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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1341624
審判番号 不服2017-755  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-19 
確定日 2018-06-21 
事件の表示 特願2013-272122号「空調室内機」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月6日出願公開、特開2015-124986号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成25年12月27日の出願であって、平成28年12月21日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成29年1月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、当審において平成29年11月6日付けで拒絶理由が通知され、その応答期間内である平成29年12月20日に意見書が提出されたものである。
そして、この出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年1月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
壁掛け式の空調室内機(92)であって、
空気流れを生成するクロスフローファン(30)と、
正面側熱交換部(21)と背面側熱交換部(22)とを含み、前記クロスフローファンの空気流れ上流側に配置される、熱交換器(20)と、
前記熱交換器の空気流れ上流側に配置される、フィルタ(40)と、
前記フィルタの正面側に位置する正面パネル(15)を有し、前記クロスフローファンの回転中心であるファン中心点(O)よりも高い位置にある吸込口(10a)と、前記ファン中心点よりも低い位置にある吹出口(10b)とが形成された、ケーシング(10)と、
を備え、
縦断面視において、
前記正面側熱交換部の下部(21a)および前記フィルタの下部(40a)は、前記ファン中心点よりも下に位置し、
前記ファン中心点を通る水平線を、ファン基準水平線(L1)とし、
前記正面側熱交換部の下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線(SL3)と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、
前記フィルタの下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線(SL5)と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、
第1式:θe>(θc×0.4)
を満たすように、
且つ、
前記ファン中心点の高さ位置での、前記クロスフローファンと前記正面側熱交換部との隙間距離である第1距離D1、前記正面側熱交換部と前記フィルタとの隙間距離である第2距離D2および前記フィルタと前記正面パネルとの隙間距離である第3距離D3が、
第2式:D3>D2>D1
を満たすように、
前記クロスフローファン、前記熱交換器、前記フィルタおよび前記正面パネルが配置され、
前記第1距離D1と、前記クロスフローファンの半径であるファン半径Rとが、
第3式:D1>(0.3×R)
を満たすように、前記クロスフローファンおよび前記熱交換器が配置されている、
空調室内機。」

2.拒絶理由の概要
当審において平成29年11月6日付けで通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

(1)(進歩性)本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前、日本国内又は外国において頒布された下記引用例1ないし7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●引用例一覧:
引用例1:国際公開第2011/77484号
引用例2:特開2005-90764号公報
引用例3:特開2009-250601号公報
引用例4:特開2005-274051号公報
引用例5:特開2010-78235号公報
引用例6:特開2001-182961号公報
引用例7:特開平7-298550号公報

(2)(サポート要件)本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.刊行物
(1)引用例1
引用例1には、図面(特に、図8)とともに、次の記載がある。

ア.「本発明は、送風手段として用いられるクロスフローファンを備えた空気調和機に関するものである。」(段落[0001])

イ.「この実施の形態1に係る空気調和機10は、箱形のケーシングよりなる本体1と、本体1内に形成された風路4に配設された熱交換器2およびクロスフローファン3とを備えている。
全体符号を2で示された熱交換器2は、本例では3つの部分のクロスフィンチューブ式熱交換器により構成されている。すなわち、この熱交換器2は、図のように縦に断面して側方からみると、クロスフローファン3の前方側に位置してドレンパン14上に配設されている前面下部熱交換器2cと、この前面下部熱交換器2cの上側に配置されてその上端側が後方へ傾斜する前面熱交換器2bと、この前面熱交換器2bの上側で連接され、かつ後方下側へ傾斜した背面熱交換器2aとを有し、これら3つの部分の熱交換器2a?2cは冷媒が連続して流れるように逆V字状に連接して構成されている。さらに、各部分の熱交換器2a?2cは横方向(図の紙面に垂直な方向)に並列配置した多数のフィンに冷媒配管5を繰り返し往復し貫通させて構成されている。」(段落[0011])

