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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1341633
審判番号 不服2017-5425  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-17 
確定日 2018-06-21 
事件の表示 特願2012- 89734「皮膚外用製品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日出願公開、特開2013-215448〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 1月25日付け:拒絶理由通知書
平成28年 4月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 6月21日付け:拒絶理由通知書
平成28年 8月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 1月10日付け:拒絶査定
平成29年 4月17日 :審判請求書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出
平成29年 6月 6日 :手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
(1)平成28年8月29日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲の請求項1ないし6は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
テルペンを含む液状の外用組成物が、回転可能な球状の金属製塗布部を有する容器に収容されてなり、
前記金属製塗布部の直径が10?30mmであり、重量が4.15?112gである、ことを特徴とする、肩こり、筋肉痛、筋肉疲労、腰痛、打撲、捻挫、又は関節痛を緩和するための皮膚外用製品。
【請求項2】
前記テルペンがメントールである、請求項1に記載の外用製品。
【請求項3】
メントールの含有量が1?9重量%である、請求項1又は2に記載の外用製品。
【請求項4】
前記金属製塗布部がステンレス製である、請求項1?3のいずれかに記載の外用製品。
【請求項5】
前記金属製塗布部の直径が15?30mmであり、重量が14?112gである、請求項1?4のいずれかに記載の外用製品。
【請求項6】
前記外用組成物が、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン及びサリチル酸グリコールからなる群より選択される少なくとも1種の鎮痛剤を含有する、請求項1?5のいずれかに記載の外用製品。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、当審で付した。)
「 【請求項1】
テルペンを含む液状の外用組成物が、回転可能な球状の金属製塗布部を有する容器に収容されてなり、
前記金属製塗布部の直径が10?30mmであり、重量が4.15?112gであり、
前記外用組成物が、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン及びサリチル酸グリコールからなる群より選択される少なくとも1種の鎮痛剤を含有する、
肩こり、筋肉痛、筋肉疲労、腰痛、打撲、捻挫、又は関節痛を緩和するための皮膚外用製品。」

2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ、本件補正前の請求項6は、請求項1の記載を引用して記載されたものである。したがって、本件補正前の請求項6に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明として相違するところがないから、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項6を、独立形式に書き改めて記載したものである。そうしてみると、本件補正は、本件補正前の請求項1を削除して、本件補正前の請求項6を本件補正後の請求項1にしたものであるから、本件補正は、特許法17条の2第5項1号に掲げる、請求項の削除を目的とする補正である。
したがって、請求項1に係る本件補正は適法になされたものである 。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項6に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開昭48-099316号公報
引用文献2.特開平09-086573号公報
引用文献3.実願昭47-17784号(実開昭48-94395号)のマイクロフィルム
引用文献4.特開2011-046746号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1
(1)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭48-99316号公報(昭和48年12月15日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

「主基剤として高級脂肪酸エステル類、ラノリン類、グリコール類等の単独若しくは混合を用いこれに鎮痛消炎主剤を入れたものに、被膜形成物質としてアルミニウムオクトエートを添加しロールオンタイプ又はエアゾール剤型の持続性効果をもたらしめることを特徴とする外用鎮痛消炎剤の製法。」(特許請求の範囲)
「本発明は外用鎮痛消炎剤の製法に関するものである。更に詳しくは本発明は薬物の持続性等を改良するために特殊な皮膜形成物質を配合し且つロールオンタイプ及びエアゾール剤型となした外用鎮痛消炎剤の製法に関するものである。
従来この種外用剤としては、サルチル酸メチル、メントール、カンファ等を適当な溶液に溶解せしめた液剤やこれら液剤にエアゾール噴射剤を加えて噴射適用を可能とした製品又はロールオンタイプ製品の製剤等が知られている。」(1頁左欄11行-20行)
「又ロールオンタイプも同様ロールにて皮膚面に対して付着させるが、乾燥状態等の面で効果が悪い面もあり外用鎮痛消炎剤としてはこれら諸剤は適当な剤型とは云い得ない。」(1頁右欄3行-7行)
「本発明方法によつて得られるロールオンタイプ又はエアゾール剤を皮膚面に対し付着させ、又は及び噴射すると有効成分および基剤は揮発性物質の揮散に伴い膜となつて皮膚上に残留し長時間の鎮痛消炎効果をあらわす。」(2頁右上欄3行-7行)
「次に本発明の実施例を記す。・・・実施例-5(ロールオンタイプ) サルチル酸メチル:0.5%(wt)・・・カンファ:0.2%(wt)・・・」(2頁右上欄13行-2頁右下欄18行)

