。」

[4-オ] 「【0006】顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料、蛍光顔料、パール顔料、金色、銀色等のメタリック顔料、蓄光性顔料等が挙げられる。前記着色剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよく、インキ組成中5乃至40重量%の範囲で用いられる。」

[4-カ] 「【0008】前記樹脂のうちポリビニルブチラールとしては、ヘキスト社製、商品名Mowital B20H、B30B、B30H、B60T、B60H、B60HH、B70H、或いは、積水化学工業(株)製、商品名エスレックB BH-3、BL-1、BL-2、BL-L、BL-S、BM-1、BM-2、BM-5、BM-S、或いは、電気化学工業(株)製、商品名デンカブチラール#2000-L、#3000-1、#3000-2、#3000-3、#3000-4、#3000-K、#4000-1、#5000-A、#6000-C等が挙げられる。又、前記ポリビニルブチラールは0.1?15重量%、好ましくは1?10重量%の範囲で用いられる。」

[4-キ] 「【0014】実施例1乃至3及び比較例1乃至4のインキの組成及び粘度(Pa・s,温度約25℃での測定値)を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【表1】

表中の原料の内容を注番号に沿って説明する。
(1)バリファストブラック3806〔オリエント化学工業(株)製、C.I.ソルベントブラック29〕
(2)スピロンバイオレットCRH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ソルベントバイオレット8-1〕
(3)バリファストイエローAUM〔オリエント化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料とC.I.アシッドイエロー42の染料との造塩体染料〕
(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕
(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕
(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕
(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕
(8)α-及びβ-ピネン・フェノール重縮合物〔ヤスハラケミカル(株)製、商品名:YSポリエスターS145、α-ピネンを主成分とするテルペン(β-ピネンが少量含まれる)とフェノールの共重合体、分子量1050、ガラス転移温度87℃、比重1.04、軟化点(環球法)145℃〕
(9)シンセテックレジンSK(ドイツ国ヒュルス社製商品名)
(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)」

[4-ク] 「【0015】各実施例及び比較例のボールペン用油性インキを前記したインキ調製法によって調製し、直径0.7mmのボールを抱持するステンレススチール製チップがポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィルに充填した後、前記ボールペンレフィルを外装に組み込み、油性ボールペンを得た。尚、前記チップについては、ボールとチップの間隙が、0?0.5μmのもの(チップA)と12?13μmのもの(チップB)の2種を用い、各チップと各試料インキとの組合せにつき10本づつ作成し、以下のテストを行った。
【0016】(1)筆記先端部のインキ垂れテスト
各油性ボールペン5本を筆記できることを確認した上、ペン先下向きの状態で25℃、相対湿度100%の多湿条件下に1ケ月間放置した後、ペン先からのインキの落下(以下、ボタ落ちと記す)の有無及びペン先へのインキのたまり状態(以下、インキたまりと記す)を観察した。
(2)筆記試験機による筆記試験
各油性ボールペン5本を筆記試験機にてJIS S6039に準拠し、荷重100g、筆記角70°、筆記速度4m/分の条件で筆記試験を行い、得られた筆跡の濃さの観察と筆記100m当たりのインキ吐出量(mg)の測定、及び筆記距離の測定を行った。
【0017】以下に試験結果を示す。
【表2】

【0018】表中の記号の内容等を下記に説明する。
(1)インキ垂れの度合い
○:全く認められない
△:微量のインキたまりあり
×:ボタ落ちあり
尚、油性ボールペン5本中3本以上が該当する評価を記した。
(2)筆跡の濃さ(目視による判定)
◎:やや濃い
○:好適な濃度
△:やや薄い
×:薄い
インキ吐出量
数値は、100m筆記当たりのインキ吐出量(mg)を試料ペン5本の平均値で表す。
筆記距離
○:内蔵するインキを全て消費
△:300?500mで筆記不能
×:0?300mで筆記不能」

(8) 甲第4号証に記載された発明

ア 甲第4号証には、ボールペン用油性インキ組成物が記載されている([4-ア]?[4-ウ])。

イ また、甲第4号証には、実施例2として、赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕(20.0重量部)、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕(5.0重量部)、フェニルグリコール(39.0重量部)、ベンジルアルコール(10.0重量部)、(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕(2.0重量部)、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕(18.0重量部)、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)(1.0重量部)、オレイン酸(3.0重量部)を含むボールペン用油性インキ組成物が記載されており([4-キ])、ここで、当該「ボールペン用油性インキ組成物」は、「油性ボールペン用インキ組成物」と言い換えることができる。
ここで、上記「ポリビニルブチラール」については、甲第4号証の上記[4-ウ]によれば、「増粘剤としてポリビニルブチラールを添加することによりインキの粘度調製を行ない」と記載されていることから、「増粘剤として」のものであることがわかる。

ウ また、上記「イ」の「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕(20.0重量部)、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕(5.0重量部)、フェニルグリコール(39.0重量部)、ベンジルアルコール(10.0重量部)、(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕(2.0重量部)、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕(18.0重量部)、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)(1.0重量部)、オレイン酸(3.0重量部)」の各成分に付されている重量部を足し合わせると98.0重量部となることから、それらを「重量%」に換算すると、「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕(20.4重量%)、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕(5.1重量%)、フェニルグリコール(39.8重量%)、ベンジルアルコール(10.2重量%)、(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕(2.0重量%)、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕(18.4重量%)、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)(1.0重量%)、オレイン酸(3.1重量%)」であり、「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して20.4重量%であり、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して5.1重量%であり、フェニルグリコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して39.8重量%であり、ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して10.2重量%であり、(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して2.0重量%であり、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して18.4重量%であり、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.0重量%であり、オレイン酸の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.1重量%である」ともいえる。

エ さらに、甲第4号証には、実施例2の油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンが記載されているといえる([4-ク])。

オ 以上のことより、甲第4号証には、

「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、増粘剤としての(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)、オレイン酸を含み、
赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して20.4重量%であり、
黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して5.1重量%であり、
フェニルグリコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して39.8重量%であり、
ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して10.2重量%であり、
(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して2.0重量%であり、
(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して18.4重量%であり、
(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.0重量%であり、
オレイン酸の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.1重量%である
油性ボールペン用インキ組成物。」の発明(以下、「甲4発明1」という。)、及び

「油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
油性ボールペン用インキ組成物が、赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕、フェニルグリコール、ベンジルアルコール、増粘剤としての(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕、(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕、(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)、オレイン酸を含み、
赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して20.4重量%であり、
黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して5.1重量%であり、
フェニルグリコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して39.8重量%であり、
ベンジルアルコールの量が、該インキ組成物の全重量に対して10.2重量%であり、
(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して2.0重量%であり、
(7)ロジン変性フェノール樹脂〔荒川化学工業(株)製、商品名:タマノル135〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して18.4重量%であり、
(10)ポリビニルピロリドンK-90(ドイツ国BASF社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して1.0重量%であり、
オレイン酸の量が、該インキ組成物の全重量に対して3.1重量%である
油性ボールペン。」の発明(以下、「甲4発明2」という。)

が記載されているといえる。

(9) 甲第5号証に記載された事項

甲第5号証(特開平4-342777号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

[5-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 カーボンブラック、エタノール、ポリビニルブチラール樹脂およびケトン樹脂を含有するエタノール性黒インキ組成物。」

[5-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はマーキングペンで通称される筆記具においてインキ溶剤の人体に対する安全性、筆記描線の堅牢性および経時安定性に優れた黒インキ組成物に関する。」

[5-ウ] 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来の油性マーキングインキに対する問題点を解決することであり、いやな臭いや毒性が少なく、筆記描線の耐光性など堅牢性が良好で、しかもカーボンブラックのエタノールに対する分散安定性や経時安定性が良好なエタノール性黒インキ組成物を提供することである。」

[5-エ] 「【0010】本発明のインキ組成物に用いるポリビニルブチラール樹脂とケトン樹脂は、分散剤として両者を併用することによって、二つの樹脂の相互作用でカーボンブラックの平均粒径や組成物の粘度を低下させ、その初期の平均粒径や粘度が熱や経時時間によって影響をうけず、分散安定性や経時安定性を向上させることができる。」

(10) 甲第6号証に記載された事項

甲第6号証(特開平5-279615号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

[6-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】低級アルコール系溶剤からなる又は低級アルコール系溶剤を主体とする媒体中に、ストークス径の中央累積値が0.2μm以下の下記一般式[I]で表わされるジケトピロロピロール系顔料、アルコール溶剤可溶性ポリマー、剥離剤及び界面活性剤を含んでなる筆記板用インキ組成物。
【化1】・・・(後略)」

[6-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、所謂ホワイトボードなどの筆記板にマーキングペンを用いて筆記することができ、不要となった筆跡を剥離する(拭き消す)ことのできる筆記板用インキ組成物に関する。」

[6-ウ] 「【0002】
【従来の技術及び解決しようとする課題】ホワイトボードと通称されるような筆記板にマーキングペンを用いて筆記することができ、筆記描画が不要となった際には、その筆跡を剥離する(拭き消す)ことのできる筆記板用マーキンインキにおいては、従来、溶剤としてケトン系溶剤とエステル系溶剤の混合系のものが主に使用されている。また着色剤としては、これらの溶剤に堅牢な顔料が種々用いられている。例えば、チバガイギー社のマイクロリスレッド(MAICROLITH RED)BR-Kや4C-Kは、赤色アゾ系顔料を塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂キャリア中に分散させた加工顔料であって、ケトン系溶剤とエステル系溶剤の混合系の溶剤を用いた筆記板用インキに使用し得る(特許第936873号)。
【0003】最近では、溶剤の臭気及び毒性の観点から、低級アルコール系の溶剤の使用が求められている。従って低級アルコール系の溶剤に対し堅牢な有機顔料を必要としているのであるが、従来のアゾ系顔料は、一般に、低級アルコール中で微分散された場合のアルコール耐性が低い。そのため、筆記板用インキに用いた場合、筆記板上の筆跡をイレーザー等で剥離(拭き消し)しようとするとき汚れとなって残ったり、保存中にインキの粘度上昇や顔料の凝集等を生じたりし易く、インキの安定性及び筆跡の消去性などの点で実用上の問題があった。
【0004】一般に高級顔料とされる耐溶剤性(アルコール溶剤堅牢性)に優れた有機顔料として、アントラキノン系顔料(例えば、C.I.Pigment Red 168,167)、 縮合アゾ系顔料(例えば、C.I.Pigment Red 144,166,220)、ペリレン系顔料(例えば、C.I.Pigment Red 149,178,179,224) キナクリドン系顔料 ( 例えば、C.I.Pigment Red 122,207,209 、C.I.Pigment Violet 19)、 チオインジゴ系顔料(C.I.Pigment Red 38,88 ) などが知られている。
【0005】これらがアルコール系溶剤中に分散してペン体に充填された状態で長期安定であるためには、顔料が、超微細状態で溶剤中に分散されていなければならない。ところがその結果、良好であるとされる前記顔料のアルコール堅牢度は低下する。
【0006】その状態で分散系を安定に保つためには、超微細化により増大した顔料の表面積に比例した樹脂量が必要になる。しかし、低級アルコール系溶剤を用いた筆記板用インキ中の樹脂量が増えると、インキの粘度が上昇し、ペン体に充填して使用した場合に筆記かすれが生ずるおそれが高くなると共に、樹脂量の増大に比例して剥離性(消去性)が低下するといった問題点が生じる。
【0007】本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、臭気及び毒性の問題がほとんどない低級アルコール系の溶剤からなる又はそれを主体とする媒体が用いられ、その媒体中に分散した顔料が、超微細でありながら前記溶剤に対し堅牢であり、そのため、含有樹脂の量が筆記かすれや剥離性(消去性)低下を回避し得る程度であってもペン体に充填された状態で長期安定である筆記板用インキ組成物を提供することにある。」

[6-エ] 「【0018】本発明のインキ組成物に用いるポリマーは、インキに被膜形成能を与えると共に、被筆記面への付着性及び顔料の分散安定性を付与するものであって、使用する低級アルコール系溶剤に可溶なものであれば使用可能である。
【0019】使用し得るポリマーの具体例としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸エステル、シェラック及びエチルセルロース等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上混合して使用することができる。その使用量は、インキ組成物全量に対して、通常1乃至20重量%程度、好ましくは2乃至10重量%程度である。なお、インキの粘度を低くするために、重合度の比較的低いものを用いるのが好ましい。
【0020】特に本発明のインキに適したポリマーは、ポリビニルアセタール部分、ポリビニルアルコール部分及びポリ酢酸ビニル部分の3部分からなるトリポリマーたるポリビニルブチラールである。このトリポリマーは、ブチラール基、水酸基及びアセチル基を適度な割合で含むので、少量の使用により、本発明のインキ組成物を長期に亙り安定させることができる。市販品では、積水化学社製のエスレックBM-S(ポリビニルブチラールの商品名)、電気化学工業社製のデンカブチラール #4000-1(ポリビニルブチラールの商品名)を採用した場合に良好な結果が得られた。」

(11) 甲第7号証に記載された事項

甲第7号証(特開平8-199105号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

[7-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】媒体中に、少なくともカーボンブラック、低級アルコール可溶性ポリマー及び剥離剤を含んでなる筆記板用黒色インキ組成物であって、前記媒体が、低級アルコール系溶剤を主体とするもの又は低級アルコール系溶剤であり、前記カーボンブラックが、トルエン着色透過度が85%以上、灰分が0.5重量%以下であることを特徴とする筆記板用黒色インキ組成物。」

[7-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、所謂ホワイトボード等の筆記板にマーキングペンを用いて筆記することができ、不要となった筆跡を拭き消すことができる筆記板用黒色インキ組成物に関する。」

[7-ウ] 「【0002】
【従来の技術及び解決しようとする課題】ホワイトボードと通称されるよう筆記板等にマーキングペンで筆記することができ、不要となればその筆跡を拭き消す(剥離させる)ことのできる筆記板用マーキングインキにおいては、従来、消去性、筆跡性能、安全性等の観点から、着色剤として顔料が用いられてきた。特に、筆記板用黒色顔料インキの場合は、顔料としてカーボンブラックを用い、これを樹脂などを使用してアルコール系溶剤中に分散させると共に、剥離剤及び界面活性剤等を添加して消去性能を持たせている。カーボンブラックは、天然ガスや液状炭化水素(重油、タール等)等の原料を熱分解或は不完全燃焼させることにより製造され、このようなインキの着色剤としては、チャンネルブラック又はファーネスブラックに分類されるものが適するものとされている。
【0003】この種の筆記板用顔料インキに求められる性能としては、一般に、消去性(筆記直後においても経時後においても筆跡の拭き消しが容易であること)、ノンドライ性(ペン先が乾燥せず筆跡のカスレが生じないこと)、筆跡性能(筆跡が十分な濃度を有し、鮮明色であること)などがあり、これらの性能向上に関して多数の提案がなされ、実施されている。
【0004】ところが実用上は、これらに加えて、インキの熱に対する安定性及び経時的な安定性すなわち保存安定性が要求される。インキが充填されたペン若しくはインキ自体を長期にわたり保存したり、1本のペンを長期にわたり使用するような場合、或は、直射日光下、或は直射日光により高温となった自動車内等にインキが充填されたペンが放置されてインキの温度が例えば50℃以上の高温となった場合に、インキの粘度が上昇すると筆記カスレの原因となり、微分散された顔料の平均粒径が大きくなるとペン内部やペン先で目詰りを起して筆記不良の原因となる。そこで、高温下においても、また長期保存された場合においても、インキの粘度やインキ中の顔料粒径などの変化が少ない顔料インキが望まれている。
【0005】しかしながら、カーボンブラックを用いて調製された従来の筆記板用顔料インキは、高温環境下(例えば50℃以上)での安定性が不十分であり、また長期保存中にインキの粘度上昇や含有する顔料の凝集が生ずる等、インキ組成の如何のみによっては解決し得ない問題を有すると共に、用いるカーボンブラックの種類や品質等の違いによりその微分散安定性が異なっていた。
【0006】本発明は、従来技術に存した上記のような問題点に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、高温下においても、また長期保存された場合においても、インキの粘度やインキ中のカーボンブラックの粒径の変化が少ない筆記板用黒色インキ組成物を提供することにある。」