ウ.「本体1の上面と前面下部(正面の前面パネル11の下側)に、それぞれ上面空気吸込口6と前面空気吸込口7が形成され、本体1の下部には前面側に向けて開口する空気吹出口8が形成されている。これら上面空気吸込口6、前面空気吸込口7および空気吹出口8により本体1内を空気が通過する風路4が形成されている。風路4には上流側より順に空気清浄化用のフィルター9、上記の熱交換器2、およびクロスフローファン3が配設されている。そして、クロスフローファン3の空気吸込口を形成するために、クロスフローファン3の周囲には舌部12とリアガイド13が設けられている。さらにこの舌部12は、前面下部熱交換器2cに流入する風速が低下するように、クロスフローファン3の回転方向(図示の矢印方向)に沿って延長されている。また、舌部12は、前面下部熱交換器2cの下方に配置され、熱交換器2b、2cより滴下するドレン水を受けるためのドレンパン14と一体的に形成されている。」(段落[0012])

エ.「実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3に係る空気調和機を示す断面図である。 この実施の形態3に係る空気調和機10Bは、箱形のケーシングよりなる本体1の上面のみに吸込口6を設けた点、および、クロスフローファン3に対して上流側に逆V字状に配置される熱交換器2の鋭角をより小さくして空気調和機本体を薄型化した点が実施の形態1及び実施の形態2と相違する。本例では、前面に配置される前面パネル11の下端がドレンパン14と連結されて図1に示した前面空気吸込口7が閉じられた形態となっている。その他の構成は実施の形態2と同様である。」(段落[0024])

オ.「本実施の形態の空気調和機10Bでは、前面側の空気吸込口7を無くし空気吸込口を本体1の上面側の空気吸込口6のみとし、熱交換器2については、前面熱交換器2bの上側と連設され、且つ後方下側へ傾斜した背面熱交換器2aとの逆V字型部分の角度を実施の形態1、2の構成よりも鋭角とすることで、空気調和機本体を薄型化している。したがって、かかる空気調和機本体の薄型化による構成上、熱交換器2の風速分布は、圧力損失の小さい前面下部熱交換器2cで風速が極端に速いアンバランスな分布になる。」(段落[0025])

カ.「このため、舌部12の先端12aの位置は、図2に示すように、クロスフローファン3の中心Oとドレンパン14の先端14aとを結ぶ線32と、クロスフローファン3の中心Oと舌部12の先端12aとを結ぶ線31とのなす角度である舌部中心角θが、クロスフローファン3の中心Oから前面下部熱交換器2cに向けて水平に延ばした線を30と、クロスフローファン3の中心Oとドレンパン14の先端14aとを結ぶ線32とのなす角度αの70%以上となる角度0.7α≦θ≦0.98αの範囲になるように構成している。なお、クロスフローファン3の中心Oの位置は前面下部熱交換器2cの高さ寸法Lの略中間位置に配置されている。また、αは60度?70度の範囲に設定している。」(段落[0026])

キ.「ここで、舌部中心角θを0.7α未満に設定した場合には、クロスフローファン3の前面側の圧力損失が小さくなり、図3に示すように前面下部熱交換器2cから流入する風量が増加し風速が速くなるために十分な熱交換能力が確保できず、また1.05α以上に設定すると、図4の太い実線で示すように、クロスフローファン3の実質的な吸込み面積領域35が減少し送風性能が低下するため熱交換能力も低下するという実験結果を得ている。そこで、熱交換器2の風速がアンバランスな分布となるときには、舌部中心角θを前記範囲0.7α≦θ≦0.98αとすることで、図5に示すように前面下部熱交換器2cから流入する風量が減少し風速が効果的に低下するため、十分な熱交換能力を確保することができる。」(段落[0027])

ク.図8の記載からすれば、縦断面視において、前面下部熱交換器2cの下部及びフィルター9の下部は、ファン中心点よりも下に位置していること、及びファンの中心点を通る水平線を、ファン基準水平線とした場合、前面下部熱交換器2cの下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、フィルター9の下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、θcとθeはほぼ同じ値であることが看取できる。

ケ.図8の記載から、ファン中心点の高さ位置において、クロスフローファン3と熱交換器2との隙間距離を第1距離D1、前記熱交換器2とフィルター9との隙間距離を第2距離D2及び前記フィルター9と前面パネル11との隙間距離を第3距離D3とした場合に、D2>D1であることが看取できる。

