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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1341639
審判番号 不服2017-12486  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-23 
確定日 2018-06-21 
事件の表示 特願2014- 17545「写真地図作成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-143803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月31日の出願であって、平成29年4月3日付けで手続補正書が提出され、同年6月5日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年8月23日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。


第2 平成29年8月23日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、平成29年4月3日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を、下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1へと補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「地上に固定された第1の固定カメラにより撮影された対象領域の第1の撮影画像を取得する第1の撮影画像取得ステップと、
前記第1の固定カメラのレンズ歪み係数を用いて前記第1の撮影画像を補正することにより、前記対象領域の第1の補正画像を取得する第1の補正画像取得ステップと、
前記第1の補正画像の第1の正射投影変換係数を取得する第1の正射投影変換係数取得ステップと、
前記第1の正射投影変換係数を用いて前記第1の補正画像の正射投影変換処理を行うことにより、前記対象領域の第1の写真地図を作成する第1の写真地図作成ステップと、
を備え、
前記第1の正射投影変換係数取得ステップは、
前記対象領域の数値地形モデル及び前記第1の固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像を作成する第1のステップと、
前記第1の補正画像と前記第1のシミュレーション画像とが重なるように幾何補正を行うことにより、前記第1の補正画像の第1の幾何補正変換係数を取得する第2のステップと、
前記第1の座標データと前記第1の幾何補正変換係数とに基づいて前記第1の正射投影変換係数を取得する第3のステップと、を含み、
前記第1のシミュレーション画像は、前記第1の撮影画像に相当するエリアの画像であって、画像面内の各点に対して座標が設定されている、
ことを特徴とする写真地図作成方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「地上に固定された第1の固定カメラにより撮影された対象領域の第1の撮影画像を取得する第1の撮影画像取得ステップと、
前記第1の固定カメラのレンズ歪み係数を用いて前記第1の撮影画像を補正することにより、前記対象領域の第1の補正画像を取得する第1の補正画像取得ステップと、
前記第1の補正画像の第1の正射投影変換係数を取得する第1の正射投影変換係数取得ステップと、
前記第1の正射投影変換係数を用いて前記第1の補正画像の正射投影変換処理を行うことにより、前記対象領域の第1の写真地図を作成する第1の写真地図作成ステップと、
を備え、
前記第1の正射投影変換係数取得ステップは、
前記対象領域の数値地形モデル及び前記第1の固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像を作成する第1のステップと、
前記第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして、前記第1の補正画像と前記第1のシミュレーション画像とが重なるように幾何補正を行うことにより、前記第1の補正画像の第1の幾何補正変換係数を取得する第2のステップと、
前記第1の座標データと前記第1の幾何補正変換係数とに基づいて前記第1の正射投影変換係数を取得する第3のステップと、を含み、
前記第1のシミュレーション画像は、前記第1の撮影画像に相当するエリアの画像であって、2次元の画像面内の各点に対して座標が設定されている、
ことを特徴とする写真地図作成方法。」(下線は審決で付した。以下同じ。)

2 補正目的について
本件補正により、本件補正前の請求項1の「第2のステップ」を、「前記第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして」と補正する事項(以下「補正事項」という。)が追加されたものである。
上記補正事項は、本件補正前の請求項1の「写真地図作成方法」における「第2のステップ」を、「前記第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして」と具体的に特定したものであるから、上記補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に係る「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、上記補正事項は、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成29年8月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1」に記載したとおりのものと認める。