[7-エ] 「【0023】本発明のインキ組成物に用いるポリマーは、インキに皮膜形成能を与えると共に、インキの筆記面への付着性及び顔料の分散安定性を付与のためのものであって、主溶剤である低級アルコールに可溶なものであれば使用可能である。
【0024】使用し得るポリマーの具体例としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル樹脂、ポリアクリル酸エステル、シェラック及びエチルセルロース等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上混合して使用し得る。その使用量はインキ全量に対して1乃至20重量%程度であることが好ましい。より好ましくは2乃至10重量%程度である。なお、インキの粘度を低くするために、重合度の比較的低いものを用いるのが好ましい。
【0025】特に本発明に適するポリマーは、ポリビニルアセタール部分、ポリビニルアルコール部分及びポリ酢酸ビニル部分の3部分からなるトリポリマーたるポリビニルブチラールである。このトリポリマーは、ブチラール基、水酸基及びアセチル基を適度な割合で含むので、少量の使用により、本発明のインキを長期にわたり安定化させることができる。市販品では、積水化学社製のエスレックBM-S(ポリビニルブチラールの商品名)、電気化学工業社製のデンカブチラール#4000-1 、#2000-L (ポリビニルブチラールの商品名)等を好適に使用することができる。剥離剤(消去剤)は、本発明のインキ組成物により筆記板に描かれた文字や図形等(筆跡)が不要となった際に、その筆跡を筆記板から剥離させる(消去する)ための添加剤である。この剥離剤は、筆記後、前記ポリマーと顔料が乾燥し、粒子となって折出する際に、その粒子のまわりを取り囲み、筆記文字を拭き消すことを可能にする。剥離剤がポリマーと完全に相溶すると、剥離(拭き消し)の際に汚れとなって残り、また、全く相溶しないと、筆記板上の筆跡は硬くなり、時間の経過と共に剥離し難くなるので、用いるポリマーと適度に相溶するものが好適である。」

(12) 甲第8号証に記載された事項

甲第8号証(特開平11-343444号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第8号証には、以下の事項が記載されている。

[8-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 着色剤と、樹脂と、水と相溶しないアルコール系溶剤、グリコール系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤から選択される少なくとも一種の溶剤とを含有してなる油性インキ組成物中に、アルキレンビスメラミン誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる有機白色顔料が、インキ組成物全量に対して5?30重量%含有されていることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。」

[8-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、油性ボールペンなどに好適に使用することができる筆記具用油性インキ組成物に関する。」

[8-ウ] 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、透明インキ収納管更には透明本体軸を通して、外観上その色を判別することができ、かつ、外観色と描線色が一致し、しかも、経時的な安定性に優れ、長時間保存した場合にもペン先の目詰まりを起こさない筆記具用油性インキ組成物を提供することである。」

[8-エ] 「【0015】本発明に用いる樹脂としては、上記有機白色顔料の経時安定性を発揮するものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、メラミン・アルキルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂、ポリビニルブチラールから選択される少なくとも1種が挙げられる。メラミン・アルキルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂としては、例えば、メラミン・フェニルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂、メラミン・ベンジルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂、メラミン・トリルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂などが挙げられる。これらのメラミン・アルキルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂、ポリビニルブチラールから選択される少なくとも1種は、前記有機白色顔料に対して10?30重量%含有することが好ましい。更に、本発明では、インキ組成物の粘度を調製したり着色剤の固着性、耐水性や顔料分散安定性を向上させるために、通常の筆記具用油性インキに使用されている樹脂を用いても良く、例えば、ケトン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドンなどの樹脂を単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。これらの樹脂の合計含有量は、インキ組成物全量に対して、5?40重量%の範囲である。樹脂の含有量が5重量%未満であると、安定したインキ流量を確保できなくなり、また、40重量%を越えると、インキの追従性が悪くなり、描線が途切れるといった筆記性能の低下を招き、好ましくない。
・・・(中略)・・・
【0018】このように構成される本発明の筆記具用油性インキ組成物が効果を発揮するようなインキの容器形態は、プラスチックなどで成型された透明インキ収容管にインキを直接充填した筆記具用容器などが例示できる。また、このように構成される本発明の筆記具用油性インキを透明のインキ収容管を備えた筆記具に使用した場合には、インキ中の有機白色顔料が高分子微粒子や高分子中空微粒子と異なり結晶構造をとっているために、青色、紺色、紫色等の濃厚色インキでもインキの発色の光が有機白色顔料で反射されるためにインキ本来の色が外観で識別できることとなる。更に、有機白色顔料が酸化チタンより比重が小さく(当該有機白色顔料=1.4、酸化チタン=3.9)、メラミン・アルキルスルホンアミド・ホルムアルデヒド重縮合樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂の酸くなくとも1種が有機白色顔料の分散安定化を助け、沈降しにくくするために、多量の色材の存在にも関わらず経時安定性にも優れたインキとなる。更にまた、着色剤に染料及び有機白色顔料を使用した場合でも、有機白色顔料の分散は良好であり、また、着色剤に多量の顔料などを使用する特に分散安定性が要求されるインキ組成物においては特に有効である。」

(13) 甲第9号証に記載された事項

甲第9号証(特開平10-120962号公報)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。甲第9号証には、以下の事項が記載されている。

[9-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 20℃における蒸気圧が0.005?45mmHgであって、ハンセン3次元溶解パラメーターにおける分散項δ_(d)が13.0?20.0、極性項δ_(p)が1.0?10.0、水素結合項δ_(h)が5.0?20.0の値を有するアルコール類、エーテル、エステルから選ばれた少なくとも一種からなる溶剤、多価アルコールのエステル誘導体を含む溶剤蒸発抑制添加剤、該溶剤に可溶な樹脂および界面活性剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の添加物、および着色剤を含むことからなる油性インキ組成物。」

[9-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はスタンプ用インキ、インキジェット用インキなどの記録用インキ、ボールペン用インキ、マーキングペン用インキなどの筆記具用インキなどに使用する油性インキ組成物に関するものである。」

[9-ウ] 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前述したように、筆記具インキおよび記録用インキに使用する油性インキの乾燥性とインキ被着面のにじみに関する問題点を解決しようとするものである。たとえば、スタンプ用インキの場合、捺印による印影の良好な乾燥性、鮮明な捺印性能、スタンプインキ台の盤面の乾燥を抑制する性能、アート紙、およびコート紙などのインキ難吸収性の捺印面に対する優れた乾燥性を有し、トレーシングペーパーなどのように薄くて粗い繊維質を持つ紙面に対して鮮明な印影を与え、スタンプインキ台の蓋を長時間開放状態でもその捺印性能などを損なわない油性インキ組成物を提供することを課題とする。また、マーキング用インキの場合は、ペン先でのドライアップによる筆記不能を起こさない油性インキ組成物を提供することを目的とする。更に、ボールペンインキやインキジェット用インキについても同様な課題がある。」

[9-エ] 「【0008】
【発明の実施の態様】本発明の油性インキ組成物に用いられる溶媒は、20℃における蒸気圧が0.005?45mmHgであって、ハンセン3次元溶解パラメーターにおいて分散項δ_(d)が13.0?20.0、極性項δ_(p)が1.0?10.0、水素結合項δ_(h)が5.0?20.0の値を有するアルコール類、エーテル、エステルから選ばれた少なくとも一種からなる溶剤である。例えばアルコール類としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどの分子内に2個以上の炭素を有するアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、3-メチル-1,3ブタンジオール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコールなどの分子内に2個以上の炭素、2個以上の水酸基を有する多価アルコールが挙げられる。
【0009】また、エーテルとしては、例えば、メチルイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテルなどのジアルキルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノールなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。
【0010】また、エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソブチル、ギ酸イソアミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸イソアミル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピルなどの脂肪酸エステル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステルが挙げられる。これらのアルコール類、多価アルコール類、エーテル類、エステル類などは、それぞれ単独でも良いし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0011】本発明の油性インキ組成物中のこれら溶媒の含有量は、20?95重量%の範囲であり、好ましくは30?90重量%、さらに好ましくは40?90重量%である。」

[9-オ] 「【0016】本発明の油性インキ組成物に用いられる着色剤は、主に染料と顔料があり、染料については、前述の溶剤に3.0重量%以上溶解するものであれば特に制限がなく、通常の染料インキ組成物に用いられる直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染・酸性媒染染料、アゾイック染料、硫化・硫化建染染料、建染染料、分散染料、油溶染料、食用染料、金属錯塩染料等が挙げられる。また、顔料については、通常の顔料インキ組成物に用いられる無機および有機顔料の中から任意のものを使用することができる。本発明の油性インキ組成物中の着色剤の含有量は、1?50重量%の範囲であり、好ましくは2?40重量%、さらに好ましくは2?35重量%である。染料の場合は2?25重量%、顔料の場合は5?35重量%の範囲が好ましい。」

[9-カ] 「【0017】本発明の組成物で用いられる樹脂および界面活性剤からなる群から選ばれた少なくとも一種の添加物における樹脂は、上記溶剤に3.0重量%以上溶解するものであれば如何なるものでもよく、例えば、にかわ、アラビアゴム、ロジンなどの天然樹脂、ヒドロキシエチルセルロースやその誘導体、ロジン誘導体などの半合成樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテル、スチレン-マレイン酸共重合体、ケトン系樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体などの合成樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、2種以上組み合わせてもよい。その含有量は、組成物に対して0.5?30重量%の範囲であり、好ましくは1.0?20重量%、さらに好ましくは1.5?18重量%である。これらの樹脂は、印影の堅牢強化およびスタンプインキの粘度調整の効果を示すが、着色剤として顔料を用いた場合は顔料分散剤の目的で使用する場合もある。」

(14) 特開平11-335614号公報に記載された事項

特開平11-335614号公報(当審により提示。以下、「参考文献A」という。)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。参考文献Aには、以下の事項が記載されている。

[A-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルコール類及びグリコールエーテル類からなる群より選ばれた少なくとも一種の有機溶剤、カルボキシビニルポリマー、アミン、及び着色剤を含有してなる油性ボールペン用インキ組成物。」

[A-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、油性ボールペン用インキ組成物に関する。更に詳しくは、筆感の軽い油性ボールペン用インキ組成物に関する。」

[A-ウ] 「【0018】顔料としては、無機顔料や有機顔料等をそのまま用いても良いし、或いは、前記顔料を樹脂や界面活性剤等で表面改質した加工顔料や分散トナーを使用しても良い。該顔料の具体例としは、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系、マイクロリースカラー〔チバガイギー(株)製〕、フジASカラー〔富士色素(株)製〕、アルミニウムペースト、フジファーストレッド等が挙げられる。」

[A-エ] 「【0022】樹脂としては、通常の油性ボールペンインキ組成物に慣用されている樹脂であれば特に限定されないが、例えばケトン樹脂、トルエンスルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、ロジンアルコール等が挙げられる。これらの樹脂は夫々単独で用いても二種以上適宜組み合わせて用いても良い。」

[A-オ] 「【0026】
【実施例】以下に、実施例、比較例及び試験例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。尚、実施例及び比較例における数値は重量部を示す。
【0027】
実施例1.
着色剤:カーボンブラック 15.0
樹脂:ポリビニルブチラール 3.0
有機溶剤:ベンジルアルコール 16.8
2-フェノキシエタノール 58.5
カルボキシビニルポリマー:ハイビスワコー104 0.9
アミン:ジ-n-ブチルエタノールアミン 3.8
潤滑剤:オレイン酸 2.0
【0028】
実施例2.
着色剤:カーボンブラック 15.0
樹脂:ポリビニルブチラール 3.0
有機溶剤:ベンジルアルコール 16.2
2-フェノキシエタノール 61.0
カルボキシビニルポリマー:ジュンロンPW-150 1.8
アミン:ジ-n-ブチルエタノールアミン 3.0
【0029】
実施例3.
着色剤:フジファーストレッド1010 11.0
樹脂:ポリビニルブチラール 2.7
有機溶剤:ベンジルアルコール 17.5
2-フェノキシエタノール 65.4
樹脂:ポリビニルピロリドンK-30 1.0
カルボキシビニルポリマー:ハイビスワコー105 0.8
アミン:ジ-n-ブチルエタノールアミン 1.6」

(15) 特開平11-80455号公報に記載された事項

特開平11-80455号公報(当審により提示。以下、「参考文献B」という。)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。参考文献Bには、以下の事項が記載されている。

[B-ア] 「【0034】酸化チタン以外の無機顔料
酸化チタン以外の無機顔料としては、次に挙げるものも添加することができる。具体的には、白色系の亜鉛華、リトボン、鉛白、赤色系の弁柄、鉛炭、モリブデンレッド、カドミウムレッド、黄色系の黄鉛、カドミウムイエロー、チタンイエロー、鉄黄、橙色系のクロムオレンジ、カドミウムオレンジ、緑色系のクロムグリーン、酸化クロム、ギネグリーン、スピネルグリーン、茶系の亜鉛フェライト、青色系の紺青、群青、コバルトブルー、紫色系のマンガン紫、コバルト紫、紫弁柄、黒色系のカーボンブラック、鉄黒等を挙げることができる。
【0035】有機顔料
有機顔料としては、プロピレン系樹脂組成物中のトータル含有量が0.1重量%を超えないことが好ましい。有機顔料の具体例としては、赤色系のレーキレッドC、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、リソールレッド、パーマネントレッド4R、ウォッチングレッド、チオインジゴレッド、アリザリンレッド、キナクリドンレッド、ローダミンレーキ、オレンジレーキ、ベンズイミダゾロンレッド、ピラゾロンレッド、縮合アゾレッド、ペリレンレッド、パーマネントカーミンFB、キナクリドンマゼンダ、黄色系のイソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、ファーストイエロー、フラボンスロンイエロー、ナフトールイエロー、キノリンイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、HRイエロー、縮合アゾイエロー、橙色系ベンズイミダゾロンオレンジ、ペリノンオレンジ、緑色系のフタロシアニングリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーン、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、青色系のフタロシアニンブルー、インダンスレンブルーRS、ファーストスカイブルーレーキ、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、紫色系のファーストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、ジオキサジンバイオレット等を挙げることができる。」