上記ア.?ケ.から、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「クロスフローファン3と、クロスフローファン3の前方側に位置してドレンパン14上に配設されている前面下部熱交換器2cと、この前面下部熱交換器2cの上側に配置されてその上端側が後方へ傾斜する前面熱交換器2bと、この前面熱交換器2bの上側で連接され、かつ後方下側へ傾斜した背面熱交換器2aとを有し、これら3つの部分の熱交換器2a?2cは冷媒が連続して流れるように逆V字状に連接して構成されている熱交換器2と、フィルター9と、前面に配置される前面パネル11を有し、本体1の上面に設けられた空気吸込口6と、本体1の下部に前面に向けて開口する空気吹出口8とが形成された本体1を備え、縦断面視において、前面下部熱交換器2cの下部及びフィルター9の下部は、ファン中心点よりも下に位置し、ファンの中心点を通る水平線を、ファン基準水平線とし、前面下部熱交換器2cの下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、フィルター9の下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、θcとθeがほぼ同じ値であり、且つ、ファン中心点の高さ位置において、クロスフローファン3と熱交換器2との隙間距離を第1距離D1、熱交換器2とフィルター9との隙間距離を第2距離D2及びフィルター9と前面パネル11との隙間距離を第3距離D3とした場合に、D2>D1であるように、クロスフローファン3、熱交換器2、フィルタ-9および前面パネル11が配置されている空気調和機。」

(2)引用例2
引用例2には、図面(特に、図2)とともに、次の記載がある。

ア.「図1に示すように、空気調和機の室内ユニット(以下、単に空気調和機という)の本体1は、台枠1aと、台枠1aの前方に着脱可能に被せられた前面カバー1bと、前面カバー1bの前方に開閉自在に取付けられた前面パネル1cとで外殻が構成されている。本体1(台枠1a、前面カバー1b,前面パネル1c)の上部,前面に室内空気の吸込口2としての吸い込みグリルが形成され、下部前方に吹出口3が形成されている。」(段落【0020】)

イ.「図2に示すように、本体1内における吸込口2と吹出口3を結ぶ空気通路4には、着脱自在なエアフィルタ11と、熱交換器5と、熱交換器5で熱交換された空気を吹出口3へ送り出す送風ファン6(クロスフローファン)とが配置されるとともに、送風ファン6による空気の送り出しを安定化させるためのスタビライザ8とリアガイダ12とが本体1内の一側から他側にわたって設けられている。」(段落【0021】)

(3)引用例3
引用例3には、図面(特に、図1)とともに、次の記載がある。

ア.「[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係るクロスフローファンを備えた空気調和機の室内ユニットを断面で示した模式的説明図、図2は図1のクロスフローファンの説明図である。
室内ユニット1において、2はケーシング、3は前面側に開閉可能に設けられた前面パネル、4は前面パネル3の内側に設けられたフィルタで、フィルタ4の上部及び下部の前面パネル3との間には、室内空気の吸込み口5a,5bが設けられている。」(段落【0014】)

イ.「フィルタ4の内側には熱交換器6及び補助熱交換器7(以下、両者を合わせて熱交換器6という)が設けられており、熱交換器6の下流側には、送風機であるクロスフローファン20が設置されている。8は熱交換器6の下部において幅方向に配設されたノーズで、ケーシング2とノーズ8との間には、風路9を介して吹出し口10が設けられている。」(段落【0015】)

(4)引用例4
引用例4には、図面(特に、図1)とともに、次の記載がある。

ア.「図1において、室内ユニット8は、前面パネルの56の前面と上面に吸込口6が設けられ、下面に吹出口7が設けられた室内ユニット8と室内ユニット8の吹出口7に対応して設けられたクロスフローファン1、上縁部及び下縁部がそれぞれ後退して形成され、前面と上面の吸込口6にそれぞれ対向するように設けられた前面熱交換器2、前面熱交換器2の背面側に、上縁部がこの前面熱交換器2の上縁部に近接して上面の吸込口6に対向する位置に、下縁部が前面熱交換器2から離れる方向に傾斜して配置された背面熱交換器3、前面パネル56の内側に設けられた空気清浄フィルター5、クロスフローファン1内に発生する空気がスムースに流動するようにするスタビライザー39、前面熱交換器2に設けられた補助熱交換器43及び背面熱交換器3に設けられた補助熱交換器44を備えている。また、クロスフローファン1の回転中心点をO、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点をAで示し、また、前面熱交換器2の設置状態は、前面熱交換器2上部の設置角度4で示している。」(段落【0011】)