(2)引用刊行物
ア 刊行物1
本願の出願前の平成15年5月14日に頒布された特開2003-139532号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】撮影位置の緯度、経度、標高を計測する工程と該撮影位置で撮影対象領域および該撮影対象領域の特定点およびスカイラインを含む写真画像を得る工程と該写真画像よりスカイライン(写真画像スカイライン)を得る工程と該特定点を用いて既知の地形標高データより該撮影位置の緯度、経度、標高から該撮影対象領域を見た地図上のスカイライン(地図上スカイライン)を得る工程と該写真画像スカイラインと該地図上スカイラインとをマッチングさせることによって座標変換式を得る工程と該座標変換式を用いて該撮影位置から撮影された写真画像を鉛直上方からみた地図(正射画像)に変換する工程を含むことを特徴とする地図作成方法。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は地図作成方法およびその作成された地図に関するものである。特に写真画像を用いて地図を作成する方法およびその作成された地図に関するものである。」
(ウ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような状況にあって、簡便で即時性のある地図作成方法が強く望まれていた。特に山岳災害などの緊急を要する事態において有効な、簡便で即時性のある地図作成方法が強く望まれていた。
【0007】さらに具体的に述べれば山岳の地上写真画像を迅速かつ容易に地図上に地図(正射画像)として変換する方法の確立が望まれていた。
【0008】本発明の第一の目的は地上あるいは低空あるいは斜め上空からの写真画像を用いて簡便な地図作成方法及び該地図作成方法による地図を提供することである。
【0009】本発明の第二の目的は地上あるいは低空あるいは斜め上空からの写真画像を用いて即時性の高い地図作成方法及び該地図作成方法による地図を提供することである。
【0010】本発明の第三の目的は特殊な機材を用いない地図作成方法及び該地図作成方法による地図を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】市販のカメラ、特にデジタルカメラおよびノート型パーソナルコンピュータが安価で容易に入手可能であり、携帯性に優れている点、さらに等高線地形図から撮影対象(例えば山岳)の地形標高データが格子状に数値化されて市販されており容易に入手できることに着目し、地上あるいは低空あるいは斜め上空からから撮影された撮影対象の写真画像のスカイラインと地形標高データからほぼ同じ方向を見た撮影対象の透視画像から得られるスカイラインをマッチングさせることにより、写真画像と地図座標系の間に成り立つ座標変換式(幾何学的関係を示す式である)を得、この座標変換を地上あるいは低空あるいは斜め上から撮影された撮影対象の写真画像全体に施せば(幾何補正と呼ばれる)、写真画像に対応する地図(正射画像)を得る事が出来、従来の課題が解決でき、本発明の目的が達成されることを見出した。ここでスカイラインとは空と対象物の領域を分ける周辺曲である。」
(エ)「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の第一の実施態様は撮影位置の緯度、経度、標高を例えば汎地球測位システム(GPS)により計測する工程と該撮影位置で撮影対象領域および該撮影対象領域の特定点およびスカイラインを含む写真画像を得る工程と該写真画像よりスカイライン(写真画像スカイライン)を得る工程と該特定点を用いて既知の地形標高データより該撮影位置の緯度、経度、標高から該撮影対象領域を見た地図上のスカイライン(地図上スカイライン)を得る工程と該写真画像スカイラインと該地図上スカイラインとをマッチングさせることによって座標変換式を得る工程と該座標変換式を用いて該撮影位置から撮影された写真画像を鉛直上方からみた地図(正射画像)に変換する工程を含むことを特徴とする地図作成方法に関するものである。
【0021】本発明の第二の実施態様は第一の実施態様によって作成された地図に関するものである。
【0022】本発明の第三の実施態様は第一の実施態様において得られた該座標変換式および該既知の地形標高データをもちいて任意の位置、任意の方向からの透視画像を得ることを特徴とする透視画像作成方法に関するものである。
【0023】本発明の第四の実施態様は第三の実施態様基づいて作成された透視画像に関するものである。
【0024】本発明の第五の実施態様は第一の実施態様の工程を含むことを特徴とする地図作成用コンピュータプログラムに関するものである。
【0025】本発明の第六の実施態様は第三の実施態様の工程を含むことを特徴とする地図作成用コンピュータプログラムに関するものである。
【0026】本発明の第七の実施態様はいずれかの工程の後に、該工程までに得られた情報を該撮影位置から離れた位置に通信手段で転送する工程を含み、その他の工程を該離れた位置で行なうことを特徴とする生データまたは完成されたデータを転送する工程を含む第一の実施態様の地図作成方法に関するものである。
【0027】本発明の第八の実施態様はいずれかの工程の後に、該工程までに得られた情報を該撮影位置から離れた位置に通信手段で転送する工程を含み、その他の工程を該離れた位置で行なうことを特徴とする生データまたは完成されたデータを転送する工程を含む第三の実施態様の透視画像作成方法に関するものである。
【0028】本発明では、次の工程によって地上あるいは低空あるいは斜め上空からの写真画像写真から正射画像地図を作成する。
【0029】説明を解りやすくする為に、ここでは撮影位置を地上とし、撮影対象に山岳を選び、特定点として山頂を選び、カメラとしてデジタルカメラを用いて工程を説明する。
【0030】勿論山岳以外の撮影対象に対しても本発明は適用する事が出来るし、カメラもデジタルカメラに限定されるものではない。撮影位置も地上以外でも良い。
【0031】工程1:カメラ位置の計測
カメラの撮影位置、即ちカメラの撮影位置の緯度、経度、標高を好ましくは汎地球測位置システム(GPS)を用いて求める。
【0032】工程2:写真画像の撮影(含カメラの方位角α、上下角βの決定)
山頂を含む山岳の全容、特に山岳の輪郭を示すスカイラインがよく見える箇所を選定し、カメラを三脚に設置し、可能な限りカメラを水平にし、特定点、好ましくは山頂が写真画像のほぼ中央になるようにカメラを回転し、写真撮影を行う。本発明の特定点とは、スカイライン上に在って他の明確に区別出来る特異な点のことを指す。カメラの水平は保たれることが望ましいが、多少の上下角は許される。経時的に監視を行う場合は、このカメラの位置と撮影方向は固定するようにする。
【0033】撮影方向のうち横方向の傾きは0°と仮定し、カメラの鉛直軸の回りに北方向から測った角度、方位角α、および、上下方向の角度、上下角βは以下のようにして求める。
【0034】即ち、北に対してカメラの撮影位置P点から山頂Q点を望む方位角αは(1)式で求められる。
α=arctan{(Yq-Yp)/(Xq-Xp)}???(1)
【0035】図1は既知の地形標高データよりαの導出を説明する為の図である。図1において1はカメラの撮影位置P点(Xp、Yp、Zp)、2は山頂の位置Q点(Xq、Yq、Zq)、3は緯度軸X(方向としては北、Nの方向)、4は経度軸Y(方向としては東、Eの方向)、αは北に対してカメラの撮影位置P点から山頂Q点を方位角である。図1から明らかなようにαは(1)式で求められる。
【0036】次に上下角βは以下のようにして求める。図2はP点とQ点を結ぶ直線を含む地形の鉛直断面を示したものである。図2において1はカメラの撮影位置P点(Xp、Yp、Zp)、2は山頂の位置Q点(Xq、Yq、Zq)、5はカメラのレンズ、6はカメラの光軸、7カメラの焦点面で、8はカメラの焦点面におけるQ点に対応する点、q点である。P点-Q点間の水平距離D、P点からQ点をのぞむ仰角θ、カメラの光軸の水平面に対する上下角をβ、レンズの焦点距離をf、カメラの焦点面におけるQ点に対応する点、q点から光軸までの距離をmとすれば。図から明かなように
tanθ=(Zq-Zp)/D?????????(2)
tanγ=m/f???????????????(3)
β=θ-γ??????????????????(4)
(2)、(3)式を(4)式に代入すれば、
β=arctan{(Zq-Zp)/D}-arctan(m/f)
???(5)
のように上下角βが求められる。
【0037】工程3写真画像スカイラインの作成。
工程2で得られた写真画像をエッジ処理することによりスカイライン(写真画像スカイライン)を得る。エッジ処理とは画像を微分処理することによってエッジを強調する処理のことである。
【0038】工程4地図上スカイラインの作成。
撮影対象の山岳の市販地形標高データ(10?50メートル間隔の格子状データが市販されている)を入手する。市販されていない場合には、2万5千分の1ないしは5万分の1等高線地形図から格子状の地形標高データ計測する。山頂の緯度、経度、標高も地形図から計測する。
【0039】次に工程2により求められたカメラの位置(緯度、経度、標高)および山頂方向の方位角および上下角、および地形標高データを用いて山岳の透視画像を作成する。透視画像の色調は、地形データから算出される陰影を用いてもよいし、単に山岳であるか否かの2値画像を作成してもよい。この透視画像からスカイライン(地図上スカイライン)を得る。
【0040】工程5: スカイラインマッチングによる座標変換式の導出
工程3および工程4によって作成された山岳画像のスカイライン(地図上スカイライン)は、カメラ撮影方向の誤差のために写真画像から検出されたスカイライン(写真画像スカイライン)とは、一般に完全には合致しない。本発明においては、写真画像から作成されたスカイライン(写真画像スカイライン)を移動および回転させることによって、地形標高データから作成されたスカイライン(地図上スカイライン)にマッチング(合致)させる。マッチングにおいて特定点は重要な指標となる。
【0041】マッチングの処理時間を短縮させるために、本発明においては、スカイラインの周囲にマスキングを施し、さらに粗い画像から密な画像へと階層的にマッチングを行う方法を適用した。マスキングとは処理時間を短縮させるために不必要な領域を除く処理のことを言う。
【0042】この工程で得られる移動量および回転角は、写真画像と地形標高データの地図座標系との間の座標変換式を与える。
【0043】回転・縮小・縮尺変換を行なう座標変換は、代表的な変換としてはヘルマート変換が知られている。以下、ヘルマート変換によって、座標変換式を求める数式を記述する。今、写真画像上の点を(x、y)としこれに対応する地図上の点を(X,Y)すれば、変換式は次のように書く事が出来る。