(16) 特開平9-59554号公報に記載された事項

特開平9-59554号公報(当審により提示。以下、「参考文献C」という。)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。参考文献Cには、以下の事項が記載されている。

[C-ア] 「【0032】(実施例7)
不溶性アゾレッド 10.0部
(フジファストレッド1010 冨士色素製)
N-ビニルビロリドン,アクリル酸共重合体 6.0部
(分子量8000)
2-ピロリドン 25.0部
ジエチレングリコール 9.0部
水 49.8部
プロクセルGXL(防腐剤,ICI製) 0.2部
上記配合にて混合しボールミル中て(当審注:「ボールミル中で」の誤記と認定する。)分散処理を行った後、遠心分離にて粗大粒子を除去して赤色のサインペン用インキを得た。」

(17) 特開平11-21491号公報に記載された事項

特開平11-21491号公報(当審により提示。以下、「参考文献D」という。)は、本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である。参考文献Dには、以下の事項が記載されている。

[D-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 SP値が5?15であり、かつ、20℃における蒸気圧が0.01mmHg?45mmHgである有機溶剤と、顔料及び/又は染料からなる着色剤と、25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂とを含有することを特徴とする筆記具用インキ組成物。」

[D-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂面、ガラス面、金属面などの様々な種類の筆記面に対して筆記が可能で、非吸収表面に対する描線乾燥性、描線固着性(堅牢性)、耐水性、耐アルコール性に優れたマーキングペン、サインペン、ボールペン用等に好適な筆記具用インキ組成物に関する。」

[D-ウ] 「【0017】本発明に用いる着色剤としては、顔料及び/又は染料が挙げられる。染料としては、好ましくは、水及びエタノールへの溶解度が低い染料であることが望ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料が使用でき、用いる有機溶剤に溶解しにくいものが好ましい。有機顔料の場合は、分散後の平均粒径が30nm?700nmとなるものが好ましく、無機顔料の場合は、分散後の平均粒径が30nm?10μmとなるものが好ましい。染料としては、上記水及びエタノールへの溶解度が低いものであれば特に限定されるものではないが、その溶解度は常温で10%以下のもので、主溶剤には常温で3%以上溶解するものが挙げられる。また、特に、顔料沈降や粘度増加等の安定性が悪くなければ、染料及び顔料の併用もかまわない。顔料の配合量は、インキ組成物全量に対し、0.5?25重量%、好ましくは、0.5?20重量%、染料としては、0.1?35重量%、好ましくは0.5?20重量%までの範囲で必要に応じて配合することができる。使用できる無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、酸化チタン、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、ガドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料が挙げられる。」

[D-エ] 「【0024】本発明の筆記具用インキ組成物を製造するには、従来から公知の種々の方法が採用できる。例えば、上記各成分を配合し、ディゾルバー等の撹拌機により、混合撹拌することによって、又、ボールミルや三本ロール、ビーズミル、サンドミル等によって混合粉砕した後、遠心分離や濾過によって、顔料粒子や酸化チタン粒子の粗大粒子、及び未溶解物、混入固形物を取り除くことによって容易に得ることができる。」

[D-オ] 「【0050】上記実施例1?14及び比較例1?9で得られたインキについて下記の試験方法でインキの表面張力、粘度、分散後の平均粒径(顔料を使用した場合)等の物性値を測定した。また、調製したインキのペン体としての評価方法として、数種筆記面に対する描線乾燥性及び堅牢性、耐水性、耐アルコール性の評価試験を行った。これらの結果を下記表1及び表2に示す。
・・・(中略)・・・
【0053】(顔料インキの平均粒子径の測定)インキ調製後、Submicron Particle Sizer(コールター製)を使用し、平均粒径を測定した。〔3回の平均値を使用〕」

[D-カ] 「【0058】
【表1】

【0059】
【表2】・・・(後略)」

3 無効理由1(1)(サポート要件違反)について

(1) 特許法第36条第6項第1号の解釈

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」という要件、いわゆる、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所特別部判決平成17年(行ケ)第10042号)。
そこで、まず、本件特許発明が解決しようとする課題を検討し、次に、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該課題を解決できると認識できるかどうかを検討し、最後に、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討する。

(2) 本件明細書の記載

本件明細書には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、有彩色の油性インキ組成物、特に色材として染料と有機顔料を併用した経時安定性に優れた油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンに関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】
顔料分散剤及び/または粘度調整剤として、ブチラール樹脂を使用した油性ボールペンインキとしては、特公昭57-43185、特開平6-192612、特開平6-248217、特開平6-313144、特開平6-313145、特開平7-70504、特開平8-41407、特開平8-41408、特開平8-120206、特開平8-134393、特開平9-78021、特開平10-60356が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの例では多くの場合、色材として染料のみ或いは顔料のみを用いた場合を例示しているだけである。また、本文中には染料と顔料が併用可能であると表記されてはいるものの染料と有機顔料を組み合わせた際の問題点について言及しているものはない。そのため、染料と有機顔料の併用系においてもどの様な構造のアルコール可溶型染料も使用できうるかのように受け取れるが、ブチラール樹脂を少なくとも含有した有彩色の油性インキ組成物で染料と有機顔料を併用した場合は経時安定性に欠けるといった問題がある。
【0004】
ここで、色材に染料と有機顔料を併用する利点としては、以下に示すようなそれぞれ単独では克服し難い問題点を互いの長所を生かすことにより容易に解消出来る点にある。例えば、染料のみでは多くの場合、紙面に筆記した描線がアルコール系溶剤(耐アルコール性)や酸化還元剤(耐薬品性)によって溶出または消色して失われたり、太陽光下に暴露した場合(耐光性)に短時間で退消色するなど描線堅牢性がやや劣る。また、良好な描線堅牢性、特に良好な耐光性を得るために染料骨格内に重金属であるクロムを含んだ含金属染料を多量に使用しなければならなく、微量ではあるが焼却処分等によりクロムが環境下に出てしまう等の環境問題が考えられる。
【0005】
逆に、有機顔料のみでは実用上十分な描線濃度を得るための量をインク中に含有させた場合には、経時安定性が劣り非常に短期間に筆記不能になってしまったり、高濃度の有機顔料分散体を工業的に作ることは実際上困難であったり、コスト的に、また、経時安定性を優先した場合には、充分な量の顔料がインク中に含まれないために筆記描線が薄く実用に耐えない場合が多く、特に黒や青等の寒色・無彩色系で顕著である。
【0006】
また、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合の利点としては、顔料の分散性及び安定性の向上と筆感が良くなるといった事柄があげられる。特に有機顔料の分散性及び安定性の向上と言った面では効果が顕著であり、その他の樹脂分散や界面活性剤による分散では充分な分散性が得られなかったり、初期的には分散しても経時的な安定性に欠けたり、ボールペンインクとして必要な潤滑剤、防錆剤、粘弾性付与剤などを添加した場合に系が壊れたりする場合が多いのに対してこれら全てを満足する分散体が得られる。」

ウ 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、染料と有機顔料の併用系において、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合においても極めて経時安定性に優れた有彩色の油性ボールペンインク組成物と油性ボールペンを提供することを課題とするものである。」

エ 「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、着色剤として用いる染料がある特定の構造を持った場合に上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
即ち、本発明は
(1)塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含む有彩色の油性インキ組成物。
(2)請求項1記載の有彩色の油性インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペンである。
【0009】
上記本発明において、有彩色とは黒色や白色等の無彩色系を除いた任意の色を意味する。また、色材として塩基性染料と有機酸の造塩染料に有機顔料を併用し、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を含有した場合には、他のアルコール可溶型染料を使用した場合とは異なり、何故優れた経時安定性が得られるのかは定かではない。しかしながら、ブチラール樹脂はブチルアルデヒドとPVAの縮合物であるため分子鎖内にPVAのOH基を含有しており、この部分がアルコール可溶型染料の酸性成分と何らかの反応を起こすのではないかと推測される。本発明の塩基性染料と有機酸の造塩染料のように分子の比較的小さい有機酸を酸性成分に持つ場合には、反応が進んでもブチラール樹脂の溶解性に対する影響が少ないのに対し、他のアルコール可溶型染料のように分子鎖の大きな酸性染料を酸性成分に持つ場合には、ブチラール樹脂の溶解性が低下するなどの悪影響を与えるのではないかと考えられる。その結果、塩基性染料と有機酸の造塩染料を使用した場合には、他のアルコール可溶型染料を用いた場合とは異なりインク中に顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂が存在しても良好な経時安定性が得られるものである。従って、本発明の油性インキ組成物には、経時安定性が悪化するアルコール可溶型染料は、配合しないことが望ましい。」

オ 「【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンS.B.N.ブルー701、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110などが挙げられる。これらの染料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。これらの塩基性染料と有機酸の造塩染料はインキ組成物の全重量に対し5?40重量%の範囲であることが好ましい。」

カ 「【0011】
本発明のインク組成物に使用される有機顔料としては、種々の顔料が使用可能であり、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクドリン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、縮合アゾ顔料、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロート、アンスラキノン等の有機系顔料が挙げられる。
【0012】
更に具体的に説明すると、青色の着色剤としての有機顔料としては、種々な青顔料が使用可能であり、・・・(中略)・・・
【0016】
赤色の着色剤としての有機顔料としては、種々な赤顔料が使用可能であり、・・・(中略)・・・
【0020】
黄色の着色剤としての有機顔料としては、種々の黄色顔料が使用可能であり、・・・(中略)・・・
【0023】
緑色の着色剤としての有機顔料としては、種々な緑色顔料が使用可能であり、・・・(中略)・・・
【0026】
これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。更にはこれら有機顔料の分散剤としてブチラール樹脂を使用した場合が好ましい。これら染料及び有機顔料の色材の配合量はトータルではインキ組成物の全重量に対し5?60重量%の範囲であることが好ましく、染顔料併用系では有機顔料の配合量がインキ全量に対して30重量%以下であることが好ましい。色材の配合量が5重量%未満では筆記した際の描線濃度が薄く実用的ではない。また、60重量%では揮発による溶剤の損失により、粘度上昇や溶解性不足などから経時安定性に大きな問題が生じる。」

キ 「【0028】
ブチラール樹脂としては、ヘキスト社製の Mowital B20H、 B30B、 B30H、 B60T、 B60H、 B60HH、 B70H、 B20H、 積水化学工業(株)製の エスレック B、 BH-3、 BL-1、 BL-2、 BL-L、 BL-S、 BM-1、 BM-2、 BM-5、 BM-S、 BX-L、 電気化学工業(株)製のデンカブチラール#2000-L、#3000-1、#3000-2、#3000-3、#3000-4、#3000-K、#4000-1、#5000-A、#6000-C 等が挙げられる。
【0029】
また、本発明のインキ組成物には、ブチラール樹脂と併用して粘度調節剤として他の樹脂を含有せしめることができ、通常の油性ボールペン用インキ組成物に使用されている樹脂、例えば、ケトン樹脂、アセトフェノン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、及びそれらの変性物が例示できる。これらの樹脂はブチラール樹脂との併用であれば単独で用いても、2種以上混合して用いても良い。また、これらの樹脂の含有量は、インキ組成物全体に対して、5?30重量%である。この場合、5重量%以下では、必要最低限の粘度が得られない点で好ましくない。また30重量%以上では、得られる粘度が高くなりすぎる点で好ましくない。
【0030】
本発明のインキ組成物には、前記必須成分に加え、通常の油性ボールペン用インキに用いられている他の添加物、例えば脂肪酸類、燐酸エステル系潤滑剤、界面活性剤、防錆剤、酸化防止剤、潤滑油などを必要に応じて添加することもできる。本発明の筆記具用インキ組成物は、ボールペン、万年筆、サインペン、マーキングペン等に好適に使用できる。
特に、本発明の油性ボールペンとしては、上記油性インキ組成物をポリプロピレンチューブ、ステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールに充填し油性ボールペンに仕上げたものが望ましい。」

ク 「【0031】
【実施例】
以下に本発明の実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1?4、比較例1?6
各種の有機顔料と染料からなる着色剤、溶剤、樹脂及び潤滑剤からなる組み合わせ成分からなる油性インキ組成物を下記の製造方法で製造した。
インキ組成物の製造においては、先ず、顔料は通常良く知られている方法、例えばボールミルや三本ロールなど用いて分散し、それを還流冷却器、撹拌機を備えた容器に移した後、その他の成分を投入し、60℃、10時間撹拌し、加圧濾過により不純物を除いて表1に示す実施例1?4及び比較例1?6の油性インキ組成物を調整した。表1中の組成の数値は重量部を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記方法で調整した各油性インキ組成物をポリプロピレンチューブ、ステンレスチップ(ボールは超鋼合金で、直径0.7mm)を有するリフィールに充填した後、これを市販の三菱鉛筆(株)製のSA-Rの軸に組み立て油性ボールペンに仕上げた。これらのリフィールまたは油性ボールペンを使用して以下の試験を実施した。
【0035】
1)経時安定性試験(強制劣化試験で代用)
前述のリフィールを各インキについて15本ずつ50℃,80%RHの高温高湿槽内に3ケ月迄保管し、1月毎に5本ずつ取り出し、そのリフィールを室温まで放冷後、手書きで螺旋筆記して下記の基準で筆記性を調べた。
◎:試験前と同様に筆記できる。
○:試験前と比較して多少変化がある。
△:カスレが生じる。
□:カスレが酷い。
×:筆記不能。
【0036】
2)描線濃度
油性ボールペン5本を筆記試験機で荷重200g、筆記角度70°、筆記速度4.5m/min条件で筆記し、得られた筆跡の濃さを目視で観察した。
○:適度な濃さ
×:薄い
【0037】
3)描線堅牢度(耐アルコール性試験)
上記2)で得られた筆記描線から切り取った紙片をエタノール中に一昼夜浸漬し取り出し乾燥したのち描線の状態を目視で観察した。
◎:しっかりとした描線が視認できる。
△:うっすらと描線がのこっている。
×:描線が流れてしまい視認できない。
これらの評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】



ケ 「【0039】
【発明の効果】
以上の結果から明らかなように、本発明の有彩色の油性ボールペン用インキ組成物は、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を含有した場合にも極めて経時安定性に優れた油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンを提供することができる。」

(3) 本件発明の課題について

上記「(2)イ」、及び、「(2)ウ」の記載からみて、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂を少なくとも含有した有彩色の油性インキ組成物で染料と有機顔料を併用した場合は経時安定性に欠けるといった問題があるところ、本件特許の請求項1及び2の特許を受けようとする発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「染料と有機顔料の併用系において、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂を使用した場合においても極めて経時安定性に優れた有彩色の油性ボールペンインク組成物と油性ボールペンを提供すること」と認められる。
なお、上記課題については、平成28年9月29日付け審理事項通知書「第4 1」で認定したとおりであるが、両当事者に争いがない。
ここで、上記「経時安定性」とは、上記「(2)ク」によれば、色材が染料と有機顔料の併用系(実施例1?4、比較例2、3、比較例6)、色材が染料のみ(比較例1、4)、及び色材が有機顔料のみ(比較例5)のいずれに対しても、同1条件・基準の経時安定性試験(強制劣化試験で代用)において、筆記性を調べていることから、色材が、染料と有機顔料の併用系であるか、または、それらのいずれかの単独系を問わず、筆記性が変化しないか、または、カスレ・筆記不能等変化するかどうかということを意味しているものと認められる。
また、上記「(2)エ」、及び、「(2)オ」によれば、色材である染料によっては、さらに、上記「(2)カ」によれば、染料及び有機顔料からなる色材の含有量によっては、共に経時安定性に大きな問題が生じることがあることがわかる。なお、審決の予告(第2回目、第65頁、及び、第69頁)でも述べたとおり、顔料の分散状態について、どの程度(特に、平均粒子径)であれば経時安定性に大きな問題が生じるかどうかについては、本件明細書に記載されていない。