(5)引用例5
引用例5には、図面(特に、図12)とともに、次の記載がある。

ア.「次に、動作について説明する。
本実施形態の空気調和機において、貫流ファン6の回転により吸込口2から吸い込まれた空気は、フィルタ10を通過した後、熱交換器7に流入して熱交換される。その際、熱交換器7の伝熱管8の下流部では、流速が遅い後流に起因する圧力変動が発生する。しかし、本実施形態では、熱交換器、特に室内ユニット前面の上下部に位置する熱交換器7a,7bと貫流ファン6との間の空間が広くなっているため、前記後流に起因する圧力変動は翼5に流入する前に減衰して、翼入口での圧力変動が従来に比べて弱くなり、異常音が低減される。」(段落【0018】)

イ.「実施形態8.
図12は本発明の実施形態8に係る空気調和機の室内ユニットを側方より示す断面図、図13はその貫流ファンの直径Dと貫流ファン中心から前面下部熱交換器の伝熱フィンの貫流ファン側辺までの長さLとファンモータ入力Wの関係を示すグラフであり、図12中、前述の実施形態1のものに相当する部分には同一符号を付してある。」(段落【0049】)

ウ.「本実施形態の空気調和機において、貫流ファン6と熱交換器7の室内ユニット側方(伝熱フィン積層方向)より見た位置関係は前述の実施形態1と同様であるが、ここでは寸法について貫流ファン6の直径をDとし、貫流ファン中心29を起点として前面下部熱交換器7bの伝熱フィン9に垂線を引いてこの伝熱フィン9の貫流ファン側辺22bまでの長さをLとしたとき、L/Dの値が0.85以上、0.97以内となるように規定している。」(段落【0050】)

エ.「L/Dが大きいことは前面下部熱交換器7bと貫流ファン6の空間が広くなることを意味し、これまで述べたような効果を得ることができる。しかし、実際のユニットの奥行きには設置上の制約があるため、Lを無限に大きくすることはできない。そこで、ここでは室内ユニット奥行きを300mmとして、この範囲内で長さLと貫流ファン6の直径Dとファンモータ入力Wの関係について検討を行った。図13に示すように、ある長さLに対して、貫流ファン直径Dが小さくなりすぎると、翼5間が狭くなり、貫流ファン6の吹き出し翼列の抵抗が大きくなって、ファンモータ入力が大きくなる。また、貫流ファン直径Dが大きくなりすぎてもファンモータ入力Wが大きくなる。よってL/Dを0.85?0.97の範囲として、ファンモータ入力を小さくできるようにした。」(段落【0051】)

(6)引用例6
引用例6には、図面(特に、図5)とともに、次の記載がある。

ア.「図5にその効果を示す。実機にて計測した結果、図に示すように、ファンと熱交換器との隙間が約50mm以上であると発生する騒音は約30dBであり、板を付けたものと付けないものとに差が生じないが、10mm?50mmにかけては板を取付けた場合と取付けていない場合とでは騒音に差を生じる。特に10mm以下であると、板なしの場合、50dB以上となるが、板ありの場合、40dBに抑えることが出来た。本実施例では、隙間が約30mmであり、30mmであった場合でも板なしと板ありとでは、約5dBの差が確認できた。」(段落【0028】)

4.対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア.引用発明の「空気吸込口6」、「空気吹出口8」、「本体1」及び「空気調和機」は、その機能からみて、それぞれ本願発明の「吸込口」、「吹出口」、「ケーシング」及び「空調室内機」に相当する。

イ.引用発明の「空気調和機」は、その形態から「壁掛け式の空調室内機」といえる。

ウ.引用発明の「クロスフローファン3」は、空気吸込口から空気を吸い込み、熱交換された空気を空気吹出口から室内へ吹き出すものであるから、本願発明の「空気流れを生成するクロスフローファン」に相当する。

エ.引用発明の「前面下部熱交換器2c」と「前面熱交換機2b」は、本願発明の「正面側熱交換部」に相当し、また、「背面熱交換器2a」は、本願発明の「背面側熱交換部」に相当する。