(6)式におけるS、φは次式で表される。Sは縮尺の値である。
S×S=a×a+b×b????????????(7)
φ=arctan(b/a)??????????(8)
a、b、c、dは未知数である。
【0044】X,およびYはこれらの未知数を使って次の式で表す事が出来る。
X=ax+by+c????????????????(8)
Y=-bx+ay+d---------------(9)
ここで、Vxi、Vyiを次式のように定義して、
Vxi=Xi-(axi+byi+c)?-????(10)
Vyi=Yi-(-bxi+ayi+d)?????(11)
Vxiの二乗とVyiの二乗との和が最少になるように、未知数a、b、c、d、を求める(最小二乗法)。
【0045】(xi、yi)は写真画像スカイライン上の点、(Xi、Yi)は地図上スカイライン上の点を用いる。
【0046】未知数a,b,c,d,が一度求まれば、全ての点に対して、(x、y)<->(X,Y)の変換が自由に出来るようになる。
【0047】工程6: 正射画像および透視画像の作成
工程5で得られる座標変換式を用いて、地上から撮影された写真画像を上から見た正射画像に変換したり、撮影時と異なる撮影方向(たとえば、完全に水平な状態の方向)の透視画像を作成することができる。
【0048】前記工程の説明において撮影点P点は地上の点を仮定して説明を行なったが、本発明においては撮影対象領域、山頂、スカイラインの3者が確保されれば、撮影点P点は空中に在っても良い。例えば、撮影対象の上空が危険な場合や撮影対象の高度が非常に大きい場合には、斜め方向からや、低空からの空中撮影によって写真画像を得、本発明を用いて正射画像である地図を作成することが出来る。」
(オ)上記(ア)及び(エ)より、【請求項1】の「既知」とは、【0011】の「等高線地形図から格子状に数値化されて市販されている」ことであることがわかる。