(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献1に記載された技術は、ロールオンタイプの外用鎮痛消炎剤の製法に関するものであり(1頁左欄11行-20行)、外用剤を皮膚面に対し付着させ膜となって皮膚上に残留し長時間の鎮痛消炎効果をあらわすことを課題としたものである(特許請求の範囲、2頁右上欄3行-7行)。
イ ロールオンタイプはロールにて皮膚面に対して外用鎮痛消炎剤を付着させる(1頁右欄3行-7行)。
ウ 外用剤としては、サルチル酸メチル、メントール,カンファ等を適当な溶液に溶解せしめた液剤とし、それをロールオンタイプ製品の製剤とした(1頁左欄11行-20行、2頁右上欄13行-2頁右下欄18行)。

(3)上記摘記事項(1)、認定事項(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「メントール又はカンファを含む溶液の外用剤が、ロールを有するロールオンタイプ容器に収容されてなり、
前記外用剤が、サルチル酸メチルを含有する、
鎮痛消炎効果をあらわすための皮膚面に付着させるロールオンタイプ製品。」

第5 対比
1 本件補正発明と引用発明とを対比する。(下線は、当審で付した。)
(1) 引用発明は、外用鎮痛消炎剤が収容されたロールを有するロールオンタイプ製品に係る技術であり、本願明細書の[0003]に「一方、液体の塗布を容易に行うことが可能な容器として様々な態様が知られており、例えば、液体の供給部分が刷毛状になっている容器、スポンジを介して液体を塗布することができる容器、球状の樹脂製塗布部を収容されている液体と接触させこれを介して液体を皮膚等に供給するいわゆるロールオンタイプの容器等が挙げられる。中でも、ロールオンタイプの容器は手を汚すことなく、スムーズに広範囲に亘って均一に塗布することが可能であることから好まれている。」と記載されているから、本件補正発明と、技術分野が共通する。
(2)引用発明の「メントール又はカンファを含む溶液の外用剤」は、本願明細書の[0012]に「本発明の外用製品には、テルペンを含む外用組成物が含まれる。テルペンとは、テルペノイド又はイソプレノイドとも呼ばれる。本発明の外用製品において用いられる外用組成物に配合されるテルペンとしては、従来公知のものから適宜選択することができるが、具体的にはリモネン、メントン、カルボン、ジヒドロカルボン、ピネン、メントール、ゲラニオール、リナロール、チモール、ボルネオール、ペリルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、カンフル、シネオール等のモノテルペンが例示される。」と記載され、「カンファ」は「カンフル」同一物質であることから、本件補正発明の「テルペンを含む液状の外用組成物」に相当する。
(3)引用発明の「ロールを有するロールオンタイプ容器」は、上記本願明細書の[0003]の記載から、本件補正発明の「回転可能な球状の塗布部を有する容器」に相当する。
(4)引用発明の「外用剤が、サルチル酸メチルを含有する」は、本願明細書の[0016]に「本発明において外用組成物は、上記テルペンの他に、鎮痛剤を含有していてもよい。鎮痛剤としては、従来公知のものから適宜選択して使用することができ特に限定されないが、例えばインドメタシン、フェルビナク、サリチル酸グリコール、ジクロフェナクナトリウム、サリチル酸メチル、ケトプロフェン、ピロキシカム等が挙げられる。」と記載されているので、本件補正発明の「前記外用組成物が少なくとも1種の鎮痛剤を含有する」に相当する。
(5)引用発明の「鎮痛消炎効果をあらわすための皮膚面に付着させるロールオンタイプ製品」は、本件補正発明の「肩こり、筋肉痛、筋肉疲労、腰痛、打撲、捻挫、又は関節痛を緩和するための皮膚外用製品」に相当する。

2 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「テルペンを含む液状の外用組成物が、回転可能な球状の塗布部を有する容器に収容されてなり、
前記外用組成物が、少なくとも1種の鎮痛剤を含有する、
肩こり、筋肉痛、筋肉疲労、腰痛、打撲、捻挫、又は関節痛を緩和するための皮膚外用製品。」

【相違点1】
「回転可能な球状の塗布部の材質について、本件補正発明は、「金属製」であるのに対し、引用発明は、当該材質が明らかでない点。」
【相違点2】
「回転可能な球状の塗布部の直径及び重量について、本件補正発明は、直径が10?30mmであり、重量が4.15?112gとしているのに対し、引用発明は、当該直径及び重量が不明である点。」
【相違点3】
「外用組成物が含有する鎮痛剤について、本件補正発明は、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン及びサリチル酸グリコールからなる群より選択される少なくとも1種であるのに対して、引用発明は、サルチル酸メチルである点。」