オ.引用発明の「フィルター9」は熱交換器の空気流れ上流側に配置されていることが明らかであるから、本願発明の「フィルタ」に相当し、引用発明の「前面に配置される前面パネル11」は、本願発明の「フィルタの正面側に位置する正面パネル」に相当し、引用発明の「本体1の上面に設けられた空気吸込口6」は、本願発明の「クロスフローファンの回転中心であるファン中心点よりも高い位置にある吸込口」に相当し、引用発明の「本体1の下部に前面側に向けて開口する空気吹出口8」は、本願発明の「ファン中心点よりも低い位置にある吹出口」に相当する。

カ.引用発明の「ファンの中心点を通る水平線を、ファン基準水平線とし、前面下部熱交換器2cの下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、フィルター9の下部とファン中心点とを通る直線と、ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、θcとθeがほぼ同じ値であ」ることは、引用例1の図8からみて、上記前面下部熱交換器2cの下部とファン中心点とを通る直線及び上記フィルター9の下部とファン中心点とを通る直線は、それぞれファン基準水平線と為す角度が最も大きい直線であるといえるから、本願発明の「前記ファン中心点を通る水平線を、ファン基準水平線とし、前記正面側熱交換部の下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、前記フィルタの下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、第1式:θe>(θc×0.4)を満たす」ことに相当する。

キ.引用発明の「第1距離D1」、「第2距離D2」及び「第3距離D3」は、それぞれ本願発明の「クロスフローファンと前記正面側熱交換部との隙間距離である第1距離D1」、「正面側熱交換部とフィルタとの隙間距離である第2距離D2」及び「フィルタと正面パネルとの隙間距離である第3距離D3」に相当し、引用発明の「D2>D1である」ことと、本願発明の「第2式:D3>D2>D1を満たす」ことは、少なくとも「D2>D1を満たす」限りで一致する

(2)以上のことから、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

【一致点】
「壁掛け式の空調室内機であって、 空気流れを生成するクロスフローファンと、正面側熱交換部と背面側熱交換部とを含み、前記クロスフローファンの空気流れ上流側に配置される、熱交換器と、前記熱交換器の空気流れ上流側に配置される、フィルタと、前記フィルタの正面側に位置する正面パネルを有し、前記クロスフローファンの回転中心であるファン中心点よりも高い位置にある吸込口と、前記ファン中心点よりも低い位置にある吹出口とが形成された、ケーシングとを備え、縦断面視において、前記正面側熱交換部の下部および前記フィルタの下部は、前記ファン中心点よりも下に位置し、前記ファン中心点を通る水平線を、ファン基準水平線とし、前記正面側熱交換部の下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、熱交換器下部角度θcとし、前記フィルタの下部と前記ファン中心点とを通る直線のうち最も前記ファン基準水平線と為す角度が大きい直線と、前記ファン基準水平線とが為す角度を、フィルタ下部角度θeとしたときに、第1式:θe>(θc×0.4)を満たすように、且つ、前記ファン中心点の高さ位置での、前記クロスフローファンと前記正面側熱交換部との隙間距離である第1距離D1および前記正面側熱交換部と前記フィルタとの隙間距離である第2距離D2が、D2>D1を満たすように、前記クロスフローファン、前記熱交換器、前記フィルタおよび前記正面パネルが配置されている、空調室内機。」

【相違点】
1.本願発明は、ファン中心点の高さ位置での、クロスフローファンと正面側熱交換部との隙間距離である第1距離D1、前記正面側熱交換部と前記フィルタとの隙間距離である第2距離D2および前記フィルタと前記正面パネルとの隙間距離である第3距離D3が、第2式:D3>D2>D1を満たすのに対し、引用発明はD2>D1を満たすにすぎない点

2.本願発明は、第1距離D1(ファン中心点の高さ位置での、クロスフローファンと正面側熱交換部との隙間距離)と、クロスフローファンの半径であるファン半径Rとが、第3式:D1>(0.3×R)を満たすように、前記クロスフローファンおよび前記熱交換器が配置されているのに対し、引用発明では当該第3式を満たすか否か不明である点