そうすると、上記(ア)乃至(オ)の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「撮影位置の緯度、経度、標高を計測する工程と該撮影位置で撮影対象領域および該撮影対象領域の特定点およびスカイラインを含む写真画像を得る工程と該写真画像よりスカイライン(写真画像スカイライン)を得る工程と該特定点を用いて等高線地形図から格子状に数値化されて市販されている地形標高データより該撮影位置の緯度、経度、標高から該撮影対象領域を見た山岳の透視画像を作成し、この透視画像から地図上のスカイライン(地図上スカイライン)を得る工程と該写真画像スカイラインと該地図上スカイラインとをマッチングさせることによって座標変換式を得る工程と該座標変換式を用いて該撮影位置から撮影された写真画像を鉛直上方からみた地図(正射画像)に変換する工程を含む、地図作成方法。」

イ 刊行物2
本願の出願前の平成23年7月7日に頒布された特開2011-133840号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影対象を監視カメラで撮影した監視カメラ画像及び該監視カメラ画像の擬似画像並びに前記撮影対象を含む平面画像を表示部に連動表示して、これらの画像上に指定個所を連動表示する監視カメラ画像を用いた連動表示計測システムに関する。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1、特許文献2ともに、三次元情報と写真映像の重ね合わせ処理とその利用方法が逐次的に提案されているが、即時性が求められる実際の監視現場(夜間に火山が爆発した等)においては、例えば、写真上の座標を選択し、対応する三次元座標を出力してから、地図ソフト上に表示するといった段階的な手段を採ることによって失う時間が問題となる場合がある。
【0016】
また、実際に撮影した映像(画像)に擬似的な画像を合成表示しているので、実画像を正確に見ることはできない。見るためには、擬似的な画像を除去する等の手段をとらなければならない。
【0017】
そこで、本発明では、監視カメラ画像には何等加工を施さないようにして、かつ段階的な手段をとらなくとも一目で監視カメラ画像、三次元画像、平面図画像上での指定個所をそれぞれの画像上で正確に直に提供できる単眼視の監視カメラ映像を用いた連動表示計測システムを得ることを目的とする。」
(ウ)「【0059】
(座標変換2:画像-写真座標変換)
座標変換2は、図4(c)及び図4(d)に示すように、カメラのCCD面(もしくはフィルム面)の実サイズとカメラ画像(画像データ)の縦横のピクセル数とを対応させることにより、画像データ上のピクセル座標(Px,Py)をカメラのCCD面上の実座標=写真座標(X’,Y’)に変換する。また、この座標変換2を逆変換することを逆座標変換2と称する。
【0060】
さらに、上記座標変換2には、レンズの放射方向歪曲収差や主点位置ズレ(レンズの光軸中心とCCD中心のズレ)といった写真画像の系統的な歪みを補正する一般的な式を組み合わせることによって、歪みを取り除いた写真座標を得ている。」

ウ 刊行物3
本願の出願前の平成12年10月20日に頒布された特開2000-292166号公報(以下「刊行物3」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の基準点が写し込まれた中心投影画像を計測し、該基準点について画像座標を求める基準点計測部と、
上記基準点計測部により求められた該基準点の画像座標と実際に測定された基準点の3次元座標とに基づき、画像座標と3次元座標との対応付けを行う変換パラメータを求める座標変換パラメータ算出部と、
上記座標変換パラメータ算出部により求められた変換パラメータに基づき、中心投影画像から正射投影画像を作成するオルソ画像形成部と、
実測した追加点の3次元座標に基づき、上記オルソ画像形成部により求められた画像座標を修正し、正射投影画像の修正を行うオルソ画像修正部とを備えた画像形成装置。