(4) 判断

ア 本件発明の課題の解決について

本件明細書の発明の詳細な説明の、色材が染料と有機顔料の併用系である実施例1?4、比較例2、3、及び比較例6の記載からみて、塩基性染料と有機酸の造塩染料であって、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない染料と、有機顔料、ブチラール樹脂を含んだ実施例1?4の油性ボールペン用インキ組成物についての経時安定性試験(1M、2M、3M)では、「◎、◎、◎」(◎:試験前と同様に筆記できる。)であるのに対して、造塩染料以外のアルコール可溶型染料のみ含む染料と、有機顔料、ブチラール樹脂を含んだ比較例2の油性ボールペン用インキ組成物についての経時安定性試験(1M、2M、3M)では、「○、○、△」(○:試験前と比較して多少変化がある。、△:カスレが生じる。)であり、また、塩基性染料と有機酸の造塩染料と、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料を含む染料と、有機顔料、ブチラール樹脂を含んだ比較例3の油性ボールペン用インキ組成物についての経時安定性試験(1M、2M、3M)では、「○、□、×」(□:カスレが酷い。、×:筆記不能。)であり、さらに、塩基性染料と有機酸の造塩染料であって、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない染料と、有機顔料を含んだ比較例6の油性ボールペン用インキ組成物についての経時安定性試験(1M、2M、3M)では、「×、×、×」であることから、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂と有機顔料を含むことを前提として、塩基性染料と有機酸の造塩染料であって、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない染料においては、あくまで、本件明細書の「実施例」に記載された組成物についてのみであるが、「極めて経時安定性に優れた」という効果を一応確認することができる。

(ア) 塩基性染料と有機酸の造塩染料の種類について

本件訂正後の本件発明1、2については、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」ることが特定された。そして、これらの具体的な「塩基性染料と有機酸の造塩染料」については、本件明細書の実施例1?3で実施例に使用されているものであって、「極めて経時安定性に優れた」を十分に確認することができるから(上記「(2)ク」)、これらを用いた場合に、上記課題を解決できることが確認されているといえる。
よって、本件発明1、2は、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」ること発明特定事項の一つとするものであるから、本件発明1、2が、本件明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。

(イ) 油性ボールペン用インキ組成物における造塩染料、有機顔料、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂の含有量について

油性ボールペン用インキ組成物における造塩染料、有機顔料、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂の含有量について、本件明細書の発明の詳細な説明には、「これらの塩基性染料と有機酸の造塩染料はインキ組成物の全重量に対し5?40重量%の範囲であることが好ましい。」(上記「(2)オ」)、「これら染料及び有機顔料の色材の配合量はトータルではインキ組成物の全重量に対し5?60重量%の範囲であることが好ましく、染顔料併用系では有機顔料の配合量がインキ全量に対して30重量%以下であることが好ましい。色材の配合量が5重量%未満では筆記した際の描線濃度が薄く実用的ではない。また、60重量%では揮発による溶剤の損失により、粘度上昇や溶解性不足などから経時安定性に大きな問題が生じる。」(上記「(2)カ」)、「ブチラール樹脂としては、・・・(中略)・・・積水化学工業(株)製の エスレック B、 BH-3、 BL-1、 BL-2、 BL-L、 BL-S、 BM-1、 BM-2、 BM-5、 BM-S、 BX-L、 電気化学工業(株)製のデンカブチラール#2000-L、#3000-1、#3000-2、#3000-3、#3000-4、#3000-K、#4000-1、#5000-A、#6000-C 等が挙げられる。・・・(中略)・・・ブチラール樹脂と併用して粘度調節剤として他の樹脂を含有せしめることができ、通常の油性ボールペン用インキ組成物に使用されている樹脂、例えば、ケトン樹脂、アセトフェノン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、及びそれらの変性物が例示できる。これらの樹脂の含有量は、インキ組成物全体に対して、5?30重量%である。この場合、5重量%以下では、必要最低限の粘度が得られない点で好ましくない。また30重量%以上では、得られる粘度が高くなりすぎる点で好ましくない。」(上記「(2)キ」)と記載されている。なお、上記「5?30重量%」は、ブチラール樹脂とその他の樹脂との合計の含有量であって、「ブチラール樹脂」単独の含有量について記載はないが、本件明細書に記載された上記実施例1?3においては、「ブチラール樹脂」単独の含有量が、インキ組成物の全重量に対し「2?3重量%」であることがわかる(上記「(2)ク」参照。)。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」ている実施例1?3のすべてにおいて、造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂が使用されており、造塩染料の含有量は、順に、15.0重量%、14.0重量%、5.0重量%であり、有機顔料の含有量は、順に、10.0重量%、8.0重量%、8.0重量%であり、造塩染料及び有機顔料の合計の含有量は、順に、25.0重量%、22.0重量%、13.0重量%であり、ブチラール樹脂の含有量は、順に、2.0重量%、2.0重量%、3.0重量%であり、これらの実施例1?3においては、上記「(ア)」でも述べたとおり、「極めて経時安定性に優れた」を十分に確認することができるから(上記「(2)ク」)、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」場合に、上記課題を解決できることが一応確認されているといえる。
なお、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」、造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂が使用されているものの、各構成成分の含有量が上記数値範囲外である比較例は存在していない。

a 本件発明1について

本件発明1においては、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」、造塩染料、有機顔料、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂が使用されており、さらに、造塩染料と有機顔料の各含有量が規定されているものの、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂の含有量は明示的に規定されていない。
ここで、本件明細書の上記「(2)キ」の【0029】には、「本発明のインキ組成物には、ブチラール樹脂と併用して粘度調節剤として他の樹脂を含有せしめることができ、通常の油性ボールペン用インキ組成物に使用されている樹脂、例えば、ケトン樹脂、・・・(中略)・・・が例示できる。これらの樹脂はブチラール樹脂との併用であれば単独で用いても、2種以上混合して用いても良い。また、これらの樹脂の含有量は、インキ組成物全体に対して、5?30重量%である。」と記載されていることから、本件明細書を参酌すると、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂の含有量は、併用する他の樹脂の含有量にもよるが、最大で30重量%程度を規定したものであると認められる。
しかしながら、上記「ア」で述べたとおり、本件発明の「極めて経時安定性に優れた」という効果が確認できるのは、あくまでも、本件明細書の実施例に記載された組成物についてであり、インキ全量に対して「2?3重量%」のものである。そして、経時安定性などの特性が、当該顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂の含有量によって左右されることは当業者にとっては技術常識であるといえるから、インキ組成物における「本件発明1の顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」の含有量が「2?3重量%」である場合に所望の作用効果を奏するからといって、「本件発明1の顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」の含有量が特定されていないインキ組成物全般にわたって、同様の作用効果を奏するとは認められない。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、本件出願の出願日時点の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容を本件発明1にまで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものではない。

なお、被請求人は、平成30年1月19日付けの上申書第5頁において、「第2訂正発明1(当審注:「本件発明1」に相当。)においては、油性ボールペン用インキ組成物がブチラール樹脂を「顔料分散剤及び粘度調整剤として」含むことを規定しており、したがって、当該ブチラール樹脂の量が顔料分散剤及び粘度調整剤として機能する量であることは、当該請求項1の記載ぶりから自明です。顔料分散剤及び粘度調整剤として機能しない量で存在するブチラール樹脂は、そもそも顔料分散剤及び粘度調整剤とはいえません。すなわち、この第2訂正発明1は、顔料分散剤及び粘度調整剤としての効果を奏さない程度の過度に少量又は多量のブチラール樹脂を含有する態様は包含していません。」と述べており、本件発明1において、顔料分散剤及び粘度調整剤として機能しない量で存在するブチラール樹脂は含まれていない旨主張しているが、上記のとおり、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂としてその機能が発揮できる含有量は、最大で30重量%程度を規定したものであると認められ、「顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」を配合したインキ組成物全般にわたって本件発明の課題が解決できるものとは認められない。
よって、被請求人の上記主張を参酌しても、本件発明1に対する無効理由1(1)を解消する根拠となり得ない。

b 本件発明2について

本件発明2においては、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」が、「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され」、造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂が使用され、かつ、各構成成分の含有量について、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」と規定されていることから、上記「ア」のとおり、本件明細書の実施例からみて、「極めて経時安定性に優れた」という所望の効果を奏することが明らかである。
よって、上記本件訂正により、本件発明2については、本件明細書に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。

(ウ) 顔料の分散状態について

本件明細書の発明の詳細な説明には、「各種の有機顔料と染料からなる着色剤、溶剤、樹脂及び潤滑剤からなる組み合わせ成分からなる油性インキ組成物を下記の製造方法で製造した。
インキ組成物の製造においては、先ず、顔料は通常良く知られている方法、例えばボールミルや三本ロールなど用いて分散し、それを還流冷却器、攪拌機を備えた容器に移した後、その他の成分を投入し、60℃、10時間攪拌し、加圧濾過により不純物を除いて表1に示す実施例1?4及び比較例1?6の油性インキ組成物を調製した。」(上記「(2)ク」)と記載されており、本件発明において、油性インキ組成物の分散状態は、ボールミルや三本ロールなどの通常良く知られた方法を用いて分散させられる程度で足りることが記載されていると認められるが、上記「(3)」でも述べたように、当該分散状態がどの程度(特に、平均粒子径)であれば経時安定性に大きな問題が生じるかどうかについては、本件明細書に記載されていない。

これについては、被請求人が提出した平成29年1月26日付け上申書第11頁において、「本件明細書の実施例1、実施例2及び比較例2では、平均粒子径の推移に基づいて顔料分散の終点を決定することにより、インキ調整時の良好な顔料分散状態を実現しています。」と述べ、また、平均粒子径の具体的数値としては、「249nm」を例示している。また、同じく平成29年5月26日付け上申書第7頁において、『インキ組成物調整時(初期)の顔料の分散状態が良好であることは、油性ボールペンで用いられる油性ボールペン用インキ組成物としての前提条件であり、そのような前提条件を満たさないものは、そもそも、「油性ボールペン用インキ組成物」であるとは言えません。
したがって、当然に、本件発明の「油性ボールペン」で用いられる「油性ボールペン用インキ組成物」は、インキ組成物調整時の顔料の分散状態が良好でないものを包含しません。再訂正発明1及び2(当審注:「本件発明1及び2」に相当する。)で規定する「油性ボールペン用インキ組成物」においては、顔料の分散状態が良好であることは当然であり、「極めて経時安定性に優れた」という本件発明の課題を解決できることは当業者であれば十分理解できるものと思料します。』と述べている。さらに、同じく平成29年10月13日付け意見書第7、8頁において、「有機顔料及び染料を含有する油性ボールペン用インキ組成物において、有機顔料の分散後の好ましい平均粒径は、当業者に周知であるような範囲の値に過ぎません。」、「有機顔料の分散後の平均粒子径が本件の訂正発明1及び2において発明特定事項として規定されることまでは要しないと思料致します。」と述べている。

当審においては、以下のように判断する。

インキ調整時の顔料の分散状態を良好とするための「平均粒子径」は、インキ組成物調整時に当業者において設計の前提条件として定める項目に過ぎず、当業者は既存の「平均粒子径」を踏まえて、いかに分散状態を良好とするか検討し、「極めて経時安定性に優れた」インキ組成物を得ることを実現するものであると認められる。そして、この点について、顔料の平均粒子径の具体的数値が本件明細書には記載が無いとしても、例えば、参考文献Dに、「有機顔料の場合は、分散後の平均粒径が30nm?700nmとなるものが好ましく」(「D-ウ」参照。)と記載されているように、技術常識等に基づいて、適宜設定し得るものであり、本件発明の課題の解決のために、顔料の粒径等の規定を要するものとは認められない。

なお、請求人が提出した平成29年10月13日付け意見書第2?3頁によれば、『もし参考文献Dに記載されている程度の常識的な数値範囲を想定しているとするならば、審判官殿のご指摘の通り、そのようなインキ組成物において、分散状態を良好とするために平均粒子径をそのような値とするのは当然のことであり、請求人が提出した平成28年11月15日付け実験成績証明書、平成28年12月9日における実験成績証明書(2)における実験条件においても、そのような値に調整されていたことは言うまでもありません(そもそも、請求人が提出した平成29年1月12日付け上申書(1)の(1)(当審注:「上申書(1)の5.(1)」の誤記と認定する。)に記載のとおり、請求人の提出した試験例の顔料分散については、顔料メーカーの「顔料分散液」を購入したものであり、意図的に分散を悪化させることはできないことは、これまでも述べていいるとおりです。)。』と、さらに、同じく請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書第7頁によれば、『請求人の行った実験(甲第19号証の1乃至3)条件に何ら問題がない(当審注:「甲第19号証乃至甲第19号証の3」の誤記と認定する。)』などと述べ、請求人の実験が正当なものである旨主張している。
しかしながら、請求人の行った実験(甲第19号証乃至甲第19号証の3)は、請求人が提出した平成29年1月12日付け上申書(1)第2頁によれば、顔料メーカーにおいて、「三本ロール」を用いて顔料を分散させている一方、本件発明にかかる実施例においては、被請求人が提出した平成29年1月12付け上申書第3?4頁によれば、「横型ビーズミル」を用いて顔料を分散させていることから、少なくとも分散手段が異なっている。
また、請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書第6?7頁によれば、『甲第19号証の実験においては、顔料、ブチラール樹脂、有機溶剤を用いて作成した顔料分散体を、顔料メーカーより購入したものであり、購入後まもなく(長くとも概ね数ヶ月以内に)その「顔料分散体」を用いて、試験例1?13の油性インキ組成物を作成されたものです。そのため、今回の実験で用いられた「顔料分散体」は、分散性に全く問題がない時点で用いられております。』と述べており、顔料メーカーにおける分散手段による分散時から、請求人による油性インキ組成物の調整時まで、少なくとも「数ヶ月」経過していることが認められる一方、本件発明にかかる実施例においては、被請求人自ら、上記分散及び調整を行っていることから、分散手段による分散時から、油性インキ組成物の調整時まで、特段の期間を要するとは認められず、調整時における両者の顔料分散体における分散状態が完全に同一であるとは認められない〔例えば、分散時から調整時までの保管状態によっては、顔料同士の凝集が発生し、平均粒径が上記範囲(30nm?700nm)より外れるものが発生する可能性は否めない。〕。