5.判断
以下、上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明において、必要な空気量を確保すべきことは、周知の課題であるとともに、D3を大きくすればこの部分を通過する空気量が増すことは技術常識である。
そして、D2とD3の関係についてみれば、空気調和機において、D2に比べてフィルタと正面パネルとの隙間距離である第3距離D3を大きくとることは、例えば引用例2(2.(2)及び図2参照。)や引用例3(2.(3)及び図1参照。)や引用例4(2.(4)及び図1参照。)に記載されているように周知の構成である
一方、本願明細書の記載からはD3>D2の場合とそうでない場合とで効果が異なることは把握できない。
そうすると、D3>D2とした点は、空気量を確保できるようにD3を大きく設定した結果、周知例のようにD3>D2の関係になったという程度の設計的事項にすぎない。
よって、本願発明の相違点1に係る構成は、引用発明に当該周知の構成を採用した程度の単なる設計的事項以上のこととは認められない。

なお、請求人は意見書において、「引用文献2?4においては、図面が結果的にそのような寸法になっていることを開示しているのみであって、「D3>D2」を明記しているわけではありません。さらには、引用文献2?4には、「D3>D2」を採用したときの作用効果が記載されているわけでもありません。したがって、引用文献1の「D3<D2」を引用文献2?4の
「D3>D2」に変更する動機付けは特に無いと思量いたします。」と主張している。
しかし、図面からでもD3>D2の関係は把握できるし、D3が大きくなれば、この部分を通過する空気量が増すことは、特段の説明がなくとも明らかである。
そして、引用発明も、クロスフローファンによる送風を意図している以上は、空気量の確保は周知の課題と認められるから、空気量を確保できるようにD2,D3を決定する動機付けは認められる。
よって、具体的にD3>D2とした点は、上記のとおり、周知の構成を採用した程度の設計的事項にすぎないから、上記請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「『D3を大きくすればこの部分を通過する空気量が増すことは普通に予測できること』です。しかし、本発明の作用効果のごとく、全体の寸法を抑えつつ、熱交換器全体を有効に活用するという構成を考えたとき、『D3>D2』を採用するか否かは、普通に予測できることではありません。」とも主張している。
しかし、単にD3>D2>D1としたからといって、全体寸法を抑制しつつ空気量が確保できるようになるとは認められないから、上記請求人の主張は失当である。

(2)相違点2について
一般にファンと熱交換部との隙間距離が短くなれば騒音が生じることは周知の課題であり(例えば、上記2.(5)ア.及び2.(6)参照。)、また、具体的にクロスフローファンと熱交換器との隙間距離を大きくとることにより騒音を防止したものも引用例5(2.(5)イ.?エ.参照。)に記載されている。
そして、引用発明においても、騒音の発生を防止すべきことは、当業者にとって自明の課題であるとともに、本願発明の0.3×Rという値に臨界的意義は認められない。
また、引用例5においては、貫流ファン6の直径をDとし、貫流ファン中心を起点として前面下部熱交換器7bの伝熱フィン9に垂線を引いてこの伝熱フィン9の貫流ファン側辺22bまでの長さをLとしたとき、L/D≧0.85である(2.(5)ウ.参照。)から、貫流ファン6の半径をR、貫流ファン6と前面下部熱交換器7bとの隙間をD1’としたとき、R=D/2,D1’=L-Rであることに留意すると、D1’≧0.7×Rの関係を満たしている。
してみれば、引用発明において、上記騒音の発生という周知の課題を解決するために、クロスフローファンと熱交換器との隙間距離を十分とることは引用例5に記載された技術事項を踏まえて、当業者が容易になし得たことと認められ、具体的に、ファン中心点の高さ位置での、クロスフローファンと正面側熱交換部との隙間距離である第1距離D1とクロスフローファンの半径であるファン半径Rが、第3式:D1>(0.3×R)を満たすような配置を採用することは、引用例5がD1’≧0.7×Rの関係を満たしていることを考慮すると、設計的事項にすぎない。
なお、引用発明に相違点1に係る構成を採用すると、D3>D2>D1となるが、これを前提としても、D1>0.3×Rと設定することに何ら差し支えない。

そして、これら相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用例2ないし6に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

よって、本願発明は、引用発明及び引用例2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-16 
結審通知日 2018-04-17 
審決日 2018-05-07 
出願番号 特願2013-272122(P2013-272122)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 俊二  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
井上 哲男
発明の名称 空調室内機  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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