【請求項6】請求項1乃至5のいずれかに記載の画像形成装置において、
上記座標変換パラメータ算出部は、画像入力部のレンズ歪みデータ又は複数の基準点の実測データに基づいて、レンズ歪みを補正するようにしたことを特徴とする画像形成装置。
…」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、画像形成装置に係り、特に、計測現場にて図面を作成する際に、図面上にのる、即ち、寸法が正しく合って重ねられるような正射投影画像(オルソ画像)を形成する画像形成装置に関する。本発明は、図面にオルソ画像を貼り付けることで、誰でも簡単に正射投影画像を図化できるようにし、計測現場の状況が詳細にわかる正射投影画像を作成・修正することができる画像形成装置に関する。」
(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のように、電子平板等により現地にて図面を作成しても、線画で表現されているだけで、現地の状況を十分に把握することができなかった。そこで、カメラ等により現場状況を撮影していたが、撮影は斜め方向からであるのに対し、要求される図面は鉛直方向(正射投影)であるため、撮影した画像は、図面と直接結びつかない。したがって、操作者は、図面と画像の双方を見比べて、現場の状況を把握するしかなく、不便であり且つ状況の把握が困難であった。
【0004】また、1枚の画像だと撮影できる範囲は狭く、複数枚撮影した場合でも、それぞれの写真に関連性・連続性がないため、相互の整合がとりにくく、図面と見比べるのは煩雑且つ難しいものとなっていた。また、精度の高いオルソ画像が求められる場合、カメラのレンズ歪みが問題となり、従来は、レンズ歪みデータの無いカメラでは、精度良いオルソ画像が作成できなかった。
【0005】本発明は、以上の点に鑑み、計測現場の状況を図化する際に、寸法の反映された正射投影画像(オルソ画像)から簡単に現場を図化でき、状況を容易に把握できるようにした画像形成装置を提供することを目的とする。本発明は、計測現場において、迅速且つ簡単に、計測忘れやミスがなく画像の作成・修正ができ、現場状況の把握がその場ででき、画像図面(オルソ画像)を現地にてリアルタイムで確認しながら簡単に作成することを目的とする。本発明は、簡単な撮影と、測量機による数点の測量だけで、画像の補測を行うと同時に、現場状況を容易に把握可能な画像図面を得て、さらに写っていない部分やわかりにくい部分を補間し、高解像度化され且つ広範囲なオルソ画像を作成することを目的とする。
【0006】本発明は、1枚の画像では、見えにくい所があったり、遠くの画像が粗くなる等のように、状況がわかりにくい場合であっても、複数枚の画像から状況を把握することができ、且つ、精度の高いオルソ画像を作成することを目的とする。また、本発明は、簡単な作業を繰り返すことにより複数枚の画像を統合し、広範囲なオルソ画像を取得することを目的とする。本発明は、さらに、隣接領域とオーバーラップした画像を複数撮影することにより、精度が高く品質の高いオルソ画像を高速に作成することを目的とする。
【0007】また、本発明は、簡単な計測でレンズ歪み補正(カメラキャリブレーション補正)を行なうと同時に、レンズ歪みデータの無いカメラでも高精度なオルソ画像を作成することを目的とする。さらに、本発明は、各種測量機を利用して3次元座標を計測しながらオルソ画像修正を行なえば、必要個所を必要な精度で、品質の良いオルソ画像が作成することを目的とする。」
(エ)「【0014】座標変換パラメータ算出部102は、基準点計測部101により求められた画像座標を、原点を主点(レンズ中心を通り画面と直交する線が画像と交わる点)とする写真座標に変換するとともに、基準点計測部101により求められた基準点の画像座標と3次元座標とに基づき、写真座標と3次元座標との対応付けを行う変換パラメータを求める。また、座標変換パラメータ算出部102は、後述のように、中心投影について共線条件を満足させ、画面距離が既知の画像入力部を使用することにより、地上座標系が既知である最低3点の基準点に基づいて変換パラメータを計算することができる。また、座標変換パラメータ算出部102は、画像入力部のレンズ歪みデータ又は複数の基準点の実測データに基づいて、レンズ歪みを補正することができる。」
(オ)「【0050】(1-3)カメラキャリブレーション
以上の説明は、レンズ歪みを無視できる精度の計測、あるいは無歪みレンズを利用した場合であるが、レンズ歪みがあり、それが精度上無視できない場合は、レンズ歪みが求められているカメラを使うか、次に述べるような処理によってレンズ歪みを補正しながら計測を行なう。」

エ 刊行物4
本願の出願前の平成14年8月9日に頒布された特開2002-222488号公報(以下「刊行物4」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、交通監視装置に関し、特に、交通状況を視覚的にわかりやすく把握できるようにした交通監視装置に関する。」
(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の交通監視装置では、交通監視の際、異なる視点の画像の中から画像を切り替えて、局所的な交通状況を把握することはできるが、交差点全体での状況、あるいはその中での車両同志の位置関係や、タイヤ軌跡の状況を直感的に把握しにくいという問題があった。
【0006】また、従来の状況情報提供装置では、交差点などの監視対称領域全体を所望の視点から見た全体像を表示することができず、監視対象領域の交通状況の全体像を直感的に把握することが困難であるという問題があった。
【0007】本発明の第1の目的は、一点あるいは無限遠点を視点としてながめた画像を提供することで、上記従来技術の問題を解決して、交通監視領域での車両の位置関係を直感的に把握しやすくすることである。
【0008】本発明の第2の目的は、交差点全体を上方からながめた画像を提供することで、交差点での車両の位置関係を直感的に把握しやすくすることである。本発明の第3の目的は、異なる撮像手段の画像間で、境界の違和感なく画像合成することである。本発明の第4の目的は、トンネル全体を上方からながめた画像を提供することで、トンネル内での車両の位置関係を直感的に把握しやすくすることである。本発明の第5の目的は、分岐点全体を上方からながめた画像を提供することで、分岐点での車両の位置関係を直感的に把握しやすくすることである。」
(ウ)「【0023】第3に、図3を参照して、画像の合成方法を説明する。図3(a)は、撮像手段校正時の処理フローである。ステップ301で、レンズ歪み補正マッピングテーブル作成を行なう。この処理で、レンズ歪みを画素単位で補正するためのマッピングテーブルを作成する。歪み補正を行ったマッピングテーブルを最初に作成すれば、実際の合成時には、補正のための計算は不要となる。従来のレンズ歪み補正に使われるレンズ中心からの距離の関数などのように、歪みが定式化できない場合でも、格子などのパターンを撮影し、レンズ歪みにより各画素がどのように移動するかの情報さえあれば、歪み補正が可能であるという特徴をもっている。」