第6 判断
以下、相違点について検討する。
1 相違点1について
例えば、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特に、[0001]、[0017]-[0026]、図1-3等を参照)にも開示されているように、塗布部(「ボール3」が相当)を金属製の球状(「球弧面」が相当)とすることで、マッサージ効果を与えるようにすることは、皮膚外用製品の分野における周知技術である。
また、引用文献2のみならず原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特に、明細書2頁7行-7頁8行、第1図等を参照)にも開示されているように、機械的強度のあるマッサージ用ボールを有する容器に薬剤を収容し、塗布時にマッサージができるようにすることは、皮膚外用製品の分野における周知技術であるといえる。
そして、皮膚外用製品の分野に属する引用発明において、上記周知技術を踏まえれば、薬剤の塗布時にマッサージができるようにすることは当然に要求されるべき課題であるといえるから、かかる課題の下に塗布部に対し上記引用文献2および3記載の周知技術を適用し機械的強度のある金属製の球状とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。
なお、請求人は、平成29年 6月 6日付け手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)において、引用発明のロールオンタイプ製品は、外用鎮痛消炎剤で身体の部分に広く適用し得るものであり、一方、引用文献2記載の外用製品は、毛髪育毛剤等の薬剤を頭皮に直接噴射するとともにマッサージ効果を発揮する薬剤噴射容器で頭皮に適用されるものであり、このように両者の外用製品は用途が全く異なるものであるため、両者を組み合わせる動機づけがない旨、主張している。
しかし、引用発明と引用文献2記載の外用製品における薬剤については非頭皮用と頭皮用で異なるものの、頭皮も皮膚の一種であるから、両者外用製品における塗布部に関しては、皮膚外用製品の塗布部という共通の技術分野に属するものといえる。
また、上記引用文献2及び3にも開示されているように、薬剤の塗布時にマッサージができるようにすることは、頭皮用のみならず皮膚外用製品の分野における周知技術であるといえ、さらに、上記引用文献3においては、マッサージ効果を高めるために機械的強度を有するマッサージ用のボールを採用することが開示されている(特に、明細書2頁7行-3頁12行)。してみると、引用発明のロールオンタイプ製品において、マッサージ効果を発揮するために、機械的強度を有する引用文献2記載の周知技術を組み合わせることは十分な動機が存在するというべきである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

2 相違点2について
引用発明において、塗布部の寸法及び重量については、快適に使用できる範囲内のものとして、当業者が適宜設定し得るところであり、直径を10?30mmとし、重量を4.15?112gとすることも任意である。
また、本件補正発明における上記各数値範囲の臨界的意義は以下に示すように何等認められない。
そうすると、上記相違点2は、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項にすぎないというべきである。
すなわち、請求人は、平成29年 6月 6日付け手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)の(3-3-1)において、液状の外用組成物がテルペンを含み、金属製塗布部の直径が10?30mmであることによる効果について、本願明細書の段落[0008]や図2-6に基づいて主張している。
しかし、根拠とされているデータは金属製塗布部の直径が11.15mm、19.05mm、25.43mmのものであり、これらは10?30mm内のわずか数点に過ぎず、直径が当該数値範囲外の場合との比較がないばかりか、メントールを含まない場合の方が血流増加量が大きいデータも含まれており(例えば、図2(a-3)等。)、さらに、図3-4に示されるデータについては直径が19.05mmのもののみである。そうすると、請求人が主張するような効果は、限定された数値の範囲内において奏されるとはいえないばかりか、数値の範囲外との差についても認められない。
さらに、金属製塗布部の重量が4.15?112gであることによる効果については、本願明細書又は図表に何ら具体的に記載されていない。

3 相違点3について
例えば、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特に、[0008]-[0012]を参照)にも開示されているように、メントール類を含有する消炎鎮痛剤において、鎮痛剤としてフェルビナク(「4-ビフェニル酢酸」が相当)を採用することは外用消炎鎮痛剤の技術分野において周知技術であるといえる。
そして、引用発明もメントール類を含有する消炎鎮痛剤の分野に属するので、引用発明における鎮痛剤であるサルチル酸メチルに代えてフェルビナクを採用することは、上記周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。
なお、請求人は、平成29年 6月 6日付け手続補正書(審判請求書の請求の理由の変更)の(3-3-3)「本願発明は特定の鎮痛剤を含む点でも引用発明とは相違点があり、かかる相違点は引用文献2?4を考慮しても容易に想到し得るものではないこと」において、薬剤塗布時にマッサージ効果を付与することが期待されているロールオンタイプの外用製品では、消炎鎮痛作用が強くなり過ぎると、却ってマッサージ効果による血流量の増大が阻害される結果を招くため、薬剤塗布時にマッサージ効果を付与することが期待されている外用製品に、強い消炎鎮痛作用を有する薬剤を使用することについては、明らかな阻害要因がある旨主張している。
しかし、引用発明は、マッサージ効果を付与することが期待されているロールオンタイプの外用製品において、消炎鎮痛作用(サルチル酸メチル)を有する薬剤を使用するものであるので、請求人の上記主張を採用することはできない。

4 効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4に記載された周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-19 
結審通知日 2018-04-24 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2012-89734(P2012-89734)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久島 弘太郎姫島 卓弥  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 林 茂樹
瀬戸 康平
発明の名称 皮膚外用製品  
代理人 田中 順也  

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