以上によれば、実験成績証明書(甲第19号証乃至甲第19号証の3)は、必ずしも本件発明にかかる実施例を忠実に追試したものであるとはいえず、また、依然として、請求人の上記実験成績証明書における実験時において、上記「顔料分散液」における顔料の平均粒径がどの程度の値であるのか具体的に示されていないこともあり、かかる実験成績証明書の実験条件に何ら問題ないなどと認めることはできないというべきであるから、請求人の主張を採用することはできない。

よって、インキ組成物調整時の顔料の平均粒子径の特定事項を含まないからといって、本件発明1、2は、本件発明の課題を解決することができないとはいえない。

(5) 小括

以上のとおりであるから、本件発明1は、上記「(イ)a」の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合せず、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものである。
これに対して、本件発明2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

4 無効理由1(2)(委任省令要件違反)について

(1) 特許法第36条第4項は、「前項第3号の発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない。」と記載されているところ、当該通商産業省令は、特許法施行規則第24条の2であって、それには、「特許法第36条第4項の通商産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と記載されていることから、委任省令要件違反とは、本件明細書において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されているという要件を満たしていない場合に適用されるのであるから、本件発明について、本件明細書に、「発明が解決しようとする課題」、「課題解決手段」、及び「発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているかどうか、以下検討する。

(2) 「発明が解決しようとする課題」について

まず、本件発明が解決しようとする課題については、上記「3(3)」で述べたとおり、染料と有機顔料の併用系において、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合においても極めて経時安定性に優れた有彩色の油性ボールペンインク組成物と油性ボールペンを提供すること」と認められる。

(3) 「課題解決手段」について

本件明細書に記載されている課題解決手段については、平成28年9月29日付け審理事項通知書「第4 2」で認定したとおり、『染料と有機顔料の併用系において、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合に、染料として、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」を使用すること』であると認められる。
なお、上記課題解決手段についても、両当事者に争いがない。

(4) 「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」について

本件明細書において、本件発明の油性ボールペン用インキ組成物について、「有彩色の油性インキ組成物、特に色材として染料と有機顔料を併用した経時安定性に優れた油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンに関するもの」(上記「3(2)ア」)と記載され、本件明細書の実施例・比較例には、それらの性質に関する指標として、「経時安定性」、「描線濃度」、及び「描線堅牢性」が挙げられていることを考慮すると(上記「3(2)ク」)、油性ボールペン用インキ組成物には、少なくとも、「経時安定性」等の性質を有するものであることが、不可欠であると理解され、上記「3(4)ア」で述べたとおり、塩基性染料と有機酸の造塩染料においては、あくまで、本件明細書の「実施例」に記載された組成物についてのみであるが、「極めて経時安定性に優れた」という効果を一応確認することができる。

(5) そして、上記「3(4)ア(ア)?(ウ)」で述べたとおり、インキ調整時の顔料の分散状態が良好であるという前提条件を満たす、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない油性ボールペン用インキ組成物において、「塩基性染料と有機酸の造塩染料」においては、本件明細書の上記実施例1?3で用いられた「スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110」に限り、かつ、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」ならば、「極めて経時安定性に優れた」という効果が得られることが技術的に明らかになり、上記「3(3)」の本件発明の課題が解決できることが認識できることから、無効理由1(2)は理由がない。

(6) 小括

以上のとおりであるから、本件発明1、2は、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されているので、本件特許は特許法第36条第4項の規定を満たす特許出願に対してなされたものである。

5 無効理由2(1)(甲第1号証に基づく新規性の欠如)、及び無効理由3(1)(甲第1号証に基づく進歩性の欠如)について

(1) 対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と甲1発明1とを対比する。

(ア) 本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲1発明1の「油性スタンプ用インキ組成物」とは、「油性インキ組成物」の点で一致する。

(イ) また、甲1発明1の『保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」』は、本件発明1の造塩染料として定義されている「アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群」に包含されているといえるから、本件発明1の「インキ組成物」と、甲1発明1の「インキ組成物」とは、「該造塩染料が、」「アイゼンスピロンイエローC-GNH」「より選択され」る点で一致する。

(ウ) また、甲1発明1の『保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」』は、上記群に包含されていないが、本件明細書の【0010】(上記「3(2)オ」)によれば、「本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、・・・(中略)・・・などが挙げられる。」と記載されていることもあり、塩基性染料と有機酸の造塩染料であることがわかる。
そして、甲1発明1の染料は、『保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」、保土ケ谷化学(株)製の「スピロンレッドC-BH」』のみであって、これらは、上記で述べたとおり「塩基性染料と有機酸の造塩染料」であり、甲1発明1のインキ組成物は、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」ともいえるから、本件発明1の「インキ組成物」と、甲1発明1の「インキ組成物」とは、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」という点で一致する。

(エ) また、甲1発明1の『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」』が、本件発明1における「有機顔料」、及び、「赤色の有機顔料」に相当するものであることは、当業者に自明である(上記[C-ア]参照。)から、本件発明1の「インキ組成物」と、甲1発明1の「インキ組成物」とは、「該有機顔料が、」「赤色の有機顔料」「より選択され」る点で一致する。

(オ) また、甲1発明1の「ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)」は、本件明細書の【0028】(上記「3(2)キ」)によれば、「ブチラール樹脂としては、・・・(中略)・・・、 積水化学工業(株)製の エスレック B、 BH-3、 BL-1、 BL-2、 BL-L、 BL-S、 BM-1、 BM-2、 BM-5、 BM-S、 BX-L、 ・・・(中略)・・・等が挙げられる。」と記載されていることもあり、本件発明1における「ブチラール樹脂」に相当する。

(カ) また、甲1発明1の「赤色」は、下記「7(1)ア(キ)」で述べるとおり、「有彩色」の一種であるから、本件発明1の「有彩色」に相当する。

(キ) また、有機顔料の量について、甲1発明1の有機顔料である『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」』が、インキ組成物の全重量に対して「10重量%」であるから、本件発明1の「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり」と、甲1発明1の『富士色素(株)製の「ファストレッド #2200」の量が、該インキ組成物の全重量に対して「10重量%」であり』とは、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり」という点で一致する。

(ク) また、造塩染料の量について、甲1発明1の造塩染料である『保土ケ谷化学(株)製の「スピロンイエローC-GNH」』(本件発明1の「アイゼンスピロンイエローC-GNH」に相当する。)が、インキ組成物の全重量に対して「1.5重量%」であるから、甲1発明1の造塩染料及び有機顔料の量が、合計で、インキ組成物の全重量に対して「11.5重量%(=10重量%+1.5重量%)」であるといえるから、本件発明1の「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」と、甲1発明1の『造塩染料及び有機顔料の量が、合計で、インキ組成物の全重量に対して「11.5重量%」である』とは、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して11.5重量%である」という点で一致する。

(ケ) したがって、両発明は、

「塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-GNHより選択され、
該有機顔料が、赤色の有機顔料より選択され、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して11.5重量%である、有彩色の油性インキ組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

「油性インキ組成物」の用途について、本件発明1が「ボールペン用」であるのに対して、甲1発明1が「スタンプ用」である点。

<相違点2>

「ブチラール樹脂」について、本件発明1が「顔料分散剤及び粘度調整剤としての」と特定しているのに対して、甲1発明1が「分散樹脂としての」と特定している点。

<相違点3>

「該造塩染料の量」について、本件発明1が「5?40重量%」であるのに対して、甲1発明1が「1.5重量%」である点。

(コ) 上記相違点1?3について、最初に、相違点1について検討する。

(サ) 本件発明1は、「ボールペン用」であって、当該「ボールペン用」に必要な性質は、上記「4(4)」で検討したとおり、「経時安定性」、「描線濃度」、及び「描線堅牢性」が挙げられている。

(シ) 一方、甲第1号証は、スタンプに関するものであって([1-イ])、ここで、「スタンプ」とは、インク混合液(油性インキ組成物)を吸蔵した単一のゴム弾性を有する多孔質印字体のことであり、甲第1号証には、専ら、スタンプ用のインキ組成物ついて記載されているのみであり、また、甲第1号証には、「スタンプ用」に必要な性質として、「インクの固形分の析出」、及び「顔料の凝集」を挙げている。

(ス) そして、甲第1号証には、油性インキ組成物をボールペン用のものとすることついては記載されていなく、また、甲第1号証に挙げられている性質は、スタンプ用のものであって、ボールペン用の性質を示唆するものではない。

(セ) なお、甲第1号証に記載されている課題は、「単一の印字体に複数の色の異なるインクを吸蔵することができて、印影の絵柄を豊かに表現でき、かつその絵柄の連続性が損なわれず、更に複雑な絵柄も可能になる斬新な多色スタンプの提供」することであって、本件発明1の課題〔上記「3(3)」〕とは軌を一にするものでない。

(ソ) また、甲第2号証?甲第9号証の記載を参照しても、技術常識を考慮しても、「ボールペン用」と「スタンプ用」とが用途として同等であるとはいえず、甲1発明1の油性スタンプ用インキ組成物が、ボールペン用の用途で用いられるものであることが、当業者にとって明らかであるともいえない。

(タ) してみると、本件発明1と甲1発明1とは、相違点1を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明1であるとはいえず、また、甲1発明1の油性インキ組成物をスタンプ用とする代わりにボールペン用とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明1は、相違点1の点において、甲1発明1から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(チ) 小括

したがって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえず、また、甲1発明1、及び甲第1号証?甲第9号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明2について

本件発明2と甲1発明2とを対比する。

(ア) 本件発明2と甲1発明2とは、本件発明2が、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいる一方、甲1発明2も、甲1発明1の「油性スタンプ用インキ組成物」を含んでいることから、上記「ア(ア)?(ケ)」で対比したとおり、両者は、「塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-GNHより選択され、
該有機顔料が、赤色の有機顔料より選択され、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して11.5重量%である、有彩色の油性インキ組成物」を有する点で一致する。

(イ) また、油性インキ組成物について、本件発明2の「充填している」と、甲1発明2の「吸蔵している」とは、両者とも油性インキ組成物を「有している」点で共通しているといえる。

(ウ) また、本件発明2の「油性ボールペン」と、甲1発明2の「油性スタンプ」とは、両者とも「事務用品」の一種である点で共通しているといえる。

(エ) さらに、ブチラール樹脂の量について、甲1発明2のブチラール樹脂である『ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)』が、インキ組成物の全重量に対して「3重量%」であるから、本件発明2の「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」と、甲1発明2の『ポリビニルブチラール樹脂(積水化学(株)製の「BL-1」)』が、インキ組成物の全重量に対して「3重量%」である』とは、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して3重量%である」という点で一致する。

(オ) したがって、両発明は、

「有彩色の油性インキ組成物を有している事務用品であって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-GNHより選択され、
該有機顔料が、赤色の有機顔料より選択され、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して11.5重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して3重量%である、
事務用品。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1’>

「油性インキ組成物」の用途について、本件発明2が「ボールペン用」であるのに対して、甲1発明2が「スタンプ用」である点。

<相違点3’>

「該造塩染料の量」について、本件発明1が「5?40重量%」であるのに対して、甲1発明1が「1.5重量%」である点。

<相違点4>

「事務用品」について、本件発明2が「油性ボールペン」であるのに対して、甲1発明2が「油性スタンプ」である点。

(カ) 上記相違点1’、3’、4について、最初に、相違点1’について検討する。

(キ) 上記のとおり、本件発明2と甲1発明2とは、相違点1’を有するものであるが、当該相違点1’は、上記「ア(ケ)」の相違点1と同一である。

(ク) してみると、上記「ア(コ)?(タ)」で検討したものと同様に、本件発明2と甲1発明2とは、相違点1’を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は甲1発明2であるとはいえず、また、甲1発明2の油性インキ組成物をスタンプ用とする代わりにボールペン用とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明2は、相違点1’の点において、甲1発明2から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(ケ) 小括

したがって、本件発明2は、甲1発明2であるとはいえず、また、甲1発明2、及び甲第1号証?甲第9号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求人の主張について

請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書の記載をみる限り、上記当審の判断〔「ア(チ)」、及び「イ(ケ)」〕について、請求人からは何らの反論もされていない。

6 無効理由2(2)(甲第2号証に基づく新規性の欠如)、及び無効理由3(2)(甲第2号証に基づく進歩性の欠如)について

(1) 対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と甲2発明1とを対比する。

(ア) 甲2発明1の『スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)』は、本件発明1の造塩染料として定義されている「アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群」に包含されているといえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲2発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料が、」「アイゼンスピロンバイオレットC-RH」「より選択され」る点で一致する。

(イ) また、甲2発明1の染料は、「スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)」のみであって、これは、上記で述べたとおり「塩基性染料と有機酸の造塩染料」であり、甲2発明1の油性ボールペン用インキ組成物は、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」ともいえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲2発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」という点で一致する。

(ウ) また、甲2発明1の「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)」が、本件発明1における「有機顔料」、及び、「青色の有機顔料」に相当するものであることは、当業者に自明である(上記[B-ア]参照。)から、本件発明1の「インキ組成物」と、甲2発明1の「インキ組成物」とは、「該有機顔料が、青色の有機顔料」「より選択され」る点で一致する。

(エ) また、甲2発明1の「顔料分散剤としてのハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)」が、ケトン樹脂であるから、本件発明1の「顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂」と甲2発明1の「顔料分散剤としてのハイラック#110(日立化成製、ケトン樹脂)」とは、「顔料分散剤としての樹脂」である点で一致している。

(オ) また、甲2発明1の「青色」は、下記「7(1)ア(キ)」で述べるとおり、「有彩色」の一種であるから、本件発明1の「有彩色」に相当する。

(カ) また、造塩染料の量について、甲2発明1の造塩染料である「スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)」が、インキ組成物の全重量に対して「10.0重量%」であるから、本件発明1の「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」と、甲2発明1の「スピロンバイオレットCRH(保土谷化学製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して10.0重量%であり」とは、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であ」るという点で一致する。

(キ) また、有機顔料の量について、甲2発明1の有機顔料である「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)」が、インキ組成物の全重量に対して「25.0重量%」であるから、本件発明1の「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、」と、甲2発明1の「シアニンブルーBNRS(東洋インク社製)の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.0重量%であり」とは、「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25重量%であ」るという点で一致する。

(ク) さらに、上記「(カ)」、及び、「(キ)」により、甲2発明1の該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して「35.0重量%(=10.0重量%+25.0重量%)」であるといえるから、本件発明1の「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」と、甲2発明1の『該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して「35.0重量%」である』とは、「該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して35重量%である」という点で一致する。

(ケ) したがって、両発明は、

「塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、顔料分散剤としての樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンバイオレットC-RHより選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して35重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>

「顔料分散剤としての樹脂」について、本件発明1が「ブチラール樹脂」であるのに対して、甲2発明1が「ケトン樹脂」である点。

(コ) 上記相違点5について検討する。

(サ) 甲第2号証において、上記「ブチラール樹脂」に着目してみると、油性ボールペン用インキ組成物に用いられる顔料分散剤としての樹脂として列挙されているものの一つに、「ポリビニルブチラール」が記載されており([2-オ])、ここで、「ポリビニルブチラール」は、上記「5(1)ア(オ)」でも触れているとおり、「ブチラール樹脂」であることは当業者に自明であるから、当該「ブチラール樹脂」は、甲第2号証において、油性ボールペン用インキ組成物に用いられる顔料分散剤としての樹脂として列挙されているものの一つであり、当該樹脂の中から選択し得るものといえ、また、油性ボールペン用インキ組成物に用いられる顔料分散剤としての樹脂として、「ブチラール樹脂」を用いた実施例4も開示されている([2-キ])。