オ 刊行物5
本願の出願前の平成17年10月13日に頒布された特開2005-286685号公報(以下「刊行物5」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項9】
複数の撮影手段により撮影される映像を合成する映像合成方法であって、
撮影範囲を含む地図情報を保持し、
前記映像を取得し、
前記映像の一部の領域と、前記地図情報の所定の範囲との幾何的形状が一致するよう、前記カメラ装置ごとに対応付けられているパラメータに基づいて前記映像を変換し、
前記変換された映像のうち、前記地図情報の所定の範囲と幾何的形状が一致する範囲の映像を抽出し、
前記抽出された映像と、前記地図情報とを合成することを特徴とする画像合成方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の地点に配置されたカメラ装置が撮影する映像を合成し、合成画像を生成、または表示する装置、システム又は方法に関する。特に、監視カメラシステム及び監視カメラ映像表示方法に関するものである。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、カメラ撮影映像を撮影したままの形状で表示するために、たとえ、監視範囲を示す地図上に、監視カメラの撮影方向などの撮影条件を記号で示しても、撮影映像と、地図との間の幾何学的関係が整合されていないために、監視者は、一旦、地図に示された監視範囲を、監視カメラと同じ視点から眺めた場合の監視範囲の見え方にイメージし直して、そのイメージと監視撮影映像とを比較して、監視範囲内で生じている事象を認識するという、一連の認識プロセスを必要とするため、監視作業に高い集中力を要求されたり、判断ミスを犯し易くなるなどの問題があった。
【0006】
また、監視範囲に建物などの障害物が多い場合、一画像に構成する際に行う変換処理によって監視カメラ撮影映像と地図情報との幾何学的関係の不整合が生じる場合がある。
【0007】
また、複数のカメラにより、異なる位置から撮影された映像の間の幾何学的関係の不整合は、上記特許文献では、解決されていない。
【0008】
本発明は、複数の監視カメラの撮影映像を地図内に判り易く合成表示する方法と、該表示方法を可能とする監視システムを提供することを目的とする。」

カ 刊行物6
本願の出願前の平成20年4月17日に頒布された特開2008-90808号公報(以下「刊行物6」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項3】
注目地域を上方から撮影して得られる第1の画像を記憶する画像記憶ステップと、
複数の地域を上方から撮影して得られた画像を正射投影画像に幾何補正し且つ2次元座標が付与された幾何補正済画像を記憶する幾何補正済画像記憶ステップと、
複数地域について、各地点の標高を表す標高データを記憶する標高データ記憶ステップと、
前記幾何補正済画像記憶ステップで記憶した幾何補正済画像から、前記注目地域を撮影した第2の画像を取得する幾何補正用画像取得ステップと、
前記標高データ記憶ステップで記憶した標高データから、前記注目地域の標高データを取得する幾何補正用標高データ取得ステップと、
前記第1の画像内と前記第2の画像内とで、同じ位置を示す基準点を複数個検出し、検出した基準点の前記第2の画像内での座標と該基準点の標高データとから、該基準点の3次元座標を取得し、取得した3次元座標を該基準点の第1の画像内での2次元座標に正射投影するための正射投影パラメータを求める正射投影パラメータ取得ステップと、
前記第1の画像を求められた正射投影パラメータに基づいて正射投影することにより得られた第1の正射投影画像を取得する第1の正射投影画像取得ステップと、
前記第1の正射投影画像取得ステップで取得した第1の正射投影画像内と前記第2の画像内とで、同じ位置を示す基準点を複数個検出し、検出した複数個の基準点の前記第1の正射投影画像内での座標が前記第2の画像内での該基準点の座標と一致するように、前記座標位置の第2の正射投影画像を取得する第2の正射投影画像取得ステップと、
を備えることを特徴とする画像補正方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
この発明は、画像補正装置、画像補正方法及びプログラムに関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、幾何学的な歪みを含んだ空中写真を、効率良く、且つ精度良く幾何補正することを特徴とする画像補正装置及び方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0050】
(3) 図4ステップS103で実行する第1の幾何補正処理:
まず、幾何補正対象空中写真を1枚特定する(図9ステップS401)。
【0051】
次に、特定した幾何補正対象空中写真からn個(nは複数)、例えば、12個の特徴点を抽出する(ステップS402)。
【0052】
次に、ステップS402で抽出したn個の特徴点に対応するn個の点(対応点)を、参照データ抽出処理(ステップS102)で抽出した参照用オルソ補正済衛星写真から抽出する(ステップS403)。
【0053】
対応するn個の点を求める手法は任意であるが、例えば、画像のパターンマッチングを行って一致度の高い点を特定し、この点を対応点として抽出すればよい。具体的手法としては、例えば、両画像を一定のサイズ及び形状で枡状に区切って、その枡内である窓のサイズで画素の相関係数を順次計算し相関係数の高い(相関度の高い)点を対応点とする方法等がある。
【0054】
次に、幾何補正対象空中写真の各特徴点の緯度(y)と経度(x)を、各特徴点に対応する対応点から取得する(ステップS404)。また、その緯度・経度より、標高データを参照して標高(z)を求める。標高データに丁度よいものがない場合には、補間法などを用いて標高を求める。この処理により、n個の特徴点の地理座標(x1,y1,z1)?(xn,yn,zn)が求まる。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア 後者の「撮影位置」には、「緯度、経度、標高」という指標が付随するものであるから、後者の「撮影位置」は、地上の撮影位置であって、「カメラの設置位置」といえ、また、後者の「画像」は「写真画像」であるから「固定カメラ」により撮影されたものといえる。そうすると、後者の「撮影位置の緯度、経度、標高を計測する工程と該撮影位置で撮影対象領域および該撮影対象領域の特定点およびスカイラインを含む写真画像を得る工程」は、前者の「地上に固定された第1の固定カメラにより撮影された対象領域の第1の撮影画像を取得する第1の撮影画像取得ステップ」に相当する。
イ 前者の「対象領域の数値地形モデル」につき、本願明細書には、「数値地形モデルは、例えばDEM(Digital Elevation Model)等であり、例えば国土地理院より提供されるメッシュ標高データ等を用いることができる。数値地形モデル(メッシュ標高データ)は、全国の地図を一辺10m程度の正方形の領域に細かく区分した上で、各領域の中心の標高がそれぞれ記憶されたものである。」(【0031】)と記載されているから、前者の「対象領域の数値地形モデル」は、国土地理院より提供されるメッシュ標高データ、もしくは、メッシュ標高データを用いて作成されたものであって、後者の「等高線地形図から格子状に数値化されて市販されている地形標高データ」が相当する。
ウ 後者の「透視画像」は、「地形標高データより該撮影位置の緯度、経度、標高から該撮影対象領域を見」て作成したものであるから、「固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像」、及び「前記第1の撮影画像に相当するエリアの画像であって、2次元の画像面内の各点に対して座標が設定されている」といえる。そうすると、後者の「該特定点を用いて等高線地形図から格子状に数値化されて市販されている地形標高データより該撮影位置の緯度、経度、標高から該撮影対象領域を見た山岳の透視画像を作成し、この透視画像から地図上のスカイライン(地図上スカイライン)を得る工程」は、前者の「前記対象領域の数値地形モデル及び前記第1の固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像を作成する第1のステップ」に相当する。
エ 後者の「地図作成方法」は、前者の「写真地図作成方法」に相当する。