(シ) しかしながら、甲第2号証において、甲2発明1に対応する実施例2と、上記実施例4とを比較対照すると、「筆記感」、「錆」、及び「カスレ長さ」の観点においては、両者とも同じであり、「ボール沈み量」の観点では、実施例4の数値が実施例2のものより大きくなっており、ここで、比較例の数値を参照すると、数字が大きいほど劣っていることが理解できるから、ブチラール樹脂を含む実施例4の方が、ケトン樹脂を含む実施例2より、性能が劣ることが看取できる。

(ス) これに対して、本件発明1は、上記「3(4)ア」で述べたとおり、ブチラール樹脂と有機顔料を含むことを前提として、塩基性染料と有機酸の造塩染料であって、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない染料においては、あくまで、本件明細書の「実施例」に記載された組成物についてのみであるが、「極めて経時安定性に優れた」という効果を確認することができるものである。

(セ) そして、甲第2号証においては、上記のとおりの開示にとどまり、甲2発明1のケトン樹脂の代わりに、わざわざ性能が劣ることが予想されるブチラール樹脂を用いようとすることは、当業者であれば想起することは無いものと認められ、また、甲第3号証?甲第8号証を参照しても、甲2発明1のケトン樹脂の代わりにブチラール樹脂を用いることを示唆するものはない。なお、甲第5号証においては、ケトン樹脂とブチラール樹脂を併用すると、顔料の分散安定性や経時安定性を向上させる旨、記載されているが、これは、顔料として、無機顔料である「カーボンブラック」を用いた場合のものであって、本件発明1の有機顔料を意図するものではない。

(ソ) してみると、本件発明1と甲2発明1とは、相違点5を有するから、本件発明1は甲2発明1であるとはいえず、また、甲2発明1の油性ボールペン用インキ組成物に含まれる顔料分散剤としての樹脂としてケトン樹脂の代わりにブチラール樹脂とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明1は、相違点5の点において、甲2発明1から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(タ) 小括

したがって、本件発明1は、甲2発明1であるとはいえず、また、本件発明1は、甲2発明1、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明2について

本件発明2と甲2発明2とを対比する。

(ア) 本件発明2と甲2発明2とは、本件発明2が、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいる一方、甲2発明2も、甲2発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいることから、上記「ア(ア)?(カ)」で対比したものと同様に、両者は、「塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンバイオレットC-RHより選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して35重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物」を有する点で一致する。

(イ) したがって、両発明は、

「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンバイオレットC-RHより選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して10重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25重量%であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して35重量%である、
油性ボールペン。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5’>

「樹脂」の種類について、本件発明2が「ブチラール樹脂」であるのに対して、甲2発明2が「ケトン樹脂」である点。

<相違点6>

本件発明2が「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」と特定しているのに対して、甲2発明2が斯かる点を特定していない点。

(ウ) 上記相違点5’6について、最初に、相違点5’について検討する。

(エ) 上記のとおり、本件発明2と甲2発明2とは、相違点5’を有するものであるが、相違点5’は、上記「ア(ケ)」の相違点5と同一である。

(オ) してみると、上記「ア(コ)?(ソ)」で検討したものと同様に、本件発明2と甲2発明2とは、相違点5’を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は甲2発明2であるとはいえず、また、甲2発明2の油性ボールペン用インキ組成物に含まれる顔料分散剤としての樹脂としてケトン樹脂の代わりにブチラール樹脂とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明2は、相違点5’の点において、甲2発明2から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(カ) 小括

したがって、本件発明2は、甲2発明2であるとはいえず、また、甲2発明2、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求人の主張について

請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書の記載をみる限り、上記当審の判断〔「ア(タ)」、及び「イ(カ)」〕について、請求人からは何らの反論もされていない。

7 無効理由2(3)(甲第3号証に基づく新規性の欠如)、及び無効理由3(3)(甲第3号証に基づく進歩性の欠如)について

(1) 対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と甲3発明1とを対比する。

(ア) 甲3発明1の「染料:スピロンバイオレット C-RH」、及び、「染料:スピロンイエロー C-2GH」は、それぞれ、本件発明1の造塩染料として定義されている「アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群」に包含されているといえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲3発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、」「」アイゼンスピロンバイオレットC-RH」「の組合せ」「より選択され」る点で一致する。

(イ) また、甲3発明1の染料は、「染料:スピロンバイオレット C-RH」、及び、「染料:スピロンイエロー C-2GH」のみであって、これらは、上記で述べたとおり「塩基性染料と有機酸の造塩染料」であり、甲3発明1の油性ボールペン用インキ組成物は、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」ともいえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲3発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」という点で一致する。

(ウ) また、本件発明1の「有機顔料」と、甲3発明1の「無機顔料:カーボンブラック」とは、「顔料」である点で一致する。

(エ) また、甲3発明1の「樹脂:アセトフェノン樹脂(ハロン 110H)、粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)、及び、樹脂:ポリビニルピロリドン (PVPK90)、」における「樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)」については、本件明細書の【0028】(上記「3(2)キ」)によれば、「ブチラール樹脂としては、・・・(中略)・・・積水化学工業(株)製の エスレック B、 BH-3、 BL-1、・・・(中略)・・・等が挙げられる。」と記載されていることもあり、本件発明1における「ブチラール樹脂」に相当することは、当業者に自明である。

(オ) また、造塩染料の量について、甲3発明1の造塩染料である「染料:スピロンバイオレット C-RH」、及び、「染料:スピロンイエロー C-2GH」が、インキ組成物の全重量に対して、それぞれ、「15重量%」、及び、「6重量%」であり、合計で、「21重量%」であることがわかるから、本件発明1の「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」と、甲3発明1の「染料:スピロンバイオレット C-RHの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、染料:スピロンイエロー C-2GH(6重量%)の量が、該インキ組成物の全重量に対して6重量%であり」とは、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して21重量%であ」るという点で一致する。

(カ) さらに、顔料の量について、甲3発明1の顔料である「無機顔料:カーボンブラック」が、インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、上記「(オ)」より、甲3発明1の造塩染料の量が21重量%であるから、甲3発明1の油性ボールペン用インキ組成物は、無機顔料:カーボンブラックの量が、インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、該造塩染料及び該顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して36重量%(=15重量%+21重量%)であるともいえる。

(キ) したがって、両発明は、

「塩基性染料と有機酸の造塩染料、顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して21重量%である、油性ボールペン用インキ組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7>

本件発明1が「有機顔料」を含み、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され」る「有彩色」の油性ボールペン用インキ組成物であるのに対して、甲3発明1が「無機顔料:カーボンブラック」を含む「黒色」の油性ボールペン用インキ組成物である点。

<相違点8>

「顔料」に関して、本件発明1が「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」のに対して、甲3発明1が「無機顔料:カーボンブラックの量が、該インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
該造塩染料及び該顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して36重量%である」点。

<相違点9>

「ブチラール樹脂」について、本件発明1が「顔料分散剤及び粘度調整剤としての」と特定しているのに対して、甲3発明1が「粘度を調製するための」と特定している点。

(ク) 上記相違点7?9について、最初に、相違点7について検討する。

(ケ) 本件発明1の「有彩色」については、本件明細書の【0009】(上記「3(2)エ」)によれば、「上記本発明において、有彩色とは黒色や白色等の無彩色系を除いた任意の色を意味する。」と記載されているから、「黒色や白色等の無彩色系を除いた任意の色」のことであり、その任意の色の具体的なものとしては、同じく【0012】、【0016】、【0020】、【0023】(上記「3(2)カ」)によれば、例えば、「青色」、「赤色」、「黄色」、「緑色」であることがわかる。また、上記記載に付随して、「黒色」が「無彩色」の一つであることもわかる。

(コ) 一方、甲3発明1の油性ボールペン用インキ組成物は、染料として、スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH、顔料として、カーボンブラックという無機顔料を使用しており、ここで、上記染料については、被請求人が平成29年5月26日付けで提出した上申書第10頁において、『「スピロンバイオレットC-RH」(紫色)及び「スピロンイエローC-2GH」(黄色)は互いに補色関係にあり、混合されることによって黒色を示すものである』旨記載されており(請求人が平成29年7月19日付けで提出した弁駁書第10頁によれば、この点については、請求人も争っていない。)、また、「カーボンブラック」が「黒色」(無彩色)の無機顔料であることは、当業者に自明である(上記[B-ア]参照。)。
してみると、甲3発明1は、「黒色」の組合せである「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH」の造塩染料と、「黒色」の無機顔料を含むものであって、ここで、着色剤が「黒色」の染料と「黒色」の顔料という「黒色」2種であることから、当該2種の着色剤によって、油性ボールペン用インキ組成物の「黒色」が強調されたとみるのが自然であり、「黒色」の造塩染料と「黒色」の無機顔料の併用という「黒色(無彩色)」を強調した油性ボールペン用インキ組成物であると認められところ、「黒色」の組合せである「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH」の造塩染料を含む甲3発明1の黒色(無彩色)の油性ボールペン用インキ組成物、及び甲第3号証に接した当業者であれば、せいぜい、黒色の無機顔料を、黒色の「有機顔料」に置き換えること想起する程度であって、黒色の無機顔料を、「青色」の有機顔料、「赤色」の有機顔料、「黄色」の有機顔料、「緑色」の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される有機顔料に置き換えて、黒色の強調を弱めようとする動機付けは、甲第3号証には、存在しない。
なお、甲第3号証の、ブチラール樹脂を含有した同系統の実施例である実施例6?8(上記[3-サ]、[3-シ]参照。)の記載を参酌しても、着色剤として顔料のみ使用した油性ボールペン用インキ組成物が読み取れるだけであって、本件発明1のような着色剤として顔料と「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GHの造塩染料」を併用した油性ボールペン用インキ組成物を対象とするものではないことから、これを考慮にすることはできない〔参考文献Aのブチラール樹脂を含有した同系統の実施例である実施例1?3(上記[A-オ]参照。)においても同様である。〕。
また、甲第2号証、及び甲第4号証?甲第8号証を参照しても、「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH」の造塩染料を含む甲3発明1の黒色の無機顔料を、「青色」の有機顔料、「赤色」の有機顔料、「黄色」の有機顔料、「緑色」の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される有機顔料に置き換えることを示唆するものはない。

(サ) なお、請求人が平成29年7月19日付けで提出した弁駁書に添付された甲第22号証においては、「ブルーブラック」、「グリーンブラック」、「ブラウンブラック」、「ボルドーブラック」、及び、「ラベンダーブラック」という5色のボールペンが記載されているに過ぎず、どのような着色剤(顔料単独、染料単独、または、顔料と染料の組合せが想定される。)によるものか不明であることから、参酌することはできない。
そして、請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書の記載をみる限り、上記不明である点について、請求人からは何らの釈明もされていない。
同じく添付された甲第23号証(特開2001-271018号公報)においては、本件特許に係る出願の優先日後に頒布された刊行物であることから、これも参酌することはできない。

(シ) してみると、本件発明1と甲3発明1とは、相違点7を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明1であるとはいえず、また、「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH」の造塩染料を含む甲3発明1の黒色(無彩色)の油性ボールペン用インキ組成物として、「黒色」(無彩色)の「無機顔料:カーボンブラック」の代わりに、「青色」の有機顔料、「赤色」の有機顔料、「黄色」の有機顔料、「緑色」の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される有機顔料とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明1は、相違点7の点において、甲3発明1から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(ス) 小括

したがって、本件発明1は、甲3発明1であるとはいえず、また、本件発明1は、甲3発明1、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明2について

本件発明2と甲3発明2とを対比する。

(ア) 本件発明2と甲3発明2とは、本件発明2が、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいる一方、甲3発明2も、甲3発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいることから、上記「ア(ア)?(キ)」で対比したとおり、両者は、「塩基性染料と有機酸の造塩染料、顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して21重量%である、油性ボールペン用インキ組成物」を有する点で一致する。

(イ) また、ブチラール樹脂の量について、甲3発明2のブチラール樹脂である「粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)」が、インキ組成物の全重量に対して「2重量%」であるから、本件発明2の「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」と、甲3発明2の「粘度を調製するための樹脂:ポリビニルブチラール(エスレック B BL-1)の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%であり」とは、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%である」という点で一致する。

(ウ) したがって、両発明は、

「油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して21重量%であり、
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%である、
油性ボールペン。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点7’>

本件発明2が「有機顔料」を含み、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される」「有彩色」の油性ボールペン用インキ組成物であるのに対して、甲3発明2が「無機顔料:カーボンブラック」を含む「黒色」の油性ボールペン用インキ組成物である点。

<相違点8’>

「顔料」に関して、本件発明2が「該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である」のに対して、甲3発明2が「無機顔料:カーボンブラックの量が、インキ組成物の全重量に対して15重量%であり、
該造塩染料及び該顔料の量が、合計で、インキ組成物の全重量に対して36重量%である」点。

(エ) 以下、上記相違点7’、8’について、最初に、相違点7’について検討する。

(オ) 上記のとおり、本件発明2と甲3発明2とは、相違点7’を有するものであるが、相違点7’は、上記「ア(キ)」の相違点7と同一である。

(カ) してみると、上記「ア(ク)?(シ)」で検討したものと同様に、本件発明2と甲3発明2とは、相違点7’を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は甲3発明2であるとはいえず、また、「スピロンバイオレット C-RH、及び、スピロンイエロー C-2GH」の造塩染料を含む甲3発明2の黒色(無彩色)の油性ボールペン用インキ組成物として、「黒色」(無彩色)の「無機顔料:カーボンブラック」の代わりに、「青色」の有機顔料、「赤色」の有機顔料、「黄色」の有機顔料、「緑色」の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択される有機顔料とすることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明2は、相違点7’の点において、甲3発明2から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(キ) 小括

したがって、本件発明2は、甲3発明2であるとはいえず、また、本件発明2は、甲3発明2、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求人の主張について

請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書第9?10頁によれば、『甲第3号証の・・・(中略)・・・段落【0013】において「顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、金属粉などの無機系顔料、あるいはアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などの有機系顔料が挙げられる。これらの着色剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上混合して用いても良く、また、染料と顔料を併用しても良い」と記載されていることからも明らかなとおり、カーボンブラックとキレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料のような赤色や青色の有機顔料とは並列に記載されており、かつそれぞれ単独で使用しても2種以上混合しても良いことが記載されております。』と述べている。
しかしながら、これらの顔料は、単に並記されているだけであり、黒色(無彩色)や他の色彩(有彩色)を前提とするものでないことから、上記記載からは、黒色(無彩色)や他の色彩(有彩色)を前提することなく、互いに置き換え可能であるとまでは把握することができない。
また、請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書の記載をみる限り、上記のとおり、甲第3号証における並記の点を述べるに留まり、平成29年11月22日付け審決の予告(第2回目)における当審判断の「黒色の強調を弱めようとする動機付けは、甲第3号証には、存在しない」に対する具体的な反論がなされていない。