したがって、両者は、
「地上に固定された第1の固定カメラにより撮影された対象領域の第1の撮影画像を取得する第1の撮影画像取得ステップと、
前記対象領域の数値地形モデル及び前記第1の固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像を作成する第1のステップと、
前記第1のシミュレーション画像は、前記第1の撮影画像に相当するエリアの画像であって、2次元の画像面内の各点に対して座標が設定されている、
写真地図作成方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、「前記第1の固定カメラのレンズ歪み係数を用いて前記第1の撮影画像を補正することにより、前記対象領域の第1の補正画像を取得する第1の補正画像取得ステップと、
前記第1の補正画像の第1の正射投影変換係数を取得する第1の正射投影変換係数取得ステップと、
前記第1の正射投影変換係数を用いて前記第1の補正画像の正射投影変換処理を行うことにより、前記対象領域の第1の写真地図を作成する第1の写真地図作成ステップと、
を備え、
前記第1の正射投影変換係数取得ステップは、
前記第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして、前記第1の補正画像と前記第1のシミュレーション画像とが重なるように幾何補正を行うことにより、前記第1の補正画像の第1の幾何補正変換係数を取得する第2のステップと、
前記第1の座標データと前記第1の幾何補正変換係数とに基づいて前記第1の正射投影変換係数を取得する第3のステップと、を含む」ものであるのに対し、引用発明は、そのようなものを備えていない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
カメラにより撮影した画像において、レンズ歪みを補正することは、本願補正発明出願前において、周知の技術事項(例えば、上記「(2) イ 刊行物2」、「(2) ウ 刊行物3」、及び「(2) エ 刊行物4」参照。以下「周知の技術事項」という。)である。
そうすると、上記周知の技術事項は、上記相違点に係る本願補正発明における「カメラのレンズ歪み係数を用いて前記第1の撮影画像を補正することにより、第1の補正画像を取得する第1の補正画像取得ステップ」との発明特定事項を備える。
ここで、地図作成方法において撮影される写真画像を修正することも、一種のカメラ撮影画像の修正処理といえるから、引用発明と、上記周知の技術事項とは、カメラ撮影画像のレンズ歪みを補正する、という作用の点で共通するものである。
よって、引用発明に、上記周知の技術事項を適用することは、当業者が容易になし得るものである。
ここで、本願発明の「第1の幾何補正変換係数」につき、本願明細書には、「換言すれば、ここでは、第1の補正画像及び第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に、取得された複数の対応点を基にして多項式モデル近似により幾何補正変換係数を取得する。」(【0034】参照。)と記載されており、本願発明の「第1の幾何補正変換係数」は、多項式モデル近似により得られるものであって、近似を行うことは、一般に慣用されている手段であるから、上記周知の技術事項を踏まえれば、引用発明において、「座標変換式」を近似し、もって、本願発明の「第1の幾何補正変換係数」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、一般に「ライン」とは、点の集合であって、引用発明の「スカイライン」も、点の集合であることにかわりはないから、引用発明の「写真画像スカイラインと該地図上スカイラインとをマッチングさせる」とは、写真画像スカイラインと地図上スカイライン上の対応する点の集合同士が重なるようにすることであるから、引用発明の「写真画像スカイラインと該地図上スカイラインとをマッチングさせることによって座標変換式を得る工程」を、「第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして、前記第1の補正画像と前記第1のシミュレーション画像とが重なるように幾何補正を行うことにより、前記第1の補正画像の第1の幾何補正変換係数を取得する第2のステップ」とすることは、当業者にとって何ら困難性のないことである。
さらに、引用発明の「該座標変換式を用いて該撮影位置から撮影された写真画像を鉛直上方からみた地図(正射画像)に変換する工程」は、「前記第1の座標データと前記第1の幾何補正変換係数とに基づいて前記第1の正射投影変換係数を取得する第3のステップ」といえる。
そして、以上のことを踏まえれば、引用発明は、「前記第1の補正画像の第1の正射投影変換係数を取得する第1の正射投影変換係数取得ステップと、
前記第1の正射投影変換係数を用いて前記第1の補正画像の正射投影変換処理を行うことにより、前記対象領域の第1の写真地図を作成する第1の写真地図作成ステップ」を有するといえる。
したがって、引用発明に、上記周知の技術事項を適用し、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明、及び上記周知の技術事項から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

よって、本願補正発明は、引用発明、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることが出来ない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年4月3日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「地上に固定された第1の固定カメラにより撮影された対象領域の第1の撮影画像を取得する第1の撮影画像取得ステップと、
前記第1の固定カメラのレンズ歪み係数を用いて前記第1の撮影画像を補正することにより、前記対象領域の第1の補正画像を取得する第1の補正画像取得ステップと、
前記第1の補正画像の第1の正射投影変換係数を取得する第1の正射投影変換係数取得ステップと、
前記第1の正射投影変換係数を用いて前記第1の補正画像の正射投影変換処理を行うことにより、前記対象領域の第1の写真地図を作成する第1の写真地図作成ステップと、
を備え、
前記第1の正射投影変換係数取得ステップは、
前記対象領域の数値地形モデル及び前記第1の固定カメラの設置位置に基づいて、前記対象領域の第1の座標データを含む景観シミュレーションである第1のシミュレーション画像を作成する第1のステップと、
前記第1の補正画像と前記第1のシミュレーション画像とが重なるように幾何補正を行うことにより、前記第1の補正画像の第1の幾何補正変換係数を取得する第2のステップと、
前記第1の座標データと前記第1の幾何補正変換係数とに基づいて前記第1の正射投影変換係数を取得する第3のステップと、を含み、
前記第1のシミュレーション画像は、前記第1の撮影画像に相当するエリアの画像であって、画像面内の各点に対して座標が設定されている、
ことを特徴とする写真地図作成方法。」(以下「本願発明」という。)

2 引用刊行物
平成29年2月6日付けの拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は上記「第2 3 (2)引用刊行物」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 3 (1)本願補正発明」で検討した本願補正発明の「前記第1の補正画像及び前記第1のシミュレーション画像の複数の対応点を取得すると共に取得された前記複数の対応点を基にして」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した場合の相違点は、実質的に、上記「第2 3 (3)対比」で挙げた相違点となるから、上記「第2 3 (4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は、引用発明、及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、及び上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-04-17 
結審通知日 2018-04-24 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2014-17545(P2014-17545)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古屋野 浩志古川 直樹  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 写真地図作成方法  
代理人 阿部 寛  
代理人 黒木 義樹  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 光  
代理人 黒木 義樹  
代理人 鈴木 光  
代理人 城戸 博兒  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  

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