8 無効理由2(4)(甲第4号証に基づく新規性の欠如)、及び無効理由3(4)(甲第4号証に基づく進歩性の欠如)について

(1) 対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と甲4発明1とを対比する。

(ア) 甲4発明1の「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕」、及び、「黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕」は、それぞれ、本件発明1の造塩染料として定義されている「アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群」に包含されているといえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲4発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、」「アイゼンスピロンレッドC-GH」「の組合せ」「より選択され」る点で一致する。

(イ) また、甲4発明1の染料は、「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕」、及び、「黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕」のみであって、これらは、上記で述べたとおり「塩基性染料と有機酸の造塩染料」であり、甲4発明1の油性ボールペン用インキ組成物は、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」ともいえるから、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」と、甲4発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」とは、「該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず」という点で一致する。

(ウ) また、甲4発明1の「(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕」は、本件明細書の【0028】(上記「3(2)キ」)によれば、「ブチラール樹脂としては、・・・(中略)・・・、積水化学工業(株)製の エスレック B、 BH-3、 BL-1、 BL-2、 BL-L、 BL-S、 BM-1、 BM-2、 BM-5、 BM-S、 BX-L、 ・・・(中略)・・・等が挙げられる。」と記載されていることもあり、本件発明1における「ブチラール樹脂」に相当する。

(エ) また、甲4発明1は、油性ボールペン用インキ組成物の着色剤として、『赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕』、及び、『黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕』を用いており、ここで、当該「赤色」、及び、「黄色」は、上記「7(1)ア(カ)」で述べたとおり、「有彩色」の一種であるから、本件発明1の「有彩色」に相当する。

(オ) さらに、造塩染料の量について、甲4発明1の造塩染料である『赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕』、及び、『黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕』が、インキ組成物の全重量に対して、それぞれ、「20.4重量%」、及び、「5.1重量%」であり、合計で、「25.5重量%」であることがわかるから、本件発明1の「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり」と、甲4発明1の「赤色ソルベント染料である(4)スピロンレッドCGH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド1の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して20.4重量%であり、黄色ソルベント染料である(5)スピロンイエローC2GH〔保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックイエロー2の染料の有機酸塩〕の量が、該インキ組成物の全重量に対して5.1重量%であり」とは、「該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.5重量%であ」るという点で一致する。

(カ) したがって、両発明は、

「塩基性染料と有機酸の造塩染料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンレッドC-GHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.5重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10>

「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物」について、本件発明1が「有機顔料」を含んでおり、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され」るのに対して、甲4発明1が「有機顔料」そのものを含んでいない点。

<相違点11>

「ブチラール樹脂」について、本件発明1が「顔料分散剤及び粘度調整剤としての」と特定しているのに対して、甲4発明1が「増粘剤としての」と特定している点。

(キ) 上記相違点10、11について、最初に、相違点10について検討する。

(ク) 甲第4号証において、上記「有機顔料」に着目してみると、油性ボールペン用インキ組成物に用いられる着色剤として列挙されているものの一つに、「有機顔料」が記載されており([4-オ])、着色剤の中から選択し得るものといえる。

(ケ) しかしながら、甲第4号証の実施例の記載をみても、着色剤として、甲4発明1に対応する実施例2は、塩基性染料と有機酸の造塩染料のみであり、また、実施例3は、無機顔料であるカーボンブラックのみであり、塩基性染料と有機酸の造塩染料と有機顔料を併用することの開示、または示唆は見当たらない。

(コ) これに対して、本件発明1は、上記「3(4)ア」で述べたとおり、ブチラール樹脂と有機顔料を含むことを前提として、塩基性染料と有機酸の造塩染料であって、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まない染料においては、あくまで、本件明細書の「実施例」に記載された組成物についてのみであるが、「極めて経時安定性に優れた」という効果を確認することができるものである。そして、甲第4号証の実施例・比較例の評価の観点は、試験項目として「インキの垂れの度合い」、「筆跡濃度」、「インキ吐出量」、「筆記性能」に関するもののみであって、「経時安定性」に関するものはない。

(サ) そして、甲第4号証においては、上記のとおりの開示にとどまり、甲4発明1の油性ボールペン用インキ組成物において、有機顔料を含ませようとすることは、当業者であれば想起することは無いものと認められ、また、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第8号証を参照しても、甲4発明1のボールペン用インキ組成物において、有機顔料を含ませることを示唆するものはない。

(シ) してみると、本件発明1と甲4発明1とは、相違点10を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明1であるとはいえず、また、甲4発明1の有彩色の油性ボールペン用インキ組成物に有機顔料を含ませることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明1は、相違点10の点において、甲4発明1から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(ス) 小括

したがって、本件発明1は、甲4発明1であるとはいえず、また、甲4発明1、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

イ 本件発明2について

本件発明2と甲4発明2とを対比する。

(ア) 本件発明2と甲4発明2とは、本件発明2が、本件発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいる一方、甲4発明2も、甲4発明1の「油性ボールペン用インキ組成物」を含んでいることから、上記「ア(ア)?(カ)」で対比したとおり、両者は、「塩基性染料と有機酸の造塩染料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンレッドC-GHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.5重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物」を有する点で一致する。

(イ) ブチラール樹脂の量について、甲4発明2のブチラール樹脂である「(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕」が、インキ組成物の全重量に対して「2.0重量%」であるから、本件発明2の「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である」と、甲4発明2の『「(6)ポリビニルブチラール〔積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM-1〕」が、インキ組成物の全重量に対して「2.0重量%」である』とは、「該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%である」という点で一致する。

(ウ) したがって、両発明は、

「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填している油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンレッドC-GHの組合せより選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して25.5重量%であり、
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2重量%である、
油性ボールペン。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10’>

「有彩色の油性ボールペン用インキ組成物」について、本件発明2が「有機顔料」を含んでおり、「該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され」るのに対して、甲4発明2が「有機顔料」そのものを含んでいない点。

(エ) 以下、上記相違点10’について検討する。

(オ) 上記のとおり、本件発明2と甲4発明2とは、相違点10’を有するものであるが、相違点10’は、上記「ア(オ)」の相違点10と同一である。

(カ) してみると、上記「ア(カ)?(サ)」で検討したものと同様に、本件発明2と甲4発明2とは、相違点10’を有するから、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明2は甲4発明2であるとはいえず、また、甲4発明2の有彩色の油性ボールペン用インキ組成物に有機顔料を含ませることを、当業者が容易に着想することができたとは認められず、本件発明2は、相違点10’の点において、甲4発明2から、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

(キ) 小括

したがって、本件発明2は、甲4発明2であるとはいえず、また、甲4発明2、及び甲第2号証?甲第8号証の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 請求人の主張について

請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書の記載をみる限り、上記当審の判断〔「ア(ス)」、及び「イ(キ)」〕について、請求人からは何らの反論もされていない。

9 請求人におけるその他の主張について

請求人が提出した平成30年3月2日付け弁駁書第8?9頁によれば、明確性要件、及び、実施可能要件について、『「顔料分散剤(粘度調整剤)として機能する量」並びに「顔料分散剤(粘度調整剤)として機能しない量」に関する基準ないし定義に関する記載は本件明細書に全く開示されておりません』と述べ、本件訂正に伴う新たな無効理由を主張しているが、当該「機能」なる主張については、特許請求の範囲の記載に基づくものでも、本件明細書の記載に基づくものでもないことから、採用することができない。

第8 むすび

以上のとおり、本件発明1についての特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

また、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件発明2についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その2分の1を請求人が負担し、2分の1を被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
油性インキ組成物とそれを用いた油性ボールペン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、顔料分散剤及び粘度調整剤としてのブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%である、有彩色の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
有彩色の油性ボールペン用インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペンであって、
該油性ボールペン用インキ組成物が、塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含み、該造塩染料以外のアルコール可溶型染料は含まず、
該造塩染料が、アイゼンスピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該有機顔料が、青色の有機顔料、赤色の有機顔料、黄色の有機顔料、緑色の有機顔料、及びそれらの組合せからなる群より選択され、
該造塩染料の量が、該インキ組成物の全重量に対して5?40重量%であり、
該有機顔料の量が、該インキ組成物の全重量に対して30重量%以下であり、
該造塩染料及び該有機顔料の量が、合計で、該インキ組成物の全重量に対して5?60重量%であり、かつ
該ブチラール樹脂の量が、該インキ組成物の全重量に対して2?3重量%である、
油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、有彩色の油性インキ組成物、特に色材として染料と有機顔料を併用した経時安定性に優れた油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
顔料分散剤及び/または粘度調整剤として、ブチラール樹脂を使用した油性ボールペンインキとしては、特公昭57-43185、特開平6-192612、特開平6-248217、特開平6-313144、特開平6-313145、特開平7-70504、特開平8-41407、特開平8-41408、特開平8-120206、特開平8-134393、特開平9-78021、特開平10-60356が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらの例では多くの場合、色材として染料のみ或いは顔料のみを用いた場合を例示しているだけである。また、本文中には染料と顔料が併用可能であると表記されてはいるものの染料と有機顔料を組み合わせた際の問題点について言及しているものはない。そのため、染料と有機顔料の併用系においてもどの様な構造のアルコール可溶型染料も使用できうるかのように受け取れるが、ブチラール樹脂を少なくとも含有した有彩色の油性インキ組成物で染料と有機顔料を併用した場合は経時安定性に欠けるといった問題がある。
【0004】
ここで、色材に染料と有機顔料を併用する利点としては、以下に示すようなそれぞれ単独では克服し難い問題点を互いの長所を生かすことにより容易に解消出来る点にある。例えば、染料のみでは多くの場合、紙面に筆記した描線がアルコール系溶剤(耐アルコール性)や酸化還元剤(耐薬品性)によって溶出または消色して失われたり、太陽光下に暴露した場合(耐光性)に短時間で退消色するなど描線堅牢性がやや劣る。また、良好な描線堅牢性、特に良好な耐光性を得るために染料骨格内に重金属であるクロムを含んだ含金属染料を多量に使用しなければならなく、微量ではあるが焼却処分等によりクロムが環境下に出てしまう等の環境問題が考えられる。
【0005】
逆に、有機顔料のみでは実用上十分な描線濃度を得るための量をインク中に含有させた場合には、経時安定性が劣り非常に短期間に筆記不能になってしまったり、高濃度の有機顔料分散体を工業的に作ることは実際上困難であったり、コスト的に、また、経時安定性を優先した場合には、充分な量の顔料がインク中に含まれないために筆記描線が薄く実用に耐えない場合が多く、特に黒や青等の寒色・無彩色系で顕著である。
【0006】
また、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合の利点としては、顔料の分散性及び安定性の向上と筆感が良くなるといった事柄があげられる。特に有機顔料の分散性及び安定性の向上と言った面では効果が顕著であり、その他の樹脂分散や界面活性剤による分散では充分な分散性が得られなかったり、初期的には分散しても経時的な安定性に欠けたり、ボールペンインクとして必要な潤滑剤、防錆剤、粘弾性付与剤などを添加した場合に系が壊れたりする場合が多いのに対してこれら全てを満足する分散体が得られる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、染料と有機顔料の併用系において、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を使用した場合においても極めて経時安定性に優れた有彩色の油性ボールペンインク組成物と油性ボールペンを提供することを課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、着色剤として用いる染料がある特定の構造を持った場合に上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
即ち、本発明は
(1)塩基性染料と有機酸の造塩染料、有機顔料、ブチラール樹脂を少なくとも含む有彩色の油性インキ組成物。
(2)請求項1記載の有彩色の油性インキ組成物を充填していることを特徴とする油性ボールペンである。
【0009】
上記本発明において、有彩色とは黒色や白色等の無彩色系を除いた任意の色を意味する。また、色材として塩基性染料と有機酸の造塩染料に有機顔料を併用し、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を含有した場合には、他のアルコール可溶型染料を使用した場合とは異なり、何故優れた経時安定性が得られるのかは定かではない。しかしながら、ブチラール樹脂はブチルアルデヒドとPVAの縮合物であるため分子鎖内にPVAのOH基を含有しており、この部分がアルコール可溶型染料の酸性成分と何らかの反応を起こすのではないかと推測される。本発明の塩基性染料と有機酸の造塩染料のように分子の比較的小さい有機酸を酸性成分に持つ場合には、反応が進んでもブチラール樹脂の溶解性に対する影響が少ないのに対し、他のアルコール可溶型染料のように分子鎖の大きな酸性染料を酸性成分に持つ場合には、ブチラール樹脂の溶解性が低下するなどの悪影響を与えるのではないかと考えられる。その結果、塩基性染料と有機酸の造塩染料を使用した場合には、他のアルコール可溶型染料を用いた場合とは異なりインク中に顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂が存在しても良好な経時安定性が得られるものである。従って、本発明の油性インキ組成物には、経時安定性が悪化するアルコール可溶型染料は、配合しないことが望ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において使用する染料は塩基性染料と有機酸の造塩染料である。
その例としては;スピロンイエローC-2GH、アイゼンスピロンイエローC-GNH、アイゼンスピロンレッドC-GH、アイゼンスピロンレッドC-BH、アイゼンスピロンバイオレットC-RH、アイゼンスピロンブルーC-RH、アイゼンS.B.N.ブルー701、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1110などが挙げられる。これらの染料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。これらの塩基性染料と有機酸の造塩染料はインキ組成物の全重量に対し5?40重量%の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明のインク組成物に使用される有機顔料としては、種々の顔料が使用可能であり、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクドリン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、縮合アゾ顔料、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロート、アンスラキノン等の有機系顔料が挙げられる。
【0012】
更に具体的に説明すると、青色の着色剤としての有機顔料としては、種々な青顔料が使用可能であり、例えばC.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、28、29、36、C.I.Pigment Blue 60等が挙げられ、かかる顔料の製造段階で界面活性剤などにより表面処理されたものであっても良い。特に青顔料の具体例としては、Clariant社製のGraphtol Blue 2GLS、Sandorin Blue RL、Sandorin Blue 91052、ICI社製のLutetiacyanine CSN、Mobay社製のPalomar Blue B4806、Palomar Blue B4707、Worlee社製のEndurophtal Blue BT-788D、Cappelle社製のPhtalocyanine Blue RS1517C、
【0013】
BASF社製のHeliogen Blue L6920、Heliogen Blue L6875F、Heliogen BlueL6901F、Heliogen Blue 6905F、Heliogen Blue L6975F、Heliogen Blue 6989F、Heliogen Blue L7072D、Heliogen Blue L7080、Heliogen Blue L7101F、Heliogen Blue L6700F、Zeneca社製のMonastral Blue FBN、Monastral Blue CSN、Monastral Blue FNX、Mondite Blue RL、Francolor社製のCatulia Cyanie L.PS、Woo Sung社製のCyanie Blue A-1700、Cyanie Blue B-7000、Cyanie Blue B-7800、Cyanie Blue B-8000、
【0014】
Sun社製のSunfast Blue 249-1282、Francolor社製のCatulia Cyaninel.JS、Hoechst社製のHostaperm Blue BLF、Renol Bue A2RE、Ciba Geigy社製のIrgalite Blue GLNF、Irgalite Blue GLVD、Irgalite Blue ATC、Shepherd社製のSovereign Blue385、Holland Blue212、Kingfisher Blue211、OIympic Blue190、Luh社製のUltramarine Blue、Dai Color Italy社製のBlue EP37、Chromofine Blue4920、Worlee社製のEndurophtal Blue BT-729D、Heubach社製のHeucosine Blue G1737、Heucosine Blue HS-5000、Lackecht Blue G1737、
【0015】
Kenalake社製のKenalake LFBRX、Ciba Specialty Chemicals社製のCROMOPHTAL Blue A3R、MICROLITH Blue 4G-WA、Ciba-Geigy社製のMICROLITH Blue 4G-A、大日精化工業(株)製のChromofine Blue 4930、Chromofine Blue 5188、Chromofine Blue SR5020、大日本インキ化学工業(株)製のFastogen Blue 5030L、Fastogen Blue 5420SD、Fastogen Blue 5502、Fastogen Blue TGR-F、Fastogen Blue EP-7、山陽色素(株)製のCyanine Blue G-134、Cyanine Blue SAS、Cyanine Blue KRS、Cyanine Blue 4033等の顔料がある。
【0016】
赤色の着色剤としての有機顔料としては、種々な赤顔料が使用可能であり、例えばC.I.Pigment Red 17,144,166,170,177,202,214,220,254等が挙げられ、かかる顔料の製造段階で界面活性剤等により表面処理されたものであっても良い。市販されている具体的な商品名としては、Ciba Specialty Chemicals社製のChromophtal DPP RED BO、Chromophtal DPP RED BP、Chromophtal DPP RED DPP、Irgazin DPP Red BO、Irgazin DPP Red BTR、Chromophtal RED A 2B、Chromophtal RED A 3B、Chromophtal Scarlet R、Chromophtal Scarlet RN、Chromophtal Scarlet BR、Chromophtal Red BRN、Cinquasia Magenta TR 235-6、
【0017】
大日精化工業(株)製のDainichi Fast Poppy Red G、Dainichi Fast Poppy Red R、Bayer社製のBayerrox Red 110M、Bayerrox Red 120MN、Bayerrox Red 130M、Cappelle社製のToluidine Red G0335C、Toluidine Red RNO333C、Bonitol Red BM、Bonitol Red 4844C、Lysopac Red 4841C、Cappoxyt Red 4435B、Cappoxyt Red 4437B、Mineral Orange Thiosol GL、Mineral Orange Thiosol G、Mineral Orange Solipur GH、Mineral Red Solipur 3BH、Lysopac Red 7030C、Hercos社製のCopperas Red R9998、
【0018】
BASF社製のSicored L3750、Lithol Scharlach L4301、Litholechtmaroon L4763、Sicoflush-P-Maroon 4763、Paliogen Redviolet L5080、Sicotrans Red L2817、Sicomin Red L3025、Sicomin Red L3230s、Sico Fast Scarlet L4252、Heubach社製のHeucotron Red 230、Paliogen Red 3880HD、Paliogen L3920、Paliogen Red L4210、Ciba-Geigy社製のHorna Molybdator.MLN-74-SQ、Horna Molybdateor.MLH-740-Q、Irgalite Red 3RS、
【0019】
Woo Sung社製のToluidine Red L、Toluidine Red K、Bon Red SR、Bon Red 3M、Bon Red MP、Fast Bordeaux C、Lake Red C-500、Lake Red C-900、Fast Red FGR、Chromophtal Red A2B、Chropmohtal Red A3B、Hoechst社製のNovoperm Red Violet MRSnew、Permanent Bordeaux FGR、Permanent Red FGR70、Hostaperm Rosa E、Novoperm Reel F3RK70、Miles社製のQuindo Magenta RV6832、Bayer Mobay社製のPerrindo Maroon R6422、Sandoz社製のGraphtol IRed 5BLS等の顔料がある。
【0020】
黄色の着色剤としての有機顔料としては、種々の黄色顔料が使用可能であり、例えば、C.I.Pigment Yellow 1,3,12,13,14,16,17,55,81,83,74,93,94,95,97,109,110,120,128,138,147,154,155,167,185,191等が挙げられ、かかる顔料の製造段階において界面活性剤などで表面処理されたものであってもよい。具体例としては、BASF社製のPaliotol Yellow 2140HD,Sicopal Yellow L1110,Sicotan Yellow L1912、Sicomin Yellow L1622、Sicomin Yellow L1630S、Sicomin Yellow L1635S、Sicotrans Yellow L1916、Sico Yellow 1252HD、Paliogen Yellow L1482、Paliogen Yellow L1560、Paliotol Yellow D1155、Paliotol Yellow L0960HD、
【0021】
Ciba-Geigy社製のHorna Chrome Yellow GMX AX-15、Horna Chrome Yellow GMXAH-35、Horna Chrome Yellow GU-15-SQ、Irgazin Yellow GO、Irgazin Yellow 2RLT、Irgazin Yellow 3RLTN、Irgazin Yellow 5GLT、Irgazin Yellow 2GLTE、Bayer社製のBayferrox 915、Bayferrox 920、Bayferrox 3420、Bayferrox 3910、Bayferrox 3920、Hoechst社製のNovoperm Yellow H2G、Hostaperm Yellow H4G、Hostaperm Yellow H3G、Hostaperm Yellow H6G、Novoperm Yellow F2G、Novoperm Yellow HR70、山陽色素(株)製のPigment Yellow 1717、Pigment Yellow 1450、Pigment Yellow 1710、Pigment Yellow 1711、Pigment Yellow 1707、Pigment Yellow 8104、Pigment Yellow 1425、Light Fast Pigment Yellow R、
【0022】
大日精化(株)製のSEIKA FAST YELLOW 10GH、SEIKA FAST YELLOW A-3、SEIKA FAST YELLOW 2035、SEIKA FAST YELLOW 2054、SEIKA FAST YELLOW 2300、SEIKA FAST YELLOW 2200、SEIKA FAST YELLOW 2270、SEIKA FAST YELLOW 2400(B)、SEIKA FAST YELLOW 2500、SEIKA FAST YELLOW 2600、SEIKA FAST YELLOW ZAY-260、SEIKA FAST YELLOW 2700(B)、SEIKA FAST YELLOW 2770、クラリアント社製のSandrin Yellow 4G、PV Fast Yellow HGR、Novoperm Yellow FGL、Novoperm Yellow H10G01、HANSA Yellow 10G、PV Fast Yellow H2G-01、Permanent Yellow NCG等の顔料がある。
【0023】
緑色の着色剤としての有機顔料としては、種々な緑色顔料が使用可能であり、例えばC.I.Pigment Green 7,17,36,50,70等が挙げられ、かかる顔料の製造段階に界面活性剤などで表面処理されたものであってもよい。具体例としては、大日本インク社製のChromofine Cyanine Green 2GN、Chromofine Cyanine Green 5301、Chromofine Cyanine Green 2GN、Dainichi Cyanine Green 537、Dainichi Cyanine Green FG、Dainichi Cyanine Green FGH、Chromofine Green 5370、大日精化社製のFastogen Green 5005、Fastogen Green 5710、Fastogen Green B、Fastogen Green S、Fastogen Green SF、Fastogen Green SO、Fastogen Green 2YK、
【0024】
BASF社製のHeliogen Green 8680、Heliogen Green 8681K、Heliogen Green 8682T、Heliogen Green 8730、Heliogen Green 8730K、Heliogen Green A、Heliogen Green GNA、Heliogen Green G、Heliogen Green GA、Heliogen Green GN、Heliogen Green GTA、Heliogen Green GV、Heliogen Green GWS、Heliogen Green K 8730、Heliogen Green L 8730、Fastogen Green MY、Fastogen Green YCN、Helio Fast Green GT、Heliogen Green 6G、Heliogen Green 6GA、Heliogen Green 8GA、Heliogen Green 9360、Heliogen Green K9360、Heliogen Green L 9140、Heliogen Green L 9361、
【0025】
Ciba Specialty Chemicals社製のIragalite Fast Brilliant Green 3GL、Iragalite Fast Brilliant Green GL、Iragalite Green GLN、Iragalite Green 6G、東洋インキ社製のLiofast Green B237、Lionol Green B 201、Lionol Green Y 102、Lionol Green YS 07、Lionol Green 2Y301、Lionol Green 2YS、Lionol Green 6YK、Lionol Green 6YKPCN、Polymon Developments Ltd.社製のPolymo Green FBH、Polymo Green FGH、Polymo Green 6G、Polymo Green G、Polymo Green GN、Polymo Green GN 500、山陽色素社製のSanyo Cyanine Green、Sanyo Phthalocyanine Green F6G、Sanyo Phthalocyanine Green FB、Sanyo Phthalocyanine Green FB Pure、SAX、SAX(pigment)、Sanyo Phthalocyanine Green 6YS等の顔料がある。
【0026】
これらの有機顔料は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。更にはこれら有機顔料の分散剤としてブチラール樹脂を使用した場合が好ましい。これら染料及び有機顔料の色材の配合量はトータルではインキ組成物の全重量に対し5?60重量%の範囲であることが好ましく、染顔料併用系では有機顔料の配合量がインキ全量に対して30重量%以下であることが好ましい。色材の配合量が5重量%未満では筆記した際の描線濃度が薄く実用的ではない。また、60重量%では揮発による溶剤の損失により、粘度上昇や溶解性不足などから経時安定性に大きな問題が生じる。
【0027】
本発明の有彩色のインキ組成物には前記の着色剤を溶解または分散させるために有機溶剤が使用される。この場合の有機溶剤は、通常の油性ボールペンインキに用いられている溶剤、すなわち、前記の着色剤を溶解または分散し、かつ比較的高沸点であるものが使用される。このようなものとしては、例えばベンジルアルコール、フェノキシエタノール、カービトール類、セロソルブ類等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いてもよく、その配合量は組成物全量に基づき20?70重量%の範囲であることが好ましい。
この場合、20重量%以下では、添加される着色剤その他の溶解性の点で好ましくない。また70重量%以上では、含有される着色剤が不足し濃度不足となる点で好ましくない。
【0028】
ブチラール樹脂としては、ヘキスト社製のMowital B20H、B30B、B30H、B60T、B60H、B60HH、B70H、B20H、積水化学工業(株)製のエスレックB、BH-3、BL-1、BL-2、BL-L、BL-S、BM-1、BM-2、BM-5、BM-S、BX-L、電気化学工業(株)製のデンカブチラール#2000-L、#3000-1、#3000-2、#3000-3、#3000-4、#3000-K、#4000-1、#5000-A、#6000-C等が挙げられる。
【0029】
また、本発明のインキ組成物には、ブチラール樹脂と併用して粘度調節剤として他の樹脂を含有せしめることができ、通常の油性ボールペン用インキ組成物に使用されている樹脂、例えば、ケトン樹脂、アセトフェノン樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン樹脂、エステルガム、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、及びそれらの変性物が例示できる。これらの樹脂はブチラール樹脂との併用であれば単独で用いても、2種以上混合して用いても良い。また、これらの樹脂の含有量は、インキ組成物全体に対して、5?30重量%である。この場合、5重量%以下では、必要最低限の粘度が得られない点で好ましくない。また30重量%以上では、得られる粘度が高くなりすぎる点で好ましくない。
【0030】
本発明のインキ組成物には、前記必須成分に加え、通常の油性ボールペン用インキに用いられている他の添加物、例えば脂肪酸類、燐酸エステル系潤滑剤、界面活性剤、防錆剤、酸化防止剤、潤滑油などを必要に応じて添加することもできる。本発明の筆記具用インキ組成物は、ボールペン、万年筆、サインペン、マーキングペン等に好適に使用できる。
特に、本発明の油性ボールペンとしては、上記油性インキ組成物をポリプロピレンチューブ、ステンレスチップ(ボールは超鋼合金)を有するリフィールに充填し油性ボールペンに仕上げたものが望ましい。
【0031】
【実施例】
以下に本発明の実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1?4、比較例1?6
各種の有機顔料と染料からなる着色剤、溶剤、樹脂及び潤滑剤からなる組み合わせ成分からなる油性インキ組成物を下記の製造方法で製造した。
インキ組成物の製造においては、先ず、顔料は通常良く知られている方法、例えばボールミルや三本ロールなど用いて分散し、それを還流冷却器、撹拌機を備えた容器に移した後、その他の成分を投入し、60℃、10時間撹拌し、加圧濾過により不純物を除いて表1に示す実施例1?4及び比較例1?6の油性インキ組成物を調整した。表1中の組成の数値は重量部を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記方法で調整した各油性インキ組成物をポリプロピレンチューブ、ステンレスチップ(ボールは超鋼合金で、直径0.7mm)を有するリフィールに充填した後、これを市販の三菱鉛筆(株)製のSA-Rの軸に組み立て油性ボールペンに仕上げた。これらのリフィールまたは油性ボールペンを使用して以下の試験を実施した。
【0035】
1)経時安定性試験(強制劣化試験で代用)
前述のリフィールを各インキについて15本ずつ50℃,80%RHの高温高湿槽内に3ケ月迄保管し、1月毎に5本ずつ取り出し、そのリフィールを室温まで放冷後、手書きで螺旋筆記して下記の基準で筆記性を調べた。
◎:試験前と同様に筆記できる。
○:試験前と比較して多少変化がある。
△:カスレが生じる。
□:カスレが酷い。
×:筆記不能。
【0036】
2)描線濃度
油性ボールペン5本を筆記試験機で荷重200g、筆記角度70°、筆記速度4.5m/min条件で筆記し、得られた筆跡の濃さを目視で観察した。
○:適度な濃さ
×:薄い
【0037】
3)描線堅牢度(耐アルコール性試験)
上記2)で得られた筆記描線から切り取った紙片をエタノール中に一昼夜浸漬し取り出し乾燥したのち描線の状態を目視で観察した。
◎:しっかりとした描線が視認できる。
△:うっすらと描線がのこっている。
×:描線が流れてしまい視認できない。
これらの評価結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
【発明の効果】
以上の結果から明らかなように、本発明の有彩色の油性ボールペン用インキ組成物は、顔料分散剤及び粘度調整剤としてブチラール樹脂を含有した場合にも極めて経時安定性に優れた油性ボールペン用に好適な有彩色の油性インキ組成物と油性ボールペンを提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-17 
出願番号 特願2000-101059(P2000-101059)
審決分類 P 1 113・ 121- ZDA (C09D)
P 1 113・ 537- ZDA (C09D)
P 1 113・ 536- ZDA (C09D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 國島 明弘
井上 能宏
登録日 2006-03-03 
登録番号 特許第3775972号(P3775972)
発明の名称 油性インキ組成物とそれを用いた油性ボールペン  
代理人 島田 哲郎  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 山口 健司  
代理人 柏 延之  
代理人 山口 健司  
代理人 関根 宣夫  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 三橋 真二  
代理人 齋藤 都子  
代理人 永井 浩之  
代理人 関根 宣夫  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 砂山 麗  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 島田 哲郎  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 前川 英明  

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